女体化した挙げ句、転生先は存在しないクリスの妹でした。   作:わらぶく

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遅れてすみません……。
ビックリするぐらいに難産でした……。


第八話 後半

「やぁッ!!」

 

 声を上げ歌を紡ぎ、開戦の口火を切ったのは立花響だった。

 アスファルトの硬い地面に亀裂が入るほどの力強い踏み込み。シンフォギアという超常科学のシステムが産み出すエネルギーは、人知を容易く超えるものだ。瞬きをするほんの僅かな時間、それだけで数メートルは離れていた雪花の元へと辿り着くとが出来る。

 到達と同時に後ろへ引き絞っていた右腕を打ち放し、初手より全身全霊の掌底を放つ。胸の急所を狙った一撃だ。それを易々と通してもらえるわけもなく、放つ先には右腕にはめられた紫光を輝かせる水晶の籠手が立ちはだかる。

 

 だが、それこそが響の狙いだった。

 

「ブチ抜けぇぇッ!」

 

「──ッ!?」

 

 放たれた一撃は、金城鉄壁であるネフシュタンの水晶を見事に砕いた。周囲に飛び散る破片、それまで無を貫いていた雪花の表情が吃驚に歪む。損傷のため光を失う籠手の水晶だったが、聞かされていた自己修復能力によって元の形へと戻った。

 とはいえ、これは二課の装者にとって大きな収穫だ。

 響が産み出す爆発力を活かせば、堅牢である鎧に打ち勝つことが出来る可能性が産まれた。今まで無かった攻略の糸口が綻びを見せ、光を射し始めたのだ。これ程、希望の産まれる情報もあろうか。

 

「やったッ! 壊せたッ!」

 

「ク……ッ!」

 

「逃がすかよッ!!」

 

 ならば、間合いに入り距離を詰め続ける他あるまい。

 ステップバックで距離を取ろうとする雪花の足元に、後衛であるクリスのクロスボウを使った射撃。放たれる一矢に鎧を壊すほどの力は無いが、足に当たれば軸をぶらす衝撃力はある。当たらずとも足運びの邪魔にと放たれたものだ。背部からの鞭で防がれるものの、足止めには十分。歯を食い縛り両手に力を込めた響は再び突撃、距離を詰めていく。

 

 ガツンッと金属同士がぶつかる硬い破裂音を耳にしたと同時に、響の視界が下へとブレた。歌を途切れさせながらも足元へと目を向ければ地面を走る一本のパイプ管に、シンフォギアの左脚部ユニットに生えるヒールが引っ掛かっていた。足を出し直しバランスを保つものの、そこを狙って鞭が空気を切り裂き飛んできた。

 回避のため慌てて跳躍。無理な力の入り方に足が悲鳴を上げている。幸い痛みは感じなかったものの、間抜けた飛び方に加えて跳躍距離を稼ぎすぎたせいで、今度は着地のタイミングを狩られる危険性が高まってしまう。

 

「しまっ──!!」

 

「させるかッ!」

 

 もちろんその様な隙を敵が見逃してくれるわけがなかったが、クリスがアームドギアを変形させ、ガトリング砲での牽制を行ってくれたおかげで無事地面に着地することが出来た。

 

「足元、注意しとけよッ!」

 

「ありがとうクリスちゃんッ! ヒールが邪魔だッ!!」

 

 辛い言葉を言いながらもしっかりと援護してくれるクリスに感謝を述べながら、地面を使って両足のヒールを踏み砕いた。

 体勢を整えて呼吸を一定に保ちながら、改めて歌を紡ぎシンフォギアと共鳴させてフォニックゲインを高めていく。初々しさは未だ残るものの、信念を込めた歌声は力強い。それこそ、シンフォギアの出力が、部分的に完全聖遺物を上回ってしまうほどには。

 

 雪花が真上から振り下ろした二本の鞭を、響はあろうことか両手で掴み取った。すぐに振り払おうと雪花の抵抗がやってきたが、響はがっちりと掴んで離さない。腰を据え一本背負いの要領で一気に引き上げる。

 それまで地を這っていた雪花の体が宙に浮いた。ネフシュタンとの力比べに響は打ち勝っていた。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉ──ッ!!」

 

「シンフォギアが完全聖遺物に──」

 

「どぉぉりゃぁあああッ!!」

 

