【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 ドーモ=ミナサン。
 以前のイベントで召喚する事ができなかった果心居士を遂にPUで召喚する事が出来たseven774です。
 果心居士は初登場した時からそのデザインに心を射抜かれまして。ボイスもあの機械チックな感じが本当に好きで好きで堪らなく……遂に召喚できて本当に嬉しかったですッ!

 そして先日の生放送にてfgoフェスの情報が出ましたねッ! これまではバイトの都合上参加できなかったのですが、就職するに当たって土日休みが解禁されたので、抽選に当たれば参加したいと思いますッ!

 それでは本編、どうぞですッ!


絶たれる証

 

「―――は……?」

 

 

 その場の誰もが驚愕した。バーヴァン・シーの息の根を止めるはずだった拳は彼女に届かず、異形の右腕ごと宙を舞ったのだから。

 

 

「あ、あぁ……ッ!? あぁああああああぁぁあッッッ!!!?」

「娘に……バーヴァン・シーに、手を出すな……ッ!!」

 

 

 異形の腕を斬り飛ばした槍を地面から引き抜いたのは、先程異形に心臓を貫かれたはずのモルガン。先程までとは違い、骨折している気配など感じさせない己の両足で大地に立つその姿に、異形は己の右腕を抑えながら叫ぶ。

 

 

「なんで……なんで生きてんだテメェッ!? きっかり心臓ぶち壊したはずだろうがァアッ!?」

「黙れ……邪魔だッ!」

 

 

 激痛に歪む表情を憤怒と畏怖で彩り襲い掛かってくる異形を、彼とは逆に千切れ飛んだはずの右腕を翳して放った光線で迎え撃つ。

 己の身の丈をも超える大きさの光線は、我を忘れてしまって回避できずにいる異形を飲み込み、そのまま遠くまで押し飛ばした。

 

 

「お母、様……? どうして……」

 

 

 右腕を下ろして溜め込んでいた息を吐き出したモルガンの耳に、小さな声が届く。

 

 

「バーヴァン・シー……ッ!」

 

 

 すぐさまその声の主に駆け寄ると、モルガンの意思に呼応するように発射段階に移っていたロンゴミニアドの砲台の一基が砕け散る。すると、砲台を構成していた魔力は優しい光の粒となり、バーヴァン・シーへと注ぎ込まれていく。彼女の体内に降り注いだロンゴミニアドの光は彼女の身を破壊せず、逆に致命傷を受けていた肉体を瞬く間に回復させた。

 先程までの痛みもなくなった事で自由に動かせるようになった体に驚いて立ち上がり、自分の掌を呆然と見つめるバーヴァン・シーに、モルガンはふっと小さく微笑んだ。

 

 

「……マジかよ、なんで生きてやがんだ? 確かにあれは心臓を貫いたはず……」

「この私が、自らの死に対してなんの対策もしていないとでも?」

 

 

 如何に妖精であろうとも、その生命の源である心臓を砕かれてしまえばただでは済まない。間違いなく致命傷のはずだ。だというのに起き上がったモルガンに、上空にいた影は戦慄を覚えて後退る。

 だが次の瞬間には、影は既に固まっている血液に塗れたモルガンの胸部の奥で微かに煌めく青い燐光から、その光がなにを意味しているのかに気付き舌打ちした。

 

 

「疑似心臓か……あぁクソ、本当に厄介だな。でも……さっきの攻撃が、ただの攻撃じゃないってのはわかってるよな?」

「ぐ、うぅ……ッ!!?」

「お母様ッ!」

 

 

 疑似心臓でなんとか死を免れたが、次の瞬間に襲い掛かってきた激痛にモルガンは再び倒れかけてしまう。

 咄嗟にバーヴァン・シーが体を支えたため倒れずに済んだが、彼女から見てもモルガンの顔色は死人のように青白くなってしまっていた。そして、彼女の体からは漆黒と赤のオーラが瘴気のように立ち昇っており、よく見ずともそれが彼女に悪影響を及ぼしているのが理解できた。

 

 

「凶気と凶光の力か……忌々し―――がふっ……!」

 

