ドーモ=ミナサン。
仕事の合間を見つけながらなんとか更新ペースを保てているseven774です。
皆さんは今回のコラボイベント、楽しめましたか? 私はまさかコラボイベントがトンチキ系で来るとは思いませんでしたが、しっかりギャグだと思っていた部分にも補完が入ったりしてとても楽しめましたッ! エンディングもとても美しく、大変好みな部類でしたッ! コラボガチャでも青子と有珠をしっかり確保できたので万々歳ですッ!
今回は文字数が多かったため二本に分けました。それではどうぞッ!
竜巻と隕石が弾け、幾重もの凄まじい衝撃波を周囲へと撒き散らす。
直撃すればキャメロット全域を消し飛ばすどころか、その周辺地域にも被害を及ぼす威力の衝撃波は、しかし王城を中心に発生した障壁によって阻まれる。
魂さえ揺るがす爆音と地震は障壁内にいる者達を恐怖させ、その中でも貧弱な精神を持つ者達はそのあまりの威圧感によって命を落としていく。
彼らに責はない。自らの信ずるものの為に戦った彼らに、いかなる罪があるというのか。
ただ、そう、運が悪かった。運悪く、古の時代に君臨した覇者の対決に巻き込まれてしまっただけなのだ。
ある者はその場に崩れ落ち、ある者は障壁を超えてきた烈風に押されてなにも出来ずに転がっていく。
結果、残された命ある者は、古龍同士が激突する前と比べごく一握りしか残されなかった。
これまで続いていた戦闘で疲弊していた事もあり、精神的な疲労が溜まっていた事もまた、その犠牲者の数を増やす一因となったのだ。
「お前ら、大丈夫かッ!?」
全身に叩きつけられるプレッシャーを耐え抜いたグリムの叫びに、マシュ達が頷く。
「マシュ・キリエライト、問題ありません。先輩は……」
「少しキツイけど、大丈夫。まだいけるよ」
マシュも立香も、これまでの特異点や異聞帯での戦いを通して鍛え上げられた精神力により死を免れた。それに満足気に頷いたグリムが真上を見上げれば、自分達の攻撃の余波で死んだ者達など知らぬとばかりに争い始める、二体の古龍の姿が見えた。
「ったく、本当に面倒だな古龍種ってのはッ!」
絡み合うようにしてキャメロット上空を飛び回り、ブレスで攻撃し合う古龍達に堪らずグリムが悪態を吐き出す。
放射されるも回避された暗黒のブレスは大地を削り、氷炎のブレスは大地を融解させる。
こちらは一発直撃するだけでも致命傷は免れられないであろう威力のブレスをただの攻撃手段の一つとして使い、敵対者を滅ぼそうとする彼らから視線を外し、立香は城を見上げる。
「グリム、さっきこの城を護った壁は……」
「あぁ、ありゃモルガンだな。あのレベルの障壁を瞬時に張れるのは奴しかいねぇ」
「でも、これってチャンスじゃない? ディスフィロアはマキリ・ノワを相手にしてるからこっちに来れないだろうし、今なら邪魔なくモルガンのところまで行けると思うんだけど」
「そうだね。マキリ・ノワの襲来は予想外だったけど、立香ちゃんの言う通り、これはチャンスだ。古龍同士が戦っている間にモルガンのところへ行こう」
ディスフィロアは強力な古龍種だ。あのまま戦い続けていれば、後に控えているモルガンとの決戦に回せる魔力がなくなるところだった。
その点を考えれば、確かにダ・ヴィンチの言う通りだ。敵の敵は味方……とはとても言えないが、マキリ・ノワの襲撃はこちらにとって有利に働いている。
ダ・ヴィンチからの言葉に「うん」と頷き、立香達はキャメロット城内へと足を踏み入れようとして―――。
『行っては駄目だッ!』
「うわぁッ!? ネ、ネモッ!?」
突然目の前に現れた、ストーム・ボーダーの船長ネモのホログラムに思わず足を止めた。
「え、なんで通信できるのッ!? ここって機械類全っ然役に立たないのにッ!」
汎人類史を阻む妖精國では、汎人類史の技術である機械類は機能せず、例外なくただの置物となってしまうはずだ。それがなぜ今起動しているのかとダ・ヴィンチは疑問に思うが、ネモはすぐにその疑問に対する答えを口にした。
『カルデアのデータベースに登録された赤衣の男の霊基グラフが突然活性化したと思ったら通信できるようになった。多分、彼がなにかをしたんだろう』
「赤衣さんが……? いったいどうして……」
『わからない。だが、こんなのが送られてきた。今からそっちに送る』
ネモのホログラムが消え、代わりに赤衣の男が記したと思しき文章が表示される。
「これって……」
『残念だけど、ロンゴミニアドの入手は諦めるしかない。U-オルガマリーに対抗する手段は欲しいけど、それを手に入れる為に君達の命を犠牲にするわけにはいかない』
「チッ、こんな時に限って……ッ!」
「仕方ない……離脱だ。赤衣の男からの忠告を基に、今後の事を考えないと……」
「……わかった」
あと一歩。あと数分もすれば辿り着く場所に、モルガンがいる。だというのに、それを前にして踵を返すなど―――。
それでも戻らなければならない。ネモの言う通り、それを手に入れて命を落とすなど出来はしない。
一見すればただの文字だが、その文には彼が本気で警告しているという『凄み』を感じたのである。
脳裏に刻み付けられた、あの文章。それが嫌に、立香の心を苛み続けていた。
―――呪詛の護りは尽きる。破滅の繭が動き出す。
Now Loading...
