【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 ドーモ=ミナサン。
 アドバンスクエストが更新され、ようやく英雄の証ドロップ礼装が完凸できるようになって嬉しいseven774です。
 英雄の証や初期の頃の素材って、ある程度溜まったと思ったら一瞬で消えるんですよね……。自分は最近低レア鯖の育成も始めているのもあり、特にそれが目立つので助かります。
 ちなみに低レア育成ですが、いつかのイベントの90++フリクエで「この低レア鯖が使える」って事になった際に即時運用できるようにする為です。いつだったかロビンフッドが大活躍した90++フリクエがあった記憶があったので。それと塔クエ(または聖杯戦線)ですね。こちらはいつ来るかまだわかっていないですが、来た時の為に育てておくのも良いなと思ったのです。

 それでは本編、どうぞッ!


作戦会議

 

「―――ではこれより、作戦会議を始める」

 

 

 長テーブルに着いたメンバーの一人、プロフェッサー・Kの声が沈黙に包まれていた地下室に響き渡る。

 帰還した直後まで葉っぱ一枚で股間を隠していた彼も、今は既にいつものスーツ姿となっており、これにはカドックも「ようやく落ち着ける……」と安堵の息を吐き出した。

 プロフェッサー・Kという人物は変なタイミングで変なふざけ方をするが、こういった真剣な場面ではふざけない……はずである。

 いつもならば一抹の不安を覚えるものだが、今回ばかりはそのような気配は微塵も感じられない。

 

 それもそのはず。

 これから始まるのは、妖精國ブリテンを―――否、この惑星(ほし)を救う為の会議なのだから。

 

 

「……バーヴァン・シー。辛ければ席を外してもよいのですよ」

「問題ありません、お母様。それに、寧ろやる気が漲ってきました。貴女の力を借りて召喚した、私のサーヴァントを殺した奴らに、あいつが受けた痛みを何倍にもして返したいんです」

「……いい顔ですね。ですが、その憎しみに呑まれないように。強すぎる感情は、その絆石の輝きを穢すでしょうから」

 

 

 モルガンの視線が、バーヴァン・シーの右手首に装着されている腕輪に向けられる。その中心にある石は今も尚澄んだ青色だが、一瞬だけそこに血のような赤色が混じったのを、彼女の瞳は見逃さなかったのだ。

 しかし彼女の視線の意味を理解できなかったバーヴァン・シーは首を傾げるのみ。そんな彼女に口を開いたのは、正面に座っていたアンナだった。

 

 

「絆石は、他種の生物同士の心を通わせて絆とするもの。君が付けているそれは改造されて、本来の用途とは別のものになってるみたいだけど……君の感情に呼応して色が変わるのは、たぶん変わってないと思う。所有者や周囲の影響を受けて変色するのは、絆石の特徴だからね。それにしても……」

「な、なんだよ……」

「いや、綺麗にされてはいるけど……かなりの年代物だなって思ったの。風化して壊れてても不思議じゃないぐらいなのに。余程大事にされてたのがよくわかるよ」

「当然です。それは元々、私が使用していたもの。彼との絆の証です」

 

 

 モルガンが頭上を見上げ、背後に四肢を折り畳んで座っているディスフィロアと視線を交わす。

 傷も癒え、万全の状態となった古龍は、静かにモルガンを見つめるのみ。しかし、その眼には彼女への確かな信頼が宿っていた。

 

 

「これが、お母様の……」

 

 

 しかし、バーヴァン・シーは彼女達の様子などとても見れなかった。今自分が着けているものが、かつて母が使っていたものだとは思っていなかったからだ。

 

 

「気にする必要はありません。それはもう私には不要なもの。絆の証である事は確かですが、絆とは、なにも形に縛られるものではありません。私達は既に、魂で結びついている」

「……不思議。君を見てると、あのライダーの男の子を思い出すな。あの子も君のように、モンスターと魂で繋がっていたからなのかな?」

 

 

 懐かしい顔を思い出しているのか、遠くを見つめるアンナ。しかし、すぐに「あっ、いけない」と小さく咳払いして表情を真剣なものへと戻した。

 

 

