自称カルデア最強マスターとぐだ子の人理修復録   作:なまゆっけ

16 / 117
ギャグ回です。今回の後書きは、ロベスピエールのステータスを載せてあります。


第14.5話 ガチャを回す時、ガチャもまたこちらを回しているのだ

 カルデア、召喚実験場。

 職員たちが寝静まった深夜。薄暗くなった施設の中で、そこだけは電気の光に明るく照らされていた。

 守護英霊召喚システム・フェイト。かつて冬木にて行われた召喚式を元に構築された、カルデアの発明のひとつである。

 現在、マシュに力を貸している英霊とダ・ヴィンチはこのシステムを利用して召喚されており、通常はAチームのために使われるはずだった。

 が、レフ・ライノールの爆破工作によって全ての計画は頓挫。何の因果か、最も渡してはいけないEチームの手に収まるという事態を引き起こしてしまったのだった。

 幸いだったのは、召喚実験場の受けた被害は少なかったことだろう。戦力を供給する命綱だけあって、レフもやすやすと入り込めないセキュリティが施されていたようだ。

 そんな場所に、ノアとロマンはいた。前者は何やら機材を弄くり回していて、後者は机の上で手作業をしている。

 ロマンは手を動かしながら、ちらりとノアをのぞき見る。彼の魔術の才能は疑うべくもないが、カルデアの召喚システムは魔術だけではなく、機械を用いた工学・科学的分野とも接点が深い。

 得てして、優秀な魔術師は機械に疎くなりがちである。それはあらゆる電子機器の働きが、ある程度魔術回路で代用できるためだ。

 そんな訳で、ロマンはノアに召喚システムの整備を任せることを不安視していた。

 

「ノアくん、調子はどうだい?」

「所長の部屋からパクってきた資料がある。問題ねえ」

「……何をやってるのかなあキミは! いつものことだけど!!」

「俺たちに有効活用されてこそ、所長も浮かばれるってもんだ。草葉の陰でタップダンスでも踊ってるんじゃねえか?」

「うん、それだけはないだろうと断言できる」

 

 今頃、所長は草葉の陰でほぞを噛んでいることだろう。ロマンは心の中で所長へ合掌を捧げた。

 とはいえ、残された資料だけで召喚式の構築をし直すのも、それはそれで難度が高い。専門的な語彙と知識ばかりの文面を苦もなく理解し、実行する。

 そう言えば聞こえは良いのだが、やっていることは盗人と変わりない。

 カチャカチャと作業音が響く中、ノアはロマンを見咎めて言った。

 

「ロマン、おまえはさっきから何やってんだ?」

「ああ、これはね……」

 

 ロマンは人差し指と親指で、何やら虹色の結晶をつまみ上げる。

 その結晶は星型の八面体ともいえる形状をしていた。机の上を見れば、八面体の角の部分だけを切り取ったような破片が散らばっていた。

 見た目だけならば綺麗なのだが、それが纏い持つ雰囲気はおどろおどろしい呪物のそれである。人間の血と汗と涙とその他諸々が、その八面体には詰まっているのだ。

 

「聖晶石って言うんだ。ボクが夜なべして欠片をくっつけて───」

「いいからiTunesカード買ってこいよ」

「そんなものはウチには存在しません! たとえ正月だろうとね!!」

 

 聖晶石。数々の歓喜と絶望を生み出した悪魔の物体である。カルデアのリソースを費やして、ようやく完成する貴重品でもあった。

 その用途は、召喚の際に必要になるエネルギーを供給する燃料。これを消費することで、カルデアの召喚システムは成り立っている。

 何かを振り払うように頭を抱えるロマン。彼の手の内には、接着剤が握られていた。どうやら、その八面体は破片を繋ぎ合わせてできたものらしい。接合の方法が些か小学校の図工じみているが。

 それを見て、ノアは愕然とした。

 

「おい待て、それアロンアルファでくっつけてんのか!?」

「え、そうだけど?」

「アホか! 接着面から流れ出してパッサパサになってるじゃねえか!」

「ああ大丈夫、お湯に浸ければ取れるから」

「それだと全部バラけるだろうが!!」

 

 そう言っておどけるロマン。ノアは彼の元へずかずかと近寄ると、

 

「よし、今からおまえの目にアロンアルファをたらす」

「何その新手の拷問は!?」

 

