自称カルデア最強マスターとぐだ子の人理修復録   作:なまゆっけ

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第38話 ソロモンの遺志を継ぐ者

「やってみろよ───ソロモン王を騙る偽物が!!」

 

 ノアの怒声が響き渡る。

 それを受け止めるのはグランドキャスター・ソロモン。全ての魔術師の頂点に立つ賢王であった。

 彼の背後には一柱だけでも強大な脅威となる魔神柱が揃い踏み、無数の眼光で以ってノアの五体を突き刺す。

 すなわち、それは宣告。神にも等しい力を持つ魔術王に逆らう、矮小なる愚者を葬り去らんとする物理的重圧すら伴うような威圧であった。

 そんな眼差しを受けても、ノアは身じろぎひとつしない。一点の曇りもない戦意に満ちた瞳で以って、林立する魔神柱と魔術王を睨み返す。

 魔術王は噛み締めるように唇の端を歪める。

 

「……偽物だと? 貴様の目は節穴か? 我が御業を目の当たりにして、そんな言葉を吐けるとはな。劣化を極めた神秘に縋る現代の魔術師には理解できぬ境地か」

「グロい大根数十本並べた程度で粋がってんじゃねえ。おまえ如きがソロモン王だと? 笑わせんな、にわかが!」

「根拠も理屈も無しによくもそこまで言い切れるものだ。感情に任せて喚くしかできないとは、やはり人間は合理的ではない」

「……根拠ならある」

 

 そこで、ノアは嘲るように笑った。

 

「民衆のために生きたソロモン王が、そんなこと言う訳ねえだろうが!! すっこんでろ解釈違い野郎───wird(ウィルド)!!」

 

 ルーン魔術の高速詠唱。

 光の弾丸が銃列の如く出揃い、勢い良く掃射される。

 対魔力を持たぬサーヴァントであれば相応の深手を負わせられるだろう射撃。だが、流星雨のような輝きはその全てが瞬時に抹消させられてしまう。

 

「グランドキャスターたる私に貴様の児戯(まじゅつ)が通用すると思ったか」

 

 背後の魔神柱が蠢く。数多の瞳がまばゆい光を灯し、荒れ狂う熱線を照射する。

 ノアに光線を防ぐ術式はない。人類と隔絶した魂を有する魔神と彼では、単純に出力の差が桁違いだ。

 戦力差を理解していないノアではない。彼はその場から一歩も動くことはしなかった。それは諦めではなく、背後に控える英霊たちへの信頼。

 熱線に焼かれる寸前、二つの影が躍り出る。

 巻き起こる雷電と豪風。膨大な熱が散らされ、その余波が周囲の大地を赤く焦がした。

 嵐の王は風を、星の開拓者は雷を纏い、獲物を品定めする獰猛な笑みを浮かべる。

 

「いい加減、貴様の声を聞いているのも飽きた。少しはディナダン卿のような冗談を吐いてみせろ、神気取りの俗物が」

「聖杯を捨て、狂化の軛から解き放たれた私には一分の隙もない。電気文明の父たる私の才覚をもって、彼を生還させてみせよう!」

「死にかけの犬がいくら吼えたところで響くはずもない。我が眷属の威光に平伏せ、英霊風情が!」

 

 魔神柱の胎動。爆発的な魔力の高まりは、しかしてその真価を見せることはなかった。

 

「『我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)』!!」

 

 赤雷の波濤がいくつかの魔神柱を打ち据える。

 空気を詰めた風船に針を突き立てるかのように、魔神柱の体内で魔力が暴れ、表面が破裂した。

 満身創痍の体で軽快に剣を振り回し、モードレッドは口の端を吊り上げた。

 

「おいおい、魔術王サマご自慢の悪魔ってのも大したこたぁねえなァ! 父上の円卓とは大違いだぜ!」

「生きが良いな、モードレッド卿。我らが誇りにかけて、そこの男を送り届けるぞ」

 

 手を貸せ、と嵐の王は言う。

 その眼は他の誰でもなく、モードレッドだけを捉えていた。

 生前、あれほど欲した眼差し。

 ランスロットでもガウェインでもなく。

 誰にも向けられていなかったそれを独占しているという事実に、モードレッドは得も言われぬ高揚を覚えて。

 だから、返す言葉も決まりきっていた。

 

「───はい! 父上がここまでお膳立てしたんだ、ペレアスのマスター、勝手に死んだら許さねえぞ!」

「ハッ、誰に言ってやがる。そもそも死にそうなのはおまえらの方だろうが。全員寄れ、治してやる。そこに隠れてる作家共もな」

「くっ! せっかく今の今まで良い感じに気配を消していたところを! 俺たちがいたところで賑やかしにしかならんぞ!」

「ええ、どうやら天運はまだ我らが舞台から降りることを望んでいないようです。もう一踊りすると致しましょう」

 

