ドーモ=ミナサン。
バレンタインイベが終了してすぐにホワイトデーイベが始まり、推しサーヴァントの一人であるシャルルマーニュが登場して嬉しくなったseven774です。
霊衣と強化も入ったので、これからも使っていこうと思っています。
前回から始まったキャメロット戦ですが、今回から番号を振って投稿していきます。流石にここまで分かれているとタイトルが決められないので……。
それでは本編、どうぞッ!
炎と斬撃が交差し、火花が飛び散る。
両者の腕は二本であるはずなのに、それが数十本にも見える程の速度で繰り広げられる攻防に、周囲にいる兵士達は誰も身動きが出来ない。
周囲からの目では互角に見える剣戟。
だが、戦況はバーゲストが僅かに押されていた。
バーゲストは本気で挑んでいる。そうでなければ、既にこの攻防の間で十回は首を落とされている。
死なない為の本気だが……全力が出せない。
ただの敵であれば、バーゲストは全身全霊を賭けて戦っただろう。
だが、彼女にとってカリアは大恩ある存在であった。彼女とモルガンの存在がなければ、今頃
それが、彼女の刃を鈍らせる。
しかし、カリアはそうではない。
たとえ百年を超える年数を共に過ごし、國を護ってきた相手であろうと、彼女は一切の容赦をしない。
殺し切れない優しさと感謝に剣先を鈍らせるバーゲスト。
輝かしい記憶も感情もあるが、それで止める事はないカリア。
故に、バーゲストは押されている。だが、だからといってバーゲストが絶対に負けるというわけではない。
彼女にも譲れないものがあるのだ。それを果たす為に、バーゲストは大剣と鎖を振るうのだ。
「ブッ飛べッ!」
横薙ぎに振るったブレードを鎧に叩きつけ、纏わせていた炎を爆発させる。
轟音と共に発生した風圧が、衝撃と共にカリアの体を吹き飛ばす。
二メートル近い身長と、120kgにもなる体重に秘められた筋力による一撃は、彼女よりも小さく軽いカリアの肉体など容易に吹き飛ばした。
吹き飛ばされたカリアの体は城壁に激突し、肺に溜まっていた空気が口から無理矢理吐き出されたカリアの視界が、自分が起こした風圧を物ともせずに猛進してくるバーゲストの姿を捉える。
大剣では届かない距離を縮める間に態勢を立て直される事を危惧したのか、左腕から打ち出された幾十もの鎖をオオシナトによって防御させ、僅かに開いた隙間を駆ける。急接近してきたカリアにこれ以上鎖で攻撃しては逆に隙を晒してしまうと判断するも、鎖は消滅させずに引き戻し、自身の左腕に巻き付けた。
籠手の上に巻き付ける事で防御力を上げたバーゲストが左腕を掲げた直後、カリアの刃が叩きつけられた。
鎖と籠手で防御しても、それらを通して伝わってくる衝撃はバーゲストの左腕の骨に亀裂を走らせ、両足が地面にめり込んだ。
痛みに歯を食いしばり、カリアを押しのけて新たな炎を纏わせたブレードで叩き落そうとする。
しかし、胴に向かって振るわれた大剣が受け止められた瞬間、操虫棍―――エイムofトリックに宿る龍属性のエネルギーが、大剣のブレードを覆う炎を消し去ってしまった。
(龍属性による属性の打ち消し……やはり厄介な能力ッ! そして―――)
「ハァ―――ッ!」
火炎を消し去り、爆発の可能性を無くしたカリアが操虫棍のブレードを大剣の刃に滑らせて受け流す。
バーゲストが力を込めて振るっていた大剣の威力をそのまま受け流した彼女の体は何回も回転するが、打ち飛ばされずにその場に留まり、さらに遠心力を利用して操虫棍を振るってきた。
(この対応力……ッ!! 流石、かつての時代に竜種を狩猟を生業にしていた狩人ですわねッ!!)
