女体化した挙げ句、転生先は存在しないクリスの妹でした。 作:わらぶく
「んぅ……んぁ?」
クリスが目を覚ましたのは、窓から差し込む光が茜色に染まった夕方ごろだった。開かれた窓から吹き込む少しばかり暖かい風を体に感じながら、上体を起こしかかっていた毛布をめくった。
雪花の温もりが無いことに気が付いたクリスは慌てて周囲を見回す。
時計の短針は五を示していた。
部屋の中に雪花の姿はなかった。かと言って狼狽するということは無い。
出来た妹だ。寝てしまった姉を見てトイレ、もしくは食べ物を買いに行ったのだろうと考え、クリスはすっかり冷めてしまったココアに手を伸ばす。これも眠ってしまった時に雪花が置いておいてくれたんだろうかと、優しさに口元を綻ばせて紙コップに唇を着けた時だった。
──プルルルルッ。
部屋に置かれていたらしい固定電話が音を立てた。
突然の音にびくりと肩を震わせて警戒するクリスだったが、音の正体を確かめるとホッと安堵の溜め息を吐き、ソファーから立ち上がって受話器を手に取った。
「もしもし?」
『俺は特異災害機動対策部二課、風鳴弦十郎だ。君は姉の雪音クリスくんだな?』
「ああ。何だ、雪花なら今ここに居ねえぞ。大方、あたしに毛布を掛けた後、買い物にでも行ったんじゃないか?」
『その雪花くんについて君に聞きたいことがあったんだが……そうか、すまない』
「あん? 言いたいことがあるならはっきり言えよおっさん。言っちゃ悪いが、あたしは雪花みたいに優しくはねぇぞ」
『そうだな……君にも伝えておかなければならないことだろう。心して聞いてほしい』
「大袈裟なことを言ってんじゃ──」
『三時間前から雪音雪花くんの行方が分からなくなっている。万に一つの望みをかけて君に連絡を取ってみたんだが……そうか……』
──今、なんつった?
声にならなかった疑問が、頭の中をミミズのごとく這いずり回る。
居なくなった? 雪花が?
甦る、蘇る、悪夢。捕虜時代に見た悪夢が、離した雪花の手のひらが砂のように細かく崩れていって居なくなってしまうあの悪夢が。手を離すんじゃなかった。目を離すんじゃなかった。勝手に一人で寝るんじゃなかった。目まぐるしく頭の中を過ぎる嫌な予感が、堰を切ったように溢れ出して止まってくれない。
「お、おっさん、嘘にしては質が悪いぞ……? 雪花が何したってんだよ。あいつは賢いかもしれないけど、それこそ他の奴らと何も変わらない人間なんだ。なぁ、嘘なんだろ?」
『……』
「なぁッ! いい加減にしつこいんだよッ! 嘘なんだろッ!? いい加減にしねぇとあたしでもキレるぞッ!? おっさんッ!」
『……すまない』
「は、ははっ……」
覆らない、クソッタレな現実が、クリスの意識を包み込む。
体から力が抜け握っていたはずの受話器を手放してしまい、その場でへたり込んでしまった。
頭が、考えが回り続ける。
どうして、どうして、どうして。
あたしは誰かと居ちゃいけないのか?
あたしは居ちゃいけないのか?
……生きてちゃ、いけないのか?
『クリスくん?』
「何で、何でいつも雪花はあたしから離れるんだ……? あたしが悪いのか……? あたしが、家族も守れない弱い奴だから……パパも……ママも……皆、居なくなってく……」
『待て、気を強く持つんだクリスくんッ!! 君の責任じゃないッ!!』
「うるさいッ! うるさいうるさいうるさいッ! あたしが悪いんだッ! あたしなんて、妹一人守れないあたしなんて死んじまえば──ッ!」
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「クリスくんッ! 警備班、すぐにクリスくんの元に向かってくれッ!」
受話器を片手に、風鳴弦十郎は周辺警備に当てていた特異災害対策起動部二課のエージェントに指示を飛ばす。彼の目の前に鎮座するモニターに映されているのは、叫び声をあげながら壁に頭を打ち付け続けている雪音クリス。受話器越しに何度も呼びかけるも耳に入っている様子はなく、狂気的な行動に冷や汗を垂らしながらモニターを眺めていた。
やがて、室内には黒服を着たエージェントたちが突入し頭を打ち付けるクリスの身柄を拘束した後、睡眠スプレーを吹きかけ意識を失うまで地面に抑えつけていた。少女があのような行動に至った原因は、既に分かりきっている。
雪音姉妹の双子の妹、雪音雪花の消息不明。
その日の警備はしっかりと行われていたはずだ。部外者の手荷物、エージェントの巡回、そして何より弦十郎本人が、廊下、室内に設置された防犯カメラによって映される映像を、その目でしっかりと見ていたのだ。休憩時間こそあれど、代わりの人間は座らせていた。
短時間での誘拐は難しいだろう。
あったとしても、カメラに映り分かるはずだ。
「いったい、どうやって雪花くんを、それに誘拐する目的はなんだ……? 身代金を得るためのご両親は居ない。音楽家の娘として我々が目を付けていたことを知り、このような凶行を? それでも、その情報はいったいどうやって……」
