女体化した挙げ句、転生先は存在しないクリスの妹でした。 作:わらぶく
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その体に恥辱と暴行の痕を刻まれ陰惨な身体となってしまった雪花を嘲笑うかのように、窓枠にはめ込まれた鉄格子の向こうから顔を見せている太陽の射光が横たわる雪花の目元を照らしていた。
清々しいくらいに青々とした空に睡眠の邪魔をされた恨み言を吐きながら、雪花は抱き着くクリスの腕を解き上半身を起こした。汚れ形容しがたい据えた臭いが充満する監禁部屋に同居する子供の捕虜たちは既に目を覚ましており、体に巻き付けている薄汚れたボロ布を時間潰しに指先で弄っているのが数名、生きることを諦めて目を暗闇に落としてしまったのが数十名だ。
「せつ、かぁ……」
「はいはい、どこにも行かないよ」
雪花はどちらかと言うと、自身の生存は諦め目の灯りを失いながらも姉のために生きているといった状態だった。壁に背中を預けながら、未だすやすやと眠っているクリスの頬を手で撫で慈愛に満ちた笑みを浮かべていた。そこへ別の少年少女が雪花の元へ助けを求めるようにゆっくりと歩み寄って来る。酷く怯えた様子で瞳の瞳孔は開き焦点が絶えずブレており、たどたどしい言葉遣いで「セツカ」と名前を呼んでいる。
最早、この光景もこの部屋ではお馴染みとなりつつある。
段々と増え続けている子供の捕虜の数、殺さないのは万が一武装組織が壊滅しそのメンバーが拘束されても、子供はしっかりと生かしていたとお目こぼしを貰うつもりなのだろうと、雪花は勝手に一人で推測していた。最低限だけの食料と水だけが保障された捕虜生活、こんな場所に娯楽なんて物が用意されているわけもなく、最初こそ生気が溢れていた子も日が経つ度にその目を暗くしていく。
そんな子供たちの面倒をみるのは、雪音姉妹であり主に雪花だった。
この狭い閉鎖空間、そして極限状態で人間関係が悪化しようものなら、最悪の場合子供同士での殺し合いに発展しかねない。それに巻き込まれてクリスの身も危険に晒されてしまうかもしれない。それだけは絶対に避けなければならないことだった。
「ほら、おいで」
微笑みながら手招きをすれば、子供たちは覚束無い足取りで歩み寄り雪花の隣に座って頭を肩に乗せる。
何か出来るわけでもない。道具も無ければ、外の景色を見るために十分な窓も、この部屋にはないのだ。使えるのは体一つのみ。ならばと、ゆっくりと口を開き、優しい声音で歌を歌い始める。
「~~……♪」
アメリカで最も親しまれているという、讃美歌。
前世で音楽の道を目指そうと真っ先に覚えた曲の一つだった。言葉が通じることがなくても、音楽で人間を癒すことが出来るのは知っていた。だから過去の記憶が歌の邪魔しようと、それを無視して歌い続ける。
誰だって辛いのは嫌だ。それは雪花も例外じゃないし、クリスも、この周りにいる子供たちもそうだ。早く家に帰りたい、親に合わせて欲しい、何かあるはず。荒む心を少しでも和らげるために、叶わない願い事を少しでも忘れるために、こうして歌に意識を向けていれば心が壊れてしまうまでの時間を少しでも稼ぎ続ける。
足元では、まだ横たわっているクリスの体がもぞもぞと動き、雪花の足先にクリスの手が重ねられた。派手な動きは見せないものの、起きていることは雪花は理解している。
「姉さん、起きてるなら起きてるって言ったら?」
「……」
「変なとこで意地っ張りだなぁ……。まぁ、そこが姉さんの可愛い所でもあるけどさ」
クリスの頬に手を添え、笑いかけた。
「……雪花」
「ん、何?」
「あたしは、絶対にこんなふざけた戦争の火種なんて消して、平和な世界を取り戻してやる。もう誰も、パパもママも、失わなくていい世界を作り上げてやる。そしたら、死んじゃったパパとママは笑ってくれるかな……」
