【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 ドーモ=ミナサン。
 二ヶ月後から始める社会人生活が社宅より始まる事になったseven774です。
 いよいよ社会人生活が迫ってまいりました。それに伴い、四月からは更新頻度が落ちてしまうかもしれません。一応現在も二週間に一本のペースなので、時間を見つければこのペースで更新できるかもしれませんが、まだ不確かなものなので、もし更新されなかった場合は「忙しいんだな」と考えて頂ければと思います。
 失踪はしませんのでご安心くださいねッ!

 今回は四つの視点で話が進みます。

 それではどうぞッ!


戦争前日

 

 閉じた瞼越しに瞬いていた淡い光が消え、軽く瞼を持ち上げる。

 視界に入ってくる光に何度か瞬きして目を慣れさせ、目の前に座るサーヴァントに訊ねる。

 

 

「診察は終了した。目立った不調は見受けられなかった。異常なしだ、マスター」

「わかったわ。ありがとう、シグルド」

 

 

 口元に小さな笑みを作ってこちらを安心させるように言ってきたシグルドに、オフェリアもまた笑顔を以て返した。

 

 

「それにしても流石ね。ルーツにこのやり方を教えてもらったのって二回だけでしょう? それだけでもすぐにマスターするなんてね」

「生前は応急処置含め、いくつかの治療法も学んだ。それと同じ要領であれば簡単に覚えられる」

 

 “祖龍”の血液とアンナ・ディストロート・シュレイドの霊基。

 瀕死の重傷を負った際にルーツが取った行動によって現在オフェリアの体に宿ったこの二つの要素は、それらに対する充分な知識を備えていなければならない。だが、ルーツはそれらの知識など充分すぎる程持っているので、オフェリアの魔眼の診察に必要な知恵を全てシグルドに叩き込み、またどのように診ればいのかも実演した。

 結果、あらゆる状況、分野でも柔軟に対応できるシグルドは即座にそれを把握し、そして現在に至るというわけである。

 

 

「戦いだけでなく治療の知恵もあるなんて、毎度の事だけど、貴方をサーヴァントとして召喚できたのは幸運ね」

「感謝の極みだ。当方こそ、貴殿のようなマスターに巡り合えて幸運だ」

「ふふっ、ありがとう。……そろそろルーツも帰ってきてるだろうし、行こうかしら」

「買い出しに出かけていたそうだな。では、当方はこの後用事があるため、ここで失礼する。これは診察結果をまとめたメモだ。アンナに渡してほしい」

「わかったわ。今後もよろしくね、シグルド」

 

 

 頷き、シグルドと別れたオフェリアが廊下を歩いていると、「オフェリア」と背後から声を掛けられた。

 

 

「あ、芥」

「診察、終わったの?」

「えぇ。問題はないそうよ。ルー……アンナにも一応報告したいのだけど、見てない?」

「見てないわね。それにしても貴女、アイツを本名で呼ぶようになったのね」

「少し前に、色々彼女について知る事が出来たのよ。それからは、彼女の事は『ルーツ』って呼んでるわ」

「そ。まぁ、別にいいんじゃない? アイツも『アンナ』って名前には思い入れがあるだろうけど、本名でも呼ばれたいだろうし」

 

 

 虞美人の言葉に「もしや」と思い、オフェリアは訊ねる。

 

 

「やっぱり、貴女も知ってるのね。彼女……本当の『アンナ』の事」

「昔、軽く教えてもらった程度よ。でも、アイツが彼女の事をどれだけ大切に思っていたのかは承知しているわ。人間としての名前として使っているのも、それに由来しているものだし」

「由来……」

 

 

 そういえば、なぜ彼女が人間としての名前として『アンナ』を使っているのかは聞いた事がなかった。

 竜大戦時代に最も深く、長く関わった人物だからこそその名前にしたのか。いや、虞美人の言葉には、ルーツがアンナの名を使う事にはもっと深い意味があるように感じる。

 

 そう考えるオフェリアの気持ちを知ってか知らずか、虞美人は口を開く。

 

 

