【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 ドーモ=ミナサン。
 前回、steamに手を出そうと考えながらもパソコンのスペックの事を考えておらず断念したseven774です。
 ですがやはり諦めきれず、先週遂にps5を購入しましたッ! これでキングダムハーツシリーズも、まだプレイできていなかったワールド/アイスボーンも、来年発売予定のワイルズもプレイできますッ!
 それにしてもワールドはかなりめんど……失礼、やりごたえのあるゲームですね。痕跡集めもそうですが、素材採集クエストなんか本当に大変で……。特に古代樹の森なんか地形が入り組んでいるので滅茶苦茶迷います……。ライズをプレイしているとガルクがいるので、その有難味が物凄く感じられます。

 今回は全て立香達視点ですッ!
 それでは、どうぞッ!


創世記

 

 “竜骸の沼”。

 妖精國北部の湖水地方の一角に位置する、かつて“境界竜”と呼ばれていた竜種の骸を中心に広がる沼。

 一歩足を踏み入れれば、今も尚機能している“境界竜”の能力(チカラ)によって境界を歪められ、存在を変質させてしまう魔境。

 

 護る者はとうに亡く、最早ただ静かに終わりを迎えるはずだったその地にしかし、空間の歪みが発生する。

 

 渦巻く歪みから最初に現れたのは、“熾凍龍”ディスフィロア。大地に己の大きな足跡を残しながら歪みから現れたその龍に続く形でメリュジーヌが空へと舞い上がり、最後に立香を始めたカルデアのメンバー達が歪みから出てきた。

 

 

「凄い、一瞬で“竜骸の沼”まで……」

「宝具でもないのにこんな能力を使えるなんて、やっぱり“禁忌”は凄いな……」

 

 

 つい一瞬前までいたグロスターから馬車でも数日はかかる湖水地方にこんなにも早く到着できるとは、と驚くアルトリアに、宝具を使用する必要もなくそれを可能とする“禁忌のモンスター”の強大さを改めて理解する立香。

 

 

「おい、悪いが驚いている暇はねぇぞ? 今は一秒も無駄に出来ねぇからな」

「そう、村正の言う通りだよ」

 

 

 外套を翻した村正に、上空から降下してきたメリュジーヌが肯定の言葉を口にする。

 

 

「これから僕らで楽園(アヴァロン)への(みち)を拓く。君達はそこで、この戦いを終わらせる切り札を手に入れるんだ」

「わかってる。お願い、メリュジーヌ、ディスフィロア」

 

 

 頷いたメリュジーヌが上昇し、ディスフィロアが翼を広げて飛翔する。

 

 沼の上空で向かい合うように滞空したメリュジーヌが両腕を水平に伸ばし、両足を揃えて十字の構えを取る。すると、彼女の全身が美しい青色に輝き始め、胸から放たれた一筋の光が沼の中心にある“境界竜”の骸へと注がれる。

 本体から分かたれた細胞の一片である彼女からのアクセスに応えるように、骸がメリュジーヌ同様に青色の光を放ち始め、それは沼にも伝播していく。

 瞬く間に目の前にあるのが沼だとは思えない程の美しさを感じさせる景色へと変化すると、今度はディスフィロアが行動を起こす。

 

 キャメロットにマキリ・ノワが襲来した折、自身と立香達が交戦していた“最果ての地”を再現していた結界から抜け出る際に使用した半透明のブレスを放つ。

 青く輝く骸に直撃したそれは、しかし骸に一切の傷を与えずに波紋を広げていき、やがて一つの穴を創り出した。

 

 

「さぁ、行って。僕の力で沼の効果を打ち消しているから、今なら歩いても問題ないよ」

「ありがとうッ! 行くよ、みんなッ!」

「はいッ!」

 

 

 バシャバシャと沼を蹴散らして走った立香達が、穴へと飛び込んでいく。

 最後の村正が飛び込んだところでメリュジーヌは光の照射を止め、「ふぅ」と一呼吸置いた。

 

 

「凄い疲れるな……これ」

 

 

