自称カルデア最強マスターとぐだ子の人理修復録   作:なまゆっけ

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いつにもまして遅れてすみません。親知らずの抜歯の痛みは海のリハクでも見抜けませんでした。奏章1は桜要素まみれでわし様がかっこよかったのでよかったです。


第80話 それは、未来を奪い返す戦い②

 知恵の定義とは何であろうか。

 難解な式を解き、書の記述を蓄積する頭脳のことか。もしくは、目の前の困難に対してより善い選択肢を選び取る能力のことか。あるいは、物事の真理を狂いなく把握する眼力のことか。

 そのどれもが正しく、間違いはない。状況によって求められる知恵の形は異なる。どれかひとつに意味を定めることは傲慢の極みと言って良いだろう。

 だからこそ、傲慢にして憤怒の罪を司る蛇はその女に語った。

 

〝へびは女に言った、「あなたがたは決して死ぬことはないでしょう。それを食べると、あなたがたの目が開け、神のように善悪を知る者となることを、神は知っておられるのです」。〟

 

 蛇に誘惑された女───イヴはアダムとともに決して触れてはならぬ知恵の樹の実を口にした。かくして彼らは楽園より追放されるのであるが、それは瑣末な問題だ。

 蛇曰く、知恵の樹の実を食した者は神のように善悪を知る者となる。

 実が与える知恵とは何が善く、何が悪いかということを自分の力で判断する意思であった。

 それは見方を変えれば、人間が神となった瞬間だったのかもしれない。なぜなら、善と悪を手前勝手に規定することはこの世の全てを上から見下す視座を得るに他ならないからだ。

 

〝汝に資格あり。望みを口にせよ。願うものを与えよう〟

 

 ───ソロモンが与えられた知恵とは、そういうものだった。

 彼は己の権力を絶対的なものとした後、ギブオンという地の聖所において一千もの牛を捧げる燔祭を執り行う。

 この時代は未だ、神との交渉には生け贄が必要だった。

 罪は、血によって雪がれる。

 かつて先王ダビデが部下の妻と不貞の罪を犯し、後に彼女との間に産まれた第一子の命を奪われたように。未来の救世主が己を贄として原罪を祓ったように。罪を贖うものはいつだって誰かの命でしかあり得ない。

 神の王国を揺るぎなきものにするためであれ、ソロモンは長兄とその側近たちを殺害した。その燔祭は己の罪を取り除く目的のもとに開かれたのだ。

 かくして、穢れ無き王に資格は宿り。

 王は夢枕に現れた神に対して、願いを口にする。

 

〝あなたの民を正しく裁き、善悪を弁えることができるよう、私に聞き分ける心をお与えください〟

 

 聞き分ける心。

 何を? 決まっている、神の意思だ。

 善悪を定めて良いのは天におわす主なる神ただ一柱のみ。しかし、人間は愚かで、身勝手で、過ちを重ね続ける生き物だ。彼らはいつか神の教えに殉ずることを忘れ、自らの価値観で何が善で悪かを決めつけるようになってしまうだろう。

 そんな世界は、地獄でしかない。

 個人の主張がぶつかり合い、他者を悪として定めることで、誰かを殺してしまえるほどの言葉を臆面もなく投げつけ合う人間たち───そんな醜い世界は、どうしようもなく救いようがない。

 だから、ソロモンはたったひとつの完全なる善悪(知恵)の基準たる神の心を聞き分ける力を望んだ。

 そして、神はそれ故に、王が望んだ知恵だけではなく富と栄誉、長命さえをも授けたのである。

 

〝もしあなたが、あなたの父ダビデの歩んだように、わたしの道に歩んで、わたしの定めと命令とを守るならば、わたしはあなたの日を長くするであろう〟

 

 それは契約。

 王が神の命を守り、神の定めた運命のままに生きるならば、永き寿命を与える。かくして、ソロモンは並ぶ者無き王へと成り果てた。

 思えば、これが彼に定められた使命だったのだろう。人の身にして神の知恵を授かり、ヒトのように変化も劣化もしない善悪の法を国に敷く。ソロモンとは、人のための王ではなく神のための王であった。

 その比類なき知恵は、とある諍いによって全国民のもとに示されることとなる。

 ひとりの赤子を巡って、二人の遊女が親権を主張していた。彼女たちは同じ時期に子どもを産み、しかし一方の子が亡くなってしまったことで、生きているのは自分の子であると言い争っていた。

 彼女らはついに王の御前にまで迫り、正しき裁きを下すことを委ねる。

 

〝剣を、持ってきてくれるかな〟

 

 ソロモンは従者に告げた。

 差し出された剣を手に取り、鞘から抜き放つ。

 

〝その子を二つに裂いて、半分ずつ君たちに分けよう〟

 

 すると、遊女たちは、

 

〝我が王よ、生きている子を彼女にお与えください。お願いします、決してその子を殺さないでください〟

〝それならば、その子を私のものにも彼女のものにもしないで、引き裂いてください〟

 

 王は抜き身の剣を鞘に戻し、従者に手渡す。彼の目は二人の遊女ではなく、その間の虚空に向けられていた。まるで、そこに確たる答えが置かれているように。

 

〝先に喋り出した彼女に子を与えるように。彼女こそが本当の母親だ〟

 

 後の世ではソロモンの審判と呼ばれる裁決。

 己の子かも定かではない赤子の運命を誰よりも嘆いた女にこそ、小さな命は託された。だが、ここには決して目を背けてはならない陥穽が存在する。

 結局、王はその赤子がどちらの子であるかを明らかにしていない。ただ遊女たちの反応を見て、裁きを下しただけだ。

 無人となった玉座の間において、ソロモンは己の内に語りかけるように呟いた。

 

〝……うん、そうだね。私の裁きは欺瞞だ。あれが真実であるかなど、我が主の他に誰も証明できないだろう〟

 

 だけどね、と彼は微笑む。

 

〝血の繋がりなんてどうでもいいことだよ。他者の命を尊重できる彼女のもとでなら、あの子は幸せに成長できるだろう。本当の親が本当の愛を注いでくれるわけじゃない。……神はそう望まれたんだ〟

 

 ソロモンの知恵は真の母親ではなく善き母親を選んだ。まさしく、神の思し召しのままに。

 主の御心を聞く。十字教においてその力を持ち得た者はソロモンの他にただひとり、ヒトに宿りし原罪を取り除いた救世主だけだ。

 故に、ソロモンは主の善悪を地上に敷く王足り得た。

 神の意思を悟り、神の命令によって神の王国を治め、神の善悪を蒙昧なる人々に施し、神の定めのままに生きる。そこに彼の意向が介在する余地は存在しない。

 だから、彼は空っぽだった。表情の変化も目線の移動も、ヒトらしい反射さえも周囲から見て学び、真似ているだけだ。両親には、王族に相応しき振る舞いしか教えられなかったから。

 運命の糸にくくられた操り人形。役目を終えれば捨てられるだけの虚ろなモノ。ソロモンは己の内へ向けて問いかけた。

 

〝■■■■■。君にも分かるだろう?〟

 

 ───分かるはずもない。貴様のような虚無から生まれ落ちたナニカには。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「再起せよ。再起せよ。観測所を司る九柱。即ち、グラシャ=ラボラス。ブネ。ロノウェ。ベリト。アスタロス。フォラス。アスモダ…………」

