自称カルデア最強マスターとぐだ子の人理修復録   作:なまゆっけ

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第76話 『この世全ての罪』

 その偽神には、いくつもの呼び名があった。

 デミウルゴス、ヤルダバオト、サクラス。もしくはサマエール、パントクラトール────意味に細やかな差異はあれど、その単語によって伝えんとする大元は変わらない。

 すなわち、物質界の創造主。無数の星が瞬く宇宙、あらゆる生命を育む地球、そしてその星に住まう生命体。それらを創造した造物主のことを指す。

 グノーシス主義神話において、偽神は真なる神を模倣して自身を神と規定し、真なる世界を模倣してこの世界を創り出した。

 故にこそ、神を騙る詐称者(プリテンダー)

 真なる神が創りし真なる世界のデッドコピーたるこの世界に物理法則を外れたものは存在せず、どんな超常も認めない。

 実験の結果超人となった兵士や機械の鎧を纏うキザな社長といったスーパーヒーローなんかいないし、指先ひとつで敵をスタンさせる魔術も、人間さえ再現する人形を造る魔術師もいない。空を飛んで人を襲うサメなんてもってのほかだ。

 全てがなるようにしかならない。几帳面で融通が効かず、救いのない世界。

 奇跡も魔術も神秘も魂魄もあり得ない場所で生きていくことこそ、この世全ての人類に課せられた罪業であった。

 その世界から脱する方法はただひとつ。

 それは───────

 

「─────『この世全ての罪(ポイマンドレース)』」

 

 悪しき幻想が、現実を侵食する。

 否、この場所こそが現実。

 目を背け、逃れたいと願う現の世界。

 けれど、ここからは逃れることも目を逸らすことも叶わない。あるのはただ、味気ない無限の物質界のみ。

 旧き現実は造物主の意のままに変革を遂げる。

 白と黒、そして灰色の世界に、二人の英雄とひとりの人間が取り込まれていた。

 

「私は神様なので、予言してあげます」

 

 朗々と響く、艶やかな声。

 自身の権能の粋、理想の具象。紛うことなき己の世界を顕現せしめた偽神の紅き瞳を、帯状の影が覆い隠す。

 

「あなたたちはもう、私に指一本触れられません」

 

 尊大なその一言は薄ら寒い音色を纏い、モノクロの世界に響きわたった。

 ギルガメッシュとキングゥの背後。シドゥリは僅かに後退った。体に流れる血液がそっくりそのまま冷水に入れ替わったかのような怖気が走る。

 恐ろしい、と感じたのは戦いに巻き込まれたことでも、サクラの宣言を突きつけられたからでもなかった。

 ただ、偽神とこの世界が理解できない。

 例えば、イシュタルやエレシュキガルの権能は一目見るだけであらゆる人間が恐れ慄き、平伏するだろう。神の力は人智の及ばぬほどに強大で強力だ。

 けれど、サクラの権能をこうして目の当たりにしても、その強さが分からない。単に風景が変わっただけ───そんな風にさえ思えるほどに。

 それが何よりも、恐ろしい。

 

「指一本触れられない、か。大きく出たじゃないか。ところで、キミの予言とやらに信頼性はあるのかい?」

「ええ、少なくともあなたの勝率よりは。負け犬街道突っ走ってる泥人形如きに煽られても全く効きませんよ?」

「おっと、効いてないアピールは敗北宣言も同然だよ。人間の文化で言うレスバトルでは最も唾棄されるべき行為のひとつさ」

「はあ〜? あなたは人形で私は神様、人間のくだらない文化なんかに当てはめないでくれます? まあ、そこでROMってる王様はお人形以下ですけど」

 

 サクラは影の眼帯越しにギルガメッシュを眺め、くすくすとせせら笑う。

 

「それとも」

 

 ぬらりとした赤い舌が唇を這う。

 それは獲物を前にした肉食獣のような。

 目の前で溺れていく人間を眺めるかのような、下卑た笑みだった。

 

「───ビビってるんですか? クソザコキング♡」

 

 しん、と冷たい音色が大気に浸透する。

 竜の逆鱗を踏み躙るかの如き誹言。平時であるならば、そんなことを宣った者は一秒とかからずにこの世から排除されるだろう。

 サクラの世界が有する寒々しい空気が一瞬にして塗り替えられる。

 毛穴のひとつひとつを鋭い針で抉じ開けるかのような気迫。ギルガメッシュは心底つまらなそうに、稚児に言い聞かせるみたいに、告げた。

 

「言ったはずだ、贋作者(フェイカー)。御託はいい、来るなら来いとな。───それとも、貴様はそんなことも覚えられない単細胞なのか?」

 

 心臓を締め上げる、冷徹な声音。

 サクラの返答はただひとつ。

 

「……じゃあ、存分に捻り潰してあげます」

 

 黒白の偽神は己が敵へと駆ける。

 反物質で消し飛ばすのは簡単だ。宝具の複製を創り出しても良いが、やはり殺すのなら自分の手で感触を味わうに限る。泥人形にさして期待はないが、王の肉を裂くのは愉しいに違いない。

 それに、力の差を分からせるなら素手が一番だ。

 抵抗もできずに殴り殺される。堕ちる様は高ければ高いほど良いように、人間にしては圧倒的な力を誇るギルガメッシュがそんな苦痛の末に迎える最期はきっと見物だろう。

 

「残念ながら、潰されるのはキミだよサクラ」

 

 偽神の進路上に割り込むキングゥ。不敵に笑む彼は獲物に飛びかかる寸前の獣のように、ゆったりと佇んでいた。

 以前の獰猛に敵を狩る姿とは真逆。待ち構える姿勢を取るキングゥを、サクラは鼻で笑う。

 

「前菜としてはそこそこですね。プラモデルみたいにパーツ分けしてあげます、お人形さん!」

 

 たん、と地面を蹴って跳ぶ。

 振り抜く右足は嵐の如き威容をもって迫る。

 サクラの一撃の前に迎撃・防御は無用。エネルギーの向きを操ることで、反作用の力さえも一方向にまとめて制御してしまう。最低でも威力は二倍───しかもそれが自己変革によってA++ランクの筋力から繰り出されるとなれば、サーヴァントですら即死は免れない。

 その蹴撃を、キングゥはするりと受け流す。微塵も臆することなく、ただ脚の側面に手のひらを添えて、軽く押すように。

 熟練の武術家を思わせる動き。蹴りの軌道が捻じ曲げられ、漆黒の大地に炸裂する。

 

「……あれっ」

 

 サクラは素っ頓狂に頭を捻った。

 困惑のままに拳を振りかざす。が、それもまた微小な動作のみで流される。

 

「不思議かい? ボクも同じさ。人間の武術というのを少し見習ってみた。所詮はヒトがヒトのスペックの中で適切に動くためのモノだと思っていたけれど────」

 

 ───ヒトの技術は自分よりも大きな敵を倒すためにあった。

 遥か太古の昔、投槍器を開発した人類は強大なマンモスを、俊敏な草食獣を食い物にした。ヒトが捻り出したあらゆる工夫と知恵は常に何かを乗り越えるためにある。

 強大な力を強大なまま振るう。そんな信念を抱いていた自分は敗北を経験して変わったのだ。神の泥人形でも、魔術王の協力者でもない、キングゥとして。

 

「くぅっだらな……それは退化でしょう。自分の弱さを誇るなんて、そんなところまで人間らしくなったんですか?」

「さあね、ただ変わっただけさ。キミはどうだい? 幾度と戦った彼らから学び取ったことはあるのかな」

「ある訳ないじゃないですか。あなたなんかと同列に語らないでもらえます?」

「変化がない、進歩もない。それがキミだというのか」

 

