自称カルデア最強マスターとぐだ子の人理修復録   作:なまゆっけ

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数々の評価をありがとうございます。こんな話を好いてくれる人たちがいることは大変嬉しいです。


特異点F 炎上汚染都市・冬木
第3話 英霊召喚


 まず最初に感じたのは、鈍痛だった。

 息を吸い込むと、空気が異常に熱い。そのせいか、体内に火を灯されたような灼熱感があった。暗く閉ざされていた視界が徐々に開かれ、ようやく事態を察知する。

 そこはまさしく地獄絵図。

 炎が轟々と燃え盛り、乾いた血がそこらじゅうにへばり付いている。一面が瓦礫の海と化したその世界で、ふと思い至った。

 なぜ、自分は無事なのか。

 その答えは、目の前にあった。

 

「せ…んぱ…………───」

 

 おびただしい血の量だった。

 大きな金属片が腹部を貫き、上半身と下半身が千切れかけている。

 背中は火炎をまともに受けたのか、服の繊維と皮膚が癒着しかけていた。

 医術の心得はないが一目で助からないと理解できるほどの傷。しかし、その少女が今際の際に案じるのは、ある者の安否それのみであった。

 ──ああ、私を救うために。

 

「マシュっ!!!」

 

 瞬間、立香(りつか)は跳ね起きた。焼けた鉄板のような床に転がる少女の体を抱き起こす。

 全身を蝕む痛みも、体の芯を焦がすような熱感も関係ない。この命よりも大切なものなどいくらでもある。マシュという少女はそのひとつだ。

 何に換えても助けなければならない。

 いま、どうして、こんなことになっているのかなんてどうでも良い。

 けれど、立香はあまりにも無力だった。

 己の魔術でこの傷を癒やすことは不可能だ。応急処置が効くような軽傷ではない。これは一刻を争う事態であり、自らの力を過信するようなことは到底できない。

 

「そうだ、リーダーならもしかしたら……!!」

 

 辺りを素早く見回す。

 ノアとの距離はそう離れてはいなかった。この場で頼れるのは彼しかいない。最悪の事態を脳内から排除し、ただひたすらに感覚を研ぎ澄ませる。

 募る焦燥に、心臓は異様な振動を奏でていた。

 そうして、彼女は見つける。

 積み上がった瓦礫の中。そこから、軍服を模した左腕がぶら下がっている。やはり炎を免れることはできなかったのか、所々が焼けていた。

 どくん、と一際大きく心臓が飛び跳ねる。

 

(考えちゃいけない)

 一歩、また一歩とその場所に近づく。

 腕の中に納まるマシュはほとんど息をしていなかった。

 

(終わりだと、分かっているのに)

 

 時間の流れが妙に遅い。

 意を決してその腕を掴み取ろうと手を伸ばす。

 触れるが早いか、その時に、

 

「──あ」

 

 ぼとり、と腕が落ちた。

 不思議と血の量は少ない。出し切ったのかもしれないし、周囲の血痕と混ざっているのかもしれない。

 ただひとつ、残酷な事実がある。

 彼は、腕のみを残し死んだのだ。

 瓦礫に潰され。

 あるいは、業火に巻かれ。

 

「…………せんぱい」

 

 消え入るようなか細い声。

 

「この、一週間……とても、たのしかった…………です」

 

 ──なんだ、これは?

 ──なんだ、この結末は?

 認められない。

 全くもって認められない。

 そもそもが理不尽だ。人理修復の希望となるべきこの機会に、こんな惨劇が起こるなんて。唐突に過ぎるし、救いがなさすぎる。

 

「『システム、レイシフト最終段階に移行します。座標、西暦2004年1月30日、日本、冬木』」

 

 これが偶然なら、神は何を望んでいるのか。

 これが必然なら、その悪意は何処から生まれたのか。

 

「『アンサモンプログラム、セット。マスターは最終調整に入ってください』」

 