「───そして、エリザベート・バートリー」

「いや、何言って」

「我ら九柱、出番を得るもの。我ら九柱、人気を掴むもの。七十二柱の魔神の名にかけて、我ら、このギャラを逃す事能わず……!!」

「なにやってんだアホトカゲェェェェ!!!」

 

 どこまでも続く星海に絶叫が轟く。

 勢揃いした魔神たちのセンターに堂々と陣取るエリザベート。どこにそんな設定があったのか、彼女は中空に浮かびながら七色に発光している。

 今や魔神の仲間入りを果たしたエリザベートはノアに向かって重々しく口を開いた。

 

「私が出演した特異点は第一と第二、そして第五……前回だけで二つも無駄にしたのよ!? だったらもう敵として出てくるしかないじゃない!! さあ、私を倒しなさいよ! そして涙を流しながら嘆いて、劇場版で復活するフラグを構築しなさい!!!」

「オイオイオイ、勘違いも甚だしいぞエセアイドル。おまえにそんな好待遇が許されるとでも思ってんのか? ジャングルの奥地でベア・グリルスに食われてんのが関の山だろうが」

「誰が貴重なタンパク源!? もしかして本当に私のことトカゲだと思ってるの!?」

「キャンキャン喚くなやかましい。爬虫類は爬虫類らしく巣に帰って卵でも暖めてろ」

 

 Eチーム三人娘はノアに便乗するように追撃を加える。

 

「すみません、こんなに登場されると流石にリアクションが尽きてきました」

「とっくにエリザベートさんの味は無くなっていたはずですが、ここまで来ると逆に味がある気がします」

「吐いたガムを口に入れてみたら案外風味があったみたいな感じね。ああ、もちろん味気無いって意味よ?」

「という訳でギャラは払ってやるから帰れ帰れ。コオロギかワラジムシで手を打ってやる」

 

 ノアは払い除けるみたいに手を振る。絶妙に苛立たしさをくすぐるその動作も、今回ばかりは咎める人間はいなかった。が、エリザベートはヒトならぬトカゲ娘。自前の槍を突き出してがなり立てた。

 

「その塩対応にもいい加減慣れたわ! どんな批判に晒されようと私は逃げないわ、だって芸能界の理は逃げればひとつ、進めばふたつなんだから!!!」

「そしてこの世は奪えば全部ゥッ!!」

「ほんぎゃあああああああああ!!?」

 

 どこからともなく放たれた砲撃の爆風が魔神たちごとエリザベートを呑み込む。

 星海を征く船。赤き十字架を掲げる一隻の船首にて、歯茎を剥き出しにした濃い顔面の男が悪魔の哄笑を轟かせる。

 

「ハッハァ!! テメェに出番なんざやるかよドラゴン娘! 俺は敬虔なキリスト教徒だぜ、地獄に叩き返してやるよ悪魔どもがァ!!」

 

 クリストファー・コロンブス。知恵の女神曰く『暗黒の人類史』に最も相応しいと呼ばれた英霊。功罪を等しく天まで積み上げた男は相変わらずの邪悪な顔貌を貼り付けていた。

 彼方に輝く星のひと粒と化していくエリザベートは苦し紛れに言い残す。

 

「私を倒したとしても第二第三のエリザベートが現れるわ! 次回までに相応のリアクションを考えておきなさい!!」

フォウフォフォフォウ(次回も登場する気かよ)……」

「どこまでも自分の欲に正直なやつだ。恥を知りやがれ!」

「お前が言うな」

 

 ペレアスはコロンブスの後頭部を軽く叩く。ダンテは頭を抱えてうずくまる背中に声をかけた。

 

「い、いやあ、コロンブスさんまでこの場所に来てくれるとは。共に戦った絆は途切れないということですねえ!」

「ああ、俺たちの友情は値千金だ! このままお前らと一緒に魔術王をブチのめしても良し、魔術王に寝返って褒賞をせびっても良し!! こんな都合の良い稼ぎ場なかなかねえぜ!?」

「「お前船降りろ」」

「がああああああああ!!!」

 

 ノアとペレアスはコロンブスをサンタマリア号の欄干から蹴り落とす。船の壁面にかろうじてしがみつくものの、二人の追撃は止まらない。コロンブスは濃い顔面をさらに濃く歪めて涙を流す。

 

「おいおい、ちょっとした冗談じゃねえか! 俺たちゃ一緒にタマ握りあった仲だろ!?」

「コロンブスさんは握られただけですけどねえ」

「おまえみてえなジジイのシワッシワのタマ握らされた俺の気持ちを考えたことあんのか? あの後何回手ぇ洗ったと思ってんだ小ロンブスが!!」

「小ロンブスってなんだァァァ!! まさか俺のタマのデカさのことじゃねえだろうな!? コロンブスのコロンブスは大ロンブスですぅ〜!! コロンブスの卵だけに!!」

「どこもうまくねーよ、うずら野郎!!」

 

 という会話を目の当たりにして、マシュは戦慄した。

 

「先輩、まずいです! 最低のやり取りが繰り広げられています! どうにかして止めましょう!!」

「うん! それとダンテさんは握りあった時の状況を後で詳しく説明してください!!」

「先輩? なぜ鼻血を垂らしているんです? 先輩?」

「ふふふ……順調に育ってきましたわね。良い兆候です。いずれ私のような一流の色ボケに仕上げてみせますわ」

「色ボケの自覚はあったのね、アンタ」

 

 影のある笑みを浮かべるリース。ジャンヌは呆れて肩を落とした。そこはかとなくマシュの脳が破壊されていると、サンタマリア号の甲板がぐらりと揺れる。

 フランシス・ドレイクの旗艦黄金の鹿(ゴールデンハインド)号。それはサンタマリア号に船体を擦り付けるように停止していた。

 ドレイクは片手に酒瓶を握り締め、おぼつかない足取りで船から船へ跳び移る。彼女は紅潮した顔を立香の鼻先に寄せ、がっしりと肩を組んだ。

 

「よくここまで来たじゃないか! やっぱアタシの目に狂いはなかったってことだ! 頑張ったね立香!!」

「ドレイクさん、褒めてくれるのは嬉しいですけどお酒くさいです!」

「酒と殺し合いは海賊の華ってね。大丈夫大丈夫、ほら照準もバッチリこの通りさ」

 

 明らかに目の焦点が合っていない女海賊は拳銃を抜き出し、景気良く発砲する。

 しかし、どこぞのクソエイム全能神よろしく、その銃口はあらぬ方向に散らばっていた。

 彼女が乱射した銃弾の一発は、船体から船体へと奇跡的な跳弾を経て、

 

「ウギャアアアアアアアアアア!!!?」

 

 見事コロンブスの額に直撃し、彼を星海の底へと叩き落とした。

 ドレイクは落下していくコロンブスを見て、けたけたと笑う。

 

「ほ〜ら大当たり! 幸運EXは伊達じゃないだろ?」

「ある意味大当たりではありますけど!!」

「……そうね。ドタマにブチ当たったわ」

「本来あり得ない軌道での一発、見事です。星の開拓者の所以を見せつけられた気がします」

「星の開拓者ってそういうスキルでしたっけねえ!?」

 