竜種についての知識はそれなりにある。
メリュジーヌがその竜種から派生した妖精である事は本人から聞いているし、なにより女王の盟友であるディスフィロアは
この妖精國にワイバーンやドラゴンの類は基本見受けられないが、それでもかつての歴史から彼らが如何に強大であるかは把握していた。そして、そんな彼らから今よりももっと栄えていた人類種を護り続けた
「ぐううぅぅ……ッ!!?」
受け流しと遠心力によって強化された斬撃に鎧を砕かれ、鈍器で骨を叩かれたような激痛に苦悶の声が漏れ出る。
数歩後退ったバーゲストの首元に、着地したカリアの操虫棍が迫る。
咄嗟に首を横に逸らせば、標的を逃した切っ先は彼女の髪の毛を斬り捨てただけで終わり、体を伸ばした姿勢になっていたカリアの体をバーゲストが蹴り飛ばした。蹴り飛ばされたカリアはすぐに襲い掛からず、敢えて彼女との距離を取ってから態勢を立て直した。
「依然戦った時よりも強いじゃないか、バーゲスト」
「えぇ。それはもう、鍛えましたから」
「それ以上筋肉を付けてどうするつもりだい? それではアドニスと褥を共にしても押し潰してしまうだろう?」
「……そのデリカシーに欠ける言葉、後悔させてあげますわッ!」
―――他人の夜の事情に突っ込むのはやめてくださいましッ!
思いがけないカリアからの言葉に炎の威力を高め、バーゲストは彼女に斬りかかった。
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「く……ッ!」
「死ねッ! 死ね、パーシヴァルゥウウウッッ!!」
怒涛の勢いで襲い来る攻撃を、間一髪で回避し続ける。
無限にやって来る絶死の一撃を、生命の危機に瀕した本能とこれまで積み重ねてきた戦闘技能の全てを活用して避けるパーシヴァルの脳は、ただ『相手の攻撃から逃れる』という目的を達成する為だけの命令を全身に伝播させる。
死にたくないという、生物においての究極の願いを果たす為に動く肉体は、極限状態のウッドワスの攻撃を紙一重で躱し続けるものの、風圧のみで体が千切れ飛びそうになる威力に戦慄する。
彼らの周囲には、誰もいない。
ウッドワスの援護を行う予定だった兵士達も、別の戦場へ向かってしまった。
彼らは、見てしまったのだ。愚かにもウッドワスの援護に乗り出そうとしていた味方が、どうなってしまったのかを。
あっという間の出来事だった。長らくこの妖精國を護り、氏族長としても有名だったウッドワスと同じ戦場に立てた事に興奮したその男は、パーシヴァルに攻撃を仕掛けたウッドワスを援護しようとした。
しかし、ウッドワスはその直後、味方であるはずのその兵士を殺したのだ。
最初は誰も理解できなかった。パーシヴァルでさえ、標的の自分への攻撃を中断させてまで味方を殺害したウッドワスの姿に動きを止めてしまった程だ。
『渡すか、誰にも渡してなるものかッ! こいつは私の―――
ウッドワスには最早、敵味方の区別は付いていなかった。
『獲物を狩る己』と『狩るべき獲物』しか、今の彼の心にはない。それを邪魔する相手は、たとえ味方だろうと容赦しなかった。
そして、兵士達は去った。
我先にとウッドワスから逃げ、彼のいない戦場へと逃げた。
女王から逃げる事は許されない。かといって、女王軍の兵士として選ばれた以上戦わなくてはならない。けれど、ウッドワスと戦地を共にするのは恐ろしい。
妖精國に住まう妖精の大半はとうに武器を投げ捨てて逃げ出しているだろうが、意地でもこの戦場に残る道を選んだ兵士達は勇敢と言ってもいいだろう。敵味方関係なく、自分の邪魔をする可能性がある存在を殺すような存在がいる場所から逃げたのは、命を持つ者として当たり前の決断なのだから。
「ウゥオオオオォォッ!!」
飛び退いたパーシヴァルに、大きく跳躍したウッドワスの踵落としが迫る。
真正面から受け止めては槍ごと粉砕されると本能で理解し、パーシヴァルは再び後ろに飛び退く。
直後、踵落としが直撃した地面がクレーターのような窪みが生じ、次に突風と瓦礫が一気に襲い掛かってきた。
