女体化した挙げ句、転生先は存在しないクリスの妹でした。 作:わらぶく
本当にありがとうございます。
「クリスに双子の妹が居たら面白そうやな!」から始まった見切り発車のこの作品ですが、まさかここまで伸びるとは思っていませんでした。
本編は遅々としてではありますが、何とか進めておりこれからも雪花が歩く血生臭く鬱屈とした道の行く末を見届けていただければと思います。
今作は記念作品ですので、本編とは違った世界線であり関係性がありません。
◎世界線情報
・バルベルデで両親を失い捕虜になり、救出された後は姉妹仲良く音楽家となって世界中を回っている。
・ドイツのベルリン郊外に家を構えている。
・日本に二人の仮住居はあるが、両親の墓参りにしか泊まらない。
・欧州ではアルカノイズのテロが発生し、逃げ場のない飛行機は廃れ鉄道網が蜘蛛の巣のように張り巡らされている。
※注意事項
姉妹百合要素が多く含まれています。
「姉さん、ご飯が届いたよ」
欧州を跨ぐ豪華な寝台列車の個室は人類史近代を思わせるバロック調を基に艶やかの装飾で彩られ、贅沢にもダブルサイズまで用意されていた。
料理を載せたトレーを片手に扉を開けて入ってきた雪音雪花は、世界的にも有名なヴァイオリニストであった。ヴァイオリンを扱い大勢の観客の前に立つ彼女の四肢は若木のように華奢ですらりと伸びている。スレンダーで締まった体型ながらも、紅い縦セーターを押し上げ蠱惑的なカーブを描く胸の大きなふくらみ。腰丈ほどの長い銀髪を上品に一纏めにし、首のラインが見えやすいようになっている。どこか気だるげに開かれる目蓋からはベージュの瞳が覗き、未だだらしなくベッドの上で微睡みの中、体をくねらせる双子の姉の姿を捉えていた。
「んぁ……? もう朝なのか……?」
「そう、今はシュテッティンの中継駅。列車の朝食と、駅で適当に買ってきたからちゃんと食べてね」
「くぁぁぁ……」
大きなあくびをしながら体を起こす姉の姿を横目に、雪花はテーブルに敷かれた純白のクロスを軽く整え直し、その上にトレーを乗せる。
双子の姉、雪音クリスは亡き母の遺志を継ぐように声楽家の道を進んでいた。合唱や独唱はもちろんのこと、オペラ歌手としても名を馳せており本場イタリアでの演劇に招かれるほど。楽器さながらのハイトーンボイスもさることながら、妹に比べ小柄な体躯と反比例するように存在する体の豊かさは一部のファン層から危ない人気を博している。
だがそれも、やはり千を超える観客たちの前に踏み出してもたじろがぬ度胸と、確かな実力から来るものであった。
「雪花、おはよう」
「おはよう。昼にはベルリンに着く予定だから、あんまり寝すぎないようにね」
「んっ、大丈夫だって、あたしはもう二十歳だぞ? 雪花に言われなくてもあたし一人で管理してるって」
「なら早く起きて、早く食べなよ。二度寝ならその後でしても良いから」
「はいはい」
ムッと頬を膨らませて薄手の寝巻き姿のままベッドからイスへと向かうクリス。昨夜は、数年前に日本の私立リディアン学園での学生生活で交遊関係を持った友人たちとの会話が盛り上がり、向こうとの時差もあって夜が更けても続いていた。
今でもなお未だ少ない友人だ。長引くのは理解できるが、寝ないというのはこちらの職業上よろしくない。半ば雪花が割って入るように通話を消したのを覚えている。それもあって、少し機嫌が悪くなっているのかもしれない。
「あー……」
「ん?」
「あー……、ほら、あー……」
席に着くなり上半身を乗り出して口を大きく開けるクリス。
実家に居ようと列車に乗っていようと行う毎朝の恒例行事を求められている。カーテンで窓は締め切り、外には音が漏れない造りになっているとはいえ、やはり公共の場で行うのは気恥ずかしい。
朝食のライ麦パンをスープに浸し、雫が零れないようある程度切ってから姉の口へ放り込む。いつもと変わらない朝食なのに、どこか幸せそうに微笑むクリスの表情が目に焼き付いていた。
「楽しそうだね」
「楽しいからな。ほら、もう一口くれよ」
「はいはい」
