女体化した挙げ句、転生先は存在しないクリスの妹でした。 作:わらぶく
今日:08月28日
……?
はい、五か月空けての投稿となり、非常に遅れてしまい本当に申し訳ありません。
せめて終わるとしても一期分のストーリーは上げ切りたいです。
「これを、どうぞ」
「すみません、奢ってもらってしまい」
未来から差し出された冷たい缶ジュースを受け取り、少し乾きを覚え始めていた喉を潤した。
一息ついて、雪花は改めて周囲を見渡す。
あの後、切実な表情をした未来によって連れてこられたのは、都会の中で青々と豊かな自然を残した大きな公園だった。道中に聞いたところによれば、公園を横断するように伸びるこの道は彼女とその友達が下校時によく使う、商店街までのショートカットだとか。人通りも、街灯も少ないこの道をクリスが使うのかと考えると、雪花は気が気でも居られなくなる。
少しばかり辺りを見回して雪花は、未来に問いかけた。
「この道は夜とかも使ってるんです?」
「いえ、いつもは、その、お昼にしか使ったことはありません。寮の門限も午後七時までで、あんまり夜間外出は出来ない規則になってますから」
「なら良かった」
ふぅ、と大きく息を吐いて安堵の気持ちを分かりやすく表現すると、未来もそれにつられて堅めだった表情が綻んだ。やはりというか、彼女が親しくしている姉クリスと同じ顔をした相手に畏まって話すというのは違和感が大きいのだろう。その気持ちは分からないでもない。
空気の緊張を少しでも解きほぐすため、雪花は話す。
「そう言えば、私の演奏どうでした。演奏会という形で人前での演奏は何度かあったのですが、瞳を輝かせる学生たちからの向けられた視線は初めてだったので妙な緊張がありませて。もし失敗してた箇所があったら教えていただけると幸いです」
「えっ、あっ私が指摘できることなんて何にもなかったです。私と一歳差なのに、堂々と演奏してて凄いなって……」
「あはは、気を使わせてしまいました」
これで少し軽くなっただろうか。
軽い雑談で気の持ちようが楽になってくれればそれで良し。ならなくても、雪花に対する印象が柔らかいものになってくれれば口も軽くなってくれるだろう。元々ある雪音クリスの親族と言うアドバンテージも考慮すれば、話しやすくなって結果彼女からの拘束時間が短くなる。
後は目を合わせすぎないようにしていれば、話してくれるはずだ。
「その、クリスちゃんについて、お話があります」
(来た)
クリスと言う単語に引っ張られて雪花が意識を未来へと向ければ、そこには口をキュッと一文字に結んで眉間に皺を寄せている未来の姿。誰が見ても真剣なその姿に、この場から逃れられるような雰囲気でないことを悟る。
「クリスちゃんの元へ戻ってあげてくれませんか。話はクリスちゃんの方から聞きました。日本にやってきた日から離れ離れになってしまったことを」
「離れ離れ、ね……」
「こうして私たちが通うリディアン近くに来たってことは、クリスちゃんの元に帰るためなんですよね。今はお仕事が大変で帰れないかもしれません。でも、クリスちゃんは雪花さんが帰ってくるのをずっと待ってるんです! お願いします!」
座りながらもこちらへ頭を下げる未来の姿を見て、雪花の胸の奥には沸々と罪悪感が沸き起こる。それも、話の内容が姉のことならばなおのこと。
だが、ここにはフィーネの監視が行き届く場所だ。現に、電灯近くに併設された古い監視カメラがこちらへとレンズを向け、おかしな行動をしていないか一挙手一投足余すところなく見られている。公園の監視カメラ如きにマイクまでは付いていないだろうが、あまり気を抜いた事を言うのは憚られる。
「……?」
どう答えようかと頭を捻れば、ふと肌を刺すようなチクリとした不快感に襲われた。そして同時に来る視線と胸騒ぎ。雪花の中に存在する野生的勘が、これまでに無いほどの警鐘を打ち鳴らしている。どこからだと周囲を見回すが、ここは自然溢れる公園のど真ん中。まさか不審者でも現れたのかと警戒を最大限に引き上げ、その場に立ち上がり改めて周囲を見回した。
隣では未来が不思議そうに見ていたが、彼女に構っている暇はない。はっきりと言って、異常だ。
「雪花さん?」
「未来さん、突然ですみませんが今から走れますか?」
「へ? は、はい。走れますけど」
「良かった、なら今すぐここから──」
──パシュッ、パシュパシュッ。
そう決断した時には、既に遅かったのだろう。