 

 モルガンが咳き込めば、彼女の口から大量の血が吐き出された。

 びちゃびちゃと床に落ちるそれにバーヴァン・シーは目を見開き、続いて憤怒と憎悪の炎を滾らせ影を睨みつけた。

 

 

「さっきのロンゴミニアドを分解しての回復、どうやらそう何度も行使できるわけじゃないみたいだな。これは好都合だ」

「テメェ……ッ!!」

「だ、駄目です……バーヴァン・シー……。貴女では、奴には勝てない……」

 

 

 フェイルノートを片手に携えたバーヴァン・シーを、しかしモルガンが制止する。

 自分では奴には勝てない―――悔しいが、バーヴァン・シー自身それを理解していた。

 一対一で戦ったわけではないが、あの影から感じる威圧感は他の妖精騎士よりも強い。バーゲストは上手くやれば勝てる自信があるが、超高速で移動するため攻撃が当たらないメリュジーヌには不利を取ってしまう自分にとって、彼女らをも超えるであろう実力を持つあの影は、全快した肉体でも勝てる確率は限りなく低いだろう。

 

 それに今のこの場には、上空でこちらを見下す影以外にも、先程モルガンによって吹き飛ばされた異形がいる。奴もそう遠くない内に戻ってくるだろう。そうなっては二対一となってしまい、元々他の妖精騎士に劣る自分では勝てるビジョンが見えなかった。

 

 激情に呑まれかけフェイルノートを握ったものの、母親を護りながらでは絶対に勝てない。かといって、彼女を捨てるなど論外だ。それをするぐらいなら死んだ方がマシだ。

 

 母親が万全、それかウッドワスか妖精騎士達の誰かがいてくれれば心強いが……前者は一度致命傷を受けてしまった影響で当分戦闘は難しいだろうし、後者はあの巨蟲の注意を引くのに精一杯でこちら側の戦いに関与できない。

 

 であれば……答えは一つ。

 

 

「来い……」

 

 

 フェイルノートを消し、右手を固く握り締める。

 自分がしようとしている事に気付いたのか、影がどこかから呼び出したダンゴムシのような巨蟲をこちらに蹴り飛ばしてくる。

 遠くから瓦礫が吹き飛ぶ音が聞こえ、次いで大地を蹴り砕かれる音も聞こえてくる。異形が迫ってきているのだ。

 

 だが、遅い。お前らがこっちに来る間に、それ(・ ・)は終わる。

 

 自分一人の力ではどうにもできない状況。

 それでも、この状況を打開する手段ならば、ある―――ッ!

 

 

「カリア―――ッ!!」

 

 

 右手の甲に刻まれた令呪の一画が消え、赤い魔力の波動が拡散する。

 

 直後、拡散した赤い魔力は一騎の英霊の姿を形作り―――黒紫色の軌跡が巨蟲を両断し、返す刃で異形を切り裂いた。

 

 

「ハハハハッ! ボクを喚んだかい、マスター?」

「手ェ貸せ、カリア。お母様を護るぞッ!」

「仰せのままに、妖精の姫君よッ!」

 

 

 己の相棒(マスター/サーヴァント)と並び立ち、それぞれの得物を構えた一人と一騎に、影と異形が襲い掛かった。

 

 

 

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「陛下とバーヴァン・シーのところにカリアが行った……となると」

「こいつらを(わたくし)達で抑えるしかない、というわけですわね……」

 

 

 バーヴァン・シーの令呪によりカリアが彼女の下へ転移し戦い始めた頃、彼女達から離れた場所に降り立ったメリュジーヌとバーゲスト。

 見上げる彼女達の先には、二騎を見下ろす二頭の蟲龍。眼球と思しきものは確認できないものの、それが自分達を見ている事はなんとなくだが理解できた。

 

 

「単純に考えれば一人一頭を相手するばいいだけなんだけど、君一人であれを抑え切れる?」

「本気を出せば抑えられるでしょうが、あれは周囲への被害が尋常ではありませんわ。それに、貴方方の魔力まで奪ってしまいますし……」

「まぁ、そうだよね」

 

