【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 今夜はストレオのプロフィールと二本立てです。

 それではどうぞッ!


幕間&プロフィール
幕間:狩人の旅。願望は彼方に


 

 暴風が吹き荒れる。豪雨が絶えず降り注ぐ。

 

 気を抜けば忽ち吹き飛ばされてしまいそうな、自然の暴力に染め上げられた道を、ひたすらに歩く。

 

 縺れそうになる足を奮い立たせ、(つぶて)のように叩きつけられる雨水を耐える。

 

 諦めてしまえば楽なものだ。全てを諦め、この暗黒の道に屈してしまえば、後はもう、この豪雨の中沈んでいくだけなのだから。

 

 ……それでも。

 

 ……それでも、前に進み続けるのは。

 

 

「―――」

 

 

 今も己を導く、彼方の光に至る為。

 

 

 

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「それでは、俺はこれで。君の話、参考になったよ」

「こっちも楽しかったぜ。それじゃあなッ!」

 

 

 手を振って去っていくジークフリートの背中を見届け、「さて、どうしようか」と一人呟く。

 

 中国異聞帯攻略後、ノウム・カルデアへと帰還した立香によって陳宮達と共に召喚されたストレオは、自分の後に続いた英雄達に深い興味を示していた。特に、自分と同じような、竜殺しを経て伝説となった英雄達を、彼は手放しに称賛していた。

 

 ジークフリートを始め、カルデアに召喚された竜殺しの逸話を持つ英雄達も、皆竜を狩る事を生業とし、人々の生活を護った狩人であるストレオを評価している。尊敬、とも言えるかもしれない。

 

 時代、国、文化―――全てが異なる英雄達が、互いに尊敬し合い、切磋琢磨していく。この汎人類史最後の砦であるカルデアではよくある事だ。

 

 さて、とストレオは顎に指を添えて考え始める。ジークフリートとはお互いの時代についてだったり、狩猟についての話をしていたが、それも今となっては終わってしまった。空腹になっていれば食堂に行ってなにか食べたいところだが、生憎と今は腹の虫が眠っている。異国であり未来の食事は是非とも全部制覇してみたいところだが、腹が減っていなければ意味が無い。

 

 シミュレーターで他のサーヴァント達と摸擬戦でもしてみようか、そう思い立って足を踏み出そうとした瞬間、背後から声をかけられた。

 

 

「おぉ、マスターか。どうした?」

 

 

 振り向いた先にいたのは、此度の自分の主である藤丸立香。まだ二十歳にも満たぬというのに、その瞳は勇敢な意志を感じさせる。これまでの旅が彼女をそうさせたのだろうが、そこは少し、思うところがないわけではない。

 

 

「少し、話をしたくてさ。ストレオの事について」

「俺の? 別に構わないが、どんな話だ?」

「私、秦帝国でストレオ達と戦った時、ストレオの心の中を覗いた気がするんだ。嵐の中を歩く、一人のハンターの姿を見た」

 

 

 立香がそう口にした直後、ストレオは驚いたように目を見開き、先程までとは打って変わって真剣な眼差しで立香を見る。

 

 

「……マスター。そいつは、どんな外見をしてた? 覚えてる限りでいい。教えてくれるか?」

 

 

 問いかけるストレオに、立香は自分が見た彼の心象風景と予想されるもので見た男性の容姿を伝えた。具体的な事はわからないので、どうしても大雑把な説明になってしまったが、それだけでも察せたのか、「そうか」とストレオが小さく呟くのが聞こえた。

 

 

「……それについては、ここじゃ話しにくいな。俺の部屋に来てくれるか?」

「もちろん」

 

 

 ストレオに連れられ、彼に与えられた部屋に入る。立香によって召喚されたサーヴァント達には、数多のシチュエーションを再現するシミュレーションルームと同じ機能を持つ部屋が与えられる。元が同じ部屋でも、自然を愛する者であれば森林だったり、本を愛する者であれば書斎であったり、生前過ごした自宅に近いものであったり、それは実に多岐に亘るものとなっている。

 

 ストレオの場合、三番目に当てはまるものだろう。木造の部屋に簡素なベッドに箪笥(タンス)、そして人一人すっぽり入れてしまいそうなボックス。こう言ってはあれだが、他の英霊達の者と比べて大分地味な部類に入るストレオの部屋に入った立香は、ベッドに腰かけたストレオの傍らに腰を下ろした。

