【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 ドーモ=ミナサン。
 イドをクリアし、虚無感に打ちひしがれたseven774です。
 いつかは来ると覚悟していた展開でしたが、まさか今このタイミングで来るとは思っていませんでした。正直辛いです。ですが、ストーリーは本当に素晴らしく、素晴らしさのあまり手元にあった500個の石を割ってモンテ・クリスト伯爵とジャンヌ・ダルク・オルタを召喚してしまいました……。
 ですがカリオストロ伯爵、なぜ貴方はモンテ・クリスト伯爵が来るまでの間に六人も来たのですか……? お陰で宝具レベルが5になってしまいましたよ……。リンボは後で殴っておくね(カリオストロプロフィール参照)。

 今回は次回を考慮しパーシヴァルVSウッドワスパートをカットしました。ですが、その代わりに二つの視点を用意しましたので、楽しんでいただければと思いますッ!

 それではどうぞッ!


罪都キャメロットの戦争/3

 

「シ―――ッ!」

(ッ、しまった―――ッ!)

 

 

 鬼気迫る斬撃を前に、バーゲストは咄嗟に大剣を両手で支えて防御の態勢を取るが、僅かな遅れが彼女に力を籠めるタイミングを逃させてしまった。

 振り下ろされた刃に大剣の防御が崩され、勢いを殺せなかった影響でバーゲストの姿勢が前のめりになってしまう。

 

 

「もらったァッ!」

 

 

 勝利を確信したカリアの刃が吸い込まれるようにバーゲストの首元へ迫るも、途中でその勢いが消えた。

 

 

「もらったのは、こちらの方だッ!」

 

 

 勢いが死んで動きが止まったカリアの顔面に、バーゲストの拳が叩き込まれる。

 分厚い壁が粉砕されるような音と共に殴り飛ばされたカリアだが、咄嗟に態勢を立て直して着地し、龍属性を帯びた斬撃を飛ばしてきた。

 

 斬撃を大剣で斬り払い、突貫。巨大な質量を誇る一本の槍となったバーゲストの突進を、カリアは慌てずに操虫棍を縦に構えて待つ。

 強い踏み込みによって突っ込んできたバーゲストの大剣が振るわれた直後、構えた操虫棍の刃でそれを受け止め、勢いを殺さず受け流す。防御によって勢いを殺されるどころか、受け流された事で余計なスピードが加わってしまったバーゲストの巨体が凄まじい速度で離れていくものの―――バーゲストは当然だと驚かない。

 

 自分の巨体と、それによって齎されるパワーは理解している。真正面から自分の攻撃を受け止められる存在は、この妖精國では五指に収まる程度しかいない。カリアもその一人ではあるものの、いつ意識が途切れるかわからぬ現状で、正面から迎え撃つ事を躊躇ったのだろう。

 そして、それこそがバーゲストの狙いだった。

 

 

「―――ッ!」

 

 

 ジャラララッ! と伸ばされた幾十もの鎖が三軒の住宅に絡みつき、バーゲストの体を持ち上げる。

 加速によって質量を増した巨体を維持しきれずに一軒目が崩れ、二軒目も全体に亀裂が走る。それで多少の勢いは失われ、バランスも崩れるが、この程度で止まっては妖精騎士の名が廃る。

 住宅を犠牲にスイングしたバーゲストの炎の斬撃が、カリアに叩きつけられる。

 

 灼熱の炎を纏った刃を受けた狩人の体が瞬く間に消え失せ、一秒の間隔も置かずに直線状に砂埃や瓦礫が舞い上がり、そして轟音が轟いた。

 

 さらにバーゲストは地面を削りながらも一切態勢を崩さぬままに回転。遠心力の勢いを利用してもう一度、二度と続けざまに炎の斬撃を繰り出す。

 

 爆炎と熱風が吹き荒び、赤く照らされた黒煙が空に立ち昇っていく。そこから飛び出す黒紫色の影と、それが手にする武器に宿った赤黒い雷に気付いたバーゲストは、一足飛びに前方へと走った。