「彼の事をもっと話したいけど、今はそれどころじゃなかった。これからの方針について考えなきゃね」

「そうだね。もちろん、内容はこれしかない。キャメロットに現れたマキリ・ノワ、及び奴同様に陛下へと攻撃を仕掛けた影達の事だ。では、陛下。最初にお尋ねしますが、貴女方を襲っていたあの影と、獅子と狼を掛け合わせたような怪物。この両者になにか覚えはありますか?」

「あります」

 

 

 一切の間を置かずの即答。答えるにしてももう少し時間がかかると思っていたKは、その返答の早さに何度か瞬きした。

 

 

「両者とも常に情報が書き換わっていましたが、その根本にあるものは把握出来ました。前者の影についてですが、あれはサーヴァントでなければ、命あるものでもない、滅びの意思そのもの。後者はそれの傀儡とされた人間でした」

 

 

 確信と共に告げられる答え。それを聞いた者達は全員が重い表情となる。

 

 

「滅びの意思に、その傀儡となった人間ね……。前者は最早それしか答えがないとして、後者の人間の正体はわからないのかしら」

「テメェ……Kが敬語使ってんのにお前は使わねェのかよッ!」

「構いません、バーヴァン・シー。今この場において我らは対等。個々人の好きにさせなさい。……傀儡となった人間の正体についてですが、僅かに残っていた情報から推測するに―――」

 

 

 この國の支配者であるモルガンに対してため口をやめない虞美人に食らいつこうとしたところを止められたバーヴァン・シーだったが。

 

 

「―――ベリル・ガット。彼が、あの異形の正体です」

「…………え……?」

 

 

 思いもしない人物の名が出た事で、その顔から血の気が引いた。

 

 

「お、お母様……? どうして、いや、なんでベリルが……」

「理由は不明です。が、どうやら知っている方がいるようですね」

 

 

 モルガンの視線がバーヴァン・シーからペペロンチーノへと注がれると、彼女は「えぇ」と小さく答えた。

 

 

「彼とは一度、ニュー・ダーリントンで戦ったわ。あの時は私のサーヴァントに死体ごと焼き尽くされたかと思っていたんだけど……生きてたみたいね。とんでもない悪運の持ち主よ。生き長らえた理由としては、そうね、あの時から明らかに異質な力を使っていた事から考えるに、ずっと前から手を組んでたはずよ」

「そんな……。待って、それじゃああの姿は、まさか……」

「どうかしましたか、バーヴァン・シー」

「……もしあの怪物がベリルなら、あいつがあの姿に変身できるようになったのは、私のせいかも……」

「……どういう事? まさか、君も彼に協力したの?」

「お母様に危害を加えるとは思わなかったんだよッ! クソッ、私、なんて事を……」

「良ければ、教えてくれない?」

「実は……」

 

 

 アンナに頷き、バーヴァン・シーは語り始める。

 以前、ベリルにニュー・ダーリントンに招かれた時、彼の甘言に乗せられた自分は最深部の地下牢で拘束されていた妖精―――ボガードから彼の心臓を抉り取った事。シェフィールド攻略戦の時には既に凶気に侵されていた彼の心臓を、ベリルに与えてしまった事。

 それが彼に、自分達と戦える程の力を与えてしまったと嘆くバーヴァン・シーだったが、そんな彼女を慰めるようにモルガンが優しく肩に手を置いた。

 

 

「嘆く必要はありません、バーヴァン・シー。貴女は優しいですから、それが彼の、私の為になると思っての行動だったのでしょう? では、貴女が自分を責める必要はないのです。裁かれるべきは、貴女にそのような魔術を使わせたあの男です。彼には、私自身も怒りを覚えていますから」

「お母様……」

「聞きなさい、我が娘よ。貴女の不調、それはベリルに教わった魔術が、貴女の魂を腐らせたからです。他者の心臓を抉り取る黒魔術(ウィッチクラフト)など、代償がなにもないはずがないのです。……そして、本来ならば既に腐り落ちてもおかしくなかった貴女を救ったのは、カリアです」

「―――ッ! カリア、が……」

「えぇ、彼女は貴女の負担を……いえ、バーゲストの飢餓とメリュジーヌの朽ちかけた枷の負担さえも背負っていたのです」

「なんですって……?」

「…………」

 

 

