女体化した挙げ句、転生先は存在しないクリスの妹でした。 作:わらぶく
ちょいとご注意ください。
見つけたのは、本当に奇跡なのだろうか。
それともこの身に纏う赤い鎧、イチイバルが奇跡を掴ませてくれたのか。
「本当に、本当に雪花なんだよな……? 他人の、空似なんかじゃ、ないんだよな……?」
「双子の妹に、空似も何もないよ。バルベルデで過ごした温かい家族の思い出も、苦しかった二人での捕虜生活も、空港でのことも全部、オレは覚えてる。姉さんが、俺のことをずっと探してくれてたことも、ちゃんと知ってるよ。ホント、妹思いの姉なんだから」
雪花へと向けられたクリスの持つ銃の──いや正確にはクロスボウの狙いが、動揺か定まっていない。当たり前だった。二年前、日本へと帰ってきたあの日から消息を絶ちどれだけ願おうと、当時の二課と公安に頭を擦りつけてまで頼もうと見つからなかった妹の姿が、どういうことか今目の前に現れた。
クリスにとってこんなに嬉しいことは無い。身長も伸び、雪花はクリスよりも頭一つぐらい大きくなっている。
何よりも生きていてくれた事実がクリスにとっての祝福となる。抱きしめたい、話したい、離れたくない。手を伸ばせば触れられる場所に優しい笑みを浮かべた雪花の顔が、あるんだ。
それでも素直になれず口調が荒くなってしまうのは、バルベルデでの過酷な環境で暮らしたことで極限まで捻くれ、人間というものに信用出来なくなってしまった性格が原因なのか。
「ずっと探してたんだぞッ!? 二年間だッ! 恥も外聞もかなぐり捨てて、誰彼構わず頭を下げてまで探したんだッ! そうまでして探し続けても見つからなかったのに……ッ!!」
「……」
「何で今まで出てきてくれなかったんだよッ!! こんな場所に居るんならもっと早くあたしの前に出てきてくれても良いんじゃねえかッ!」
感情が噴き出す。それも怒りという形で。
言葉を選ばずに言ってしまうのなら、幼年期の捕虜となった時から今までまともな人生を送れてこなかったクリスは、例え雪花が相手であっても自身の心の内を正直に打ち明けることが出来なくなっていた。日本に帰還することになり多少はマシになったものの、その後の雪花の行方不明が追い打ちをかけてしまう。眉を吊り上げ怒りの表情を露にしながらボウガンを握った右手を振り上げる姿は、仲の良い親族にする表情ではない。
クリス本人は、あくまで叱っているという認識だ。悪いことをしたら叱る。それは当然である。だからいつか母親から叱られた経験を思い出し、それを真似したつもりで雪花を叱っているつもりなのだ。
しかしそれも、雪花の表情を見て一変する。
「ごめんね、姉さん」
「あ……」
悲しそうな顔だった。今にも泣いてしまいそうな、弱々しい表情。それでも心配させないようにする柔らかい笑顔を浮かべる姿は昔の雪花と全く変わらない。バルベルデに居た時からそうだった。何かあっても心配させないように笑顔を浮かべて、その場を逃れようとする癖は変わっていない。そういう時は、雪花にバレないよう何かあったのか周囲の人間に聞き込みに行くのがいつもだった。
しかし、今悲しい表情をさせてしまっている原因は、他でもないクリス自身だ。
思考が、止まる。どうすればいいか、分からなくなっていく。
泣かせるつもりなんて無かった。
雪花の味方でいると決めたのに、姉として守ってやると決めたのに。
これじゃあ、まるであたしが雪花の敵じゃ──
「ち、違うんだ雪花ッ! あたしは、雪花を泣かせたいわけじゃないんだッ! ただ、ずっと心配してて、生きててほしいって思ってて」
「大丈夫だよ、姉さんは悪くない。でも、オレはもう姉さんの側に居れないんだ」
「へ……? な、何の冗談だよ……?」
クリスが聞き返しても、雪花は答えない。