 シェイクスピアとアンデルセンは引き攣った笑顔で言った。魔術王が如何に強大であるかなど百も承知、贅を凝らした修飾語を用いて表現せずとも見えるだけで存分に理解できる。

 だが、言ってしまえばその程度。自分たちよりも人を殺すのが何億倍も上手いだけだ。敵に立ち向かわない理由には成り得ない。

 ノアは手の平の上に無色透明のエーテル塊を現出させる。

 家伝の無属性魔術。魔術王を前にして出し惜しみはない。パラケルススとの戦いを終えてから回復した分の魔力の大半を注ぎ込み、エーテル塊を白く濁った泥のような物質に変容させた。

 それはひとりでに動き、サーヴァントたちが負った傷口を塗り固める。オティヌスとアンデルセンが失った右腕も、まるで粘土を成形したかのように補填されている。

 オティヌスは右の五指を数度開閉し、鼻を鳴らす。次の瞬間には、その手にはグングニルが収まっていた。

 

「……今、この時ばかりは私は貴様のサーヴァントだ。命令を寄越せ、マスター!」

 

 ノアは不遜な笑みを浮かべて、嵐の王の横に並び立つ。

 

「あのスカした野郎の顔面に一発入れる。散々ナメられといて、のこのこ帰るわけにもいかねえからな」

「ふむ、では誰が先に拳を振るうかの競争だな。電流戦争と比べればこれ以上なく分かりやすい勝利条件だ」

「遠距離でぶっぱなすしか取り柄のないやつにそんなことができんのか? ここは父上第一の騎士であるオレに任せとけ」

「…………醜いな。死を前にした人間の足掻きは」 

 

 軽蔑に溢れた魔術王の嘆きに呼応して、魔神柱たちが一斉に光り輝く。

 夜の闇を打ち払う、無数の煌めき。しかしてそこに荘厳さは存在せず、眼球の奥をまさぐるかのような悍ましさだけがあった。

 差し詰め、それは怪光。万物を等しく焼き尽くす魔の閃光だ。

 ノアとモードレッドはそれぞれアンデルセンとシェイクスピアの襟首を掴んで、その場を離脱する。直後、妖しき熱線が彼らの立ち位置を薙ぎ払った。

 オティヌスはノアの周囲で迎撃に回りながら、通信機の向こう側にいる男に問う。

 

「聞こえるか、カルデアの指揮官。この男のレイシフトによる帰還は進んでいるか」

「『いえ…おそらくは魔術王の術式の影響か、こちらがノアくんを引き戻すより強い力で、彼がその時代に留められています』」

「つまり、レイシフトのシステムそのものは無事に稼働しているということだな」

「『はい。何とかして魔術的拘束を解くことができれば……』」

「相分かった。私が魔術王の術式を乱す。レイシフトの実行は絶え間なく続けよ」

 

 オティヌス───オーディンは多数の性格を持つ神である。

 戦争の神、詩文の神、知識の神、そして魔術の神。北欧神話世界の魔術は全て彼より始まったモノであり、その権能はもはや人間の及ぶところにはない。

 彼女はグングニルを具現化するとともに、その力の一端を手に入れた。魔術王が操る神域の術に歯向かうことができるのは、この場ではオティヌスのみだろう。

 アンデルセンは呆れたように鼻で笑った。

 

「ふん、オティヌスと大層な名を騙った割には神性が低いようだが? その体たらくで魔術王の術式に対抗できるか見物だな」

「下手な挑発だな、即興詩人。何か策があるのだろう。言ってみろ」

「俺の宝具を使う。お前たちは魔術王の気を惹くなりして時間を稼げ。1分で良い」

「これは大きく出ましたな。光陰矢の如しとはよく言いますが、アレから1分奪うのは至難の業ですぞ」

 

 シェイクスピアはおどけて言う。

 魔術王から1分をかすめ取る。普段は気付けば過ぎているような時間だが、相手を考慮すればそれは値千金。途方もない価値のある時間だ。

 ノアはテスラとモードレッドに視線を送って、

 

「俺はまだアイツと話し足りない。おまえらを治したせいで、魔術は使えて二発だ。その貸しはここで返せ」

「どっちにしろ、オレたちゃお前を護らなきゃなんねえんだ。着いてってやるよ」

「然り。天才の先達として導いてやろう───『人類神話・雷電降臨(システム・ケラウノス)』!!」

 

 再臨する神雷。

 先の戦いで既にギアの上げ方は心得ている。迸る蒼き雷は魔神柱の怪光を凌ぐ勢いで拡散し、あらゆる攻撃を遮断する次元断層を空間に走らせた。

 この世界に亀裂を刻む、テスラの唯一にして絶対の切り札。単純な出力や手数でいくら上回ろうと、突破不可能な一撃。

 魔術王とノアは歪んだ空間の面を挟んで向かい合う。

 

