自称カルデア最強マスターとぐだ子の人理修復録   作:なまゆっけ

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 最近FGOを履修しました。ファーストミッションまでに一週間の猶予がありますが特に意味はないです。


第1話 レフ・ライノールの憂鬱

 バルドルは美貌と叡智を兼ね備え、世界に灯明をもたらす光の神だった。

 その神は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という母神(フリッグ)の契約により、如何なる物でも傷をつけること能わぬ、不死の体を手に入れた。

 しかし、世界各地の伝承において、不死とは得てして破られる運命を背負っている。

 アーサー王、ジークフリート、アキレウス、カルナ……数多くの英雄が不死性の陥穽を突かれ、その人生に幕を引いた。そしてそれは、神であるバルドルでさえも逃れることはできなかった。

 ミストルティン──若すぎるが故に契約を外れたヤドリギが、並ぶ者無き美神に死を与えたのだ。

 ロキの策略により、盲目の神ヘズが投擲したヤドリギの矢。バルドルを失った世界からは光が消え、やがては神々の黄昏が訪れる。

 神の命を絶った、罪深きヤドリギのその後を示す記述はない。当然、矢を拾った人間のことも。全ては時間の波に流された。

 

 

 ──だから、何としてでも伝えなくてはならない。何としてでも残さなくてはならない。

 其は神代の秘蹟、奇跡の具現。

 いつか神秘が消え失せるその時まで。

 未だ見ぬ子孫の人生をも犠牲に、この聖枝を護り抜こう。

 

 

 それが悠久の時を刻む守り人の家系、ナーストレンド(死者の岸)家の興りであった。遥か過去の神秘を現代まで伝えきった、数少ない一族のひとつだ。

 ……とは言うものの。魔術師として彼らの実力を見るならば、精々二、三流が良いところだ。先祖の中には、基本とされる『強化』の魔術すらできない者もいたほどである。1000年の歴史もそれでは看板倒れ。単純な魔術の腕前は、平凡な家系の魔術師にも遥かに劣るだろう。

 彼らはヤドリギの強奪を恐れて、自らの魔術工房に千年単位で引き籠もり続けた。外部の血を度々取り込みつつも、ほとんどは近親婚。それ故に一族の魔術、体質が変容し、通常の魔術には適さない家系となってしまったのだ。

 しかも、それだけではない。外界を遮断し続けたことで、他の魔術の知識を更新できなくなった。

 魔術師は研究を秘匿する。それでも共有される基本的な手法というのは、時代の流れの中で発展し、改良される。だが、ヤドリギの継承しか考えていない引き籠もり達がそんなものを知るはずがない。そのため、彼らの研究の歩みは周回遅れとなったのである。

 ところが、偶然か必然か、優れた才能は停滞期に生まれる。自家の魔術を進歩させ、既存の魔術基盤との融合を実現した奇才──彼こそが、暗黒の未来より世界を救う最強のマスターであった。

 

「そういう訳でカルデアで雇ってくれませんか。とりあえずレイシフトAチームのリーダー辺りでお願いします。もし採用されなかったら暴れるんで」

「レフ、この馬鹿を一刻も早く叩き出しなさい」

 

 人理継続保障機関フィニス・カルデア。人類の未来を繋ぐため、魔術と科学の粋を結集して創り上げられた組織である。場所は遥か南極大陸、標高6000メートルの山の地下に居を構えている。

 世界レベルの重要機関であるカルデアの一室を貸し切り、カルデア所長と顧問による面接が行われていた。それだけでも異例と言えるのだが、相手もまた異例と言えるだろう。

 神代からの長ったらしい自己PRを終えたのは、ノアトゥール・スヴェン・ナーストレンド。北欧はデンマークの出身。頭髪から眉毛、睫毛に至るまで白く、碧い瞳の青年だった。その身長は190cmはあるが、なぜか中学二年生じみたデザインの軍服風の礼装を身に纏っている。

 カルデア所長のオルガマリーは魔術において、非凡な才能を有している。その辛口な鑑識眼をしても、彼の礼装が逸物であることを認めざるを得なかった。

 が、所長が抱いていた期待は今のやり取りで彼方へ吹き飛んだ。面接の自己PRなど盛った者勝ちではあるが、ノアトゥールのそれは常軌を逸している。

 レフ、と呼ばれた紳士風の男は、困ったような表情を繕う。

 