一歩踏み出し「何でッ!」と怒鳴りそうになってしまうのを何とか堪えて、「姉さん」と呼んでくれる愛おしい妹の目をしっかりと見据えながら、どう言えば泣かせないで、傷つけないように済むのかを必死に思考した。
「もうバルベルデみたいに苦しい思いする必要無いんだぞ……? 二課っていう優しい奴らも居て、あたしに家も用意してくれたんだ。雪花も言ってただろ、陽射しが良く入って風通りがいい家が良いって。見つけるのは苦労したしでっけえマンションになっちまったけど、それでも雪花が望んでた部屋を頼んだんだ……」
「良かった、帰る場所が出来たんだね」
「ああ……だからあたしら二人で帰ろう? ママとパパの仏壇もある、皆の帰る場所に──」
「オレは、帰れないんだよ。だから、三人で温かく暮らしてほしい」
「ダメだッ!! 雪花はあたしと帰るんだッ!!」
子供のように吠える。
そこからはもう、ただのわがままに等しかった。一緒に帰るんだ、同じ場所で暮らすんだと同じことを何度も言って、目の前に居る雪花に言い聞かせようとしていた。何よりも、二年間も探し続けようやく見つけた妹をまた失ってたまるかという意地が、そうさせている。
しかし、その言葉が届くことは無かった。
雪花はクリスの頬を指先で優しく撫でた後、踵を返し駆け去っていく。
「行くなッ!! 行かないでくれ、雪花ッ!!」
止めようと、手を伸ばす。ようやく会えた妹が、また居なくなろうとしている。
助けたい、一緒に生きていきたいのに──。
だから追いかけようとする。
だというのに、体は意思に反して動いてくれなかった。
本来、シンフォギアにはオカルトじみた超人的な能力を発揮するために、様々な機能が搭載されている。その中でも特徴的なことは二つ。一つはシンフォギアから流れる音楽に合わせて頭の中に浮かび上がる歌詞を歌うことで、フォニックゲインを生み出しそれをエネルギーとすること。
そして、もう一つがシンフォギア装者の精神状況だった。今のクリスで説明するのであれば、もう会えないものだと考えていた妹に出会ったことと、一緒に暮らせないと告げられたことによる精神状態の悪化によって、イチイバルは現在進行形で機能のほとんどを失いつつあるのだ。
現在のイチイバルは既にただの形骸化した見た目だけの存在、それどころか装者の行動を阻害する拘束具となりつつある。だが、原理を知らないクリスにはそんなことは分かるわけもなく、体がまともに動かなくなっていくことに気が動転し恐怖と焦燥感が思考を全て埋め尽くしていった。
こうしている間にも雪花の後ろ姿は段々と小さくなっていく。
「動け、動け……ッ! なんであたしの体は動かないんだよ……ッ!? 目の前に雪花が居るんだぞ……ッ!? あんなに見つけたい妹が、目の前に居るんだぞ……ッ!? クソ、クソッ! 雪花ッ! 雪花ぁッ!」
「雪音!」
邪魔をするように、翼の手がクリスの肩に置かれた。意識がそちらへと反らされ自身の肩の向こうにある翼の顔へと向けてしまう。
それが良くなかったのだろう。
再び視線を雪花の方に向ければ、そこにもう後ろ姿はない。
探すために駆け出そうとして、クリスの体は翼に抱きしめられていた。
「離せよッ! 雪花が、あたしの妹がそこに居たんだッ! 今からでも探し回れば見つけられるッ! だから離せぇッ!」
「落ち着け雪音。司令は周囲の監視カメラに雪音と同じ顔をした人物は映っていないと言っている」
「んな訳あるかッ! だったら、あたしがさっき見たのは何だってんだッ!? 雪花の声を耳に残ってるッ! 触れてくれた頬には感触が残っているッ! これは全部夢だってのかッ! 狐に化かされたとでも言うつもりかッ!? 信じられるかッ! あたしは」
──パチンッ!!