パンを千切り、スープに浸して再びクリスの口へと放り込む。
半ば餌付けと化している朝食を進めていれば、列車の大きな汽笛が鳴らされガタンと一揺れした後に再び動き始める。窓の外はそれまでに駅の構内で雑多としていた利用客ではなく、流れていく小麦の海へと変化した。
窓ぶちに肘を乗せる形で窓の向こう側を眺める。
「はぁ、やっぱり食堂車から貰ってくるご飯は美味しい。」
ここ最近は仕事が立て込み休みが存在しないブラックな日程が続いていた。演奏と歌唱、二人揃っての仕事が多く、一緒に居られるとはいえ列車に揺られ続けるというのは、やはり疲れるというもの。
加えて、どうしても娯楽が限られる車内では、大きな音を出すわけにもいかず鬱憤が溜まってくる。トランプも、二人だけでずっとやれば飽きるもの。食事はあくまで生命維持活動の一つなのであって、娯楽でないことは心に止めておきたい。
そんな中でもっぱら暇潰しとなるのが、適当に選んだ色鉛筆で絵を描くことだった。朝食中にも関わらずテーブルの上にペンケースの乗せ、開けたスケッチブックに描いていく。姉には描いたヴァイオリンとケースを、「崩した積み木でも描いたのか?」と言われ傷付いたが、今なお続けている趣味の一つである。
「今度は何描いてんだ?」
「自分自身、自画像って名前の絵。前に崩した積み木とか言われたからね。……絶対に見返してやるから」
「ご、ごめん。まさかそこまで引きずられてるとは……」
「良いよ良いよ。画伯として大成してやる」
「音楽家で画伯にまでなったら忙しすぎて死んじまうっての。趣味までで収めとけって。それに、その……ほら、雪花ってビックリするぐらい絵が下手くそだろ?」
「むっ……言ってくれるね姉さん。その顔驚愕に染めてやる」
そう意気込み、鏡を便りに進めていたが──
「何でぇッ?」
「……これさ、日本の福笑いで見たことあるぞ」
数十分挑んで出来上がったのは怪物だった。両目の位置は草食動物かと思うほど離れて大きく、だが口は異常なまでにすぼめられ小さく描かれている。線すら真っ直ぐ描けず、鼻筋は酷く歪に曲がっていた。
「オレの顔はこんなんだった?」
「いやいやいやいや、もっと綺麗で整ってるから。これとは比べ物にならないから」
「……それ、喜んで良いのかな。画力に対して貶められている気がする……」
「諦めろって。やっぱ雪花はパパみたいにヴァイオリンに選ばれたんだよ。あたしもママみたいに歌頑張るからさ」
酷い出来の自画像をそのままに、スケッチブックを閉じてカバンの中に仕舞い込む。
本当に、本当につまらない移動の一日。
列車の中で出来る暇潰しは最早消え失せ、考える限りの遊びは無い。絵の出来に落ち込む雪花は、こんどは餌付けされる側となり姉から差し出されたパンを食べる。
「はぁ……。やっぱあたしには忙しくても雪花と居られる日が幸せだ……」
そんな姉のぼやきが聞こえてきて、俯かせていた顔を上げる。
「どうしたの、いきなり」
「ただ、今の忙しい日常が幸せだって話だよ。あちこち走り回ることにはなるけど、ずっと雪花と居られるし話も出来る。あたしにはそれだけあれば十分なんだ……」
「止めて止めて、懐かしむように話し始めたら何か嫌なことが起きそうだから止めて。そう言うのを、フラグって言うんだよ」
食べさせ、食べさせられて。
自分の料理には決して口にせず、家族の料理を食べさせ合っている最中にクリスの口から漏れ出た、感嘆や郷愁と言った感情を多分に含む言葉の数々。去年に齢二十歳となったばかり、そして両親を喪って今年で十三回忌。色々な節目を迎えたことを、クリスは改めて再確認しまた話し出す。
「ということで、これを雪花にプレゼント」
「いきなり怖ぁ」
机の下から取り出されたのは、白の紙と赤のリボンで包装されたB5サイズのプレゼント。ドッキリでは? と訝しみながらも手に取りリボンをほどいて取り出したのは、一冊の大きな日記帳だった。今時珍しい革で作られた表紙と、重々しい錠前で作られた高級そうな一冊。
「日記?」
「ほら、雪花って本とか新聞読んでるから、あたしよりも語彙力あるだろ? だから、これなら先あたしの代わりに日記を付けてほしいんだ。良いか?」
