【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 ドーモ=ミナサン。
 なぜか今になってコードギアスにハマり、今年公開されたロゼを除いたアニメ作品は一通り目を通したseven774です。
 ルルーシュを始め、どのキャラにも魅力があってとても楽しめたので、まだ手を出せていない方は是非見てほしいと思える作品でしたッ! 自分は最初やはりルルーシュとC.C.が好きだったのですが、R2に入ってからジェレミア卿が二人に並び立つレベルで好きになってしまいました……。忠義に厚いキャラクターって大好きなんですよね私。

 皆さんは奏章Ⅲ中編、もうクリアしましたか? 私は中編が短かったのもあり、更新された日にクリアする事が出来ましたッ! そこで元々好きだったニキチッチが大活躍してくれて、しかも恐らく配布になるであろうキャラクターの登場もあって大満足でしたッ!
 後編は明日からとなりますが、今からとても楽しみですッ! というか配布鯖が早く欲しいッ!

 今回はアンナ視点と虞美人視点です。
 それでは、どうぞッ!



再びの変異と決意

 

 バギッ、という音が、戦場に鳴り響く。

 

 度重なる攻防に耐え切れず破壊された槍が魔力の欠片となって消えていく様を視界の端に捉える影の首元に、炎のチャクラムが迫る。

 

 

「ぐ、おぉおおおおおお……ッ!!?」

 

 

 己の首を焼き切らんと迫り来るそれを咄嗟に動かした右手で掴むが、凄まじい熱量に喉から苦痛による叫びが飛び出す。

 竜種の外殻に覆われた右手で握ったチャクラムの刃が既に骨にまで達している不快感に背筋を凍らせながらも、影は激痛を堪えチャクラムを投げ飛ばした。

 

 しかしそんな彼を嘲笑うかのように、四方から続けてチャクラムが飛来。

 彼を包囲する形で動くそれらをほぼ察知能力のみで回避し続け、新たに手に取ったのはダンゴムシを模したハンマー。それを大地に振り下ろせば、そこから発生した暗黒の衝撃波がチャクラム群を吹き飛ばし、霧散させた。

 

 衝撃波によって抉れた大地の中心から走り出した影が飛び上がり、両手で握ったハンマーをアンナ目掛けて振り下ろそうとする。

 だがその瞬間、アンナが右手を影へ翳せば、そこから放たれた激流が彼の体を押し飛ばし、ハンマーの攻撃を阻止する。さらに押し飛ばした先で待っていたのは、超巨大な火球。

 

 自身と比べて十倍程の大きさの火球。そこから放たれる熱量と濃密な魔力に戦慄する。

 

 

(マジか、あれ、疑似的な太陽じゃないか……ッ!)

 

 

 小さくとも本物の太陽に発生する炎の帯(プロミネンス)が見える事からも、それがアンナによって創られた魔力で出来た太陽である事が嫌でも理解でき、影は激流に押されながらも辛うじて動かした左手から魔力光線を発射。ブレながらもなんとか太陽に届いた光線だったが、太陽はその魔力さえも吸収してさらにその規模を増した。

 

 ならばと、影は己を靄に変える。肉体を持たぬ姿となった影は激流から脱出した影がアンナに接近を試みるが、不意に感じた予感に無意識に真横へ飛んだ。

 背後から襲い掛かって来たのは、巨大な火の鳥。フェニックスを彷彿とさせるその鳥から感じられる魔力は、先程アンナが自分を焼き尽くそうとしていた太陽と同じもの。

 

 固定されたものから追尾性の鳥へと変化した太陽が翼を羽ばたかせて旋回し、影を追跡。

 

 幾ら回避しても攻撃を加えても全く意に介さず、むしろその規模と威力を上げて襲い続けてくる不死鳥に嫌気が刺した影は、「こんなところで……ッ」と歯噛みして己の魔力を高め始める。

 

 

「オォオオオオオ―――ッ!!」

 

 

 彼のみでは足りない魔力を、どこからともなく現れて彼に集った蟲達が補う。

 自分達の命など惜しくないのか、一匹、また一匹と落ちては動かなくなる彼らに目を顰めるも、影は今の自分が引き出せる魔力の限界を解き放つ。

 

 不死鳥が影を呑み込む。巨大な炎が弾けた大爆発が起こるが、それは次の瞬間、映像を逆再生するかのように爆発地点に引き戻されていく。

 

 否、引き戻されているのではない。

 それは、吸い込まれていた(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)。真の意味で総てを呑み込み、零へと還す虚無の竜、その力の一端によって。

 

 

「くっ、あぁ……ッ!」

 

 

 不死鳥を文字通り呑み込み掻き消したその力にアンナが身構えた直後、声なき咆哮が衝撃波となって彼女を襲う。

 

 自身が借り受けているオフェリアの体に傷をつけまいと咄嗟に自信を覆うように水の流れを創り出して衝撃波を吸収して態勢を立て直すと、視線の先で膝をつく影が見えた。

 

 

「はぁ……はぁ……っ」

 

 

 先程の現象を起こした事で大きく魔力を消耗したのか、肩を激しく上下させる影。それでも尚彼は立ち上がろうとするが、途中で力が抜けてしまい崩れ落ちてしまう。

 相手が疑似的な太陽を創り出したというのなら、こちらは疑似的といえども本体の力を引き出す。しかし、まだ『大穴』に蓋をされている状態では、引き出せてもたった数秒程度で、それだけでも大量の魔力を使ってしまった。