 先程まで行っていたのは、立香達に言った通りの事。細胞の一片から生まれたといえども、自分が“境界竜”アルビオンの系譜に連なる者である事に変わりはない。大元(オリジナル)には遠く及ばないが、それでも自分と言う存在を骸のアルビオンに呼応させる事で、垂れ流しになってしまっていた権能に一時的に鍵をかけたのだ。

 干渉し、封じる。言葉にすれば簡単なようにも思えるが、メリュジーヌにとってはたとえ一秒であっても体力をかなり削られる行為だったのだ。

 

 もう二度とこれはやりたくない……と思っていると、ブレスを止めたディスフィロアがこちらを見つめている事に気付いた。

 

 

「私を心配してくれているの? 大丈夫、このくらいならまだ―――ッ!?」

 

 

 それは、無意識の行動だった。

 右腕の籠手から瞬時に(つめ)を出現させ、振り向き様に一閃。

 横薙ぎに振るわれた光の斬撃は、背後から迫ってきていた黒いブレスを両断し、破裂させた。

 

 至近距離で破裂したブレスに吹き飛ばされながらも態勢を崩さなかったメリュジーヌの頭上を通り過ぎて行ったディスフィロアが、火炎ブレスを放射する。

 メリュジーヌがブレスを切り裂いた影響で発生していた黒煙を突き破り、その奥にいる古龍(・ ・)へと向かっていくが、その前に古龍を囲む形で展開されていたバリアによって阻まれてしまった。

 

 

「まぁ、来るよね……ッ!」

「グギャァアアアアアアアアッッッ!!!」

 

 

 自分達が“竜骸の沼”とアルビオンの亡骸に干渉した事を察知したのだろう。マキリ・ノワが凶気のオーラを迸らせながら咆哮を轟かせた。

 だが、ここでの自分達の役割はもう終わった。後は事前の計画通り、目の前にいるマキリ・ノワを討伐するだけだ。

 

 

「丁度いい、こっちから行く手間が省けた。行こうか、我が弟(ディスフィロア)ッ!」

「グォオオオオオオォォォ―――ッッッ!!!」

 

 

 左腕の籠手からも(つめ)を出現させ、スラスターを一気に噴射。即座に空気の壁を突破したメリュジーヌに、勢いよく翼を羽ばたかせたディスフィロアが続いた。

 

 

 

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 “霊墓アルビオン”―――そう呼称される場所が、汎人類史のイギリスには存在する。

 かつて存在した“境界竜”アルビオンが内海に還ろうとするも道半ばで力尽き、そのまま朽ちた事で誕生したその地は、神秘が薄れた現代でも多くの幻想種が住まい、特殊な素材が採取でき、その最奥は星の内海へと続くという魔境として魔術師達に知られている。

 

 それと似たものが、妖精國にもまた存在する。

 しかしこちらのアルビオンは地上で息絶えているため、幻想種が発生する環境は構築されない。しかし、内海へと続く(パス)は確かに存在している。

 謂わば、“霊洞アルビオン”と呼ぶべきか。その場所に降り立った立香達は、しかし視界に広がる暗黒に思わず足を止めてしまった。

 

 

「真っ暗、だね……」

「はい……それどころか、足場の感覚もありません。本当にここが楽園への路なのでしょうか……」

「―――そりゃそうさ。ここはレイヤーが違うからね」

「ッ、誰ッ!?」

 

 

 自分達のものではない声に、アルトリアが警戒し始める。

 そんな彼女に対し、その声の持ち主が「大丈夫だよ」と優しく宥めるように告げた瞬間、先程までの暗闇が瞬く間に晴れていく。

 

 一面の暗闇から、煌めく鉱石が所々に突き出ている洞窟へと姿を変えたそれに立香達が驚いていると、立香の足元で動く影が一つ。

 

 

「やぁ、待っていたよ」

「ッ!? 先輩、フォウさんですッ!」

「な、なんでここに……? いや、ていうかなんで喋って―――」

「おや、キミ達にはそう見えているのかい? 特異点に変化したとはいえ、元が異聞帯だったから、それが影響しているのかな? いやぁ、まさかキャスパリーグの姿になっているなんてねぇ。キミ達の声しか聞こえないのが惜しいよ。自分の手が肉球になってるところなんて是非見てみたいよ」

