イナズマイレブン 二回目は好きな物から逃げずに。 作:ウツマ
「にしても、オレ達の切り札を切らされるなんてな。御影専農のことはぶっちゃけナメてたぜ」
「地区予選じゃ帝国以外敵がいないと驕ってしまいましたね。次の秋葉名戸は最弱の雑魚のようなので問題ないでしょうが」
「そうやって侮ってるから痛い目見るんじゃないですか、武羅渡先輩? 秋葉名戸が本当に最弱なら、1回戦であの強豪野生中を突破できてませんよ」
「柳田も言うようになったな」
月村先輩と武羅渡に柳田。学年も違う3人が仲良く意見交換している。我が部の日常だ。
月村先輩の言う通り、柳田は一皮むけたというか、先輩にも臆せずに逞しくなったように見える。
「御影戦であそこまで俺達が追い詰められたのは、侮っていたからというより、俺達の情報が敵に漏れていたからでしょう?」
「それもそうだな」
試合中ずっと疑問に思いながら、あえて考えないようにしていた裏切り者問題。
外部から遮断されたイナビカリ修練場での特訓の成果を含めて僕らの個々の能力が把握されているのは、やっぱり内通者がいるからだとしか考えられなかった。
ただもっと冷静に考えれば、そんなことが可能な人は1人しかいなかった。
「それで、監督は吐いたんだっけ?」
「そりゃもうバッチリと。冬花ちゃんにあることないこと吹き込むぞって脅しをかけたら、あっさりゲロってくれたぜ」
バッチグーとサムズアップする人形。手段を選ばなさすぎて恐ろしいわ。
そもそも僕達は、個人トレーニングばかりだった修練場の弊害で、チームメイトの現在の正確な能力を知らない。それを把握しているのは地木流監督か久遠監督の2人の監督だけ。
そのうち地木流監督は絶賛取り調べ中なので、消去法で犯人は久遠監督となる。
「動機についてはなんて供述してるの?」
「御影の解析プログラムを使わせて、俺達の弱点を理解させたかったんだってさ」
そういう意味では効果はあったんだろうと理解はできるんだけど……
「そーゆーのやるなら言って欲しいよね。不和の原因になるよ」
「だから厳しく脅しといたぜ。次また勝手にこんなことをしたら、もう二度と冬花ちゃんにパパと呼んでもらえなくなるよって」
「それは効きそうだね」
多分久遠監督には冗談に聞こえないだろうな。久遠親子の秘密にクリティカルヒットしちゃってる。
「私がどうかしましたか?」
「ああいや、なんでもないよ」
噂をすれば影。部室に入ってきたのは尾刈斗サッカー部のマドンナ、冬花ちゃんである。
尾刈斗生というわけではないんだけど、週末だけ久遠監督の手伝いにやってくるのだ。
我がサッカー部には今までマネージャーがいなかったこともあって、みんな冬花ちゃん冬花ちゃんとチヤホヤしちゃっている。
あれ、マネージャーっていなかった……よね? 誰かいたような気もするんだけど、このサッカー部には創部以来マネージャーはついていないらしいし記憶違いかな。
部室の隅が提灯のようにほのかに光って、急に背筋に冷たいものが走る。
「校門の近くでこんなもの貰ったんですが、要りますか?」
冬花ちゃんの言葉で背筋を走る何かは消えて、我に返る。変なことを考え込んでしまっていたみたい。
喫茶店の名前が書かれたチケットのようなものを僕らに見せてくれる。
「ライ アットマーク カフェ?」
「喫茶店の一品無料券みたいです。秋葉名戸の選手が、挨拶代わりにサッカー部の皆さんに、と。全部で17枚あります」
「なるほど、自らの立場をわきまえているようですね」
「意外と良い奴なんだな」
と感心する武羅渡と月村先輩。うん、普通の反応だ。
そしてそれとは対照的に、
「これは罠だな」
「罠だね」
とひねくれているのが人形と僕。