 ダンテは船から身を乗り出して叫ぶ。コロンブスの姿はとうに遥か彼方の闇へと吸い込まれていた。彼の宝具であるサンタマリア号が消えていないことからして、一命は取り留めているのだろう。ヤツもまたEXランクの幸運の持ち主なのだ。

 立香は密着してくるドレイクをやんわりと押し退けつつ、

 

「それで、どうして酔っ払ってるんですか。勝利の美酒にはまだ早くありません?」

「そうか、アンタは知らないか。アタシだって戦場で飲むほど呆けちゃいない。けど、ちょっとした約束があってね」

「約束?」

「ああ。こじらせた小娘(ガキ)の愚痴を聞いてやるって条件でね」

 

 ほら、とドレイクは酒瓶の底で背後を差す。

 この宙域に集いし船の一隻。サンタマリア号、黄金の鹿号とは見るからに時代と様式の異なる帆船───アルゴー号。綺羅星の如き数々の英雄がともに旅をし、カルデアと熾烈な戦いを繰り広げた英傑の船である。

 そのアルゴー船上。どん、とガラスの瓶がテーブルを叩く。まるで女帝のように足を組んで椅子に座るメディア。彼女の顔は真っ赤に染まり、目はもったりと据わっていた。

 メディアは眼前で床に正座するイアソンに言う。

 

「オイ、イアソン。アレやれよアレ。私をオトしたぶんぶんゴマ。今も持ってるよなぁ?」

「あ、アレはアフロディーテに貰ったやつで……なんか性格違くね? オルタですらなくね!? こいつ本当にメディアのリリィか!?」

「オルタもリリィもアルターエゴも何でもアリって意味じゃ大して違わないだろ、ほぼ同じだろ、つーかリリィ付けときゃ純粋になるとか幻想見てんじゃねーぞ」

「そりゃだって今のお前はオルタでもリリィでもアルターエゴでもないただの酒乱だからな。ついでに言えばメディアでもないからな。酒乱・酒乱・酒乱だからな」

「おい誰がゴリラの学名だぶっ飛ばすぞ」

 

 メディアはイアソンの胸ぐらを掴みあげ、もう片方の手で微妙な表情をするヘラクレスを指差す。

 

「そもそも誰のおかげでコルキスまで行って帰ってこれたと思ってんだ? 私の魔術のおかげだろ。あのデカブツなんて恋人の尻追い掛けてたら船乗り過ごしたんだぞ!!? ただのスケベじゃねーか!!」

「うん!! 確かに俺もそれはどうかと思うし、船員も全員キレてたけどヘラクレスを侮辱するのはやめろよ!?」

 

 すると、ヘラクレスは浅黒い肌を真っ赤にして、顔面を両手で覆い隠した。もじもじと体をくねらせる様はまるで年頃の乙女である。

 

「■■■■■■…………」

「ほら見ろ、ヘラクレスが恥ずかしがっちゃってるだろうが!! 女装してた頃のしぐさが出ちゃってるだろうが!!」

「その点、アタランテは最後まで旅路を支えてくれましたね。私の裏切りにもついてきてくれましたし、さすがは私のズッ友です」

「当然だ。イアソンとメディアならどちらを選ぶかは決まりきっている」

 

 アタランテはきっぱりと言い切った。

 イアソンは思わずヘラクレスに助けを求めようとするも、かの大英雄は女装時代のテンションに戻ってしまっている。まさしく四面楚歌だ。

 敵として立ちはだかったアルゴー船の意外な一面を見て、立香たちは思い思いの感情に顔を歪めた。そのほとんどは呆れから来るものだったが。

 そこでドレイクは立香に振り向いて、

 

「な?」

「なにが!?」

 

 現状、見せつけられているのはメディアに詰められているイアソンの姿だけである。立香にはひたすら困惑の色を浮かべることしかできない。

 しかし、カルデアイチのピンク脳ことリースと、いつの間にか降り立っていたアルテミスは鏡で写したみたいに頷いていた。

 

「メディアさんが魔女と呼ばれる所以……それを考えるとあの振る舞いも頷けますわ」

「ええ……不倫なんてこの世で最も唾棄すべき行為よ。私だったらクマに変えて永遠に森を彷徨わせるところです」

「私だったら相手の女をぎったんぎたんにしますわ」

「ヘラみたいな感じね。……リースちゃん、『良妻賢母の会』で会ったときも思ったのだけれど、私たち────」

「────気が合うようですわね」

 

 全裸陰陽師こと蘆屋道満が無駄に五つものを聖杯くんをばらまいた南の島の特異点。立香たちの預かり知らぬところで繋がりを得ていたらしい色ボケ精霊&女神は稀に見るシリアス顔で通じ合う。

 湖の乙女の起源はネミ湖を聖域とする女神ディアナという説がある。ディアナとはアルテミスを源流とするローマ神話の女神であり、近からずとも遠からぬ繋がりがあるのだ。

 アルテミスとリースは真夏の太陽みたいに晴れやかな笑みを浮かべると、手を握り合って飛び跳ねる。

 

「きゃ〜っ! やっぱり!? やっぱりそうよね! リースちゃんとはなんだか他人じゃない気がしてたの!! こんな戦いとかやめてコイバナしましょ!?」

「ええ、ともに愛に命を捧げた者同士として分かり合ってしまうのは当然の帰結ですわ! ネクタルより甘ったるいお話を所望します!!」

 

 毒々しい桃色に色づいた光景が広がる。オリオンは果てしなく遠い目でそれを眺めていた。

 彼はミニチュア棍棒でペレアスの肩を小突く。

 

「ねえどうすんのペレアスくん。やべーやつとやべーやつで共鳴しちゃったよ。アホとアホのマリアージュが起きてるよ」

「まあそんなところも可愛いよな」

「ペレアスくんもそっち側かよォォ!! くそ、こんなところにいられるか! 俺は古今東西の美女英霊とお茶でもしてくる!!」

 

 瞬間、オリオンの後頭部を矢が射抜いた。

 アルテミスは目にも留まらぬ速度でオリオンを釣瓶撃ちにすると、その首をぎりぎりと絞め上げる。

 

「はいダーリン、ツーアウト。古今東西信仰される美女神霊ならここにいるけど? カリストみたいにされたいのかな?」

「もうクマにはされてるんですけどぉ!! ツーアウトどころかゲームセットだよ!助けてEチームの良心たちィィ!!」

「助けてください、だろ。言葉遣い間違えてんじゃねえか?」

「地獄でオリオンさんの魂は見えなかったので大丈夫だと思いますよ?」

「お前らじゃねェェェェ!!!」

 

 どんな形にしろ、神と関わった者は大抵ロクな結末を辿らない。それがギリシャ神話におけるテンプレートである。そしてEチームに良心など存在しなかった。

 狩猟を司る月女神の強烈な折檻。それを遠くから観察していたヘクトールは思わず肩をすくめる。

 

「女神様ってのは怖いねぇ。ありゃ関わり合いになるもんじゃねえな、ほんと」

 

 ボリボリと頭を掻くヘクトール。その声音にはどこかヤケクソな響きが宿っている。そんな彼に、アキレウスは平坦な口調で告げた。

 

「アンタの弟が原因で戦争起きたからな。ここで第二ラウンドと行くか」

「行くわけないでしょうが。オジサンたち一応、魔術王ぶちのめすために来てるから。だからといってお前と共闘する気はないがね」

「なるほど。ではヘクトール先生、拙者とならばいかがですかな?」

 