 

 

「お前が見たその男……そいつの事は知ってるか?」

「マシュと話し合ってみたけど、たぶん、お兄さんじゃないかって思ってる」

「合ってるぜ。クラシェ……俺の兄ちゃんだ」

 

 

 立香がマシュと共に予想した答えに、ストレオは笑みを以て答えた。

 

 クラシェ―――現代に語り継がれる伝説、“モンスターハンター”の二章に登場する弓使いの狩人にして“古龍殺し”。ストレオの兄に当たる彼は、ジャンボ村と呼ばれる辺境の村を大きく発展させたほか、その類稀なる技量で数多の古龍を狩り、遂にはストレオと共に“黒龍”をも討伐したとされる、最高峰のハンターの一人。

 

 

「物心ついた頃には、俺達には親がいなかった。兄ちゃんは俺を育てる為にも、ハンターになる必要があったんだ」

 

 

 ハンターというのは高い収入を得られる代わりに、死亡率が他の職業と比べて段違いという仕事だ。常に死と隣り合わせのこの職業に進んで就こうと思う人間は、大抵は『モンスターを狩って名声を得たい』という野心家である。しかし、全員がそうでないのも当然の話だ。中にはクラシェのように、家族を養う為の金稼ぎとして最適だから、という理由で就く人間もいる。

 

 そんな兄の姿を見て育った影響からか、ストレオも自分なりに彼へ恩返しすべく、ハンターになる道を選んだのだった。

 

 そこから先は、伝説に語られている通りだ。彼はかつては伝説的な活躍をしたハンターである竜人族の長が治める村を訪ね、そこで様々な物事を経験し、地道にハンターとしての技量を高めていった。

 

 火炎を操る大空の王者を狩り、白き“一角竜”を狩り、巨大な山の如き古龍を撃退した。その後も、人々の願いを受けては数多のモンスターを狩り、人類の生活圏を護り続けた。

 

 その果てに、彼は“黒龍”討伐を命じられたのだ。

 

 ストレオの生前の時代においても伝説の存在として語られていた“黒龍”の実在を知る者は全くいない。大抵が御伽噺の存在として認識しており、亡国に住まう邪龍討伐の命を受ける前のストレオも、その一人だった。

 

 かつて栄華を極め、しかし人道に反した大罪を犯した事から天の怒りを買い、たった一夜にして廃城と化したシュレイド城―――そこで彼は、最強にして最凶の存在と対面した。

 

 “運命の戦争”の異名を持つ彼の龍との戦いは、まさしく熾烈を極めたという。

 

 戦える者達は持てる力全てを使って挑み、戦う力を持たない者達は自分達に出来る事に全力で取り掛かった。

 

 そして永遠にも思えた死闘の末、多大な犠牲を払いながらも、遂に彼らは“黒龍”討伐を果たした。

 

 国を、星を灼くかに思われた劫火が騎士達を焼き尽くすのが見えた。隕石と見紛う火球が援助する人々を消し飛ばすのが見えた。振るわれた尻尾が城壁を粉砕するのが見えた。

 

 “災厄”と呼ぶに相応しきその存在を打倒した時、ストレオは自分が生きているかどうかわからなかったと言う。

 

 これは、災厄の炎の巻かれた自分が見る最後の夢なのか。それとも、討伐に赴く前に見た願望に過ぎないものなのか、と。ひたすらに自問自答を繰り返したらしい。

 

 だが、現実だった。真実だった。

 

 “黒龍”は斃れた。“災厄”は滅びた。遂に自分達は、禁忌の一角を打倒したのだと知った瞬間、割れんばかりの喝采が轟いた。

 

 生き残った戦士は、ストレオにクラシェ、そして新大陸調査団に所属していた二人のハンター。それ以外の戦士達は皆戦いの中で死んでしまったが、それでも、四人も( ・ ・ ・ )生き残ったのだ。最悪、勝利するどころか全滅してしまう可能性もあり、討伐と引き換えに全員が相討ちになって死ぬ可能性もあった。その最悪の状況下で、四人。四人生き残った。

 

 

