イナズマイレブン 二回目は好きな物から逃げずに。 作:ウツマ
円堂守が決して逃げることのない強い主人公だとすれば、紫藤幻斗は1度逃げた経験のあるとても弱い主人公だと思っています。円堂とはまた違った、主人公の主人公らしさを感じていただければ幸いです。
「屍と魔界先輩はこの試合に必要です。2人と話をする時間をください」
前半での動きが良くなく、失点の原因を作った2人。それを交代させようとした監督の判断に僕は異議を唱えた。
「分かった。5分間だけやろう」
☆☆☆
屍も魔界先輩も、2年間一緒に戦ってきた仲間だ。今日の不調の原因はなんとなく予想がついている。
まず魔界先輩の問題から片付ける。多分、屍より魔界先輩の方がシンプルでしょうもない理由だ。
「魔界先輩、いつもそれで顔を隠したあなたと、腹を割って話すのは初めてですね」
いつもなら「これは体の一部だ!」なんてやかましく反論する魔界先輩だけど、今日はそんな元気もないようだった。
魔界先輩の抱える感情には心当たりがあった。前世で、カケルやタクヤに僕が抱いていたのと同じ感情。
「単刀直入に訊きます。嫉妬してるんですよね?」
「……ああ」
誰に?と尋ねられることもなかった。嫉妬の対象は1人しかいない。魔界先輩のいつも隣にいて、誰よりもみんなの信頼を集めている人、月村先輩だ。
そういえば原作の雷門でも、染岡が豪炎寺に嫉妬していつものプレーができなくなるというイベントがあった。あのとき、円堂はなんて助言をしていたんだっけな。
原作の記憶の中の円堂のセリフを引っ張ってこようとするけど、それじゃ違うと気づく。今目の前にいるのは染岡じゃなく魔界先輩で、今ここにいるのは円堂じゃなく僕だ。言いたいことがちゃんとまとまらなかったとしても、僕の言葉で言わなきゃいけない。
「確かに、月村先輩は素晴らしい選手で、憧れる気持ちも分かります。でも、月村先輩と魔界先輩は学年が同じでも、ポジションが違います。嫉妬するのは馬鹿らしいと思いませんか?」
そう言って僕は魔界先輩を挑発する。
FWである染岡が優秀なストライカーである豪炎寺に嫉妬してたのとはわけが違って、魔界先輩はMFで、月村先輩はFWだ。
「あいつが俺のポジションにいても、俺より上手くやれるだろ」
「それはそうかもしれません。調子のいいときの月村先輩なら、どのポジションの誰よりも強いような気がします」
自分にしかできないことを探しても、何においても自分より優秀なやつがいる、というのはよくある話で。
「でも、それがどうしたんですか。なんでもできる全能の宇宙人が急に地球に現れたとして、それで何かが変わるんですか? 今までの努力が全部なかったことにでもなるんですか?
魔界先輩は月村先輩にはなれません。なれるわけありません。全く別人なんですから」
僕は、カケルとタクヤみたいになりたかったけど、彼らと違って僕には才能がなかった。転生して新しい自分になれたと思ったけど、結局神成FCでも僕はずっと落ちこぼれだった。優秀な刃也にも憧れたけど、なれるはずはなかった。
「他の誰かになることはできなくても、自分自身にだけはなることはできます。
なれるはずのない他人を羨んでる暇があったら、なりたい自分になるためにがむしゃらに努力したらいいんじゃないですか?」
誰かになることはできなかったけど、二回目はサッカーを続けることを選んだ。僕はサッカーをしている自分が一番好きだから。
「だから、魔界先輩は、素敵で頼れる魔界先輩になってください」
「ああ、なんか、ありがとうな。俺様は偉大な俺様になってやるよ」
ただ僕の思ってることを繋げただけで、意味不明な宇宙人の喩えも持ち出して、全然主張はまとまらなかった。それでも、魔界先輩に伝えたいことは伝わったみたいだ。
☆
もう1人、屍の不調の原因もだいたい推測することはできる。
でも、そんな確証のない状況で問い詰められる話題ではないから念の為、僕以上にみんなのことを知っていそうな人に助言を求めた。