 ヘクトールの両肩にそれぞれ五本の指が深く食い込む。

 ぬう、と肩越しに這い寄る黒髭エドワード・ティーチの髭面。みしみしと十指に万力のような力を加えながら、口角を異様に吊り上げる。

 その振る舞いに心当たりはある。むしろ心当たりしかない。なぜなら、ヘクトールは第三特異点にて黒髭を裏切り海に叩き落としているのだ。

 やられたら百万倍にしてやり返すのが海賊の流儀だ。特に黒髭はその苛烈さと残虐さで名を残している。かの兜輝くヘクトールと言えども内心肝を冷やさざるを得ない。

 黒髭は囁くように告げる。

 

「時にヘクトール先生、幼い頃ともに一夜の冒険をした金髪幼馴染みとどっかの金持ちでぽっと出のお嬢様ならどちらを選びますかな?」

「後者で。オジサンの嫁がお嬢様だったしな」

「見損ないましたぞ、ヘクトール先生!! 九偉人のひとりともあろう者が、フローラの2000Gその他諸々とイオナズンに目を眩まされるとは!! 男なら金より思い出でしょうが!!!」

「海賊なら思い出より金を取れよ!? というかフローラって誰だ!!」

 

 至近距離で振るわれる鉤爪。ヘクトールはそれをすんでのところで回避した。

 過去幾人ものプレイヤーに究極の選択を強いた一幕にリースは何かを得心し、ペレアスの腕に飛びつく。

 

「ペレ」

「リース」

「……やはり私たちは運命のようですわね───!!」

「『異次元の会話やめてくれます?』」

フォウフォフォウ(文字数の無駄すぎる)

 

 三次元出身者には到底理解の追いつかない会話をよそに、黒髭は混じり気のない殺意を得物に込めて振り回す。

 

「裏切られた恨みは忘れてねえぞォ!! せめてそのツラ八つ裂きにして、ルドマンの屋敷にぶら下げてやんよ!!」

「その恨みは正当なものとして受け取ってやるがな、俺の首なんか放置されるルドマンさんの気持ちにもなってみろ!!」

「おいおい、俺抜きで愉しそうなことやってんじゃねえ。フローラだかルドマンだか知らねえが、ヘラクレスに挑む前哨戦だ! 喰らいやがれヘクトォォォル!!」

「なんでお前まで混ざってんだァァァ!!!」

 

 アキレウス渾身のドロップキックがヘクトールの顔面に突き刺さる。砂塵を撒き散らしながら三者の四肢だけが飛び出る古典的な風情を前に、立香はノアに問う。

 

「……ちなみに、リーダーは誰選びました?」

「デボラ」

「え、意外ですね。リーダーなら遺産目当てでフローラとか言うかと思ってました」

「ああいう高飛車なやつを屈服させんのが勇者の父親としての本懐だろ。なんたって俺の息子は魔王を倒す希望だからな」

「クズのドSのくせにいっちょまえに物語に入り込んでるのが質悪い……」

 

 すると、完璧で究極のアイドル女神ことエウリュアレがアステリオスに担がれてやってくる。彼女は高みから立香たちを見下ろし、悩ましげにため息をついた。

 

「はあ、折角だから少しは労ってあげようと考えていたのに。あなたたちの知能レベルの低さに目眩がしてきたわ」

 

 女神特有の上から目線。物理的のみならず精神的にも優位に立った言葉を受けて、ジャンヌは吐き捨てるように笑う。

 

「どざえもんになりかけてたアンタに言われてもまったく響かないわ。なに? その登場の仕方。戸愚呂兄リスペクトですか?」

「あら、あなたも生き残ってたの。てっきり途中離脱して江戸時代でランサーでもやってるのかと……」

「ときをかけるまじょ」

「タイムリープまでするとは、ジャンヌさんはエリザベートさん以上の出たがりなんですか?」

「あんなアホトカゲと一緒にしないでくれます!?」

 

 なお、英霊の座は時間軸から外れた場所に存在するため、英霊はいついかなる時代においても召喚される。とある騎士王はいささか事情が違ったが。

 ダンテはおそるおそる手を挙げて、控えめに指摘した。

 

「と、ところで、ダビデさんの姿が見えないのですが」

「だびで、なら、あっちにいる」

 

 一同はアステリオスが指差した方向に視線を合わせる。

 そこには、二人一組の女海賊コンビにキザな笑みを向けるダビデがいた。

 

「───きみたちにアビシャグポイントを進呈しよう。僕の妻にしてあげてもいいよ?」

「それじゃあ結納金としてこの船と同じ大きさの金銀財宝をお願いします」

「イスラエルの王様なら余裕で出せるだろう?」

「…………とりあえず契約の箱を担保に────」

「『ノアくん、頼んだ』」

 

 直後、ダビデの鳩尾に魔弾が飛んだ。

 神に選ばれたイスラエルの王であり、救世主の祖先であるダビデの対魔力はAランク。現代の魔術師が、それも詠唱すら介さぬ魔弾程度では蚊の一刺しにすらならない。

 が、ここはノアの架空粒子が満ちる空間。物理法則、魔術基盤でさえ既存の世界とは大きく書き換えられている。故に、その魔弾は、

 

「……ぐっふゥッ!!?」

 

 ダビデを悶絶させるに至ったのだった。

 背中をくの字に折り曲げて痙攣するイスラエルの王。彼は額に脂汗を滲ませて、喘ぎ喘ぎ声を捻り出す。

 

「な、なかなか強烈な挨拶じゃないか……僕、きみが尊敬してるっていうソロモンの父親なんだけど?」

「それとこれに何の関係があんだ? おまえは所詮ソロモン王の触媒、遺伝子だけあれば事足りるんだよ。股間引きちぎるぞ」

「誰か! この子に人の心を教えてあげて!!」

「『あなたが言えたことじゃないですよね?』」

 

 何故か辛辣なロマンの言い草に、一同は頷いて同意する。

 ダビデは悔い改める機会を与えられたものの、家臣の妻を得るため、その家臣を戦争に向かわせて戦死させている。彼らの反応も当然と言えよう。

 ダンテは表情筋をひくつかせて、ダビデに問いかけた。

 

「あんなことがあったのにナンパをするとは、本当に悔い改めたのですか? いささか疑問なのですが」

「本当に悔い改めたのかって? 当たり前じゃないか。だけど、僕が真っ当な手段で恋愛するならそれは別の話だ! 神もお赦しになられる! 一夫一妻制は僕の時代では存在しないからね!!」

「天国で見たダビデさんの魂の美しさが疑問に思えてくる返答ですねえ……」

「海賊的には何ら問題はないですわ」

 

 アン・ボニーは素っ気なく言い切った。無法が法である海賊にとって、NG行為は存在しないに等しい。最も自由な者が海賊王なのだ。

 ダビデは腕を組んで語り出す。

 

「でも、僕だって節操なしな訳じゃない。僕より背が高い人はゴリアテみたいなものだからさ」

フォフォフォウフォウ(クソデカ当たり判定やめろ)

「僕より背が低い女性……できればマイナス12cmくらいが理想だね。その点アビシャグは完璧だった……」

「どうしてマイナス12cmなんです?」

 

 ダンテは首を傾げる。リースは即座に反応した。

 