 直後、背後から雷が落ちるような音と共に、大剣を覆っていた火炎が弱まり、そして消えた。

 龍属性の波動を受けて生身のブレードが露になったそれを、振り向きざまに一閃。背後から飛び掛かってきたカリアを迎撃しようとするも、その直前、バーゲストの背になにかが体当たりしてきた。

 

 

「うっ!?」

「ハッハァッ!」

「つぅ……ッ!!」

 

 

 予期せぬ背後からの体当たりに態勢を崩されたバーゲストに、カリアの斬撃が命中する。

 受け止め損ねた重い一撃はバーゲストの巨体を弾き飛ばすのに充分すぎる威力を誇る。地面を何度も跳ねた彼女が態勢を立て直そうとする間にも、カリアは自分で弾き飛ばしたバーゲストに肉薄し、操虫棍を振るい続ける。

 咄嗟に喚び出した黒犬で牽制させ、大剣を突き立てて停止。立ち上がると共に黒犬を構成していた魔力を炎に変え、カリアを斬り払った。

 

 炎に焼かれた鎧を間髪入れずに大剣に打ち砕かれ、衝撃波を伴って吹っ飛んだカリアが地面を転がっていく。バーゲストは追撃を仕掛けようとするが、そうはさせじと飛来してきたオオシナトが彼女に突進して動きを止めた。

 

 

「助かったよ、オオシナト。っ……」

 

 

 自身の腕に戻ってきた猟虫に感謝の言葉を伝えるカリアだが、次の瞬間には苦痛に顔を歪ませて腹部に手を当てる。

 炎による火傷、そして斬撃による裂傷。それらは絶えず激痛を与えているらしく、流石のカリアも堪えたのか片膝をついていた。

 

 

(……少し、マズいですわね)

 

 

 けれど、それでも油断はできなかった。

 カリアの真骨頂は、こんなものではない。彼女の本気はこの程度ではない。

 

 彼女の凶暴性と攻撃性は、戦えば戦う程高まっていく。そして、彼女の肉体は戦闘を続けていく中で、一定のラインを超えると同時に強化されていくのだ。

 相手からすれば堪ったものではない。元々強い敵が、時間をかければかける程強力になっていくのだから。

 なぜ彼女にそのような特性があるのかというと、以前本人から教えてもらった事がある。

 

 

(狂竜症……でしたわね、確か。吞まれればそれまでですが、克服すれば強靭なパワーが得られるという)

 

 

 それは生前の彼女が旅の中で出会ったという、一頭の竜。その存在が振りまくウィルスに感染すると発症してしまう病の名だ。

 狂竜症は感染した存在を狂暴化させるが、克服できればその何倍ものパワーを得る。その結果として現れたのが、ウッドワスの極限状態だ。

 

 元々老いた老兵の身でありながらも、その命の最後の一滴まで全て女王に捧ぐと決めた彼が得た力。それを彼に与えたカリアだが、彼女の場合は内側に大元がいるために、極限状態ではなく、“真・狂竜化”形態というものに変化する。

 パワーこそ極限状態のウッドワスに劣るもの、総合力で言えば彼女の方に軍配が上がる。その形態に変化されてしまっては、最早自分に勝ち目はない。

 

 故に―――

 

 

「ぐ、うぅううぅぅううぅ……ッ!!」

 

 

 片手で頭を押さえて弱っているこの時こそ、絶好のチャンスだ。

 

 

(このチャンス、逃しはしませんわッ!!)

 

 

 大剣を手に、バーゲストは斬りかかる。

 蹲って苦しむカリアが、静かに口元を邪悪に歪めた事に気付かぬまま―――。

 

 

 

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 ―――操縦開始。

 本物ではない影故に発声できなくとも、確かに彼の声が響いた気がした直後、周囲に散乱していた氷塊やその欠片が瞬く間に合体していき、無数のゴーレムが形成される。

 

 

「強化、行くぜッ!」

 

 

 グリムが二匹の白狼を伴って魔術を発動し、ゴーレム達を強化する。

 元々が古龍の能力によって創造された氷塊を素材にして構築されたゴーレム達が、グリムの魔術を受けてより頑丈となり、打ち砕こうとしてきたディスフィロアの巨体を五体がかりで受け止めた。