「忘れたくないから、忘れられたくないからよ。たとえなにかしらの異常事態で記憶を失ったとしても、誰かにその名で呼ばれれば、彼女の存在を思い出せる。そして、真に信頼のおける相手に自分の名の意味を伝える事で、彼女はこの世界で生きていたと記憶させる―――その為にアイツは、『アンナ』の名前を使うのよ」

「…………そう」

「なによ、その顔。アイツがどれだけアンナに思い入れがあるのか知って、ショックだったかしら」

「……正直なところ、その通りね」

「まぁ、そうよね。でもね、オフェリア。だからといってルーツが貴女に対してなんとも思っていない、なんて事はないのよ。でなきゃ、自分の血を輸血するどころか、アンナを召喚したりなんてしないもの。そこまでの事をしてまで救いたいと思うぐらい、彼女は貴女を大切に思ってるのよ」

 

 

 それに―――と、虞美人はオフェリアを見つめる。

 

 

「自分の発情期の解消を頼み込むなんて、後にも先も貴女だけよ」

「な―――芥……ッ!!」

「ふふっ、少しはいい顔するようになったわね。しみったれた表情するよりはマシよ。それに、付き合ってる相手を無碍にするなんて、ルーツはしないだろうし」

「え? 付き合ってる? ルーツが?」

「なに言ってるのよ。貴女達、付き合ってるんでしょ? だからデートしたりして―――」

「その……付き合ってない、けど」

「は?」

「え?」

 

 

 ピタリと両者の動きが止まる。

 虞美人はオフェリアの返答に鳩が豆鉄砲を食ったような顔をし、数秒の後に―――爆発した。

 

 

「はぁああああぁッッ!!? 付き合ってないのッ!?」

「え、えぇ……。私もルーツも、お互いに告白なんてしてないし……」

「え? じゃあなに? 付き合ってもないのに発情期の解消を請け負ったの? それからも色々やったのに?」

「い、色々って……まぁ、したけど……」

「……もしかして貴女達って、セフ―――」

「親友ッ! 親友だからッ!」

「―――どうしたの、オフェリアちゃん? そんなに叫んで……」

 

 

 慌てて虞美人の言葉をオフェリアが遮ると、廊下の先から一人の女性がやって来た。

 彼女の姿を視界に収めるや否や、虞美人は肩を怒らせて詰め寄った。

 

 

「ルーツッ! 貴女ねぇッ! オフェリアと付き合ってないなら言いなさいよッ! ずっと勘違いしてたじゃないッ!」

「な、なにそれッ!? 私、一言もオフェリアちゃんと付き合ってるなんて言ってないよッ!? そっちがずっと勘違いしてたんでしょッ!?」

「ふっっつうに恋人みたいな距離感だったんだから仕方ないでしょッ! はぁ、なんか馬鹿みたい……。項羽様のところに戻るわ……」

「あっ、ちょ、ちょっとッ!」

 

 

 重い溜息を吐いて踵を返した虞美人の背中にルーツが声をかけるものの、彼女はなにも言わずに去ってしまうのだった。

 

 

「えっと……」

「あ、オフェリアちゃん……」

「その、これ、魔眼の診察の結果なのだけど……」

「あ、う、うんッ! ありがとう、確認するね……」

 

 

 先程までの雰囲気を誤魔化し合うように、シグルドから受け取ったメモ用紙を渡したオフェリアに、感謝の言葉を告げるルーツ。

 まだ頬を少し赤らめたままメモ用紙に記載された文章を見つめるルーツに、オフェリアは思う。

 

 

(ルーツ。貴女が『アンナ』の名を騙るのは、彼女の存在が今も貴女の中に生き続けているからよね?)