片腕で風と小さな地面の破片から目を護ながら直地し、両足のバネで一気に加速。
「ハァアアアアッ!!」
気合の叫びと共に槍を突き出し、ウッドワスへと突っ込んだ。
「ウゥ……ッ!?」
胸部へと槍の穂先による一撃を受けたウッドワスが、僅かにたじろぐ。
パーシヴァルが保有する『選定の槍』は、かつて
ただの槍であれば、ウッドワスに傷一つ付けられなかっただろう。加え、彼の胸部は極限状態になっている事で硬度を増しており、ダメージを与えるどころかこちら側が砕かれる可能性もあり得た。
しかし、『選定の槍』はその歪んだ特性だからこそ、その可能性を排除し、極限状態によって硬化した肉体にもダメージを与えたのだ。
金属同士を擦り合わせたような耳障りな音を掻き鳴らしながら、紫色の火花を散らして後退りしたウッドワスだったが、即座に拳を突き出した。
顔面を粉砕しようと迫り来る拳を前に、パーシヴァルは咄嗟に首を横に逸らして回避。吹き飛ばされそうになる風圧を懸命に堪え、決して槍を手放さずにウッドワスから距離を取った。
「パーシヴァルッ! よくもこの身に傷をつけてくれたなァッ!!」
(よし、ダメージは与えられる……。けど―――)
―――あまりにも硬すぎる。
ウッドワスになんとか一撃を与えられたパーシヴァルは、彼の肉体の強度に戦慄した。
先の一撃は、彼のこれまでの人生の中でも最高のものだった。それを与えても、ウッドワスにとってはただの一撃にしかならない。
あと何発、あとどれくらいの時間をかければ、ウッドワスは斃れるのか―――そしてその時まで、自分は生きていられるのか。
まるで山を相手にしている気分だ。なにをしても揺るがない圧倒的存在感。
……だが。
(攻撃が通るのなら、何度だって叩き込んでやるだけだッ!!)
槍を握る力を強め、構える。
ダメージが与えられて、相手もそれを傷と認識している以上、倒せる。
とんでもない戦いだ。繰り出す一撃を全て渾身のものにしなければならないのだから。
だが、そうでなくてはこの男は倒せない。倒せるはずがないのだ。
「ウッドワスッ! 私は、負けないッ! 負けるわけにはいかないんだッ!」
「いいやッ! お前はここで死ぬ―――このオレが、貴様を殺すのだからなァッ!!」
互いに自らを鼓舞するように叫び、一気に駆け出した。
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赤い弓矢による射撃を受けて着地したディスフィロアが、次いで自分に襲い来る二振りの戦斧を地上から出現させた氷柱で防御する。
緑色の炎を纏う戦斧によって氷柱が砕かれるも、その奥に古龍の姿はない。
どこに行ったのかと戦斧の持ち主が周囲を見渡すが、その答えはすぐに出された。
氷柱で身を隠していた間に移動したディスフィロアの火炎ブレスが、戦斧の持ち主を焼き尽くし、さらにその奥にいた弓兵をも狙う。
弓兵は咄嗟にブレスを回避したが、その直後、彼の背後に出現した氷塊によって
「ダレイオス三世、アーラシュ……ッ!」
本物ではない影とはいえ、自身が召喚したサーヴァントが炎によって焼き尽くされた様に唇を噛み締める。
残る影のサーヴァントを含めればこちらの戦力は三十人を優に超え、相手はディスフィロアただ一体。しかし、その一体故に、ディスフィロアは強力無比だった。
オークニーの戦いを通してディスフィロアの強さは可能な限り把握していたが、こうして真正面からぶつかり合うと、その強大さがよくわかる。
けれど、彼らの消滅を通して、立香の脳内に一つの考えが過り、令呪の刻まれた右手に触れる。
(炎を反射する氷塊。落下させて攻撃できるし、壁として防御にも使えるのは厄介だけど……これを逆に利用できれば―――)
「弓兵部隊、前へッ! 放てェッ!」
「バックアップ行くぜッ! 立香ッ!」
「ッ、キルケーッ!」
ノクナレアの指示を受けた弓兵部隊が放った矢にグリムとキルケーの影による強化魔術が施される。
神代の魔術によって威力、硬度を上げた大量の矢が、それぞれが異なる動きをしながらディスフィロアへと殺到する。