 動きが止まったディスフィロアに左右からノクナレアと村正が攻撃を仕掛けるべく飛び掛かるが、直後、古龍の全身から灼熱の波動が放たれた。

 

 

「ぐッ!?」

「あっっつッ!? 大事な服が燃えるじゃないッ!」

 

 

 咄嗟にディスフィロアに振り下ろそうとした野太刀を防御に振るって波動を相殺し、ノクナレアもまたハート型のオーラで障壁を作ってなんとか身を護る。しかし、村正もノクナレアも波動に吹き飛ばされて攻撃が失敗してしまい、ゴーレム達もゼロ距離からの超高熱を浴びて融解していく。

 グリムの魔術を受けても尚、ただでは済まない熱量。熱線ではないために反射も出来ずに解けていくが、アヴィケブロンは瞬時に五体のゴーレムを融合させて補強。さらに複数体の融合により巨大化させたゴーレムを操り、ディスフィロアの首を両手で掴んで締め上げる。

 

 気管を封じられたディスフィロアが暴れ、巨大ゴーレムを振り払う。首を手放してしまった巨大ゴーレムにディスフィロアの尻尾が叩きつけられたかと思うと、直後に大地から突き上げてきた氷柱が巨大ゴーレムを貫いた。

 ディスフィロアの眼が妖しく輝いて氷柱が巨大ゴーレムごと砕かれると、その破片は旋風に煽られるように周囲に飛散し、立香達を狙う。

 

 

「先輩ッ!」

 

 

 咄嗟に立香の前に飛び出したマシュが盾を地面に突き立てる。

 可能な限りマシュに密着した立香に氷の破片が殺到するが、それらはマシュの盾より展開された純白の結界が彼女を護り抜く。

 

 アヴィケブロンもまた自身の周囲にゴーレムを配置して身を護る。が、次の瞬間、彼の全身を黒い影が覆った。

 

 

「グォォオオオッ!!」

 

 

 ドォオンッ! と地面を轟かせてアヴィケブロンを右前足で押さえつけたディスフィロアが、そのまま彼を踏み潰そうとする。

 ミシミシと骨が軋む痛みに身悶えするアヴィケブロンを救うべくオベロンが虹色の魔力波を放って攻撃するも、ディスフィロアは氷と炎の障壁で防御する。そして遂にアヴィケブロンがディスフィロアによって潰されかけた、その時だった。

 

 

「シャドウ・ボーダー疑似展開。未完の馬よ、駆け抜けろッ! ―――境界を超えるもの(ビューティフル・ジャーニー)ッ!!」

 

 

 ディスフィロアの真下。そこに広がる大地が水面のように揺らぎ、そこから無骨な外装を持つ車両が飛び出してきた。

 

 ―――虚数潜航艇シャドウ・ボーダー。

 アトランティスでストーム・ボーダーを獲得する前は、カルデアが異聞帯に侵入できる唯一の大型特殊車両。虚数の海を征き、前人未到の地に輝ける轍を刻み付ける黒き箱舟。

 

 障壁の内側。そして地面からの予期せぬ不意打ち。それによって遂にディスフィロアの態勢が崩れ、その隙にアヴィケブロンは足元から離れ、シャドウ・ボーダーが開けた穴を通って脱出した。

 

 

「ありがとう、ダ・ヴィンチちゃんッ!」

「どういたしましてッ! レオナルドツインパンチッ!」

 

 

 魔力によって構成されていたシャドウ・ボーダーが消え、その中から現れたダ・ヴィンチが両腕に装着されたガントレットでロケットパンチを繰り出す。

 シャドウ・ボーダーによる突進を受けて態勢が崩れたところを、顔面にロケットパンチの追撃を受けたディスフィロアがさらによろめく。

 苦し紛れにディスフィロアが開いたアギトから熱線を放った。空中に出現させた氷塊の反射によって後方から攻撃しようとした村正を焼き払おうとする。

 

 しかし、それはアヴィケブロンが許さない。

 彼が指を振るえば、村正の前にゴーレムが出現。その身で熱線を受け止め、逆にディスフィロアに反射し返した。

 

 

