イナズマイレブン 二回目は好きな物から逃げずに。 作:ウツマ
「そんなことがあったのか……」
「影山の野郎、とんだ大悪人じゃねーか。さっさととっ捕まえられねーのか?」
雷門のイナビカリ修練場を借りたついでに、円堂達のいる部室に秋葉名戸戦の土産話を持ってきたら、いつの間にかどんどん犯罪の話になっていってしまった。
染岡が凄みのある顔で影山への怒りを露わにするが、そう簡単にはいかないのが辛いところ。
「さっさと捕まえられたら楽なんだけどね。警察内部とも色々繋がりがあって、鬼瓦刑事も苦戦してるらしいよ。
脅迫の証拠をテープレコーダーなんかで残しておいてくれたらまだなんとかなったのかもしれないけど、そこまで頭が回らなかったんだろうね」
「にしても、邪智暴虐って言葉がこんなに似合う奴はなかなかいないよな」
2年生の国語の教科書に乗っているあの有名な物語を思い出してか、半田はそう呟く。
みんなで影山の悪口を言い合っていたけど、この中で一番影山に対して怒りの感情を抱いていたのは、僕でないとするなら、円堂だった。
「許せない……」
世の中には怒ると熱くなる人と、怒ると冷たくなる人の2パターン存在する。そして円堂は、意外かもしれないけど後者だった。
静かに燃える青い炎のように、円堂は影山に対する怒りを滲ませる。
「サッカーは楽しむためのものだ。誰かを不幸にするための道具なんかじゃない」
「うん、そうだね」
円堂の気持ちは痛いほど分かる。
「でもね、影山はこの間の秋葉名戸関係だけでも色んな悪事を働いたけど、必ずしもみんなが不幸になったってわけじゃないんだ」
暗い世の中でも明るい話が完全に絶えることはないように、この一件の間にも良いニュースはいくつかあった。
「秋葉名戸学園の取り壊し、メイド喫茶の営業停止、ライトノベルの有害図書指定と発売停止、野部流達はこの3つの要素で影山から脅されていた」
僕は指をひとつずつ立てて、影山の行った脅迫についておさらいする。
「僕達が秋葉名戸に勝っちゃったせいで、この3つは全て実行に移された。でも実際のところ、全部対処可能な問題だったんだ」
「対処可能って?」
「結局どの問題も、みんなで協力すればなんとかなる話だったってこと。
まず、秋葉名戸の取り壊し問題。僕らが試合に勝ったその日に理事長が書類に印を押して、もう取り壊される流れになってしまった。でも秋葉名戸のパソコンに強い人達が理事長のパソコンをハッキングして、不正なお金の流れがあることを発見したんだ。その情報を元に、鬼瓦刑事と協力して追及していくつもりらしいよ」
ハッキングだとか不正なお金の流れだとか、サスペンス映画でしか聞かないようなワードに固まる円堂達。
原作でも勝敗結果の書き換えとかやってたし、本当にFBIとかで働いたとしてもおかしくないよ、あの人達。10年後はハッカーとして活躍してるんだっけ。
「野部流は警察にも誰にも頼らずに解決しようとしていたけど、最強の仲間はすぐ近くにいたんだよ」
最強ハッカー達のおかげで解決!と言いながら指をひとつ折る。
「次に、メイド喫茶の営業停止問題。これも裏で影山が動いていたのは間違いないんだけど、直接的に営業停止の指示を出したのは稲妻町の町内会なんだ。サリーさんが言うには上からの圧力みたいなのがあって、元から子供が学校帰りにメイド喫茶に寄るってことをよく思ってなかったから言われた通り営業停止処分を下したんだってさ。
秋葉名戸のメンバー総出でサリーさんに撤回を求めに行ったら、町内会のサッカーチームに勝てたら取り消しを認めるって話になっ――」
「町内会にサッカーチームがあるのか?!」
サッカーという言葉を聞いて途端に元気になる円堂。 時折傘美野中と練習試合をしていたくらいで弱小サッカー部と試合をしてくれるところはなかなかなかったから、練習相手になるとでも考えたのかな。
「うん、あるみたい。サリーさんサッカー好きらしいし、練習試合を申し込んだら断られないと思うよ。
ってその話は今はどうでもよくて、営業停止を取り消すために町内会のチームと戦うことになったんだって。意外とサリーさん達強くて、いや秋葉名戸が弱いだけなのかもしれないけど、結構苦戦したみたい。正々堂々と戦わないと意味が無いって言って五里霧中とかゴールずらしとかを封印してたのもキツかったんだろうね。