「我が魔神の威光を前にしてなお、恐れはないか。その頭の悪さも役に立つことはある。蛮勇を遺憾なく発揮できるという一点においてはな」

「うっせえ、おまえとの口喧嘩もそろそろ賞味期限切れだ。さっきの根拠で言い忘れてたことを伝えてやる」

 

 周囲で炸裂する赤と蒼の雷撃、そして妖しく輝く光条。それらが織り成す戦場で、数メートル離れた彼らの間だけは静寂に包まれていた。

 

「ソロモン王は神に背いた人間だ。旧約聖書の神ではなく他の多神教の神を信仰するようになり、唯一神の怒りを買った」

「それがどうした。唯一神と言えど所詮は数ある神の中の一柱。人類史とともに消え逝く塵芥のひとつだ。唯一神への背信など取るに足らない」

「───だったら、ソロモン王は復活なんてできるわけがない」

 

 旧約聖書の神と新約聖書の神は趣を異にする。

 ユダヤ教の神である前者は『嫉妬する神』であり、そこから派生したキリスト教では人類への慈悲と大愛に満ち溢れた『愛の神』に再解釈された。

 なぜなら、嫉妬する神は人間にとって優しくない。何の罪もない義人であるヨブを己が都合で不幸に叩き落としたように、ユダヤ教の神は決して全ての人間の味方ではないのだ。

 ソロモン王は必ずしも神を味方につけた王ではなかった。

 彼は妻たちと一緒に異教の神々を拝み、嫉妬する神の怒りを買った。モーセの十戒における第一の戒律〝主が唯一の神であること〟に反する行いをしたからである。

 とはいえ、罪を犯したというのなら父のダビデもまた同じ。部下の妻との不貞を犯し、行いを悔い改めたダビデは彼女との間にできた第一子を奪われることで罰を受け、罪を雪がれたのだ。

 だが、ソロモン王は罪を悔悛する機会を与えられず、国土を取り上げられたのである。彼はその土地を回復することもできずに生涯に幕を下ろした。

 罪を犯して死んだ魂が復活することはない。

 つまり。

 

「契約を破って死んだ男の復活を、よりにもよって嫉妬する神が見逃すはずがねえ。そもそも聖書に死んだって書いてあるだろ、ソロモン王ファンナメんな!!」

「……しかし、貴様の主張は私の存在の破綻には結びつかない。そんな理屈を並べ立てようと、私がここにいることが何よりの証明だ」

「魂が死んでも肉体は残る。ソロモン王の遺体を弄んだ奴がいるなら、おまえの存在も疑問じゃない。誰かは知らねえけどな」

「…………───薄弱な根拠だ。聞くに値しない」

 

 ノアは落ち着き払った様子で後頭部を掻くと、ニタリと意地悪く口角を吊り上げた。

 

「さて、言いたいことは終わりだ。薀蓄も語ってスッキリしたことだしな。後はおまえをぶっ飛ばす!!」

「馬鹿が、この間合いなら次元断層があったところで───!!」

 

 魔術王の猛りは眷属へと伝播し、かつてない威力の閃光を解き放つ。

 散発的に現れる次元断層では到底捌き切れないほどの広範囲に渡って、膨大な熱を秘めた光が満ちる。

 視界が白く染まる。常人なら見ただけで視力を失い、心を砕かれるであろう光波。それが到達する直前、アンデルセンは自らの宝具を発動させた。

 

「『貴方のための物語(メルヒェン・マイネスレーベンス)』!! 今更即興詩を書く羽目になるとは思わなかったが十分だろう、やれ!!」

「───raido(ライゾ)

 

 オティヌスは赤色の王笏を振るう。

 唱えたルーンの意味は車輪。転じて旅行などの遠く離れた土地への移動を表す語となった文字でもある。

 アンデルセンの宝具によって高まった魔術神(オーディン)の力と主神の杖を用いた、ルーン魔術。それは本来多大なリソースを消費して実現されるはずの空間転移を、事も無げに成し遂げてみせた。

 ノアとテスラ、モードレッドの三名はオティヌスの側に導かれる。

 嵐の王はゲンドゥルの杖を自身の鳩尾に突き刺すと、微かに血を吐いて言った。

 

「この杖と私の魂を基点に魔術王の術式を妨害する。強固な城壁に穴を開けるようなものだ。いささか時間がかかるぞ」

 

 魔術王の術式に穴を開ける前に自らの腹に穴を開けたオティヌスの行動を見て、モードレッドは顔面を蒼白にする。

 

「ち、父上。その自傷行為は一体何の意味が?」

「この杖は言わば城壁を削る掘削機、その周囲でのみ妨害が働く。身動きが利く私に固定すれば戦闘も行えて一石二鳥という訳だな。これで魔術王の横面を張り倒せる」

「本気で言っているのか? 大言壮語を吐くのはそこのアホ魔術師だけでキャパオーバーだぞ」

 

