流石、アルフォンス様というべきか。さり気なくフィリップ王子の耳に招待状の話が入る様に情報操作し、内々に厳重注意されたのか、お嬢様に関わってくることはなくなった。
だがたまにお嬢様は「私、あの方病みを更に悪化させたんじゃ…。ふうぅ……マクシミリアン…、怖いぃ……」と俺に愛らしい頬を寄せ呟いている。
何に怯えているのだろうか…。力になりたい…。
けれどひよこじゃ力になれるなんて、思ってもらえる訳がないか…。胸がチクリと痛む。
アルフォンス様は先日領地に帰って行かれたが、その少し前のことだお嬢様の元に訪れた。
「ビアンカ、君の
「マクシミリアン、君はただのひよこではないよね。何者なんだろうね。人の言葉を理解し、魔法が使える。あの状況で僕を呼んだところを見ると、文字も読めていたのかな?」
アルフォンス様はまっすぐに俺を見ている。
絵面としては、アルフォンス様が手のひらに乗せたひよこに独り言を聞いてもらってるようなものだろうか?言われた事は真実だし、排除されるよりはマシだろうと俺は『そうです』と伝える。
「なんだか君を見てると、本当に人みたいだね。まるで子供の頃に読んだ事のある、童話の呪いにかかった王子様みたいだね」
俺自身が自らの正体を知らないのだから、答えようがないのでおとなしく話を聞いておく。
「今の君は魔力を持っていようと無力だよ。人に協力してもらえなければビアンカを助けられない事だってあるよね…? もし君が童話みたいに、呪いにかかった人間…だと言うのなら、それらをはね除けてビアンカを守ってごらん。それが出来るなら、僕は君を認めても良いとも思っているよ」
アルフォンス様は、柔らかなウェーブのかかった金髪が、キラキラと陽の光を浴び輝き、新緑を写したような瞳で、俺を見つめてそう言い微笑んだ。
本当になんと無駄にキラキラとした兄妹だろうか。貴方達は天使なのか!たまに浄化されそうな気持ちになる。
恐らくジョアンナも俺と浄化されそうな同類だろうが。
どうでもいい事に思考が脱線していた時、不意にゾクリとした感覚が走り、空気が変わった気がした。
意識をそちらに戻す。
「だけどね、もしも彼女の名誉を傷つける存在になりうるのならば、僕は君でも許さない事も忘れないで欲しいかな」
言葉を発しているだけなのに、背中に悪寒が走る。本当に敵にはしたくない方だな貴方は…。
『わかってます、私自身自分が何者なのかわかっていないので善処します。お嬢様は私にとっても大切なので』
「じゃあ、そろそろ
あぁ、だがもし俺が本当に人間だとしたら、今までの所業は許してもらえるのだろうか?! 俺どう考えてもオスだよな? 一緒に寝れるのも、お嬢様にお風呂で綺麗に洗って貰えるのも、食べやすいサイズに切った大好物の肉をあ~んとしてもらえるのも…。温かくて何故か涙が出そうになるほど幸せで……。かつて俺が持ってなかった物だからなのか、心の奥深くに眠る何かが悲鳴をあげる、手放したくないのだと。
お嬢様の為に何ができるか、俺はもっと知るべきかもしれない。
俺がお嬢様を護るために出来る事をするならば、もし本当に人間だったら嫌われる覚悟も必要だ。
騙したわけではないが、それでも今までのやり取りを恥ずかしがって、離れてしまう可能性だってあるのだ…。
長引かせればその分だけ、明かした時の溝は深まってしまうのだろう。
ありえないことに頭を悩ませても仕方ないのだが。
お嬢様に触れてもらえなくなるのも避けられるのも、想像するだけで引き裂かれそうに心が痛むが、決断の時は近いのかもしれない…。