 モルガンの突然の言葉にバーゲストが愕然とし、メリュジーヌは僅かに目元を伏せた。

 カリアが、自分達の負担をその身に背負っていた。全てではなくとも、どれか一つだけでも相当な負担となっていたはずだというのに、それを三人分抱えた状態であの戦場に戦っていたのか―――三人の脳裏に同じ考えが浮かび、バーヴァン・シーは小さく「あの馬鹿野郎……」と悪態を吐き出した。

 

 

「最後の最後まで黙りやがって、クソ……。いつか絶対ぶん殴ってやる……いつかは、絶対に……」

 

 

 僅かに滲む視界を拭い、バーヴァン・シーは瞼を持ち上げる。

 

 

「……よしっ、あいつの分までやってやる。おい、さっさと次の奴の……そうだな、あのでっかい蟲みてぇな奴の情報寄越せ」

「わかった。となると……君の出番だね」

「うん、それについては私が話すよ」

 

 

 Kに促され、アンナが身を乗り出して手を組む。

 

 

「あの時『大穴』から現れたワームのようなモンスターは、“破翼龍(はよくりゅう)”アルトゥーラ。かつて存在した古龍種の内の一体、その幼体だよ」

「……は、幼体? あれが、か……?」

 

 

 実際に現地でその姿を視認していたカドックが困惑と驚愕に塗れた顔になる。だが、それも無理はない、と、彼と同様にその場にいた者達は全員考えた。

 それもそのはずだ。キャメロットに出現する前から度々出現の報告が寄せられ、中には妖精騎士とも交戦した記録からも強力な存在である事は把握されていた蟲龍だったが、まさかそれが成体ではなく未だ成長過程の幼体であったとは、耳を疑うのも当然だろう。

 

 

「そう。成体はその名の通りに三対の翼を持つドラゴンで、単体で世界を滅ぼせる力を持つようになる。出来ればあの幼体の段階で倒さないと、手が付けられなくなる可能性がある」

「単体で世界を滅ぼす……。まるで“禁忌”ね」

「ボレアス達と同列に語られないけど、能力だけなら他の古龍種を超えるよ。成体のアルトゥーラは全属性を操る(・ ・ ・ ・ ・ ・)からね」

(それは……もう“禁忌”でいいんじゃない? アルバと同じじゃない、それ)

 

 

 全属性を駆使して戦う古龍種など、ボレアス達と同じく“禁忌”に数えられるアルバを除いて他にいなかったはずだ。

 その時点で強力なモンスターなのだから、“禁忌”に名を連ねてもおかしくないと思った虞美人だった。

 

 

「アンナ、君だからこそ訊ねるが、あれはサーヴァントか? それとも……」

「サーヴァントだよ。使い魔越しだけど、サーヴァント特有の魔力を感じたからね。でも、あのアルトゥーラは私の知っている子ではなかった。多分、汎人類史で生まれた子じゃない、どこかの並行世界から召喚されたんだと思う。そして恐らく、その世界のアルトゥーラは……自分を倒すはずだったライダーを逆に殺し、最終的に世界を滅ぼしてる」

「待ってください。もしや貴女は、汎人類史のアルトゥーラを知っているのですか? そのような言い方、まるで……」

「いつか話してあげるよ。今はその話をする場合じゃないからね」

 

 

 汎人類史のアルトゥーラを知っているかのように話すアンナに疑問を覚えたバーゲストだったが、彼女の返答に「それもそうですわね」と心中で納得した。

 

 

「マキリ・ノワについては救世主の伝説も含めて大方判明しているから除外するとして、これで敵の情報は可能な限り挙げられたが……みんな、今回の敵についてどう思う?」

『厄介だね(だな)、間違いなく』

 

 

 一応聞いておこうと思ったKが訊ねれば、一秒の間も置かずに満場一致で全員が声を揃えて答えた。

 

 影、異形(ベリル・ガット)、マキリ・ノワ、アルトゥーラ。危険度ならばベリルが一番低いと言っても、その実力は妖精騎士に匹敵し、それ以外についても油断はできない。さらに言えばアルトゥーラは未だ幼体という、チャンスと言えばチャンスと言えるし、成体になられたらヤバイという一刻を争う状態。