 アンデルセンは顔をしかめながら言った。

 ノアが話を聞かないことは今までの付き合いの中で重々理解しているが、この場でトップクラスの実力を有するオティヌスまでもが彼に同意するとなると、意見を通す余地がなくなる。

 一刻も早くノアを帰らせたいアンデルセンにとって、これ以上の荒事に巻き込まれるのは本意ではなかった。

 モードレッドは不意に彼の頭を左の五指で鷲掴みにして、ぐしゃぐしゃと掻き回す。

 

「父上がやるって言ってんだ。お前は黙って力を貸しゃ良いんだよ」

「円卓特有のパワハラを俺に押し付けるな! 労基か弁護士を呼んで来い!!」

「ここがアメリカだったなら、エジソンの裏工作にも屈しなかった良い弁護士を紹介できたのだがな。流石の天才と言えどもできないことはある」

 

 テスラは肩をすくめて、アンデルセンの頭を撫で付けた。彼はその手を払い除けて、諦観混じりのため息をつく。

 オティヌスは右手に神槍を、左手に聖槍を構えた。そこに一切の隙はなく、まさしく槍の穂先のように研ぎ澄まされた殺気が噴出する。

 

「私とてやられっぱなしは性に合わん。それに、マスターの命令でもあるしな。あの高慢な顔を歪めさせてやる」

「ですが、ここは所謂負けイベントでしょう。そう簡単に上手くいきますかねえ?」

「随分と弱気じゃねえか、シェイクスピア」

 

 ノアは右手に黄金色のヤドリギの短槍を作り出す。

 魔術王が本当に不死であるというなら、この場で唯一彼を殺し得る武装。それを携えて、本来最後方に控えているべき彼は高笑いしながら飛び出した。

 

「───案外やってみたらボロ勝ちするかもしんねーだろっ!!」

 

 全身を魔力が駆け巡る。

 その踏み込みは荒々しく砂を蹴り上げ、爆発的な加速をもたらした。

 短槍の形成と身体の強化。サーヴァントたちを治した無属性魔術も合わさり、ノアは意識を落とさない最低限の魔力しか保有していない。

 それでも彼は駆けた。ただひとりここに残されたカルデアの一員として、姿を現した黒幕を仕留めるために。

 

「……ああ、偶にはそんな博打に乗ってみるのも悪くはないだろう」

 

 その動きをカバーするように、電磁気を纏った時空の断層が走った。

 テスラの宝具の最大稼働。聖杯を失った彼には多大な負荷をもたらすが、魂をも燃料に注ぎ込んで全力を維持する。

 それでも、敵の圧倒的な物量は処理しきれない。

 ひたすらに駆け抜けるノアの前方をモードレッドとオティヌスが先行する。

 時空の裂け目をすり抜けてくる光条と爆風を、二人は合図もなく連動して斬り伏せていく。

 その様を見て、魔術王は思った。

 

「……()()

 

 殺す。

 跡形もなく殺す。

 完膚なきまでに殺す。

 頭蓋の裏をざらついた不快感が撫でる。

 あの男を視界に入れる度に、あの男の声を聞く度に、それは強くなっていった。

 ならばもう、除くより他はない。悪性の腫瘍を切り取るように、欠片も残さず取り除かなくては気が済まない。

 ───貴様が私の存在を否定するというのなら、私は貴様の夢を否定する。

 抱いた願いが無価値であると痛感させ、命を賭してもなお我が眷属にすら敵わぬという無力感と絶望の中で死んでもらう。

 それが、ノアにとっての最悪だと信じて。

 

「全人類を根源に連れて行く、そのための学問を創る───人間が抱くには余りある夢だ。貴様の愚かしさには底がないようだな」

 

 距離が詰まる。

 三騎のサーヴァントとひとりの人間が迫ったところで、それは無謀な特攻。多数の魔神柱に守られた魔術王には決して届かない。

 

「如何にも、魔術に進歩はない。科学がこの世の法則を解き明かす度にその力は弱まり、いつか消えてなくなることが確定した学問だ。結局、幾多の魔術師たちは魔術の始祖たる私を超えることはできなかった。当たり前だ、偽物が本物に勝てる道理などない。であれば、魔術の先にある学問とやらは魔術のデッドコピーにならざるを得ないだろう」

 

 ───さらに、と彼は続ける。

 爆煙に紛れたノアの表情を見据え、魔術王は嘲りを込めて小さく口角を上げた。

 

「全人類を根源に連れて行く……これもやはり愚かと言わざるを得ない。そんなことは絶対の神でさえ、救世主でさえ出来なかった……やろうともしなかった。なぜなら、それは狂人の思い描く夢想───()()()()()()()()()()()()という破綻した願いに違いない」

 