原作で秋葉名戸がどんな人達なのか知っているけど、あいつらはそんな優しい人達ではなかった。対戦相手に下剤を飲ませたり平気でするような奴らだ。
このRAI@CAFEというのは、秋葉名戸の奴らがたむろしていたあのメイド喫茶だろう。わざわざ敵地に出向く必要などない。
「わざわざ対戦相手にこんなチケットを渡すメリットなんて秋葉名戸にはない。野生中も喫茶店に誘われて、下剤か何か混ぜられたんじゃないすか? 間違いなく罠っすよ」
ズバリ的中の推理をする人形。1人でこの推理に辿り着くのはひねくれすぎているような気がするけど。
「それならなおのこと突撃してやらねえとな。狼を罠にかけようもんなら罠ごと食いちぎるってとこ見せてやるぜ」
出向く必要などないはずなのに、月村先輩は余計乗り気になってしまった。
「行かない方がいいと思うんですけど……」
と言っても、部内はもうメイド喫茶に乗り込むムードで固まっていた。
「ランチにはちょっと早いけど、善は急げ、レッツラゴー!」
「僕が部長のはずなのに……」
☆☆☆
ということで、僕達は今メイド喫茶の前にいる。
突撃班のメンバーは、僕・人形・月村先輩・武羅渡・冬花、それともう1人。
「僕もこのメイド喫茶は気になっていたんですよね〜。そんなときにあなた達が無料券を持って現れてくれるなんて、まさに渡りに船です!」
「あの、誰ですか?」
「よくぞ聞いてくれました! 僕は雷門の知将こと目金欠流です! あなたは新しく尾刈斗のマネージャーになったと噂の久遠冬花さんですね」
「マネージャーってわけじゃないんですが」
目金がここにいるのは、何故かメイド喫茶前にいて勝手に合流してきたからだ。無料券は余るほどあったから特に困りはしなかったけど。
冬花ちゃんも興味ありそうだったから連れてきたけど、バレたら久遠監督に殺されないかな、大丈夫かな。
「なんで雷門のこいつと一緒なんだ?」
「まあまあ、毒味役だと思えばいいんじゃね?」
「人形、お前は発想がシンプルにサイコなんだよ」
サイコパスな会話は聞かなかったことにしながら、総計6人でRAI@CAFEに乗り込む。
「「お帰りなさいませ、ご主人様」」
扉が開くとメイド服を着た店員が待ち構えていた。分かってはいたものの、その壮観にうわぁとよく分からない声をこぼしてしまった。
「6名様ですね。こちらにどうぞ」
メイド店員に案内されるがまま、僕らはテーブル席に座る。
「月村先輩、あの時の威勢はどうしたんですか?」
「うるせえ。オレだってこんなとこ慣れてねえんだよ」
軽く先輩を茶化してみるもどうも様子がおかしい。みんなこのメイド喫茶の空気に呑まれているようだ。
「ご注文は何に致しますかぁ?」
ピンクのときめきミルクティー、麗しの君ジャスミンティー、魅惑のドキドキハーブティー、……ろくなメニューがないや。
「トマトジュースはないのか?」
「すみません、当店では扱っておりません」
「せっかく一品無料券持ってるんだからさ、ソフトドリンクじゃなくてもっと高いメニュー頼もうぜ」
「月村先輩って意外とケチっすよね」
「えーっとじゃあ、きまぐれカレーで」
僕も貧乏性なので、一番高いやつを選ぶ。券が無ければカレーに1600円も払わされるのか、恐ろしい。
「何ですかぁ? 正確にメニューを教えてくださぁい」
「えっと、破茶滅茶☆メイドの気まぐれカレーで」
「かしこまりましたぁ」
このシステム、めんどくさい。
「いけませんねぇ。メイド喫茶に来たなら、彼女達との交流を楽しまないと」
なんて言いながらこなれた様子でときめきピコピコケーキセットを頼む目金。
「君、見所があるね」
何やら目金は見所があるとやらで、謎の男に声をかけられる。
間違いない。こいつが秋葉名戸のキャプテン、野部流来人だ。
