女体化した挙げ句、転生先は存在しないクリスの妹でした。   作:わらぶく

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重ね重ね、遅れてすみません。
言い訳になりますが、最早モチベーションが急降下、この作品どころか創作という行為が出来ないほどまでに落ち込んでございます。
今年までには一期を終わらせたいのですね……(諦)


第十話 前半

「……っ! ぐぅっ──!!」

 

 両足に走る鋭い痛みと強い痺れに抗いながら風鳴翼は今、不自由な足を松葉杖で補助しながら病院の廊下を歩き続いていた。月を跨ぐ長い眠りを経た体は衰弱し、以前のように歌って踊れる状態ではない。その事を目覚めた直後に知り、心の中へ真っ先に思い浮かんだのは自信に対する憤り。そして、後悔だ。

 まだまだ未熟だったと言わざるを得ない。心の奥に触れられるような挑発に乗り、今までのことを、そしてこれからの事を失念して絶唱を口にしてしまった。何たる体たらく、何たる無様。二年前に亡くしてしまった天羽奏という片翼(相方)に、これでは見せる顔が無いじゃないか。

 馬鹿な私と自嘲する翼の言葉は、しんと静まり返った病院の中に溶けていく。

 

「──ぁ」

 

 少し、ほんの少し気が抜けた時だった。接地させた杖の角度が悪く杖の先端に設えられた滑り止めが意味をなさない。つるりと、上半身が前のめりになって倒れていく。以前の体調なら右足を一歩踏み出して済む話だが、今はそうではない。痺れる足で踏ん張るなど土台無理な話。近付く冷たい無機質な床、頭を打ち入院も延長可と傍観に至った時、突然として腹部にちょっとした衝撃が走る。少し圧迫され「ぅっ」と声を漏らしてしまうが痛みはない。床への接近も、止まっている。

 乱れる思考を諫めるように、背後から聞き慣れた声がかけられた。

 

「何してんだよあんた」

 

「その声は……雪音?」

 

 声の主は雪音クリスだった。

 翼がそちらへと顔を向けると、クリスはむくれた表情をしていた。

 

「長いこと寝て仲間の声も忘れたってのか? ボケるのなら寝起きだけにしとけよ。お前が病室から勝手に消えたって看護婦が慌ててたんだぞ」

 

「すまない。だが、防人である私が横になっているだけでは……」

 

「バーカ、あたしらシンフォギア装者の中で、あんたが一番の戦力で先輩なんだ。そんな人間が無茶ばっかしてどうすんだよ。入院期間伸ばすつもりか?」

 

「そんなつもりは……」

 

「あんたにそんなつもりが無くても、あたしらの目にはそう見えんだよ。アーティストもやってんなら周りからの目も気にしろっての。とにかく起こすぞ、立てるか?」

 

「あ、あぁ、何とか」

 

 クリスの助けを借り、今一度松葉杖の角度を調整してから翼はゆっくりと立ち上がった。

 これほどまでに後輩の前で晒す醜態もないだろう。見せる顔が無いとはこの事か。

 

「怪我はまだ完全に治ってないんだろ。無茶して入院期間が伸びる方がバカらしいと思わないか?」

 

「雪音の、言う通りだ」

 

「分かってんのに努力出来ないのは間抜けの証だぞ」

 

「……すまない」

 

 醜態を晒し続けた翼が、助けてくれたクリスに帰す言葉は謝罪以外に持ち合わせてはいなかった。

 ったく、とクリスは軽い悪態を吐きながらも翼が立ち上がれるよう、脇の下に手を通して補助に徹した。

 

「んで、無理した理由でも聞かせてもらおうか?」

 

「うっ……私は今までずっと寝てたから、その分をと……」

 

「だからって松葉杖つきながら病院内徘徊すんのはどうかと思うぞ。あの立花響(バカ)でもそんなことしねえよ。むしろ──ほら、外見てみろよ」

 

 鋭い目線を向けてくるクリスに従って、翼は窓の外に目を向ける。

 大きく開けたグラウンド、そこに設えられた陸上トラックを走る二人の少女。翼から見て右側、癖の付いた橙色の髪を揺らしながら肩を荒く揺らす少女は、見まごう事なき立花響の姿だ。

 以前はあれほど嫌い視界に入れることさえ辟易していたが、雪花の前に完敗し凝り固まっていた矜持と意地を破壊された結果、今では怒りが沸くどころから自身に対する憐みすら覚えるほど。

 

 あれだけ拒絶して、今更どのような顔をして会えと言うのか。

 無様な姿を晒して、今更どのように恥を漱げと言うのか。

 