 

 

 珍しく同行しなかった謎の小動物と全く同じ外見を持つ存在の登場に驚いている立香達に、()は少しだけ首を傾げる。

 しかし、明らかに人語を話すには向いていない構造をしている口から吐き出される声や話し方、雰囲気から、立香は「まさか」と思い訊ねる。

 

 

「……もしかして、マーリン?」

「おぉ、わかってくれたんだね。そうだ、みんなの花のお兄さんことマーリンだよ、マイロード」

 

 

 フォウ―――改め、キャスターのサーヴァント、マーリン。

 アーサー王伝説に語られる宮廷魔術師にして、夢魔と人間の間に生まれた自他共に認める人でなし。冠位(グランド)の名を頂く資格を有するそのサーヴァントに、立香は「どうして貴方がここに?」と再度訊ねる。

 

 

「そ、そうです。マーリンさんは今回、霊基トランクの中にいるはずです。戦闘で召喚した記録もありませんが、いったいどうやって?」

 

 

 立香が彼を召喚したのは、まだ人理焼却が解決されていなかった頃。バビロニアでの戦いを終えた後に、ティアマト神を除いた、現地で出会ったサーヴァント達と共に召喚された。それから彼には影であろうともそうでなかろうとも多くの戦場で共に戦い、時には水着ではしゃいだりした。

 しかし、今回の妖精國攻略において、自分は彼を喚んだ事は一度もない。そんな彼がなぜここにいるのか、という立香とマシュからの疑問に、フォウの姿を取っている彼は返答を返した。

 

 

「それはまぁ、あれやこれやとやっただけだよ。歴史は違えどここはブリテンだからね。それに、どうやら私の名を騙った誰かがいたらしくてね。その縁を辿ってきた、というわけさ」

「……」

 

 

 マーリンの言葉に一瞬アルトリアがピクリと動くが、現在相手の声しか聞こえないため彼女の変化に気付けなかった彼は、「付いてきなさい」と仄暗い通路を歩き始めた。

 

 

「さっきも言ったけど、ここはレイヤーの違う世界。簡単に言ってしまうと異次元のようなものだ。アルビオンの影響で、地表の下に路が出来ているだけさ。まぁ、自分は通れない狭い(パス)だから、地上で息絶えるしかなかったんだが。汎人類史では霊基と呼ばれているが、こちらは霊洞といったところだろうね」

「“霊墓アルビオン”ですね。時計塔の真下にあるという」

「よく知ってるね、マシュ。そっちは80kmまでは人間でも入れるが、それより先は妖精域と呼ばれる世界になってしまって、人間は立ち入る事が出来ない。が、こちらにその縛りはない。なにせ世界そのものが妖精域だからね」

「80km……内海まではどれくらいで着くの?」

「そうだねぇ、現実的な距離で言うなら2700kmぐらい先だね。あ、今私達がいるのは80km地点だよ」

「おいおい、今80km地点で目的地は2700kmだぁ? とてもじゃねぇが辿り着ける距離じゃねぇぞ?」

「そこはショートカットを使うとも。普通に徒歩で行くとなれば果てしない時間がかかるが、移動時間の短縮(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)を連続で使ってキミ達をゴールに連れていく。そうすれば年単位の距離でも一時間弱で内海に辿り着けるからね」

 

 

 マーリンからの説明を受けながら洞窟を進み続ける。

 歩きながらマーリンは続いて『移動時間の短縮』についても説明を始める。

 

 ここは地球の情報空間のような場所であり、あやふやな記録(みち)は除外され、明確な記録(みち)のみを歩ける。ただ一歩ずつ歩いているだけでも、現実ではその度に数kmは進んでいるらしい。

 そう難しい話ではない。ただ気が遠くなる程長かった目的地への距離が、徒歩でも簡単に行ける程短くなった程度の感覚でいいのだ。

 

 

「……ん、これは……」

 

 

 歩を進め続けて数分。そこで、立香は左側の壁に複数の壁画が描かれている事に気付く。

 ……いや、壁画は複数ではない。遠目に見ると複数のように見えるが、近くで見るとそれが全て繋がっているものだとわかった。

 