「グォアアアアアァァッ!!?」

「崩れたッ、今ッ!!」

「アルトリアッ! 強化こっちに回せッ!」

「うんッ!」

 

 

 反射された熱線を受けて転倒した今こそがチャンスだと確信した村正が走り出す。

 自らの左右直線状に出現した何十本もの刀剣が砕け、混ざり、溶け合い、一本の刀となって右手に収まる。

 

 

「―――そこに至るは数多の研鑽。あらゆる非業、あらゆる宿願はこの一刀の為に」

 

 

 アルトリアの強化を施された肉体が、魔術回路が躍動する。

 遂に訪れた千載一遇のチャンスを逃さんと、村正は高く飛び立つ。

 

 

「剣の鼓動、此処にありッ! 喰らえ、無元の(つむかり)―――ッ!?」

 

 

 英霊となった自身が獲得した宝具の名を叫ぼうとした、その時だった。

 

 開かれた眼が妖しく輝き、強烈な風圧の後にディスフィロアの全身を白い煙が包み込んだ。炎と氷をわざと衝突させて発生させた水蒸気による目くらましだ。

 だが、村正の感覚が告げる。―――逃がした(・ ・ ・ ・)と。

 そして、依代となった少年の残滓が叫ぶ。―――彼女が危ない(・ ・ ・ ・ ・ ・)と。

 

 

「―――アルトリアァアアアアアァァッッ!!!」

 

 

 宝具の発動が中断される。

 もし今放てば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 あの一瞬で、ディスフィロアはアルトリアの背後まで移動していたのだ。

 

 

「アルトリアッ!」

「マズイッ!」

 

 

 立香が叫び、ダ・ヴィンチがローラーシューズで助けに行こうとするが、それより先にディスフィロアの火炎がアルトリアを焼き尽くすのが早い。

 

 

「ぁ―――」

 

 

 魔術の行使も、離脱も間に合わない。アルトリアの思考が真っ白になった、その時。

 

 

「動きを止めるな、アルトリアッ!」

 

 

 彼女とディスフィロアの間に割り込む影が一つ。

 自らを小型化させ、ただ加速する為のみに己の全てを賭けたオベロンが、アルトリアの前に出た瞬間に体を元に戻す。

 

 アルトリアの視界がその男を捉え、彼が何者かを脳が認識するも、次の瞬間、ディスフィロアの炎が視界を真っ赤に染め上げた。

 

 大気を揺るがす程の大爆発。それを真正面から受けた男―――オベロンは自身の身を顧みずにアルトリアの盾となり、可能な限り彼女への被害を軽減した。

 

 吹き飛ばされたオベロンと、背後にいたためにそれに巻き込まれたアルトリア。両者は共に地面を削って倒れるが、先に立ち上がったアルトリアがオベロンを抱き起こした。

 

 

「オベロン、オベロンッ!」

「……あ~、しくじったなぁ……。無理して助けに入るんじゃ、なかった……」

 

 

 所々焼け焦げたり煤が付着した純白の外套も、その奥にある皮膚ごと焼かれたオベロンは、アルトリアの助けを借りるものの、立ち上がる事も出来ずに崩れ落ちてしまう。

 

 

「駄目、立って……オベロン―――ッ!」

 

 

 叫ぶアルトリアの声にも答えられぬまま、妖精王オベロンは光の粒子となって消滅するのだった―――。

 

 

 

 

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「「「「「うぉおおおおおおおおおおおッッッ!!!」」」」」

 

 

 キャメロット城内、バーヴァン・シーのいる部屋へと続く迷路の中にて。

 カドック達は体の奥底から雄叫びを上げて走っていた。

 

 背後からゴロゴロと大きな音を立てて転がってきているのは、巨大な鉄球。迷路へ入ってしばらくした頃、突如として背後に現れたそれは凄まじい勢いで彼らを轢き潰さんと迫ってきた。

 

 

「アンナッ! あれも罠なのかッ!? 僕らの誰かがなにかやらかしたのかッ!?」

『多分普通に歩いてても出てきたやつッ! とにかく逃げてッ!』

「カイニスッ! 君の力であれを壊せないのかッ!?」

「さっきやって無駄だったの見ただろッ!」

「駄目だッ! 追いつかれるッ!」

「うぉおおおおぉッ! こうなったら一か八かだ、みんな、跳べッ!!」

 