そして、感じていた視線と胸騒ぎは決して間違っていなかったことを、体が弾かれるように後方へと宙を舞い視界が空へと向けられた時に思い知らされた。驚きのあまり滞空時間が数分にも感じられる。だがそれも終わりが来て、雪花の体は地面へと叩きつけられた。
「ぁがぁっ……!!」
銃撃だ。
右腕に二発、右肩へ一発。偶然ではない、正確無比な射撃は獲物を殺害するのではなく、無力化するための攻撃。先ほどまでこちらを見ていた監視カメラも同時に破壊されている。
撃ち抜かれた右腕は既に使い物にならなくなり、出来た三つの銃創からはどくどくと血液が溢れ出す。これ幸いと弾丸は貫通し異物は残ってないが、早急な止血処置をしなければ低血圧からの意識不明を誘発し公園のど真ん中で倒れかねない。それも銃撃してきた奴らの目の前でだ。殺してくださいと言ってるのと変わらない。
そしてもう一つの懸念点は未来だ。
「あ、あぁ……」
「ぁぐぅっ……!! 未来さん……っ、こっち!!」
泣きそうで、吐き出しそうな痛みを堪えて、その場を立った雪花は腰を抜かしてしまった未来の手を引き、最寄りの自販機へと身を隠す。
出血口を塞ごうにも右腕を使えなくさせられ、三つもある銃創なんてものは雪花の左腕では圧倒的に足りない。痛みのあまりに脂汗が出て、手が震える。なるほど、これが悪人の末路かと今の危機的状況に何故か得心がいくが、頭を振って弱音を振り払った。
「はぁ……はぁ……っ! うっ、ぐぅぁぁ……!! タオルっ……! タオルありますか……っ!」
「あっ……あっ……」
「未来さん……っ!」
「あっ、ありっ、あります……っ!!」
無理もないだろう。銃創から溢れ衣服を染め上げるほどの出血なんて、一般的な学生には見る機会などあるわけがない。あってたまるか。
だが、雪花も今ここで死ぬつもりはない。タオルを使い未来の助力も借りて、タオルで腕を思いきり締め付けながら簡易の応急処置を行う。燃えるような痛みだけが意識を蝕み、雪花は半強制的に歯を食い縛らずを得ない。血が流れていけばいくほど、燃えるような熱を持った痛みは鋭い冷たさへと変わっていく。
「変な視線を感じてはいましたが……、まさかっ、初手から発砲してくるような武装した奴らだとは……ぐぅっ……! どこのバカですか、いったい……!!」
「血、血が……!」
「私のことは構いません……。それよりも、鏡とか持ってますか。手鏡とか、小さいのでも一つあれば嬉しいんですけど」
「は、はい……!」
最早泣きそうな未来を宥めるように努めて優しい口調で話しかけ、足元に転がるバッグの中から彼女が取り出したオレンジ色の手鏡を受け取った。自販機の横から手鏡を出し、撃たれた方向へ向ける。映るのは西日が沈み始め薄暗く不気味な木陰と、その中で怪しく動き続けている影。一つ、また一つと木と木の間を中継して、じわりじわりとこちらへと迫り続けている。統率された動きからして、訓練された軍人か何かだろう。
ともなれば、雪花がこの状態で真っ正面から立ち向かって勝てる見込みは間違いなくゼロ。残された手は一つだけと覚悟を決めて、服の内側から赤い柱状のクリスタルを引っ張り出した。手の中で力一杯握りしめ、近付いてくる足音も聞き、そして覚悟を決める。
「雪花、さん……?」
未来も、何かを感じ取ったのだろう。どこか不安そうな目でこちらを見ている。
「未来さん。これから先何が起きても、他言無用でお願いしますね。もちろん、姉さんにも」
「何を──」
胸の奥に浮かび上がる歌を歌い上げ、手の中から現れた五線譜模様の眩い光の繭に自身の体を包ませる。編み上げられたフォニックゲイン保護フィールドは、その姿を自販機から相手へと見せる。纏うのは深紅の鎧、第二号聖遺物イチイバルのシンフォギア。装着の際、右腕の銃創には聖遺物なりの優しさか超常の力で施された応急処置によって、出血が一時的に停止する。そうして装着されたイチイバルのシンフォギアは、姉雪音クリスが纏う物は似ても似つかない。
頭部を守る深紅のヘッドパーツ。雪花のボディラインを浮き立たせるタイトなバトルスーツを纏い、主兵装となるガントレットと脚部の装甲は薄い。その代わりではあるが、装甲内に仕込まれた銃はさながら近未来のスパイ映画を彷彿とさせるカラクリである。
光を見て焦ったのか、足音は大きく、そして速くなった。