「姉さんも十分賢いのに。でも、頼まれたからにはやるよ。オレたちの日記だから、これからのこと事細かに書かないとなぁ♪」
「待てッ、何を書くつもり──」
「そりゃもちろん、夜更かししたりとか、姉さんが舞台の上で演技を間違えそうになったりとか、朝ちょっとだらしなくなってきたんじゃないかとかぁ♪」
「んなぁ!?」
「姉さんのこと洗いざらい書くからね♪ そして、お父さんとお母さんにもちゃんと分かるようにぃ♪」
「うがぁー!」
狭い個室の中で騒々しく暴れるでもなく、それでいて的確に捕まえるように、クリスは雪花を追いかける。両腕を広げて抱き締めるように動くが、その間を縫ってぬるりぬるりと回避する雪花。繰り広げられるのはちょっとしたどたばた劇。どこで覚えたのか、くねりくねりと捉えられないウィットに富んだ身のこなしは足音もせず、クリスの追跡を巧みに回避する。
朝の列車内で行われる、姉妹の子供のような戯れ。開けたカーテンからは朝日が二人を照らし出す。
決着としてはベッドまで雪花を追い込んだクリスが、逃げようとする雪花の手首を掴んでベッドの上に押し倒して終わった。捲り上がったセーターの裾が捲り上がり、細いウエストと縦細のシャープなヘソが露になる。
「はぁ……はぁ……やっと捕まえた!」
「はぁ……はぁ……捕まっちゃった」
ベッドの上に倒れた雪花の体の上へ馬乗りになり、手首を押さえつける様はまさに犯罪者。それでもあっさりと迎えた結末に姉妹が目線を重ねると、プスッと息を漏らしたクリスを皮切りに両者とも笑い声を上げた。
「姉さん、これ周りから見たら事案だよ?」
「なら、責任取れば良いのか? あたしは、別に血が繋がっていようと、顔が同じだろうと構わないぞ。雪花だからな」
「もぅ、恥ずかしい冗談を平気で言うんだから」
雪花は冗談だと払ったもののクリスの表情は真剣そのもの。
先の言葉のせいで見つめ合うのが気恥ずかしくなり、目を合わせられないでいる。
「……その、どこまで本気?」
「一から百まで。あたしはつまらない嘘なんて絶対に吐かない」
親を喪い、支え合うように生きていたからか、いつ如何なる時も雪花はクリスを思い、そしてまた雪花もクリスに思われている。その二人の関係は、家族愛なんて三文字で伝えられるほどの簡単なものではなくなっていた。
もっと、感情の奥深く。人によっては忌避感を覚えるほどの、深くドロッとしたナニカ。言葉にするには憚られるナニカが、姉妹の間にさながら運命の赤い糸のように架けられていた。
とは言え、血が繋がった存在であることに違いはない。
親族であるにも関わらず、その一線を超えてしまっても良いのかどうか。目の前では期待に満ちた瞳で、一心に見つめているクリスの姿がある。
「答えてくれよ、雪花」
この感情に身を委ねてしまっても良いのだろうか。捕虜であった時も、
「……好きだよ、姉さん」
震える声で雪花がそう言った時、それまで手首を掴んでいたクリスはその体を雪花へと押し付けた。鼻がくっつく程の距離。互いの胸がぶつかり形を歪む。緊張で跳ねる鼓動が共鳴し合って、この時ばかりは互いが溶けて混ざり合ったんじゃないか、なんて錯覚した。
けれど目の前に迫るクリスの顔は、雪花の少し戸惑う声を無視し更に近寄ってきて。
──ちゅっ……。
唇同士が、重なった。
唇を中心にして、一気に体が火照っていく。
「……これで、雪花のちゃんとした初めてはあたしのものだ」
囁くように呟かれたその言葉が、鼓膜に酷く焼き付いていた。
本筋が終わった時、しないフォギア的な日常パートは必要ですか? それとも不必要ですか?
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必要
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必要ない
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どちらでもいい