炎と暗黒が交差し、暗雲立ち込める空を二体の龍が飛び交う。
ディスフィロアが絶対零度のブレスを竜巻のように放つも、それを妖しく煌めくバリアで防いだマキリ・ノワはそのまま飛翔を続行。ブレスを押しのけ、奥にいるディスフィロアに突進し、その巨体を弾き飛ばした。
直後、マキリ・ノワの口内に満たされる雷属性のエネルギー。バチバチと迸るそれは一秒の間も置かずにマキリ・ノワの頭部程の大きさとなり、ディスフィロアへと撃ち出された。
突進を受けた次の瞬間に放たれたブレスだったが、ディスフィロアは咄嗟に氷と炎の壁で防いだ。
ブレスが壁に激突して相殺し合い、両者の距離が風圧に押されて強制的に離された。
が、次には両者は既に行動に出ており、今度はなにも纏わぬままに翼を羽ばたかせて激突。
両者の頭突きが周囲の空気を揺るがし、離れたマキリ・ノワがブレスを放とうとするも、ディスフィロアはサマーソルトでマキリ・ノワの顎下に尻尾を叩きつけた。結果、僅かに開かれたアギトの奥で生成されていたエネルギーが、無理矢理口を閉ざされた事で暴発。
自分のブレスがディスフィロアに当たるようにバリアを解除していた瞬間を狙われたマキリ・ノワは、口内で起きたエネルギーの爆発によって大きく態勢を崩し、その隙にディスフィロアの追撃が繰り出された。
左右に生み出した炎と氷の竜巻。それは怯んでいたマキリ・ノワへと殺到し、その身を挟み込んだ。
左回転する炎の竜巻と、右回転する氷の竜巻。逆に回転する二つの竜巻の間に生まれるのは、絶大な威力を発揮する破壊空間。巻き込まれればあらゆるものを捩じ切り、粉砕する死の螺旋に巻き込まれたマキリ・ノワがバリアを再展開しようとするが、二つの竜巻はそれを決して許さない。
バリアを再展開する事叶わず押し流されたマキリ・ノワは暗雲を突き破り、星々が煌めく夜空に飛び出す。
「グ、ギャァアアアアアアアアッッ!!」
全身を捩じ切ろうとする竜巻に悲鳴のような咆哮を上げながらも、凶気の波動で竜巻を吹き飛ばす。
なんとか竜巻による拘束から逃れたものの、マキリ・ノワの両翼はズタズタに引き裂かれており、今も部位回復能力で修復されてはいるものの、完治には程遠い。角も全体に亀裂こそ入っているが砕けてはおらず、僅かにバリアを展開できた事もマキリ・ノワ本体へのダメージがこの程度で済んだ理由だ。
「グルォアアアアアッ!!」
「グギャァアアッ!」
地上から飛翔してくるディスフィロアに気付き、マキリ・ノワは降下していく体を回復させた両翼で維持しながらブレスを発射。
連射された暗黒のブレスを翼を羽ばたかせて回避し、そのまま頭上を取る。満月を背に巨大熱線を発射し、マキリ・ノワを叩き落そうとする。
瞬時に角の力を使ってバリアを展開。半透明の障壁に激突した熱線が凄まじい轟音を響かせながらバリアを破壊しようとする。
周囲の大気をも焦がす程の熱線。地上にあるもの全てを焼き尽くすかのような熱量を持つブレスを防ぎ続けるマキリ・ノワが反撃の機会を窺うも、熱線の威力が強力なためバリアを維持し続けなくてはならず、そのバリアを展開する角も先程の竜巻で壊れかけている。
であればどうするか。上空のディスフィロアに対抗する為にマキリ・ノワが取った選択は―――
「グギャァアアアアッッッ!!!」
咆哮を轟かせ、バリアの範囲を拡大。直後に全身から凶気のオーラを立ち昇らせてバリアを強化しながら部位再生能力で破壊されかけていた角を再生させていく。走っていた亀裂が徐々に塞がっていき、それにつれてバリアもまた強度を増していく。
やがて熱線を受けてもびくともしなくなったバリアを維持したまま、マキリ・ノワは高度を上げディスフィロアと並び立ち、ブレスを発射した。
全身から立ち上る凶気の力も纏わせたブレスは後出しで繰り出されたものだとしてもディスフィロアの巨大熱線と同格の威力を発揮し、両者の中心で拮抗し始める。