乾いた破裂音が、工業地帯に鳴り響く。翼の方へと向き直っていたクリスの視界がぶれ、襲い来る衝撃に「え?」と困惑に満ちた声が薄く開いた自身の口から出ているのを聞いた。それから少し、時間が止まったような感覚を覚える。
次いで知覚したのは頬に感じる痛みだった。雪花が触れた感触が上塗りされヒリヒリとする頬に手を添え目の前に立つ翼に目線を向ければ、見えるのは一筋の涙を流している姿だった。
「いい加減にしなさいッ!」
「……」
「居ない人間は、居ないと受け入れるしかないのッ! ここで錯乱しても、何も変わらないッ! あなたならわかるでしょうッ!?」
この時、翼の胸中が荒れに荒れていた。
原因は二年前に起こったノイズによるライブ事件によって、ツヴァイウィングの片翼である天羽奏と共に失われたはずのガングニールが、謎の装者と共にシンフォギアという形で現れたことだった。
戦う理由のほとんどを天羽奏に依存していた翼にとって、彼女を失うということは戦う理由を失うということと同義。それでも奏が命を賭して守ったこの街を今度は私が守ろうと、これまでその身を剣と鍛え上げてきた。
だというのに、あれはなんだ。
ガングニールを纏っていたのは、何の知識も覚悟もないただの少女じゃないか。奏のガングニールを、どうしてあなたが持っているの。一度湧き始めたらきりがない疑問が、翼の頭を埋め尽くさんとしている。
だから、翼もまた錯乱していると言える。
その言葉は、ある意味で自身にも投げかけた言葉だった。
流石に頬を叩いたのは、やりすぎだっただろうが。
「……ごめん」
「……私もごめんなさい……やり過ぎた」
「良いんだよ。あんたのおかげで、あたしも頭がちったぁ冷めた……ははっ、そっか……あたしは幻視・幻聴までするようになっちまったのか……ははっ、はははっ……」
眩い光を発して、クリスの体はイチイバルが解除され地面にへたり込んでしまう。
漏れる乾いた笑いに、自身の心がパキパキと音を立てながらヒビが入っていくこともクリスは自覚しながら、その場から動くことが出来なかった。
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夜の東京の繁華街に紛れる質素はビジネスホテルは、フィーネとその協力者が数多く用意したセーフハウスの一つだ。街中にある監視カメラはフィーネによって細工されノイズを召喚したところから雪花の姿が映らなくなっているものの、どこまで及んでいるかも分からない二課の捜査の手を掻い潜りながら遠く離れている場所までバイクで走り抜けるというのは、精神的になかなか疲労する。それに雪花の見た目はどれだけ高く見積もっても高校生だ。バイクのまま繁華街に入ろうとすれば、警察に見つかり職質からの免許提出コンボで雪花の人生が死にかねない。そんな間抜けな終わり方は流石に嫌だ。
そんなわけで慎重に慎重を払った結果、雪花がセーフハウスに到着したのは日を越えてから。いささか慎重すぎた気がしないでもないが、強化ガラスで作られたエントランスへの扉を疲労で重くなった手で開ければ、ホテルのフロントに立つ従業員がクタクタの雪花を見かねて側まで駆け寄ってヴァイオリンケースを代わりに持った。余裕のあるいつもなら「別に良いです」なんて断るところだったが、今日は声を出すのでさえ億劫になるほど疲れきっている。優しさに甘えて案内されることになった。
状況が落ち着いたからか、今更になって服の下が汗でベタベタしていることに気がつく。それもあまりよろしくはない脂汗。服が肌に張り付く不快感に廊下を歩くことさえ嫌になってくる。
(……問い質してやる。ろくでもないことを言えば、死んででも後悔させてやる)
だがそれ以上にフィーネに対して沸き上がる怒りの感情が、雪花の動力源となっている。