結局3回目の挑戦でなんとか勝つことができて、営業停止は見事取り消されたんだ。秋葉名戸の人達にとってメイド喫茶が居場所になってるってことをサリーさんも理解してくれて、また影山ってやつが何か言ってきてもメイド喫茶を守ってやるって約束もしてくれたらしい」
サリーさんを説得できて解決!ともうひとつ指を折る。
ここまでの2つの件で思うことは、野部流はやっぱり仲間に頼るべきだったってこと。僕も随分誤解していたけど、秋葉名戸の選手達はああ見えて仲間思いな良い人達なのだ。
そんな素敵な仲間を頼らずに、犯罪行為に走ってしまったことは愚かなことだったと思う。
「最後に、ライトノベルの有害図書問題。有害図書指定のニュースをいち早く知ったシルキーナナのファンが、都に問い合わせをして、その対応に不備があったとファンサイトからインターネットで発信したんだ。日本中のシルキーナナのファンの団結を促して、有害図書指定の取り消しを求める署名を集めてるみたい。ネット署名だけどもう数千は集まってるんだとか」
まだインターネット黎明期だけど、インターネットの持つ影響力は本当に恐ろしい。シルキーナナの読者層と、インターネットを利用する層が似ていたことも幸いだったのかな。
「秋葉名戸との試合があってからまだ3日だろ? なんていうか、すげえな」
「紫藤、もしかしてだけど、その熱心なファンって……」
「多分半田が今考えてる人だと思うよ。今はここにはいないみたいだけど」
「練習が終わってすぐ、やらなきゃいけないことがあるんですとか言ってソッコーで家に帰ってったよ。ここ数日忙しそうにしてると思ったらそんなことをしてたのか……」
今話題に上がっているのは、そう、あの目金だ。
「目金はこの間の薬混入事件のときに、メイド喫茶にいたメンバーの1人。野部流先生がこんなことするはずがないとか言って、事情を色々と探ってたみたい」
頼りない奴だと思っていたけど、やる気を出した目金は思っていた数倍アグレッシブで、味方であることが本当に心強かった。
「でも雷門は大丈夫なの? 大会中に目金がこんなことばっかりしててさ。前も言った気がするけど他の部員を探した方がいいんじゃない?」
僕にとってはとても心強い味方だったのだけれど、雷門にとっては迷惑なチームメイトになってしまってるような気がする。
原作と違い豪炎寺や土門がおらず、未だ部員は11人のまま。目金もレギュラーとしてフル出場させないといけないのだ。
「それは大丈夫。目金は最近練習後すぐに家に帰ってるけどさ、練習はすっげー真面目にやってるんだぜ」
影山の悪行を知ったことで、かえってサッカーにも火がついたらしい。円堂が嬉しそうにそう説明する。実際、仲間が意欲的にサッカーに取り組んでくれることがすごく嬉しいのだろう。
「それで結局、有害図書指定というのは取り消されることになりそうなの?」
「うーん、そこら辺は僕は詳しくないからよく分からないんだ。ただ、豪炎寺さんの知り合いの弁護士さんによると、一定数の署名が集まれば無視するわけにはいかなくて、都が説明の場を設けるんじゃないかってさ。といっても法的拘束力はないから有耶無耶にされる可能性も高いけど」
「そっか……」
少し残念そうに肩を落とす秋。シルキーナナが有害図書になるかなんて全く興味がないけど、ここまで来ると応援したくなっちゃうよね。
「まあでも、有耶無耶にされたとしてもどこまでも追い詰めることになると思うよ。ファンサイトから広がったこの運動は、ついに掲示板を動かすことになったからね」
「ん、掲示板?」
イマイチピンと来てない様子の円堂達。確かにまだ一般に知られてるもんじゃないし、きっと頭には保健だよりとかが貼ってある学校の掲示板が浮かんでいるのだろう。
「なんて言うんだろう……インターネット上でおしゃべりしてる暇な人達の集まり?」
ちょっと偏見も混じってるような説明だけど、そう違わないでしょ。多分。
「なーんか頼りないなあ」
「あの人達を舐めちゃダメだよ。世界で一番敵に回しちゃいけない集団なんだから」
掲示板というと、どうしても前世のあの“祭り”を思い出す。味方になるとこんなに心強い存在になるとは思わなかった。
「有害図書の事件や、他のFFに関わる色んな事件で、影山が裏にいるって情報はもう掲示板に流したから、後は勝手に動いてくれるはず。