「三途も、屍の不調の原因に察しがついてるんでしょ?」
「まあね。今日はベンチからみんなのプレーをよく見れたし」
「三途は言ってたよね、暴走のメンバーを見てから
「うん、多分君の予想してるとおり。暴走のメンバーを見てから明らかに様子がおかしくなっていたのは、屍だよ」
三途の言葉を聞いて予想を確信に変えた僕は、屍に向き合う。
「やっぱり……屍、怯えているんだよね?」
屍はこくりと静かに頷いた。
「それは、直接的にいじめてきた人?」
「まあ、うん。小学校の登校班が一緒でさ、いつもからかわれてたんだ、ぐふふっ、俺の方が年上なのに。ずっと怖かった。唐須のことが」
小学校の頃のいじめから逃げてここ尾刈斗にやってきたという屍。そんな屍がどうも怯えている様子だから、もしかしてって思ったけど、まさか唐須がその当事者だとは思わなかった。
「俺は、みんなのおかげで強くなったと思っていた。でも、ぐふっ、今でもずっと怖がりだ。俺はやっぱり戦力外で、下がるべきだよ」
確かに辛い記憶というのはそう簡単に癒えるもんじゃない。唐須の存在に怯えてしまうことは、仕方のないことだとは思う。
でも僕はキャプテンとして、いや1人の友人として、屍を助けたい。
「君が交代したいっていうなら、久遠監督も下げるつもりだし、そうなると思う。三途とかが代わりに入ってね」
「それでいいよ。俺なんかより三途の方がずっと役立つだろうから」
僕は、屍に“俺なんか”なんて言って欲しくない。
「でもそれじゃ、逃げることになるよ」
「逃げちゃいけなかったの? 逃げてここに来た俺は間違いだったって言うのか?」
屍は苦しそうに叫ぶ。
辛い境遇に置かれている人にとって、逃げることは救いだ。逃げることを悪だとする考え方こそが間違っているのかもしれない。
前世の最期の日、カケルとタクヤとした喧嘩を思い出す。
『逃げ続けることって悪いことなの?』
逃げ続けると後悔するぞと諭す2人に、僕はそう尋ねた。2人から答えは返ってこなかった。
でも今なら、その問いの答えが少しだけ分かる気がする。
「いや、逃げること自体は悪いことじゃない。君が唐須から逃げて尾刈斗中学を選んで、僕達と出会ったことは、決して悪いことであるはずがない。本当に苦しいときはなんとしてでも逃げるべきだと僕は思うよ」
じゃあ、と口を開きかけた屍を制するように僕は続ける。
「でも、この試合から逃げることは違う。この試合から逃げるってことは、サッカーから逃げるってこと。サッカーから逃げるってことは、今まで屍が頑張ってきたことを全部自分で否定するってこと。
僕は、君が頑張ってきたことを知ってる。君の強さを知ってる。僕は――君に逃げて欲しくない」
嫌な物から逃げるのは構わない。むしろ逃げるべきだ。でも、好きな物から絶対に逃げて欲しくない。好きな物から逃げることがどれほど辛く苦しいことか、僕は知っているから。
「屍が過去に立ち向かうことができるのは、今日しかない。今日を逃せば、ずっと後悔することになる」
今の屍はあの日の僕だ。ここで選択を間違えると、屍に僕と同じ後悔をさせることになる。僕はもう二度と間違えない。
「屍は三途の強さは認めてるんだよね?」
「ああ、俺よりもずっと優秀なDFだよ」
「じゃあその三途が屍のことを信じるって言ったら、君は自分を信じられる?」
「僕は屍ならやれるって信じてるよ」
三途は屍の背中を押すように力強く頷く。
そしてそれに呼応するように、尾刈斗のみんなも屍を向いて頷く。俺達僕達も信じてるぞって。
「僕達を信じて、そして僕達が信じる屍藤美という選手を信じてほしいんだ」
「紫藤、みんな、俺ちょっと勇気を出てきたよ。この試合、頑張ってみる」
屍は少し恥ずかしくなったのか、頭をポリポリと書きながらその決意を口にした。
やっぱり、信じてるって言葉には凄いパワーがある。屍は、僕が選べなかった正解の選択肢をちゃんと選んでみせた。
「屍先輩、大切なのは自分を愛することですよ」
「柳田の方が後輩なのに、ぐふっ、逆に説教されちゃったな」