 少女が知っている世界は、こんな地獄を許容するようにはできていない。

 誰もが幸福な世界に生きていた、なんて自惚れてはいないけれど。それでも、確かに、これから先の未来は壊されたのだ。

 ──そう、壊された。

 管制室中央に屹立するカルデアスの様子が変化する。

 それはまるで、灼熱の火球。地球全土を投射するカルデアスの表面は、焼けた鉄のように赤光を放っていた。

 

「『近未来百年までの地球において、人類の痕跡は発見できません』」

 

 どこか遠く聞こえる無機質なアナウンス。

 ガラス一枚を隔てたかのような異質さ。人理保障を名目とするカルデアは、たったいま何者かの悪意に敗れたのだと、赤熱する球体(カルデアス)がそう告げていた。

 金属同士がぶつかり合う音。隔壁が閉まった合図だ。もはや管制室から脱出する術はなく、ここで蒸し焼きにされるのを待つしかない。

 立香はマシュの手を握りしめ、静かに慟哭する。

 

「こんなの、絶対におかしい……!!!」

 

 そうだろう。だってジャンルが違う。こんな悲劇に見合う役者なんて、カルデアの何処にも存在しない。否、不出来な脚本に付き合わされる自分たちが迷惑だ。

 これが人為的な災害であることは素人目にも明らかだった。

 

「『アンサモンプログラム、スタート。霊子変換を開始します』」

 

 頬を一粒の水滴が伝う。

 凍てつく氷河のような怒りが、行き場を求めて荒れ狂う。

 マシュの手が、ほんの微かな力で以って握り返してくる。

 

「『全工程、完了。ファーストオーダー実証を開始します』」

 

 直後、何もかもが露と消えた。

 

 

 

 

 冬木は日本に存在する地方都市である。その地理としては大まかに新都と深山町に分けられる。いずれにせよ美しい景観を兼ね備えており、密かに旅行者が訪れる場所でもあったという。

 だが、それももはや過去の話。

 市内至る場所に大きな破壊の爪跡が残り、炎に包まれている。死者が闊歩し呪いを振りまく阿鼻叫喚。

 立香は、気付けばそこにいた。

 有り様の酷さで言えば今までと変わりない。しかし、確実に異なる場所にいることは間違いなかった。

 

「……ここ、どこだろう」

 

 行く宛もなく、ふらふらと歩く。

 息が詰まるような感覚は、おそらく火災によるものだけではないだろう。皮膚の下からじわりと染み込むような嫌悪感が纏わりついて離れない。

 人の姿は何処にもなかった。その死体すらも見かけることはない。まるでこの街から人間だけをさっぱり取り除いたように。

 すると、背後で音が鳴った。立香は身体反射のままに振り返り、それを見る。

 カチャカチャと軽い音を立てて駆動する骨の怪物。──人ではない。示された情報に、彼女の体は即座に行動に移った。

 怪物に向けて指を突きつけ、一言。

 

「ガンド!」

 

 漆黒の魔弾が飛来し、胴体に直撃する。物理的衝撃を伴った呪いは、怪物を無数の骨片に打ち砕く。

 それらは地面に触れた途端に粉々になり、跡形もなく消え去った。

 立香はほっと胸を撫で下ろす。

 ガンドによる攻撃は、この一週間何度も練習してきた。短い期間でこれほどの完成度に至ったのは、ノアとマシュによる指導の成果だろう。

 しかし、特段達成感や高揚感が生まれてくることはなかった。自らをここまで高めてくれた二人は、今はもういないのだから。

 そして、立香にそれを悲しむ余裕は残されていなかった。

 辺り一帯から、堰を切ったように死者たちが地の底から蘇る。この地に安全な場所など存在しない。冬木市全土が彼らの狩場なのだ。

 

(まずい、囲まれてる…!)