「キスをする際にちょうど良いのが12cmの身長差と言われていますわ。ちなみに私は175cmでペレアス様は187cmです」

「そこはかとなく誰かの意思を感じる身長差ね」

「マシュ、身長が大幅に伸びるファッションとかあったっけ」

「竹馬がおすすめです、先輩」

 

 マシュは無表情で告げた。その眼からは一切の感情が消え失せている。辺りに闇が満ちるのを背後に感じ取りつつ、ペレアスはダビデに言う。

 

「12cm差が理想でアビシャグもそうってことは、お前完全に狙ってただろ」

 

 曰く。ダビデはアビシャグを閨に招き、湯殿をともにしたが、決して彼女に手を出すことはなかった。要は加齢で冷たくなっていく体を温める湯たんぽ代わりである。

 しかし、ダビデの理想の身長差が12cmということは、そういうことをする関係を望んでいた証左であって。

 ダビデは冷や汗を流して首を横に振った。

 

「ま、まさかそんなことあるはずないじゃないか!! 僕にとってアビシャグはアイドルみたいなものだから! 大体、ソロモンが書いた雅歌! アレ絶対アビシャグのことだよなあ!? くそ、僕がもっと若かったら!!」

「『ノアくんに股間引きちぎられてください、マジでだらしないおいなりさん略してマダオ』」

「僕のはまるで大蛇のようなおいなりさんだよ!?」

「オイオイオイ、パチぶっこいてんじゃねえ。ダビデ像見る限りおまえは短小だろ」

「あれはミケランジェロくんがつけたバッドイメージじゃないか!!」

「あの、そこら辺に─────」

 

 立香が止めに入ろうとしたその時、いくつもの光条が船団を襲う。

 エリザベートを除いた魔神たち。今まで蚊帳の外に置かれていた彼らは復活を果たし、牙を剥いていた。

 

「貴様らのくだらぬ会話をいつまでも見過ごしておけるか!! 疾く死せよ、人間!!」

 

 大気がひりつくほどの怒声。魔力を伴った響きは心胆をも揺さぶる圧力を秘めていた。なれど、ドレイクはそれにも負けぬ大声で言い返す。

 

「ハッ、良い威勢じゃないか! そうこなくっちゃねえ! まとめてぶっ潰してやるからかかってきな!!」

「ヘラクレス、メディア、アタランテ、あいつに遅れを取るなよ! 俺は後ろで見てるからな!!」

「メアリー殿、アン殿、拙者もソシャゲの周回で忙しいのでここは任せましたぞ! BBAに負けたら魚の餌だかんな!」

「「お前がな」」

 

 メアリーとアンは黒髭を魔神の群れへと投げ飛ばした。彼が早速魔神たの攻撃に晒されると、ヘラクレスたちは駆けていく。

 

「■■■■■■■!!!」

 

 剛剣が旋風と化して舞う。

 巨岩の如き得物を、木の切れ端のように振るう膂力。狂したりと言えどもその剣技に衰えはなく、一刀を以って魔神の群れを砕き散らした。

 ギリシャ神話最大最強の英雄ヘラクレス。

 武の極致に至りし究極の個。それを前にした群体はまさしく、象を相手にする蟻のように潰されていく。その蹂躙の様は過去幾度となく繰り返された殺戮の様相に等しい。

 イアソンはEチームに指先を突き立て、叫ぶ。

 

「吐き気がするほど不本意だが、お前らが誰かに負けるなど許しはしない!! 俺たちに勝ったからには必ず勝て!!」

「リーダー、あの人が戦ったことありましたっけ」

「俺が知る限り無いな。いつ退場したんだあいつ?」

「ヘラクレスけしかけてやろうか!?」

 

 ヘラクレスをちらつかせる最強カードをいとも容易く切ったイアソン。Eチームを載せた黄金の鹿号はそそくさと離れていった。

 

「ヘラクレス───タイマンとはいかねえが、どっちが多く殺れるか競争と洒落込もうじゃねえか!!」

 

 星海を一条の流星が突き進む。

 三頭立ての戦車を駆る大英雄。彼は即座に再生した魔神の首を一閃にて断ち切った。

 剛剣が巻き起こす刃の嵐と神速の流星が絡み合う。一度足を踏み入れれば決して逃れられぬ斬撃の牢獄に囚われ、魔神たちの命が千々に裂かれ散っていく。

 その最中。アキレウスは動作に一縷の乱れも生じさせずに、眼下の騎士へと言い放った。

 

「ペレアス!!」

 

 人生という名の轍を振り返ることなく刻んだ男は、簡潔に告げる。

 

「───お前は、お前の英雄譚(みち)を征け!!」

 

 騎士は獰猛に笑み、

 

「当たり前だ! やってやるよ大英雄(アキレウス)!!」

 

 あの果たし合いのように、返してみせた。

 ドレイクはそれを見届けると、一発の号砲を天に打ち鳴らす。

 

「嵐の王、亡霊の群れ、ワイルドハントの始まりだ!! 海ならどこでもお手の物ってね、アンタらの道はアタシが切り拓いてやるよ────『黄金鹿と嵐の夜(ゴールデン・ワイルドハント)』!!!」

 

 無数の火船と砲撃による蹂躙。濃厚な死の匂いを撒き散らし、嵐の航海者は次なる宙域への道を切り拓いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「再起せよ。再起せよ。管制塔を司る九柱。即ち、パイモン。ブエル。グシオン。シトリー。ベレト。レラジェ。エリゴス。カイム」

「あら、素敵な名前。きっと、想いを込めてその名を付けてくれた人がいるのね」

「ん?」

「───跪きなさい、パイモン。ブエル。グシオン。シトリー。ベレト。レラジェ。エリゴス。カイム」

 

 ソロモン王の魔神たちは弾かれたみたいに平伏し、礼を取る。たった一度、その名を呼ばれ、命令されただけで、縫い付けられたみたいに停止していた。

 獣の宙域を漆黒の嵐が覆い尽くす。

 それはかつてロンドンを覆ったワイルドハントの嵐にして、人々を異界の淵へと誘った黒き風。

 舞台の幕が開けるように、黒の空間が鮮やかな色彩に侵食される。

 爽やかな風が吹き抜ける草原。その中央に屹立する御伽の城。少女が紡ぎし幻想の世界はまた此処に、そのカタチを取り戻したのだった。

 そして、この世界に取り込まれるということは。

 

「……またこのコスプレかよ」

 

 白馬の王子様風の衣装を纏ったノアは胡乱げに呟いた。その足元にはまたしてもウサギと化したダンテが頭を抱えている。

 名無しの女王とペイルライダーによる催眠型の混成固有結界。子どもたちが夢見る童話の世界に取り込まれた者はみな、名無しの女王によって相応の役割を与えられる。

 名無しの女王───ナーサリー・ライムは青褪めた馬の騎士を従え、滔々と語った。

 

「ようこそ、私の世界へ。アナタたちの訪れを待っていたわ」

 

 少女はEチームへと微笑みかける。

 彼女の笑顔は見た目の幼さと反して、幾年月を重ねた穏やかな静謐を湛えていた。

 立香は御伽話に出てくるお姫様のように着飾らされていた。履きなれないハイヒールに加えて、地面に伸びるほどの長大なスカート。ただ立っているだけでも、彼女の上半身はメトロノームみたいに揺れている。

 