 

 自分の質問に返された返答に、メリュジーヌは「やっぱり」といった様子で肩を竦めた。

 

 バーゲストの本気。それは彼女の異名である“大喰らいのバーゲスト”の名の通り、周囲の魔力を絶えず喰らい続ける事で己の力を増し続けるもの。本来ならそれに伴って耐え難い飢餓に襲われるはずだが、いつの日からかそのような感覚はあまり感じられなくなった。

 バーゲストはその理由を知らないが、メリュジーヌは薄々勘付いている。しかし、それを口にはしない。それは自分の口から言うものではないからだ。

 

 本当ならば彼女に本気を出してもらいたいところだが、出した瞬間こちらの魔力も奪われてしまっては元も子もない。

 

 自分も負けるつもりなどさらさらないが、他に頼れる戦力は―――

 

 

「うぉおおおおおおおおおッッッ!!!」

 

 

 振り抜かれた拳が赤色の光壁を殴りつける。拳で殴ったとは思えない甲高い音と共に蟲龍が僅かにのけぞり、その隙に差し向けられた左掌からの光線がさらに態勢を崩させる。

 自身に狙いを変えた他の蟲龍の突進を躱し、手足を狂竜のオーラを膜にして覆った彼が四足歩行で光の壁の上を走り、跳躍。重力に引かれるまま急降下しながら繰り出されたキックが態勢を立て直そうとしていた蟲龍に叩きつけられ、今度こそその巨体を大地に押し付けた。

 

 

「……あれ、本当に老兵なの? 動きに全然老いを感じさせないんだけど」

「凄まじいですわね……。流石はウッドワス公。先代から陛下に仕えていた所以でしょうか」

「貴様らァッ! なにを呆けているッ! さっさと手伝えッ!!」

 

 

 三頭目の蟲龍の攻撃から紙一重逃れたウッドワスが叫ぶ。

 その額から玉のような汗が飛び散った様子に、メリュジーヌとバーゲストははっと考えを改める。

 

 先程は老兵とは思えぬ勢いで戦っていた彼の姿を疑問視していたが、やはりその代償は存在したのだ。

 元々、極限状態とは一度狂竜ウィルスに罹った上でそれを克服し到達する姿。が、克服したからといって病に罹ったという事実は変わらず、それは絶えず罹患者の身を蝕み続ける。

 己の命を懸けてでもこの國を、モルガンを護ると誓ったウッドワスだからこそ手に入れる事が出来た究極の力。故に代償として、その身はいつ死んでもおかしくない状態であり続ける。

 

 そんな彼がフルパワーで戦っているのなら、彼の後輩である自分達も負けてはいられない。

 

 彼女達が一歩踏み出そうとした、その時。

 

 

「―――だったらこの戦い、私達も参加させてもらえないかな?」

 

 

 思わず振り向いた彼女達の視線の先。

 そこには葉っぱ一枚で股間を、仮面で目元を隠した男を中心に、白の全身タイツを纏った二人の男性と、二騎の英霊が立っていた。

 

 

「……生憎、変態の手を借りる気はないんだけど」

「すまない……本当にすまない……」

「仕方ないでしょ。城が揺れたり壊されたせいで遂にKのタイツが限界を迎えたんだから。急拵えの葉っぱが見つかっただけマシよ。ね〜?」

『まぁその通りなんだけど。なんだけどぉ……ッ!』

「しかしこの葉っぱは凄いな。いくら動いても外れやしない。ほらこんな動きをしても―――」

「くねくね動くな馬鹿ッ!」

 

 

 ゴンッ。

 拳で殴りつけられた頭を抑えながら、Kは前に進み出る。

 

 

「君達はアイドルイベントで活躍してくれたからね。これはその恩返しさ。カイニス、ぺぺ、頼めるかい?」

「チッ、わぁったよ」

「わかったわ」

「良いのですか? 貴方方はバーヴァン・シーを……」

「その救出対象がああなってしまったんだ。なら、我々も付き合うだけさ。なに、いざとなればすぐに逃げるさ。そうだろう、アンナ?」

『うん。今全力でそこを覆っている結界の繋ぎ目を探してる。そこを見つけたらメリュジーヌ……いや、アルビオンに切り拓いてもらう。その後すぐボレアスを送るから、一緒に戻ってきて』

