女体化した挙げ句、転生先は存在しないクリスの妹でした。 作:わらぶく
逃げて逃げて、逃げ続けて。ノイズからも武装した男達からも、シンフォギアシステムが産み出す非常識的なジャンプ力で、雪花はとにかく逃げ続けた。極度の疲労からシンフォギアとの適合係数が著しく低下し、逃走途中の市街地で纏っていたはずのシンフォギアが解除されてしまい生身の人間に戻ってしまうハプニングがあったものの変わらず逃げる。足はクタクタ、お腹に空いた穴からは絶えず血液が流れ落ち、肺は破れてしまったに痛くて満足な呼吸さえ出来やしない。
だが、それでも男たちとノイズは間断無く追い続けてくる。
『撃てッ! 撃てッ!!』
まるで暴風雨の様に横殴りの弾幕が雪花の体を襲った。三発が盾にした左腕、一発ずつ右肩と左脇腹に命中。風穴を開けられ血を噴き出す銃創が作られていく。
それでも動けているのは、脳を焼かんとばかりに溢れているアドレナリンのお陰だった。痛みどころか限界を超えている現状に喚くわけでもなく、むしろ笑い出してしまいそうな程高揚する精神が今の雪花を支えている。それもこれも、少し前にフィーネから打たれた点滴による作用が関係しており、言わば一種のドーピング。痛みを感じず戦闘を継続できるアドレナリンの異常とも言える過剰な分泌は、なるほど人間を兵器にするには必要な成分だ。後遺症によって、廃人にならないことを祈るばかりである。
『ははッ! 来いよクソッタレどもッ!!』
路地に逃げ込んだと見せかけ、真っ先に突っ込んで来た男の股間を拾った鉄パイプで豪快に殴り上げる。いくら防護用のカップを付けているからと言って、衝撃を全て殺せるわけではない。見事なまでにガツンとクリーンヒットし、男はあまりに甲高い悲鳴を上げながら悶絶している姿を盾にして、男の太ももにあるホルスターから拳銃を抜き後続二人の眉間を打ち抜いた。
だが、倒れていく二人の後ろから尚続く多数の足音が響く。何よりも、これだけの騒ぎを起こし関係の無い野次馬たちが徐々に集まり始めていた。
「おい、人が死んでるぞッ!?」
「さ、撮影なんじゃないの……?」
「だ、誰か警察と救急車呼んでッ!!」
「逃げろッ!! ノイズだッ!!」
立ち上る困惑の声と悲鳴の数々。それにより男たちの一部が足止めをくらい、そこへ追跡していたノイズも加わった。目に見て分かる阿鼻叫喚の地獄絵図が作り出されていた。その様を見せられて、熱くなっていた頭が一気に冷めた。
「……っ!!」
シンフォギア以外ノイズに対抗する方法はほとんど無く、男たちも野次馬も纏めて全部炭素に変えられていく。通りから耳をつんざく悲鳴を耳に刻みながら、だかそれを利用して更に遠くへと逃げ出す。
あぁ、誰がこんな地獄を作り出したのだろうか? こうして、ノイズが現れて人を殺してしまうのは何故なのか? 冴え渡る頭の中で答えを追い求めて、結論に至る。
自分自身だ。各地のコンサート会場でフォニックゲインをかき集め、ソロモンの杖を稼働させてからと言うものノイズを使って目的のために、関係の無い人間を何人も殺してきた。今さら取り繕うこともない。雪音雪花という人間が死刑ものの大罪人で、生きていること事態がおかしいのだ。
「クソッ、クソッ、クソッ……! 何なんだ、今更罪悪感なんて……ッ!! オレは──」
路地を抜けた所で、後ろから放たれた銃弾に胸元を貫かれた。貫通し、風穴から血液が迸る。それまで動き続けていた足から力が抜け前のめりに倒れ込んだ。その際、後方には男たちの生き残りの一人が小銃の銃口から煙を立たせていたが、後ろからやって来たノイズに包まれて炭素となり死亡した。
アスファルトに顔を強打したのか意識は朦朧とし、視界にはモヤがかかったように見えづらい。脳内に溢れていたアドレナリンも今ではなりを潜め高揚も既に無くなっていたものの、痛みは既に感じなかった。
体は既に、鉛のごとく重くなっていた。アスファルトには血溜まりが出来るほどに流血しているのにも関わらず、体の反応は鈍い。そこへ嘲笑うかの様に雨が降ってきた。ノイズが後ろから迫っているが、逃げなければならない現状において体が動かないのだから手の打ちようもない。
こんな状況ではシンフォギアの聖詠すらも頭に浮かばない。紛う事なき詰み、チェックメイト。冴えている耳だけがノイズの足跡を捉えていて、それがゆっくりと大きくなってくる。
(ダメだな……今更死にたくないなんて……。姉さんに迷惑をかけて、人の命を手にかけて、どの口が死にたくないなんて……)
結局、雪音雪花というのは最後まで理想にも使命にも殉じずに消えていく、クソみたいな人間だった訳だ。
姉のため? その言葉を言い訳に、人を無差別に殺してきただけじゃないか。もう止めてしまおう。このまま死んでしまえば、感情にも何にも縛られずに消えてしまえる。