「これは……うん、大丈夫そうね。となると次の記載については……ふふっ、シグルドは相変わらずマメね。詳細にまとめてくれているからわかりやすいな」

(貴女は私が死にかけた時、アンナに泣き縋っていた。まるで神に懇願するように……。そして、召喚されたアンナは、私に自分の魔眼を与えた……。今の私は、オフェリア・ファムルソローネから少しずつ離れていってる……)

「……うん。問題ないよ、オフェリアちゃん。これから少しずつ慣らしていこうね」

「……えぇ、わかったわ……」

「どうしたの? 酷い顔……もしかして、魔眼が……ッ!?」

「違うの。ただ、少し考え事をしていただけ……。……ねぇ、ルーツ」

 

 

 頬に添えられた彼女の手を掴み、壁に押し付ける。

 決して逃がさないと言うように自分の手首を握る力の強さによる痛みに僅かに顔を顰めたルーツに、オフェリアは詰め寄った。

 

 

「教えて。貴女は、まだアンナを追いかけているの?」

 

 

 ルーツの緋色の瞳に、オフェリアの顔が映り込む。

 彼女の言う通り、酷い顔だ。

 自分を救ってくれた相手が、自分を通して他人を見ているかもしれないという恐怖。

 彼女にとって、自分はその相手を呼び戻す為の生贄(うつわ)に過ぎないのかという不安。

 

 生を欲する死人のような表情を浮かべている自分に若干の恐ろしさを感じていると、ルーツの唇が動き始めた。

 

 

「……私は……貴女を―――」

 

 

 いったいどんな言葉が返ってくるのか、全神経を集中させて、彼女の仕草一つ見聞きしようとして―――

 

 

「っ、これは……」

 

 

 その瞬間に、重々しい鐘の音が響き渡り、互いを見つめていた二人の視線が外れた。

 

 

「アンナッ!」

「っ、Kッ! 今のは……」

「あぁ、最後の『巡礼の鐘』だ。話がしたい。申し訳ないが来てくれるか」

「……うん。わかった」

 

 

 するりとオフェリアの拘束から逃れたルーツが、Kの下へ向かっていく。

 思わずオフェリアがルーツを呼び止めようとするが、それより先に彼女が小さく呟いた。

 

 

「答えは、必ず返すから。今はごめん」

 

 

 去り際に告げられた言葉に、オフェリアは「……えぇ」と小さく頷くのだった。

 

 

 

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「お母様、カリア……あの、どこへ……」

「話している時間はありません」

「すまないね、マスター」

 

 

 『巡礼の鐘』が鳴った直後、騒ぎ立てた妖精達を黙らせたモルガンだったが、「迎撃の準備をします」と言ってカリアとバーヴァン・シーを伴って玉座の間を出た瞬間、自分達に不可視の魔術を使って他者から視認できなくした。

 その時から今まで続く彼女の焦った様子に、現在カリアに背負われる形でいるバーヴァン・シーは不吉な気配を感じていた。

 

 女王の焦った姿などを見ては妖精達が変な行動を起こすのでは、と思って周囲を見渡すも、行き交う妖精や兵士達は誰も自分達の存在に気付いていない。流石は母親の魔術だと感服したバーヴァン・シーの心には、モルガンへの尊敬があった。

 

 だからこそ不安になる。こんな芸当が出来る彼女でもこうまで焦らせる原因とは―――

 

 

(……いや、考えるまでもないか)

 

 

 原因など、分かりきっている。

 自分だ。なにが要因なのかは知らないが、体が自由に動かせなくなってからというもの、モルガンは目に見えて焦るようになったからだ。

 

 なにが原因なのかを考えようとしても、それらしき記憶はない。自分はなにも悪い事はしていないはずだと、バーヴァン・シーは困惑と混乱の中にいる。

 

 悶々とバーヴァン・シーが考えていると、目的地へ着いたのか「こちらです」もモルガンが言って立ち止まった。

 彼女の声に無意識に顔を上げたバーヴァン・シーが目にしたのは、自分達がよく訓練や模擬戦を行う際に使用している部屋へ続く扉だった。

 

 扉を開けたモルガンに続いてカリアと共に入ると、そこはふかふかのベッドが置かれた寝室だった。

 

 

「マスター。従者(サーヴァント)であるボクから頼まれるのは癪かもしれないが、聞いてほしい。ここから出てはいけないよ」

「は? なんで……」

 