 

「これは……なんだろう。ロンディニウムにあった壁画とは違うものだけど……」

 

 

 翼を広げ、恐らく同胞と思しき者達を率いて飛翔するドラゴンと、それとは別に武器を持った人間達。彼らが向かう先にいるのは、彼らを優に超える大きさで描かれている巨人。

 

 

「おや、壁画があるのかい? 良ければ教えてくれるかな。ここにあるのは全て地球が重要だと判断した情報(もの)だ。そこに描かれているのは、この歴史においてのターニングポイントだろう」

「えっとね……」

 

 

 マーリンに促され、立香は説明し始める。自身の視界に映る、その壁画の内容を。

 

 巨人に立ち向かうドラゴンと人間達。

 巨人によって打ち砕かれる命達。奪い去られる自然。

 敗北するドラゴン。成す術なく踏み潰された、最後までドラゴンと共に戦っていた人間。

 そして―――全てがなくなった地表。

 その奥にも、以前立香達がロンディニウムで見つけたものと同じ壁画が続いており、さらに奥には見覚えのない壁画もあったので、それらも含めてマーリンに伝える。

 

 

「…………そう、か」

 

 

 彼女からの説明を聞き終えたマーリンは、小さく静かに、ただ一言だけ零した。

 

 

「マーリン、これはなんなの?」

「さっきも言っただろう? 地球が重要だと判断した情報だってね。キミ達が見ている壁画は……かつてこの星に落ちてきた巨人に蹂躙される、この星の光景を表したものだよ」

「え……?」

「地上のあらゆる全てを奪い去られても、地球はその記録だけは渡さなかったみたいだね。『敗北した。次は負けない』、そんな風に思っているのかな。それとも、いつかここに来る誰かの為に、彼女(・ ・)が遺したものなのか……。うん、なら丁度いい。内海に到着するまでの間、キミ達に全ての終わりと始まりを聞かせよう。この歴史の分岐点、そしてなぜ楽園の妖精(アヴァロン・ル・フェ)が誕生したのかをね」

 

 

 そして、マーリンは語り始める。

 この歴史がどのような経緯で汎人類史から逸れてしまい、袋小路に入ってしまったのかを―――。

 

 

 

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 遠く旧き時代。叙事詩“モンスターハンター”に語られる時代が終わり、緩やかに竜種から人類への世代交代が行われていた頃。

 緑と青に満たされ、数多の竜種や獣達の息吹が渦巻く自然界。少しずつ数を増やし、文明を発展させていく人類。

 悲劇が起こる事もあったが、行き過ぎた戦争は起こらず、生きている以上当たり前な出来事のみが起こり続け、しかし確かに時代の移り変わりを感じさせる頃。

 

 だがある日。それを終わらせるものが、遠き(ソラ)の彼方より落ちてきた。

 

 地表が燃え、世界が燃える。

 文明らしきものは全て踏みつぶされた。

 知性あるものは隷属さえ許されなかった。

 

 早すぎる、と予言者は慄いた。

 

 戦うのだ、と支配者は奮い立った。

 

 手遅れだ、と学者達は諦めた。

 

 でも、少しぐらい残るだろう、と誰かは楽観した。

 

 

 ―――それが、姿を現すまでは。

 

 

 一定の周期で天の川銀河に現れる彗星。捕食遊星、収穫の星(ハーヴェスター)とも呼ばれたそれから派遣された白き尖兵(アンチセル)

 尖兵は全てを破壊した。己にプログラムされた、『破壊し、収穫する』という行動理念の下に。

 

 力ある者は団結した。異なる神話体系の神々さえも手を組んだ。

 あらゆる種族が一つとなり、各種族の代表者達を中心に尖兵の討伐戦が始まった。

 

 ギリシャの機神を始め、当時の地球の各地を支配していた神々と、地球そのものの代表者である彼女(・ ・)

 

 彼らは、彼女は戦った。いずれ聖剣を担う者もまた、己に出来る選択を取り続け、尖兵との戦いを続けた。

 