「あの時は、本当に嬉しかった。勝ったってわかった瞬間、大泣きしたよ。本当に勝ったんだって、泣きながら喜んだ」

 

 

 “黒龍”にトドメの一撃を見舞ったのがクラシェであった事も大きかっただろう。憧れに憧れた兄と肩を並べて戦えたのもそうだが、そんな彼のアシストをし、そして災厄に打ち勝った事実が、なによりも嬉しかった。

 

 この身を挺して“黒龍”の攻撃から兄を護り、彼が討伐の切っ掛けとなる一撃へと繋げた。

 

 “黒龍”討伐という事実は、あくまでこの一件に関わった者達の間に留める事になった。邪悪の龍は滅びたが、それでもまだ彼の龍に匹敵する存在がいるかもしれないという不穏分子が残っていたからだ。

 

 “神の棲む領域”に潜むとされる“暗黒の王”、とある港町にかつて出現したと考えられる“獄炎の巨神”や、ごく一部の竜人族に古代から伝えられていた詩句に記された“白き王”なる存在は、まだどこかにいるかもしれない。御伽噺として扱われていた“黒龍”の実在は、結果として禁じられし龍達の実在を証明する事となったのだ。

 

 実在するのは“黒龍”だけで充分だと、ギルドの上層部は大いに頭を抱えたらしい。それ以外の存在がもし同時に出現したら、間違いなく人類は滅び去ってしまうのだから、当然と言えば当然かもしれない。

 

 そんな時だった。ストレオが初めて、人間の愚かさを知ったのは。

 

 

「ギルド……というか、各国のお偉いさん方の会談を盗み聞きしちまってよ。俺なんかが聞いちゃならねぇ内容だって、なんとなく察したからすぐに帰ろうとしたさ。けどな……」

 

 

 彼らの話は、決して聞き捨てならないものだった。

 

 彼らは、もし伝承に語られる最強の龍達が揃って人類に牙を剥いた時は、ストレオ達や無辜の人々の命を犠牲にしてでも生き延びようと言ったのだ。古来より、人間が自然災害から逃れる為に生贄を捧げるという話はあったが、龍の怒りを鎮めるのにそこまでするのか、と、当時のストレオは憤慨したと言う。

 

 もちろん、上層部の誰もがこの考えを持っているわけではない事は理解している。だが、そんな者達の意見より、自らの保身を優先した者達の意見の方が強かったのだ。

 

 大切なのは民ではなく己。それ以外は自分が生き延びる為の道具でしかない……そう言われているような気がしてならなかった。

 

 

『馬鹿野郎共が。俺達が奴らの気を引いている内に自分達だけは逃げるだと? ふざけんじゃねぇよ。逃げ切れるわけがねぇ。生き残ったところで、後に残るのは絶望だけだ。ハンターがいなくなったら、それこそ人類は絶滅するしかなくなる』

 

 

 憤ったストレオは、会議中だろうとなんだろうが関係ないとばかりに殴り込みをかけようとした。

 

 しかしそこで、彼は兄に止められたのだ。

 

 

『兄ちゃんッ! あいつらは俺達の命懸けの戦いを、あくまで自分達の為だとしか捉えてなかったんだぞッ! なんであんな奴らなんか護るんだよッ!』

『ストレオ。我々はハンターだ。如何に“黒龍”を討伐したとしても、上の命令に従う以外の道は無い』

『……っ、けどよ……ッ! それなら、あいつらの犠牲はなんだったんだよッ! 命賭けてッ! 死んでッ! 俺達に希望を託して逝ったあいつらの死は、いったいなんの為に……』

 

 

 “黒龍”討伐の折に、紅蓮の炎に巻かれて消えていった者達の姿を思い浮かべる。その時初めて出会った者がほとんどだったが、みんなが素晴らしい心の持ち主だという事は、初対面でも理解できた。そんな彼らが、あんな連中を生き永らえさせる為の生贄でしかなかったと考えると、今すぐにあの連中を殺したくなる。

 

 常人ならば容易く骨を砕かれているだろう程の握力で肩を掴んで啜り泣く弟に、兄は『これは酷な言い方だろうが』と口を開く。

 

 

『……運が悪かった。そう言わざるを得ない。奴らの下衆で自分勝手な欲に巻き込まれたのだからな』

『……クソ。クッソォッ!』

 