工業地帯で見てしまったシンフォギアを纏う姉の姿。優しい姉がノイズに対抗する唯一の手段なんかを手にしてしまえば、その力を他人のために使役しその身を危険に晒してしまうだろう。それだけは雪花にとって絶対に避けなければならない事態だったというのに、姉の安全は保証すると言っていたのに、雇い主であるフィーネはあろうことか約束を反古にしてきた。
そんなことを許せるはずがない。
最悪の場合は、この胸にある自分のシンフォギア──イチイバルで。
あの場、クリスが身に纏っていたシンフォギア、イチイバル。
肉体的な性質はまったくと言って良いほど同質である双子の雪音姉妹、時系列を整え説明するのであれば妹の雪花が適合出来るのなら姉のクリスが適合出来ないわけがなかった。
そして雪花にイチイバルを与えたのは誰でもない雇い主のフィーネだ。
問い質さねばならない、絶対に。
とはいえ、このビジネスホテルはあくまでセーフハウスの一つ。フィーネがここに来ている可能性はかなり低い。
『何かありましたか?』
『……いえ、少し悩みごとを』
険しい表情とただならぬ雰囲気の雪花の身を案じてか、隣を歩く従業員が英語を使って話しかけてくる。眉間にシワを深く刻み、怒りでつり上がった口角と唇の隙間から見せる犬歯は、平常心を保っている人間のそれではない。
明らかに、怒りに満ちた修羅の表情だ。
しまったと声を漏らし、顔を両手で覆い隠して表情を整える。
思考を変えよう。このままでは隣の人にあたりかねない。
そうして考えたのは、姉のことだ。
工業地帯にて予期せぬ形で見た姉の姿は、頬や腕の肉付きがよく健康そうだった。髪が乱れていた様子もなく、語りかけてくれたあの言葉が強がりなんかじゃない。それを知れただけでも、不幸中の幸いと言える。
帰るべき温かい場所も、今の姉さんにはちゃんとある。
けど、そこに人殺しとして汚れた自分は不釣り合いだ。
『こちらです。中でフィーネ様がお待ちしております』
『……どうも』
どうやら、今日は色々とついているらしい。
ヴァイオリンケースを返してもらい、セキュリティカードを差し込んで扉を開ける。寝室へと伸びる一本の廊下、玄関で靴を脱ぎフローリングの冷たく固い感触を布一枚の足裏に感じながら奥へと進めば、疲労が溜まる雪花に聞こえてきたのは楽しそうに奏でられる鼻唄だ。
どこまでも神経を逆撫でしてくるフィーネに舌打ちをしながら寝室へと入れば、相も変わらず裸体を晒した姿のフィーネが影から姿を現した。
「お帰りなさい、雪花。どうだった?」
「──ッ!!」
ブチりと頭の中で何かが切れた音がして、目の前が真っ赤に染まったと思ったときには、雪花はフィーネの体を押し倒して馬乗りになりいつでも絞められるように細く麗しい首に手を添えていた。
いつものフィーネならば激昂し、ありとあらゆる手段をもって雪花の体に傷痕をのこそうとするだろう。
だがこの日は違った。
危害が加えられるという現状況においても、うっすらと笑みを浮かべて愉快そうに吐息を漏らしている。嫌な予感しかしない雪花は額に冷や汗を浮かべてしまうものの、ここまでしたのなら押すしかないと意を決する。
「どうして姉さんにシンフォギアを与えたッ!!」
「ふふ、何のことかしらね?」
「惚けるなッ! 姉さんの纏っていたシンフォギアはイチイバル、フィーネがオレに渡したヤツの片割れだろッ!! 覚えてないと言わせねえぞッ!!」
「あなたが私に勝てると思ってるの?」
「勝ち目なんてオレにあるわけ無い。それでも、このイチイバルでフィーネの邪魔をする。死んででも地獄に送ってやる。それがオレの覚悟だ」
「あぁ、本当に良い……。勝てないと分かっても動こうとする覚悟、無様で、醜くて、愛らしいわぁ、雪花」
うっとりと、本当に楽しそうに笑顔を浮かべるフィーネに雪花は生理的な恐怖を覚えてしまい、手に籠る力が弱まりたじろいぐ。一瞬見えてしまった隙を、フィーネが見過ごすわけがなかった。
バチィッ!!