「人格はともかくとして、魔術回路の質・量ともに彼はカルデアでも貴重な逸材だ。レイシフト適性もあるようだし、手放すには惜しい人材と言える」

 

「人格が伴ってない人材をどう使うのよ。それにしても時期が悪すぎるわ、この後説明会もあるっていうのに」

 

 さらに、カルデアは一週間後に計画の山場を控えている。所長は胃痛の疼きを感じた。

 そんな二人を嘲笑うかのように、

 

「あの、アットホームな職場って聞いたんですけど、募集要項の見間違いですかね」

「どこで見たのよ誰から聞いたのよ!? 」

「さっき廊下で会ったムニエルって人からですね。あっ、残業は月最高20時間ですよね」

「んな訳あるか! カルデアは残業月100時間は余裕で超えるブラック企業よ! 人理修復ナメんな!!」

 

 口調をも捨て去った激しい圧迫面接を受け、ノアトゥールは頭を抱えた。

 

「む、ムニエル……!! 許せねええええ!! 月100時間超えとかブラック通り越してRXだろうが! 続編始まってるじゃねえか!!」

 

 カルデアは秘匿機関ながらも国連に籍を置いている。が、人類の未来を保障するという大義を遵守するため、一般職員であっても多大な労働が課せられるのだ。

 国連というホワイトな職場を連想させておきながら、実態は水底の如きブラック。魔術界のニートであるナーストレンド家はブラック企業の定型句を知らなかったのである。

 レフは深く考え込む素振りをして言う。

 

「ふむ。ちなみに君は自分を物に例えると何だと思う?」

「レフ? この期に及んで面接官ヅラしなくていいから。どうせ潤滑油とかそんなところでしょう、こんな男の答えなんて」

 

 流石はカルデア顧問といったところか、己の胃痛を避ける術には長けていた。相手の知能レベルに合わせることで、ツッコミ役を所長に押し付けたのだ。

 ノアトゥールはレフの目を真っ直ぐ見据えた。

 

「サラダ油です」

「なにちょっと外してきてるのよムカつくわね。あんたでギトギトになったカルデアなんて想像したくもないわ」

「そんな時にこそ、所長という油取り紙が役に立てるのかな、って」

「それ油取る時以外には使えないって言ってる? ぶっ殺すわよ」

 

 思わず身を乗り出しかけた所長を、レフはどうどうとたしなめた。長い付き合いなのか、手綱の握り方は心得ているようだ。

 レフが所長に耳打ちする。大きなため息をついた後、所長はノアトゥールに向き直る。こめかみにはまだ青筋が浮かんでいるがご愛嬌だろう。

 こほん、と前置きして、所長は沙汰を言い渡した。

 

「あなたをレイシフトEチームのリーダーに任命します。ファーストミッションは待機。研鑽に励みなさい。これで面接は終わりよ。とっとと出ていけクソ野郎」

「え、E? なにそれ? Aの言い間違いとかじゃなくて?」

「すまない、そういうことなんだ。南極に放り出されなかっただけ僥倖だと思ってほしい」

「ちょっ、何やってんだよ所長ォォォ!!!」

 

 抵抗する間もなくノアトゥールは面接室から放り出される。出る杭は打たれる、とよく言うが、彼は出る前に打たれたのであった。

 そして、北の問題児あれば、東の問題児あり。

 オルガマリー所長の説明会、もといストレス発散は散々な結末に終わった。

 悠々と遅刻をかましたのは極東の一般人、藤丸 立香。一番前というやんちゃなガキ大将でも大人しくなる席に着きながら、彼女はレム睡眠を始めたのである。

 所長は積もり積もったフラストレーションを晴らすかのように熱弁を振るったが、睡魔の前にはASMRに等しかった。魔術などかなぐり捨てた本気の平手打ちが立香を襲い、説明会は締め括られたのだった。

 張り手をくらった上にファーストミッションからも外された立香だが、幸運が残されていた。それはマシュ・キリエライトというできる後輩がいたことであろう。マシュは撃沈した立香を彼女の個室に運ぶことを買って出たのだ。

 道中でカルデアのマスコットキャラクターこと謎生物フォウくんをパーティに加え、部屋に辿り着いたかと思えば、

 

「やっぱサラダ油とか言ったのが駄目だったんだなアレ。ヘルシーに行こうとしたのが間違いだったか……変に外さずに潤滑油でいっときゃなぁ……」

 

