女体化した挙げ句、転生先は存在しないクリスの妹でした。 作:わらぶく
雪花の年齢:クリスの一個下→クリスと同じ年齢。
これにより少し描写の修正をしましたが、大筋に変更はありません。
ご迷惑をおかけし、申し訳ありませんでした。
背部から突き出る、禍々しい紫色の輝きを放つ水晶が連なって出来た鞭。頭部を隠す装甲のバイザーからはベージュの瞳がこちらを睨み付けている。水晶があしらわれた籠手。タイツのような白銀の衣を身に纏う布一枚の上半身に比べ、下半身の何と重装甲なことか。抱き着くように装着された腰部装甲には内から食い破るように紫色の水晶が突き出し、漏れでる光がまるで脈動するように明滅していた。脚部には連なる水晶が螺旋を描きながら装甲と化し、同じく不気味な明滅を繰り返している。
翼には見覚えがあった。二年前、相方である天羽奏を喪ったライブ、その裏で行われていた聖遺物起動実験『Project:N』。参考画像として事前に姿形は見せられていたことを覚えている。結果として実験は失敗に終わり、暴走したネフシュタンの鎧によって引き寄せられたノイズと観客の他者を顧みない身勝手な避難により万単位の死傷者を出す大惨事となった一連の事故。あれらがもし仮に、事故なのではなく人為的に引き起こされた事件ならばどうか? あり得ると翼は仮定する。あの事件で失われた聖遺物を、あろうことか一人の人間が所持し今こうして目の前で操ってみせている。ならばその裏には奪取に頭を捻った協力者が存在し、目の前の下手人は相応の期間を費やして訓練を行っていることだろう。
翼の頭の中で雪音雪花は、雪音クリスの妹ではなくあの事件の重要参考人としてカテゴライズされた。捕え、何としてでも情報を吐き出させなければならない。あの時引き起こされた事件の情報を。
「何故貴様がネフシュタンの鎧を持っているッ!?」
至って平静を保ち出そうとした言葉は、既に怒りで包まれ聞けたものではなかった。自身の理想とする冷静な剣はどこへ行ったのか。敵意を剥き出しに、目の前の敵に食って掛かろうと血走る目で睨み付けている。
そんな姿を、雪花は呆れるような冷たい目で眺めていた。舌打ちをしそうなほどまでに不機嫌な顔で、頭を掻きながら溜め息を吐く。その仕草はこの二年紆余曲折ありながらも連れ添ってきた雪音クリスのものと酷似していた。なるほど、妹であることは間違いないらしい。今更確信したところで、この怒りと敵意は納められるものではなかったが。
「感情任せの質問に答えるほど、オレもバカじゃありませんよ。口を割らせたいのなら手を動かしてはどうです? あなたのシンフォギア、天羽々斬の力を使って。それか応援として姉さんを呼びますか? もしくは立花響を?」
「……なるほど、こちらの情報は筒抜けということか。貴様の裏には余程の協力者が居るらしい。尚更この場から逃がすわけにはいかなくなった。この期に及んで、雪音の妹だから手加減されると思うな」
「ご冗談を、手加減なんてされると思っていません。むしろこのような問答あなたには必要ないでしょう? ……もしかして、雑音の前に消え果てた無双の一振りが亡き今、あの天羽々斬も既になまくらと腐れ落ちましたか?」
プチッと何かが切れた音、目の前が真っ赤になっていく。
そこにいるのは最早剣でも防人でもない、ただ激情に駆られる未熟な少女一人のみ。その言葉に観客たちを守ろうと散っていった奏さえもばかにされたような気がして、こめかみに青筋を浮かべながら吠えた。
「言わせておけばァ──ッ!!」
制服のシャツの中に隠している、赤い水晶の形をしたシンフォギアのペンダントを引っ張り出す。雪花追跡に当たり耳に付けていた小型の無線機からは二課のオペレーターたちの制止する声が小さなノイズ混じりに響いていたが、耳を貸すこと無く翼はその手に持つ天羽々斬を起動するため聖詠を歌い上げる。
瞬間、翼の体を白い五線譜模様の眩い光が包む。シンフォギアを展開にする際に発生するフォニックゲインで編み上げられた一つの保護フィールドだ。絶対的な防御力を誇る保護フィールドは、いくら完全聖遺物のネフシュタンの鎧の出力をもってしてでも鎧通すことは容易いことではないため、雪花は腰に手を当てながら見物するがごとく眺めている。