 

 怒りを発散するように大声で悪態を吐き、壁に寄りかかる。

 

 

『兄ちゃん……人間って、なんでこんな事できんだよ……。俺達は、互いに助け合っていかなきゃ生きられねぇのに……』

『……あれもまた、人間の姿なのだろう。だが、ああいった奴らも護るのが、我々の仕事だ』

『……強ぇよなぁ、兄ちゃんは。本当に……』

 

 

 自分のようにこの身を焦がす激情に身悶えせず、自分を律していられる兄の姿に、ストレオはこれまで以上に尊敬の念を抱く。

 

 けれど―――

 

 

『でも今は、その正しさが憎いよ』

 

 

 兄に背を向けて歩き出す。背後から声をかけられたが、その時のストレオには、彼の言葉に答える気など毛頭なかった。

 

 

「……幻滅したか?俺達の時代に」

「……幻滅はしてないよ。でも……哀しいって、思った」

 

 

 立香が知っているストレオの物語は、彼が上層部の会談を聞く前―――“黒龍”討伐を果たして兄と帰還し、そして新たな狩りに出かける、というものだった。それが彼の生涯を表したものだと思っていたので、そのストレオ本人から聞く話は、立香を驚愕させるに値するものだっただろう。

 

 

「人間ってのは、昔っから変わんねぇ種族だよ。良い意味でも、悪い意味でもな」

 

 

 団結しなければ生きていけない世界でも、自分の都合に他人を巻き込み、人生を狂わせる者達がいる。それが、立香に言い知れぬ感情を抱かせた。

 

 

「話の続きだが……俺はその後、独りでシュレイド城に行った。そこで死んだ仲間達の事を思い出したくてな」

 

 

 永い年月の間君臨し続けた主を喪いながらも、未だにモンスターの侵入を許さない城下町。その中心に聳える城に足を踏み入れたストレオは、かつて“黒龍”と死闘を繰り広げた場所に備えられた供花を見つけた。

 

 まだ“黒龍”の力の残滓があるからか、この場所に進んでやって来ようとする存在はまずいない。いったい誰が来ていたのかと思案するも、まず人ではない事は理解できた( ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ )

 

 この地を訪ねる者など、ごく限られた存在しかいない。人間ならば特にこれといった気配は感じないのだが、この供花から漂う何者かの力の残滓は、凡そ人のものではなかった。

 

 全身を痺れさせるような感覚に襲われながらも、ストレオはその供花から目を逸らした。きっと、これは自分なんかが関わっていいものではないものだと、直感的に察したからだ。

 

 “黒龍”の猛威に曝された者達の遺骨はない。だが、確かにここには彼らがいたのだと、ストレオは唇を噛み締めた。

 

 勇敢な人達だった。狩人にしても、サポート班にしても、皆勇気を振り絞って災厄に挑み、死んでいった。

 

 彼らの健闘が、あの腐った連中が生き続ける為のものでしかなかったと思うと、必死に抑えつけていた怒りの炎が勢いを増し始める。

 

 せめて、奴らに自分の愚かさを理解してもらいたい。じゃなきゃ、ここで死んでいった彼らがあまりにも報われない。

 

 

『……? なんだ、これ……』

 

 

 唐突に背後に異質な気配を感じて振り返ってみれば、そこには先程まで無かったはずの剣が大地に突き立っていた。

 

 一目見ただけでも相当の業物だと判別できたそれは、まるで『自分を引き抜け』と言わんばかりに強烈なオーラを放出させており、当時のストレオはその剣に釘付けになったと言う。

 

 

「今思えば、あの時が俺の運命を決めたんだろう。剣を取るか、取らないか―――いつもの俺だったら、間違いなく取らなかった。けれど、その時の俺は……」

 

 

 その耐え難い力の誘惑に、打ち勝てなかった。

 

 フラフラと、夢遊病者のように引き寄せられたストレオは、そのまま剣の柄を掴み、一気に引き抜いた。

 

 それが、彼の運命を決定づけた。

 

 

『グ、が、あァ……ッ!?』

 

 