 扉の前で体育座りで愚痴を垂れ流す大男がいた。

 当然だが、男が落ち込んでいる事情などマシュは知らない。傍から見れば、変人以外の何物でもない。

 軽い呪術にも見えそうな様子に、立香もただならぬ背景を察した。ちなみに眠気は所長の一撃で吹き飛んでいた。

 

「あのー、辛いことでもあったんですか?」

 

 先陣を切ったのは東の問題児。対人関係の豊富さなら、この場ではダントツでトップである。

 

「いや、面接でやらかして……どうやら所長を怒らせたらしい」

「あ、それなら私もですよ。あの人の目の前で寝ちゃって、ビンタくらいました」

「マジか、俺以外にもそんな奴がいるんだな! もしかして、ファーストミッションからも外されてたりするのか」

「ええ、もちろん! なんだか私たち気が合いそうじゃないですか?」

「「アハハハハハ!!」」

 

 この時、マシュは心からの同情を所長に捧げた。カルデアには個性的な人物が多いが、所長を最も苦しませたのはこの二人をおいていないだろう。

 マシュがふと注意を戻すと、二人は通路のど真ん中で体育座りをしていた。

 

「はあ~、やっちゃったぁ……国連の職員になってエリート街道まっしぐらだと思ったのに……」

「大体潤滑油ってなんだよ人の仲を取り持とうって時点で他人によく見られたい魂胆が見え透いてんだよ40歳過ぎた組織の潤滑油とかもはや悲惨だろお前のそのヌルヌルの手じゃ誰も救えねえよ」

「そろそろ切り替えてもらって良いですか。同じくだりはもうしましたし、一向に物語が進む気配がありません!」

 

 マシュの一喝により、問題児共はしぶしぶ立ち上がる。すると、無人だったはずの個室のドアが開かれた。

 どことなく軽薄そうな男が、ニヤケ顔を浮かべながらスキップ気味の足取りで出てくる。

 

「うっ、ふぅ……息抜きも終わったし、仕事にもど──」

 

 三人と目が合う。反射的に視線を外した瞬間、彼のほんわかした頭はかつてないほどに回転した。

 

(最後の空き部屋。新人マスターの女の子。その個室から意気揚々と飛び出した不審者…………)

 

 恐る恐る、各人の顔色を伺う。立香は笑顔を取り繕い、

 

「えーと、そこ、私の部屋だって聞いてたんですけど」

 

 ノアトゥールは意地の悪い笑みで、

 

「息抜き? 抜いてたのは別の──ぐわああああ!?」

 

 最低の発言を遮ったのは、フォウくんのロケット頭突きであった。マシュは床に倒れ込んだ白髪男を、養豚場のブタでも見るかのように冷たい目で見下ろした。

 

「……とりあえず、このとっ散らかった状況をどうにかしましょうか」

「うん、そうだね。ボクも弁明したいし。一応そこでのびてる彼も起こしてあげようか」

 

 

 

 現在のカルデアは忙しい。どれくらい忙しいかと言えば、働き過ぎて残業の概念が無くなるほどだ。

 だがそれは一般職員の話。カルデアが世界中から掻き集めたマスターたちは、労働基準法を守るくらいには良い待遇を受けている。来たる人理修復の主戦力を消耗させることを避けるためである。

 カルデアの食堂。昼時ではあるものの、人口密度は低かった。多くの人員が激務に追われているからだろう。

 なお、彼らにそんなことは関係なかった。空の食器をよそに駄弁り散らかしている。

 

「ボクはロマニ・アーキマン。みんなからはDr.ロマン、なんて呼ばれてる。さっきはサボってただけで、何もいかがわしいことはしてないからね」

「それはそれでどうかと思います。こんなのでもカルデア医療部門のトップを務めています。できる限りお世話にならないようにしてください」

「むしろ最大の被害者はボクだと思う。残ってるのはあの部屋しかなかったのに……」

 

 かなりの要職に就きながらも、この緩さ。立香は戸惑いつつも訊いた。

 

「こんなところで呑気にごはん食べてて良いんですか?」

「それについては問題ないよ、みんなボクより優秀だから」

 

 問題しかなかった。マシュもツッコミを放置して、どこか遠くへ視線を送っている。

 立香はノアトゥールへと向き直った。

 

「そ、そういえば名前を聞いてませんでしたね」

「ああ。ノアトゥール・スヴェン・ナーストレンドだ。ノア、でいい。こんなのでもEチームのリーダーを務めている」

「なんて低レベルな対抗心なんでしょう……」

「やめろ、そのツッコミは俺に効く」

 