ディスフィロアは上空から降り注ぐ大量の矢の周囲にある気温を操り、幾つもの氷塊を生成。何本もの矢を一度に氷塊の中に閉じ込め、砕かせる事で速度を落としながら迎撃を行ったディスフィロアが火炎を吐き出せば、先程のように氷塊によって火炎が反射され始める。
「来るぞッ!」
「マシュ、宝具お願いッ!」
「はいッ! 顕現せよ―――『
誰よりも前に飛び出し、着地と同時に盾を地面に突き立てる。
真名開放によって、マシュに力を貸していた
聳え立つは白亜の城。
何人にも穢されぬ、古き騎士達の聖域。
眩き輝きを放つ城は、仲間達の命を奪い去ろうとした氷炎のブレスを受け止め、仲間達を護り抜いた。
「ありがとう、マシュッ!」
「お陰で攻撃できるわッ!」
ブレスが止み、崩落していく城の残骸を乗り越えたアルトリアが、自分と共に駆け出したノクナレアに魔術による補助を行う。
身体能力を強化されたノクナレアが全身からハート型のオーラを立ち昇らせると、それを右足に纏わせ、ディスフイロアの前足に叩きつけた。
僅かに後退したディスフイロアが彼女の足元から炎柱を噴き出させようとするも、直後にノクナレアの軍勢が放った矢がそれを許さない。
ただの矢であれば、ディスフイロアにダメージは与えられない。しかし、彼らの放った矢や武具は、キャスターとして召喚されたグリムと、立香が召喚した影の英霊の魔術を受けた事で古龍種にも多少の効力を発揮する。
そして、今度はグリムとキルケーも攻撃に加わり、火炎と電撃も追加でディスフィロアに襲い掛かった。
矢だけであれば先程のように対処できる。しかし、英霊達による攻撃は少々面倒だと判断したディスフイロアが翼を広げて翔び上がった。
古龍の巨体を軽く持ち上げる程の風圧によって吹き飛ばされたノクナレアを村正が受け止めながら、飛翔したディスフィロアに向けて投影した日本刀の大群を向かわせる。
「よし、私も―――」
「ダ・ヴィンチちゃん、待ってッ!」
直撃した瞬間に、投影品を構成する魔力を暴走させて爆発させて怯ませた村正に続こうとしたダ・ヴィンチだが、彼女を立香が呼び止める。
「どうしたの?」
「私がこの戦いで召喚できる影って、あと一騎だよね?」
「……そうだね。手を抜けるわけじゃないけど、この戦いが終わった後にはモルガンが控えている。彼女との戦いも考えるとなると、君が召喚できるのはあと一騎だけだ」
「わかった。ありがとう」
「その顔、なにか考えがあるんだね?」
「うん。それで、頼みがあるんだけど―――」
「―――グゥオオオオオオオォォォッ!!!」
ダ・ヴィンチに自分の考えを伝えようとした直後、飛翔していたディスフイロアが咆哮を轟かせた。
「マズ……ッ!」
鼓膜を破きかねない咆哮に思わず動きを止めてしまったオベロンの視界に、ディスフイロアの周囲に白と赤の魔力によって象られた二重の円が映る。
そして、円が破裂し―――破壊が巻き起こった。
「うぉおおおおッッッ!!!?」
衝撃波と共に放出される、氷炎の嵐。
“最果ての地”全土に降り注ぐ、凍てつき、燃やす暴虐。
直撃を受けた兵士達はなにも言えずに骨の欠片も残さず灼き尽くされ、キルケーの魔術で出現した魔力の壁によって一時的に護られた兵士達も、敢え無く魔力壁が粉砕されてしまった直後に、襲い掛かってきた衝撃波によってキルケー諸共消し飛ばされてしまった。
永遠にも近く、しかし十秒にも満たぬ短い時間。だが、誰もがそう思う程の地獄を顕現させたディスフイロアが地上に降り立つと、周囲にはなにも存在しなかった。
残るのは、この現象を起こしたディスフイロアと―――
「はぁ……はぁ……はぁ……」
―――この絶対的な死から、生き延びた勇者達だけだった。
「……『
「アルトリアッ!」
対粛清宝具。
あらゆる攻撃を阻み、遍く命を護るアルトリア・キャスターの力。
一度だけではなく、何度も襲ってくる嵐から仲間達を護る為に魔力を集中させ続けた事によって倒れかけた体を立香に支えられ、アルトリアは小さく笑みを作った。
「ありがとう、立香……。でも、大丈夫。ここまで来て、終われないよ」
自分を支える腕を軽く押し、自らの足で前に踏み出す。