 ―――だが、勝利は地球に訪れなかった。

 尖兵は文字通り、あらゆるものを破壊し、奪い去った。

 

 命乞いをした者達を除いた神々は破壊され、逆らうものは全て破壊された。生き残った我が子達を逃がし、せめて人類だけでもと単身挑んだ彼女(・ ・)もまた、全盛期の力を奪われた末に殺された。

 担い手もまた、担い手となる前に虫けらのように踏み潰された。

 

 聖剣は造られなかった。はじまりのろくにんは仕事を放棄した。

 そして、全てが消えた末に残された海で、彼らは一柱の獣神とその巫女と出会った。

 

 神は波を堰き止め、巫女は妖精達と友となった。

 しかし妖精達はさらなる幸福を望んだ。

 

 最初に、神を殺した。贈り物だと偽り、毒を混ぜた酒を飲まして殺害した。

 次に、巫女を殺した。こちらは神を殺した時のような毒は使わなかった。ただ自分達の力で、生きたままバラバラにした。

 

 巫女を原点に、多くの人間を作った。新しい娯楽を得る為に、退屈しない生活を送り続ける為に。

 

 こうしてブリテンは完成した。

 こうして過ちは始まった。

 

 ―――はじまりのろくにんにすくいあれ。

 ―――はじまりのろくにんにのろいあれ。

 

 

 

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 誰も、言葉を発さなかった。

 誰も、言葉に出来なかった。

 

 ただ茫然としている立香達に、マーリンは静かに続ける。

 

 

「これがブリテン異聞帯誕生の分岐点。ある日突然落ちてきた尖兵(アンチセル)に全てを破壊され、始まりの『ろくにん』がただ自分達の為だけの行動を起こし続けた結果に行きついた世界。それがここ、妖精國ブリテンだ」

「……私達が知っているものとは、細部が違う」

「そう。『ろくにん』は全てが終わってしまった後、自分達に反省を促すべく楽園から遣わされた神、ケルヌンノスを殺している」

「なぜ、妖精達はそんな事を……」

「そりゃぁ、邪魔になったから殺したのさ。いつまで経っても世界は変わらないし、神と巫女は『反省しろ』と言ってくる。例外もあるが、大抵は決まって短気で浅慮な種族である妖精達は遂に我慢できなくなった。最初にケルヌンノスを祭神として祀り上げると騙し毒殺し、次に巫女を生きたまま解体した。この國で生まれた人間達は皆、その巫女の劣化コピーなんだよ」

 

 

 劣化コピーと言えども、人間は文明を生み出す知恵を持っている。都合のいい玩具を手に入れた妖精達が次に取り掛かったのは、次代(しそん)を生み出す事だった。

 各々が氏族を増やし、殺したケルヌンノスの遺体を大地に変えていった。だが、それから100年が経った頃、妖精達は自分達の仔が次々に死に始め、それがケルヌンノスによる怒りである事に気付くや否や逃げ出した。

 殺したはずなのに、その心臓は未だ燃え尽きていない。いつ蘇ってもおかしくない神の存在から、妖精達は逃げ出した。

 死んだ仔が倒木となった事で新しい大地が出来始めていたのが幸いした。星の触覚である妖精の遺体は、言うなれば星の素材だ。倒木は土となり、岩になり、自分達の罪を隠すように、急速に海を埋め立てていった。

 仲間達の、先代(おや)や仔の遺体の上で繫栄していく妖精達。しかし―――。

 

 

「だが、それを許さない者がいた」

 

 

 それが、新たな恐怖の始まりだった。

 

 

「突然、彼らに対して攻撃を仕掛ける竜種が現れた。彼女(・ ・)は間接的に母龍(ははおや)を殺したろくにんを許せなかった。それはもう暴れ回ったんだろうさ」

「まさか、それって……」

「そのまさかだよ。“境界竜”アルビオン。“祖龍”ミラルーツが死んだ原因は『ろくにん』にあると怒り狂い、妖精達を絶滅寸前まで追い詰めた。けれど、彼女は力尽きた。リミッターが解除したが故の、命のスタミナ切れ。それで彼女は死んだ」