 誰をも見捨てないという想いは、誰もが救われるべきであるという願いに変わりない。

 攻撃は苛烈さを増す。

 防ぎ切れなかった余波が彼らの肌を焼き、血を流させた。

 苦痛を表情にも出さずに向かってくるその姿は、魔術王の脳髄を蝕む不快感を一層強くする。

 故に、彼は氷の如き冷笑を顔に貼り付けて言った。

 

「誰もが幸せであってほしい願いなど空想のおとぎ話だ! 貴様はその欺瞞と虚飾に塗れた理想を抱いて死んでいけ!!」

 

 魔神柱がノアたちに殺到する。

 隕石が墜落するかのような衝撃。夜の天蓋が落ちてくるかのような威容。オティヌスは迷うことなく右の神槍を投擲した。

 

「『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』」

 

 主神の槍が弾ける。凄まじい轟音とともに槍は極小の恒星と化し、魔神柱による壁を吹き飛ばす。

 一度限りの切り札、『壊れた幻想』。サーヴァントの最強の武装たる宝具を魔力爆弾として利用する技であり、通常まず用いられることのない手段だった。

 大神オーディンの槍が秘めた魔力は極大。夜を昼の如く照らし、熱を伴った烈風が周囲に拡散する。

 雨のように降り注ぐ魔神柱の肉片と血を突き抜けて、ノアは言葉を吐き捨てた。

 

「俺が全員の幸せを願う甘い人間に見えたか? 確かに誰もが幸福なんてことが叶うなら、それは成されるべきだが、俺の部下になるはずだった奴らを殺したおまえの幸せだけは肯定できない」

 

 短槍を握る手がみしりと軋む。

 

「それに、俺はおまえみたいに独りよがりな考えで、世界だの人類だのをどうこうしようなんて気はねえ。おまえと違って、俺には顧みなきゃなんねえ奴らがいるからな───!!」

 

 ノアは魔術王に肉薄し、槍を突き出す。

 だが、彼は見逃してはいなかった。背後に迫る気配を。

 クラレントを振りかぶるモードレッド。前後を挟み撃ちにする攻撃はしかし、魔術王には奇襲足り得ず、また、脅威となることもありはしなかった。

 彼の足元の地面が隆起し、魔神柱が突き出る。

 二人を払い除け、直後に放った光がノアの上半身を灰燼も残さずに蒸発させる。下半身は力なく倒れ、

 

「───シェイクスピア……!!!」

 

 同質量の木屑となって崩れた。

 これは限りなくノアに近い贋作。最高の劇作家であるシェイクスピアが操る、劇団と呼ばれる幻影であった。

 魔術王は殺意を込めてシェイクスピアを睨む。極度の呪いを纏ったその視線は彼の霊核に致命的な損傷を与え、吐血させる。

 消滅の寸前、シェイクスピアはほくそ笑んで、

 

「〝運命とは、最もふさわしい場所へと、(Your soul is carried to the most suitable)貴方の魂を運ぶのだ(place with destiny)〟───作家とは運命を仕組む者のこと。その点では、あなたよりも吾輩が一枚上手のようでしたな」

 

 それとほぼ同時、身を隠していたノアは今度こそ神殺しのヤドリギを構えて突進した。

 

「俺がやろうとしてることは何ら新しいことじゃない」

 

 黄金の切っ先が魔術王の眼前に迫る。

 

「約3000年前にソロモン王が提唱した、古きを捨て新しきを得る術───アルス・ノヴァの実現。それこそが俺の使命だ!!!」

 

 『ソロモン王の小さな鍵(レメゲトン)』を締めくくる第五部では、ソロモン王が天より授けられた知恵の数々が記されている。

 その題こそがアルス・ノヴァ。

 古きを捨て、新しきを得る術。

 ノアはこれを魔術の先にある術法と解釈した。だが、それが本人の意図と一致しているのかは、今となっては知る術が無い。

 けれど、どうしようもなく憧れた。

 才能があるが故に分かってしまう、魔術の限界と陥穽。それを打ち破る方法を、魔術を生み出した当人が考え出していたとしたら。

 きっと、魔術師たちに残された希望に違いない。

 どこまでもソロモンは他人のために、誰かのために生きた王だったのだろう。なぜなら、自らの偉業のひとつである魔術を古いものとして捨てさせることを良しとしたのだから。

 もしくは。

 それこそを、望んでいたとしたら。

 ───叶えてやれるのは、自分しかいない。

 

「だから俺は、おまえがソロモン王だなんてことは絶対に認めねえ!! カルデアの最強グランドマスターとしてなァ!!」

 

 未来を切り拓く王の遺志を乗せた刃。

 だがしかし、それはなんてことのない一撃だ。

 あまりにも遅く、あまりにも弱い。

 魔術王の能力ならば、寝ていても防げる程度のものでしかない。

 だというのに、踵は僅かに後ずさっていた。

 

(この私が、人間に対して後退するだと)

 

 振るわれた槍を手で受け止め、握り潰す。

 

(この私が、人間に対して防御するだと!?)