スパークする音が響き、雪花の体が横に倒れカーペットに横たわる。
激しい痛みだった。全身、特に脇腹に突き刺さる鋭い痛みが体を蝕み手放してしまいそうになる意識を、舌を噛むことで何とか手繰り寄せる。何事かと動く視界で状況把握をすれば、フィーネの体から突き出るように見える黒いスティック状の何か。バチバチと音を立てながら放電を繰り返すのは、間違いなくスタンガンだ。
フィーネが高笑いをあげながら立ち上がると、その足で横向けに倒れている雪花の体を仰向けにし顔を覗き込む。ぼんやりとする視界に映ったフィーネの輪郭。手を伸ばしその顔を拳をと望むも、腹部を襲う痛みと衝撃に息がつまり吐き気が込み上げてきた。
「かは──ッ!?」
「だけど、相手ぐらいは考えた方がいいと思わない?」
雪花の腹部にフィーネの足が埋まる。
メリッ、グチッと不快な音を立てると共に、部屋に雪花の悲鳴が木霊する。フィーネと雪花が使用するこの特別な部屋は徹底的な防音加工とカーテンにより外からの干渉を絶っているため、どれだけ雪花が叫ぼうと一般使用している利用客が気付くことはない。
それもこれは、全ては悪趣味なフィーネの性格が影響していた。
雪花は足首を掴み剥がそうとするも、この麗しい見た目からは似つかわしくない怪力が腹部を押し潰していく。
「志半ばで死にたいの?」
「うる、さい……!!」
「はぁ……そうね、一度上下関係というものを教え直しましょう。良い、雪花。所詮あなたは下、私が与えたシンフォギアでどうにかなるとでも思っているのなら、それはただの思い上がり。あまり無様な醜態は晒さないで? 私はあなたのこと気に入ってるんだから」
「だったら何で、約束を……ッ!」
「失礼ね。約束なんて破ってないわ。シンフォギアはあなたのお姉さんが何かの間違いで炭素に変えられてしまわないようにするための、言ってしまえば保険よ。お姉さんに死んで欲しくないのでしょう? だから私は、あくまで『自衛用』としてあの子にシンフォギアをプレゼントしたのよ。約束は、破ってないでしょう?」
「詭弁を……ッ!! あの姉さんが自分のためだけにシンフォギアを使うわけがないッ! これから先、あんたがしようとすることの邪魔になるはずだッ! それが分からないあんたじゃないだろッ!?」
「何も問題はないわ。だって、あなたが私の悲願達成のために動いてくれるのでしょう? 障害はあなたが全て排除して、私と一緒に統一言語をもって世界を一つにする。これであなたはもう戦わなくても良いし、お姉さんと一緒に生きていける」
「オレに、姉さんと戦えって言うのかッ……」
「悲願達成のためなら手段は問わないわ。全て雪花にお任せするわね」
……戦うしかない。
今クリスが身を預けているのは、あの言葉から二課で間違いない。ならこれから先何をするにも雪花の邪魔になるだろう。
その時、姉が出てこないと言う保証はない。
クリスは今や、イチイバルを身に纏う貴重なシンフォギア装者だ。むしろ人命救助のため二課も積極的に動かしてくるだろう。どう小細工をしようと、どんな非道な行いをしようと、これから先は絶対に姉と言う障壁が立ちはだかってくる。
守ると決めたはずの姉に敵意を向けなければならないのは、今日この手を人殺しのものへと堕としてしまったとことに対する神の罰だと言うのだろうか。
グチグチ悩んでも仕方ない。決めたことは貫き通す。
やってやろう。文句を言おうと、人殺しの道を歩んだからには振り返ることなんて殺めた人間に対して不誠実だ。
それにフィーネが出張ってしまうと姉を殺しかねない。