 サクラの乱打をキングゥはことごとく防ぎ切っていた。

 偽神に正面からの攻撃は通じない。力の向きを変えることで、極論彼女が認識できる攻撃はすべて反射される。

 ならば、相手の虚を突く。

 敵をナメきった相手の意識の隙間。呼吸の綾を縫い、打撃を与える。

 偽神の側頭部を砕く、足刀の一撃。竹を割ったかのような音が鳴り、

 

「…………ええ、だって、私は神様ですから」

 

 無造作に薙ぎ払った石翼が、キングゥを跳ね飛ばす。

 サクラには傷ひとつなかった。精々が髪の毛が乱れた程度で、打撃は頭骨を砕くどころか脳を揺らしさえしていない。

 一息にギルガメッシュとシドゥリへと接近する。王は自らの従者を護るように立ちはだかっていた。

 

「完璧、完全。それを体現した私にこれ以上の変化も進歩も要りません」

「今まで数え切れないほど醜態を晒した貴様が完璧で完全だと? 片腹痛いわ雑種が!!」

「雑種強勢を知らないんですか? そもそもあなただって神と人間の雑種じゃないですか。あ、もしかして同族嫌悪だったり? さもしいですねぇ!!」

 

 サクラは石の翼を叩きつける。

 しかし、それはギルガメッシュには何ら脅威にはなり得ない攻撃だ。

 王の宝物庫に収められた無数の宝具。無限に等しい手札を持つかの王は、それこそ無限に等しい防御手段を有している。

 如何に敵が策を弄そうと、それ以上の手数を持って押し潰す。

 

「───ッ!!」

 

 けれど、王の蔵が開くことはなかった。

 何故。

 困惑は一瞬。

 回避に傾く思考。

 だが、それでも遅く。

 王の左腕は、とうに泣き別れていた。

 

「……あぁ〜♪」

 

 サクラは口角を吊り上げる。

 ギルガメッシュとシドゥリの背後。彼女はぷらぷらと刈り取った左腕を揺らし、

 

「まずは一本、取られちゃいましたね……♡♡」

 

 花を手折るかのような気軽さで腕を握り潰した。

 

「どうして私に攻撃が通じなかったのか。どうして宝物庫の扉が開かなかったのか。気になりますか? 気になりますよねぇ?」

 

 ぴしゃり、と手のひらに付着した血液と肉片を振り払う。黒き大地に赤色が差し、少しずつ溶け込んでいく。

 それでもこびりついた血肉を口内でこそぎ落とし、ぬらついた水音とともにてらてらと光る指を引き抜いた。

 

「私のセカイでは神秘なんて曖昧な概念は認めません。魂や魔力や宝具なんて、都合の良い力は存在しない」

 

 この世界に在るのは全能の偽神と、覆せぬ物理法則に縛られた愚民のみ。そこではあらゆる超常はなく、ただただ残酷で融通の効かない法則に従うしかない。

 つまり。

 

「私の宝具は、全ての神秘を否定します。そこに一切の例外はありません。そこのお人形さんが神に造られた肉体を持っていようと、あなたがあらゆる宝具を貯蔵していようと、全部ガラクタ…………さあ、絶望しましたか?」

 

 黒白の偽神は突きつける。

 英雄、英霊を支える根源にして本領。神秘という名の力が、取るに足らぬモノであることを。

 キングゥは胃からせり上がる血の塊を飲み下し、地についた膝を起こす。

 

「だというのなら、おかしいね。魔力も神秘もないのなら、その違和感にボクたちが気付かないはずがない」

「いいえ、気付くはずがないんですよ」

 

 だって、と偽神は嗤う。

 

「───これが、現実なんですから」

 

 人類史に刻まれた数々の英雄。

 裏の世界に生きる魔術師たち。

 それらは、この世界を形成する一片に過ぎない。

 むしろ、この世の大半の人間にとって魔術や英霊は夢物語のフィクションだ。神秘というものを扱う絶滅危惧種が世界を先導しているなど、傲慢の極みと言えるだろう。

 サクラはギルガメッシュを見据え、

 

「この時代の世界人口はおそらく1億にも満たないでしょう。ヒトひとりにそれぞれの現実があるとしても、あなたが支配しているのはそのさらに一部の十数万のものでしかない。ならば、私が背負うのは現代を生きる神秘を知らない75億の人間の現実───!!」

 

 完成した絵画のキャンバスにペンキをぶちまけるみたいに、現実はより強い現実に塗り潰される。

 たとえどんなに甘く優しい物語を見ていても、その後には味気ない現実が待ち受けている。人類の幻想が神や英霊を形作るというのなら、サクラは人々が生きる現実に対する絶望と虚妄、退屈と諦観の集合体だ。

 

「いつもの力が振るえない気分はどうですか? 宝具がガラクタと化した気分は? でも、それがみんなが生きる無力な現実!! あなたたちが狭い世界で圧倒的な実力を誇っていても、そんなのは今や全部幻想に成り果てたんです!!」

 

 偽神の哄笑が轟く。

 灰色の桜が咲き誇る。

 花弁の一枚一枚が、白濁色の空を一層空々しく彩っていく。

 サクラの世界。

 みんなの現実。

 これこそが造物主の権能───欺瞞と絶望の物質界。閉じ込められた時点で、敵の命運は決していた。

 もはや抵抗に意味はない。ギルガメッシュの蔵の門は開かず、キングゥが有する神に造られた肉体も以前のようには振る舞えない。

 が、サクラは理解していた。こういう時、人間は悪あがきをするものだと。どうしても敵わない相手が現れれば、英雄という類の人間は死力を尽くして戦い、自己満足を胸に死んでいく。

 なんてみっともない心の在り方。それはただ己の弱さを肯定し、戦ったのだから仕方ないと自身を納得させる自慰行為だ。

 

(……まあ、それはそれで面白そうですけど)

 

 胸の内がざわめく。英雄の頂点を陵辱する期待に心が満ちていく。

 次は藤丸立香だ。あのアホでマヌケな顔を恐怖と快楽で歪めて、身も心もぐずぐずに溶かし切る。アレが色に狂う姿はどんな喜劇よりも見応えがあるはずだ。

 

「ですが、あなたはひとつ見落としをしています」

 

 その言葉が、思考を真っ二つに横切る。

 サクラは声の主を知り、ため息をついた。

 

「ええと、シドゥリ……でしたっけ。脇役未満が何の用です?」

 

 殺意と嫌悪の籠もる声。シドゥリは至って冷静にそれを受け止め、

 

「あなたの言う現実は確かに正しいのかもしれません。けれども、あなたが語っているのはたったひとつの側面……悪い部分だけでしょう。誰もが無力であると同時に、僅かながらも目の前の現実に干渉できる力を持っているのですから」

「それで? 誰でも未来は変えられるとか、真のヒーローは君たちだとか言うつもりですか? そういう頭がのぼせた量産型な意見は受け付けてませんので」

「いえ……ただ、あなたの創る世界はいささか不完全だと思いまして」

 

 シドゥリは言う。単純な色味だけで構成されたサクラの世界を眺めて。

 

「あなたの言う世界には多様性がない。単一の価値観が全てを左右するこの場所には、矛盾を許容する余剰がない。そして、あなたには他が存在することを認める度量がない。故に不完全────というよりは劣化です」

