雄英体育祭が終わり、休みを挟んだ月曜日。
井ノ中ヨコヅナは学食で昼食を食べていた。
「このドレッシング美味いだな」
今日もテーブルには三人前の料理が並んでいる。
「サラダは彩よく盛り付けるとより美味しく食べれるだな」
大きいサラダボールに入った色とりどりの野菜を食べながら、ブツブツ言っているヨコヅナに、
「相席して良い?」
「拳藤、良いだよ」
一言断って、テーブルの向かいに座ったのは拳藤一佳。
「体育祭2位になった反響はどう?茨も色々な人に声かけられたって言ってたけど」
「凄いだよ。どこに行ってもお相撲さんお相撲さんと言われるだ」
雄英体育祭はテレビ中継もされているので、活躍すれば一躍有名人。
特にヨコヅナは普通科でありながら準優勝の快挙。それに相撲という格闘スタイルは印象が強く且つ親しみやすいのか、老若男女問わず声を掛けられた。
「他にも「現代に生きる唯一の力士」とか言って取材が来たり、相撲公演をしているショー団体から出演依頼が来たりしただ」
「あはは。優勝したA組の爆豪よりも注目されてるんじゃない。それで編入の話はどうなの?」
「正式にヒーロー科編入の意思確認はされたべ。でも、すぐヒーロー科って事は無いと言われただ。仮に優勝しててもそうらしいだ」
ヒーロー科は普通科にはない授業がある。編入するのは少なくともそれらを現授業内容まで補習で学んでからだ。
「そっか。私もブラド先生にちょっと聞いてみたんだけど、格闘の実力や無効化の個性は高く評価されてるけど、決勝での「油断」と「諦めの速さ」がマイナス評価だって」
ヨコヅナの編入に反対する意見もあり、「倒れた爆豪に攻撃していれば勝てた可能性は高い。油断からの敗北だ」とか、「勝機はまだあったはずなのに降参した、あれはヒーロー志望としても不味いだろ」とかだ
「でも「体育祭で相手の眼を潰して勝つより良い」とブラド先生は編入賛成みたい」
「あの先生、眼ぐらい平気で潰しそうな怖い顔してるだが…」
「ブラド先生は生徒思いの凄く良い先生だよ。それにオールマイト先生も賛成で強く推してくれてるらしいよ」
「そうだべか」
オールマイトは約束を守ってくれているようだ。
「……あの時どうして場外に出たの?」
ヨコヅナが自ら場外に出て負けたのは、首を絞められ声も出せなかったから場外に出てギブアップを表したと思っている者が多い。だが、一佳は違うと確信している。
「ヨコヅナなら力ずくでも爆豪を引き外すことは出来たでしょ」
ヨコヅナは増強型個性と間違われるほど、素の力が常人離れしている。後ろにあった爆豪の眼に指を添えれるぐらいには余裕があったなら、引き外すことは可能だったと考える一佳。
「……あの時点ではもう負けてただよ」
「どういうこと?」
「手をついただ」
「手?…床に手をついたってこと?」
「そうだべ」
これがヨコヅナが自ら場外に出た本当の理由。
煙りに覆われ観客はおろか爆豪にも見えてはいなかったが、ブチかましをかわされ背に乗っかられたヨコヅナは、一瞬床に手をついてしまったのだ。
「あんたね…」
一佳はヨコヅナが相撲に拘りを持っているのは知ってる、それでも…
「あんな状況で相撲も何もないでしょ。床だって爆破で凸凹だったし」
「それでも、オラは勝てると思ってただ」
個性を使われている時点で相撲ではないし、爆破で足元が崩れてたのも事実だ。だが、【爆破】を承知でヨコヅナは爆豪の誘いに乗った。その上で勝てると思っていた。
ヨコヅナは「相撲でテメェを倒してやるよ」という爆豪の言葉を思い出す。
正面からぶつかると見せて、衝突をかわし上から力を加えて相手を地につける。相撲で【叩き込み】と言われる列記とした決まり手の一つ。
「だからあの試合は、オラの負けだべ」
「はぁ~…ただでさえ、倒れた爆豪に攻撃していれば勝てたのに…」
「…でも、あれが最後だべ」
「最後?」
「今後は相撲のルールに拘らず、ヒーローを目指すって意味だべ」