 今この時が、翼の弱さを映し出している一番の場面だった。

 

「あんたが散々嫌った奴だよ。覚悟が無いからって突き放してただろ」

 

「そんなこと、突き放していた私がよく知っている……。自身が未熟なことを立場に押し付け、ましてや人々を守るはずの剣を向けてしまった。いくら心が落ち着かず荒れていたからと言って、切っ先を向けた罪から逃れられる訳じゃない。

 だが、私なんかがどうこうと言い訳をしたところで、立花は私を許してくれるはずも……」

 

「グチグチと言葉を並べ立ててるところ悪いが、あたしはあんたがあのバカを知らねぇってことと、相当な意気地無しだってことはよぉく分かった」

 

「な──」

 

 予想だにしていなかったクリスからの辛辣な言葉に、翼は驚愕を隠せない。

 

「謝ることぐらい出来ないで何が人を守るだ。防人なんて言葉だけの張りぼてになっちまうぞ」

 

「……」

 

「はぁ……とにかく、」

 

 今の翼に、返す言葉などあるはずもなかった。

 

 

 

 

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 日が傾き西の空がゆっくりと茜色に染め上げられていく夕刻時は、リディアン音楽院近くに存在する商店街が人で溢れ返る頃合い。

 雪花は商店街に出来た人の川の流れに従うように、目的地となる立花響の下校路へと向かっていた。出立前にフィーネから聞かされた情報によれば、ここを抜けた先の存在する公園をいつも使っているとのこと。その情報が嘘ではないとの確信はないものの、自身の熱意は伝えられたのだろうと信じて雪花は向かう。

 その心境は決して落ち着いたものではない。

 言い知れぬ胸騒ぎに加え、刻一刻足早に変化し続ける周囲の状況。はっきりと言って、フル回転し続ける脳がいよいよ限界を迎えようとしていた。ぼやくように呟いた「姉さん大丈夫かな」という言葉が、幸か不幸か目的とする立花響の友人に聞かれることとなるとは露知らず。

 

「……クリス、ちゃん?」

 

 背後から聞こえたのは、ちりんと微かに鈴が鳴るような弱々しい少女の声だ。今までに聞いたことのない声があろうことか姉の名前を呼んでいる、しかも雪花に向かって。口をそちらへ向けずにはいられない出来事に、雪花は声の主を確かめるため振り向かずにはいられない。

 踵を返し、銀髪を揺らしながら雪花は振り返った。

 背後に居たのは頭に着けた大きな白のリボンが特徴的な、そこはかとなく儚げな雰囲気を漂わせている黒髪の少女。深緑色の瞳を潤ませ、揺らし、今にも泣きだしてそうな彼女は雪花の顔を改めて視認すると、気まずそうに口籠り目線を右へ左へ彷徨させていた。

 

 制服からしてリディアンの生徒であることは間違いない。

 であれば以前の講演会で顔をバレているし、姉である雪音クリスとの関係性は周知の事実。誤魔化すことも、嘘を吐く必要もないだろう。ともあれまず応答せずには始まらないと、雪花は努めて平静を保ち声を出した。

 

「こんにちは。リディアンの人ですか」

 

「──もしかして、雪花、さん?」

 

「はい。雪音雪花、以前リディアンでヴァイオリンの演奏をさせていただいた者です。こんなところでお会いするなんて、奇遇ですね。では」

 

「あっ……」

 

 完璧な表情、完璧な応対、完璧な別れ。

 現状出来うる最高の態度で臨み、不自然さの欠片の無いと雪花は自負しその場を後を去ろうとする。今は立花響の下校路を潜み待ち伏せるだけ。そこに不安材料なんてものはない。

 また話しかけられなければ、だったが。

 

「ま、待ってください」

 

 自由だった右手を、少女にギュッと力強く握り締められていた。

 防衛本能から思わず振り払ってしまいそうになるものの、あまりの力強さに少女が怯むことはない。そして雪花はその様子に驚きながらも、見つめてくる少女の力強い目に怯むしかない。

 一瞬立ち止まり、逃れる術を失ってしまったのが詰みだったのだろう。

 どうしようもないと諦め、雪花は腰を据える。

 

「あの、どうかしました?」

 

「少し、お話しませんか……? クリスちゃんの妹さん、ですよね」

 

 鋭い眼差しを受けて、雪花は思わず首を振ってしまっていた。

 

「私、小日向未来って言います」

 

 少女──小日向未来のお誘いを、雪花は承諾した。

本筋が終わった時、しないフォギア的な日常パートは必要ですか? それとも不必要ですか?

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