「多様を内包する余剰は無駄と言うんです。それに、誰も彼もいつまで経っても他者を認めないからこそ争い続けているのが現実じゃないですか。希望を語る前に自分たちの醜さを自覚するべきでしょう」

「その言葉、そっくりそのままバットで打ち返します。他者を排除することもまた私たちの世界でもありますが、それだけではありません。一方の選択肢しかない世界を創っている時点で、それを不完全と言わずして何と言うのです?」

 

 一切の無駄がない完璧な世界があったとして。そこに何らかの異物が紛れ込んだ場合、その世界は瓦解するだろう。

 無駄という余剰は余裕でもある。拡張性がない箱はたったひとつの異物の侵入で破裂する。たとえその箱の中が、どんなに理想的で幸福的な桃源郷だとしても。

 それでも人は、自身の意思だけが世界に反映されることを望む。そのことがどれだけの他者とその現実を剪定しているかも知らずに。

 神秘の否定。それのみにあらゆるリソースを費やしサクラの現実は、ひどく窮屈で狭量な悪辣さだけを体現していた。

 

「よくぞ言ったシドゥリ! 褒めて遣わす!! そこな偽神よりも我の支配こそが民にとっては幸福であるからな!!」

「それもまたどうかと思うけどね、ボクは」

「まあ、実績はあるので……不死の霊薬探しで国を放り出したのはどうかと思いますが」

「ふ、いつの話をしている! それはとうに乗り越えた過去だ!!」

「なら、乗り越えられない現在(いま)を突きつけてあげます!!」

 

 サクラの現実が悪意をもって襲い掛かる。

 影に満ちた大地が波打ち、舞い散る花弁が刃と化す。

 触れるもの皆呑み込む影が押し寄せ、冷徹な石の牙が噛み付く。偽神が差し向ける無数の殺意はしかし、ギルガメッシュとキングゥの手によって捌かれていた。

 神秘を否定したとしても、彼らが積み重ねた経験は否められない。人類史に冠たる英雄、英霊としての意地がこの残酷な現実で彼らの命を繋ぎ止める。

 が、それは先のない綱渡り。

 サクラを倒す手段はなく、サクラの固有結界を逃れる道もない。僅かな一瞬を重ねていくだけの悪あがき。ヒトが罹患する病だ。

 だからこそ、偽神は丹念に丁寧に敵を追い詰める。その苦しみに心が堪えきれなくなるまで。

 一陣の風がギルガメッシュとキングゥを裂く。袈裟と逆袈裟、示し合わせたような傷。血飛沫が咲いたのを見て、サクラはねとりと粘ついた笑みを向けた。

 

「無理、ですよ? 足手まといを抱えながら私と戦おうなんて!」

 

 石の棘がキングゥに突き刺さる。本来ならば回避できていた一撃。なれど、神秘を否定するこの場ではサーヴァントである彼の力は奪われる。

 スペックを低下させ、魔力を奪い、存在を薄れさせる。もはやサクラが手を下さずとも、彼の死は間近にあった。

 

「エル───」

 

 シドゥリはそう言いかけて、口を噤んだ。

 目の前にいる彼と、かつての王の親友は異なる者だ。使っている肉体(ハード)が同じだけで、精神(ソフト)は別。重ねてはいけないと思いつつも、言葉が溢れてしまった。

 無力感か義務感か、思わず前に進み出ていたシドゥリを、キングゥは手で制す。

 

「心配は無用さ。彼は勝算もなしにこんな状況を招きはしない」

 

 ───一秒、また一秒と。

 ───命を繋ぐ度に傷は増えていく。

 ───私は、それを見ていることしかできなかった。

 

(それでも今、できることは)

 

 サクラが肉薄する。

 影が二人の足元を絡め取り、双つの翼を突き刺す。

 だから、そうすべきと思ったことをそうした。

 

 

 

「─────は」

 

 

 

 誰かの声が、小さく短く響いていく。

 灰色の翼が鮮やかな血に濡れる。

 サクラの刺突は止まった。シドゥリの体を刺し貫いて。

 彼女は血を吐き、告げる。

 

「必ず、勝利を」

 

 今際の際、零れ落ちたのは、そんな。

 黒白の偽神は顔を歪め、

 

「このザマを見て、最期に遺した言葉がそれって───とってもおかし」

「『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』」

 

 瞬間、この世はすっぱりと切断された。

 世界が崩れる。

 現実が色を取り戻す。

 白と黒の濃淡だけで表現された虚構の界が砕け散り、サクラは全身をミキサーに掛けられたみたいにぐちゃぐちゃにされて、地面に転がっていた。

 かろうじて眼窩にはまっている右眼が、どろどろになった左眼を眺める。

 

「────え…………へ、ひゃっ? あれ……!!?」

 

 困惑、当惑。

 心が虚ろな空白に染まったのは一瞬。自身の現状を把握して、途端に湧き出したのは自らの骨肉をも焼き尽くすかのような怒りだった。

 ───紅き風が吹く。

 普通、風は気圧の高い方から低い方へ空気が押し出されることで生じる。

 だが、その風は違った。

 空間が曲がり、世界の像が捻れる。

 その風は空間の層が厚い場所から低い場所へ、周囲へ撒き散らすように吹き荒れていた。

 言うなれば時空流。この世の理を掻き乱す力の奔流。

 反対に、辺りの魔力はある一点へと回転しながら集結する。

 その中心。ただ、そこに在るだけでことごとくを切り裂き吹き散らす、ひと振りの剣。

 なれど、その剣は異形だった。工業用の切削機のような刃が連なり、それが高速で回転する。斬るのでも貫くのでもなく、拓く────そのために、この剣は存在している。

 そして、その担い手は。

 

「…………シドゥリ」

 

 脈動する血管の如く、赤き紋様が五体を走る。

 身を守る鎧は要らない。盾もまた不要。彼がその姿であるということが、何よりの攻撃であり防御だから。

 いま、己の原点へと還りし英雄王は、激情とともに剣を振るう。

 

「───貴様との約定、此処に果たす!!」

 

 それはさながら、映画のスクリーンを縦に裂いたみたいに。

 時空間そのものが割れる斬撃。黒白の偽神はなす術なく呑まれ、裂け目へなだれ込む時空流に圧搾されていく。

 

「う、あああああぁぁぁぁッッ!!!」

 

 迸る絶叫。サクラはもがくように物質界の理を制御し、時空の狭間から逃れ出た。

 虫みたいに地べたを這いずりながら、肉体を再生する。魂さえ無事であるなら、物質界に存在する肉体など如何様にも創造し、こねくり合わせることができる。

 どこからともなく現れる血と肉と骨。傷ひとつない体を創り、ギルガメッシュを睨む。

 

「───どうして、宝具を…………!!?」

「愚問だな、雑種が。己の権能さえ把握していないとは。……いや、それこそが造物主という存在か。どこまで行っても貴様は偽物でしかない」

 

 ……伝説上において、シモン・マグスが開祖とされるグノーシス主義はその他の宗教と同じように、人に救いを伝道する教義を持っていた。

 偽なる神が創った偽なる世界。人間は生まれた時から物質界に収められた囚人だった。しかし、人間は肉体という物質的存在だけで構成されるのではなく、魂という霊的資質を備えている。

 故に。この物質界の軛から自らの()を解き放つことで、真なる神の真なる世界へと回帰できると信じたのだ。

 その方法は単純にして明快。

 己が生を通じて真理を知り、そして───────

 

