女体化した挙げ句、転生先は存在しないクリスの妹でした。   作:わらぶく

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小話:そこに一人、残されていて

「ッ!? 都心の公園内にアウフヴァッヘン波形を検出、これは……第二号イチイバルですッ!!」

 

 二課本部の発令所内に、オペレーター藤尭の焦り混じりの大声が轟いた。それまでどこか和やかな雰囲気であった空気は束の間のこと。ここに居る全員が驚愕に顔色を染めて、映像が発令所前方の巨大スクリーンに映され、その事実は周知のものとなる。

 

「イチイバル、だとぉ……ッ!?」

 

 二課司令、風鳴弦十郎は目の前の事実と鼓膜を揺らして伝えられる報告に目を丸くせざるを得ない。

 何故ならばイチイバルは雪音クリスただ一人が持っているはずの聖遺物。まだノイズ反応が出ていない状況、加えて彼女の性格から悪意のあるイタズラをするわけがない。

 

 そう内心で確信をしていようと、しっかりと裏を取らなければいけないのは、二課司令官としての義務だ。

 

「友里、クリスくんに繋げッ! 真偽のほどを確かめるッ!!」

 

「了解、クリスちゃんへの端末へリンク完了。回線オープンまで3、2、1!」

 

 カウントダウンが止みモニターに映し出されるのは、茜に染まった空と通学路を背景にして、訝しげに端末の画面を見つめているクリスの表情だ。右端からは制服姿の立花響も顔を覗かせ、どこか興味深そうに見つめている。

 

『何か用か、おっさん。あたしはこれから見舞品を買いに行くので急がしいんだけど』

 

「単刀直入にクリスくんへ質問する。今現在、イチイバルのシンフォギアは展開していないか?」

 

『ハァ? ノイズも居ねぇのに何でシンフォギアなんて使わないといけないんだよ。そもそも、あたしがイチイバルを使ったらおっさんのところに情報が行くんだろ? まさか来たってのか?』

 

「察しが良いな、その通りだ。つい先程二課本部の発令所でアウフヴァッヘン波形を検出した。称号の結果、イチイバルとして認められた。だが、君は今使ってないんだな?」

 

『だから使ってないっての。そんなに疑わしいなら、これを見せてやる。ほら』

 

 クリスがブラウスの首元を手で少し開け、ネックレスの紐を引っ張れば現れたのは赤い柱状のクリスタル。今さら見間違えることもない、覚醒前のイチイバルのシンフォギアだ。

 それを見せられ、弦十郎は余計悩む羽目になる。

 確かに、一連のことで雪音クリスの嫌疑が綺麗さっぱり晴れた。それはもちろん、彼女の過失ではないことへの安堵と安心に心が満たされる。仲間へ容疑が向けられるのは、弦十郎にとって望まれたことではない。

 

 だが、問題は誰がイチイバルを起動させたのか、この一点の謎はさらに深く深まるだけだった。

 シンフォギアの開発、そして製造の全てを行えるのは、二課のNo.2とも言える櫻井了子ただ一人。もし目の前の全てが背反せずに事実として処理されるとするならば、イチイバルのシンフォギアはこの世に二つ存在することになってしまう。そうなれば櫻井了子は我々の知らぬ間にシンフォギアを新規開発し、二課以外の人間に貸し与えてることになる。

 仮に、仮にそれら全てが事実だとして、何故イチイバルをわざわざもう一つ作ったのか? 貸し与えた人間とはいったい誰なのか?

 

 聖遺物の研究、シンフォギアの開発には、嫌な話莫大なお金が必要になる。

 欧州、米国、そして日本。我々が何故開発にこぎつけられたかのかと言えば、

 

 全ては未だ憶測にすぎない。

 組織内で不和を作ってしまわぬよう、不明瞭なことは口に出さず居た方が良いだろう。

 

「分かった。これでクリスくんはイチイバルの無断起動の容疑が晴れたが、しかしむしろ謎は深まった」

 

 発令所内に緊張の糸が張り巡らされる。

 まずは調査だと意気込んだ手のひらに拳を突き立て、大きく息を吐いた。

 