 という茶番は後回しにして。

 なんやかんやで召喚の準備は整った。後は動力となる聖晶石を炉に補給すれば、勝手に機械が魔術式を代行してくれるだろう。

 立香の願いから端を発したことではあるが、カルデアにとっての利益は甚だ大きい。これからの戦いに向けて、英霊を喚び出すことで戦力を補強できるのだから。

 そもそも、人理焼却を起こした黒幕すら掴めていないのだ。相手の実力が知れない以上、戦力はどれだけあっても安心できない。立香だけでなく、ノアも契約するサーヴァントを増やす必要に駆られる場合もあるだろう。

 召喚システムの修理が終わり、一息ついた頃。ロマンは口元にコーヒーを運びながら、何の気なしに訊いた。

 

「そういえば、ノアくんは召喚したい英霊とか、憧れの英霊はいるのかい?」

「ソロモン王」

「ブフゥーッ!!!」

 

 水鉄砲の如く、含んでいた液体を吹き出すロマン。彼は激しく咳き込みながら、声をひねり出す。

 

「そ、その人はやめた方がいいんじゃないかな?」

「何でだよ。魔術師なら誰もが憧れるだろ。普通に戦わせても最強クラスだろうしな。人を認めても尊敬はしない俺が唯一敬う人物だ」

「う、うーん、まあ……他には?」

「能力を認めてるって意味なら、パラケルスス、エレナ・ブラヴァツキー、アレイスター・クロウリー、安倍晴明、マーリン…………」

魔術師(キャスター)ばっかりじゃないか!!」

 

 ノアが英霊から技術をかすめ取ろうとしていることが、透けて見える人選である。

 戦っても強いことは確かだろうが、個人の趣味が反映されすぎている。具体的にはライダーのサーヴァントに弱くなることは請け合いだろう。

 だが、これは彼の趣味の問題だけではなかった。

 

「レフの奴が〝焼却式 フラウロス〟だとか言ってやがっただろ。今回の黒幕がソロモン王だと決め付けた訳じゃないが、フラウロスってのは72柱の悪魔の一柱だ。答えには近づける」

「へえ、本音は?」

「指輪が欲しい」

「……だと思った」

 

 その間もロマンは聖晶石の欠片を貼り合わせていたのだが、手元に残っている数を確認して気付く。

 

「しまった、欠片が七個しかない」

「ちょっと貸してみろ」

 

 催促するノアに、欠片と接着剤を手渡す。彼は手の内でそれらをこね合わせると、数秒後には八つの角が揃った聖晶石が手のひらの上に乗っていた。

 

「いち、に……あれ? どういうこと!? もうひとつの角は何処にあったんだ!?」

「知らん。俺に聞くな」

「自分でやったのに!?」

 

 ノアはその石を持ったまま、召喚システムの動力源に向かう。

 

「動作チェックだ。一回やってみるか」

「そんなこと言って、試してみたいだけだろう?」

「おまえもな。顔がニヤけてんぞ」

「あ、バレた? なんだかんだ新顔が増えるのは楽しみなんだよね」

「「フハハハハハハ!!」」

 

 そう、二人は深夜テンションだった。

 ロマンもカフェインでごまかしていたが、それも限界。第一特異点修復の疲労が抜け切らないままに作業を行っていたのだから、当然とも言える。

 半ば暴走気味になっていた二人は、聖晶石を石炭のように動力炉に流し込む。一応かなりの貴重品のはずなのだが、そんなことを考える頭は残されていなかった。

 ノアが手をかざすと、床に描かれた複雑な幾何学模様が宙に浮かび上がり、強烈な光を発する。爆発さながらの発光が収まり、彼らは目を見開く。

 

「「こっ…これはっ……!!」」

 

 

 

 

 

 

 翌朝。ところどころで電気灯が点きはじめ、目覚まし時計の音が鳴り響く。そうして数十分後、職員たちは続々と廊下に出る。落ち着き払った様子の者もいれば、バタバタと慌ただしい者もいた。人の少なくなったカルデアだが、朝だけは人気が多く感じられた。

 さらにその十分後、既に人影のない廊下を徘徊するように練り歩く少女の姿が現れる。

 彼女こそは我らがカルデアのマスター、藤丸(ふじまる)立香(りつか)であった。目は虚ろで髪も寝癖立っており、とりあえず着込んだであろう服もくたくたによれていた。

 体を引きずるように、彼女は食堂を目指す。

 何はともあれ栄養を補給しなくてはならない。そんな動物的勘だけが、彼女の体を動かしていたのだった。

 その道中で、「先輩」と呼びかける聞き慣れた声が立香の背中を押す。振り返ると、久々に露出度の低い格好をしたマシュがいた。

 