 未だに現実逃避を続けるダメ人間がここにいた。落ち込む彼を、ロマニはたしなめる。

 

「まあまあ、その分サボれると考えれば役得じゃないか」

「確かに。Aチームの奴らの足でも引っ張ってくるか」

「それをわたしの前で言った時点で、その野望は潰えた訳ですが。ノアさんはともかく、先輩は全てにおいて素人なので、まずは知識を付けるべきかと」

 

 ノアと立香、二人の決定的な違いは魔術への造詣の深さだろう。両者ともカルデアには無知だが、魔術の知識に関してはノアは一家言を持つ立場だ。

 

「藤丸は元一般人だったんだろ、色々と疎いのは仕方ない。……が、それではEチームリーダーとしての沽券に関わる。という訳で鍛えるぞ」

「それは良いんですけど、私っていつからEチームになったんですか!?」

「所長にはり倒された時でしょう。人事部を通して連絡が来るはずです」

「しっかり正式な手順を踏んでのEチーム配属だった……!?」

 

 でも、と立香は付け加える。

 

「魔術……って、私の想像する限りでは、一朝一夕の修行じゃあどうしようもない気がするんですけど」

 

 その言葉は的を射ていた。魔術の世界で物を言うのは、何を置いても『時間』に尽きる。家の歴史、神秘の古さ、鍛錬に費やした年数。一握りの才能がこれらを凌駕することはあるが、例外は少数だからこそ例外なのだ。

 

「そんなあなたにカルデア式礼装! 魔力を通すだけで魔術が使えちゃう! カルデア技術班が寝る間も惜しんで開発した優れ物さ! ボクは全く関わってないけどね!!」

「やったぁ! 魔術なんてちょろいですね! EチームのEはエリートのEだってところを見せてやりますよ!」

「その意気だ藤丸ゥ! ガンドくらいなら人に当てても俺が許す!!」

 

 マシュはツッコミを放棄した。この異常なテンションについていく気力を持たなかったのだ。

 彼女はすごすごとその場を後にしようとする。

 

「では、わたしはこれで」

「なに言ってんだ、おまえも来るんだよ」

「……はあ、教師役は一人で十分なのでは?」

 

 首を傾げるマシュ。言動とは裏腹に、ノアからの提案は断り難いものがあった。

 マシュ・キリエライトはカルデアで産まれ、カルデアで育った少女である。そんな彼女にとって、新しい顔触れは珍しい。特に、魔術師でもなく、技術者でもない藤丸立香という人間は初めて遭遇する人種だ。

 真っ当に産まれ、真っ当に育ってきた少女。何もかもが正反対。マシュにとっての普通は、立香からすれば特殊に見えるだろう。逆もまた然りである。

 故に、興味を抱いた。

 

(もう少しだけ、一緒にいたい)

 

 そんな欲望が生まれるのは当然で。

 ノアはそれを察したように微笑した。

 

「いや、俺らだけだとどこで練習すればいいか分からないだろ。絶対迷う。100クローネ賭けてもいい」

 

 妙にしょっぱい賭け金だった。

 

「え、それだけですか? 」

「それだけだな。あ、なんなら手伝ってくれてもいいぞ。いらないだろうがな。俺天才だし」

「………………」 

 

 この男に人の気持ちを慮れと言う方が無茶だということを、マシュは痛感した。

 更なるサボりの余地を見つけたロマニは柔らかな笑顔で、

 

「じゃあボクも手伝──」

「「「働け」」」

 

 

 

 結果的に言うと、ノアは役に立たなかった。というより、マシュに教師役を乗っ取られた、と言ったほうが正しい。

 

「いいか藤丸。こういうのは日本の諺にあるように、習うより慣れろだ。礼装に魔力を流し続けて、その感覚を身につける」

「へぇー…………なんか、どんどん力が抜けていく!? めまいと頭痛がしてきました!」

「それは魔力が枯渇していく感覚だな。補給する方法はあるから、とりあえず五回くらい気絶するまでやっ──」

「フォーウ!!」

 

 言い切る前に、どこからともなく現れたフォウくんのドロップキックがノアの鳩尾に炸裂した。

 

「うごおおおおお!!!??」

 

 ノアはエビのように背を丸め、悶絶する。その上から、南極の氷よりも冷ややかなマシュの声が浴びせかけられる。

 