 

 立香は歯噛みする。

 あまりにも数が多い。例えガンドを全弾命中させたとしても、到底殲滅するには至らない。魔力が尽きるのがオチだ。

 さらに、撃てる方向は一方向のみ。一箇所に対応している隙に、後背を討たれる可能性があった。

 死者は武器を振り上げながら、じりじりと包囲を狭める。立香は囲まれていた。一気呵成に襲い掛からないのは、既に獲物を捕えたという確信ゆえだろう。

 だとしても、諦めるなどという選択肢は端から眼中にない。

 こんな事態を引き起こした黒幕を糾すまで、自分は死ぬわけにはいかないのだ。

 立香が腕を構えた、その時だった。

 

「──え」

 

 背後から黒き疾風が通り過ぎる。

 それは身長以上の重圧な(ぶき)を手に、死者の群れへと突撃する。猛然と振り抜かれた武器は雑草を刈り取るように敵を砕き散らした。

 その身体能力は人間の域を超越している。風より速く疾走り、巨大な鉄塊を軽々と振るう。何気なく突き出した拳が、鉄板をも貫く威力を有している。

 戦いではなく虐殺。それは、傷ひとつ負うことなく敵勢を鏖殺した。

 

「すみません先輩、遅れました」

 

 初めに、目を疑った。

 次に、耳を疑った。

 見覚えがある。聞き覚えがある。死したはずの少女が、今目の前にいる。

 

「お怪我はありませんか──きゃっ!?」

 

 答えるより先に、立香は飛び付いた。目元に涙を浮かばせながら、叫ぶように言う。

 

「マシューッ!! 生きててよかったあ! なんでそんなコスプレしてるのかは理解に苦しむけど! 個人の自由だもんね!」

「違います! この格好を私の趣味にしようとしないでください! 甚だ不本意です!」

 

 いつもの白衣と異なって、マシュは些か露出の多い格好をしている。黒を基調とした鎧とは見受けられるのだが、人体の急所のひとつである腹部が大胆にもさらけ出されていた。

 とはいえ、傷心の立香にとってマシュの生存ほど喜ばしいことはなかった。数秒の間、へばりつくように抱き着いていたが、あえなく引き剥がされる。

 そこで、カルデアからの通信が入った。医療部門の長を務めるDr.ロマンの声だ。

 

「『もしもし! こちらカルデア管制室だ、マシュ聞こえるかい?』」

「ええ、相変わらず通信は乱れ気味ですが。とりあえず先輩は確保しました」

「『素晴らしい。立香くんのためにも、まずは状況確認といこうか』」

 

 立香は大いに首肯する。今の今まで無我夢中で行動していたが、はっきり言って事態は飲み込めていない。

 

「『カルデアは何者かの攻撃を受け、なし崩し的にレイシフトを行うことになった。その送り先はもちろん特異点F──今回我々が標的としていた場所だ』」

「え、そうだったんですか?」

「『……Eチームには伝えていなかったのか所長ォーッ!! うわっ、ちょっと格好つけて言ったのが恥ずかしい!!』」

 

 ロマンは頭を抱えて悶絶し始める。

 元々、今回のミッションからは外されていたチームである。所長との不仲もあって、連絡する理由も義理も無かったのだろう。

 なんとか発作を収めたロマンに、立香は最大の疑問をぶつけた。

 

「どうして、マシュは無事だったんですか? しかもこんなハレンチな服装になって」

「『うん、当然の疑問だ。特異点F攻略のためにカルデアではサーヴァントを用意していた。けれど、あの爆発の影響でね、そのサーヴァントも消滅寸前だったらしい』」

「そこで抜擢されたのが私です。共に死の淵にあった私とそのサーヴァントは奇跡の融合を果たしたというわけです」

 

 立香はなるほど、と納得する。

 

「つまりウルトラマン、か……」

「何やら変な解釈をしているようですが、全く違うとも言い切れないのがいやらしいですね。もっとも、サーヴァントの意識は私には残っていません」

 

 先程、マシュが見せた超人的な戦闘能力も、そのサーヴァントの力によるものだった。

 カルデア六つ目の実験『デミ・サーヴァント』──おそらくは世界初の成功例。人間と英霊の融合体に彼女はなったのだとロマンは語る。

 

「『現在、マシュはキミと契約している。サーヴァントはマスターが死亡すると消えてしまうから、くれぐれも気を付けてくれ』」

「先輩、そういうことです。()()()()()()()()()()()()()()()()()私はほっとしています」

 

 マシュの言葉を聞いて、立香は目を見開いた。

 

「リーダーも生きてるんですか!?」

 