他に、道なんて無い。
「やれば……良いんだろ」
「それでこそ雪花ね。あなたの力、大好きなお姉さんのためにも、私に注いでちょうだい♪
……さて、今度は罰を始めるとしよう」
フィーネの雰囲気が、ガラッと変わる。
会話の中に質の悪い冗談を混ぜてくる性根の腐った性格から、獲物を徹底的に虐め倒す苛烈な性格へ。目を見れば分かった。雪花へと鋭く視線を向け、丸い黄金色の瞳から光が失せていく。
フィーネは雪花の体に股がると、勢いをつけて腰を腹部に落とし馬乗りになった。衝撃と痛みで雪花は呻き声をあげることになるが、それも首へと這わされた両手によって絞められてしまう。
「ぁが──」
「苦しいか、雪花。だが貴様は先ほどこれを私にしようとしただろう? 飼い犬が飼い主を噛もうなどともっての他、己の愚行をその身に染み付けろ。そして悔やめ、二度と刃向かわないように私が躾てやる」
「く、くるじ、ぃ──」
呼吸が出来なくなり視界が白む。
酸素を据えなくなったことで酸欠を起こし、その顔色は首の動脈をしっかりと押さえられたことで赤くなっていく。既に意識はほとんど無かった。口から流れ出す唾液と泡がその異常さを表している。
殺されてしまうと薄れ行く意識の中、死に対する恐怖が蘇り小刻みに体が痙攣して、涙が溢れたときだった。
「──っぁッ!? ゲホッゲホッ!! ヒッ……!!」
いきなり空気が肺の中へと送り込まれ、体が驚き咳き込む。
視界も復活し溢れた涙を腕で拭いながら目蓋を開ければ、口角が上がり唇で弧を描いた悪魔的な表情のフィーネがいた。雪花の心に浮かび上がるのは恐怖、徹底的に虐めてやると、恐怖を刻み込んでやると、フィーネの意気込みが伝わってくる。
後退ろうとしても、乗りかかるフィーネの体が許してくれない。カーペットを掴み逃れようと必死に足掻くが、再び首を絞められ思考が掻き消されていった。
「殺されると思ったか? 言っただろう? 貴様は私のお気に入りだと。故に殺さん。代わりに、相応の仕置きは受けてもらうがな。さぁ雪花、苦しみを刻め、痛みを体に刻み込めッ! これが世界を繋ぐ唯一無二のものだッ!」
「ぇあッ──や、め……」
意識が、消える。思考が、止まる。
死の淵へと立たされ薄れ行く意識の向こう側に姉の姿が見えた時を見計らって、首を絞める手の力が緩まり肺へと酸素が送られていく。それを何度も繰り返し苦しめ愉悦を得るフィーネは、真性のサディストと言えるだろう。
苦しみと死の恐怖で頭が一杯になっていく一方で、雪花に残されたほんの僅かな好奇心がフィーネをここまで歪ませてしまったものは一体なのだろうかと疑問を持った。
自分の体が、意識が壊されている。頭に浮かび上がったたった一つの疑問が、思考を止めさせない。
「苦しいか、それとも怖いか?」
「し、ぬ──」
「殺さんと行っただろう。貴様の命、今は私の手の中にある。殺すも生かすも、全ては私のこの両手次第。自分の命一つ、貴様の手には無いと思い知れ」
……フィーネの仕置きは、朝日が昇るまで続いていた。
本筋が終わった時、しないフォギア的な日常パートは必要ですか? それとも不必要ですか?
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必要
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必要ない
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どちらでもいい