 正直に言うならば、かなりマズい状況である。

 

 

「勝てなくはない。勝てなくはないんだけど……」

「撃破までの道のりが長い、といった感じね」

「そうだな。恐らく、総力戦になるだろう。だが、それぞれが強力かつ厄介な連中が相手だ。合流されている状態で戦ったら面倒だぞ」

「そうなると分断ね。アンナ、ボレアスの力なら分断は可能よね?」

「出来るはず。結界を張り直されてたら困るけど、モルガン、その時は君の力を借りるよ」

「もちろんです。ですが分断するとなると、必然的にこちらもそうなります。勝てる相手もいるでしょうが、マキリ・ノワとアルトゥーラについては……」

「難しいところ、だよねぇ……」

 

 

 マキリ・ノワとアルトゥーラ。両者共に竜種の頂点である古龍種に名を連ねるモンスターである彼らを相手にするとなると、こちらもそれ相応の戦力を揃えたい。が、だからといって影とベリルの対処を疎かにしていいはずもなく。

 

 

「せめてあと一枚、こっちに手札があればいいのだけれど……」

「……そんなの、いる? 僕達と肩を並べられるぐらい強くて、かつ奴らを相手に粘れる胆力を持ってる人って」

「……いる。私達に並び立てるぐらいの実力があって、こういった事態を何度も解決してきた人達」

 

 

 軽く右手を上げたアンナに、周りの視線が集まる。

 

 

「とっておき……? アンナ、それはいったい……」

「皆まで言わせないでよ~。ほら、まだこの國にはいるでしょ? これまで五つの異聞帯を攻略し、その前には一度焼却された人理を救った、歴戦のマスターが」

 

 

 まさか、と目を見開いたオフェリア達に、アンナは小さく笑った。

 

 

 

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「皆さんッ!」

「パーシヴァルッ! 無事でよかった……」

 

 

 罪都キャメロットから遠く離れた森林の奥地。赤衣の男からの忠告を受けキャメロットから離脱した立香達は、同じく森林へと逃れていたパーシヴァルとの再会を喜んでいた。

 

 

「パーシヴァル、他の円卓軍は……」

「……状況が状況だったため固まって離脱は出来ませんでした。恐らくは散り散りになってしまったかと」

「そうか……」

「ですが、私は信じています。彼らは、仲間達は絶対に生きていると」

「そうだね。きっと大丈夫。どこかで必ず会えるよ」

 

 

 立香からの言葉に、パーシヴァルは「はい」と頷いた。

 

 

「さて、これからの方針についてだけど……」

「そうですね。本来であればあのまま陛下の下へ辿り着いていたはずですが……」

「そこへマキリ・ノワの襲撃……それに加えて、あの巨大な蟲の出現。もしあのまま城に乗り込んでいたら、我々は間違いなく奴らと戦う羽目になって……」

「たぶん……負けてた。一体だけだったら撤退には漕ぎ着けただろうけど、何体も同時に来られたら、確実に死んでた」

 

 

 オークニーで初めて対決したマキリ・ノワは、古龍種の名に恥じぬ強大な存在だった。妖精歴では一度救世主達を敗走させた程の力を持つマキリ・ノワに加えて、神出鬼没のあの巨蟲まで現れてしまっては、自分達に勝ち目はなかった。

 

 

「ハベトロットさん、大丈夫でしょうか……」

 

 

 マシュの口から、キャメロット攻略戦前に別れた一人の妖精の名前が出てくる。

 戦線には出ず、女王軍と円卓軍の合同陣地に残る事を選んだ彼女とはこの中で最も付き合いがあるが故に芽生えた不安が、彼女にその言葉を吐かせたのだ。

 

 

「あれ程大規模な戦闘だ。遠目に見ても異常事態が起きてるってわかるはずだから、撤退していると思う」

「ですが……」

 

 

 ダ・ヴィンチが返すも、マシュの表情は晴れない。

 彼女の言いたい事はわかる。異常事態が起きているからこそ、ハベトロットが自分達を案じてキャメロットへ向かってしまったのではないのか、と。

 しかし、そんな彼女の不安を拭うように、彼女の前に座ったノクナレアが口を開いた。

 

 