やがて臨界点に達したブレス同士は爆発。爆炎と黒煙を作り出し、次いで発生した突風がそれらを周囲へと拡散させていく。
月明かりに照らされ、二体の龍が睨み合う。
ディスフィロアもマキリ・ノワも、互いの存在を許せない。
ディスフィロアは、
マキリ・ノワは、既に終わっているこの
護るべきものを終わらせようとするマキリ・ノワを、終わっている世界を存続させようとするディスフィロアを―――互いが互いの存在を看過できない。看過できるはずがない。
故に殺す。殺さねばならない。
「グギャァアアッ!」
「グルォアアアッ!」
同時に吼え、再び激突しようとした、その時だった。
「―――ッ!」
それは、本能による行動だった。
たった一発であろうとも己の命を脅かすに足る魔術。それが遥か下方にある王城から放たれたと感じた途端、マキリ・ノワの体は命を次の時間へと繋ぐ為に動いていた。
直後、マキリ・ノワの真横を巨大な青黒い魔力の奔流が通過していった。標的を逃した奔流は、数秒の内に遥か彼方まで突き進んで弾ける。
奔流が弾けた場所はここから百数キロは優に超えているというのにも関わらずに、全身に叩きつけられる衝撃。その波動からも、先程回避したものは絶対当たってはならない一撃だと確信できる。
マキリ・ノワの視線が、突き破られた暗雲の隙間から見える王城を忌々し気に注がれる。
そこにいる、魔力の奔流を撃ち出した女王を、睨む。
声は聞こえない。聞こえるはずもない。だが、声など元より必要なかった。
―――殺す。
―――凶気の源を、ここで絶つ。
それは、互いの距離を無視して注がれる、強烈な殺意だった。
Now Loading...
「逃がしはしない。今日この時、この場に姿を現したのが貴様の運の尽きだ」
それまで一切玉座から立つ素振りを見せなかった女王が、カツンとヒールの踵を鳴らして立ち上がる。
それだけで玉座の間に集まっていた妖精達は震え上がり、縮こまる。
心の底から怯え、殺気の嵐から精神を護り続ける彼らには目もくれず、モルガンは黒と青のハルバードを振り上げる。
「―――ロンゴミニアド、次弾装填」
ハルバードが淡い燐光を放った瞬間、キャメロットに備え付けられた砲台もまた輝き出す。
ロンゴミニアド。
それは
世界を繋ぎ止める塔を疑似的ながらも魔術として再現した事からもモルガンの魔術の腕が神域にまで達している事が窺えるが、彼女はそれを複数所持している。
妖精達から奪った魔力、そして己の魔力を絶えず注ぎ続ける事で建造されていく砲台は、合計で
「貴様の……いや、
一度は邪魔な
空想樹の焼却など物のついでだ。自らが拵えた
今まさに砲台から魔術が放たれる―――その瞬間、キャメロット全体が突如として揺れ始めた。
突然の出来事であったためその場に膝をついてしまったモルガンが周囲を見渡す。
そして気付く。この謎の地震の震源地……それがこのキャメロットの前にある『大穴』だという事に。
「まさか……ッ!?」
「―――そのまさかだよ、女王陛下」
思わず吐き出された言葉に応える声が一つ。
聞き覚えのない声、その声色が纏う殺気と敵意。それ即ち―――侵入者。
詠唱は必要ない。ただ心で「迎撃せよ」と命ずるのみ。
激しさを増す赤い光が照らす外縁から人影が入り込んできた瞬間、その周囲に青黒い魔法陣が無数に展開され、魔力を圧縮した弾を発射した。
人影は手元に作り出した鎌を振るってそれらを正面から切り裂き、最後にその場で回転しながら斬り払う。直後、鎌の刃から暗黒の斬撃がモルガン目掛けて飛び出すが、彼女に当たる前に障壁によって阻まれた。
「逃しはしない」
防がれる事は予感していたのか、既に右に駆け出して回り込もうとする人影に対し、モルガンは右手のハルバードを空中に突き立てる。