 驚愕の色を隠せないその発言に、マシュとロマンは頷きで返す。

 

「『さっき彼から通信を繋げてきてね。軽傷は負っているようだったが、戦闘にも支障はないようだから安心して良い』」

 

 立香は疑問を覚える。

 ロマンはノアの怪我の状態を軽傷と言った。だが、あの時彼の左腕は千切れたはずなのだ。腕一本を失う怪我を軽傷とは言わないはずだ。

 

「あの、腕は大丈夫だったんですか」

「『腕? 少なくとも彼は五体満足だったはずだよ。これでも医者の端くれだからね、患者が無理をしているかどうかは分かるさ』」

 

 ならば、あれはどういうことだったのだろう。

 そこで、映像が乱れた。通信が途絶しかけている兆候だ。ロマンは慌てながら、

 

「『とりあえずこの通信状態をどうにかしよう! 指定した座標に移動してくれ、ノアくんもそこに向かっている!』」

「了解しました。では、また後で」

 

 通信が止まる。一転して辺りが静かになり、マシュは小さく息を吐いた。

 

「それでは行きましょうか、先輩」

「…うん」

 

 心に一点の疑念を残しながら、立香は歩き出した。

 

 

 

 

 一方その頃。

 

「だぁぁぁあああ!! 手抜きデザインの癖に数が多すぎんだよクソ骨ェェ!!」

 

 Eチームリーダー、ノアトゥールは崩壊した冬木の大通りを駆け抜けていた。その後方からは、立香が接敵した以上の数の死者が迫ってきている。

 しかし、ノアに追いつくことはできない。魔術で身体強化を施しているからである。強化を体にかける手段自体はさほど珍しくはないが、魔力を消費するため長時間の使用は推奨されていない。

 ノアが全力疾走を続けていられる理由は、豊富な魔力量にあった。彼が持つ魔力の総量の前では、強化を使い続ける魔力はほんの微々たるものであった。

 時折前方から敵が現れるが、無造作に振るわれた拳だけでそれらを処理していく。

 魔術師とは研究者である。業界の性質からして自衛手段は皆備えているが、好んで戦闘を行う者はいない。ノアにとってもそれは変わらなかった。

 懐中時計を取り出して時間を確認する。このまま走っていれば、そう時間はかからない位置に座標は指定されている。

 そう思っていたのだが、

 

「ギャアー!? なんでわたしがこんな目に遭わなきゃいけないのよ! Eチームのアホコンビとか! レフ助けてえ!」

 

 恨み辛みが籠もりすぎた叫び声が横の通りから聞こえてくる。そちらに目を向けると、案の定オルガマリー所長が爆走していた。

 問題はその後ろ。彼女もまた、ノアと同じように敵を引き連れている。

 瞬間、彼らは互いの存在を認め合い、

 

「うおおおお!? おまっ、こっち来んじゃねえ!」

「うるさいわね! 元はと言えばわたしの計画を邪魔したあんたのせいでしょうが! そうよ、全部あんたのせいよ! アハッ、アハハハハハッ!!」

「おい待てこいつ頭おかしいぞ! ロマン精神鑑定頼む!」

 

 依然通信状態は悪いが、無理やりにでもロマンを呼び出す。彼は狂乱した所長を一瞥すると、粛々と切り出す。

 

「『……ノアくん』」

「なんだ」

「『諦めてくれ』」

 

 そう言って、通信は切断される。自然に切れたのではなく、明らかにカルデア側から切断された。

 

「あの野郎切りやがった……!!?」

 

 戻ったら一発殴る。そう心に誓い、ノアは覚悟を決めた。

 所長を路地に蹴り飛ばし、自分もその後に飛び込む。すぐさま背後に向き直り、左手の指で空中に文字を描く。

 

「──eihwaz(エイワズ)

 

 唱えたのは防御のルーン。路地の入り口を塞ぐように無色の壁が立ち現れ、追っ手を阻む。

 何度か壁に向かって武器を打ち付けるが、防壁に傷をつけるどころか武器のほうが刃こぼれするほどの代物だった。

 それを見た所長は、憤慨しながら言う。

 