 

 このまま鉄球に轢き潰されるなら、可能性が限りなく低い手段でも使うしかない。

 Kの指示に従ってジャンプしたカドック達。振り向いた彼らの先には、鉄球と天井の間にある、僅かな隙間。カイニスは超人的な身体能力でその隙間を通り抜け、アナスタシアもまたヴィイの力を借りて通り抜けていく。

 しかし、カドック達人間組は無理だった。

 隙間を通り抜けられず、体が鉄球に乗る。そのまま流されて床に落とされてミンチにされてしまう―――前に、敵地潜入用タイツが彼らの命を救った。

 

 恐ろしい速さで手足を動かして鉄球を這い上がる。そのまま鉄球から飛び降りるかと思いきや、頂点に到達した瞬間に体を反転。コサックダンスをしながら鉄球を転がし始めた。

 

 

『なんでコサックダンスするのよッ! そこまで行ったなら降りなさいよッ!』

「悪いが芥、これはこのタイツの性質なんだ。この場において最適な行動を出力してくれる」

『コサックダンスのどこが最適な行動なのよッ!』

『うわ、見てよぐっちゃん。床に落とし穴が開いてる。鉄球は落ちないけど人間なら普通に落ちそうな大きさの奴』

『嘘、ホントにこれが最適解なの? もっとマシな行動はなかったの……?』

「このまま行くぞッ!」

「いや……この先、壁じゃないッ!」

「「「ぎゃあああああああッ!!?」」」

 

 

 コサックダンスしながら抱き合うという無駄に高等な技術を披露したカドック、K、ペペロンチーノの体が、急停止した鉄球から放り出される。慣性に従って壁に激突したカドック達が停止した鉄球からなんとか離れると、鉄球は軽い地響きを起こしながら床ごと右へスライド。入れ替わるように彼らの前に現れたのは―――

 

 

「モ、モザイク……?」

 

 

 一面モザイクに覆われた通路だった。

 今はまだ入っていないが、一度入れば最後、絶え間なく変化し続けるモザイクに支配された世界に迷ってしまうのが容易に想像できる通路。ここ以外にルートが確認できない事からも、これしか道はないのだが、カドックは思わず顔を顰めた。

 

 

「ふざけた通路だが、用心するに越した事はない。ヴィイ、君の魔眼ならこの通路を―――」

「いや、ここは私に任せてくれ」

「K……?」

 

 

 透視の魔眼を持つヴィイの力を借りて通り抜けようとしたカドックの肩に手を置いたKに、カドックの訝しげな視線が向けられる。

 彼を安心させるように頷いたKがモザイクの通路に足を踏み入れる。ヴィイもまた彼の行方を追っているが、彼らは特になんの異変も起こさぬまま進み続けている。

 

 

「アンタ、この通路を通れるのか? まさか、その仮面になにか秘密が……」

「昔、AVのモザイクが邪魔で邪魔で仕方なかった時があってね。モザイク越しにある存在を見通せるように眼力と認識能力を鍛えたんだ」

(なにかしらの魔術に期待した僕が馬鹿だったな……)

『うわ……K、流石にそれは引くなぁ。オフェリアちゃん、ああいう輩にはついて行っちゃ駄目だよ?』

『私は子どもじゃないわよ……』

「私個人の感想だが、修正のかけられたAVより無修正の方が良いじゃないか。なぁカドックッ!?」

「いきなり僕に投げるなッ! とにかく、見えるなら行くぞッ!」

 

 

 背後から注がれる冷気に身震いしながらも、カドックはKの後に続いてモザイクの通路を駆け抜けていく。

 

 だが、哀しいかな。彼らの前にはさらなる難関が待ち受けていた―――。

 

 以下、ダイジェスト。

 

 