「馬鹿ですかあなたは。先輩、この人の話は聞かなくて良いです」

「ま、待て待て、初心者は魔術の怖さを身をもって知るほうが先だろ」

「いつの時代の指導法ですか? 口頭で十分です。し、しかも魔力供給なんて……不潔です!」

「少なくともおまえが考えてるようなR-18な行為はしねえよ! ヤドリギの種を()()に……」

 

 ぴくん、とマシュの耳が動いた。

 

「種を()()に……!? 立派な隠語じゃないですか! R-18じゃないですか! わたしが考えてるような行為じゃないですか!」

「駄目だ、こいつ頭がピンクすぎる。実際はなすびみたいな色してるのに」

 

 レンコンくらい中身のない会話をする二人に、一転鬼気迫る声音が届く。

 

「あの、意識が遠くなってきました! お花畑が見えます助けて!」

「生命維持に関わるほどの魔力は取られないようになってる。安心して気を失え」

「阿呆ですか!? 先輩、今止めます!」

 

 というように、時代遅れのスパルタ特訓は否定されたのだった。ただし、それが立香にとって良い方向に働いたかと言えばそうでもない。

 元々、魔術の訓練など過酷であって当然なのだ。この世の大多数の人間にとって、それは外法なのだから。その点ではノアの主張は間違っていなかった。

 それを踏まえて、彼らは役割を分担した。アクセルを踏むノアと、ブレーキを掛けるマシュ、といった風に。どちらもベタ踏みだったことは言うまでもない。

 不思議と、この方法は功を奏した。立香も未知の技術に触れ、興が乗った結果、

 

「22時48分……」

 

 年頃の少女には辛い時刻になっていた。相変わらずカルデアの職員は辺りを駆けずり回っているが。

 

「主に誰かのせいで時間を浪費しましたからね」

「誰のことだか見当もつかねえな」

 

 この男、本気で言っている。それに気づいたとき、立香とマシュは軽く引いた。

 

「もう夜も遅いですし、そろそろ休みましょうか」

「そうだね。リーダーも早く寝た方が良いですよ」

「そうしたいのは山々なんだが……ロマニが残ってたのは藤丸の部屋だけ、みたいなこと言ってたよな?」

 

 青ざめた表情で切り出すノア。その顔は、珍しく真に迫る焦燥を抱えている。

 

「それがどうしたんですか?」

 

 立香は首を傾げた。

 

「俺は何処で寝ればいいんだ」

 

 立香とマシュは顔を見合わせ、

 

「「…………お疲れ様でした~」」

「待てェェ!! 何その退社間際のOLみたいな反応!? 俺を見捨てるなァァァ!!!」

 

 

 レフは予定されていた業務を終え、自室に戻ろうとしていた。優秀な彼にとってカルデアの仕事は特段難しいものではない。ただ数が多いだけで、それが彼の精神に影響を与えるというようなことは一切無かった。

 そう、たとえノアというイレギュラーが発生したとしても。

 

(神を殺したヤドリギの所有者……処分する人間がひとり増えただけだ。問題はない)

 

 神代の奇跡の残り香、とでも表現すれば聞こえは良いだろう。いかにも好事家が飛びつきそうな話だ。しかし、今この時代において神を殺すなどという剣呑な性質は何ら役に立たない。

 古代の英雄王(ギルガメッシュ)が天との決別を告げた時から、もしくは哲学者(ニーチェ)が旧時代的観念の滅亡を唱えた時から、この地平より神は駆逐されたのだから。

 レフがこれより執行する計画の前には、ノアは路傍の石にも劣る重要度だ。故に恐れるに足らず。レフは意気込み、自室に入る。

 そこには、

 

「お邪魔してまーす」

 

 他人のベッドの上で土足で寝そべりながら、酒を飲み散らかすモラル崩壊男(ノアトゥール)がいた。ちなみに、酒はレフの所有物であり、20年物のワインだった。他にも既に開けられたであろう瓶が辺りに転がっている。

 

「……ここで何を?」

「俺の部屋が無いんだから仕方ない。ああ、おまえは床で寝ろよ」

(よし、こいつだけは念入りに爆殺する)

 

 今ここで騒ぎを起こすわけにはいかない。怒りに震える拳を握り砕かんばかりに諫め、レフは固く心に誓ったのだった。

 残り六日、自室を占領されることも知らずに。




 ノアくんは性格がゲロ煮込みうどんなのでひとりで人理修復を果たせる器ではありません。
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