 突如として剣から漏れ出ていた暗黒のオーラが、ストレオの体を呑み込んだのだ。あまりにも突然の出来事であったために振り払う事も出来ず、ただオーラを受け止めるしか出来なかったストレオは、自身の内側……精神を徹底的に壊し尽くそうとする衝動から逃れようと暴れ回り、闇雲に剣を振るうしかなかった。

 

 

『ストレオッ!』

 

 

 そこへ、あの男の声が響いた。

 

 

『……ッ!ニい……チゃん……ツ!』

『この馬鹿……なぜその状態でそれを取ったッ! それは、他の武器とは訳が違うんだぞッ!』

 

 

 弟をつけてきたのか、それとも直感か―――シュレイド城に現れたクラシェの手には、今ストレオが持っている剣と全く同質のオーラを放つ弓が握られていた。

 

 

「それを見て察せたよ。あの武器の力を完全に制御するには、それに相応しい精神を持ち合わせていなきゃ駄目だってな」

 

 

 未熟な精神のままでは“黒龍”の残滓に喰われるが、完成された精神ならばその力は己に従う。“黒龍”の武器には意思があるのだと、その時に思い知った。

 

 それと同時に、ストレオの意識は途切れた。悍ましき闇の奔流に精神が塗り潰されたのだ。

 

 次に意識が覚醒した時―――ストレオは、兄の腕の中にいた。

 

 

『兄……ちゃん……?』

『……すまない、ストレオ……。お前を止める為には、こうするしか無かった……』

 

 

 違和感を感じて視線を動かしてみれば、剣を握っていたであろう左腕どころか、盾を持つはずの右腕も無くなっていた。両足も、最早動かせないくらいにボロボロになっている。

 

 どうやら、自分は意識を失っていた間に兄と殺し合っていたようだ。結果は……惨敗と言っていいだろう。力任せに暴れる者が、知恵を活かした立ち回り方を身につけている者に勝つなど土台無理な話だ。

 

 

『……いいんだ、兄ちゃん。兄ちゃんに止めてもらって……嬉しかった……。それと、すまねぇ……。兄ちゃんに……こんな事をさせて……』

『謝るな……謝るな、馬鹿弟が。あの時、力尽くでもお前を止めるべきだったのに……それが出来なかった兄を……こうして、お前を殺すしかなかった兄を、恨んでくれ……ッ!』

『恨めるかよ……。いつだって、兄ちゃんは俺を助けてくれた……。兄ちゃんは、俺の英雄だ……。英雄は、恨めねぇよ……』

 

 

 痛みを感じないのが幸いした。最期にこうして、兄と会話できた。それだけでも、ストレオにとっては幸運だった。

 

 

『もし、次があるのなら……今度こそ、兄ちゃんの隣で……』

『ストレオ……?ストレオッ!』

 

 

 必死に己の名を呼ぶ、憧憬を抱き続けた兄の腕の中で、ストレオはその生涯に幕を下ろした。

 

 これが、歴史に語られなかった一人の狩人の真実。たった一つの夢を追い、そしてその希望によってこの世を去った男の人生だった。

 

 

「……他の英雄達の話と比べちゃ、面白味に欠ける話だろうけど、これが俺の一生さ。それから後になって、俺は座に招かれて英霊になった。そして、お前に喚ばれた」

「ストレオは今も、お兄さんを目標にしてるの?」

「当たり前だろ。俺なんかよりもよっぽど完成されてるんだ。兄ちゃんと並び立てたのは“黒龍”討伐戦の一度きりだったが、次に兄ちゃんと一緒に戦う時は、あの頃の俺じゃない、“黒龍”の試練を乗り越えた、本当の俺になっていたい」

 

 

 自分勝手な理由だが、ストレオが立香の呼びかけに応じたのはその為でもある。此度の戦いには、かつて本当の意味で倒せなかった“黒龍”が敵になっている。たとえこの身が生前のストレオのものではないとしても、自分は自分だ。

 

 今度こそ真の“黒龍”討伐を果たし、胸を張って兄に誇ってみせる。そして言ってやるのだ。『俺はもう、あの頃の俺じゃねぇよ』と。

 

 

「その為にゃ、どうしてもお前を利用しなきゃならねぇ。嫌ならハッキリ言ってくれよ?」

「まさか。言わないよ、そんな事。自分の目的の為に私の召喚に応じてくれたサーヴァントなんて、他に沢山いるしね」

 