「おい、なんかこっちに来てないか? 少なくとも、この世界にいるはずのない奴が……」

「そうだね。もしアレ(・ ・)が本物だったなら、我々の存在が抹消される」

「なに言ってるのよ。あの三個の黒丸が合体したシルエットのキャラクターなんて、この國にいるはずが―――」

「ハハッ」

『逃げてッ! 著作権にッ! 著作権に消されるッ!』 

 

 

「いや怖すぎんだろッ! モザイクの通路進んでると思ったら、モザイクに擬態した◯ッキーが来るなんてッ! ……ん、あれは……?」

「ボタン、ね。なんでこんなところにあるのかしら」

『ここにあるのは壁と、あとはそのボタンだけね。一度引き返すか、それとも……』

「…………」

「気持ちはわかるが、カドック」

「別になにも考えていないからな? あれは罠だと感じただけだからな?」

「ここは我々の特殊能力の一つ、『なんかヤベーセンサー』に問いかけよう。……押してもいいかな」

「駄目だ。なにが起こるかわかったもんじゃない」

「いや、カドック。確かに見た目こそ胡散臭さの塊でしかないが、押してみれば逆にこちら側にとって良い結果になったりするかもしれないじゃないか」

「押したいなら『押したい』って言え」

「押゛し゛た゛い゛ッ!」

『駄目です』

 

 

「カドック、私は残念だよ。あのまま私に押させてくれれば、あんな事にはならなかったのに……」

「クソッ、『確かにその通りだ』と思った自分が憎い……ッ!」

「まさかボタンを押さなかった事が原因で魔獣が襲ってくるなんてねぇ。そして今、そいつらに追われてるなんてねぇッ!」

「チッ、数が多すぎるッ! 殺しても殺しても切りがねェッ!」

『そのまままっすぐッ! その先の扉に入ってッ!』

「……これ、エレベーターじゃないか? なんで部屋の中にエレベーターなんてものがあるんだ。そもそもなんでエレベーターなんだ? 明らかに未来すぎるだろ……」

「気にしてはいけないものなのかもしれないわね。ところで全員揃ってるかしら」

「あぁ、全員揃ってるぜ。カドック(お前)、アナスタシア、ペペロンチーノ、カイニス(オレ)、そして……あれ、Kは?」

『「「「「…………」」」」』

仮面の持ち主(あのバカ)、乗り遅れたァアアアアアアアアア……ッッッ!!!)

『ちょ、ちょっとどうするのッ!? Kがいなくなったらバーヴァン・シーを救えても脱出できないよッ!?』

「私はァアアア……死なないィイイイイイイッッ!!!」

『ぎゃあああああああッ!?』

「床突き破ってくんなッ! てかオイ、テメェ魔獣共も引き連れてきやがったなッ!?」

「頼むカイニスッ! 助けてッ!」

「ホンット世話の焼ける奴だなテメェはッ!! 少しは役に立てッ!」

「モザイクの通路踏破したッ!」

「あぁそうだったな役に立ってたなッ! さっさと這い上がれぶっ飛ばすぞッ!」

 

 

 ダイジェスト、終了。

 

 幾つもの難関を乗り越え、遂にカドック達はバーヴァン・シーがいると思われる部屋の前まで辿り着いた。

 ……が、そこには既に先客がいた。

 

 

「っ、お前は……」

「スプリガン……ッ」

「ほぅ、まさかあの地下牢から脱出するとは。いったいどんな手を使ったのやら……」

 

 

 地下牢でカドック達の前に現れた男、スプリガンが衛兵達を引き連れて立っていた。

 いったいなぜここに、とカドックが思っていると、彼の心情を察したのか、スプリガンは不敵な笑みと共に口を開いた。

 

 

「姫君の身柄を求めているのは、貴様らだけではないだけだ。我々も彼女を求めている。尤も、目的は貴様らとは真逆だがね」

「へぇ? それなら、さっさと倒させてもらおうかしら」

 

 

 スプリガン達から放たれる敵意と殺気をいち早く察したペペロンチーノが、スプリガンに飛び蹴りを繰り出す。

 寸分違わぬ一撃。ペペロンチーノの右足がスプリガンに直撃しかけたかに思われた、次の瞬間。

 

 

「ふんッ!」

「なッ!?」

 

 