帝国学園のホームページも、もうサーバー落ちちゃってるしね」
「なんかすげーな……」
ついさっきは頼りないと言っていたはずの半田も、インターネット世界での圧倒的な攻撃力を知って考えを改める。
日本中のファンや掲示板民を動かして多分解決!と最後の指も折る。
つまりは、秋葉名戸の学校の外に目を向けても、野部流を助けてくれる人はたくさんいたってことだ。
「てことで、脅迫の内容は全部解決しそうなんだ。それどころか秋葉名戸の絆は深まったし、シルキーナナのファンの結束も固まった。結果だけ見たらいいことばっかりで、みんながみんな不幸になったってわけじゃないんだ」
試合後に秋葉名戸周辺で起きたことをおおよそ話し終えた。影山が悪くないなんて言うつもりはさらさらないけど、この世界を作った神様はそんなにバッドエンド好きじゃないってことは確かだ。
「それに、帝国学園は僕達尾刈斗が責任を持って倒すから。40年間築き上げてきた悪の帝国は僕達がぶち壊す」
鬼瓦刑事や豪炎寺さんを始め、秋葉名戸や掲示板の見知らぬ人達、たくさんの人が影山の悪事を終わらせるために協力してくれている。
だから僕は、絶対に負けるわけにはいかないのだ。夢で会うあの子のためにも。
「それは心強いな」
そう笑って返す風丸だが、何か危惧することがあるのか、でも――と言葉を続ける。
「本当に、大丈夫なのか?
試合に勝てるかって意味じゃない。あいつは、影山は手段を選ばないやつなんだろう? 尾刈斗の次の対戦相手の暴走学園は不良や問題児がたくさんいる学校だ。影山がまた何か唆して、紫藤達を潰しにくるのなら、今度は本当に傷害事件になりかねない。
喧嘩の強いやつがサッカー部に入ったって噂も聞くし、本当に気をつけろよ?」
風丸の眼差しからも、僕を本気で心配していることが見て取れる。
「まあ大丈夫だよ。何かあったら鬼瓦刑事に助けを呼べばいいし、不死先輩とか意外と喧嘩強いから返り討ちにできちゃうかも」
不死先輩はどれだけ傷ついても痛みを感じることがないびっくり不死身人間だ。痛みを感じないってのは人間の大切な防衛システムが働かないってことで危険なように思えるけど、不死先輩は痛みを感じない上に馬鹿みたいに頑丈だから多分問題はない。
「喧嘩になったらうちから染岡を貸すぞ〜」
「おいコラ勝手に貸すんじゃねえ!」
半田と染岡のふざけた掛け合いで、少し暗かった部室の雰囲気も明るくなる。
風丸は危機感の無い僕らに呆れるようにため息をついたあと、「まあ、なんとかなるか」と呟いて心配するのをやめた。
「そういえば新しいドリブル技できたんだけど、半田、実験台になってくれない?」
「実験台ってなんだ、実験台って。練習相手と言えばいいだろ」
☆☆☆
その後、「俺も紫藤の新必殺技見たい!」と円堂も外に飛び出てきて、紫藤と円堂にまぼろしドリブルの練習相手になってもらった。
相も変わらず幻影系の技。やっぱりオリジナリティーはないけど、この世界では僕のオリジナル技ってことになっちゃうのだろう。ごめん、栗松。
日が落ちるまで練習を続けたせいで、部室でおしゃべりすることはもうなかったのだけれど、もう少し暴走学園についての知識を深めておくべきだったように思う。
少なくとも風丸からあの噂について深く聞いておく必要があった。新たにサッカー部に入ったという喧嘩の強いやつは、一体なんという異名で呼ばれているのか、とか。
しっかり情報収集を行っていたなら、試合当日に対戦相手を見たときに、こんなに困惑しなかったかもしれない。
(なんでもうサッカーを始めてるんだよ、蹴りのトビー!)
ところで、尾刈斗に対してどの程度知識がありますか?
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正直誰も分からない
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主要な数人は顔が分かる
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アニメに登場した範囲で顔と名前は一致する
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ベンチメンバーまで全部完璧に分かる