「おはようございます、先輩」

「マシュおヴぁひょぉう〜」

「人語を話してください。今朝は一段と低血圧ですね」

 

 立香は朝に弱かった。オルレアンでは何とか早起きを心掛けていたようだが、彼女の化けの皮は剥がれてしまったようだ。

 しかし、Eチームの良心ことマシュにとって、この程度は慣れたものである。立香に肩を貸して、食堂まで運んでいく。

 そして、扉の前に立った時だった。鼻腔を突き刺す刺激的な香り。目頭をツンとつつくような空気が、食堂の中から漂ってきていた。

 ノアかダ・ヴィンチか、はたまた両方か。マシュが訝しんでいると、扉の向こう側から、

 

「ギャアアアアアアアア!!!」

 

 最近のカルデアでは恒例の、決して慣れてはいけなかった、断末魔じみた絶叫が鼓膜を揺らした。

 真に迫った叫び声が、もう一度夢の世界に飛びかけていた立香を引きずり戻す。

 彼女たちは顔を合わせ、率直な感想を述べた。

 

「どうしよう、行きたくなくなってきたよ」

「私もです。でも行かないと話が進みません」

「ここで完結してもいいんじゃない?」

「打ち切り漫画でももう少し上手くまとめますよ!?」

 

 今の食堂に入るということは、拷問室に裸一貫で飛び込むことを意味する。下手をすればオルレアン以上の死地が彼女たちを待ち構えているのだ。

 好んでそんな場所に入りたがるほど破綻した精神を持っているわけではない立香は、大きくため息をついた。

 意を決して、食堂に足を踏み入れる。

 

「ほら、しっかり食え。おかわりもいいぞ」

「いや、ちょっ、まっ、ブホォォォ!!!」

「馬鹿野郎ォォォ! 吐き出してんじゃねえ、生産者の気持ちを考えたことあんのか!? おいロマン、こいつ羽交い締めにしとけ!」

「すまないムニエルくん! 尊い犠牲になってくれ!」

「こ、この人でなしども……」

 

 そこで二人が見たものは、ガタガタと震えるムニエルの口に、スプーンで麻婆豆腐を突っ込むノアの姿だった。

 たまらず吐き出したムニエル。彼の顔色は土気色に染まっており、死体もかくやという有り様である。

 というのも、その麻婆豆腐は目に悪い赤色をしていた。皿にさえ乗っていなければ、マグマと説明されても違和感がないほどに。口に入れた瞬間、口内が燃え盛るような感覚に襲われることは間違いない。そんなものを食して無事でいられるのは、冬木市在住の神父くらいなものだろう。

 致死量に達しているのではとすら思わせる香辛料の合わせ技に、ムニエルは泡を吹いて倒れた。

 陸に打ち上げられた魚のように痙攣する彼の手首にロマンはそっと指を当て、脈をはかる。

 

「……ご臨終だ。今回も駄目だったみたいだね」

「よし、ペレアスの横に並べるぞ」

 

 そう言って、彼らはムニエルを雑に運ぶ。床を見れば、至るところに職員たちが転がっており、その中にはうつ伏せになって倒れるペレアスの姿もあった。

 死屍累々とはまさにこのこと。彼らがあの激辛麻婆豆腐の犠牲になったことは、火を見るより明らかだった。サーヴァントですら耐えられないものを、人間が耐えられる道理はない。

 ムニエルの体が床に横たえられる。彼の顔は五十年は老けて見えた。きっと安らかな最期を迎えたことだろう。

 唖然として立ち尽くす立香とマシュ。ノアたちは二人に気づくと、グツグツと煮え立った皿を持ち上げて言う。

 

「「食うか───?」」

「「食うかああああ!!」」

 

 立香とマシュの全力の蹴りが、それぞれノアとロマンに突き刺さる。

 麻婆豆腐の犠牲となった全員の想いを込めた一撃は見事クリーンヒットし、今回の元凶二人は仲良く床をのたうち回った。

 ノアはいち早く立ち直ると、困ったように首を振る。

 