 正に、見事な背負い投げであった。

 アーチ状の軌道を描き、一度高くまで昇った雪花の体が一気に地面へ落ちていくが、しっかりと足裏で着地し地面に大きな陥没を作り上げていた。

 

「これが、融合症例……聞かされていた以上の出力──」

 

「あのバカだけだと思ってるなら大間違いだッ! あたしの弾は数だけじゃねぇッ!!」

 

「く……ッ!」

 

 一度、敵の流れを崩してしまえば戦況の掌握は難しいものではない。一心不乱に拳を振り鎧を壊そうと画策する響の動きは単調ではあるものの、何より素早かった。息を吐く間も与えさせず攻撃し、砕けても修復を遂げる鎧へ幾度と亀裂を入れた。

 加えて、対ネフシュタン戦略が通用してるのもかなり大きい。完全聖遺物の圧倒的な出力差を覆し撃破する方法、それは至って単純。真っ直ぐ行ってぶつかり、出力差を上回らん気迫で追い詰める戦法。最早戦法というのも烏滸がましいバカ正直な物だが、目の前の敵は想定していないとでも言うように眉をしかめて狼狽しているのが、響からも見て取れる。

 そして、これを考えたのは他の誰でもない、雪音クリスだ。

 

 響が真正面からぶん殴り鎧をまた一段と大きく殴り砕き、吹き飛ばされた雪花は足を地面に突き刺して二本の大きな線を刻みながら勢いを殺していく。その時、雪花が背中に取り付けていた杖を取り出し緑の光を煌めかせた。

 吐き出された緑色の光線が地面をなぞれば、出てくるのはノイズ。二足歩行型をメインにして分厚い壁を作り上げていたが、クリスのガトリングにかかれば布切れも同然。回転する銃口から雨のように放たれた弾丸は、一匹残らず灰に変えていく。

 

「今更ノイズ程度で足を止められると思うなッ! バカ、突っ込んでいけぇッ!!」

 

「だあああああぁぁぁぁッ!!」

 

 雄たけびをあげながら、響は視界を濁らせる灰の霧に突貫。

 突き破って、目の前に現れる雪花に響が全力の拳を振るえば、同じく雪花から繰り出される拳に真正面からかち合った。大きな金属の破裂音。競り合う両者の拳はどちらも頑として譲らず、完全な膠着状態になっていた。

 響の目の前では、歯を食い縛って踏ん張っている雪花の表情(かお)があった。

 

 その時、響は確信する。目の前のこの子も、治療室で眠る翼のように何か信念を持って戦っているのだと。

 一か月前の自身のような迷いのない、真っすぐなベージュの瞳。吊り上がった目尻はクリスと驚くほどに一緒で、身長が人よりも大きくなければ本当に間違えてしまいそうなほどだ。本当に双子なのだということを如実に表している。

 

「名前は雪花、で良いんだよね……ッ」

 

「……」

 

「クリスちゃんは、君の帰りを待ってるッ! 私にも何かできるのなら、助けてあげたい。だから、教えてッ! どうやったら、君を助けられるかな?」

 

 助けたい、響の心の中にあるのはその一心だった。

 本当ならば手を握るのではなく、開いて繋ぎたい。人間が言葉というものを持っているのなら、話し合えば無駄な争いをなくせるはず。それが過去二年間、人の影を知った立花響という人間を形作る思想信条だった。

 

 翼には甘いと吐き捨てられ、クリスからも一時期能天気の世迷言だと決めつけられた。

 それでも手を繋げるのならば、どんな人間だって──

 

「私は、君を助けたいッ!!」

 

 言葉は力だと、桜井了子から教わった。

 なら通じるまで言葉を投げかけ続ければいい。

 

「どうだ雪花ッ! まさかバカ正直に真っ正面から行くなんて思ってもみなかっただろッ!! 昔から考えて動くことが多い雪花だからなッ、ただがむしゃらに追われるのは流石に想定外のはずだッ!」

 

「ッ」

 

「今投降するなら軽い説教で済ませてやる。罰も、これまでの痛みもッ! あたしが全部一緒に背負ってやるッ! 先輩にだって一緒に頭下げて謝ろうッ! だから帰ってこい雪花ッ!」

 