「君に見せたいものがあるんだ。食事が終わったら私に着いてきたまえ」
「あなたが野部流来人さんですよね?」
「ああ、それは私のことだが」
「えっ! あのシルキーナナの?!」と興奮している目金をよそに、僕は秋葉名戸のキャプテンに話しかける。
「わざわざチケットをありがとうございました。部長として、代表して感謝させてもらいます」
「いやいや、礼には及ばないさ。うちの監督がここの店長も務めていてね。顧客の拡大を狙ってたってわけさ。
それと君、シルキーナナを知ってくれているんだね。こんなところでファンと会えるなんて嬉しいなあ」
なるほど、尾刈斗中からこのメイド喫茶はそれなりに距離があるが、自転車などを使えばそう遠いというわけでもない。17枚のチケットを渡してでも、尾刈斗中という新たな客を手に入れたかったわけだ。RAI@CAFEの経営戦略に納得する。
「メイド喫茶の店長をやりながらサッカーの監督もするなんて、珍しいですね。
秋葉名戸の生徒はよくここに来られるんですか?」
「ああ、この建物の地下に私達の秘密基地があってね。ちょうどそこを彼に説明しようとしていたところなんだ」
「秘密基地? まさか、野部流来人先生の執筆場所!?」とまた騒ぐ目金は無視して、本題を告げる。
「もし皆さんおられるのなら、一緒に昼食をとりません? チケットもだいぶ余っちゃってますし」
「いいね。君達とは仲良くしたいと思っているからね。メイド喫茶の料理の味わい方を教えてあげるよ」
「ちなみに野部流さんはこの店のどのメニューがお好きですか? 今食べたいものとかあります?」
「私はこの破茶滅茶☆メイドの気まぐれカレーが大好物でね。いつもこれしか頼まないんだ。萌えキュンを注入することで美味しさが極限まで引き上げられるのだよ」
萌えキュン注入の効果は疑問だけど、好物がこのカレーだってのはちょうどいいね。
野部流と雑談している間に、料理が届き始める。
さっき注文したばかりなのに早すぎる。作り置きであることを隠す気がない。
「料理が出来上がったみたいだね。どうぞ召し上がれ。地下にいるみんなも呼んでこようか?」
「こちらが破茶滅茶☆メイドの気まぐれカレーです。萌えキュンを注入しましょうかぁ?」
ちょうど僕のもとにもカレーが届く。萌えキュンなんてどうでもいい。ここが勝負時だ。
「思ったより大盛りなんですね、てっきりなんていうか、もっと軽い感じなのかなって思ってました」
「十分な量があることも、このRAI@CAFEの魅力の一つなのだよ」
野部流が自慢げに説明する。
「実は僕、ここに来る前におにぎりを食べてきてしまって、こんなにたくさんは食べられそうにありません。
僕は軽いメニューを頼むんで、野部流さん、代わりにこのカレーを食べてくれませんか」
わざとらしい声で小芝居を打つ。
「悪いね。実は私はもうお昼ご飯は食べてしまったんだ。尾刈斗の他の誰かに代わりに食べてもらってくれるかな」
野部流は眉を掻きながら答える。顔つきは少し険しくなり、声のトーンも少し低い。
地木流先生の授業を受けてきた僕達はみんな、野部流の変化に気づいた。典型的な、嘘をつくときの仕草。
「まだ12時もなっていないのに。随分と早いですね」
「私はいつも昼食は早めにとる派なんだ。いつ食べようが私の勝手だろう?」
息苦しい雰囲気が漂う。尾刈斗のみんなは料理に手をつけず、固唾を飲んで僕と野部流のやりとりを見守る。
「あれ、なんで皆さん固まってるんですか? 僕だけケーキセット食べちゃいますよ?」
状況を理解していない目金がケーキにフォークを伸ばすが、
「あの、そのケーキ、毒が入っているかもしれません」
「ひえぇぇ」
冬花ちゃんの言葉に驚いて目金はフォークを落とす。