「オイオイオイ、事情も聞かない内にツッコミかますとはとんでもねえお転婆娘だな」

「どう見ても現行犯ですからね!? 一瞬死を覚悟しましたよ私は!!」

「藤丸、頭に昇った血を一旦下ろして、とりあえず俺の話を聞け。これはおまえが遠因でもある」

「こんな殺人計画に協力した覚えはないんですが!?」

「とうとうやらかしましたね。リーダーの評判は元々地に落ちていましたが、今回の件でマントルまで沈み込みました」

 

 唾でも吐き捨てるかのような勢いで、マシュは言葉の剣を突き立てた。

 嫌な予感を察したのか、管制室に立てこもっていたダ・ヴィンチ。彼女はお手製の胃腸薬を被害を受けた全員に振る舞い、彼らを復活させた。その後にノアとロマンが袋叩きになったことは言うまでもない。

 二人は椅子に縛り付けられ、全員から尋問を受けることになった。

 ノアとロマンは一部始終を暴露した。立香の願いを叶えるため召喚システムを修復したこと。試しに召喚を行ったところ英霊は出てこず、麻婆豆腐とその他諸々が召喚陣の上に残っていたこと。

 前者は良い。が、後者に関しては理解に苦しむような話である。英霊を召喚するための魔術が、あろうことか麻婆豆腐を喚び出すはずがないだろう。

 しかし、それは紛れもなく資料通りに修復を行った結果である。整備に不備があるとは考え難い。

 そんなこんなで、カルデアはようやくいつも通りの朝を取り戻した。取り戻したはずだった。

 食事自体は普段通りだ。だが、視界の端で見覚えのない男性が、優雅に紅茶を嗜んでいる。

 赤を基調とした礼服に、きれいに整えられた髭。その表情からは歳を重ねた男の余裕というものを感じさせられた。そんな良い大人が、まるで最初からいたかのように佇んでいた。

 立香は思い切ってノアに問う。

 

「リーダー。あのおじさんは誰なんですか」

「そういえば言ってなかったな。ほら、自己紹介してみろ」

 

 件の男性にそう促すと、彼はくすりと微笑んで、

 

「──優雅たれ」

 

 ノアはゆっくりと立香に向き直る。

 

「…………なんか優雅なおじさんだ」

「いやだから誰!!?」

 

 ただただ優雅なおじさんがそこにいた。彼は一通り紅茶を堪能すると、すたすたと食堂を出ていってしまう。

 ノアと立香はピシャリと閉まった扉を少しの間見つめ、何とも言えない表情を浮かべた。

 

「……一体、何処に行ったんでしょう」

「倉庫だな。定期的に紅茶淹れてやれば、後は自分で何とかしてくれるはずだ」

「シーマンよりは飼育が楽なんですね」

 

 立香はこの異常事態に慣れつつあった。もはや何が出てきても驚くまいと覚悟が決まったのである。

 そもそもあの麻婆豆腐に比べれば、紅茶を嗜むおじさんなど害がないだけまだマシだ。むしろ引き合いに出すこと自体、彼には失礼であろう。

 心の平静に立ち返った立香は、しばらく考える。

 召喚システムを使えるように、というのは自分が発端の話であり、それを受け持ったのはノアたちだ。

 今のところ損害しか被っていないが、同じEチームの仲間として彼に頼りっきりというのは気が引けた。何より立香の性分として、他の誰かに負担を掛けたままにすることは見逃せない。

 だが、借りを返したいと言っても、ノアは受けないだろう。彼はそれほど殊勝な性格ではないし、ここぞという時に返済させるはずだ。

 悶々と悩んでいると、ノアは素っ気ない表情で言った。

 

「俺は自分がやりたくないことは他人にさせる。おまえの話を請け負った以上、それはこっちの領分だ。俺が勝手にやったことを気にかける必要はない」

「あ、そうやってすぐ自分だけの問題にするのはずるいですよ。さっきもおまえが遠因だ、なんて言ってたのに」

「俺は過去を振り返らない」

「この状況でその言葉は全然カッコよくないですからね?」

 

 ノアの頑固な態度に、ふつふつと対抗心が燃え上がってくる。強情さだけなら、立香は負けない自信があった。

 

「分かりました。だったら、リーダーが私のことを縋って頼るようにしてみせます! これは対決ですよ!」

「望むところだ。返り討ちにしてプラスチックゴミと一緒にガンジス川に流してやる」

「良いですよ、私が勝った暁には阿寒湖の底でマリモを乱獲してもらいますから! もちろん素手で!」

 