「……私もその方が良いと思うけど、随分あっさりね。どういう心境の変化?」
相撲に拘らないというのもそうだが、ヨコヅナが「ヒーロー免許をとる」ではなく「ヒーローを目指す」と言ったことに一佳は少し驚いていた。
「オラは勘違いしてただ。オラはヒーローが、崇高な志があり誰からも正義と思われる存在、なんだと思ってただよ」
ヨコヅナはヒーローに興味ないからこそ、ヒーローにあらぬ幻想を抱いていた。
だからヨコヅナは、ヒーロー免許を欲しいだけの自分が他のヒーロー志望の生徒と競い合い勝つ事に心苦しさを感じていた。
自分はヒーローに向いてないと思っていた。
しかし、今は違う。
「でも違っただ、法に反せず実績を作れればヒーローなのだと分かっただ」
体育祭で真実を知ったヨコヅナ。
「それなら気兼ねする必要など一切ない」
「!?……ヨコ、ヅナ?」
一佳は会話をしていたのにも関わらず、目の前に居るのがヨコヅナだと思えなかった。
「ちゃんこ鍋屋の店を持つのは遅れそうだべが、しばらくは本気でヒーローを目指す事にするだよ」
そう言うヨコヅナはいつものヨコヅナだった。
「…そ、そう(気のせいかな…)」
ヨコヅナの変化を気にしないことにする一佳。
「私は誰からも正義と思われるヒーローになりたいけど、奇麗ごとだけじゃ駄目なのは確かだしね……ところで」
ヨコヅナが食べている料理に視線を向ける一佳。
「ヒーローを本気で目指すからそのメニュー?」
ヨコヅナの前に並んでいるのは、山盛りのサラダの他、蒸し鶏、ゆで卵、煮魚、納豆、無糖ヨーグルト、などのカロリー低めの料理が大半だった。
「ダイエットするの?量は多いけど」
3人前あるのは変わらない。
「無駄に重い分だけ痩せるだ」
「…まぁ、ヒーローは機動力大事だもんね……痩せてるヨコヅナっていまいち想像できないけど」
一佳が出会った時からヨコヅナは力士体型だったので痩せてる姿が想像できない。
「それじゃ、ちゃんこ鍋も食べないの?」
「ちゃんこ鍋は食べても太らないだよ」
「え?太る為に力士はちゃんこ鍋を食べるんじゃないの?」
「それはちゃんこ鍋が大量に食べれる料理だからだべ」
一度にさまざまな栄養を大量に摂取できる効率の良い料理だから力士はちゃんこ鍋を食べるが、適量ならちゃんこ鍋が太る料理ということはない。
「太るかは食材によるだな」
今ヨコヅナが食べているメニューのようにカロリーの低く調整して作れば、
「美味しくて、たくさん食べても太らない『ダイエットちゃんこ鍋』みたいなのも作れると思うだよ」
「そんなの作れるの!?それは食べてみたいな」
「それじゃ拳道、久さしぶりにちゃんこ食べにこないだか?」
「いいの!…いや~、実はずっと食べに行きたかったんだけど、高校に入ってからヨコヅナ誘ってくれないし…自分から言うのもアレかなっと思って…」
「オラは、拳藤はヒーロー科で忙しいと思って、誘わなかったんだべが」
「そうなんだ。ヒーロー科でも、ご飯食べに行くぐらい出来るよ」
「そうなんだべか……それじゃ中学の時みたいに、ちょくちょく誘うだよ」
「うん!」
ヨコヅナはのんびり平穏に、ちゃんこ鍋を作って美味しいと言って貰える。そんな暮らしが目標だ。
でも、
それだけなら雄英に入学する必要はない。
「そのかわり勉強教えてくれないだか?編入したらヒーロー情報学とかで法律なんかも勉強すると聞いただよ」
「あはは、良いよ。中学の時と同じだね」
「拳藤が教えてくれるなら何も問題ないだな」
「何言ってんの、私が教えてもヨコヅナ自身が頑張って勉強しないと意味無いで、しょ」
ヨコヅナの頭にチョップする拳藤、このやり取りも中学の時から変わらない。
ヒーローを目指しながらでも、こういう日々を送れるなら、
「もちろん頑張るだよ」
ヨコヅナが雄英に入学した本当の理由は……
今話で一応本当に最終話です。
ヒロアカ5期のアニメを見たら続きを書くかもしれませんが、未定です。
今までご愛読いただきまして、誠にありがとうございました。