「自分の母親を殺した無責任な連中が、仔を増やして繫栄し始めている。そりゃあアルビオンの怒りも尤もだ。……口惜しかったろうな」

「でも……メリュジーヌにはそんな気配は感じなかった」

 

 

 大元の“境界竜”アルビオンがそれ程までに暴れ狂い、妖精達を絶滅寸前まで追い詰めたというなら、その末裔に当たるメリュジーヌが彼らに一切の危害を加えず共存出来ているのかがわからない。

 それに、今の彼女は妖精騎士として、モルガンという妖精に忠誠を誓い、この國を護るべく動いてくれている。自分達をここまで送り届けてくれたのだって、彼女とディスフィロアのお陰だったのだ。

 

 

「モルガンははじまりのろくにんとは無関係な楽園の妖精だ。彼女の下で働く事に悪感情は絡んでいないだろう。ディスフィロアも友として認める相手だしね。それと、なぜ他の妖精達と共存できているかについてだけど、復讐心を掻き消す程の何かがあったんだろう。が、生憎私達にそれを知る術はない。だが、ケルヌンノスの怒りや彼女の行動が、星に影響を与えた。星は獣神の怒りでも“境界竜”の復讐でも滅びず、醜く繫栄し続けていく妖精を排除すべく、並行世界や辛うじて残されていた記録から、彼らを滅ぼす者達を喚び出した」

「それが、ヴォーティガーン達……」

 

 

 “魔竜”ヴォーティガーン。

 “闇凶龍”マキリ・ノワ。

 “破翼龍”アルトゥーラ。

 

 星の要請を受け、英霊の座から召喚された者達。ずっと昔に終わるはずだった歴史を完全に終わらせる為に遣わされた、厄災と破滅の使徒達。

 

 

「マキリ・ノワとアルトゥーラは妖精達の同士討ちさせ、文明を自らの手で破壊させる。その後、ヴォーティガーンが全てを呑み込む―――このままなにもしなければ、その崩壊は國を超え、世界に伝播するだろう。マキリ・ノワとアルトゥーラには純粋な力で対抗できるが、問題はヴォーティガーンだ。星を終わらせる終末装置となった奴を倒す為には、人理を保障し、護る剣が必要になる」

「それこそが聖剣、エクスカリバーですね」

「その通り。だからこその、アルトリア・キャスターは希望となる。この戦いを終わらせる切り札であり、これから続く戦いに勝利する為の希望。その為に、彼女にはどうしても『巡礼の鐘』を鳴らし、ここに来てもらう必要があった。歴史が分岐してしまった最大の間違い、『聖剣の作成』を正す為にね」

 

 

 『巡礼の鐘』とは氏族の長が罪を認め、楽園の妖精の力となる為のもの。

 これを全て鳴らした妖精は聖剣そのものと成る。

 

 先代(モルガン)はその使命を棄て、國を支配する女王の道を選んだ。故にアルトリア・キャスターが派遣された。今度こそ、星を守護する聖剣を造る為に。

 

 

「これまで多くの迷いと悩みがあっただろう。それはまだあるだろうし、解決しないものかもしれない。それでもここにいるキミのこれまでの戦いを、在り方を、私は信じる。―――さて。長くなったが、じき終点だ」

 

 

 マーリンの言葉を表すように、周囲の光景が薄暗くなっていく。

 

 

「この先にはキミ達の資格を問う、最後の竜、その信念が待っている」

 

 

 ―――『罪なき者のみ通るがいい』。

 その問いは持って生まれた原罪でも、これまで犯してしまった罪の話でもない。

 これから何をするのか。今、自分達の心はどこを向いているのか。

 

 生命が生命体として在る為の理論。生存、繁栄の原理。

 その確かさ、強さを示したものにのみ、希望の地は開かれるだろう。

 

 

「―――滅びた。地上は全て滅びた。空も、海も、生命も。私達が見てきたもの、彼女が愛したものは、全て。私の記録はこれ以上、積み重なる事はない。私の歓びは、もう更新される事はない」

 

 

 暗黒に閉ざされた空間の向こう。血のように赤黒く揺らめくものが一つ。

 

 