「と、いうわけだ」

「ん、わかった。なら、有り難く助けてもらうよ」

「では、私達は陛下達の方へ行くとしよう。あっちもあっちで苦戦しているようだからね。カイニス、ぺぺ、後は頼んだよ」

 

 

 間一髪で首を刎ねようとしてきた鎌を回避したバーヴァン・シーと、なぜか途中で動きが鈍り鳩尾に拳を受けてしまったカリアの救援に向かうべくK達が走り出し、残されたカイニスとペペロンチーノが構えを取る。

 

 

「それじゃあ、行こうか」

「ですわねッ!」

 

 

 スラスターを噴射し、ウッドワスに殴られた蟲龍に接近。光の軌跡を残して頭上を取ると、Uターンして急降下し始める。

 

 

「ハイアングルトランスファーッ!!」

 

 

 掛け声と共に繰り出された、彼女の(つるぎ)が納められている持ち手による打撃。

 外見だけ見れば子どもと見紛う程小さな体であろうとも、その本質は竜種。さらに妖精國中で最強の座に最も近い存在である彼女の一撃は障壁越しでも蟲龍にダメージを与え、怯ませる。

 

 

「こちらも負けてられませんわねッ!」

 

 

 大地を割り砕いて跳躍したバーゲストが大剣を振りかざせば、彼女から立ち昇るオーラが巨大な魔犬の頭部を構成し、振り下ろすと同時に蟲龍へと牙を剥く。

 これまで並み居る敵対者を嚙み砕いてきた魔犬の牙は、しかし蟲龍が纏う赤い光によって火花を散らしながら阻まれる。

 だが、

 

 

「オレも忘れんじゃねぇッ!」

 

 

 そこへ飛び込む影が一つ。

 筋肉量の違いによりバーゲストよりも高く跳躍していたカイニスが、槍の穂先を差し向ける。

 

 瞬間、穂先から紫色の雷を纏った激流が放出され、バーゲストが大剣を振り終えた事で霧散していく魔犬によってほんの僅かに亀裂の入っていた障壁に直撃。海神の加護と祝福により霊格が神霊級となっている彼女の一撃は亀裂が走っていた障壁を砕き、その奥にある肉体にまで届いた。

 

 だが、途中まで障壁に阻まれていた事もあり威力を大幅に軽減させられていたためか、蟲龍は痛みを感じる様子もなくその身をくねらせ、カイニスとバーゲストを薙ぎ払おうとする。

 

 凄まじい勢いで接近する超巨大な質量を前に思わず身構えた直後、彼女達の体が赤薔薇と化して霧散。蟲龍の反撃から逃れた。

 

 

「残念、当たらないわよ?」

 

 

 カイニスとバーゲストを助けたペペロンチーノが次の魔術を発動させると、二騎の体が軽くなる。

 

 

「ツイスト・オブ・ラブ。さ、行ってらっしゃい♡」

「助かりますわ。……? この音は……」

 

 

 ペペロンチーノが修めた神通力の一つを魔術に転用したものを受けたバーゲストが感謝の言葉を告げてから走り出そうとするが、どこからか聞こえてくる不審な音に眉を顰めた。

 その音の根源は、遥か上空の暗雲から。蟲龍の攻撃を掻い潜りながらメリュジーヌ達も上空を見上げ、そして次の瞬間、息を呑んだ。

 

 

「あれは―――ッ!?」

 

 

 それは、暗黒のオーラを纏ったマキリ・ノワの突進を受けて墜落してくる、ディスフィロアの姿だった―――。

 

 

 

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「うっ―――く……ッ!」

「おい、どうしたカリアッ!?」

 

 

 突然頭を抱えて呻き出したサーヴァントに叫ぶも、彼女は己の名を叫ぶマスターに答えられないまま、追撃を仕掛けてきた影を迎撃する。

 