「響くん、そしてクリスくん。アウフヴァッヘン波形が検出された以上、この件に聖遺物が関与していることは間違いない。一課、ただの人間には対処が難しい事件の可能性もあるだろう。そこで、君たちには検出された現場まで向かい、いざとなれば安全の確保を頼む。この通信を終えた後、こちらも二課のエージェントを連れて現場へ向かうつもりだ」

 

『分かりました! 師匠、先に行って待ってます!』

『おっさんもあまり遅れてくんじゃねぇぞ』

 

「ああ、分かっている」

 

 弦十郎の言葉を最後に通信を切る。

 

「友里、エージェントたちの手配を。藤尭は一課からの連絡か入り次第連絡を頼む」

 

「「了解」」

 

 指示を終え、弦十郎は発令所を出て地上へと繋がるエレベーターに飛び乗った。

 ノイズの急激な発生率上昇、突如として現れたネフシュタンの鎧の出現、そして行方不明だった雪音雪花の出現。特異災害対策の名を冠しているだけあって、どうしても突然現れるアノマリーや事件に関しては後手に回らざるを得ない。

 何より、相手は常識を超えた非常識だ。民間にもノイズの脅威が浸透しその為のシェルターや装備が認められてきているが、未だ超常に対する理解度は低いと言わざるを得ない。最前線で命を張っている二課でさえ、惑わされ未だ取るべき道をはっきりと定められていないのだ。

 

 目を瞑り、握りしめた拳に爪が突き刺さる。

 

(……先頭に立ち未来ある子供たちを守るべき俺たちが、あろうことか彼女たちの後ろに立ち指揮せねばならぬとは。とは言え、主だった対抗策がない以上彼女たちに任せる他ない。我々大人の何と不甲斐無いことか……)

 

 無念を抱えながらも、地上に出た弦十郎は既に待機していたエージェントたちを引きつれ、車列を作り現場へと向かった。

 

 着いた時には既に一課が現着しており、公園を含めた周囲一帯の封鎖を行っている。

 車から降りてすぐ、現場の異様な空気と言うものを肌と鼻で感じることになった。当たりに漂う濃厚な血の鉄臭さ。じっとりと身体に纏わりつく重ったるい不快な空気。幾度と現場に司令官として入り経験してきたからこそ、此度の異常さはこれまでに培ってきた勘が告げている。

 

 そんな時だ。

 

「未来、もう大丈夫だから深呼吸して。私も、クリスちゃんも居るから」

 

「はっ……はっ……!」

 

 救急車の中、頭部を彩る白の大きなリボンが特徴的な黒髪の少女を、立花響が必死に背中を擦っている姿があった。

 彼女たちがシンフォギアを展開せずにいる以上、驚異となるノイズは存在していないのは理解した。そして、怯えている少女が今回の事件に巻き込まれたのだとも。いつもであれば、今回の事件の守秘義務について説明し書面にサインをしてもらうところだが、そうもいかない様子。

 

「響くん」

 

「あっ、師匠ッ! こっちですッ!」

「おせーぞ、おっさん」

 

 手を振り存在を知らせる響とクリスの元へ、弦十郎は向かった。

 少女が着ているリディアンの制服には、僅かな血液が付着している。そして、近付いて分かる少女の体の震えと制服からの血の臭いが、少女が現場の近い場所にいた事を雄弁に語っていた。

 

「未来、師匠が来たらもー安心ッ! 誰よりも強い人なんだよッ!」

 

「うん……うん……」

 

 どこかうわ言の様に返事をする少女の名前は、小日向未来だとクリスから教えてもらった。

 そして彼女は二人と親しい関係の様子。初めこそ憔悴しきった様子で俯いていた彼女だったが、救急隊員が差し出した温かいお茶を受け取ると少しずつ呼吸が安定し始める。それでも未だ会話可能状態ではないのは、見て取れる。

 

「なるほど、精神を酷く消耗しているようだ。ここで余程凄惨な物を見てしまったんだな。響くん、クリスくん、二人はその子を介抱してあげてくれ。親しい関係なのだろう? 年の離れた俺が話しかけるよりも、よっぽど良いはずだ。俺は現場を見てくる」

 

「ああ、こっちは任せろ」

 

 彼女に二人を任せ、弦十郎は公園入口へと向かった。

 

 

 