 

 優しくベッドの上に下ろされたバーヴァン・シーが上半身を起こそうとするも、カリアに額に指を当てられて動きが止まる。

 

 

「君の体の為だ。ここは陛下が直々に拵え、調整した部屋でね。時間こそかけるものの、君の体を少しずつ治してくれる。これからそう時間をかけずに戦争が始まる。君はここに隠れているんだ」

「戦争……戦争ッ!?」

 

 

 己のサーヴァントが告げた単語に、バーヴァン・シーは彼女の手を払って起き上がった。

 

 

「戦争が起きるってのかッ!? だったらなんで『ここにいろ』って言うんだよッ! 私にも参加させろッ!」

「その体で戦っても、不意を突かれた時に対処できないだろう?」

「私は妖精騎士だッ! お母様を……モルガン女王を護れないで、なにが妖精騎士だッ! なにが妖精騎士バーヴァン・シーだッ!」

「君は妖精騎士以前に、陛下の大切な愛娘だ。これは陛下が決定した事だよ」

「お母様が……?」

 

 

 バーヴァン・シーに視線を向けられたモルガンは、「はい」と小さく頷いた。

 

 

「酷な話ですが……今の貴女に、戦闘は不可能です。自分でも気づいているはずです。時折、自分の意識が途切れている事に」

「……ッ」

 

 

 気付かないはずがなかった。

 バーゲストとメリュジーヌとの模擬戦以降、自分は時折意識を失う事があった。たとえそれが一瞬のものであっても、戦争においての一瞬は命取りになる。

 さらに、この意識の消失は時を経る毎に多くなっていくのだ。仮に戦場に出たとしても、いつ意識が消えるかわからない。もし敵に包囲されている状態でそうなってしまえば、自分は……。

 

 

「ですから、貴女はここにいてください。いずれ、貴女をこの城より離脱させる者達が現れます。彼らには、貴女がこの部屋を離れても無事でいられる魔術道具を与えています。彼らと共に、この城を離れるのです」

「そんな……くっ……」

「ごめんなさい、バーヴァン・シー。本当ならば、私も貴女から離れたくはないのです。ですが、私はこの國を治める女王として、遍く敵を滅ぼさなければなりません」

「…………わかり、ました……」

 

 

 正直、認めたくはない。戦争などしてほしくない。全てを投げ出して一緒にどこかへ行けるのなら、それでいいのに。

 しかし、モルガンは本気だった。自分という娘を護る為に、あらゆる外敵を滅ぼし尽くすつもりだ。

 

 故に、バーヴァン・シーは止めたくなかった。彼女の意志を曲げさせたくはなかったのだ。

 

 

「……カリアはどうすんだよ」

「ボクは戦いに行くよ。戦争なんて素晴らしいじゃないか。殺しても殺しても敵の方から来てくれるなんて、これほどボク向きの戦場はない」

「ハッ、テメェは相変わらずだな……。それなら―――」

 

 

 マスターの証である令呪が刻まれた右手を、カリアに向ける。

 

 

「令呪を以て命ずる。……死ぬな、カリア」

 

 

 右手の甲に描かれている、欠けた心臓を鎖で縛り付けているようなデザインの令呪から一画が消え、カリアの霊基に絶対命令の術式が流れ込む。

 自身の体を見下ろしたカリアは、体の底から不思議な力が湧いてくる感覚に「ほぅ」と小さく邪悪な笑みを浮かべた。

 

 

「いいのかい? ボクを召喚してから、一回も使わなかった令呪を使ってしまって」

「テメェはなんだか気付いたら死んでそうだからな。死なせねぇよ。テメェはずっと、私とお母様を護り続けろ」

「言うようになったじゃないか、それでこそ我がマスターだ。ハハハハハハハッ!」

 

 

 目元を手で隠して笑ったカリアは、その手を胸元に当てて大袈裟な動作でお辞儀をした。

 

 