動作としては、ただハルバードの先端を少し動かしただけ。だが、神域の魔術師たるモルガンの行動は、一つ一つが意味のあるもの。
モルガンの背後に回り込んだ人影が攻撃を仕掛けようとした直後、その前方の空間が石を投げ込まれた水面のように波紋を広げ、巨大な槍状の魔力が飛び出してきた。
「ぐぉッ!?」
咄嗟に鎌で防御態勢を取った瞬間、突き立てられる魔力の槍。それは人影が構えていた鎌を容易く打ち砕き、その奥にある体を突き飛ばした。さらにモルガンはそれで終わらせず、新たな魔術を発動して人影の足元に魔法陣を描き、そこから伸ばした鎖で手足を縛り上げた。
「貴様が何者かなど問いはしない。ここに来た時点で、貴様の死は確定している」
あと少しでマキリ・ノワにロンゴミニアドを放てたところを邪魔されたモルガンの手には、黒い直剣が握られている。
汎人類史に存在していた騎士王が振るっていた聖剣に酷似した直剣。それを振り向き様に振るえば、仄暗い闇の斬撃が拘束した人影へと繰り出された。
斬撃は寸分違わずに人影を切り裂き、その姿を二つに両断したかに思われた。
―――しかし。
「なにッ!?」
斬撃が両断する直前、人影はその身を無数の蟲へと分解させ、斬撃を回避してみせたのだ。
昆虫全般が苦手なモルガンは突如全身を蟲に変化させた事により無意識の内に動きを止めてしまい、相手に態勢を立て直させる時間を与えてしまった。
「ヘラクレスッ!」
気付いた時にはもう遅く、モルガンに接近した瞬間に蟲からヒト型に姿を戻した人影が、巨大な昆虫を取り付けた腕を突き出した。
黄金の甲殻を持つカブトムシの角がモルガンの鳩尾に叩き込まれようとするが、その瞬間に術者の危機に対して発動する迎撃魔術が作動。鳩尾を貫こうとした角は障壁によって阻まれ、本来彼女が受けるはずだったダメージを衝撃波に変換して人影へと跳ね返した。
獲ったと思った矢先の思わぬカウンター。身構える事もせずそれを受けてしまった人影が吹き飛ばされていき、モルガンはその隙を逃さずに追撃を加えようとして―――
(……? なんだ……)
キィイイイイイイン―――と、金属同士を擦り合わせたような耳障りな音に動きが止まる。
「やっとかよ。
人影のうんざりとした声が聞こえた直後、背後から地響きと共に巨大なものが
いったいなにが……と振り向いたモルガンの体が、視界に入ってきた
銀色の鱗に覆われた三叉に分かれた頭部の奥から覗く、花びらのように開いた三つのアギト。頭部そのものを含めた、六枚に分かたれた捕食器官から絶えず唾液を垂れ流すその存在に、モルガンは久しく忘れていた戦慄を覚えた。
「キィイイイイイイッッッ!!!」
どこから発声しているのか、耳障りな咆哮を上げたワーム型の龍が頭部とアギトを閉じ、赤き光を纏いながら突っ込んできた。
「―――ッ!」
戦慄に動きが止まっていた隙を突かれたため行動が遅れるモルガン。ほぼ無意識に動いた指が玉座を転移させる事には成功させるものの、彼女目掛けて玉座の間を破壊しながら、妖精達をミンチにしながら突き進む龍は止められない。
このまま衝突してしまえば、巨大な質量を前にこの身は砕け散る。
一秒も経たないうちに訪れるであろう死に身動きが取れないでいると―――
「陛下ぁああッッッ!!!」
真横から振り抜かれた拳が、龍の進行方向を無理矢理逸らした。
「なッ!?」
思いも寄らぬ横槍に、今度は人影が動きを止める番となった。
そして、動きを止めたが故に、自らの背後に立つ
「切り裂け、フェイルノートッ!!」
「ぐ……ッ!?」
扉を押しのけて現れた彼女―――バーヴァン・シーの奏でた妖弦から打ち出された斬撃が、人影の背中を何度も切りつけた。
背後からの攻撃に倒れた人影に、バーヴァン・シーは「はっ」と侮蔑の笑い声を零した。
「なんだ、テメェ? 影だけなのかよ。それとも、素顔さえ晒せねぇ臆病者か? ま、どっちにしてもダッセェ奴だなァッ!」