「────()()()()()()()。全ての魂は根源の渦へと還る。貴様の物質界に神秘は存在しないが、死の瞬間魂は肉体より抜け出る。ならば、それは矛盾と言う他ない。神秘を認めぬ世界に、魂という霊的存在が現れることになったのだからな」

 

 否、とギルガメッシュは頭を振った。

 

「矛盾を受容できぬ狭量。この世界には数え切れぬ矛盾が存在するが……所詮は偽の神が創る偽の現実。たったひとつの矛盾も許容できずに崩壊するとは、呆れて物も言えぬわ」

 

 その瞳には、冷徹で硬質な彩りしかなかった。

 現実は、それほど理路整然とはしていない。数学や物理、科学ならばともかく、人間のそれは曖昧模糊で複雑怪奇だ。街を歩く人間ひとりひとりにだって、その頭の中を覗けば無数の矛盾が見つかることだろう。

 けれど───だから、この世界は続いている。あらゆる可能性を認め、どんな矛盾もありのままに内包するが故に。

 ぎり、とサクラは歯噛みをした。

 そうして、鋼鉄を捻じ曲げるみたいに表情筋を動かし、下手な作り笑いをする。

 

「それが分かるということは、あらかじめ未来視で知っていたんでしょう? あの人間が死ねば、私のセカイは壊れるって。それでも王様ですか、自分の民を捨て駒にするなんて…………ッ!!」

 

 ギルガメッシュは言葉を叩き返す。

 

「それが、シドゥリとの約束だ。如何なる手を弄してでも勝利せよとな。貴様如き無知蒙昧が、やつと我を語るでないわ!!!」

 

 ごう、と紅き風が逆巻く。

 王は剣を振ってすらいない。使い手の意思に応じて刃が胎動した、ほんのそれだけで辺りの何もかもを引き千切った。

 サクラはその余波から難なく逃れ、啖呵を切る。

 

「もう、殺します……!! 宝具が使えなくても、あなたなんて────」

「…………その体でか?」

「は……?」

 

 偽神の視界。その右半分が、途端に暗闇に包まれる。ぼとりと足元に転がったものは粘液で濡れた目玉だった。

 

「……うそ」

 

 ぱりん、と背より伸びた両翼が粉々に弾ける。

 左腕の肘から先が熱された飴みたいに溶けて落ち、上半身を支えていた右脚がぐにゃりと折れ曲がった。

 ───魂は無事なはずなのに、どうして治らないのか。

 

「まだ分からぬか。貴様の現実は否められた。だというのに、何故自分を保っていられると思うのだ」

 

 自身の権能が否定されたということは、神としての存在の根底を覆されるに等しい。サクラの全能力全存在は既に消えてなくなり始めていた。

 

「ふ、ざけ─────!!!」

 

 ぢりぢりと空間にノイズが走り、反物質が生成される。以前に比して遥かに不安定なそれは途端にサクラの権能の支配下から抜け出し、秩序無く拡散した。

 ギルガメッシュにはその余波さえ届くことはない。時空の乱流が反物質の対消滅を遮断し、別の位相へ流し込む。

 刻一刻と体が崩れていく。サクラは焦燥感に押されるように、次々と攻撃を繰り出した。

 反物質。宝具の複製。エネルギーの操作。果ては、亜光速にまで加速した粒子の衝突によるブラックホールの現出。この世の終わりもかくやとばかりの光景は、

 

「温い」

 

 英雄王の一刀によって、無に帰した。

 キングゥは空白となった思考のまま、それを眺める。

 あれこそがギルガメッシュ。古今東西あらゆる英雄の頂点にして、原初の世界を開闢した最古の人の王。

 ───この肉体を持っていた彼は、本当にあの王と対等でいられたのだろうか。

 邪推すら浮かぶほどに、その力は圧倒的だった。

 心に湧き上がる感情に名前をつける間もなく、偽神と英雄王の戦いは決着を迎える。

 

「嫌です、うそ、だって……そんなの、ありえない!!!」

 

 黒白の少女は醜いまでに足掻く。

 とうに破綻した存在と現実。それを維持するのは死への恐怖感。自分が無になって消えてしまうという絶望。人間じみた想いが、彼女をすり減らしながら前に押し進める。

 まだ何も成し遂げてない。

 まだ何も叶えていない。

 それなのに、こんなところで終わる。

 無慈悲に、残酷に、言い訳のしようもなく。

 だけど、現実はそういうものだ。都合よく誰かが助けてくれる訳でもないし、タイミングよく奇跡が降りかかることなんてありはしない。

 それを痛感して。

 サクラはどろどろと溶けていく右手に、ひと振りの剣を創り出した。

 

「『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』───ッ!!!」

 

 世界を断つ斬撃が発露する。

 ギルガメッシュは何も告げずに剣を薙ぎ払った。

 開闢の一撃が交錯する。せめぎ合ったのは刹那、サクラの剣はその切っ先から砕ける。

 しかして。

 断末魔をあげる間もなく、少女は消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 負けた────負けた。

 この私が、あんな無様に惨めにあっけなく。

 ありえない。ありえない。ありえない。

 消滅する刹那、塵ほど残った魂の残滓。一秒と経たずに、私はこの真っ暗闇の中に消える。光を見る視覚も音を受け取る聴覚も匂いを感じる嗅覚をないけれど、死とはそういう断崖に落ちるようなものだ。

 ただし、今回は帰ってこれない。

 何度も経験した。何度も帰ってきた。

 そこがどんなに暗くて冷たいか知っているのに、怖くてたまらない。これで全部終わることが惜しくてしようがない。

 

「それが、オマエが彼女に与えたモノだ。サクラ。会うのは久しぶりだな。せっかくの最期だ、看取りに来てやったぞ」

 

 鈴を転がすような声が聞こえる。

 その音色はじくじくと身を焼く炎みたいだった。

 あるいは、腐った花のようなどろどろとした甘ったるさか。

 

「オマエには変わる機会がいくつかあった。スサノオによって特異点を創り出す力を失った時。藤丸立香の言葉を受けた時。あるいは、白き魔術師の業に意表を突かれた時。どれかひとつでも、その敗北を正しく刻んでいれば、もしくは全力の英雄王とも互角に争えていたやもしれぬ」

 

 淡々と言葉を述べて、それでいながらからかう視線。

 

「オマエは、最初から最後まで愚かだった」

 

 がらりと、声音に熱が灯る。暖かくこちらを包み込むみたいに。

 

「だが、そんな様こそ愛おしい。馬鹿な子ほど可愛いと言うが、それは真理だな。おれの眼はオマエに釘付けになってしまった。シモンはオマエを嫌っていたがとんでもない、愛が溢れて止まらなかったぞ」

 

 ほんの一瞬、魂の知覚が冴えて、その姿が見えた。

 蓮の花の柄が描かれた女物の着物を着流す男。胡座をかいて太ももに肘をつき、なめ回すように視線を差し向けている。気味が悪いほどに整った顔立ちは常に微笑を纏い、嗅覚もないというのに柔らかな花の香りが鼻をつく。

 その男は、■■■は、私を心底憐れむ表情をして、

 

「無様な死に様を見せてくれて、ありがとう」

 

 そんな言葉を、投げかけ──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マルコによる福音書第13章31節から33節。

 〝天地は滅びるであろう。しかしわたしの言葉は滅びることがない。その日、その時は、だれも知らない。天にいる御使たちも、また子も知らない、ただ父だけが知っておられる。気をつけて、目をさましていなさい。その時がいつであるか、あなたがたにはわからないからである〟