「承知した、マスター。君の勅命、我が全てを用いて果たそう。この戦いで、私は死なない。必ず生き延びてみせよう」

「……約束だからな、カリア」

「……そろそろ戻らなければ。カリア、行きましょう」

「む、そうか」

「……バーヴァン・シー」

 

 

 そっと愛する娘の前へ歩み寄ったモルガンが、彼女の額にキスをする。

 

 

「少しだけ、離れます。ほんの少しだけです。全てが終わった後は、必ず迎えに行きますね」

「……はい。お母様」

 

 

 頷いたバーヴァン・シーに、内心離れたくないと思いながらも、モルガンはカリアを伴って部屋を出る。

 

 残されたバーヴァン・シーは、少しでも早く体を治すべくベッドに横になろうとすると、『マスター』と念話でカリアの声が聞こえてきた。

 

 

「……カリア?」

 

 

 意識を集中させると、彼女の声がよりはっきりと聞こえてくる。

 

 

『もし、なにかがあってボクの助けが必要になったら、遠慮なくボクの名を呼ぶがいい。美しく気高い、妖精達の姫君よ。君が求めるのなら、ボクはどこへだって駆けつけるよ』

「……あぁ、もちろんだ」

『それじゃあね、マスター』

 

 

 念話が切れ、バーヴァン・シーは改めてベッドに横になり、瞼を閉じる。

 

 

「死ぬんじゃねぇぞ、カリア……」

 

 

 ずっと自分に付き従ってくれたサーヴァントの無事を祈りながら、妖精の姫君は眠りに就くのだった。

 

 

 

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「無茶を言いましたね、カリア」

「そうかい? ボクとしては当然の事を言っただけなのだけれど」

 

 

 不可視の魔術をかけて玉座の間へと向かっていく最中、自分に向けて出された言葉に返す。

 

 

「貴女も我が娘と同じ……いえ、もっと酷い状態なのに、死なずに帰ってくるなどと」

「ハハハ、確かにそうかもしれないねぇ」

 

 

 ―――でもだね、陛下。

 

 

「今の状態のボクだからこそ、戦ってみたいのさ。いつ意識が消えるのかもわからないという緊迫感の中で死地を駆けるなんて、最高じゃないかッ!」

「ふふっ、貴女は変わらないですね。……期待していますよ、カリア」

 

 

 相も変わらずの狂人。しかし、だからこそ頼もしい。

 

 これまでの戦いのように、彼女が新たな武勇を挙げるのを楽しみにしながら、モルガンは玉座の間へと続く扉を開けた。

 

 

 

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「……遂に六番目の鐘が鳴ったか。ご苦労様、アルトリア」

 

 

 夕刻、某所にて。

 立香達とは別行動で動いていたオベロンが、國中に響き渡る鐘の音に気付いて顔を上げた。

 

 ここまでは順調だった。

 途中死にかける事も何度かあったが、なんとかここまで運ぶ事ができた。まだ途中段階だが、これまでの失敗(はいぼく)を考えると上々といったところだろう。

 アルトリアは順調に鐘を鳴らし、力を高めている。後はこのまま彼女や立香達をサポートし、邪魔者のモルガンを排除すればいい。

 尤も、そこに辿り着くまでの過程があまりにも難易度が高すぎるのだが。

 

 

「さて、どうしようか……。……おっと、お帰りブランカ。ノクナレアとキャメロットの様子はどうだった?」

 

 

 一人頭を悩ませていたところに、偵察から戻ってきた相棒の白い蛾がやってくる。

 一先ず思考を中断させて彼女からの報告を受ける。

 

 やはりというべきか。

 六番目の鐘を鳴らした事で、同盟が保留となっていたノクナレア陣営が正式にアルトリア達と共闘し、キャメロットに宣戦布告の構えを取ったようだ。対するキャメロットも彼女達に対抗すべく各地に散っていた勢力を集め、迎撃の準備を整えているらしい。

 

 召集されたメンバーはバーゲストとメリュジーヌ。そして、オックスフォードから脱走したウッドワス。

 

 

「諦めの悪い奴。極限状態持ちの亜鈴百種なんて、とっとと消えてくれればいいのに」

 