「きっと、笑ってくれるよ。妹として、鼻が高いぞぉ」
雪花はクリスの頭を撫でた。
クルッと振り向いて顔を真っ赤にしながら、頬を膨らませる姉の姿に思わず雪花の口角が上がった。
「なっ、これじゃあたしが妹みたいだろッ!?」
「ならもっと姉らしく。オレはどこまで行っても姉さんの妹なんだから、オレに背中を追わせるような振る舞いを頼むよ」
「……なら、何かあったらあたしが雪花の前に立ってやる」
「そっか、その時は姉さんの背中に隠れようかな」
少々不貞腐れる姉に、雪花はクスリと声を出して笑った。
さてそろそろ日の昇り方的に、看守が来て「喧しい」とでも苦言に呈しながら、全員分のパンと水を部屋の中に放り込んでくる時間帯だ。不機嫌がシミにでもなった看守の顔をまた今日も拝んでやろうと身構えながら歌い続ける。こんな環境じゃ、そんなことでさえ楽しみにしなければやっていけない状況だ。
……というのに、今日に限っては看守が一向にその姿を見せない。
すると、遠くの方からここに居る全員にとって忌々しい銃声が、窓から吹き込んできた。
クリスはその場ですぐさま飛び起き、雪花は悲鳴をあげる子供たちを落ち着かせるために声をかけながら盾になるよう覆いかぶさる。外からは悲鳴と銃声が更に多くなっていき、その音は段々と近付いていく。
姉に危険な役目をさせていることを申し訳なく思いながらも、今は出来ることをするのみ。
「雪花、後ろに居ろ。何が何でも守ってやる」
「ごめん姉さん。だけど絶対に無理だけはしないでよ」
「分かってる。こんなところで死ぬつもりはねぇ」
それだけを言って、クリスは雪花たちを背にジッと鉄格子を見つめている。
次に、革靴が荒々しく地面を蹴る音。こちら目掛けて大きくなっていき、やがて鉄格子の端から勢いよく飛び出してくる。それは男だった。脂汗をぎっとりと額に浮かべて、肩を震わせながらガチガチと歯を何度も叩き合わせて、何かに怯えている焼けた肌の矮小な男。その手に握る拳銃は銃口があちらへこちらへと動き続けて、全く定まっていない。
やがて、おそらく気がやられて自棄になってしまったのだろう。
大声で叫び声をあげた後、狂ったように笑い始める。それが雪花たちにはたまらなく怖かった。男は笑い声を出しながら銃口の狙いをこちらへ、雪花たちへと向けていた。
「クソォッ!」
「姉さんッ!!」
引き金にかかった人差し指に力が込められていき、子供たちを押しのけてでもクリスの盾になろうと覚悟を決めた時だ。
──ぱぁん。
一発の銃声。その場に居た子供たちは、誰もがクリスが撃たれたと目を瞑る。
だが、目を開けてしっかりと見ていた雪花とクリスは状況の変化を目に焼き付ける。
男の頭に開いたザクロ。天井にまで届くほどまでに勢いよく飛び出たザクロは、さながら散弾銃のごとく散らばり、グシャリやドシャリなどの生々しく不快な音がかき鳴らされ、耳にこびりついていく。男の頭は歪な形になり、体は糸が切れたように仰向けに倒れていく。
その光景に、雪花は吐き気を催し、クリスは吐く物もなくただただ空っぽにえずいていた。
視界に、今度は銃を持った数名の兵士たちが入ってきた。UNと白文字で書いた青いヘルメットを被る兵士──いつか見た、国連の治安維持部隊だ。彼らはここの悪臭に少し眉を顰めながらも、鉄格子の向こうに居る雪花たちを見つけすぐさま格子を器具で切り開いて、駆け寄った。
「君たち! 酷い……誰も彼も栄養失調だ。おい外に食料を用意させろ! それと毛布もだ! 助けに来たからもう大丈夫だ。もう何も、恐れることは無いぞ」
「た、助かったのか……」
周囲の子供たちが一斉に歓喜の声を上げる中、小さな声を漏らした雪花は安心からか体から力が抜けてしまい地面に倒れしまい、助けに来た兵士たちを威嚇せんばかりに睨みつけているクリスがぼやけた視界に映っていた。