 

「なに、多少……頭痛がするだけさ」

「それなら少し下がった方がいい。その間、私達が貴女方を護ろう」

「すまない、頼みよ」

 

 

 飛び退いたカリアと入れ替わるように前へ出たのは、Kとアナスタシア。

 アナスタシアが異形へ向けて氷の槍を射出。異形はそれを容易く回避するが、その直後にカサカサとゴキブリのような動きでKが接近。異形の腹部へと横蹴りを叩き込んだ。

 しかし―――

 

 

「効くかよ馬鹿がッ!」

「わかっているさ」

「ッ!?」

 

 

 横蹴りの直後で伸びている足を掴んだ異形がそのままKを大地へと叩きつけようとするが、彼に攻撃が通じない事など元より把握していたKが掌を向けると、そこから眩い青白い魔力の光が放たれる。

 直接的な威力はなくとも、瞬間的に目の前に現れた光に思わず異形が怯む。それに伴って僅かに足を掴む力が緩んだ隙にKが離脱すれば、アナスタシアの背後に出現した巨大な影が掌で異形をはたき飛ばした。

 

 それとは少し離れた場所では、自分を斬ろうとした影の一撃を間一髪で回避したカドックの身体強化の魔術をかけられたバーヴァン・シーが接近し、至近距離からフェイルノートの斬撃を飛ばす。至近距離で奏でられたが故に逃げ場がない影は全ての攻撃の直撃を受けてしまい、堪らず全身から血を噴き出して吹き飛ばされた。

 

 

「カリア、大丈夫ですか?」

「陛下……なんとか、といったところかな?」

 

 

 彼らが戦っている間にカリアの下へ歩み寄ったモルガンに、カリアは少し蒼褪めた表情で頷く。

 

 

「私が深手を負ったのが原因ですね。申し訳ございません」

 

 

 モルガンはカリアの異変の原因を知っている。他ならぬ、自分が彼女をこのような状態にさせてしまったが故に。

 万全の状態であれば大幅な軽減は出来ただろうが、今の自分は一度致命傷を受け、現在は疑似心臓で死を免れているだけ。そして、その影響でカリアに施している抑制の魔術の効力が弱まり、抑圧されていた変貌が今も尚彼女の心身を蝕んでいっている。

 

 自らの不甲斐なさに目を伏せるモルガンだったが、しかしカリアは「心配いらないさ」と(かぶり)を振った。

 

 

「こうするように頼んだのはボクさ。貴女が気負う必要はない」

「……ありが―――」

 

 

 とう、と言おうとしたモルガンの唇に、籠手越しの人差し指が添えられた。

 

 

「それは後に取っておきたまえ。言葉だけでなく……ね?」

「まったく……貴女という方は、相変わらずですね」

「これがボクなんだ。さて、ボクもそろそろ戻ると―――ッ!?」

 

 

 下ろしていた腰を上げ、戦線に復帰ようとした瞬間、上空からなにかが落ちてきている気配に顔を上げる。

 カリアと同様にモルガンもまた気配を感じ、暗雲を突き破って落ちてくる、盟友の姿を見た。

 

 咄嗟に顔を庇った瞬間、彼女達より離れた場所に大きな地響きを立てながらディスフィロアが落下してきた。

 

 

「……っ、ディスフィロアッ!」

「グ……ウゥ……ッ!!」

「グギャァアアアアアアアアッッ!!!」

 

 

 傷ついた体を起こそうとするディスフィロアに、上空から咆哮と共に降り注いできた暗黒のブレスが襲い掛かる。

 咄嗟に火炎と氷が混ざり合ったブレスで反撃するものの、それを掻い潜って落ちてきたブレスが着弾。ディスフィロアの巨体が再び大地に叩きつけられ、僅かに開かれたアギトから苦しみに藻掻く呻き声が発せられた。

 

 

「カリア、貴女はバーヴァン・シー達の援護に。私はディスフィロアをッ!」

 

 