「そんなことができるなら早くやりなさいよ!」

「やろうとしてたところだったんだよ! 大通りを封鎖しても良かったんだがな、藤丸の進路を妨害する恐れがあった」

 

 だからノアは逃げていたのだ。防壁を張るのに適した場所を探すために。偶然路地があったことは幸運であった。

 所長はぷんすかと立ち上がりながら、

 

「Eチームの片割れも来てるのね。あんな凡人、放っておいたらすぐ死ぬわよ」

「あいつにはサーヴァントがいる。死ぬわけがない」

「そんなはずが──いえ、ロマンに繋ぎなさい。あんたなんかに訊くよりそっちの方が良いわ」

「残念だったな、今はロマンには繋がらない。おまえが不定の狂気を発症した(SANチェックに失敗した)せいでな」

 

 ノアはすたすたと歩き出す。

 オルガマリー所長は唇を噛んで苦悩する。ノアに着いていくべきかどうか。

 理屈で考えればそうするのが正しいし、そうするしかないというのは分かっていた。だがしかし、相手は憎っくき仇敵。助けを求めるように後を追いかけるのは、彼女のプライドが許さなかった。

 プライドを守りつつ、ノアを追いかける方法。所長の優秀な頭脳は一瞬でその答えを弾き出した。

 

「ええ、わたしを守り切れたら昇格も考えてあげるわ! 精々本気でやり遂げなさい!」

 

 妙な空回り方はどこぞの悪役令嬢である。

 ノアはゆっくりと振り向くと、口角を僅かに上げた。

 

「たまには良いこと言うじゃねえか。なら、もしおまえが無事に帰れたら俺がカルデア所長だ」

「はあ!? あんたなんかに任せたらそれこそ世界滅亡でしょう!!」

 

 

 

 

 ロマンに指定されたポイントで、彼らは落ち合う。

 

「ほ、本当に生きてた……」

「ああ、おまえもな。良く生き延びた」

「あれ、リーダーが優しい!? 誰かと脳みそ入れ替わってたりします?」

「俺がおまえに優しくするのは当然だろ、なぜなら──」

 

 顔を合わせて早々コントを始めるEチーム。マシュには二人の顔が何故か少女漫画チックに見えた。

 が、ノアに現代の乙女の初恋相手のようなセリフが吐ける訳がない。その場の誰もが嫌な予感を察知する。

 

「──俺の部下(げぼく)だからな」

「すみません、セリフに反してルビが最低なことになってます」

「キリエライト、おまえもだ。こいつの後輩ってことは俺の命令も聞かなくてはならない。つまりEチームは俺を頂点としたピラミッドで成り立っているんだよォ!!」

 

 発言の隅から隅まで憎たらしい男である。とんでもない支配論をぶちまけたノアに対して、マシュは呆れながら言った。

 

「忘れているようですが、わたしはデミ・サーヴァントです。具体的には一秒でリーダーを肉塊(ハンバーグ)にできます。言葉遣いには気をつけた方が良いのでは?」

 

 マシュは空に向かって拳を振る。ボクシングヘビー級チャンピオンも青ざめる迫力の一撃である。

 

「よーし、待て、落ち着け。俺がカルデア所長に就任した暁には好きな地位をくれてやる。医療部門のトップでもAチームのリーダーでもなんでもくれてやるよ」

「こ、小物すぎる……」

「いつまでやってるのよ! 早くカルデアと通信しなさい!」

 

 所長の一声で、ノアはしぶしぶ通信を繋いだ。

 

「『こちらカルデア。通信の反応は概ね良好だ。もう合流したようだね』」

「はい。所長も発見しました。これからどうすれば?」

「『キミの盾を媒介に召喚サークルを構築しよう。そうすれば、こちらから物資も送れるし、戦力強化も可能なはずだ』」

 

 マシュは同意し、霊脈の集結地に盾を置く。直後、周辺の魔力が活性化し、景色を一変させた。

 

「……召喚実験場と同じね。それで? どうして貴方が仕切っているのかしら?」

 