 かの救世主は語った。

 天地の滅びの時は、全能の父のみが知るものであることを。

 

「───第40儀式場『怒りの日(ディエス・イレ)』展開」

 

 しかし、その時はいま此処に来る。

 知恵の女神ソフィアの手によって。

 照明を付け換えたみたいに、空が紅蓮に染まる。

 ちかちかと紅の空にいくつもの光が点灯する。天を塞ぐ分厚い雲の裏側。灯る光は徐々に強く大きくなり、雷雲を吹き飛ばす。

 かつて、淫蕩に耽ける退廃と堕落の街は神の硫黄と火に滅ぼされた。

 天より堕ちる火。夜空の星ほどもある火礫が次々と墜落する。物語にしか語られぬ終末の光景を目の当たりにして、ダンテは顔面に深い影を落として言う。

 

「皆さん、もう既にお分かりかと思いますが…………このままだと人類は滅亡します!!」

フォフォフォウ(な、なんだって)ーーー!!」

「言っとる場合か!! ふざけてる暇があるならアレをなんとかしてくれます!?」

「ジャンヌさん、無茶を言わないでください。私はただのおっさんですよ?」

「自分で言うな! それにおっさんはおっさんでもサーヴァントのおっさんでしょ、おっさんのサーヴァントでしょ!!」

 

 というやり取りを無視して、ノアは両手首の腕輪を解き放つ。

 

「投影、『全知の鴉神(フギン・ムニン)』」

 

 一対のワタリガラスが飛び立つ。フギンとムニン───大神オーディンの使い魔。これら二羽のカラスは常に世界を飛び回り、オーディンへと見識を伝えるために存在する。

 魔術の世界において、使い魔との感覚の接続は基本中の基本。ノアの視覚は世界を観測するフギンとムニンの眼球に乗り移っていた。

 上空からの視界。視覚が先鋭化し、粒子の世界にまで立ち入る。目から流れ込む情報の濁流を魔術回路を用いて処理し、魔力の流れを掌握する。

 

「ペレアス」

「なんだ? 策でも浮かんだか」

「おまえはいい加減その地味さをなんとかしろ」

「こんな時に言うことじゃねえだろぶっ飛ばすぞ!!」

「うるせえ、俺を見習え───粒子魔術(ウロボロス)!!」

 

 広げた両手の間の空間がきらりと瞬いたかと思えば、瞬間、空を埋め尽くすほどの光の爆発が巻き起こる。

 重水素と三重水素の結合。物理法則を操る粒子魔術が創り出した、核融合反応の発散。その一撃は滞空するソフィアをも巻き込み、天の礫を消滅させていく。

 膨大な熱量は知恵の女神を遠ざかる。川の水の流れがひとつの岩に曲げられているかのように、何らかの干渉を受けているのだ。

 

「純粋水爆……お前本当に人間か? いや、愚問だったな。真にバルドルが目覚めたならこの程度ではない」

「なに上から目線で語ってやがんだ、変態全裸女が!! そういうのは俺だけの特権なんだよ!!」

「いいや、それは私の特権よ! 金星の女神的に考えて!」

「クズだな」

「「黙れ!!!」」

 

 金星の光条が飛び、次々と爆発が生じる。それらはみな、ソフィアから逃げていくように逸れていった。

 以前はほんの少しで限界を迎えた粒子魔術の使用。それを立て続けに行ってもなお、ノアは威勢を保ち続けている。

 知恵の女神はすぐに答えを得た。

 情報の収集と処理。前者を二羽の使い魔の感覚を借りることで短縮し、魔術回路の負担を減らしている。さらにはより繊細な粒子の操作も可能にしているおまけ付きだ。

 対して、立香はノアを見て思った。この男、牛若丸の治療を完全に忘れている、と。

 

「『heal(64)』!!」

 

 サーヴァントの霊基から『元の状態』を読み取り、魔力を送り込むことで修復を行うコードキャスト。人間の場合は遺伝子を元に治癒を促す程度だが、サーヴァントは肉体を魔力で構成しているが故に、魔力で傷を埋めるのは容易い。

 しかし、太陽の継嗣のみに受け継がれる神剣───それを人の身にして振るった過負荷まで補えるかどうか。

 不安を抱いたのも束の間、牛若丸はばっちりと開眼して飛び起きる。

 

「厚い手当て、感謝いたします! 状況をお聞かせ願えますか!」

「ソフィアが脱ぎました。攻撃が通じていないようなので、お力を貸してもらえますか」

「マシュ、合ってるけど違う」

「なるほど、大体分かりました。ですが……」

 

 牛若丸が言葉を途切れさせたところで、地面が大きく揺れた。

 地表を舐める突風。間近に迫る息遣い。何か、見えない手に引っ張られるように、食虫植物に誘引される羽虫みたいに目が上を向く。

 星の内海を映す、獣の双眸。

 母なる神ティアマトの顔貌が、そこにあった。

 

「────…………ッ!!」

 

 その時、立香の肉体は呼吸を忘れた。

 歯の根が合わない。視界が定まらない。瞳孔をどこに逃がしても、あまりに巨大なその眼がついて離れない。

 凍りつく脳の隅で、記憶が蘇る。

 あれはそう、ノアから日課の魔術講義を受けていた時のこと。

 

〝近代魔術における最大の発展を促したのがエレナ・ブラヴァツキーだ。あいつが設立した神智学協会は西洋魔術の思想にインド哲学の要素を持ち込み、特に霊視・霊媒の分野に革新をもたらした〟

〝何度も聞きましたけど、実物を見ちゃうと……ただUFOを乗り回してる愉快なおばあちゃんだと思ってました〟

〝……ブラヴァツキーが神智学協会を設立した1875年に生まれた魔術師、アレイスター・クロウリーはさらに先を行った。こいつはインドでヨガにハマって、自分の魔術理論にそれを取り入れることになる。他には既婚者に恋してフラれて鎌倉の大仏を見に行ってたがこれはどうでもいいな〟

〝ほんとにどうでもいいですね。それにしてもヨガが魔術に関わってるなんて意外です。私のお母さんはお風呂上がりにやってましたよ〟

〝アホか。現代の健康体操と一緒にすんじゃねえ。アレイスターは新体系の魔術をもって、ブラヴァツキーに並ぶほどの霊媒を行ってみせた。守護天使エイワスや悪魔コロンゾンとの接触がそうだな。という訳で、今からおまえには瞑想をやってもらう。自分の魂を知覚できたら上出来だ。悪魔憑きになっても精々ブリッジしながら歩き回る程度で済む〟

〝リアルエクソシストとか絶対に嫌なんですけど!!!〟

 

 ……結局、瞑想で魂の存在とやらを感じることはできなかったが。

 今なら分かる。

 己の魂の在り処。

 戦慄し、震撼する霊の存在。

 必ず死ぬ。此処で死ぬ。絶対なる神の威容を前にして、非才な自分にすら恐怖に凍りつく魂の温度が感じられる。

 そして、死は目前に躙り寄っていた。

 

「…………Aaaaaaa───────」

 

 母なる獣の咆哮。それが解放されるだけで自分たちはおろか、この船……否、地平線の彼方まで塵になる。

 逃げられはしない。ティアマトはその両手で船体を拘束している。逃げても無駄。彼女の叫びは一切合切を破壊するだろう。

 ひゅ、と。肺の中から漏れ出た空気が口の端をすり抜ける。

 全身を虚脱感が襲いかけたその時、

 