少し経ち、光の中から青い鎧──天羽々斬のシンフォギアを纏った翼が姿を現す。その手には街灯からの光を浴びて輝きを放つ一本の剣と化したアームドギアが握られ、切っ先を雪花の喉へと向けている。明確な殺意、その目に保護対象というものはない。ただ一人、討つべき敵として映っている。無線機能を搭載したヘッドギアからは制止の声が絶えず響き続けていた。怒りに任せ、敵を討ち払わんとする翼は、相変わらず聞く耳を持っていない。
「貴様をここから逃すものかッ!! 二年前の無念、屈辱を晴らすため討ち果たさせてもらうッ!!」
中段の構えから頭上へと刀を振り上げると同時に、一歩踏み込み脚部ユニットのスラスターを稼働させ推進力を生み出した翼は、雪花の懐へと一気に飛び込んだ。一刀の元に斬り払わんと振り下ろされた刀は、雪花がシールド代わりにした左の籠手で容易く受け止められてしまう。
流石は完全聖遺物と言ったものか。超人的な能力を引き出せると言ってもたかだか欠片程度のシンフォギアの出力とは比べ物にならず、押し切ろうにも力が全く足りない。あえなく振り払われた翼は一歩下がった後に再び間合いを詰め、力で勝てぬなら手数でと上下左右に斬り払っていく。
冷静さを失い精細な技巧を失った翼に、ネフシュタンの鎧を破るほどの能力は持ち合わせてはいなかった。ただがむしゃらに振るう剣に鋭さは無く、甘く入る振りは全ていなされてしまう。翼が雄叫びを上げながら振り下ろした渾身の一刀も、雪花が左足を一歩引き体の向きを横にすることで容易くかわされてしまう始末。
だが、雪花の鍛え上げられた戦闘技術により翼の攻撃が何度もいなされ隙を晒しているにも関わらず、翼の体に傷一つ付いてはいなかった。翼が避けている訳ではない。未だに雪花からの反撃がないのだ。じっとこちらを眺めて一挙手一投足の癖を見つけるような目に、血が上った翼の頭は挑発の意として感じ取っていた。
これまでその身を剣と鍛え続けてきた翼は決して、実力が低いということではない。鋭さを失えど剣は剣、斬り裂くための力はむしろ怒りによって増している。ただ、それ以上に向こうの方が速く動きの効率が良い。雪花は振るう一撃の癖をまるで知っているかのように、最低限の動きで翼の攻撃を避け続けている。
「何故反撃してこない……ッ! どこまでも、剣であるこの私を舐め腐るつもりかッ!」
「それこそご冗談、怒りに任せて短絡的な答えを出すなんて、剣と称される人間にあるまじき行いでは? ああそれとも、今はアーティストの風鳴翼でしたか? これは失礼、自身の感情を優先させ私利私欲のために剣を振るうなんてどうかと思いましたが、なるほどなるほど合点がいきました。防人らしくもないのは当たり前でしたね」
「貴様ッ! その喉元をかっ捌いてくれるッ!!」
『心を乱すな翼ッ!! 挑発に乗れば、それこそ敵の思う壺だッ!!』
無線から無数に聞こえてくる制止の声の中から一つ、一際目立つ風鳴弦十郎の声で僅かに現実へと引き戻される。握り締めた柄は手汗によって濡れ、不快感と共に滑りをもたらしていた。目の前の敵から一切目を離さずに、足を折り曲げいつでも横っ飛び出来るように備えながら手の平を地面へと着けた。汗ばむ手の平に砂を付け少しでも滑り止めなればと、手を地面の上でスライドさせる。
熱くなる頭に比べて、地面は嫌になるほど冷たかった。おかげで怒りにより乱される思考が一旦の落ち着きを見せつつあるものの、それでも肩が震えるほどには怒っている。
「ふぅ……ふぅ……ッ、すみません司令……、敵の言葉に乗せられてしまいました……」
『気を付けるんだ翼、こちらでも見た限り彼女の技量は相当な物だ。今、そちらへクリスくんと響くんを向かわせている。合流するまで翼からは仕掛けるな。あの様子ならば太刀筋を見極めに徹しているはずだ』
「ッ、立花もここへ連れてくるというのですか?」
ありえない、翼は心の中でそう断じる。
この一ヶ月間、同じ二課所属の装者として新たにガングニール装者となった立花響の姿を見続けてきたが、その見てくれはあまりにも未熟だった。覚悟も持たず、あるべきアームドギアはまだ形に出来ていない。同時期に装者となった雪音は、既にシンフォギアをその手にした日からアームドギアを手にしていたというのに。