 

 ふざけるな。そんなことは認めない。

 感情の発露は魔力の波濤となって辺りを襲う。

 絶死の波がノアに到達する刹那、磁気に操作された砂鉄の手が彼の体を中空に投げ飛ばした。

 電気を操るテスラの能力の応用。彼はノアが免れたことを確認すると、息をつく。

 魔力は全て使い切った。今の磁気操作が最後の一手。自らの電磁浮遊を維持する力さえも失い、テスラは魂の燃焼を終える。

 

「今回はここまでか。後は任せるぞ……オティヌス」

 

 名指しされた嵐の王はノアの体を受け止める。パラケルススからの連戦で日に二度も魔力を使い切った彼の意識は限界近く、繋ぎ止めるのがやっとの状態だった。

 命からがら逃げ延びたモードレッドが、オティヌスの側に侍る。

 ゲンドゥルの杖と彼女の魂を基点にした妨害術式は構築が完了した。後はスイッチを押してやるだけで、レイシフトは実行されるだろう。

 身に刺さった杖を引き抜く。

 オティヌスはそれをノアの目の前に差し出した。

 

「受け取れ。私のような紛い物が持っているより、貴様が持っていた方が有用だろう」

「俺は貰える物は貰う主義だが、おまえに施しを受けるのは気に入らねえ。それとおまえを殴る予定は無効になってねえからな」

「そんなことを言っている場合か、阿呆が。ならば、これは貸しだ。いつか私に返しに来い。その時は貴様の挑戦も受けてやる」

「……俺は根に持つ質だ。後から言い訳は効かねえぞ」

「承知の上だ。現代で言う借りパクだけはしてくれるなよ……()()()()()

 

 嵐の王はノアに杖を押し付ける。

 

「貴様がもし神殺しの魔剣を求めるなら、影の国の女王に会え」

「──おまえ、は」

 

 その言葉が最後まで紡がれることはなく。杖に書き込まれた術式が発動し、彼をカルデアへと送還した。

 デンマーク人の事績において語られた半神半人の英雄、バルデルス。彼は邪神オティヌスの息子であったという。

 最後の言葉はブリテンの王に宿った、オティヌスの神格が口走らせたものだったのか。オーディンの槍と杖を失い、主神の力が弱まったアルトリアには知る由もない。

 彼女は、血を分けた存在であるモードレッドを見遣る。

 

「なあ、モードレッド。私は何かを……残せただろうか」

 

 選定の剣を抜き、王として生きた日々に嘘はない。

 だが、悔いは残る。

 ああしていたら、こうしていたら……そんな想いが尽きることはないだろう。

 その問いにモードレッドは目を伏せて。

 そして、純粋で屈託のない笑顔で言った。

 

「少なくとも、ペレアスのアホは幸せに生きたらしいですよ」

 

 悲劇の物語の隅に残された、埃を被った幸福は確かにあった。あの過去から生まれたもの全てが恵まれぬ結末を辿った訳ではない。たとえどんなに些細であろうとも、アーサー王が守り抜いたものは繋がれたはずだ。

 ぐし、と王は前髪を掻く。

 

「…………そうか。そうだな。私の道にも、小さな幸せを護れる程度の価値はあったのか」

 

 それが、どれほど高い価値なのかをついぞ知らずに、魔術王の暴威が彼女らを包んだ。

 ──第四特異点、定礎復元。

 混乱に包まれた霧の都は夢のように溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第四特異点の修復から二日後。

 ノアはカルデアに帰還した途端に意識を失い、集中治療室に運び込まれた。執刀医はロマン。魔術王の視線による呪いを受けた部分の治療と折れた骨の破片の摘出を行った。

 ただし、その程度の手術で済んだのは幸いと言えただろう。何せ、パラケルススには途中まで圧倒され、魔術王の至近距離に接近したのだから。

 ヤドリギによる自己補完。大半の傷を自動的に癒やしていたその機能は、医者の立場からすれば喉から手が出るほど欲しいものであった。

 その手術が終わったのが一日前の早朝。

 絶対安静なことには変わりないが、その日の内に数時間意識を取り戻したことで、Eチームリーダーのゴキブリの如き生命力を示したのだった。

 そんな訳で。

 立香はノアを冷やかすべく、彼の病室を目指していた。

 日頃の恨みはもちろん、マスターの鉄の禁則事項である『単独によるサーヴァントとの戦闘』を犯したのだ。これはもう、文句のひとつでも言ってやらなければ気が済まないというものだ。

 病室の前に差し掛かった時、ロマンの声が響いてくる。

 ノアはベッドの上に寝そべり、その側に置かれたパイプ椅子にロマンが腰掛けていた。

 

「───アルス・ノヴァ。魔術の欠点を克服した、人類全員で根源に至るための術法、か。キミはそう解釈したんだね」

「まあな。ほとんど名前を借りただけみたいなもんだが、新しく言葉を考えるのも面倒だろ」

「うん。昔の言葉から名称を持ってくるのはよくあることだしね。きっとソロモン王も喜ぶはずだ」

「おい、おまえがソロモン王を代弁するな。解釈違いだ」

「くっ! なんて過激なファンなんだ……!?」

 

 扉に掛けようとしていた手が止まり、慌てて隣の壁に背中を預ける。まるで身を隠すように。

 

(いや、別に盗み聞きなんてしなくたって!)