 響の説得に乗る形で、クリスも声を投げかけていく。

 だが、雪花の視線はこちらへと向けられてはいなかった。口角を上げ明後日の方向を見る雪花に響は警戒心を引き上げる。視線の先に何があるのかと響が目をそちらへと向ければ、目に映るのはガタガタと音を立てながら跳ねているアタッシュケースの姿。

 「えッ!?」と驚きの声を響が上げれば、それにつられてクリスも意識をアタッシュケースへと向けてしまう。蓋を堅く閉じていたはずのロックがあろうことかパキンと真っ二つに壊れ、大きく口を開けるケースからはデュランダルが浮遊している。

 

「ク、クリスちゃんッ! あれッ! あれッ!」

 

「あたしにも見えてる。どうなってやがんだ、ありゃぁ……ッ!」

 

「とりあえず確保なんだよねッ! クリスちゃんお願いッ、私が取ってくるから援護してッ!」

 

「ああ、雪花の相手ならあたしに任せろッ!」

 

 何の躊躇いもなく、敵前で背をむけディランダルへと駆け出す響を、クリスはガトリングでカバーに入った。

 

 響は駆ける。

 今回の輸送作戦の要は完全聖遺物であるデュランダルの無事。憧れ追いかけ続けた翼の隣に並び立つために、今は私情を殺してでもデュランダルを確保しなければならない。

 今の響がそこまでする理由は意地と、誰かのために役立ちたいという自己犠牲の精神のみ。二十、十と距離を縮めて煌々と輝きを放ちながら宙に浮かぶデュランダルへと迫っていく。

 

 デュランダルは剣だ。欠けた切っ先を空へと向け、持ち主はどこかと言わんばかりに輝きを明滅させている。

 これなら確実に届く──ッ!

 

 足に力を込めて跳躍、腕を伸ばして響は柄に触れた。

 否、触れてしまった。

 デュランダルは不滅の刃という意味が示す通り、一度覚醒すれば無尽蔵ともいえる膨大なエネルギーを生成する。その質量を受け止められる器を、残念ながら響は持っていない。

 刹那、それまで見えていた青空や建ち並ぶ響の視界が真っ暗になった。聞こえていたはずの戦闘音も耳に入らなくなり、腕をデュランダルへと突き出すような体勢になったまま体が固まってしまっていた。

 

 体の中に注がれていく膨大な力の奔流が、意識を呑み込み蝕んでいく。

 自分が全て塗り潰されていく恐怖に柄を離そうとするも、ピッタリと張り付いて剥がれない。じわりじわりと消えていく意識。目の前がゆっくりと黒く染まっていく。

 

 人を助けると決めた決意が消えていく。

 翼に対する憧れが消えていく。

 未来とクリスと過ごした特訓の一か月が消えていく。

 響を響たらしめる全てが、ガラガラと崩れ去っていく。

 

 廃人となった父が、心を病んだ母が、入院してしまった祖母の姿が。

 全てが頭の中から消えて、更地に変えられていく。

 

「い、嫌だッ! 消えたくないッ! 私は人を、未来を守りたいのに──」

 

 意識が消え、空っぽになった器に注がれていく破戒衝動。

 響の献身的な自己犠牲の精神の代わりに顔を覗かせたのは、壊したい、潰したい、殺したいと渇望するドス黒い影だった。

 どうして私たちがあんな目に遭わなければいけなかったんだという、嘆き。

 自分に向けられる「死んでしまえ」との暴言に、家族に向けられる偽善の矛先に、どうして私たちなんだと響は泣き叫んでいた。

 そして、ぷっつりと何かが切れてしまう音がした。

 

 響の体が黒く染まる。決壊した感情をどうして収めようかと赤く輝く目を揺らつかせば、視界に入って来る二つの人影が映った。

 居るじゃないか、壊せるものが目の前に。堪らずニヤつく口角を響は隠さず、そちらへと胸に抱く破戒衝動をぶつけてやろうとその手に握る剣を空高く掲げ、デュランダルを覚醒させた。

 

 空へと屹立する、デュランダルの黄金の輝き。その実、膨大なエネルギーによって万物を垣根無く消し去ってしまう圧倒的な暴力だ。

 

「オオオオオオオオォォォォォォォッ!!」

 

 雄たけびと共に振り下ろされた一振りは、周囲に破壊しか齎さなかった。

本筋が終わった時、しないフォギア的な日常パートは必要ですか? それとも不必要ですか?

  • 必要
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  • どちらでもいい
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