「私は血を分けた龍に代わり、聖剣の担い手を選ぶ者。王の名を唱える者よ、新しい時代を求めるのであれば、古き痕跡は置いていけ」

 

 

 揺らぎが固まり、一つの形を得る。

 白いラインの入った、機械的な黒い翼。腰まで届く程の白き長髪。両腕には赤黒いツインブレードを装備し、こちらを見つめる瞳の下には何度も涙を拭った跡が残っている。

 

 

「我が名は■■■■■。絶望、失望、憤怒、復讐……その果てに死した竜」

 

 

 エコーのかかった声と共にツインブレードを構えると、周囲の景色が変化していく。

 円形の大地。雲よりも高い場所に広がる大地の上には星々が煌めき、新たな時代の到来を待ち望む。

 

 

「この涙を越えて行けるのなら、星を()つ者に我が心臓を捧げよう」

 

 

 哀しみに満ち、しかしどこか希望を抱いている瞳は、彼女(・ ・)によく似ていて。

 

 無言のままに、誰もが戦闘態勢を取る。

 

 そして、試練が始まった―――。

 





・『ブリテン異聞帯での遊星』
 ……第一の尖兵はミラルーツ達によって討伐された事から、二回目は破壊に特化したセファールを派遣。地球上の文明を破壊し、さらに世界を見守り続けていた“祖龍”の記録も入手出来てホクホクしながら次の惑星へと向かっていった。

・『壁画の龍』
 ……ブリテン異聞帯のミラルーツ。彼女は神々や人類と共にセファールと交戦するも、力及ばず敗北し、殺された。せめて子ども達だけはと二体の古龍と竜を逃がす事に成功するも、彼女が彼らと再会する事は終ぞなかった。セファール討伐の切り札となる聖剣の完成を信じていたが、その期待ははじまりのろくにんに容易く裏切られてしまった。

・『はじまりのろくにん』
 ……いやまってくださいよほんと。こっちだっていきなりこれつくれっていわれたんです。あなただっていきなりしごとぶっこまれたらなげだしたくなりますよね? それとおなじです。ぼくらはたのしくやりたいんです。せいけんつくれっていわれたっていやなものはいやなんです。だからさぼりました。ぼくらはわるくありません。わるいのはいきなりしごとだしてきたあいつらです。うらむならあのしろいのをたおせなかったあいつらをうらんでください。よかったねしんでくれた、これでしごとはなくなった! なんでだれもいないの? なんでなにもないの? ねぇねぇかみさまおしえて。『はんせい』しろ? ……うるさいしんじゃえ。そうだ、このにんげんもたいせつにしよう。たいせつにきりわけてつかいつづけよう。ぼくらのらくえんをつくるんだ。やったねみんな、これでぼくらたのしんでくらせるぞ!

・『ブリテン異聞帯のアルビオン』
 ……セファールから護るべく、ルーツがディスフィロアと共に楽園へと逃がしたが、地上に出てみると彼女の姿はどこにもなく、また自分達の愛した世界もまた消え去っていた。その後、その原因が聖剣作成をサボったはじまりのろくにんにあると知ると、ディスフィロアに真実を伝える事無く、彼らがケルヌンノスから逃れ繫栄していく頃合いを見計らって襲撃。血を引いているわけではなくとも、目の前で自らの系譜に連なる者、生まれる要因となった者が殺される恐怖を与え続けた後に力尽きた。
 だが、アルビオンの妖精に対する怨念はその末裔であるメリュジーヌには受け継がれなかった。気まぐれに自分を掬い上げたある妖精を見た彼女が、「中身こそ醜いが、それでも自分は彼女に命を与えられた」と感謝したが故に。
 もしアルビオンが力尽きなければ、代表者となるはずだった妖精は彼女によって絶滅させられ、ブリテン異聞帯は発生しなかっただろう。
 
 
 今回の話、なぜか予約投稿しようと思ったらすぐに投稿されてしまいました。7月8日に投稿したのですが、もしその時お読みになった方がいらっしゃったら大変申し訳ございませんでした。

 次回からはアンナ達視点を入れていきます。
 それではまた次回ッ!
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