「あ、あの。会えたのは嬉しいんですけど、もっと動きやすい服装にしてくれません? 私には似合わないですし」

「いいえ、とても似合っているわ。アナタは王子様に助け出されたいばら姫。それ以上に相応しい身だしなみなんて無いでしょう?」

「それでしたらなぜ私はまたウサギになってるんですかねえ!?」

「……ど、どうしてかしらね?」

「ナーサリーさんにも分からないのですか───!?」

 

 この世界における最大の謎だった。立香は仏頂面で佇むノアに一瞬視線を飛ばし、

 

「───まあ、そう言われたら悪い気はしないですけど!?」

「随分と調子が良いじゃねえか、立香。まだまだへたばってないみたいで安心したぜ!」

 

 そう言ったのは、円卓の騎士モードレッド。騎士は王剣クラレントより灼熱の赤雷を振り飛ばし、未だ傅いたままの魔神たちを焼いた。

 分厚い大刀の剣身を担ぎ、叛逆の騎士は魔神へと啖呵を切る。

 

「油断したなアホどもが! 本気で殺りてえなら名乗る暇なんざ無かったはずだ! どうやら戦の作法は知らなかったようだな!!」

「ハッ!! 動けねえ相手を焼き殺してイキってんなよファザコン騎士が!!」

 

 全身に包帯を巻いた男がモードレッドの横を抜き去り、再生する魔神の首をナイフで以って切り裂いた。

 彼は噴き上げる血を浴び、引きつるような笑い声をあげる。

 

「───まァ、俺もだがなァ!!」

「いや、誰だよおまえ」

「あぁ? ……チッ、この邪魔くせえ包帯のせいか。いいか、よく見てろ!!」

 

 ノアに冷静にツッコまれたミイラ男は顔面に巻かれた包帯を引きちぎった。

 燃える炎のように逆立つ髪の毛。目元と口元は狂暴に吊り上がり、表情を塗り固めている。Eチーム一同はこてんと首を横に倒す。

 

「「「「「「誰───?」」」」」」

「ハイドだよハイドォ!! てめえらはジキルの方しか知らねえだろうがな、いずれ主人格になる俺の名前だけ覚えとけ!!」

「じゃあなんで出てこなかったんだよ。ジキルの方はベッドで寝転がってるだけだったぞ。サボりコンビか?」

「うるせえ勝手にコンビにすんな!! それもこれも全部オティヌスの野郎のせいだ!!」

 

 ハイドはびしりとオティヌスを指差した。ロンドンの地にEチームがレイシフトする少し前、ジキルとハイドは彼女と交戦し、深手を負っている。詳しくは31話に書いてある。愛馬にまたがり佇んでいた嵐の王は気怠げに顔を向け、淡々と言い返した。

 

「それもこれも貴様が弱かったせいだ。己の無力を悔いろ。あの魔術師……マキリ・ゾォルケンの方がよほど手強かったぞ」

「てめえ、ナメやがって……!! 良いぜ、ここで格の違い分からせてやる!!」

 

 そう言って駆け出したハイドの顔面を、ペレアスとモードレッドの拳が勢い良く挟み込んだ。

 ハイドは野球選手もかくやとばかりのヘッドスライディングを地面に敢行する。彼はたちまち草と土まみれになり、それらを落としもせずに振り向いた。

 

「……てめえらそれでも騎士か!?」

「いや、騎士なら王様を守るべきだろ」

「気に入らねえがペレアスの野郎に同意だ。つうかお前が父上に勝つなんて、天地が三回転宙返りしても有り得ねえよ」

「円卓の騎士がこんな奴らだったとはな……イギリス人として恥ずかしいぜ……!!」

フォフォウ(それはそう)

 

 ハイドの苦悩の裏で、湖の乙女リースはオティヌスが携える槍をまじまじと見つめていた。

 オティヌスはワイルドハントにて現れるアーサー王でありながら、北欧の主神と混ざりあった特異な存在。そのため、振るう槍も常とは異なり、真っ黒に染まっている。

 

「お姉様の槍がこんなになるなんて驚きですわ。通常のオルタ化とも少し違う気がいたします」

「……今の私はワイルドハントの象徴としてのアーサー王と、邪神オティヌスの神格が混合している。貴女の記憶に在る王の姿は見る影もないはずだ」

「そんなことありませんわ! 色々と大きくなってはいますが、相変わらず可憐ですっ!」

「この身を可憐と評するとは……奇特な趣味だ」

 

 オティヌスは苦笑した。ロンドンでは決して見せなかった顔はワイルドハントの頭領としてでも、北欧の邪神としてのものでもなかった。

 その時、オティヌス目掛けて赤い杖が投擲される。彼女はメジャーリーガーの豪速球にも見劣りしない速度のそれを、視線さえ向けずに手中に収める。

 ゲンドゥルの杖。魔術神としてのオーディンの神格を象徴する王笏。白き神の転生体である魔術師は忌々しげに言った。

 

「約束通り、おまえに返した。そこそこ役に立ったが今の俺には不要だ。持ってけ」

 

 オティヌスは立香の杖───『魔女の祖(アラディア)』を一瞥する。

 それは神ならぬ人の叡智によって造られた、新しき魔術のための礼装。嵐の王は何かを得心したように、ひとり首肯した。

 

「しかと受け取った。古き神の王笏を礎として、新しき人の魔杖を創り出したのならば、これは確かに不要だろう」

 

 文字を描くことで発動するルーン魔術と、機械言語によって魔術をシミュレーションするコードキャスト。両者の方式はある意味同じだ。

 すなわち、『魔女の祖』はゲンドゥルの杖を、コードキャストはルーン魔術を源流としている。ノアが誰にも語らなかった神秘の秘奥を、オティヌスは一瞬で見抜いてみせた。

 嵐の王は天を仰ぐ。

 その目は、空を旋回する二羽の鴉を見据えていた。

 

「北欧の主神は己が後継たる光の神に無尽の金を生む腕輪を与えた。それは光の神が主神のあらゆる財産と権能を受け継ぐ存在であったからに他ならない。……かの主神も、親馬鹿だったと言う訳だ」

 

 それは実現されるはずだった、北欧神話における究極の一。

 バルドルはいずれオーディンの力の全てを手にする者であった。無限の富をもたらす腕輪だけでなく、ルーンの秘奥を、全知の玉座を、主神が従える神獣たちを───そうして、必ず敵を殲滅し、戦争における勝者を決定する最強の槍を。

 それらを、何者にも何物でも傷付けられぬ光の神が所有する。神々の王たるバルドルは必ずや父神をも超える個体となっただろう。

 だが、それは成し遂げられなかった。

 狡猾なる神の奸計によって。

 

「興味がねえな。一度受け取ったからには突き返すなんて真似は認めねえぞ」

「当然だ。だが、貴様は向き合わねばならない。かつてヒトたる己が捨てた、神の部分に」

 

 ビキリ、とノアの額に青筋が浮かび上がる。彼は拳をパキパキと鳴らして、

 

「……なるほど。有難く頂戴してやるよ、その言葉。ところで、もうひとつ約束してたのを忘れてねえよなァ!?」

 

 勢い良く地面を蹴り、オティヌスへ飛びかかる。

 

「おまえは二発殴る!! 上から目線で分かったようなこと言いやがって、死に晒せオティヌス!!!」

「『我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)』!!」

「ギャアアアアアアアア!!?」

フォウフォウ(つまんねーオチ)