「あそこには私の部下もいるわ。分析能力に長けた妖精だから、ダ・ヴィンチの言う通り撤退しているはずよ」

「……そう、ですね」

「ほら、いつまでもそんな顔してないで、これからの事を考えよう? 作戦が土台からひっくり返されたんだ。一から考え直さないと―――ッ!?」

 

 

 瞬間、ダ・ヴィンチの表情が警戒のものへと変化し、杖を手に立ち上がる。

 彼女同様に即座に臨戦態勢へと入った立香達の視線の先には、黒い渦を巻いて捻じれる空間の歪み。

 

 ブラックホールのようにあらゆる光を飲み込むその渦に誰もが警戒していると、そこから純白のドレスを靡かせた女性が出てきた。

 

 

「久しぶり……というわけでもない? こんばんわ、立香ちゃん」

「ア、アンナさん……?」

 

 

 空間の歪みから姿を現したその女性に、立香は思わず呆気に取られる。

 それにクスリと笑った彼女は、「安心して」と優しく声をかけて両手を上げた。

 

 

「大丈夫、私に戦うつもりはないよ。少し話をしに来ただけ。だからお願い、武器を下ろして?」

「……みんな」

 

 

 アンナの緋色の瞳、そしてその奥にある感情から、彼女に戦闘の意思がない事を読み取った立香が告げる。彼女の言葉に従ってマシュ達が武器を下ろせば、「ありがとう」とアンナが小さく微笑んだ。

 

 

「信頼されてるんだね、君は」

「それもあると思うけど、貴女から敵意を感じられなかったから。それで、話っていうのは……」

「……少し、恥ずかしい話なんだけど」

 

 

 それを口にするのが申し訳ないのか、悔しいのか。唇を少しだけ結んだ後、アンナは勢いよく頭を下げた。

 突然頭を下げた彼女に立香が「えっ!?」と動揺するが、次に彼女が口にした言葉に、それはさらなる驚愕となって立香を襲った。

 

 

「君達に、協力を要請したい。今、世界は崩壊の危機に見舞われている。どうか、私達に君達の力を貸してほしい」

 

 

 それは、彼女の口から出たとは思えない、懇願に近い協力の要請だった。

 突然の言葉に呆然としてしまっている面々の中、最初に口を開いたのはダ・ヴィンチだった。

 

 

「……でも、いいのかい? 君は以前、自分が力を貸すのは私達が試練を越えてからと言っていた。君の言う試練を、私達はまだ超えたとは思えない」

「確かに、君達はまだ目的のものを手に入れられていない。でも、事は一刻を争う……そっちだけに集中する事は出来ない。だから―――」

「―――顔を上げて、アンナさん」

 

 

 頭上から声がかけられる。

 言われるままにアンナが顔を上げると、目の前には笑みを浮かべた立香が立っていた。

 

 

「頭を下げる必要なんてない。そういう事なら、私達も協力する。確かにロンゴミニアドか、それに代わるものは欲しいところだけど、今はそれどころじゃないのなら……戦う。今ある手札を全部使って、戦います」

 

 

 その微笑みは、決して楽観的なそれではない。

 それは、多くの戦場を乗り越えてきた者のみが浮かべる事の出来る、戦士の微笑みだった。

 戦いと死の恐怖を知りながらも、それを吞み込んで笑ってみせる、世界を救ったマスターが、そこにいた。

 

 

「みんなも、それでいい?」

「私はマスターに……いえ、先輩についていきます。先輩が戦うのなら、私も戦いますッ!」

「私もだよ。ここで退いたら、それこそなにもなくなっちゃうからね」

「ま、乗り掛かった舟だ。(オレ)も最後まで付き合ってやる。お前もだろ、グリム?」

「言われるまでもねぇな。全て終わっちまうなら、絶対に食い止めなくちゃならねぇからな」

「私も戦う。それが、今の私がする事だと思うから」

「いい顔ね、アルトリア。もちろん私もよ。まだ私は、あの玉座についていないもの。邪魔な奴らは全員倒してやるわッ!」

「私も行きましょう。この國を、世界を滅ぼすとするのなら、この槍と共に打ち払うのみです」

「……ありがとう、みんな」

 

 

 口々に参戦を決意するマシュ達に、アンナはもう一度頭を下げるのだった。

 