「バーヴァン・シー……なぜここに……」
ここから離脱させるようプロフェッサー・K達に伝えていたはずの彼女がなぜここにいるのか。まさか彼らは失敗したのか―――愛娘の参戦に疑問ばかり浮かぶモルガンに、バーヴァン・シーは心の底から謝罪するように頭を下げた。
「申し訳ございません、陛下。一度は彼らに助け出されましたが、このような事態であった為、御身を護る為参上しました」
「……不要です。私が貴女になにを望んでいるかわかりますか、バーヴァン・シー。すぐにこの場から離れなさい」
「陛下ッ! この龍は私にお任せをッ!」
「頼みます、ウッドワス。その力、メリュジーヌらと共に存分に振るいなさい」
バーヴァン・シーから外縁へと視線を移す。
そこには新たに『大穴』から飛び出してきた二体の銀色のワーム型の龍と交戦している、メリュジーヌとカリア、そしてバーゲストの姿があった。彼女らと共に撃滅せよという命にウッドワスに下せば、彼は力強く頷いて三体目―――一番最初に出現した龍へと殴り掛かった。
「もう一度言います。貴女の助力は不要です。今すぐここから―――危ないッ!」
「え、きゃあッ!?」
もう一度バーヴァン・シーにこの場から離れるようにと伝えようとした途端、彼女の影から無数の蟲が這い上がってくるのを視認したモルガンが魔術で作った槍を射出。頭上から降り注ぐバーヴァン・シーが咄嗟に身を屈めるも、槍は彼女を傷つける事無く、娘を害そうとした蟲のみを刺し貫いた。
だが、蟲は絶えず襲い来る。
背後から、空から、床から。ありとあらゆる方向から蟲達は襲い来る。
背筋に走る嫌悪感を理性で捻じ伏せながら蟲達を殺し続けるが、その途中、視界の端にゆっくりとだが起き上がる影が見えた。
「お母様ッ!」
影を攻撃しようとした直後、モルガンより先に動いたのはバーヴァン・シーだった。
血のように赤い糸を操って影を拘束しようとするも、影はモルガンの拘束から逃れた時と同じように全身を蟲に変えて回避。そのままバーヴァン・シーに接近するが、今度はモルガンがそれを許さない。
ハルバードを振るって放たれた火炎がバーヴァン・シーを護るように動き、さながら蛇の如く蟲達を焼き尽くしていく。
やがて炎に耐えきれなくなったのか、無数の羽音を立てて集まった蟲達が元の影の形を取る。そこへバーヴァン・シーが妖弦を奏で、周囲から不可視の斬撃を向かわせる。
ヒト型に戻った直後を狙った攻撃。たとえ正面からの攻撃を防いだとしても、ほぼ同時に、しかし中にはワンテンポ遅れさせた他の斬撃が、的確に影を切り刻むだろう。
獲った―――バーヴァン・シーが確信した、その瞬間。
「出番だ。出てこい」
「あいよッ!」
「―――ッ!?」
どこか聞き覚えのある
その人影は背後に立つ影と共に迎撃を開始。影が鎌で斬撃を切り払い、人影は掌から魔力の塊を発射して斬撃を消し飛ばした。
新たな乱入者に警戒するモルガンとバーヴァン・シー。
注意深く観察してくる彼女達に対し、影は新たに出現した人影に気怠げに言う。
「死にそうなところを助けてやったんだ。それなりの働きはしてもらうよ」
「あぁ、恩は返すぜ? 奈落の蟲さんよ。はぁあああああ……ッ!!」
影の前に踏み出した人形が交差させた腕を勢い良く広げると、彼の全身を赤と黒のオーラが覆いつくし、その身を異形のものへと変貌させた。
辛うじて人型だとわかっていた全身がゴワゴワとした黒い体毛に覆われ、腰からは獣のような尻尾が伸びる。大きく開かれた五指はビキビキと音を立てながらヒトと獣のものを合わせたようなものに。頭部からは
「フー……フー……ッ!!」
変身する前よりも頭二つ分程巨大化した瞬間、その身を覆っていた二色のオーラが弾け飛び、モルガン達にも彼の外見が視認できるようになる。