いつものように自虐的なセリフだったけど、その顔はどこか朗らかだった。
「何言ってるんですか、屍先輩。それが大切だって僕に教えてくれたのは先輩ですよ」
「ぐふふっ、そうだったかもな」
☆☆☆
久遠監督は僕の提案を受けて入れてくれて、屍と魔界先輩は後半もフィールドで戦うことになった。
前半との違いはGKが不死先輩から鉈に変わったこと、そして僕と魔界先輩の位置を交換したこと。僕はいつになく前線に立ち、魔界先輩は守備に徹することになった。
尾刈斗ボールで後半は始まる。まずは八墓にボールを渡し、左サイドから攻め上がる。
「カマイタチ」
幸いにも飛鷹以外の選手のディフェンス力は並以下なので、カマイタチで易々と突破できる。きりもみ回転しながら突進するっていうシンプルな技だけど、こっくりさんイチオシというだけあって使い勝手が良さそうだ。
フリーになっている月村先輩へ八墓がパスを出そうとしたとき、意識の外にいた鈴目と飛鷹が意外な必殺技を使う。
「かっとびディフェンス!」
2人の足の裏を重ねて、飛鷹の凄まじい脚力で鈴目を弾丸のように飛ばす。
鈴目は八墓の足元までかっとびながら、足に直撃することなく器用にボールだけを掠めとった。
「やりましたよ飛鷹さん!」
自慢げに飛鷹を呼ぶ鈴目の姿は、後輩だとしたら可愛くて仕方ないんだろうけど、その僅かな隙に鈴目のパスコースはどんどん塞がれていく。
散々手こずらされたエアライド組も、僕と人形でしっかりマーク。間を遮る位置に月村先輩がいるから、飛鷹へのバックパスも許さない。
「魔界の住人の俺様にはお前らの動きなどお見通しなのさ!」
すっかり調子を取り戻した魔界先輩が、孤立した鈴目のボールを奪いにいく。
変な被り物をしているせいで視野が狭そうに思えるけど、実は誰よりもフィールド全体を見ているのは魔界先輩なのだ。
「嫉妬するのは馬鹿らしくないですか?」なんて挑発しながら後半も出てもらうように魔界先輩を説得した後、僕は先輩に司令塔になってもらうように頼んだのだ。
『先輩はこの試合に必要だって監督に言ったのは、方便なんかじゃなく本心です。勝つために素敵で頼れる魔界先輩にやってほしいことがあります。
守備の要としてディフェンスに立って、みんなに指示を出してくれませんか?』
『別に構わねえけど、俺でいいのか?』
『魔界先輩じゃなきゃダメなんです。1年前の練習試合、天魔対戦とかハロウィーンの一戦とかで、僕はどちらも先輩とは違うチームでしたが、どちらも先輩な的確なゲームメイクに苦戦した覚えがあります。
きっとこれは、月村先輩にもできない、魔界先輩にしかできないことだと思います』
わざわざ嫉妬していた月村先輩の名前を持ち出して焚き付けたのはちょっとずるい言い方だったかなとは思ったけど、頼んでいた通り、いやそれ以上に魔界先輩は司令塔として活躍してくれた。
「そんじゃボールは頂くぜ! 怨霊」
「スカイウォーク!」
完全にパスコースを塞いで追い詰めたかと思いきや、必殺技で空に逃げられてしまった。
「唐須!」
そして空から唐須にパスが繋がる。
最悪な人物にボールが渡ってしまったように見えるけど、ここまではちゃんと想定通りだ。
前半で良いようにされた唐須を僕らがフリーにさせるはずがない。唐須にはしっかり彼についてもらっている。
「俺はもうすっかり眼中に無いのかい?」
唐須の前にしっかりと立ちはだかったのは、前半よりも勇ましい顔を見せる屍。
『後半、唐須の対処は俺にまかせてくれ』と言ったのは屍自身だ。僕が屍に頼み込むより先に、屍は因縁の決着をつける覚悟を決めていた。
「ていうか、俺のこと覚えてないのか。俺は君のことを忘れた日はなかったのに」
唐須は右側から突破する素振りを見せ、屍は重心を少し右に傾ける。
「お前はあいつか、不死身の藤美ちゃんか。懐かしいなあ!」
馬鹿にしたように笑いながら、唐須は重心が傾いた隙を狙って左から突破を狙う。さっきのはフェイントだったってことか。
「その呼び方好きじゃないって、言わなかったっけ!」