「助かったぜ、アルトリア」
「えぇ、感謝するわ。お陰で無傷よ」
「一旦下がってろ。多少魔力を回復させる時間ぐらいは、稼いでやるさ」
「マシュ、行けるよね?」
「もちろんです。アルトリアさん、今度は私達が、貴女を護りますッ!」
自らの技を防ぎ切ったアルトリアを明確な脅威と判断したのだろう。これまでとは明らかに違う殺気を眼に宿したディスフイロアから彼女を護るように立った立香達に、アルトリアは心の底から温かくなるような感覚に包まれた。
「行くよみんなッ! 今度は私達が、アルトリアを護るんだッ!」
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「アンナ、この使い魔で鉄格子の破壊は出来るかい?」
『無茶言わないでよ。出来ても手のひらサイズの道具を持ち運ぶくらい。体当たりしても絶対に開かないだろうし。カイニスとアナスタシアちゃんは?』
「無理だな。この地下牢に入ってからどうも力が出ねぇ。トライデントもこれじゃあ形無しだ」
「ヴィイも無理だと言っています。もちろん、この私も」
肩を上げて無理と意思表示するカイニスに、肩を落として溜息を吐くアナスタシア。
二騎に『そうかぁ……』と返したアンナは、オフェリアの使い魔を羽ばたかせて鉄格子の近くまで寄る。
『カドック君、ここの性質はわかった?』
「本当に大雑把にだけどな。この地下牢は、収容した相手の力を一定まで制限するらしい。カイニスやアナスタシアが壊せないのもそれが原因のはずだ」
『ん、わかった。さて、どうやってここから出るか……』
「待って。誰か来る」
アンナの声を遮ったペペロンチーノに、使い魔はすぐにプロフェッサー・Kの背後に隠れた。
いったい誰が来たのかと身構えるK達の前に、護衛の兵士達を伴った男が現れた。
「ふっ、随分と間抜けな姿だな。プロフェッサー・K?」
「貴方は―――スプリングマンッ!」
「誰が悪魔超人だッ! スプリガンだッ!」
鉄格子の外から叫ぶスプリガンに、Kは「おっとすまない」と返す。
「私とした事が、偉大なる先輩の名前を間違えてしまうとは。どうか許して頂きたい」
「ふんっ、その偉大な先輩から市場を掻っ攫った奴がなにを言う。それにしても、なんだその格好は。貴様らはこの戦時中に遊びに来たのか?」
「まさか。こっちはこっちで仕事があるのさ」
「ほぅ……
「……ッ!?」
今、なんと言ったか。
信じられない言葉にカドックが目を見開くが、Kは「はて」と素知らぬ顔で首を傾げた。
「なにを言ってるのかわかりませんね。第一、バーヴァン・シー様がそのような状況にあるとは知りもしませんでした。それに、もし彼女がそうであれば陛下がなにかしら行動を起こしているはずでは?」
「その『行動』とやらが貴様らではないのかね? 惚けても無駄だ。こちらは、貴様らがなぜここに現れたのかも知っているんだ。陛下もお可哀想に……頼みの綱がこんな体たらくではな」
「……なぜここに? 貴方がここに来るメリットはないはずだ」
最早隠しても無駄だと思ったのだろう。Kがこれまでの態度を変えて訊ねると、スプリガンはくつくつと笑みを零した。
「こうなった以上、貴様らに
連れていた兵士に地上へと続く出口の見張りをするように告げ、スプリガンは高笑いしながら去っていった。
「……どうする? このままじゃ僕ら、なにも出来ずにここで終わるぞ」
「ふっ、心配する事はないさ。そうだろう、アンナ?」
『もちろんだよ。K、手を出して』
「……?」
肩に乗せた小鳥の前に左手を差し出したKをカドックが訝し気に見つめていると、小鳥が急に悶え始めた。
なにか異常事態が起きたのか、と顔を引き攣らせたカドックだったが、次の瞬間、小鳥の体から三つの小さな球体が吐き出された。
そしてその球体は、全て邪悪なオーラを纏っていた。
『はいどうぞ』
「助かるよ、アンナ」
(え、なに? なんか吐き出したんだけど。なんか明らかにヤバいもの吐き出したんだけど。なんであいつ、それをペペとカイニスに渡そうとしてるんだ。いや待て、今はそんな事よりもッ!)