「行くぞククるん、レオニダス! ジェットストリームアタックだァーッ!!」

「黒いのはジャガーマン殿だけでは!?」

 

 駆け抜ける三連星が、ティアマトの横っ面を張り倒す。

 船体を掴んでいた手が外れ、衝撃とともに再度地表が大きく揺れる。ジャガーマンたち三人は足元の不安定さも意に介さずに着地した。

 ジャガーマンことテペヨロトルは荒々しく息を吐いて、肩を上下させる。

 

「ふふふ……ここまでやって無傷とは、やっぱティアマトはタフだニャ……ちょっとマタタビ吸いに一服行ってきていい?」

「そういえば、フンアプフー兄弟がたばこの火を灯し続けるなんて試練をシバルバーでやってましたね。試してみたらどうです?」

「それ結局最後死ぬやつじゃん!! つーか喫煙所行くのに冥界まで降りなきゃいけないの!?」

「喫煙者の肩身は年々狭くなってますからね」

 

 ケツァル・コアトルとテペヨロトルは軽口を叩きながら、ティアマトへ向かっていった。

 立香の全身を安堵感が包む。顔を手で扇ぎつつ、隣の牛若丸に問う。

 

「……なんて言おうとしてました?」

「ティアマトにも対処しなければならないと言うつもりだったのですが、いやあ、死ぬかと思いました! はっはっは!!」

「まったく笑えないのですが。ダンテさんなんてそこで地面を掘って逃げようとしてますし」

「モグラか!!」

 

 ジャンヌは素手で地面を掘るダンテを力ずくで引き剥がす。

 ソフィアはイシュタルとノアの猛攻を微動だにせずに受け流し、世間話でもするかのような気軽さで話しかける。

 

「お前たちは図太いな。ティアマトを間近に見ても怯みさえしないとは」

「ハッ、ティアマトのどこが怖えってんだ!? カルデアの女どもの方が100倍邪悪だぞ!!」

「まっ、私は女神だし? 神を恐れるのは人がすることじゃない。だからアンタも私を恐れなさい!!」

「お前を? 駄目だな、お前のジャンルは珍獣だろう。微笑ましくしか見えないよ。…………ところで、そろそろ私のターンで良いか?」

 

 ソフィアは自らの右手をこきりと鳴らし、

 

「術式融合、『天の落涙(ヘヴンズティアー)』」

 

 赤き空が、真っ白に染められていく。

 燃える礫も白色の光弾に生まれ変わり、雨霰の如く降り注ぐ。

 着弾した光弾は触れるもの一切を削り取り、突き進む。船体を貫くおびただしい数の穴。ケイオスタイドさえも呑んで進むそれが、どこまで行ったのかは誰にも分からない。

 知恵の女神はイシュタルに見せつけるように右手の甲を向ける。

 

「イシュタル、お前は知っているだろう。冥界送りの術式と儀式場を混ぜた。掠りでもすれば即座にあの世行きだ」

「残念、その冥界の神は私たちの味方よ。冥界送りなんてまったく怖くないわ」

「それこそ残念だ。今、この場は最後の審判である怒りの日。向かう冥界はキリスト教の地獄に固定される。洗礼を受けたことがない者はな」

「インチキ魔術もいい加減にしてくれるかしら……!?」

 

 ノアは少し考え込んで、

 

「ペレアス、ダンテ、おまえら盾になれ。キリスト教徒だろ」

「落ち着いて考えてくださいノアさん! アレが本当に最後の審判と同じだとしたら、私たちは地獄でなく天国に行くことになります!! 別次元に送られるという点では全然変わりません!!」

「だったらダンテが盾になるしかねえな。一回天国に行って帰ってきてるんだし、今回も大丈夫だろ」

「ペレアスさん、あなた適当に言ってますよねえ!!?」

 

 ダンテはペレアスの肩を掴んで揺さぶる。迫真の表情を目の前で見せつけられたペレアスは若干引いた。リースは頭を傾けながら言う。

 

「ですが、まずい状況ですわ。こちらの攻撃は通じない上にあっちはやりたい放題、星をゲットした配管工みたいなものです」

「スカイクラッド……って言ってたか? 服脱ぐだけで無敵状態になるのはどういう理屈だ? ガウェインの方がまだ理解できるぞ」

「脱いだことに囚われんな。言葉の意味としては空を着る(スカイクラッド)、だぞ。魔女からすればアレは着衣なんだよ」

「おいおい、魔女ってのはあんな公然猥褻スタイルでも合法なのか───よっ!!」

 

 ペレアスは振り向きざまに斬撃を放つ。神殺しの魔剣はまさに襲い掛からんとしていたラフムを真っ二つに切り裂いた。

 新しき霊長。旧人類を喰らう怪物が、至る場所から溢れ出す。レオニダスは牛若丸とともに迫りくるラフムを処理しながら、

 

「空を着る、とは面白い表現ですな。パンクラチオンの正式ユニフォームも全裸でしたが、アレはまた違った意味があるのでしょう」

「ユニフォームとは一体……なんで攻撃が逸れるかリーダーにも分からないんですか?」

「ああ? んなことはもう理解してる。対処法も用意済みだ」

「…………今までの会話と戦闘の意味は!?」

 

 サーヴァントたちがラフムを排除し、その手を借りて天の礫から逃れつつ、立香はノアを咎めた。彼は能面のまま、立香の頭頂にそびえ立つアホ毛を人差し指で弾く。

 

「ただしソフィアに攻撃を通せるのは一回。それで仕留められなかったら終わりだ。空から降ってくる光に巻き込まれて全員お陀仏になる」

「確かに、それはそうですけど。一回だけ、ですか…………ペレアスさんとかダンテさんを投げるのはアリですか?」

「ナシだな。気付かれたら意味がない。とにかく早いところあいつをどうにかしないと、ティアマトを冥界に落とす作戦も使えねえ」

 

 むむむ、と立香は頭を悩ませる。

 自分だって、ここまで戦い抜いてきたマスターだ。自惚れてはいないが、少しは役に立てる自覚もある。少なくとも、サーヴァントのマスターとして戦った経験は世界の誰よりも積んでいるはずだ。

 

〝───今回は魔女らしく行く。優雅な戦いなど望むなよ、美の女神〟

〝───『三重の法則』。魔女の行動はその善悪を問わず、三倍になって返ってくる。そういうことでしょう〟

〝───スカイクラッド。原初の魔女の本気、その目に焼き付けるといい〟

 

 隅々まで敵の情報を洗って、何をするべきかを見極める。

 立香は手を招く。ノアが上半身を倒すと、その耳に唇を寄せた。

 

「───……っていうのはどうですか?」

 

 ノアは軽く鼻を鳴らし、小さく口角を上げる。

 

「良い案だ。それで行く」

 

 立香の頭の上に手を置いて、ぐしゃぐしゃと髪を掻き回す。乱れた髪を手で直し、口を尖らせて文句を言う。

 

「褒めるならちゃんと言ってください」

「褒めたんじゃねえ、撫でただけだ」

「セクハラで訴えてもいいですか?」

「やってみろ、法廷の魔術師と呼ばれた俺に勝てるならな!!」

 

 盛大な爆破が空を埋め尽くす。

 膨大な熱の中心で、ソフィアは目を閉じる。

 ───服を着ることの意味は、内界と外界を仕切ることにある。人と他人は違うという証明、自己の真実を周囲から隠すための偽装。

 ならば、それを取り払うことは内界と外界の境界を無くすことを意味する。空を着る、とはそういうことだ。自己を外界に発散させ、内界と外界を反転し、融合する。固有結界の亜種とも言えるだろう。