 

 そこで、ニコラ・テスラはノアの消し炭に好奇の目を向けつつ、感嘆の声を漏らした。

 

「科学ならぬ神秘の雷撃、興味深い! 是非とも解析してみたいものだ。その分神秘は衰退するだろうが、人の進歩には必要な犠牲だ!!」

「テスラさん、こっちに来てたんですか」

「あの悪鬼と肩を並べるなど悍ましいにも程があるのでな。奴に会ったならば、この交流爆弾を投げつけておくと良い」

「それ敵に使ってくれません!?」

 

 立香は手渡された爆弾を魔神たちに投げつけた。未だ名無しの女王に拘束されたままの彼らは爆弾によって粉々になる。

 ダンテ、もといウサギはきょろきょろと辺りを見渡していた。マシュとジャンヌはその仕草を見咎めた。

 

「隠れる場所でも探しているんですか?」

「いえ、アンデルセンさんとシェイクスピアさんを探していたんですが……」

「あのヘタレどもがここに来るとは思えないんですけど。どうせ座に引き籠もってるでしょ」

「それは困りますよ! ロンドンの時はヘタレトリオとして友情を結んだのに! 彼らにも少しは苦しんでいただかなくては!!」

「久々にダンテさんのクズ成分が出ましたね……」

 

 と、三人は不意に後ろを向いた。背後に忍ぶ気配。それに導かれた彼らが見たのは、鮮やかな赤の軍服に豊かな髭をたくわえた兵隊───の人形。

 マシュとダンテは豊富な知識故に、ジャンヌは中二病の影響で勉強したドイツ知識故に、その人形の名を知っていた。

 ドイツの民芸品、くるみ割り人形。その名の通り、顎の部分にくるみを入れてレバーを引くことで殻を割る道具である。ホフマンの童話やチャイコフスキーのバレエ音楽として親しまれた名前でもある。そんなイメージとは違って、彼らの目の前にいる人形は口腔から蒸気を吐いているが。

 

「「「……誰!?」」」

「チャールズ・バベッジ。夢想と空想の世界に生きる、ただの科学者である。否、くるみ割り人形である」

「それはこの世界のせいですよ!? しっかり自我を保ってください!!」

「話していたのはこの二人のことであろう」

 

 ガコン、とバベッジの口が開く。まるでガチャガチャみたいに、ドワーフ姿に歪められたアンデルセンとシェイクスピアが転がり落ちた。

 バベッジは機械のように揺るがぬ調子で言う。

 

「私が匿っていた。戦場は性に合わぬから助けてほしいと、地面を掘る勢いで土下座をされたものでな」

「くっ──! まさかこんな形で発見されるとはな!」

「『悲しみが来るときは(When sorrows come,)単騎ではやってこない。(they come not single spies,)必ず大軍で押し寄せる(but in battalions.)』……吾輩の読みではこれから数百文字ほどコケにされまくると見ました!!」

「おいやめろシェイクスピア! この世界の核心に触れすぎてるぞ!!」

 

 登場した途端、喧嘩中のネコみたいに喚く世界三大詩人と世界三大童話作家。これがネコならば良いものの、人間がやれば醜さの権化となることは確実である。

 案の定、マシュとジャンヌは冷ややかな目を向ける。特定の性癖の人にはご褒美だが、あいにくアンデルセンとシェイクスピアはそこまで倒錯していなかった。

 

「アンタら、来る意味あった?」

「はっきり言って文字数の無駄です」

「……フフフ、どうですか。吾輩の予想は見事的中したでしょう。我々のポテンシャルはまだまだ文字数を稼げるはずです……!!」

「文字数を稼ぐのは作家の特技だからな! お前はただのアホだが!!」

 

 悶絶するアンデルセンを守るように、ダンテはマシュとジャンヌの前に立ちはだかる。

 

「お二人とも、待ってください! 言葉とは時に鋭き刃となって人を襲います。ならば、私は言葉を尽くしてこの二人の価値を示してみせましょう……!!」

「へえ、どんな言葉をかけてくれるのかしら? くだらないものだったら容赦なく焼くわ」

「ジャンヌさんがなぜか竜の魔女モードになっていますが、ようやく詩人のダンテさんが見れそうですね。期待が高まります」

「それではまず土下座から……」

「言葉を!! 尽くせ!!!」

 

 アンデルセンはウサギの尻を蹴りつける。ダンテは脱兎の如く飛び上がり、目元に涙を溜めた。

 

「これは動物虐待ということでよろしいですね……? 現代のコンプライアンスではお寿司屋さんの醤油差しを舐める以上に許されない行為ですよ!!」

「『ひとつの顔は神が与えてくださった。(God gave me one face. )もうひとつの顔は自分で作るのだ(Another face is made with itself.)』……アンデルセンさん、あなたのもうひとつの顔には深い傷が刻まれてしまいましたよ」

「それで言うならお前たちの顔はゾンビ同然だろうが!!?」

 

 作家たちの醜悪な争いを見て、バレエ衣装を着たフランケンシュタインとフォウくんは独りごちた。

 

フォウフォフォウ(マジで救えねえな)

ウウゥゥゥ……(いいから出番よこせ)

フォウ(あん)?」

ウゥ(はぁ)?」

 

 ───その時、両者は互いに互いを避け得ぬ宿敵として認識した。

 ヒトのカタチをした者と犬か猫かも定かでない謎生物。常ならぬ言葉を操る両者は思った───喋り方をパクられている、と。

 

フォウフォウフォフォフォウ(この喋り方特許申請済みだからやめて)?」

ウゥウウゥゥウゥウ(元ネタはわたし。その証拠に)ウウウゥゥウ…………(第五特異点からあなたの出番が増えた)

 

 ごふ、とフォウくんは盛大に吐血する。

 確かに第四特異点を終えてから、自分の出番は増えている。今では空気だったあの頃は遠い昔の幻想と言っても良い。

 だがしかし、急にセリフが増えた理由がフランケンシュタインに握られているのだとすれば。それはフォウくんの数少ないアイデンティティを揺るがす事態であった。

 

フ、フォウフォフォウ(で、でもこっちはレギュラーだし)!!」

 

 苦し紛れのマウント行為。人造少女はケモノの浅ましい魂胆を見抜き、嘲笑を浮かべる。

 

「わたしは、こうやって、しゃべれる。そのじてんで、あなたより、かくうえ。しーえむにも、でたので」

フォァッ(なんだとぉ)……!?」

「ほうていで、あおう」

「何やってんだお前ら」

 

 モードレッドは口角を痙攣させた。なぜか勝ち誇っているフランケンシュタインと、地面を肉球の平でぺちぺちと叩くフォウくん。モードレッドにはその端緒は理解できなかった。

 ノアは消し炭状態から復活すると、髪の毛についた煤を払いながら立香に言う。

 

「で、パラケルススはどこだ? 言いたいことが山ほどあるから連れて来い」

「自分で探してください。絶対ボコられた恨み返すつもりですよね」

「んなわけねえだろ。ただ少し俺の新魔術の実験台にするだけだ」

「私情100%じゃないですか。やるならメフィストフェレスみたいな悪魔にしてください」

 

 オティヌスはそんな二人に告げる。

 