そんな人間が、奏の何を引き継いでいるというのか。まともに戦えず逃げ続けている人間が、他人の為に戦って死んでいった奏の何を引き継いでいるというのか。翼はそれが気に入らなくて仕方がない。ガングニールの破片が心臓に突き刺さり融合でもしていなければ、間違いなくあの者からシンフォギアをこの手で奪い取っている。
『クリスくんのためにも、三人で連携し彼女の無力化に努めてくれ』
「……了承しかねます。雪音の援護も不必要です。このような者、私一人で仕留めてみせますッ!」
『待て翼──』
「はぁぁッ!!」
実力差は一連の手合いを経て、既に動き、相手に対する対策の差は歴然。弦十郎の言う通り、ここは間合いを開けて二人を待つのが最適解かもしれない。
しかし翼から見れば、一方は覚悟を持たない戦士のなり損ないであり、もう一方は妹が敵に回った可哀想な姉である。クリスの立場に同情するのはともかく、立花響には絶対に歩み寄れない。そう決断した翼の行動は早かった。その手に握るアームドギアを人の背丈三つ分という巨大な剣へと変形させ、その刃にエネルギーを纏わせた翼は、剣を振るい一擲に任せて大きな斬撃を放つ。
雪花へと向かう蒼き斬撃は半ば、連なる水晶の鞭によって叩き落とされ大きな爆発を起こし土煙を巻き上げた。翼の姿は土煙によって隠され雪花の視点からは完全に隠される中、轟とスラスターの駆動音が轟きアームドギアをその手に、翼が煙を突っ切って現れた。
狙いは一点、脳へと血液を送る役割を受け持つ人間の生命線となる頸動脈。そこさえこの剣で斬り裂いてしまえば、どれだけ強靭な人間であろうと出血多量で死に至る。なればこそ、その一点を狙い確実に仕留める──ッ!!
「せやァッ!!」
一閃。その一振は間違いなく雪花の首筋を捉える。無力化なんて言葉は頭から完全にすっぽ抜けた、頸動脈を狙う殺意の籠った一撃だ。手応えもある、背後では首から鮮血を噴き出す雪花の傾いていく体を見えている。殺ったと心の中で確信する。
だが、あるものがない。人間誰しも首筋をかっ捌かれ、ましてや痛みで呻くか叫ぶ。なればこそ、今は雪花の絶命の叫びが聞こえているはずだ。
それこそ、あわよくばその首を斬り飛ばすと意気込んだ一撃だったはずだ。ならば目の前で見えるものはなんだ? グチャリと嫌な音を立てながら、傷口が塞がっていく目の前の奴は人間なのか? あれは何なのだ?
左へと傾いていた体が、位置を変えて踏み締められた左足によってを平衡を取り戻す。脈動を繰り返す光は修復の際その輝きを増し、その不気味さがより漂う。
「……づッ、流石です。その名に違わず覚悟は今も変わらずといったところですか、死んだかと思いました。先程の言葉は訂正します。あなたはどうしようもなく防人ですよ。人の首を迷わず斬ってくるのですから。ただ、もう少し他人のためにその剣を振るってほしいものです」
斬り裂きパックリと開いていたはずの裂傷は、分を経たずとして完全修復を果たしていた。明らかに人間のそれではないことは、翼の目でも明らかだ。
「な、何故生きている? 貴様の首筋は切り裂いたはずだ。なのに、何故生き永らえているッ!? 本当に貴様は人間なのかッ!?」
「この見てくれで人間じゃなかったらオレは何なんですか」
「少なくとも私が知る人間は、貴様のように致命の一撃を受けて生き永らえるような治癒能力は持っていない……ッ」
刀の柄を今一度握り直し、雪花への警戒レベルを最高まで引き上げる。異常、まったくもって異常。その身に纏うネフシュタンの鎧が引き起こしていると仮定すれば、あの防御力と治癒能力は今の天羽々斬にとって大きな驚異となる。
であれば、考えるのはこの刃を鎧通すことは可能か否か。
あの欠片とはいえ超常の力を持つシンフォギアを容易く弾く防御力、先程のように頸動脈を斬り裂いても生き永らえる驚異的な治癒能力。心臓を一突きしようにも、あの身のこなしならば不意を突かずの、急所への攻撃は至難を極める。
(あの硬さ、そして治癒能力……。私の天羽々斬の刃が通るのは上半身、特に肌が露出している場所……。今の私と天羽々斬ではあの鎧に届かない……ッ!