 

 立香は妙な気恥ずかしさを覚える。

 神経の図太さには自信があったのだが、病室に入るまでの簡単な動作がどうしようもなくもどかしい。

 ロマンの柔らかな声音が耳に届く。

 

「……できると、思うかい?」

 

 ノアは傍らに置かれたカゴの中からリンゴを手に取ってかじる。

 

「じゃなきゃアイツの前で大見得切らねえよ。何年かかるか分からないが、魂が腐って死ぬまでは全力を尽くす。……それよりも」

 

 彼はじとりとした眼差しをロマンの横に向ける。

 

「ダンテ。おまえ天国でソロモン王の魂見たことあんだろ。どうしてあの時黙ってやがった」

 

 ぎくり、とロマンの横に立っていたダンテは震えた。リンゴの皮剥き用のナイフに手を添えるノアの姿に、彼は泡を食いながら、

 

「いやいやいや! よく考えてください!

あの状況でそんなこと言ったら絶対殺されてましたよ!? 正直、地獄でサタン見た時くらいビビりましたからね!?」

「ああ、帰還した瞬間にパンツ履き替えてたのはそういう……」

「それノアさんの前で言う必要ありませんよねえ!? むしろ小の方で留めたことを褒めてほしいくらいですよ!」

「いや、良い大人が漏らした時点で負けだろ。留められてないだろ。膀胱が決壊してんじゃねえか」

 

 病室の隅で冷蔵庫を漁っていたペレアスは、清涼飲料水を取り出して口に運ぶ。

 

「戦場で漏らすやつは何人もいたから良いけどよ、お前の見立てからしてアレは本物なのか? 前々から魔術王のことも知ってるみたいだったが」

「後者の質問から答えると、召喚された時に知恵の女神から仄めかされてはいましたから。魔神柱のこともありますし、皆さんも予想はしていたのでは?」

「まあそうですね。前者はどうです?」

「魂の感じからして、十中八九別人だとは思うのですが……」

 

 ダンテは言い淀んで、

 

「ほら、キリスト教の評価ではソロモン王は堕落した人間とされていますから。そのような面が表に出てきていたとしたら、あの振る舞いも腑に落ちる部分もあります」

 

 言いながら、ダンテはノアに視線を送っていた。過激派ファンである彼の報復を恐れた最大限の警戒である。

 ソロモンは父のダビデと比べて、後世のキリスト教による評価はあまりに低い。ダビデは救世主の祖先として崇められているにも関わらず、ソロモンは手厳しい見方をされることがほとんどだ。

 それは、犯した罪に対してソロモン王が痛悔を行った描写がないことに起因する。

 罪を犯したことは大した問題ではない。それを悔い改めたかどうかが重要なのだ。神の赦しを得たかも定かでないことから、彼が地獄に落ちたとする解釈まで存在する。

 ノアは首を縦に振った。

 

「700人の妻と300人の側室抱えてたようなやつだからな。色好きだったのか、求婚も断れないヘタレだったのかは知らねえが、ロクデナシだったことは間違いないだろ」

「妻の多さに関しては婚姻政策や戦争の未亡人を保護する方便だとか、地に満ちよという神の命令を実行するためだとか色々フォローの余地はありますがねえ。私としては彼の人間らしさは好感が持てますよ」

 

 ロマンは鈴を転がすように笑う。

 

「あるいは、彼には何もなかったのかもしれない。神の声を聞いて、その通りに動くことしかできなかったんだから。操り人形のような王様だよ」

 

 ほんの僅かに落ち込んだ声。いつもとは温度の低い声音に、ノアは目を細めた。

 

「だとしても、ソロモン王の功績は人類史に不可欠だ。自由意思がなかったとしても、俺だけはその行いを肯定する。神の声を聞いたってことは、ソロモンじゃなきゃできなかったってことだからな」

「…………本当に、好きなんだね。彼のことが」

 

 ロマンは小さく顔を伏せる。ペレアスは彼に同意して言う。

 

「確かに、お前がそこまで肩入れするのも珍しいな。なんかあんのか?」

義母親(ははおや)が絵本作家で、動物と会話できる指輪の話を書いてたのがきっかけだ。後は語るまでもない」

「ソロモンの指輪の伝説ですか。ノアさんにもそんな可愛らしい時代があったんですねえ…………あの、果物ナイフを構えるのはやめてくれません?」

「……まあこんなところで良いだろ。後がつかえてるみたいだし、オレたちは退散するぞ」

 