左右に揺らされ体勢を崩されたけど、屍は必死にボールに食らいつく。
「お前が俺に楯突くんじゃねーよ! ジャッジスルー!」
屍をどうしても突破できず痺れを切らした唐須は、ジャッジスルーで強引な突破を狙う。
「ぐふふっ、その技、待ってたよ。タフネスブロック!」
前半と違って屍は怯えていない。サッカーボールを前に逃げることは、もうない。
唐須の蹴りがボールごと屍を襲う。しかし倒れたのは屍ではなく、蹴りを食らわせた側の唐須だ。唐須はタフネスブロックで逆に弾き飛ばされて地面に転がっている。
「やったじゃん、屍!」
屍は自分の力でトラウマに打ち勝ったのだ。凄い、本当に凄いよ。
「ぐふふっ、俺、やった……!」
屍の活躍で暴走の攻勢を防ぎ、反転攻勢。僕らの番だ。ボールは屍から魔界先輩、木乃伊と渡り、僕のもとまで届く。
「紫藤、突っ切れ!」
「了解です! まぼろしドリブル!」
スライディングに来た鈴目を新技で躱しながら、司令塔である魔界先輩の指示通り、ボールをどんどん前へと運んでいく。この必殺技の特訓に付き合ってくれた半田には感謝だ。
最近はDFとして前に出すぎないようにって言われていたから、こうしてドリブルで上がっていくのは久しぶり。守備とはまた違った楽しさがあるね。
「そろそろ1点返してもらうよ。飛鷹、力勝負と行こうか! イリュージョンボール!」
飛鷹を少し挑発しながら、僕の十八番の必殺技で飛鷹に立ち向かう。
「受けて立つぜ。真空魔!!」
僕が生み出した幻のボールを吸い込まんと、飛鷹も十八番の必殺技を使う。
しかし、いつまで経ってもボールは吸い込まれない。
「なぜだっ!」
真空魔は一度の強力な蹴りで空間に裂け目を作る技だから、それを長時間持続させることはできない。紫色の裂け目は次第に吸い込む力が弱くなり、僕からボールを奪えないまま消えてしまった。
僕のイリュージョンボールが吸い込まれたのはなぜか。飛鷹に問われたから、そのくだらない真相を教える。
「なぜかって、全部偽物だからね」
月村先輩のファントムシュートは、本物のボールだけが真空魔に吸い込まれていった。それはつまり、真空魔は幻を吸い込むことはできないってことだ。幻は質量も持たないから、考えてみたら当たり前の話なんだけど。
そしてその答え合わせと同時に、彗星のような光を纏った本物のボールが飛んでくる。狙いはもちろん、シュートチェイン。ボールが飛鷹の頭上を通過するくらいのタイミングで月村先輩がボールに追いつく。
「ファントムシュートV2!!」
「止める! ワイルドクローV2!」
黄色いモヒカンのキーパーの黄色く輝く爪を弾き飛ばしてボールがゴールネットに突き刺さる。鈴目と同じく飛鷹の舎弟の1人だったと思われる彼は、原作でサッカーを馬鹿にしていたとは思えないくらいにしっかりしたキーパーだったが、飛鷹のような圧倒的なまでの力は持っていなかった。
スコアは1-1、同点に追いついた。
☆☆☆
暴走ボールで試合は再開。点を取られたらまた取り返すだけだと暴走もやる気の姿勢だ。
「エアライド!」
また例のエアライド組がボールを変形させて空を乗りこなす。
「降りてきたら、ボールを貰うアルヨ」
着地点で霊幻が待ち構えるが、ボールを地面に落とすことなく前線のFWへと繋げられる。
しかしそれすらも魔界先輩の読み通りだったようで、パスの軌道上には不乱先輩が配置されている。
「フランケン守タイン」
緑の巨体がパスを叩き落とし、暴走からボールを奪う。不乱先輩のディフェンス力はほんとに頼りになる。
「この試合は全てこの俺様の手のひらの上……」
魔界先輩が調子に乗って悪役っぽいセリフを吐いているけど、先輩が試合の流れを握っているのは事実だ。これから尾刈斗の天才ゲームメイカーとでも呼ぼうかな。
魔界先輩が守備を取りまとめ、屍や不乱先輩という頼れるDF達と鉈がゴールを守る。もう後ろは心配しなくていい。
「もう1点決めてやるぜ! 円谷ヘイパス!」
月村先輩がこの流れのまま試合を決めてやろうとパスを要求する。