 亜種反転固有結界スカイクラッド。

 結界を閉じる必要がないことから、固有結界の弱点である抑止力の干渉による時間制限もなく、自然を操ることもできる。

 五大元素説のうち、天体を構成する第五の元素にして天界を形作る物質、エーテル。スカイクラッドはそれを操作することに特化した魔術であった。

 ───それも、完全ではないが。

 元より、ソフィアは自分の能力を信用していない。

 このスカイクラッドとて、粒子魔術の干渉を受ければ十全には働かないだろう。

 だから、安心できる未来を探る。

 痛いのも苦しいのも御免だ。

 先のことを知っていないと、とてもここになんていられない。

 

「『天の理』、『地の理』、『人の理』、『神の理』────並列起動、術式全転写。術式解放時間はマイナス1秒に設定」

 

 目を開く。見るべきモノは見えた。

 渋滞した現在の背中を押して、進むべき未来へと辿り着かせる。

 権能の粋たる四冊の魔導書とともに、最大最高火力の魔術を撃ち放つ。

 

「────『逆行起源・天地収斂(ネガ・インフレーション)』」

 

 最も警戒すべきはマシュ・キリエライトの宝具。

 その展開の隙を与えぬ、虚数時間を介した魔術発動。

 宇宙を膨張させるダークエネルギー。莫大と表現することすら適さぬそれを魔力に転換した光明がウルクを、人類を跡形も残さずに滅した。

 静寂と無人。

 生温い風が肌を撫でる。

 知恵の女神は全身で風を受け止め、

 

「…………ああ」

 

 ぎぢ、と奥歯を噛み締め、大きく激しく叫ぶ。

 

「やってくれたな、マーリン!!!!」

 

 鏡面をハンマーで砕くように、世界の像が割れる。

 真実の世界は、前となにひとつ変わってはいやしなかった。

 

 

 

 

 

「────素敵な夢は見れたかい、お嬢さん」

 

 

 

 

 

 花弁が舞い乱れる。

 こつり、こつりと軽やかに響く足音。

 花の魔術師は我が庭のようにウルクの地を横切り、

 

「良い天気とはいかないけれど、こういうのも悪くはない。みんな大好きマーリンお兄さん参じょ」

「邪魔だアホ!!」

フォフォウ(退けクズ)

「グフゥーッ!!」

 

 ノアとフォウくんに顔面を両側から叩かれ、マーリンは地面を転がる。

 

粒子魔術(ウロボロス)

 

 この世界そのものに干渉する魔術。

 度重なる核融合によって周囲へ振り撒いていた架空の素粒子。それら全てを相互に作用させ、ソフィアのスカイクラッドを打ち破る。

 

「やれ、立香!!」

「はい! 『魔女に与える鉄槌(Malleus Maleficarum)』!!」

 

 コードキャスト。その真価は呪文を対象に書き加えることにある。牛若丸に使った治癒の魔術も極端に言ってしまえば、『治れ』という命令を書き込んでいるに過ぎない。

 ソフィアは魔女としての性質を有している。スカイクラッドも、彼女が展開する儀式場もまた魔女の力に由来するのだとしたら。

 それに対立する概念を書き込んで、打ち消してしまえばいい。

 魔女殺しの弾丸が飛翔する。

 この程度、反応できぬ速度ではない。ソフィアは空間を歪曲させ、弾丸を押し潰す──────

 

「あなたにしては、程度の低い魔術ね」

 

 ───その寸前、弾は軌道を変え、知恵の女神の体を打った。

 全身を掛け巡る電流。魔女の属性が消え去り、存在が歪められていく。息が詰まる感覚をよそに、立香の横の空間を睨んだ。

 

湖の乙女(エレイン)……そうか、妖精郷(アヴァロン)から駆けつけたか!!」

「ええ。私とマーリン、どちらかが消滅した時は本体を連れてアヴァロンを出ると決めていたの。流石に足が棒になったけれど」

「…………どうやってここまで来た?」

「徒歩よ」

 

 エレインはすっぱりと言い切った。

 マーリンは鼻血をハンカチで拭き取りながら、

 

「フフフ……流石に先に死んだことを後悔したよ。エレインを担いで走るのはとてつもない重労働だった……」

「私の未来視を欺いたのはお前の幻術か、マーリン」

「それもある。だけどね、そもそも私とエレインはこの時代に生まれてもいないし、死んでもいない泡沫の妖精だ。世界にすら考慮されていない私たちのような存在を、どうして未来視で見通すことができると言うんだい?」

「……チッ。元より殺されることは織り込み済みだったか。なるほどな、私では勝てない訳だ」

 

 …………ならば、こうするしかない。

 

「─────Aaaaaaaaaaa…………!!!」

 

 大気を痺れさせる、獣の咆哮。

 包丁で空気を切るように真空の層が生じ、ウルクを貫かんと奔る。

 だがしかし、それは紅き風の一刀に斬り伏せられた。

 黎明の光の如き赤光がカーテンのように、オーロラのように広がる。

 赤光の膜の表面に、金色の波紋が点々と群れをなす。それらは門。王の宝物庫の裡よりあらゆる武装が顔を出し、主の号令を待つ。

 

「時は来た」

 

 最古にして最強の英雄王ギルガメッシュ。

 彼は、己が剣の一閃と同時に宝具の雨を降らせた。

 

「────く、っ…………!!!!」

 

 あらゆる防御機構が不全となった今は元より、幾億の魔術を記録する蔵書の内にも、その一刀を凌ぐ手段は存在しない。

 ソフィアの体を横断する傷。全身を串刺しにする宝具。噴水のように血が流れ、白い衣が身を庇うように巻き付く。知恵の女神はただただ、うずくまって腹を抱えていた。

 英雄王は宣言する。

 

「偽神は討ち果たした。これより作戦は最終段階に移行する!!」

 

 総力戦の幕引き。

 それを告げられ、金星の女神はソフィアを見下ろす。

 

「……みたいだけど、あなたはまだやるつもりでしょう? 今度こそ私がブチのめ」

「かえる」

「はい?」

「もういい、もう帰る。こんなに痛いのは久しぶりだ。後は魔導書に任せた」

 

 ぽろぽろと大粒の涙を溢しながら、ソフィアは踵を返した。彼女は空気に溶け込むように姿を消し、音も風情もなくこの場を去る。

 イシュタルは唖然として、

 

「…………はああああああ!!?!?」

 

 当然、一部始終を見聞きしていたノアたちも似たりよったりな反応をする。

 

「ふざけんなァァァ!! ボロ泣きして帰るとかスマブラでボコられた小学生か!?」

「負けたら不機嫌になるタイプですね」

「ダンテよりプライドないやつを初めて見たわ」

「そうですね、アレで強さもミジンコ(ダンテ)並みだったら良かったのですが」

「マシュさん? それミジンコにダンテ載せてません? ショートケーキのいちごになってません?」

「いや、お前がいちごとか格を考えろよ。精々サンドイッチのパセリだろ」

「地味で無名なペレアスさんに言われたくないんですがねえ!!?」

 

 地上で行われる会話を思考から排除し、ギルガメッシュはソフィアが消えた虚空に剣の切っ先を向けた。

 

「位相を切り替えた程度で逃れられると思ったか!!」

 

 遥か高次元、知恵の女神が坐す永遠の領域(プレーローマ)