 

 

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「クソクソクソッ! おのれプロフェッサー・Kェ……ッ! どこまでも私の邪魔をしおってッ!」

 

 

 瓦礫を押しのけ、恨み節を垂れ流して一人の男―――スプリガンが立ち上がる。

 

 バーヴァン・シーの身柄を奪う為に配下の兵士達と共に行動したものの、全身白タイツの変態達によって阻止されてしまった彼は、全身に付着した砂埃を叩き落としながら痛む足を引きずって歩き出す。

 

 配下達に生き残りはいない。皆、頭上から降り注ぐ瓦礫に潰されて息絶えた。自分でさえあと少し遅ければ彼らと仲良くあの世へ行っていただろう。

 

 だが、なんとかこうして生き延びた。死んでしまえばそれまでだが、生きてさえいればどうにでもなる。

 

 

(そうだ、まだ終わっていない……ッ! 私が生き残った事には意味があるはずだ……いや、なくてはならないッ!)

 

 

 生き残ったのなら、次の行動に移るべきだ。まずはこの廃墟となったブリテンから離れ、自身が治めるノリッジへと戻らなくてはならない。

 配下はもういないが、人間より頑丈な妖精はまだどこかに残っているかもしれない。“風”の氏族あたりを見つけられれば万々歳だ。

 

 そう思った直後、スプリガンの視界に一人の妖精が映り込んだ。

 

 

(あの妖精は、間違いない……“風”の氏族だッ!)

 

 

 運が良いとはまさにこの事だろう。

 

 あの大災害から生き延びたであろうその妖精に声をかけようとして―――スプリガンは動きを止めた。

 

 

(奴は……なにをしている?)

 

 

 グチャ、グチャ……グチャ……ゴリ……

 

 噎せ返る程鉄臭く、しかしどこか甘いような、臭い。

 嫌に強く吹き付ける風によって運ばれてきたその臭いがいったいなにを意味するのか……スプリガンはそれを理解した瞬間、「ひっ」と小さく息を呑んで後退った。

 

 だが、それがいけなかった。無意識に後退った彼の足は、後ろに転がっていた拳大の瓦礫に引っ掛かってしまい、態勢を崩させてしまう。

 

 

「うぉ……っ!?」

「―――ッ!」

 

 

 思わず口から出てしまった声。それは彼の前にいた妖精の耳にも届き、その手からごとり(・ ・ ・)となにかが落ちた。

 

 

「ウゥウ゛ウゥ……ア゛ァ……」

 

 

 それは、他の妖精の頭部と思しきもの。首から下が見当たらない事から、何かしらのタイミングで千切れたであろうそれは頭頂部が割られており、その奥にあるピンク色の物体は二割ほど欠損している。

 右目が収まっていたはずの場所にはなにもなく、代わりにどろりと血液が垂れており、本来そこに収まっていたはずの右目は……こちらに振り向いた妖精が剝き出した歯に引っ掛かって垂れ下がっていた。

 

 常識では計り知れない出来事など、最早見慣れたと思っていたスプリガン。しかし、このような光景など見た事がなかった。

 

 あまりにも衝撃的な出来事に体が硬直していたスプリガンだったが、彼の脳はこれから自分が取るべき行動を選択した。

 

 

(に、逃げなくては……ッ!!)

 

 

 最早助けを求めるという考えなど消え去っていた。あのような妖精がまともなはずがない。あのような赤い眼光(・ ・ ・ ・)を放つ妖精に近づけば、待っているのは地面に転がっているあの生首と同じ末路だ。

 

 恐怖に竦んで力の入らない両足に喝を入れて立ち上がろうとした、その瞬間。

 

 

「う……ッ!!?」

 

 

 ―――ズキン、と。

 一瞬、胸部に走った凄まじい激痛に、立ち上がりかけた体が再び崩れ落ちる。

 

 

「な、なん、だ……ッ、体が……あぁああああああッ!!」

 

 

 ズキン、ズキン、ズキン。

 一瞬だけだと思った激痛が、少しずつ間隔を縮めて全身を蝕む。

 何度も襲い来る痛みに絶叫するスプリガンの視界が、先程こちらに気付いた妖精を収める。

 

 彼もまた胸元を押さえて崩れ落ちており、絶叫を上げながら転げ回っていた。

 が、それは数秒で終わる。仰向けになって何度か痙攣した後にピクリとも動かなくなった妖精だったが、次の瞬間にはさらなる異変が起こり始める。

 

 ―――ボコボコ。ボコボコ。

 

 激痛に苦しむあまり自らの手で引き裂いた衣服の奥にある素肌が、波打っている。まるで、その中になにかがいるかのように……。

 

 

(見るな……見るな見るな見るなッ!!)