「特異災害機動対策部二課司令、風鳴弦十郎だ」

 

「はっ、既に話は伺っております。こちらへ、現場までの間私が現場の説明をさせていただきます」

 

「ありがとう、よろしく頼む」

 

 胸元にしまっていた身分証を見せ、公園の入り口を見張っていた女性隊員と挨拶を交わし、公園内へと進入する。

 彼女の後ろを付いていけば、現場の説明が始まった。

 

「午後5時12分頃、一般の電話回線を使用して警察の方へ銃声がしたと通報が入りました」

 

「その1分前には、二課の方のレーダーに聖遺物が発するアウフヴァッヘン波形を捉えていた。今回の件には、間違いなくノイズ以外の特異災害が併発していると俺は考えている」

 

「えぇ、こちらも同じ考えです。そしてそれが、今回の悲惨な現場を作り出したとも言えます」

 

 女性隊員は、少し息を呑んで汗を垂らした。

 

「ハッキリと言って、今回の現場はノイズが作り出した炭素よりも惨い。既に慣れていらっしゃるとは思いますが、それ相応の覚悟を」

 

「一課の隊員がそこまで言うんだ、無下にするつもりはない」

 

「有難うございます」

 

 少し歩いて、道を阻むブルーシートの幕が現れる。

 女性隊員はどうぞと言ってシートの端を掴んだきり、もう話すことはなかった。エージェントたちには周囲警戒の命令を下し、彼は一人中へと入った。

 そこで見たのは、なるほどと呟き眉を顰めるもの。自動小銃をを装備した重武装の男たちの死体が数十も転がり、青々しく映えるはずの芝生が血によって赤黒く染め上げられ、転がる薬莢は土を覆い隠していた。血の臭いはより濃くなり、たまらず鼻を覆ってしまうほど。

 だが、それと同時に火薬臭さが鼻につく。

 

(ここに居たこの者たちが、これほどまでに銃を撃った目的は何だ? やはり、イチイバルなのか?)

 

 これほどまでの現場を作り出せるのは、ただの人間では不可能。ともなれば、やはりイチイバルの信号が関係してるのだろう。防弾チョッキを着こんだ武装済みの男の腹部を貫通させ殺害するなど、ただの人間ではどう考えても不可能だ。

 謎が、謎を呼ぶ。死んだ男たちの目を閉じ、これをせめてもの供養に。その際顔を覗き込んだが、顏立ちと首元にぶら下げたドッグタグがからして米国の人間であることは確かだ。

 

 あまりにも手掛かりが無さすぎる。

 米国の手引きは間違いなく働いているだろうが、誰がイチイバルを行使してこの様な事態が引き起こされたならその原因を確かめなければならない。

 

『……おっさん』

 

 耳に着けた無線から、不意にクリスの声が響いた。

 

「クリス君? 先程の子はもう大丈夫なのか?」

 

『あぁ、だいぶ落ち着いてきて話せるようになってきた。それよりも、おっさんに聞かせないといけない話がある。だから、一回戻ってきてくれ』

 

「無線では言えないような話か。分かった。こちらも現場をある程度確認した。すぐにそちらへ向かう」

 

『……頼む』

 

 通信を切断する前の、クリスの泣きそうな声が耳に残った。

 その声に嫌な胸騒ぎを覚え半ば駆けるような形で現場を飛び出し、弦十郎は先ほどの救急車の元へ向かう。

 

「戻った、何かわかったのか」

 

 響、クリス、未来を包む空気はどこか暗かった。

 それでもクリスが口を開いてくれたおかげで、未来がそれまで俯かせていた顔を上げて深緑色の瞳が向けられた。

 

「……未来、おっさんに聞かせてやってくれ」

 

「うん……。弦、十郎さん」

 

「何があったのか、詳しく聞かせてくれるか」

 

「公園で会った雪花さんが、男の人たちに、銃で撃たれたんです……。でも、変な呪文みたいなのを唱えると、赤い鎧みたいなものを纏って男たちを……」

 

「何、だと……ッ!?」

 

 彼女から齎された情報は、それまでの憶測を補完する驚愕的な情報だった。

本筋が終わった時、しないフォギア的な日常パートは必要ですか? それとも不必要ですか?

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