筋肉の刃 作:けちんげまん
激痛。
それは全身を貫いた幾本もの竹槍がもたらした。
「ガアッアアアアアッ」
絶叫。
もはや人間でなくなった身であるが、痛覚は嫌になるほどにイキイキとしている。これは罰なのだろうか。
人であることを辞め、化生に身を堕とし、挙句は肉親を貪った私に対する罰だろうか。
それならば仕方ないのかもしれない。
私は人を殺し過ぎたのだ。生きるためとはいえ、些かやり過ぎてしまった。一人殺せば禍根が残り、二人殺せば憎悪が宿る。だから私の『食事』を見た人間は、皆殺しにしなければならない。それを怠れば、ホラ、憎しみを讃えた少年が、私を殺す。
化け物のクセに、甘いなァ、私も。こうなるのは、わかっていたのにな。殺しておくべきだった。喰らっておくべきだった。
後悔は既に遅く、私の首元には刀が突きつけられていた。
もう指一本も動かせない。普段ならこんな刀一本、跳ね返してそのまま殺せるのに。目の前の少年にはどうしても手心を加えてしまった。だからいつもは当たらない斬撃にぶち当たるは、内臓をごぼごぼと地面に撒き散らすはで見っともない事ありゃしない。
これはいよいよ、年貢の納め時かな。
ごめんね、父さん、母さん・・・兄さん。私は死ぬ。でも、皆のところにはきっと行けない。ごめんね。
私はグッと目をつぶって、覚悟を決める。さあ、一思いに終わらせて。
しかし、それは為されない。
私は死なず、目の前では私を切り殺そうとしていた少年が、血塗れになって蹲っていた。
(あれ、何で・・・殺せばいいのに、私を)
血を流し過ぎて思考が覚束無い。眼前の光景に疑問を抱くことすら出来ない。
(あ――、頭がボウッとしてきた。いよいよ死ぬな、これは)
鬼が太陽以外で死ぬなんて、笑い者だな。しかも失血死だなんて、馬鹿らしい。せめて止めを刺してくれれば、格好がつくものを。
血なんて吐いてないで、サッサと私を殺しなよ。
「フッ、フーッ、早く・・・殺してよ。結構、痛いんだ、鬼でもさ」
そんな私の呟き答えたのは、少年ではなかった。
「いや、お前は死なん。俺の嫁にする」
それは正しく益荒男であった。人間とは思えぬ、十尺はある大男。あり得ぬほどに肥大化した筋肉の装甲を全身に纏ったその男は、臓物を溢す私を抱え上げて、ニカッと笑った。
「・・・お前、何を考えているんだ。私はッ、鬼だぞ」
「うん、本気も本気、大本気」
「馬鹿か、お前・・・」
呆れた。鬼を嫁にする人間が居たとは、馬鹿者か。
「あ、そういや少年、すまなんだ。気絶させるだけで済まそうと思ったのだけど、手加減を誤ってしまった。いやー、まだまだ精進せねばならんな」
「ギギギ・・・」
少年は益荒男の言葉には答えずに、腹を抱えて呻くのみ。あれは内臓が破裂しているのではないか。死ぬぞ。
「そういうわけだから、少年、病院に行けよ。死んでも責任は負わん!」
人間の倫理観で生きているとは思えぬ発言をした男は、私を抱えたまま、高笑いしながらその場を後にした。それもとんでもない全力疾走で。私の全力よりも遥かに速く、だ。
こいつは本当に人間なのだろうか。
「はははははは!ははははははははは!帰ったら大熊殿に報告せねばならんな!お狐殿にも報告しよう!花嫁衣裳を仕立ててもらわねばな!」
あはははは!あはははは!お前も嬉しそうだな!そんな顔をしているぞ!
そんな戯言を吐く男に対し、朧げな頭を働かせて私は思った。
(こいつの胸汗臭ッ!)
気まぐれに始めたので、更新未定。