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長い監禁生活の中で、既にクリスの『大人』という存在は信用できない存在となっていた。
唯一の妹を辱め、痛めつけ、弄んだ大人なんて、痛がっていると、苦しがっていると、泣き叫んでいると呼びかけても無視して弄んだ大人なんて言う存在なんて、もう信じるに値しないと。どうせ目の前に居る正義のヒーローのような兵士たちも、その化けの皮を剥がせば廊下で転がる肉塊と何ら変わらないのだと決めつけて、妹の雪花を弄ぶつもりなんだろうと思考する。
「落ち着いてくれ、俺たちはここに居る捕虜たちを助けに来たんだ」
「……ッ!」
信用できない。
顔に笑顔なんて貼り付けてはいるが、その実何を企んでいるのか分からない。
クリスは雪花の盾になれるこの位置を保ったまま、一歩、また一歩と近付いてくる兵士に呼応するように、一歩、また一歩と顔に警戒の色の色濃くしたまま後退る。
「大丈夫だ、お腹が減っただろう? 食事も用意する、今はここを──」
「近付くんじゃねぇッ!」
隊長らしき兵士に向かって怒鳴る。
一瞬たじろぎはしたものの、努めて、努めて笑顔を浮かべている兵士だったが、それがむしろクリスにとっては信用ならなかった。いっそのこと感情をむき出しにして怒ってみせろと。ここに居るのはみんな敵だと、そう意思表示しながら歯を剥き出しに威嚇をしている。
それを止めたのは、背後から聞こえてきた愛する妹の弱々しい声だ。
「姉さん……その人たちは大丈夫だから安心して……」
「雪花? おい、雪花ッ!?」
クリスが振り返ってみれば、囲む子供たちに心配されている倒れた雪花の姿があった。その顔色は青白くなり、傍から見れば死人の様にしか見えなくなっている。それでもまだ生きていると知らせてくれるのは、呼吸で荒々しく動く肩と胸だけだ。
その光景を見たクリスは脳裏に目の前で死んでいる両親の姿が浮かび上がり、雪花もそれと同じようになってしまうんじゃないかと、不安が頭を一気に埋め尽くしていく。
「だ、ダメだ雪花! 目を開けてくれッ!!」
すぐさま側に寄り抱き起こして顔を覗き込むも、額にびっしりと汗をかいている雪花はクリスの言葉に全く反応を示さない。その光景がガレキの下に潰されたママと、炎に包まれて灰になっていくパパと重なってしまって、目頭が燃えるように熱くなり目尻からは涙が一気に溢れてくる。
「やだ、やだやだやだッ!! 目を覚ましてくれよッ! 雪花に死なれたら、あたしはどうすればいいんだよッ!? 一人ぼっちにしないでくれよ、雪花ッ!!」
「急いで少女を医療所に連れていくんだッ! 死人を出させるなッ!」
「「「「はっ!!」」」」
隊長からの指示を受けた兵士たちは、クリスの腕の中から半ばひったくるように雪花と、雪花の周りに居た子供たちを外へと連れていく。その光景に激高し攻撃しようとするクリスだったが、隊長に手首を掴まれていた。
傍から見ればそれは拉致に見えるかもしれないが、兵士たちからすれば一刻の猶予もない状況であった。それは雪花の体調不良がただの精神的なモノではなく、病原菌から来る疫病かもしれないからだ。姉であるクリスに説明している時間さえも惜しく、直ちにでも清潔な場所で診断をしなければならなかった。例え目の前の少女に嫌われたとしても、人命救助こそが彼らに課せられた任務であり、義務だからだ。
「離せッ! どうせお前らも雪花を弄ぶんだろッ! やらせるかッ! やらせるもんかッ! お前らに雪花を好き勝手させてたまるかッ!!」
目の前の少女が強いショックによる錯乱状態なのは明らかだった。
こういう時に強い言葉で教えようとしても、反発心が強くなり今以上に抵抗するようになるだけなのは分かっている。なら、理解されなくても良い。今はあの子を助けるためにはこうするしかないと、何度も言い続けるしかないのだ。