「スキあり! かっとびディフェンス!」
間に遮蔽物なんてなくて、普通に通るはずだったパスが、ハヤブサのように飛んで来た鈴目にカットされる。
動くボールにピンポイントで飛んでいくのはなかなか至難の業だと思うけど、飛鷹と鈴目の息を合わせるためにかなり練習したに違いない。敵が手強いという尾刈斗にとって悪いニュースなのに、原作ではサッカーをしていなかった鈴目がしっかりサッカーを練習しているんだと考えると少し嬉しくなった。
鈴目にボールを奪われちゃったけど、我らが守備陣がしっかり攻め手を封じ、魔界先輩がボールを奪い返してくれた。
やっぱり、守備は完璧に近い。もう点を取られることはないだろう。
ただこっちだって、攻め手に欠けているのは事実だった。
屍や不乱先輩が暴走の攻撃を防いだかと思えば、鈴目や飛鷹の守備に阻まれボールを奪い返される。互いに攻めきれないまま後半終了の時間が近づいていく。
1-1の同点のまま後半が終了すれば、勝敗をつけるために延長戦、PK戦へと続いていく。暴走のあまりに数の多いFW達の攻撃を凌ぐのに精一杯で、屍達守備陣の体力は尽きかけている。できることならこの延長戦に持ち込ませずに決着をつけたい。
残り体力を考えると、ほぼ1人で守備を担っている向こうの飛鷹の方が消耗は激しいはずなんだけど、飛鷹は全く疲れた様子を見せない。マジで誰からどんな特訓を受けたんだろう。
怨霊やら呪いで飛鷹の動きを封じることができたら楽なのだが、つい最近サッカー規則の改定があって、ボールを持たない選手からボールを持たない選手への必殺技での干渉が反則行為に定められた。
あの帝国戦のように試合がもはやサッカーではない異能力バトルになるのを防ぐという意味では、影山にしては珍しく、良い改定だと思う。
ただ、その改定で僕らが打撃を受けているのも事実であって、ボールを受け取る選手を先んじて怨霊で身動きを封じる戦術などが使えなくなっている。
飛鷹を突破する策が何も思いつかない。僕は奇策を考えるのは得意だけど、大抵タネがバレたらなんとでもなるものばかりで、根本的な解決策は見つけられない。何か、一発逆転の策はないか……
「いろいろ悩んでるみたいだけどさ、別に策なんて必要ないんじゃねえか?」
僕が悩んでいると、月村先輩がニカっと笑って牙を見せた。
「真正面から、あのディフェンダーをぶっ飛ばしちまえばいい」
「俺も多分、同じことを考えていたぜ」
魔界先輩もニヤリと笑って、月村先輩と一緒に敵陣に駆け上がる。
「「地獄車!!」」
月村先輩と魔界先輩の2人がボールを体で挟みこんで、回転しながら飛鷹に突撃する。猛スピードで突撃してきたそれに、流石の飛鷹も対応することができなかった。
「この勢いのまま行くぜ!」
飛鷹を地獄車で弾き飛ばした後、魔界先輩は転がる回転の勢いのまま月村先輩を上空へ蹴飛ばす。
「「これが俺(オレ)達の新必殺技だ!」」
魔界先輩のサポートで空高く跳び上がった月村先輩は、狼のようなオーラを纏って上空からボールを蹴り落とす。
「ワイルドクローV2!」
相手GKが必殺技で応戦するも難なく突き破って、魔界先輩と月村先輩の2人のシュートはゴールネットを揺らす。
「魔界の住人の俺様に、お前が加われば百人力だな」
「宇宙人のオレは何だってできるんだよ」
そう先輩達は軽口を交わしながら、ハイタッチをする。
その姿はとてもかっこよくて、そして僕にはとても尊いものに見えた。
嫉妬によって関係性が歪むわけではなく、素敵に友情を育んでいる先輩たちの姿に、ただ尊い価値を感じたのだ。前世の僕には選べなかった関係性だったから。
「かっけー……」
普段はお調子者の人形も、先輩達の活躍に素直に感嘆している。
守備の要を託したはずなのに、それをしっかりこなした上でドリブルにシュートまでオールラウンダーに活躍されちゃうと、僕も魔界先輩に嫉妬してしまいそうだ。
「あんな技、いつ練習してたんですか?」
2人がこの合体技を練習しているところなんて見たことがなかった。