 残像を残しながら動いた腕が、ペペロンチーノの足を掴んで投げ飛ばした。

 空中で回転して着地したペペロンチーノが驚愕に目を見開いて立ち上がる。

 

 

「どういう事……? 今の、それなりに本気だったのだけど」

「敵地潜入用タイツ……貴様らのみがそれを手にしているとは思わん事だ」

「なに……?」

「フッ、これを見るがいいッ!」

 

 

 ローブを掴み、放り投げる。その奥から現れたのは、漆黒の全身タイツ。カドック達のものがあまねく世を照らす光だと捉えるなら、スプリガン達のものは昏き闇。

 自分達の着用しているそれとはまるで正反対の全身タイツが、カドック達の前にその姿を現れた。

 

 

「な、なんだあれは……ッ!」

「黒い、全身タイツ……ッ!? 変態よッ!!」

「いや僕らも同じ変態だぞ」

 

 

 全身白タイツ(自分達)全身黒タイツ(スプリガン達)もただ色違いなだけの変態である。

 

 

「貴様らが誰一人欠けずにここまで来るとは想定外だった。だが、その悪運もここまでだ。この『敵地殲滅用タイツ』は、貴様らの着ているものよりも格段に性能が上ッ! 貴様らに勝てる確率など無いに等しいと知るがいい―――かかれェいッ!!」

「たかが黒いだけの全身タイツッ! 行くぞ、みんなッ! スプリガン達を、倒すッ!」

 

 

 今ここに、白と黒の変態達の戦争が始まった―――。

 

 

 

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 ……やけに外が騒がしい。騒がしくて満足に休めない程に。

 

 一人ベッドで眠っていた妖精―――バーヴァン・シーは苛立ちを隠さないしかめっ面で瞼を持ち上げた。

 

 

『いずれ、貴女をこの城より離脱させる者達が現れます。彼らには、貴女がこの部屋を離れても無事でいられる魔術道具を与えています。彼らと共に、この城を離れるのです』

 

 

 戦争が始まる前、母親(モルガン)より伝えられた言葉。その者達がこの部屋の近くまでやって来たのだろうか。その割にはやけに数が多く、時折怒号や奇声が聞こえてきている。その中に若干の悲鳴が混じっている事から推測するに、恐らくこの部屋のすぐ外で戦闘が起こっているのだろうか。

 

 

「待ちなさ〜いッ!」「奴ら私達をスプリガン達に任せて扉を開けるつもりよッ!」「そんなの許さないわッ!」「どこへ行くんだぁ……?」「バ、バーヴァン・シーを捕らえ、モルガンの下へ向かう準備だぁ……ッ!」「一人用のポッドでかぁ?」「お助けくださいッ!」「ス、スプリガン様のケツにポン酢が刺さったッ!」「抜けッ! このままじゃスプリガン様の腸内がポン酢で満たされるぞッ!」「おいよせやめろッ! 出るッ! 色んなものが出るッ! 人生が終わるわッ!」「ヒャッハーッ! ここで終わらせてやるぜぇスプリガンッ!!」「K、お前そんなキャラだったか?」「喰らいなさい、ローズタイフーンッ!」『ちょっとペペッ! Kのタイツが千切れるじゃないッ! あわわ、見えちゃうッ! モザイクッ! モザイク用意してッ!』「ははは、アンナ。そんな簡単にこの敵地潜入用タイツが……あっ」「ちょおおおぉおおッ!!?」『ホントにモザイク用意してる……いったいどこから、あっ、さっきの通路か』『カドック君ありがとうッ! 後でいっぱいよしよししてあげるッ!』『ルーツ?』「カドック?」

 

 

 正直静かにしてほしい。こっちはモルガンを護る為に今すぐにでも戦場へ出て、母の統治を穢そうとする不届き者共を皆殺しにしたいというのに。こうも外で好き勝手に騒がれては堪忍袋の緒も切れるというもの。

 

 

(クソ、一回このイライラを解消しなきゃ気が済まねぇ。敵だろうが味方だろうが関係ねぇ。いったんぶっ飛ばす。後の事はそれからだ)

 

 