視界に入ってきたその外見に、モルガンとバーヴァン・シーは揃って目を見開いた。
「貴様、その姿は……ッ!」
「ボ、ボガード……? いや、違う……テメェ、誰だッ!!」
狼と獅子を掛け合わせたような異形に、かつてシェフィールドの領主であった男の面影を見たバーヴァン・シーが叫ぶも、異形はクツクツと嗤うだけだ。
その反応から、奴にまともに答える気はないと判断したモルガンが即座に魔術を行使。影と異形の足元から湧き上がった黒い水流が竜巻状に蠢き、彼らを閉じ込める。
モルガンが出現させた水流は、流体でありながら鋼をも容易く打ち砕く硬さを持つ。絶えず渦を巻くそれに捕らわれてしまえば、標的はその身を激流によって削り取られていく―――そのはずだったのだが。
「―――ッ!」
ズバッ!! と、激流の渦を手刀で両断して飛び出してきた異形に、魔力で形成した槍を射出。
かつての彼女が振るっていたものと酷似した槍を、しかし片手で無造作に弾いた異形は飛び蹴りを繰り出すも、モルガンは彼が跳躍の構えを取った瞬間に空中へ転移。標的を逃した異形にハルバードを差し向けると、そこから青黒い魔力の奔流が放たれた。
異形は頭上から迫る奔流に気付くも、特段慌てる様子は見せずに両手に充填させた魔力を放つ。
モルガンが放ったものと同様の魔力の渦が、突き出された彼の両手から撃ち出され、相殺し合う。
爆発した先からモルガンが次の行動へ出ようとするも、その背後に影が現れる。
僅かにトンボの翅のように見えるそれを広げて飛翔した影が右手にマキリ・ノワの放出するものと同質のオーラを纏わせて切り裂こうとするが、その前に飛んできた斬撃が彼の腕を弾いた。
「お母様に手を出すなッ!」
矢継ぎ早に奏でられるフェイルノート。その度に繰り出される不可視の斬撃が影と異形に襲い掛かる。
二人が斬撃に対処している間に距離を取ったモルガンが、ハルバードを消して自由になった両手に半透明の臓器を出現させる。
彼女の手元に浮かぶそれに気付いた影がモルガンに攻撃しようとするが、どのような攻撃でも彼女の行動を阻止するには遅すぎる。
潰れろという意志を込めて半透明の臓器を握り潰す。直後、影と異形のそれに該当する臓器もまた破壊され、あまりの激痛に彼らの動きが止まった。
(チャンスだ―――ッ!)
二人が大きく怯んだ隙を突き、バーヴァン・シーが左手を彼らに翳す。
すると、彼らの情報をそのままコピーした小さな人形が彼女の前に出現。同時に、彼女の手元にあったフェイルノートが砕け、ハート形の装飾が施されたハンマーと杭として再構成される。
それは、妖精騎士トリスタンとして活動する前より彼女が保有していた能力。それをモルガンとベリルによって与えられた魔術の知識により、宝具レベルにまで昇華させたもの。
その名は―――
「『
「やれェエエエッ!!!」
勝利を確信したバーヴァン・シーの笑みが、影の絶叫によって消える。
自分どころか、その周囲まで覆いつくす巨大な影と威圧感。その正体は、探るまでもなかった。
「キィイイイイイイイイイイッッッ!!!」
ウッドワス達が相手にしていたワーム型の龍。その内の一体が、バーヴァン・シー目掛けてその巨体を迫らせていた。
急接近するそれに、バーヴァン・シーは呆然としてしまい動きを止めてしまう。影と異形が巻き込まれないように離れている事にも、目の前にあった人形が魔術が発動されなかった事で消えてしまった事にも気付かないまま、バーヴァン・シーは絶大な質量を前に砕け散る―――
「バーヴァン・シーッ!!」
悲鳴にも等しい絶叫と共にバーヴァン・シーの前に転移したモルガンが、自分達を球体状に構成した魔力の障壁で包み込む。
直後、想像を絶する衝撃が二人を襲った。
まるで触手であるかのようにしなる肉体。鱗と皮膚に覆われたその奥に存在する筋肉を隆起させて繰り出された一撃は、咄嗟にモルガンが展開した障壁を瞬く間に破壊し、彼女とバーヴァン・シーに直撃した。