私に残されたのは手段はたった一つ。隙を見出だし、一撃でもってあの鎧諸ともッ!!)
「なら、今度はこちらからいきますよッ!!」
「クッ!?」
「オラァッ!!」
これまで静観を決め込んでいた雪花の腰の鞭が動き出し、地面を這うようにして翼の元へと近寄りアームドギアに絡み付く。振り払おうと腕に力を込めた頃には、カラカラと激しい音を立てながら鞭が収縮し引き寄せられた雪花の足が目の前まで迫っていた。
柄を握る両手を上げて飛び蹴りを防いだもののその威力は想像以上、両手を襲う肉を潰されるような痛みに歯が砕けそうなほどに噛み締めながら、まともに受けるわけにはと思考した翼は体を捻って受け流す。シンフォギアには装者へのダメージを軽減するための能力が備わっていたが、それでもこれとなると何発も受けてはいられない。
翼は内出血し激痛が走る青くなった手の甲を見て額に冷や汗を流しながら再度構えを取るものの、腕が先に比べて上がらなかった。
「たった一撃だけでこれ程の威力……ッ! これが完全聖遺物のポテンシャルだと言うのッ!?」
「完全聖遺物の力だけと思ってくれるな。隙だらけのあなたに、例えばネフシュタンの鎧が無くてもオレが負けるわけがない。防人とはこの程度ですか? 」
「いけしゃあしゃあと吠えてくれるッ!! ならば聞くが良いッ!! 私の──防人の歌をッ!!」
『翼ッ!!』
無線から聞こえてくる制止の声を振り払って歌を紡ぐ。圧倒的な出力差によって防御力、攻撃力共に足りず長期戦まで縺れ込めば、間違いなく敗北を喫し辛酸を舐めることとなるだろう。それも敵が未だ現在の目の前で等と言うことになれば、その後自身の体がどうなるかなど想像するだけで身の毛がよだつ。
なればこそ、ここで相討ちにでも持ち込まなければならない。
Emustolronzen fine el baral zizzl
Gatrandis babel ziggurat edenal
Emustolronzen fine el zizzl
そうして残された術は一つだけ──絶唱だ。特定の歌詞を歌い上げることによって、シンフォギアの出力を現在の限界以上に引き上げて力と換える大技。もちろん、シンフォギアの保護能力を超えるエネルギーなど無償で扱えるわけもなく、エネルギー放出後は自身の体に壊滅的な被害を及ぼす、言わば諸刃の剣だ。しかし、その威力は絶大。目の前に敵を、あわよくば完全聖遺物共々破壊できるかもしれない。
最後の一節を歌いきり、周囲には活性化し可視化したフォニックゲインが紫色のオーラとなって翼を中心にドーム型に広がっていく。同時に翼の体には身を裂き、血液が全て沸騰するような焼かんばかりの痛みが襲いかかる。
かつての天羽奏のように、自身の体もここで果ててしまうかもしれない。その覚悟を持って見据えた雪花の顔は、あろうことか笑っていた。
翼は困惑する。シンフォギアのことを知っているのなら、絶唱についても知っているはず。命を懸け討ち果たさんとの意もこれまでのやり取りで分かっているはずだ。嫌な予感がする。もしかすると罠なのか。
だが、歌い上げたからには放つ他無い。
自身の手で輪を作り、鞘に見立てて放つ居合いの一刀。
それまで周囲に漂っていたフォニックゲインが翼の足裏へ集まり機動力と化す。自身の脚力とフォニックゲインを活かし、跳躍した翼は雪花の懐への潜り込んだ。
「露と、消え果てろ──ッ!!」
抜き放った一撃。辺りには大きな破壊音、そして鎧を壊し肉を断つ音が響き渡り、土煙によって隠されてしまう。
本筋が終わった時、しないフォギア的な日常パートは必要ですか? それとも不必要ですか?
-
必要
-
必要ない
-
どちらでもいい