 頷いたカリアがバーヴァン・シー達の下へ向かっていくと同時、友の窮地にモルガンが魔術を行使する。ディスフィロアを追って降下してきたマキリ・ノワ目掛けて幾重もの魔術式を重ねた光線を発射し、咄嗟にバリアを展開したマキリ・ノワを押し飛ばした。

 

 

(カルデアのマスター達との戦闘のダメージが残っているか……)

 

 

 自分の体を振るって瓦礫を落とすディスフィロアだが、至る所に大小様々な傷跡が見受けられる。血が流れている場所も多々あり、マキリ・ノワ戦もそうだが、その前に行っていたカルデアとの戦闘で受けたダメージも響いているのがよくわかった。

 

 だが、それで退く程ディスフィロアは柔ではない。全身に走っているであろう痛みに呻きながらも、ディスフィロアは翼を大きく広げて威嚇し、再び空へと飛び上がってマキリ・ノワへと向かっていった。

 

 

「アンナ。これ以上持ち堪えるのは……」

『わかってる。なんとか互角に持ち込んでいるけど、もしあれが羽化(・ ・)したら、こっちが負ける。でも、もう大丈夫ッ!』

「大丈夫……という事はッ!」

『うん、見つけたよ。―――アルビオンッ!』

 

 

 

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 地上から聞こえてきた己の名を呼ぶ声に応え、メリュジーヌが両手の持ち手から一対の剣―――妖精剣アロンダイトを精製し加速。

 蒼の流星と化した彼女は、小鳥が翼を向けた位置目掛けて叫ぶ。

 

 

「我が爪は、その境界を拓く―――『今は知らず、無垢なる湖光(イノセンス・アロンダイト)』ッッ!!」

 

 

 彼女に与えられた霊基(ギフト)から作り上げられた技は、寸分違わず小鳥の指示した場所へと直撃。

 なにもないはずの空間に彼女の剣が触れた瞬間、半径2kmにも及ぶ赤色に光る亀裂が走り、砕けた。

 

 そして、砕け散った不可視の結界と入れ替わるように、彼女の真横の空間が捻じれ、ブラックホールのような穴となる。次いでそこから現れたのは、闇を連想させる黒い鎧に身を包み、頭部から一対の龍の角を伸ばしたサーヴァント。

 

 

「―――よくやった、アルビオン」

「ボレアス、様……」

「お前は先に姉上の下へ行け。仲間達も後で連れていく」

「頼みます」

 

 

 自分の目の前に出現した空間の歪みに、メリュジーヌは一足先に飛び込み離脱する。

 彼女が消え、代わりに残ったそのサーヴァントに、影は忌々し気に舌打ちした。

 

 

「チィッ、“黒龍”かよッ!?」

「その気配……なるほど、お前か。だが、今の私にお前と戦う理由はない。大人しくしてもらおうか」

「そういうわけにはいかないさ―――親父(・ ・)ッ!」

 

 

 影がボレアスに手を差し向ければ、三体の蟲龍が一斉に彼へと殺到。

 三方向からそれぞれ襲い来る蟲龍達を、ボレアスは両手に出現させた双剣で迎え撃ち始める。

 

 

『今ッ! ボレアスが抑えている内に早くッ!』

「ディスフィロアッ!」

「―――ッ!」

 

 

 強力な戦力、そして絆を育んだ盟友の名を叫ぶと、マキリ・ノワの首元に喰らいついていたディスフィロアはそのままマキリ・ノワを放り投げた後にブレスで追撃。バリアの展開よりも早く飛んだブレスはマキリ・ノワに直撃し、爆炎を生み出して視界を奪う。

 その隙に飛翔したディスフィロアはボレアスが創り出したブラックホールへと飛び込んでいった。

 

 

『次ッ!』

「むっ、マスターッ!」

 

 

 背後に出現したブラックホールにモルガンとバーヴァン・シーが飛び込もうとするが、直後、ディスフィロアという障害が消えた事で彼女達に攻撃する余地が出来てしまったマキリ・ノワがブレスを放ってきた。

 モルガンが障壁を張ろうとするが、それより先に動いたのはカリア。

 