だがそれも既に遅い。自販機の向こうから飛び出していた武装の男を、両足に込めて跳びその首めがけて手を伸ばし、掴む。体格では遥かに劣るが、一度超常の鎧を纏ってしまえばただの人間に負けるはずがない。半ば押し倒すような形にはなったものの、マウントを取りそのまま首を掴む手を力を込めてへし折った。ゴキリと生理的に受け付けない絶命の音が鳴る。
「未来さん、目と耳を塞いでじっと堪えていてください」
それだけを言って雪花は次の標的へと肉薄した。大人の二十歩分はシンフォギアで一ステップで済む。懐へと潜り込み、振りかぶった拳は男が着込んだ防弾チョッキも無効化して、人体へ直接深刻な損傷を与えた。口から吐き出される血液を被りながらも、執念深く徹底的に追い詰め、手首を捻りガントレットの中からせり出した銃口を頭部へと向けそのまま撃ち抜く。これが仕込みと言われる所以。姉と変わらず銃がシンフォギアの武装として現れるのは、やはりバルベルデでの経験が起因する。もっとも、これらを仕込みとして悪辣な変貌をさせたのは、年単位にわたるフィーネの刷り込みによるものであるのだが。
弾丸の雨が雪花を襲うが、それら全てを超常の鎧は何とも無しに弾いた。痛みも、衝撃も、全てはシンフォギアによって無効化され、使用者たる雪花の体にはかすり傷さえつけさせない。
『化け物め……』
英語で罵られてしまったので、ご丁寧に英語で返す。
『化け物? 手を出してきたのはお前たちだろう。人の右腕をバカスカ銃で撃ち抜いてくれたせいで、応急処置が出来ても痛いもんは痛いんだよ。それに加えてオレの邪魔までしてくれたんだ。生きて帰れると思うな』
『っ、撃てっ、撃てッ!』
どこから現れたのか、また二桁以上の男たちがやって来てざんぶりと弾丸の雨が、横殴りで叩きつけてくる。だが、むしろそれは雪花にとって好機。立ち止まって行う射撃は案山子同然。両腕を顔の前に構え弾丸を弾きながら、また同じく肉薄する。振り抜いた拳は男の腹部を防具ごと貫いた。そのまま男の体を盾にして、銃で男たちを撃ち抜いていく。
片っ端から、邪魔した奴らの眉間を一人一人、逃がすことなく、撃ち殺していく。
──そうして残ったのは、幾つもの死体。
血の鉄臭さが充満するこの場所に居るのは返り血で塗れた雪花と、自販機の影からこちらを覗き込んでいる未来の二人だけ。シンフォギアの展開、加えてここまでの騒ぎを起こしたのだ。既に遠くの方から一般人たちのざわめきというものが聞こえてくる。この様子なら、銃声を聞いた通行人が警察も呼んだのだろう。そうであれば二課のメンツもやって来るはず。
何より、今回襲撃をかけてきたのは外国人。聞き慣れた英語からして米国の人間。
予測の域を出ることはないが、最近のフィーネの悩みの種はもしかしたらこいつらなのではないか?
電話を切った後、むしゃくしゃしたフィーネの後処理をさせられていたのは、こいつらのせいなのではないか?
仮にそうだとして、武力行使に出てきたのだとしたら──。
「もしかして、フィーネの方にも……?」
そうなればこの場に居ても立ってもいられなくなる。
フィーネにはネフシュタンの鎧を返しているが、屋敷には彼女が悲願成就の為にこれまで集めてきた数多くのデータが失われるようなことになれば、雪花の目的の進捗も後退する。これまで殺してきた人間が無駄になる、それだけは防がねばならない。
雪花は目の前の惨事に怯えて震えている未来へ、膝を着いて話しかける。
「未来さん、ここに居れば警察か二課に保護されます。この惨状ですから、ただの女学生であるあなたが疑われることはありません。何より、二課はあなたのことを庇ってくれるでしょうから」
「せ、雪花さんは……?」
「私は少し行かないといけない場所があります。出来れば、私の事は黙っていていただけると嬉しいのですが……まぁ、無理ですかね。それでは」
未来が何やら言いたげな顔だったが、ごめんなさいと謝罪を添えて雪花は駆けだす。
いち早く、屋敷へと戻らねば。
本筋が終わった時、しないフォギア的な日常パートは必要ですか? それとも不必要ですか?
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必要
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必要ない
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どちらでもいい