 

 立香の下に集ったサーヴァントの中には、自分の願いを叶える為にやって来た者もいる。今も生きているかもしれない子ども達を取り戻す為に、天敵である人間に従う事を決めた狼王ロボはその代表例だろう。

 

 

「胸を張ってお兄さんの隣に立てるようになるまでが貴方の旅なら、私達も付き合うよ。どの道、“黒龍”とは戦う事になるからね」

 

 

 残る五つの異聞帯の中でも、最高レベルの難易度を誇ると推測されるシュレイド異聞帯。そこを管理するクリプター―――アンナ・ディストローツが使役するサーヴァントの中に、“黒龍”の名がある。漂白された汎人類史を取り戻す為には、彼女達との戦いは決して避けられない。

 

 

「……ハッ! まったく、頼もしい事この上ねぇな、今度のマスターはッ! なら、俺もその期待に応えなくっちゃあならねぇッ!」

 

 

 不敵な笑みと共に立ち上がったストレオが立香に拳を突き出す。一瞬、自分に向けられた拳に驚いたものの、立香は彼がなにを求めているかを察するとニッと笑みを浮かべ、彼の拳に自分のそれを打ち合わせた。

 

 

「改めて契約だ。サーヴァント・セイバー、真名ストレオ。この身は汝の剣となり、盾となり、帰るべき故郷へと帰す光となろうッ! ヘヘッ、よろしくな、マスターッ!」

「こちらこそ。これからもよろしく、ストレオッ!」

 

 

 互いに頷き合い、固い握手を交わした。

 

 

 

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 嵐の中を突き進む。暴風雨をひたすら耐えながら、一歩ずつ、着実に前へ進んでいく。

 

 彼方には、今も己を導き続ける光。

 

 生前も、死後も、ストレオという名の一人の男が憧憬を抱き続けた、たった一人の肉親。

 

 クラシェ―――我が愛しき兄にして英雄よ。

 

 いつになるかはわからないが、この愚弟は、必ず貴方の隣に並び立とう。

 

 同じ視点を手に入れて、肩を並べ合って、語らって、笑い合って、死後の安寧を共に過ごそう。

 

 

「―――」

 

 

 光が振り向く。夢と目が合う。

 

 彼がなにを言っているのかはわからない。なにかを口にしたのはなんとなくわかるが、その声も、姿も、豪雨のカーテンに遮られて見えない。

 

 

「兄ちゃん、俺―――」

 

 

 それでも、ストレオは語り掛ける。

 

 たとえ声が届かなくとも、互いが遠く離れていても。

 

 この想いは届くはずだと、信じて。

 

 ―――夢には未だ届かず、試練は未だ果たせず。

 

 ―――永遠にあの光を追い続けるのかもしれない。

 

 ―――二度とあの人の隣に立てないかもしれない。

 

 ―――この願望は、果たされずに終わるのかもしれない。

 

 それでも、いつか。そう、いつかは―――

 

 

 

 ―――きっと、辿り着けるはずだ。

 




 
 この後建材になったんだよね……(大奥)

 参考として色々幕間を調べてたんですが、どれもいい話なんですよね……。ちなみに私が一番好きな幕間はヘシアン・ロボの『吼えろ、生きろ、噛み砕け、滅びろ』です。外見は元から好きだったんですが、召喚に応じた理由がイケメンすぎて……。新宿での最期も泣けましてね……。えぇ、本当に好きなんです。

 “黒龍”討伐時に調査団がいない事についてですが、調査団の中に筆頭ルーキーがいるじゃないですか。彼は4(4G)にも出ていたのですが、大老殿での禁忌のストーリーから察するに、4(4G)は2の未来の話らしいので、あの頃はまだ未熟だったルーキーがいる調査団は出せなかったんです……。どんどん原作モンハンの歴史が変わっていっている事は本当に申し訳ございません。

 ちなみに生前のストレオは“黒龍”の姿しか見ておらず、その人間態のボレアスとは面識がありません。ではなぜ秦ですぐ気づけたのかというと、ボレアスから放たれるプレッシャーがまんま“黒龍”のものだったので、それですぐに彼が“黒龍”だと確信しました。
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