 

 モルガンはこれが最後の名誉挽回のチャンスのつもりで召集し、ウッドワスは今度こそ女王からの信頼を勝ち取るべく応えたのだろうか。だが、とにかく厄介だ。排熱大公と称される実力者に極限状態などというとんでも強化を受けている彼は、場合によっては妖精騎士にすら勝利できるだろう。

 彼の対抗策も講じなければならないな。いや、そもそも極限状態に対抗できるアイテムがない状態でどう倒せばいいんだ―――と、重い溜息を吐いてから、改めてブランカからの報告に耳を傾ける。

 

 

「バーヴァン・シーは不調により休養中? へぇ、それは良い事を聞いたなぁ。具体的にどんな状態かは……流石にわからないか。ああいや、別に怒ってないよ。むしろそこまで調べてくれた事に感謝してるよ。それじゃあ、あの狩人もキャメロットにいる事になるか。嫌だなぁ……」

 

 

 続いて、報告は氏族長のものへと変わる。

 スプリガンはキャメロットへ向かい、ムリアンはグロスターから動かない。オーロラはソールズベリーに残っていた義勇兵を連れて『予言の子』陣営に合流予定。

 それとは別にモースの様子についてだが、彼らに動きはないそうだ。

 

 いや、というよりは―――

 

 

(数を減らしている、という感じかな。大元があの状態(・ ・ ・ ・)なんだ。これからどんどん減っていって、やがて完全にいなくなるだろうな)

 

 

 どこか元気のないブランカに休むようにと告げながら考える。

 

 

「舞台は順調に進んでいる。ここからは情勢を見ている暇はない。モルガンとアルトリア―――二人の『楽園の妖精』、どちらが生き残るかの決戦だ」

 

 

 個人的な考えであれば、勝ちさえすれば両者の共倒れでも別に構わない。モルガンの打倒さえ実現すればそれでいいのだ。

 

 妖精國をめぐる戦いはあと少しで完結だ。

 ……とはいえ。

 

 

「ハッピーエンドもバッドエンドも必要ない。この國が辿り着く先は、なにもない無だけさ」

 

 

 舞台にはなにも残らない。

 観客も、役者も、小道具も。なにもかもがなくなった劇場で、朽ちた幕が下りるだけだ―――。

 




 
・『オフェリア』
 ……ルーツが自分を通してアンナを見ているのではないかと思い問い詰めるも、『巡礼の鐘』が鳴った事で答えを聞けずにいる。
 いつか必ず答えを聞きたいと思っている。

・『ルーツ』
 ……オフェリアに「今もアンナを追っているのか」と聞かれ、答えようとした直後に『巡礼の鐘』が鳴った事でそちらの対応に追われてしまい、返事はできなかった。
 近々改めて答えを返そうと思っている。

・『バーヴァン・シー』
 ……模擬戦などで使うシミュレーションルームにて療養。カリアに令呪の一画を用いて死ぬ事を禁じた。

・『カリア』
 ……マスターからの令呪を受け、生きて帰還する事を誓う。しかしその後、彼女が真の意味で助けを求めた場合はすぐに駆け付けるとも告げた。
 魂の摩耗、気が狂う程の空腹、竜種への転身というデメリットを背負った状態で戦地に赴く事にワクワクしている。

・『モルガン』
 ……相変わらずのカリアに頼もしさ半分呆れの感情を抱いている。再びバーヴァン・シーと会う為、『予言の子』達の殲滅を決意した。


 次回よりいよいよ決戦編です。アヴァロン・ル・フェも終わりが見えてきましたね。
 終了後はいつも通りカリアのプロフィールと幕間を投稿し、次にシュレイド異聞帯の話を一つ。その後ミクトラン編へ移行しようと思います。
 以前はトラオムを挟もうかと思ったのですが、仮にルーツがトラオムの真相や実験室の事を知ったとしても、その謎が明らかになるのはオーディール・コールだと思いますので、別に挟む必要はないのではと判断したため無しにしました。ご了承ください。

 それでは、また次回ッ!
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