「君にとってあの子はかけがえない子なんだろう。俺たちが信用できなくても良い。ただ、君だけの力で苦しんでいるあの子を助けられるのか?」
「……ッ」
「信用しろとは言わない、だけど彼女の命は絶対に助けてみせる」
「ならあんたが嘘吐かないって言えるのかよ。あたしに嘘を吐かないって証明できるのかよッ! あいつは、雪花はあたしに遺されたただ一人の妹なんだ。雪花が死ぬんだったら、あたしもあいつの側で死んでやる」
覚悟が決まったクリスの目に迷いなんて物はなかった。
年不相応なその目に、隊長もまた覚悟を決め優しい声音で話しかける。
「分かった。あの雪花という子も、君も死なせはしない。もしそんなことがあれば、俺がこのホルスターに入ってる拳銃で頭を撃って責任を取ろう」
「……その言葉、嘘じゃねぇだろうな。吐いた唾、飲み込ませるようなことなんてさせねぇぞ」
隊長は腰のホルスターにかかった拳銃を見せ、クリスも一旦は落ち着いたのか昂る感情を抑えてその場は従うことにした。警戒心は薄れさせることなく、立ち上がりここを出ようとする隊長から半径2mは距離を開けて近付かないようにしている。
外に出れば、クリスは何年か振りにまともに日光を浴びることになった。煌々と輝く太陽のなんと憎らしいことか。何もせず、ただ空に佇んで見下ろしているだけのあの太陽が、手に届く距離にあれば一発殴っているだろうとクリスは考える。
収容所の敷地から一歩踏み出せば、眼前に広がるのは国連軍の即席の駐屯地だった。いつか見た白いテントが建ち並び、雪花を抱きかかえている兵士たちが赤い十字を施したテントへと入っていくのを目の当たりにする。クリスが怪訝そうに隣に立つ隊長へと目を向ければ、「今から応急処置を施すだけだ」と言ってクリスの背中を押した。
テントに入るなり、隊長は中にいた女性に声をかける。
「軍医、捕虜になっていたその子の様子は?」
「熱も無し、緊張の糸が切れてこれまでの疲れがドッと出た感じね。大丈夫、命に関わることではないわ。ただし、酷い栄養失調だから当分は点滴で栄養を与えないと。この体で、今まで無事で居られたことが奇跡ね」
応答するのは、軍服の上から白衣を着た女性。
上腕には医師であることを示す赤い十字の腕章をつけ、ベッドの上で横たわる雪花の体を診ていた。衰弱しきった雪花の体には無数の点滴が刺されている。
女性は振り替えるなり、クリスを見て「あら」と声を出し驚いたようだった。
「隣の子は? 双子?」
「その子の親族だ。恐らく姉の方だ。良ければこの子も頼む。俺は食糧を持ってこよう」
隊長はテントから出ていった。
クリスは誰に催促されるわけでもなく、ベッドに居る雪花の元へと歩いていく。女性はそれを特に止めることもなく、むしろ空気を呼んだらしく「何かあったらこれで呼んで」とブザーを机において退出する。
残されたクリスは、雪花の手を握りそれまで堪えていた涙をまた流した。
これまでクリスが最低限の栄養失調で済んでいるのは、自身の分のほとんどを渡していた雪花のおかげだった。最初こそはダメだと返そうとした。だけど雪花が一度決めたらテコでも動かないことは、一緒に居たクリスがよく知っている。
貰ったものを捨てるわけにもいかず、かといって返しても受け取ってくれず、雪花の気持ちの甘えるような形でパンを食べていた。
「あたしのせいなんだ……ッ! あたしが弱いから……何も出来ないから雪花に全部……ッ!!」
止まらぬ後悔の念。
クリスが泣き止むのは、食糧を持ってきた隊長が帰ってくるまで続いていた。
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必要
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必要ない
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どちらでもいい