 そう言って、ペレアスはロマンとダンテを病室から引きずり出す。

 腐っても人外魔境のブリテン島を生き抜いた騎士。外にいる立香の気配にもしっかりと気付いていた。紳士的な振る舞いを忘れない騎士ならではの計らいである。

 とは言っても、Eチームで彼を騎士として見ているのは誰もいない訳だが。

 そんな残酷な真実を胸に秘めおいて、立香は病室を出るペレアスの背中に頭を下げた。男は背中で語るとは半ば慣用句的な表現だが、現代っ子の立香はそこはかとない古臭さを感じてしまうのであった。

 入れ違いで病室に足を踏み入れる。

 ノアはそれを気に留めず、カゴからブドウを取って口に運んだ。

 短く、長いような時間。立香はロマンが座っていた椅子に腰掛けて、沈黙を破る術を探る。

 そうして見つけたのは。

 

「お兄ちゃんが私の部屋に、キツめのジャンルの同人誌隠してた話でもします?」

「帰れアホ」

 

 苦渋の末に捻り出した秘策が一蹴され、立香は撃たれたみたいに硬直した。そもそもが愚策であることに彼女は気付かなかった。

 ノアは鼻を鳴らすと、カゴからみかんを一個取り、半分に割いて立香に渡す。

 

「おまえ、兄貴がいたのか?」

「あ、はい。六つ年上の兄がいます。私がここに来る前は、サハラ砂漠でエジプト人の占い師と一緒に永久機関の研究をしてるとかなんとか……」

「なるほど。おまえのアホさ加減は兄貴由来か。永久機関より先に自分の脳みそをどうにかしろよ」

「それはもう、その通りなんですけど」

 

 脳みそのおかしさを指摘している本人の脳みそがおかしいという二重構造。驚くほど客観視ができていない男であったが、立香はそれを口に出すことはなかった。

 彼女は得意げに胸を張る。

 

「これでも学校では優等生でしたからね。バレー部の赤い彗星とは私のことですよ! 一応県大会にも行ったことがあるんですから!」

「通常の三倍の高さのジャンプでもしたりすんのか? どうしてカルデアに来たんだよ。俺も行ったことはあるが、日本は裕福な国なんだろ」

「留学扱いで海外に行けるって言うので……英語も得意でしたし、今思えばカルデアが色々根回ししてくれたんでしょうか」

「……おまえのレイシフト適性の高さから察するにその可能性は高いな」

 

 ノアは真剣な目つきになる。口元に手を当て、思考を回しながら唇を動かす。

 

「世界中から有資格者を集めてた訳だから、そうか。おまえも不運だったな。こんな事件に巻き込まれさえしなければ───」

 

 その先に続く言葉を、立香は彼の手を掴んで止めた。

 

「それは、違います」

 

 確固たる意志で、彼女は否定する。

 確かにノアの言い分は正しい。

 レイシフト適性さえなければ。

 カルデアの調査から漏れていれば。

 少なくとも立香は、英雄や魔物が鎬を削り命をぶつけ合う戦場を知らずに生きていられた。東の島国で、普通の日常を送っていられたはずなのだ。

 けれど、ノアにだけは。

 全部が悪いようには、言わせたくなかった。

 

「リーダーがひとりで戦っている時の記録を見ました。私をいるべき場所に帰すために戦う、って。そう言ってましたよね」

 

 パラケルススとの戦い。挑発にあえて乗ったノアは、伝説の錬金術師に自らの戦う理由を零した。

 沈黙は同意。立香は言葉を続ける。

 

「それ自体はすごく嬉しかったです。でも……」

 

 彼女の心に食い込んだのは、その前。

 〝あいつが生きる世界に、俺たちはいるべきじゃない〟───それだけは、絶対に認められなかった。

 だって。

 

「私が生きたいと思える世界には、リーダーが、みんながいないと駄目なんです。カルデアの人たちがいない日常なんて、私には何の価値もありません。だから、勝手に私が不運だなんて、言わないでください」

 

 顔を見知った多くの人が死んだ。

 世界を救うという重圧は、きっと慣れることはないだろう。

 普通に生きていれば知るはずもなかった戦場は、そこに置かれるたびに癒えぬ苦しみを突きつけてくる。

 それでも。

 そうなのだとしても。

 この出会いは唯一無二で。

 誰にも否定なんてさせやしないと、そう思った。

 

「……悪かったな、藤丸。俺はおまえを勘違いしてた」

 

 ノアは軽く手を握り返す。

 その感触を放してしまわないように、立香は指に力を入れた。

 

「良いんです。なんだかんだで、今まで助けてくれましたし……残り半分、これからも助け合っていきましょう」

「ああ。おまえの世界とやらのために、誰も欠けさせはしない」

 

 理想のために、彼らは手を取り合った。

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