朧げにたまに顔を出す記憶は、俺にとっては優しいものでは無かったようだ。
成程、歪んだ気持ちも育つ訳だ。
何故忘れていたのか定かではないが、旦那様にはまるで本当の息子の様に育てられ、お嬢様を護るためと言い聞かせて魔法を更に学ぶ為に、離れて暮らした。
お嬢様は闇の魔法…影から出てきた獣に舐められ、俺を抱きしめたまま泣き笑いの様になっている。
「素敵な魔法ね…。きっと使う人によって、恐ろしい使い方に代わってしまうのだろうけど、使うのがマクシミリアンなら、きっといつまでも優しい魔法のままね!」
俺自身が信じられない自分自身の本質を、無条件で受け入れる様な、なんとも複雑な心境だ。
無条件に受け入れられる事に慣れてない気恥ずかしさもあるのかもしれない。
俺に言い聞かせる様にして、お嬢様は続けた。
「多分、恐ろしいのは人の心よ。薬だって呪いだってま魔法だって、使い方を間違えているのに、その事に痛みすら覚えない人の方が恐ろしいわ…」
そうかもしれない。
もしそれが意味があって始めた事でも、罪悪感や痛みを伴う。いつしかそれが自身の保身の為、人を貶めて生きる行為が正義とされる事もあるのだから。
答えなんて、人の数だけあり、一つなどではないのだから。
数式の様に確たる答えが準備されている事は稀で、人がいれば、それだけの数のたとえ似通ってみえても、どこか違う、理想や正義がきっとあるのだから。
そして人は都合のいいことだけをみる。もしも間違っているとしても、自身が正しいのだと思い込もうとする。
お嬢様を諦められない俺の様に。
俺は俺を信じて、頼ってくれる…、寄り添ってくれる彼女の信頼…、守って行けるのだろうか。その資格など俺にあるのか?
そう思い、ひよこの姿のままの俺をふわりと優しい力で抱きしめている、お嬢様を見つめると…。
「大丈夫よ。 貴方は私の推しだもの。 根拠なんてないけれど、もしも道を間違えそうになったら、一緒に答えを探しましょう? それもきっと悪くないですわ」
『推し……』俺がそう呟くと、お嬢様ははにかむ様に「大好きって事ですわ」と返してくれた。
「でも、わたくしの前世からの思いも、行動も間違っているのかもしれないですわ。 破滅もしたくないですし、死にたくだってないですし、だからといってマクシミリアンが恋に落ちても、きちんと応援出来るか今だって自信がないもの」
『……ん?』
なんだか色々と聞き捨てならない台詞を、耳にしてしまった気がするのは気のせいだろうか?