──雪花。
目を閉じかけた時だった。
冴えていた耳が、名前を呼ぶ愛しい姉の声を久しぶりに聞き、体が喜びに打ち震えた。土気色に染まった無惨な肌色の両手を必死に動かして仰向けになり、血濡れた手を伸ばして姉を探す。目蓋は開いているはずなのに、もう目は見えていなかった。心臓はほとんど止まりかけている。
けれど、そんなことが姉を探さない理由になりはしない。見えないなら、どんなに不格好でも手を使って見つけ出したい。ペタリ、ペタリとアスファルトに手を這わせて探し続けた。
そして、ようやく見つかった。
手首の辺りをキュッと掴まれて、指先がぴとっと仄かに温かく柔らかい物に触れたのだ。何度も軽く押して柔らかさを確かめて、初めて確信を持った。
「姉さん」
出てきたのは、息を吐くように掠れた声だった。
頭が柔らかい物に乗せられて、心地良さからか肺の中に残る僅かな空気が口から漏れ出る。後頭部からじんわりと広がる温かさが、ゆっくりと全身に広がっていくような感覚に襲われて、安らかな睡魔が襲ってきた。
「こんな、妹でごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。オレは何も出来ませんでした」
考えるより先に、謝罪の言葉が溢れていた。
どれだけ敵対しようと、心の底で誰よりも大好きな姉にだけは最後に謝りたかったみたいで、零れた言葉は留まることを知らない。
「ごめんなさい……ごめんなさい……。ずっと一緒に居たかった……一緒にご飯食べて、お風呂入って……でも──」
ブツンと、音が消えた。
「─────」
自分が何を言ったのかさえ分からない。
手の感覚さえも消えていく中、それだけは絶対に伝えたかった。聞こえたのかは分からない。ただ伝わっていて欲しい、その本心が何度も唇を震わせる。
何度も言って、伝わっただろうと息を吐いた。肺がしぼんだまま息を吸えなくなって、呼吸が出来ないがもう苦しくなんて無い。むしろ心地良ささえ感じている。
もう、いいか……。
最期ぐらい、暖かい場所で眠らせてもらおう……。
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「何で……何で謝るんだよ……ッ」
目の前で大好きな妹が死んでいく。
冷たくなって土気色に死んでいく妹の姿を止められない自分の弱さが許せなくて、どうしようもない事実がクリスの心を蝕む。
「全部……あたしのせいじぇねぇか……ッ! あぁぁ……あああぁぁぁぁぁ……ッ!」
雪花が何をしたって言うんだ。
他人のことを気遣える大切な妹が、どうしてこんな目に遭わなければいけないんだ。
「目を開けてくれよ……頼むから、あたしはどうなっても良いから……ッ!」
溢れ出した涙が、動かなくなった雪花の頬に零れ落ちた。
そこへノイズの駆除に成功した翼と響が駆けつける。
「雪音、……ッ」
「センパイ……助けて……雪花が死んじゃう……死んじゃう……!」
翼も響も、雪花の怪我を見て目を背ける。
誰でもいい。翼でも、響でも、他の誰でも。この体を犠牲にして雪花を助けられるなら、その方法に縋り付こう。雪花の代わりに死ねと言われたら、喜んでこの命を差し出そう。
だから、お願いします──
「雪花を……助けて……ッ! 頼むからぁぁ……ッ!」
「私に任せて」
「へ……?」
声につられて、クリスは顔を上げた。
だが、その正体は翼と響じゃない。二人の目線はクリスの背後に向けられ、それに倣ってクリスも振り返る。
「櫻井女史……?」
「弦十郎くんの命令で私たちも来たわ。搬送車急いで! この子の命を守るのよ!」
大勢の救急隊員がワゴン型の搬送車から現れると、雪花の体に緊急の止血処置をした後担架に乗せて搬送車に運んでいく。素早く、鮮やかな手際に三人が呆然と見つめる中、クリスは櫻井了子に手を掴まれて搬送車の中に連れ込まれた。
「クリスちゃんはあの子のお姉ちゃんでしょ? なら、側に居てあげて。ごめんなさいけど、響ちゃんと翼ちゃんは後から来る車両に乗せてもらって! 運転手、飛ばしてちょうだい!」
戸惑う二人を置いて、雪花を乗せた搬送車は二課本部へ向けてけたたましいエンジンの唸りを上げていた。
本筋が終わった時、しないフォギア的な日常パートは必要ですか? それとも不必要ですか?
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必要
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必要ない
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どちらでもいい