 彼女はモルガンとバーヴァン・シーを狙うブレスを、龍属性のエネルギーを纏わせた操虫棍で真正面から迎え撃つ。ブレスを相殺させる事には成功したが、破裂したブレスは彼女を吹き飛ばし、その体を何度も地面にバウンドさせた。

 

 

「カリアッ!」

「大丈夫さ、マスター……。さぁ、陛下と共に行きたまえ。殿(しんがり)は、このボクが務めよう」

「……わかりました。後は頼みます、我らの狩人よ」

「逃がすかよッ!」

 

 

 せめて満足に動けないモルガンだけでもと、影が黒い魔力弾を、異形が光線を撃ち出すが、カリアはそれらを一閃の下に両断した。

 

 その間にモルガン達はKや小鳥達と共にブラックホールの中へと飛び込み、その場から姿を消した。

 

 逃したくない標的を逃してしまった影が歯軋りする様子に「ハハハッ」と笑い、カリアは挑発するように手招きした。

 

 

「標的を逃した、なんて残念がらないでくれよ。ボクなんていうイイ女が目の前にいるんだ。こっちの相手をしてくれたまえ」

「抜かせ『モンスターハンター』。お前はもう終わりだ。わからないのかな、今の自分がどんな状態なのか」

「知ってるさ。けれど、だからって武器を下ろす程、ボクはお利口さんじゃないんだ」

「勝てると思ってるのか? オレ達に? お前一人で?」

「さぁ? そんなの、やってみなきゃわからないさ」

 

 

 ズキン、と霊核に激痛が走る。

 ぐじゅり、と肉体が変質する。

 肉が裂け、骨が肥大化する。

 視界が歪み、色が失われる。

 

 ヒトの身には許されぬ変貌が、今も己の身を苛む。

 それでも、止まるはずがない。止まれるはずもない。

 

 血で血を洗う殺し合いこそ己が本分。ならば戦い、殺す。この意識が潰える、その時まで。

 

 

「付き合ってもらおうか、女王の統治を穢す罪人達よ。ボクが堕ちるまで(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)

 

 

 目を塞がれても、気配でわかる。動きも吐息も、空気の変化も、なにもかも。

 

 翼脚(・ ・)で床を削り、飛び掛かる。操虫棍で斬りかかる。

 

 戦う。戦う。戦う。

 殺す。殺す。殺す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこに在るのは、既にヒトとしての在り方を失った、ひとつの厄災(かいぶつ)であった―――。

 

 

 

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「ここは……」

 

 

 ブラックホールに飛び込んだバーヴァン・シーが閉じていた瞼を持ち上げると、見慣れない部屋が視界に入ってきた。

 

 

「グロスター……というよりはアルム・カンパニー本社の地下だよ」

 

 

 先んじて離脱していたメリュジーヌに「大丈夫かい?」と手を差し伸ばされ、その手を掴んで立ち上がったバーヴァン・シーは周囲を見渡す。

 目測だが、高さは35m、横幅は100mといったところだろうか。外側から見れば長方形の箱型で、壁際に扉が幾つか見受けられる事から、それぞれに別の場所に続く階段が備え付けられているのだろう。よくこんなものを地下に用意できたな……と関心交じりに思っていると、離れた場所で四肢を曲げて休むディスフィロアが見えた。

 アルム・カンパニーの社員達の中でも取り分け魔術を好む物好きな妖精達がディスフィロアの治療に当たっており、ディスフィロアも大人しく彼らの治療を受けている。普段ならどのような妖精にも心を開かず、自分達のようなモルガンが心から信頼している相手にしか気を許さない彼が大人しくしているという事は、彼らは母親(モルガン)に信頼されている相手なのだろうか。

 

 

「一応依頼は達成……という事でいいのかな?」

「えぇ。経緯はどうあれ、我が娘をあの地より連れ出せたのです。よくやりました、プロフェッサー・K。報酬は―――」

「結構だよ。お互いにギブアンドテイク。こっちは貴女の娘に儲けさせて頂き、その恩返しとしてこの依頼を受けただけさ」

「……ありがとうございます」

「話は終わったかな? だったら、すぐに作戦会議を始めないと」

「む、そうだね、アンナ」

「作戦会議ですか。では……」

 