 所長の冷たい目がロマンに向けられる。

 パワハラの四文字が彼の頭の中をかけ巡るが、そこは医療部門トップのロマニ・アーキマン。権力に従属することは慣れていた。慣れすぎていた。

 

「『い、生き残ったスタッフは20名未満でして……その中で最も階級が高いのがボクだったんですごめんなさいリストラはやめて!!』」

「まあそんなことはどうでも良いわ。レフはどうしたの?」

「『現在捜索中ですが、おそらくは』」

 

 全てを察した所長は、露骨に気分を落ち込ませる。

 レフが死んだ。その事実は、所長にとっては何よりも重い現実なのだろう。顔面を蒼白にする彼女に見かねた立香は、

 

「あの時管制室にいたなら、私たちみたいに生きてるかもしれませんよ! リーダーに一週間部屋を占拠されても耐え抜いた根性は伊達じゃないと思います!」

 

 所長はばっと顔を上げる。その目には涙が浮かんでいた。

 

「わ、分かってるわよ! ロマニ! わたしが帰るまでにカルデアに何かあったらクビだから! あとコフィンに取り残されたマスターを凍結保存しておきなさい!」

「『さ、最悪だ……なんでボクがこんな目に。しかも犯罪の片棒を担がされるなんて……』」

 

 ロマンの胃は既に限界を迎えつつあった。ノアはそんな彼を無視して話を始める。

 

「じゃあ、サーヴァントでも喚び出すか」

「えっ、そんなコンビニ行くみたいなノリでできるの、マシュ?」

「召喚サークルが設置されましたから。コンビニどころかガチャガチャを回すノリでできます」

「へぇー……ガチャ回し放題」

 

 何やら嫌な笑みを浮かべる立香。忘れてはいけないが、彼女もEチームの一員(カルデアの癌)なのである。

 マシュは邪悪なオーラを纏う先輩から距離を取り、リーダーに話しかけた。

 

「どんなクラスを狙うつもりですか?」

「セイバーだ。カルデア最強マスターの俺には最優のサーヴァントが相応しい」

「ケーキとラーメンを混ぜても美味しくなりませんよ」

「おい、どういうことだ。それを言うなら米と卵だろうが。マリアージュだろうが」

 

 軽口を叩きながら、ノアは左手の手袋を外した。そこには確かにマスターの証である令呪が刻まれていた。樹木の枝のような紋様が絡み合い、真円を作っている。

 

「『ヤドリギを触媒に使わないのかい?』」

 

 ロマンが問いかける。ノアはそれに対して首を横に振った。

 

「もし人間に変身したとか言って、英霊に格落ちしたロキが出てきたらどうする?」

「『…………終わりだね』」

「そういうことだ。可能性は0にしておきたい」

 

 次の瞬間、サークルが光を発する。徐々にそれは強くなっていき、ついには視界を埋め尽くした。

 立香は思わず目を瞑り、光が消えたあとに見開く。

 輝きを失ったサークルの上に立っていたのは、白銀の鎧を纏った騎士であった。静かなる湖面のような美貌の裏に、どこか獰猛さを隠した戦士。彼は剣を掲げ、名乗りを上げる。

 

「セイバー、ペレアス。召喚に応じ参上した。よろしく頼む」

 

 ノアはふと微笑み、

 

「………………誰?」

「あーはいはい、そういう感じね。現代だと知られてないパターンかよちくしょう」

「いや、白銀の鎧を纏った騎士って言ったらガウェインだろ」

「よりにもよってそいつと間違えるのはやめろオレのトラウマを口にするな」

 

 気まずい空気が流れた。

 マシュは哀れんだ表情で、ペレアスに声をかける。

 

「……オチの一言をお願いします」

「嫌だァあああ!! オレはもっとチヤホヤされるつもりだったのに!!!」

 

 虚しい叫びは、冬木中に響きわたったという。




ペレアスについて。
ノアくんが契約するサーヴァントの候補は言及されてはいるものの登場していない英霊でした。
strange fakeはまだ二巻までしか手元にないのですが、名前を出されているということで採用しました。ちなみに対抗馬はブラダマンテの夫のロジェロでした。
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