王城ごと大地に叩きつけられた肉体から発生した、嵐と勘違いする程の突風。そして大地震。その果てにゆっくりと銀色の巨体が大地から離れると、倒れ伏したモルガンとバーヴァン・シーの姿が現れた。
「ァ―――が……」
五体満足でいるのが不思議な程のダメージ。並の者であれば血痕すら残らないはずの衝撃を受けても尚生きていたバーヴァン・シーは、しかしまともに戦える状態ではなかった。
四肢は捻じれ、今にも千切れそうな箇所もある。頭部は大量に出血しており、僅かに開かれた瞳には生気など感じ取られない。
「バーヴァン……シー……」
一方、モルガンは娘よりも酷い状態であった。
視界は衝撃によって目を潰されてしまったのか完全に閉ざされてしまっており、鼓膜も破けてしまって一切の音も聞き取れない。右腕も肘から先にかけては千切れ飛んでしまったのか存在せず、そこからドクドクと赤黒い血が流れ出している。
それでも辛うじて周囲の気配を感じ取る事は出来ており、彼女はなんとか無事な左腕で体を引きずりながらバーヴァン・シーの下へ行こうとして―――
「あばよ、
ずぶり、と。
真横に降りてきた異形の揃えられた五指は柔らかい肌など触れるだけで裂き、背骨や肉も容易く砕きながら体内を突き進み、寸分違わずにモルガンの心臓を貫いた。
「バーヴァン・シー……バー……シ……ィ……」
伸ばされた左手は愛する娘を掴む事無く地面へ落ち、それに「ハッ」と嗤った異形がモルガンの胸から右手を引き抜いた。
「厄介な事この上ねぇぜ、ホント。ま、こうして死んだ以上、もう文句なんてねぇけどな」
「お……かあ……さ、ま……」
「おっと。まだ生きてやがったか。丁度いい。お前もここでオサラバだ」
ザッザッ、と異形が近づくが、バーヴァン・シーには最早打つ手などない。
足でバーヴァン・シーを仰向けにさせ、拳を握り締める。
「じゃあな、レディ・スピネル」
突き出される拳―――そして、鮮血が迸った。
・『赤衣の男』
……登場はしなかったものの、マキリ・ノワどころか■■■■■■まで動き出すという事態を前に全力で活動。霊基グラフの状態でありながらも一時的に通信機能を回復させ、立香達に忠告を送った。
もしここで彼の忠告がなかった場合、立香達は成す術なく■■■■■■によって圧死していた。
・『影』
……マキリ・ノワの襲撃に伴い行動を開始。モルガンとの一騎打ちでは負けていたが、■■■■■■と異形の参戦、そしてバーヴァン・シーの参戦という事もあり形勢逆転。モルガンに致命傷を与える事に成功した。
・『モルガン』
……影との一騎打ちでは優勢に立っていたものの、■■■■■■と異形の参戦、そしてまさかのバーヴァン・シーの登場により不利になってしまう。■■■■■■からの攻撃からバーヴァン・シーを護ったが、その影響で瀕死の重傷を負ってしまった。
分身能力の使用については強すぎるため没。
・『バーヴァン・シー』
……マキリ・ノワの襲来という非常事態に母親の事が気掛かりになり、玉座の間に来てしまう。そのまま戦闘に入ったが、トドメを刺そうとした隙を突かれ重傷を負ってしまった。
・『異形』
……とある戦いの結果死にかけていた際、影によって救われた存在。己の目的を果たす為、凶気と凶光の力を纏って戦う。モルガンの心臓を貫いた後、バーヴァン・シーにもトドメを刺そうとするが……。
前述しましたが、モルガンの分身能力は強すぎるため止む無く没にしました。原作でもそうでしたが、異聞帯の王が分身出来る(しかも劣化版じゃない)のって無法すぎるんですよね……。
ウッドワス達がなぜ彼女やバーヴァン・シーを護れなかったかというと、それぞれが相手取っていた部位が強力で助けに入る余地がなかったからです。
それではまた次回ッ!