「その二人ならば此処にはいない。来ることもないだろう。特にメフィストからは〝お前ら全員負けちまえ〟というヤケクソメールが届いたからな」

「こ、小物すぎる……」

「……足の指全部骨折する呪いでもかけておくか。パラケルススにも」

「それはやめておけ。アレもアレで役割がある。邪魔はしてやるな」

 

 ───また会う日も来るだろう。オティヌスは心魂を見透かすような瞳にノアと立香を写し、そう言った。

 嵐の王は暫時視線を注ぐと、槍の穂先を払って魔神たちへと向き直る。

 

「名無しの女王───いや、ナーサリー・ライム。この世界に孔を開ける。いいな?」

「ええ、御伽の国はいつか夢に消えることが定めだもの。現世で逢いましょう? ワイルドハントの王様」

「……ああ」

 

 黙示録の騎士、疫病を司るペイルライダーは少女を抱え、嵐の王のもとより飛び去る。

 ワイルドハントとは、別名オーディンの渡り。凍てつく風を引き連れ、つんざく雷鳴とともに空を駆ける、神の凱旋。神獣とワルキューレを率いた絢爛なる騎行はしかし、時代が下るにつれて、一神教の手により魔物や亡霊を現世に蔓延らせる死の渡りとなった。

 オーディンは多くの神格を備え、多くの名を持つ神である。ならば、デンマーク人の事績において語られし邪神オティヌスとは、オーディンから死をもたらす嵐の神としての特性だけを抜き出した別神格(アルターエゴ)と言えよう。

 故にこそ、今ここに、死の化身は舞い降りる。

 風が舞い、瘴気が満ちる。

 それはかつてロンドンを外界より隔絶した魔の嵐。ひとつの都市を優に囲う膨大な風を、邪神オティヌスは余すことなくその身に降ろす。

 

「嵐の王、亡霊の群れ。邪神の狩りを刮目せよ」

 

 一歩。嵐の王の乗騎は薄氷を踏むが如く、御伽の国を粉砕した。

 

「───『死の騎行、嵐の狩猟団(ワイルドハント・ユールレイエン)』!!!」

 

 空間そのものに陥穽を生じる突進。

 吹き荒れる大気は、巻き込む全てを分子にまで分解する暴虐の嵐。

 幻想の崩壊とともに、ノアたちの服装は元に戻る。次なる宙域への道は穿たれた。立香とノアは迷うことなく駆け出し、ダンテもそれに続く。

 詩人の黒き右手を、アンデルセンは押さえた。

 

「……なるほど、あの少女はお前の生の終わりまで共に在り続けると決めたか」

「ジャックさんですか。はい、私は二度も彼女に助けていただきました」

「お前の第二宝具は大方、地獄を顕現させるモノだろう。それを考えれば当然のことだがな」

「それは、どういう───」

 

 その言葉を遮るように、アンデルセンは一枚の色紙を取り出す。

 

「サインを寄越せ。わざわざここまで来てやったのだから、それくらいの報酬は施して然るべきだろう」

「わ、私のサインで良いのですか? 確かに私はイタリア最大の詩人で世界三大詩人でフィレンツェの統領でしたが」

「自惚れるなアホ。いいから書け」

 

 ダンテはペンを受け取り、色紙に己の名を綴る。アンデルセンはそれを貰い受けると、満足気に微笑んだ。

 彼は懐から一冊の本をダンテに押し付ける。

 

「私が、お前のために書いた本だ。何を懸けても救いたいと思ったモノに出会った時のみ使うがいい」

 

 ダンテは頷き、即興詩人は走る背中を見送る。

 アンデルセンの創作人生の礎となった二人の詩人。その片割れであるダンテ・アリギエーリは当時の誰にも伝わるトスカーナ方言を用いて神曲を書き上げた。

 その根底にあった願いは、きっと。

 アンデルセンは自嘲気味に鼻を鳴らす。シェイクスピアはその後ろから彼の肩に手を置いた。

 

「吾輩のサインも欲しいのでは───?」

「いるか馬鹿が!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 獣の宙域。観測所フォルネウス。硝煙と魔力の輝きが炸裂する星の海に、二つの影が紛れ込む。

 知恵の女神ソフィアと薔薇の皇帝ネロ・クラウディウス。ソフィアは掌中に紫電の光球を灯すと、それを中空に置き去りにする。

 

「ヘレンよ。先程から何をしておるのだ?」

「道を創るためのポイントを打ち込んでいます。ただ、私ひとりでやるのは面倒くさ───無理なので、この先でスカウトしたい英霊がいます」

「ふむ、スカウトか。それならば余に任せると良い。皇帝の話術を見せようではないか」

「否、その必要はない。点々と打ち込まれた交流の気配……求めているのは私のことであろう」

 

 ニコラ・テスラ。雷電を纏いし男は不遜に言い放った。

 ソフィアとネロは顔を見合わせ、

 

「……では、皇帝の話術をお見せください」

「ヘレンよ。余のことを深いところでナメておらぬか!?」

「天才の目にはかなり浅いところでナメているように見えるが……おっと、気配に釣られてやって来たのは私だけではないらしい」

 

 テスラの目が捉えたのは、美術の教科書にて多くの青少年の視線を釘付けにした男ダビデであった。

 交流の気配ならぬアビシャグの気配に釣られた彼は、ソフィアとネロに気障な笑顔を向ける。

 

「良いね、きみたちもまたアビシャグに近しいと認めよう。それでなんだけど、このダビデくんもお供させてくれるかい?」

「ダビデ……古代イスラエルの王ダビデか!? キリスト教を弾圧した手前、なんだか居心地が悪いぞ!」

「ああ、そのことはどうでもいいかな。人の世の営みとして真っ当なことだからね。それに、今の僕は王様じゃなくて羊飼いだし」

「ほう。ソロモン王の魔神を目の当たりにして親心でも芽生えたか?」

 

 テスラは試すように言った。それを知ってか知らずか、ダビデはさも当然かのように答えを返す。

 

「親心ならとっくに芽生えているとも。僕はソロモンのために何でもしたさ。衣食住はもちろん、王としての振る舞いから女の子の口説き方まで、何もかもを教えた」

 

 でも。

 

「───()()()()()()()()()()()()()()()()()。王としての僕には無理でも、羊飼いとしての僕にならそれを与えられる」

 

 ────だから、玉座へ征くのさ。

 ネロはその決意を聞き届け、胸を張って頷いた。

 

「うむ! その意気や良し! 共に戦おうではないか───えーと、ローマ合従軍よ!!」

「良いユニット名かと存じます、皇帝よ」

「うーん、我が主の小羊たちは良い顔しないだろうけど、まあいっか!!」

「ローマもまた我が世界システムの下にある場所だ。その名を背負うことも悪くないだろう」

 

 そんなこんなで、ローマ合従軍はEチームの後を追うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 星海の底には、ボロクズ同然になった歯茎男とトカゲ女がいた。

 

「ぐ、ぐぎぎぎ……!! ここまでコケにされておいて黙ってなんかいられないわ! 撃ったことは忘れてあげるから手を貸しなさい!!」

「ああ、いいぜ……!! こんなところで損切りなんかできるかよ!!」

「私たちは止まらないわ。止まらない限り、その先に出番があるもの!」

「その意気だトカゲ娘ェ!! 燃えてきやがったぜ、船乗りの血がよォ!!!」

 

 なんか、そういうことになった。

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