黒い羽を伝う雫。鳥でも泣けるんだな。呆然とした気持ちでその現実を受け入れる俺。
涙が伝う度に白魚のような綺麗なお嬢様の指に拭われて…。
何だか情けない気分に襲われるけれど、上手く止められる気がしない。
「泣きたいだけ泣くといいですわ。ずっと泣けなかったのでしょう?」
温かい腕に包まれ、抱きしめられる様にして、されるがままになる俺に「大丈夫です。大丈夫ですから…」宥めるように背中を撫でる温かい腕。
俺が泣く様な出来事があっただろうか…。
ひよこになってからの記憶の琴線には引っ掛かって来ないのに、ずっと抱えてきた荷物をやっと下ろせたような、安心感は何なのだろう。
そうだった…闇の魔法……。
家族が殺されそうになって、助けようとしたはずなのに、化け物だと…。
その後の家族の怯えた顔…。
叔父に引き取られ、家族の記憶を消した時、俺の心傷だけを置き去りにして彼らは何事もなかった昔のように振る舞った。
『本当の俺とは向き合わなかった癖に…』
それから隠し続けていた闇の魔法。
血の繋がった家族だって、恐れて俺との記憶を捨てたんだ。お嬢様を信じてしまって、裏切られた気持ちになるのは俺自身だ。
なのにお嬢様の根拠のない「大丈夫」という言葉が降り積もる雪の様に、今もなお剥き出しのままの心の傷にふわりふわりと降り積もり傷口を覆い隠し、癒やされていく様だった。
一緒に涙を流してくれる彼女に泣き止んで欲しくて、隠し続けていた闇の魔法を発動させてしまい、俺自身の影から、黒い犬の様なモノを出してしまい、お嬢様様の頬を舐めさせていた。
「ビックリした! このワンちゃんは慰めてくれるなんて優しいのね」
ビクリと身動ぎをしてしまうけれど、お嬢様の反応は想像と違った。
「可愛いワンちゃん! もっと出せるのかしら…。この子達に囲まれたら、もふもふ天国ができそうね!」
『もふもふ天国……』
「マクシミリアンの魔法で、出してくれるワンちゃんなのでしょう? きっと皆優しい子ね!」
彼女の涙は止まりきっていないけれど、お嬢様ははにかむように微笑んだ。
『そうでしょうか? 恐ろしくは…ないのでしょうか?』
「だってマクシミリアンの出してくれる子でしょう? 優しい子に決まっているわ!」
そうか…。
俺は認めて欲しかっただけかもしれない。家族を守ろうとして力を使った事を。
未知の力だとして、恐怖するにしても俺自身と向き合って欲しかっただけかもしれない。
本当に遠回りしてきてしまったみたいだ。
この少女にどれだけ救われたのだろうか。
ひよこになってからも…、そして記憶をおもいだせていないこれまでも、きっと。