 などと、地球環境を一切考えない発言をする二人。屠殺場の豚を見るかのような視線が向けられていたことを、彼らが知る由はない。

 遠巻きで彼らを眺めていたマシュとロマンは、淡々と口を開く。

 

「争いは同じレベルの者同士でしか発生しない……そういうことですね」

「カンガルーの方がまだ良いんじゃないかな?」

 

 

 

 

 

 という訳で。

 召喚実験場にEチームの面々とロマン、そしてダ・ヴィンチが集合した。目的はもちろん、竜の魔女一点狙いの召喚であった。

 ダ・ヴィンチの鑑識によると、召喚システムそのものに異常はないが、人理焼却という事態に際して英霊以外のものが喚び出されてしまう……らしい。

 つまり、目当ての者を召喚できるかは立香の運命力にかかっているのだ。

 

「なるほど、ガチャですね!?」

「うん、端的に言うとそうなるね」

「それなら皆さん任せてください! 数々の爆死を経験してきた私には一片の隙もないですよ!!」

「先輩、それは隙しかないです」

 

 なぜか自信ありげな立香の姿に、周りの期待度は一気に低下した。所長が彼女をEチームに追いやった判断は英断だったに違いない。

 ロマンが両手で大きく抱えるほどのダンボール箱を持ってくる。その中には、まばゆいばかりの光を放つ聖晶石が詰め込まれていた。

 

「立香くん、これが我々が用意できる最大限の聖晶せ──」

「近くのコンビニでiTunesカード買ってきますね」

「そのくだりはもうやったから!!」

 

 わめくロマンを尻目に、立香はダンボール箱を持ち上げる。

 すると、彼女は遠慮なく動力炉にその中身を全てぶち撒けた。入り切らなかった石が横からバラバラとこぼれ落ちていく。その光景にロマンは目を白黒させた。

 

「うわああああボクが苦労して作った聖晶石が!! 何の感慨もなく呑み込まれていくゥゥゥ!!」

「え? こんなのすぐに無くなるものですよ? そう……まるで溶けていくように」

「り、立香ちゃんがトリスタンに出奔された時の王くらい悲しい目をしてやがる……!!」

「大袈裟すぎだろ」

 

 召喚陣が光を放ち、円の中心に五つの麻婆豆腐を顕現させた。場は一瞬で静まり返り、立香は無感情で言った。

 

「……ナニコレ。もしかして私、麻婆ピックアップガチャとか引かされてない?」

「ま、まだまだ序盤です。これくらいの確率の偏りはあると思いますよ」

 

 マシュのフォローを受け、再度召喚が行われる。

 先程とは段違いの輝きが実験場を満たし、収束する。召喚陣は濃い煙に包まれており、いくつかの人影がうかがえた。

 少なくとも麻婆豆腐ではない。そのことに、この場の誰もが期待せざるを得ない。ノアとダ・ヴィンチは、こくりと頷きながら、

 

「流石にこれは来たな。天才の俺の目には分かる」

「ふっ……やるね、ノアくん。キミも私と同じ結論に至ったか」

「能力だけなら信頼できる二人のお墨付き──! これは神引きしちゃいましたかね!?」

 

 立香の顔が晴れやかになる。確率に偏りがあるのなら、良い方向に傾くことだって十分あり得る。ガチャには希望も絶望もあるのだ。

 もうもうと立ち込める煙が徐々に晴れていく。四つの人影が前に進み出てきて、口上を述べる。

 

 

 

 

 

「「「「──優雅たれ」」」」

「なんでだあああああああああ!!! 私何か悪いことしたっけ!!?」

 

 

 

 

 

 少女らしからぬ絶叫をあげて、立香は頭を抱え込んだ。善人だろうと悪人だろうと、確率という名の悪魔は平等なのである。

 マシュは半ば諦観をしつつ、つぶやくように言う。

 

「紅茶の供給量が増えますね」

「ふっふっふ、そこは安心したまえ。私のラボで五人のおじさんをひとつにまとめられるから」

「そんな悪の組織みたいなことを言われても……」

 