 幸いな事に、しばらくベッドで休んでいた影響で体力や気力はこの部屋に来る前よりも大分回復している。試しにフェイルノートを取り出して音の斬撃を飛ばせば、背後にあった椅子が容易く両断された。

 精度、威力共に申し分なし。これならば大抵の相手は倒せる―――そう判断し、バーヴァン・シーは扉を開けた。

 

 

「おいテメェらッ! なに妖精(ひと)の部屋の前でギャーギャー騒いでん―――」

「勝ったぞぉおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」

『うぉおおおおおおおおおおおッ!!!』

 

 

 絶えず変色し続けるモザイクで股間を隠した、見覚えのある仮面を着けた男性が固く握り締めた拳を掲げ、周りにいる彼の仲間と思しき男女が勝鬨(かちどき)を上げていた。

 仮面の男の足元には、肛門にポン酢の瓶を刺されてノビている、所々破けた黒い全身タイツを着用しているスプリガン。その周辺で倒れ伏している、スプリガンと同じ全身黒タイツを着用した男達。

 

 正しくカオス。理解しがたい現実を前にバーヴァン・シーは扉を閉めた。

 

 

(そっか。私、夢見てるのね)

 

 

 あんな光景、現実であり得るはずがない。しかし仮面の男―――信じたくないがプロフェッサー・Kと仲間達が身に着けていたのは、恐らく敵地潜入用タイツ。無駄に高性能なそれを一度は手に入れようかと思っていた時もあったので記憶の片隅に残っていたが、まさかあんな着ているだけで恥辱に死にそうになるものを着用してここまでやって来たのだろうか。

 馬鹿な。あり得ない。そんな馬鹿な事をここまで真面目にやり続けるなんて本物のアホのする事だ。

 

 自分はまだ夢を見ているのだと判断し、バーヴァン・シーは頬を抓った。

 そして驚愕し、戦慄する。今が現実だという恐怖の事実に。

 

 

(そんな、嘘……嘘よ……)

 

 

 心を底から凍てつかせるような恐怖。

 それから目を背けるように、先程の光景が間違いであると証明する為に、バーヴァン・シーは意を決して扉を開けた。

 

 

「Kがパンイチで叫ぶから怖がってたじゃないか。ここはもっと安心させるような事を言うんだ」

「その通りよ。ま、叫びたくなる気持ちもわかるケド」

「むっ。では早速……」

 

「「「「「もう安心だよ。貴女を助けにやって来た、ACWK(アルム・カンパニー・ホワイト・ナイツ)(たった今命名)ただいま参上ッ! さぁ、急いでここから離れ―――」」」」」

 

 

 バーヴァン・シーは扉を閉めた。ついでに心の扉も閉めた。

 

 

 

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 ―――呼んでいる。喚んでいる。

 

 黒き蟲が、己の名を告げている。

 昏き凶気を、呼び込んでいる。

 

 日の昇らぬ空を、漆黒の影が飛翔する。

 長き封印を破り、再び駆けるこの空。かつて生があった頃に見た、何物も存在しない虚無の(ソラ)―――そこにただ一体存在するその龍は、己の存在を求める呼び声を聞き取り、禍々しき翼を羽ばたかせる。

 

 大気を裂き、降下する。

 雲海に飛び込み、目指す先はただ一つ。

 

 ―――妖精の國よ、覚悟せよ。

 

 

 今―――絶望が、飛来する。

 




 
・『敵地殲滅用タイツ』
 ……スプリガンとその衛士達が着こんでいたタイツ。カドック達の敵地潜入用タイツを戦闘に特化させたものであり、隠密性こそ大きく劣るものの、身体能力は敵地潜入用タイツを遥かに凌ぐ。が、激闘の末にあっけなく破られてしまった。

・『スプリガン』
 ……バーヴァン・シーを連れ出す為にカドック達と交戦するが、惨敗。歳には勝てなかった。


 次回からなんですが、仕事が本格的に始まるので、もしかすると2週間置きに投稿できなくなるかもしれません。なんとか今のペースを維持できるよう頑張りますが、もし更新されなかった場合は「忙しんだな」と考えて頂ければと思います。

 それではまた次回ッ!
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