「司令」
「友里か、入ってくれ」
「失礼します」
三回ノックの後、二課の青い制服を着たオペレーター、友里あおいが部屋の中に入ってきた。小脇には数枚の書類が挟まれたクリップボードが抱えられている。
友里は扉を閉めると、クリップボードを弦十郎に手渡した。
中に目を通せば、そこに書かれていたのは雪音一家、特に雪音姉妹の詳細だった。
弦十郎がチェックしたのは、二人が帰国と同時に行ったメディカルチェックの欄だ。
そこに書かれている主だったものは体調面、身体的損傷、精神面の三つ。ざっと見る限り──画面の向こうでは悲惨なことが起きていたが──異常はなく、少しだけ栄養を多く摂る必要があるということだけだろうか。
「見る限りでは問題があるようには見えませんでした」
「エージェントから不審な人間を見たという報告が上がっているか?」
「いえ、周辺には人一人立ち入らせていないので、そのような報告は上がっていません」
「不可能犯罪、か……」
何も出来ない現状を憂い、腕を組みながら歯噛みする。
今は睡眠スプレーによって眠っているクリスだが目を覚ました時、どのような説明が最適なのかを考え、唸る。今回の誘拐事件の責任は俺にあると考え、今はどのようにして見つけるべきかと思考する。
五日後には、二課所属のシンフォギア装者二人組によるライブを使った完全聖遺物の起動実験も入って来る。やらなければいけない頃が山盛りの現状で、これほどまでのトラブルが起きるのはよろしくない。
とはいえ、雪花のことを見捨てるわけにはいかない。
この先は一課との合同調査となるだろう。手が増える分、活動範囲も増えるということ。
一刻も早く雪花を見つけると、握りこぶし、そしてここには居ないクリスに誓った。
『脳内麻薬と自白剤、強心剤を使用した深層意識下の記憶引き出し実験』
実行者:==
被験者:雪音雪花(意識状態:昏迷)
以下、実験記録
発言者:==
「薬品名『==』を、2㏄投与する」
==が薬品を被験者の硝子体から投与。
心拍、体温ともに上昇。被験者に支障は見られず。
発言者:==
「投与完了、命に別状はなし。これから問答を開始する。
雪音雪花、現状況で何が見える?」
発言者:雪音雪花
「……い、え……」
発言者:==
「発言は不明瞭なれど実験に支障なし。再開する。
家? それは見覚えのあるものか?」
発言者:雪音雪花
「……赤い、屋根の……家……。オ、レの……家……」
発言者:==
「お前の家に、私の知りたい情報があるのか? ふむ。
よかろう、中に入ってみろ。何がある?」
発言者:雪音雪花
「小さい、玄関……。靴が、ある。お母さんが、出迎えてる……」
発言者:==
「そこには興味がない。雪音クリスの名をその家で聞くには、お前はどうするのだ。それ以外の情報はいらん」
発言者:雪音雪花
「にかいの、へぁ……ぁぃぉ……」
発言者:==
「っ、被験者にアドレナリンを2㏄追加投与。脳活動の活性化を図る」
{部屋に鳴り響く大きな電子音}
被験者の体温、心拍共に急上昇、安全域超過。
被験者の体が激しく痙攣し、口からは泡が立つ。
数十分経過
{小さくなっていく電子音}
被験者の体温、心拍共に安全圏へと低下、命に別状なし。
発言者:==
「被験者の痙攣が終了、実験を継続する。
今お前はどこに居る?」
発言者:雪音雪花
「二階、の、部屋……。オレ、の、部屋……。アニメ……」
発言者:==
「アニメだと。何故アニメなんぞに現を抜かそうとする。私が求めているのは情報であり遊戯ではない。さっさと情報を部屋の中から抜き出せ」
発言者:雪音雪花
「シンフォ……ギア……」
発言者:==
「……今何と言った」
発言者:雪音雪花
「……シンフォ、ギア」
発言者:==
「何故アニメでその名前が引き出せる。私はお前にシンフォギアの情報を公開などしていない。答えろ」
発言者:雪音雪花
「せんき、ぜっしょう……シンフォ、ギア……アニメの、名前……」
発言者:==
「アニメの名前だとッ!? どういうことだッ! 答えろ雪音雪花ッ!」
直後、実行者が錯乱、数分の後落ち着きの兆しが見える。
同時に被験者の意識が消失。実験実行不可となる。
発言者:==
「……失礼、取り乱してしまった。
実験はここまでとする。続行日時は未定。当分は被験者の回復に努める」
実験終了。
次回無印編! 乞うご期待!
本筋が終わった時、しないフォギア的な日常パートは必要ですか? それとも不必要ですか?
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必要
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必要ない
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どちらでもいい