「毒入りだなんて嘘だよ。このメイド喫茶の料理には愛と萌えとキュンしか入っていない!」
野部流がひとり声を荒らげる。
「何も言わずに黙って見てるだけみたいだけど、君達も何か知ってるんじゃないの?」
人形が近くに立っているメイド達に矛先を向ける。
「……」
料理に毒が入っているかもしれないという、もし嘘なら相当酷いクレームを言われているのに、彼女達は何も答えない。
「もし僕達の勘違いなら、全力で謝ります。だからお願いです。ただこのカレーを食べてください」
僕は深く頭を下げる。
「無理なものは無理だ。私は今はち切れそうなほどお腹がいっぱいでね。一口も食べることはできない!」
傍目に見ても、野部流に無理があるのは明らかだった。
「シルキーナナは僕に勇気を教えてくれた作品で、野部流来人先生、僕はあなたを尊敬しています。だから、嘘なんてついていないとシルキーナナに誓ってください」
目金の言葉に、野部流は言葉を詰まらせる。野部流にも野部流なりの、プライドというものがあるのだろう。
「通りかかったらシルキーナナって言葉が聞こえたんだけど、僕に何か用かな?」
この沈黙の場に現れたのは、頭にペンを突き刺して、櫛代わりにしている男。見たことがあるぞ、秋葉名戸の選手だ。
「漫画、私はもう既に昼食をたくさん食べてお腹いっぱいだよな?」
野部流は救いを求めるかのように、漫画に尋ねる。
「野部流、何を言ってるんだ? 今日はさっきまでずっと執筆部屋にこもりきりで、昼ごはんどころか朝ごはんも食べてないだろ」
どうしてこんな質問をされたのか何も理解できずにキョトンとしている漫画の隣で、野部流は崩れ落ちた。
★★★
「フットボールフロンティアで優勝して、副賞のアメリカ旅行でコズミックプリティレイナの限定フィギュアを手に入れたかった」
料理に薬を混入させるという犯罪行為をした割には浅すぎる動機。
「本当に、そんな説明で納得してくれたのかい?」
RAI@CAFEの地下3階、秋葉名戸の秘密基地にて、漫画は野部流に尋ねる。
「ああ」
「警察にも言わずに秘密にしてくれるんだってな。尾刈斗って良い奴らなんだな」
「ああ」
罪を犯した人は、時に裁かれることで救われることもある。尾刈斗に赦されてしまった野部流は、ただ罪悪感に押しつぶされていた。
「どうして僕に言わなかった。どうして勝手にこんな真似をした」
そんな野部流の様子に、苛立ちさえ覚える漫画。
「僕達はコンビだろう? 1人で全部抱え込もうとしないでくれ」
ただ黙って棚を見つめる野部流。視線の先には、漫画と2人で書き上げた萌え漫画、マジカルプリンセス・シルキーナナが並んでいる。
「君がそのつもりなら、僕は共犯者になろう」
漫画は、野部流の机の上に置いてある錠剤入りの瓶を手に取って言う。
「ところでこの薬は一体どんな作用があるんだ?」
「さあね。あの男が持ってきた薬だ。私は何も知らないよ」
全然サッカーしてない…
盤外戦術においては、やっぱり人形君が有能なんですよね。他の無口な子達にもなんとかスポットライトをあてたいものです。
ところで、尾刈斗に対してどの程度知識がありますか?
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正直誰も分からない
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主要な数人は顔が分かる
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アニメに登場した範囲で顔と名前は一致する
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ベンチメンバーまで全部完璧に分かる