 結局、その後も召喚を続けるものの、めぼしい戦果はなかった。

 使い道のないガラクタから、雷をまとった牡牛まで、英霊以外の多種多様な存在が実験場にうず高く積み上げられていく。

 しかし、そんなことで止まる立香ではなかった。無残な結果を見せつけられる度に奮起し、負けじと召喚を行う。

 そしてその末に、

 

「ガチャァァ!! 10連ガチャァ!! いっぱいっぱい回すのぉぉ!! 溶けるぅぅ!! 溶けちゃうううう!!!」

 

 この世で最も悲しい生き物がそこにいた。

 もはやダンボール箱にはひとつの聖晶石も残っていなかった。立香は狂乱しながら箱の中をまさぐり、けたけたと笑い出す。

 

「アッハハハハ!! もう終わりだああああ!! 部屋に戻ってふて寝してやるうううう!!」

「せ、先輩が壊れてしまいました!」

「元からあんなんだろ」

 

 立つ気力も無くなったのか、立香は床をカサカサと這いずりながら実験場を出ていこうとする。人間はどこまでも惨めになれる生き物なのだ。

 その時、召喚サークルが淡く発光する。

 十中八九、麻婆豆腐だろうと踏んだ立香たちは粛々と撤収を始める。が、その光量は加速度的に増加していき、ついには広大な実験場を隙間なく照らす。

 光の質も量も、今までとは比べ物にならない。立香はへたり込んだまま、その光景を呆然と眺めていた。

 こつり、と硬質な足音が響く。

 漆黒の装束に身を包んだ、白き乙女。

 周囲に撒き散らしていた憎悪は鳴りを潜め、研ぎ澄まされた刀身のような静かな威厳と美しさが少女を飾り立てる。

 旗を振り払い、彼女は怜悧な視線を立香に注いだ。

 

「サーヴァント、アヴェンジャー。召喚に応じ参上しました。……どうしました、その顔は」

「いえ、狙い通りのガチャが引けると嬉しさよりまず安堵感が」

「はあ!? せっかくこの私が来てやったのよ!? もっと喜びなさい!!」

「またEチームのメンバーが増えたか。俺の部下(げぼく)として歓迎してやる」

「誰よアンタは!?」

 

 登場早々、マスターたちに翻弄されるジャンヌ。ノアは召喚サークル上の麻婆豆腐を持ってくると、彼女に差し出した。

 

「食え。俺が今決めたEチーム入隊儀式だ」

「……何だかオチに使われそうな雰囲気ですけど、まあいいでしょう」

 

 ジャンヌはスプーンでそれを掬うと、口に運んだ。

 

「ギャーッ! 熱っ! 辛っ! 痛ぁ!? 火刑の時と同じくらい苦しいんですけど!!」

「よくやった、これで俺たちは仲間だ!」

「そのニヤケ面で言われても説得力がないのよ! 燃えろぉぉぉおおお!!」

「おい待てそれは洒落にならねえだろ!」

 

 その後小一時間、カルデアは消火作業に追われた。最後は燃え尽きて灰になったノアが発見され、事なきを得たのだった。




クラス:バーサーカー
真名:マクシミリアン・ロベスピエール
属性:秩序・悪
ステータス:筋力 C+ 耐久 C 敏捷 D 魔力 E 幸運 D 宝具 E〜A++
クラス別スキル
『狂化:A』……意思疎通は可能だが、力業以外で彼の行動を制御することは無理に等しい。
固有スキル
『カリスマ:D』……その甘いルックスからパリ中の婦女から支持を集めていた。女性に対してはCランク相当の効果を発揮する。
『テルール:EX』……テロリズムの語源となったフランス語。それを最初に行った象徴として、ロベスピエールはこのスキルを有する。大衆の統制、煽動に関して絶大な効果を発揮する。
宝具
『最高存在の祭典:理性の女神』
ランク:E〜A++ 種別:対人〜対軍宝具
ラ・フェット・ドゥ・レトール・シュプリーム。ロベスピエールがキリスト教の唯一神の代わりに信仰すべきとした理性の女神。それを讃える祭典が宝具化したもの。
祭典の規模、集めた人口と信仰心の量によって理性の女神は強さを変える。作中で登場したのはCランク相当の女神。竜の魔女という恐怖の対象がいたために、ひとつの都市であってもCランク規模の女神を顕現させることができた。
もし全世界規模の祭典を行うことができたなら。理性の女神は全人類の思考そのものを塗り替え、新たな神話体系をも打ち立てることができるだろう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。