 

 モルガンが軽く指を振れば、彼女達の前に長テーブルと椅子が出現した。

 主力となるメンバーの人数分用意されたその椅子に着こうとして、バーヴァン・シーはピタリと止まった。

 

 

「なぁ……カリアは、カリアはどうしたんだよ」

 

 

 どこを見渡しても、己のサーヴァントの姿が見えない。

 あの不敵な笑みを浮かべた彼女ならば、比較的女性の多いこの場所でなにも喋らないはずがない。間違いなく瞬時に戦いから気持ちを切り替えてナンパに走るはずだ。

 だというのに、あの声が聞こえない。

 

 

「……バーヴァン・シー、貴女も聞いていたはずです。彼女は殿を務める為に、あの地へ残りました」

「でも、お母様……ッ! 反撃をするというのなら、あいつの……カリアの力が絶対に必要ですッ! ナンパはするし盗み食いはするし、私の御目付け役なのに決まってどっかに出かけてる奴だけど、実力は本物ですッ!」

「ならば、待つのです。彼女が戻ってくる事を。貴女のサーヴァントの帰還を」

 

 

 モルガンからの言葉に、バーヴァン・シーの心を包んでいた焦燥感が薄れていく。

 

 

(そうだ……あいつなら大丈夫。あんな連中、どうって事ない……) 

 

 

 彼女は強い。自分をバーゲストやメリュジーヌ相手にもまともな勝負に持ち込めるように、場合によっては優位に立てる程にまで鍛えてくれた師匠である彼女が、あんなところで、あんな連中などに負けるはずがない。

 

 カリアを信じる。己のサーヴァントを信じる。

 

 そう思った刹那―――

 

 

「っ、なんだ……?」

 

 

 ブチリ、と。

 自分と彼女の間にある繋がりが無理矢理引き千切られたような感覚に思わず目を細めたが、次の瞬間にはその目を大きく見開く事になる。

 

 

「……おい、待て。待ってくれよ……ッ!」

 

 

 先程まであった彼女との繋がりの証が、消えていく。

 彼女は必ず帰還するという希望を胸に抱いた直後だというのに、世界はそれを嘲笑うかのように、彼女との繋がりを絶とうとしていく。

 必死に魔力を送り込むも、まるで穴の開いたバケツに水を注いでいるかのように、カリアの下へ向かっていく感覚を感じられない。

 なにか方法はないのか。そう思ってモルガンを見つめるが、彼女は哀し気に、けれどどこかやはり(・ ・ ・)といった様子で「……そう、ですか」と俯くだけ。

 

 そして、遂に―――

 

 

「……令呪が……」

 

 

 じくり、と右手が痛んだ。

 後に、どくん、と。痺れと同時に走った痛みを感じた途端、令呪は血を流すように(ねつ)を失っていく。

 

 

「―――カリアッ!」

 

 

 百年以上も前に召喚し、共に在り続けてきた狩人の名を叫んでも、応える声は聞こえない。

 

 彼女との契約を示す証が消えた右手を胸に抱き、バーヴァン・シーは静かに涙を流すのだった―――。

 




 
・『モルガンの疑似心臓』
 ……ロンゴミニアド一基を破壊する事で、そこに充填されていた魔力を失われた心臓の代用とする事で完成。しかしその魔力は他の妖精達から徴収したものを凝縮させたものであるため、適合するまで時間がかかる。

・『バーヴァン・シーの回復』
 ……モルガンが疑似心臓を作ったように、ロンゴミニアド一基の破壊を引き換えに行う魔術。瀕死の重傷であろうと瞬く間に完治させる。こちらの場合、命の源である心臓を作るのではなく、傷と痛みを癒すものであるため、モルガンのような適合に時間がかかるというデメリットがない。

・『カリア』
 ……劣勢になりつつあるモルガン達を逃がす為、殿となる。影、異形、マキリ・ノワ、そして蟲龍を相手に挑むも……。


 次回もよろしくお願いしますッ!
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