小鳥が吐き出したものについての詳細。そして彼がなぜそれをペペロンチーノとカイニスに渡そうとしているのか。
まずはそれを知るべきだと判断し、カドックは鉄格子にしがみついて叫んだ。
「おい待てッ! その邪悪なオーラを漂わせてるやつはなんだッ!? まずはそれについて教えろッ!」
「シーッ、静かに。そんなに叫んでは番兵にバレてしまう。これは言うなれば仮死薬。これを飲めばあっという間に死ねる。サーヴァント相手ではただの睡眠薬になるが、事情の知らない彼らならば騙せるだろう。私達はこれからこれを飲む。その後にカドックはアナスタシアと協力し、上手い事番兵を倒して私達を
「そうは言われたって、どうやってお前達を起こせばいいんだ。生憎、仮死状態の相手を目覚めさせる魔術はないぞ」
「その点についても問題ない」
Kが再び小鳥に左手を差し出せば、小鳥は新たな薬を吐き出した。今度は邪悪なオーラは纏っておらず、神々しい純白の輝きを放っていた。
「これを飲ませれば、仮死状態になった私達を元に戻せる。ただし、扱いには細心の注意を払ってほしい。尽くせる手は尽くしたが、この薬は驚く程脆い。ほんの少し力を籠めれば、それだけで砕け散ってしまう。これからこれを、君達に投げ渡す。番兵を倒した後、鍵を奪って私達を助けるんだ」
「……わかった。やれるか、アナスタシア」
「もちろんです。力を使う以上、ここの魔術から一瞬逃れる為の魔力は貰いますが」
「それぐらいならお安い御用だ。……K、それをこっちに。早く行動に出よう」
「いい顔をしているな。なら私達の命―――」
Kが薬を投げやすいように、小鳥が肩から離れる。そして、Kは右拳を振りかぶり―――
「―――君達に預けたッ!」
『あっ!!』
それに全員が気付くも、時既に遅し。
所有者の手元から飛び立った薬の内、二つは鉄格子に弾かれ、残る一つは寸分違わずペペロンチーノの下へ。
そして、Kの思いも寄らぬ失敗に本人全てが口を開けていた事により、弾かれた二つの薬はKとカイニスの口元へ飛び込み、残る一つもペペロンチーノの口元へ身を躍らせた。
―――ドサッ(二人と一騎が倒れる音)。
―――パキッ(三つの蘇生薬が砕ける音)。
「「……」」
『……』
プロフェッサー・K、スカンジナビア・ペペロンチーノ―――死亡。
カイニス―――爆睡開始。
蘇生薬―――粉砕。
「……どうすればいいんだ……」
『なんで、こんな事に……』
残された者達は、全員揃って頭を抱えたのだった―――。
・『パーシヴァル』
……極限状態ウッドワスを相手に抗竜石なしで粘る男。選定の槍が妖精特攻の武器であるため、会心の一撃であれば強制弾かれ部位に当たってもダメージを与えられる。
・『スプリガン』
……プロフェッサー・Kが爵位を獲得する過程で市場を搔っ攫われたので、彼に対する恨みは相当なもの。なぜか彼らがバーヴァン・シーの救出に来た事を知っていた。
それではまた次回ッ!