 

 

 これからあの妖精になにが起きるのか、直感的に気付いてしまったスプリガンが心中で叫びながら瞼を閉じようとするが、彼の瞼は言う事を聞かない。

 

 そして―――

 

 

キシャァアアアアアアアアアッ!!!

 

 

 ブチリ、と。

 揺り籠にしてはあまりにも脆く柔い(かわ)を食い破り、小さな黒い竜が姿を現した。

 

 

「あ、あぁ……っ」

 

 

 いったいあれはなんなのか。なぜ妖精の体から出てきたのか。なぜ、あれは少しずつ巨大化していくのか。

 

 わからない。いや、理解してはならない。理解したが最後、己の最期が確定してしまう。

 

 

「い、いやだ……あんな死に方は、絶対、に……あ、れ……?」

 

 

 おかしい。いたみがない。なおった?

 でもつめたい。なにかがこちらをみている。ちにまみれたかおで、わたしをみている。

 

 

「あ、あぁ……あああああああああああああッ!!!?」

 

 

 自らの身を母体に生まれ落ちたそれ(・ ・)が、スプリガンの顔面に喰らいつく。

 

 彼の悲鳴は、これから始まる絶望と恐怖の始まり。

 そして―――

 

 

キシャァアハハハハハハハッ!!!

 

 

 彼ごと幼体の竜を叩き潰した渾沌の狂笑は、新たな厄災の誕生を意味する―――。

 





・『ライダーの男の子』
 ……ストーリーズの主人公。リオレウスを始め、数多のモンスターと絆を結んだ彼が凶気を巡る旅をした事によって世界にライダーの存在が認知され、後にサーヴァントのクラスの一つとして定義された。少年は死後、凶気の龍マキリ・ノワを討伐した英雄として語られ、冠位(グランド)の座に就いた。
 召喚された場合、通常霊基では少年の姿として。冠位霊基では竜種の騎手として大成した青年の姿で現界する。

・『ベリル』
 ……バーヴァン・シーを騙した挙句ボガードの心臓を喰らった事がバレた。モルガンはもちろんの事、セリフこそないがウッドワスもキレている。影達と比べて下位に見られているが、元がただの人間なので仕方ない。

・『アルトゥーラ』
 ……モンスターハンターストーリーズ2のラスボス。ワームのような姿は幼体であり、成体は三対の翼を持つ龍。アルバトリオン同様に全属性を操る古龍種であり、ストーリーズ2に登場した凶光化の元凶。最後はストーリーズ2の主人公とその仲間達によって討伐されたが、今作に登場したのはマキリ・ノワと同じく、本来なら自分を倒すはずであった主人公達を逆に殺し、世界を滅ぼしたifの世界から召喚されている。こちらの最期はルーツによる介錯ではなく、崩壊した世界でも尚生き残っていたハンターとライダーの人類生存を賭けた戦いの果ての討伐。

・『藤丸立香』
 ……ロンゴミニアドも、それに代わる兵装もない状態だが、それでも全力で戦う事をアンナに誓い、共闘する事になった。ちなみにこの時、アンナは「自分から『試練を乗り越えたら手を貸す』って言っておきながらなんて情けない……」と嘆いていたが、それとは別に立香への好感度は爆上がりしていた。

・『新たな厄災』
 ……渾沌に呑まれた存在。ただ飢餓と暴虐に荒れ狂い、滅びの尖兵と化した怪物。


 最後、ちょっとエイリアンっぽくなりましたね……ですがあのモンスターは元の設定がエイリアンそっくりなので自然とこうなってしまうのです。今後はエイリアンからバイオハザードに変わったり、バイオハザードからエイリアンになるかもしれません。
 それではまた次回ッ!
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