こっそり2人で練習していたのか、それともあの2人の絆ともなれば即興でも成功させられるのか。前半ではいがみ合っていたことが信じられないくらいに息がピッタリだった。
「こんな感じでやろうぜって話し合ったら、なんか1発で良い感じに出来たんだよな」
「まあオレは天才だし?」
「ちなみに俺もう技名考えてるぜ」
「オレも良い名前を考えてある。一緒に言うか?」
「「せーの――」」
「魔界落とし!!」「リーピングウルフ!!」
そこは全然ピッタリじゃないんだ。
☆☆☆
またまた暴走ボールから試合が再開するけど、試合終了まであと僅か。さっきの1点が試合を決める最後の1点で、尾刈斗には優れた守備陣がいるし勝利は磐石。僕達はそう思い込んでいた。
僕達は、暴走学園を舐めていた。気まぐれでFFに出場した不良学校、なんて間違ったイメージを持ち続けていたのかもしれない。
彼らは本気で勝ちを求めに来ていた。最後の最後まで、彼らの闘志は消えていない。
「この試合、絶対勝つぞ!」
飛鷹の掛け声とともに、暴走の全員がこっちのコートに攻め上がってくる。鈴目も飛鷹も、そしてキーパーまでもが。
捨て身の攻撃だ。成功する確率が高くないとしても、僅かな勝利へのチャンスを掴みに来ている。
「勝って黒岩さんに勝利を届けるんだ!」
魔界先輩が必死に指示を出すけれど、文字通りの全員攻撃で押し込まれてしまう。
「怨霊」
「蜘蛛の糸」
霊幻や木乃伊の必殺技で足止めを図っても、止める前にまた別の誰かにパスを出されボールを捕えられない。
「これが最後の攻撃だ! エアライドV2!!」
土壇場で必殺技を進化して、さっきまでよりさらに長い距離をボールに乗って飛んでいく。
「唐須、任せた!」「やっちまえ、唐須!」
チームメイトの期待を一身に受けて、唐須は空に飛び立つ。この試合で何度も見たホークショットの構えだ。
小学校時代に唐須が屍に対してしていたことはとても酷いことだし、僕はそれを許すつもりはない。でも唐須が今、暴走の仲間達に信頼されていて、真剣に勝ちを目指してサッカーに取り組んでいるのも事実みたいだ。
ただひとつ言えることがあるとすれば、僕達尾刈斗も勝ちを譲る気なんてないってことだ。
唐須の対処は屍に一任している。屍ならきっと止められる。僕はただ、それを信じて見ているだけ。
ハーフタイム中に僕が屍に伝えたこと。
『暴走の空中戦によって、僕達は苦戦を強いられている。だから、今この試合で、あの技を完成させて欲しいんだ』
屍が今までの自分の努力を信じるのならば、きっとあの技を完成させることができる。
サッカーから逃げずに立ち向かうことを決めた屍に、臆することなど何もない。
「俺なら……できる。グラビテイション!」
リトル・グラビテイションから進化した技、グラビテイション。身動きが取れなくなるほどの超重力空間が屍が地に着けた手を中心に広がり、その紫の空間は空中でシュート態勢に入っていた唐須とボールを捉える。
「落ちろ、唐須」
鳥の翼がもがれたかのように、唐須は地面に落とされた。暴走の最後の攻撃も、屍の活躍によって止めきった。
ピー ピーー ピピーーー
試合終了の笛がなる。2-1で僕らの勝利。
こうして尾刈斗は、帝国学園が待つ地区大会決勝へコマを進めることとなった。
ところで、尾刈斗に対してどの程度知識がありますか?
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正直誰も分からない
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主要な数人は顔が分かる
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アニメに登場した範囲で顔と名前は一致する
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ベンチメンバーまで全部完璧に分かる