僕は物心ついた頃から、少しずつ不思議な夢を見るようになった。
こことは違う世界、高い建物に囲まれ、自然も少なく息が詰まる様な街並みの世界。
夢によく出てくる少女は、その世界での僕の妹のようだ。「胡蝶の恋」というゲームをするのが大好きみたいで、夢の中の僕にお気に入りの映像や登場人物の話を頻繁に妹らしい存在から聞かされていた。
夢の中の僕もその世界に少しずつ惹かれていった。
ゲームで見る度に、悪役令嬢とよばれた言動は苛烈だが見た目は儚げな月の妖精の様に見える美少女、ビアンカ・シュラットと呼ばれる少女に僕の心はどうしようもなく惹かれてしまう。
その夢を見始めてからしばらくして、馬車から見かけた街並みや風景がなぜか心に引っかかる事が多くなってきた。
初めて来た場所のはずなのに、何故か見覚えがあると既視感を感じる場所が、少しずつ増えていくのだ。
僕はいつの日か、夢で見る映像は前世の記憶ではないのだろうかという結論に達していった。
そして、ゲームとしてみていた世界と、僕の現実が類似している事も…。
ある時、貴族名鑑を見ていた時のことだ。シュラット候爵家…、大好きなビアンカ嬢と同じの家名を見つけた。
そして更に情報を集めていくと、その家にビアンカという令嬢がいるというのだ。
「夢じゃなくて本物の彼女に会えるのかもしれない」その思いを
僕はこの世界に彼女がいてくれるのなら、苛烈ではあるが天使の様な少女の
夢でみたように、悪役令嬢を追い詰める存在から、彼女を護るために力をつける。どれだけ家の力を利用したとしてもだ。
僕はまず、彼女の執事であるマクシミリアンを、なんとかしたいと強く思っていた。彼とヒロインという存在が結ばれた時の、ビアンカ嬢に対する扱いがどうしても許せなかった。彼女の身を娼館に落とすなど……。
僕は確かにそうならないように策を講じたはずだった。
けれど、魔術の暴走と何らかの魔力の干渉で、想像を超えたイレギュラーな効果をもたらした…らしい。
マクシミリアンと呼ばれていた青年の姿が文様の入った卵の様な形に変化した次の瞬間、卵の姿は嘘のように消えていた。
この世界でのマクシミリアンという人物の存在の記憶や
そして前世での「胡蝶の恋」というゲームの記憶を持つもの以外では、この世界のマクシミリアンという人物が存在した事実を、覚えているものは誰ひとりとして消え去った事も…。
この男性が誰かは後々明らかになります。