 死したる()が還るべき、物質界と対立する真なる世界。剣の刺突は、ヒトが未だ辿り着けぬその領域へと貫通した。

 対界宝具。世界に直接干渉する、数ある宝具の中でも群を抜いた超抜級の武装。世界を切り拓いた刃を払い、プレーローマへの道を拡張する。

 中空に開いた穴へ向かって宝具の階段が伸びる。

 

「行け、Eチーム三人娘!! あの女に鉄槌を下してやるがよい!!」

「王様からのご指名です! 先輩、頑張りましょう!!」

「ようやく私たちの実力を認めたってことかしら。ぶちかましてやりましょう、立香」

「うん、今こそEチームリーダーの座を奪い取る時!!」

「自惚れるな。ティアマト討伐に大して役割がないから貴様らを選んだだけのことだ」

「「「…………」」」

 

 立香たちは無表情でプレーローマへの階段を駆けのぼった。

 ノアはその後ろ姿を見送り、ティアマトへ向き直った。母なる獣はウルクの直前。彼の手にはもはやお馴染みのスイッチが握られている。

 

「俺たちはティアマトをやる! ウルク市民の避難始めろ!!」

「『その心配はいらないぜ、ノアくん。ウルク市民の皆様には脱出用ポッドで逃げてもらった。後はティアマトを冥界に落とすだけだ』」

「『いや、落とすって言ってもどうやって────』」

「決まってんだろ、この船に搭載された最後の機能を使う」

「おい、最後の機能ってまさか」

 

 口角をひくつかせるペレアス。ノアはスイッチを押して、

 

「───当然、自爆だ!!!」

「核融合と言い自爆と言い、この頃のノアさんは爆発に凝ってるんですか!?」

「諦めろ、そいつはカルデアに来る前から爆破解体やってたやつだぞ!!」

 

 ズン、と地鳴りが起きる。

 ウルク・フリングホルニの船底に仕込まれた自爆機構。それは冥界と現世を隔てる地盤を破壊し、ティアマト諸共地下へと落下する。

 ギルガメッシュは空中からその光景を眺めていた。

 王は首を動かさずに、背後へ声を投げかける。

 

「……さて。貴様はどうするつもりだ、キングゥ」

 

 緑の長髪を棚引かせる、紫の瞳の青年。彼は真っ直ぐギルガメッシュを見据えていた。

 

「キミは行かなくて良いのかい?」

「貴様が言うべきことはそんなことか」

「…………いや、違うな。うん、そうだ、ボクはボクを試したい───キミという相手で」

 

 敗北を知った。

 己の力が通じぬ、現実を知った。

 聖杯を失い、恥知らずにも命を拾って、それでも此処にいるのは、きっと、彼に逢うためだった。

 敗北を刻んだキングゥという個が、英雄王という壁を前にどこまで通用するのか。

 それを、試したくて。

 

「良いだろう」

 

 英雄王は剣を胎動させる。

 紅き風が吹き荒れ、淀んだ空を晴れ上がらせた。

 

「我が友エルキドゥの誼だ。貴様の挑戦、受けて立とう」

「ありがとう。それじゃあ─────」

 

 三者三様。此処に、最期の戦いが始まる。

 

「────フルスロットルで行くよ、ギルガメッシュ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プレーローマ。神性の充溢する、霊魂の故郷。

 知恵の女神はそこにいた。

 足音が響く。

 足音が近づいてくる。

 やめろ。来るな。近付くな。

 たとえこの場所にあろうと、権能をもってすれば現世に干渉することなど容易だ。その深追いに意味はない。

 体に刻み込まれた痛みが記憶を引きずり出す。

 愚かしさにまみれ、罪業に満ちた私の人生の記憶を。




・サクラ(ス)のステータス
クラス︰プリテンダー
真名︰サクラ(サクラス)
属性︰混沌・中庸
ステータス︰筋力 E~A++ 耐久 E~A++ 敏捷 E~A++ 魔力 E~A++ 幸運 E~A++ 宝具 EX
保有スキル
『欺瞞の造物主︰EX』……三相一体の女神・サクラに組み込まれた相のうち、『デミウルゴス』に当たる権能。物質界を操るスキル。人間以外の生物・無生物の一切を支配下に置き、操作できる。唯一人間だけを操れないのは、グノーシス主義において人間は物質界から脱することができる資格たる『霊』を魂に宿しているからである。
『愚昧なる贋作者︰EX』……あらゆる物体の模造品を作ることができる権能。生命体は魂それは物であるなら、ギルガメッシュのエアやアーサー王のエクスカリバーも例外ではなく、真名解放も可能。ただし、作り出した贋作は真作よりもランクが低下したものとなる。『サクラス』の側面が色濃いスキル。サクラとはサクラスの表記揺れである。愚昧なる贋作者は、決してモノの本質を理解することができない。
『傲慢の偽神︰EX』……自分自身の存在を改変する権能。神性スキルを併せ持つが、それすらも改変して消し去ることができる。ステータスの増減もスキルの複製も思いのままであり、それらにリスクはない。番外特異点では天照大御神すらも演じてみせた。ヤンチャな弟には見抜かれたが。自らを真の神と思い込む偽神『ヤルダバオト』の側面。これにより、サクラは真の神を詐称するプリテンダーのクラスを得る。
 実質EXしかないステータスとスキル。二次創作でしか許されないと思われる。
宝具
『この世全ての罪』
ランク︰EX 種別︰対霊性、対神秘宝具
 ポイマンドレース。人間を至高天に至らせない欺瞞と絶望の物質界を展開する宝具。そこでは全ての霊性は否定され、神秘の類は一切が力を発することがなくなる。つまり、サーヴァントや神、神秘に属するものは宝具に囚われた時点で一切の例外なく全ての力を剥奪される。魔術も発動することすらできない。サーヴァントは体を魔力≒神秘で構成しているため、この世界に囚われた時点で動くことすらできなくなるが、ギルガメッシュは当時実在していた生身の本人であるため、戦うことができた。
 この宝具は人間による霊性の発露によって無効化することができる。この世界は霊性が存在しないという前提で成り立っているためである。
 霊性の発露とはここでは、人間の魂が根源へと還ること。よりグノーシス主義っぽく言うと、神的火花、本来的自己の確信である。難しい言葉なのでざっくり簡単に言い換えると、ここでは人間の魂に秘められた善性、真の世界への魂の回帰と思ってもらいたい。
 その破り方は固有結界内部で人間の命が失われること。魂は死によって根源、つまり物質界の外へと還る。それは物質界を否定する霊性の発露であり、魂が唯一物質から解き放たれる瞬間である。故に物質界の外へと還る魂によって結界に穴が穿たれ、この世界の根底が覆される。すなわち、宝具や魂をただのモノとして、魔力や神秘をただのエネルギーとしてしか捉えられないサクラの矛盾を露呈させるに等しい。それにより、サクラのあらゆる能力は瓦解する。
 対霊性宝具にも関わらず、霊性の発露によって負ける矛盾。それこそが造物主たるサクラの歪さといえる。
 天敵はセイヴァー。解脱、もしくは昇天している人物はグノーシス主義における物質界のくくりを超越しているので、彼らにはどうあがいてもこの宝具は通用しない。もし結界に閉じ込められたとしても、立川在住聖人男性二人なら余裕で脱出できる。
 桜科黒桜属サクラ種の疑似サーヴァント。サクラのクラスは当初フェイカーであったが、『自分を神と思い込む造物主』という元ネタにこれ以上ないほどマッチしたプリテンダーが出てきたのですかさず変更された。ありがとうオベロン。
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