 

 何度も立ち上がろうとしてまた倒れる影の様子から、彼がまともに戦闘できる状態ではないと判断したアンナが今こそ彼を仕留めるべきだと炎のチャクラムを創り出そうとするも、彼にトドメをさせる程の威力を持っていない事に気付く。また、チャクラムの状態から自身もまた彼と同様に魔力が底を突きかけている事に歯噛みした。

 

 自身のものだけでなく、オフェリアの体からも魔力を調達すればトドメは刺せるだろうが、なるべく彼女に負担はかけたくない。元々、自身の扱う魔術はどれも火力と比例して魔力の消費量が多いのだ。それこそ、現代の魔術師が大魔術を使用する際に消費する魔力と同等か、それ以上の程の。

 そんな魔術を使う為に彼女から魔力を得るのは、気が引ける。

 

 

(ですが、彼女に負担を強いても、彼をここで倒す事が出来れば……はッ!?)

 

 

 オフェリアの体に負荷をかけるか、なんとか影を倒す算段を立てるか。

 思考を巡らせているアンナだったが、離れた地にいる影の様子に変化が起こっている事に気付く。 

 

 

「チ……ッ!」

 

 

 ほんの些細なものであろうとも、魔力を回復させた影が、その身を靄へと変化させていく。すぐにアンナは彼の行動を阻止しようとするも、それよりも先に彼の全身は靄と化して消えていった。

 

 目の前から影が消えた様を見たアンナがなんとか彼を見つけ出そうと周囲を探るが、本当に影がこの場から退去したとわかると警戒を解き、「はぁ」と肺に溜まっていた空気を吐き出した。

 

 

(逃がしてしまいましたか……。……いえ、逃がしてしまった以上、考えは変えるべきですね)

 

 

 あと一歩というところまで追い詰めたというのに逃してしまった事を歯痒く思いながらも思考を切り替える。

 

 

(……この子には申し訳ない事をしてしまいましたね……)

 

 

 先程から体が疲労を訴えかけている。戦闘時は根性で隠し、常に余裕の態度を装っていたが……そろそろ限界も近い。

 この世界に降り立ってから初めての戦闘。それも相手が世界を滅ぼさんとする存在だったために、無意識に魔力を使いすぎてしまった。こうして自分が表に出ていられるのも、後数分といったところだろう。

 

 ならばせめて、先程口にした言葉を現実のものとしなければ。

 

 

「―――事象観測・連結固定」

 

 

 サーヴァントとしての体を有していればよかったが、魂と肉体のない精神(じぶん)では、これが限界だ。

 けれど、残されるものは確かにある。

 

 ルーツの血による変化で竜種の眼になっていたオフェリア(アンナ)の瞳孔を囲むように、青白い靄のような光が宿る。同時、脳裏に流れ込んできた幾つもの未来のビジョンから自身が求める未来を選択し、宣言する。

 

 

O zitternde Zukunft,gib dich meinen Augen hin(揺蕩う未来よ、我が瞳に屈せよ)

 

 

 それは正しき未来を捻じ伏せ、己が望んだ未来へと強制的に結び付ける千里眼。他のグランド・キャスターの資格を有する者達が持つものと同等の『世界を見通す眼』でありながら、自身の意思一つでその在り方を容易く変質させてしまう、同質にして異質の瞳。

 その力が発揮され、彼女の望む未来が本来ならば繋がらないはずの正史と結びつき、『元からそうであったもの』として上書きされていく。

 

 

「……む」

 

 

 彼女が今回選択した未来は、『影によって眠らされたボレアス達が覚醒した未来』。宝具による睡眠は術者が解除するか、その睡眠から覚める為の条件を達成する必要があるのだが、彼女の千里眼はそういった過程の全てをなくし、ただ結果のみが出力される。

 今まで眠っていたボレアスが目覚めたのが、その証拠だ。

 

 

「お前は……」

「お久しぶりです、ボレアスさん。竜大戦以来ですね」

「っ、やはり……。だが、なぜ―――いや、その時間もないか」

「わかりますか。えぇ、申し訳ございませんが……」

 

 

 なぜオフェリアの口から彼女の言葉が出るのか、オフェリアの意識はどこにあるのか。聞きたい事が幾つかあったものの、彼女(アンナ)の気配が薄れている事に気付き質問する時間はないと判断する。

 彼の言葉に申し訳なく思い頭を下げようとするアンナだが、「構わない」と短い言葉で止められる。

 

 

「奴の気配がなくなっている。私達の代わりに相手をしてくれたのだな。手間をかけた」

「そんな、手間だなんて。私はただ、皆さんを護ろうと思って行動しただけです」

「それでもだ。お前が出てきてしまったのは、不覚を取ってしまった私の責任だ」

「そう自分を責めないでください。それよりも、彼らと共に早く行ってください。今の私では、あの厄災を打倒する事は出来ませんでした」

 

 

 次々と起き上がるこの体(オフェリア)の仲間達に視線を向けたアンナにボレアスが頷けば、彼女は「お願いします」と瞼を閉じる。

 瞬間、それまで彼女から感じられていた英霊の気配が消えていき、本来の人間の気配が感じられるようになってくる。

 

 力なく倒れかけた彼女の体を支えたのは、シグルドだった。

 

 

「ボレアス、先程まで感じられた気配、あれはまさか……」

「彼女の中にいる英霊のものだ。我々の代わりに戦ってくれていた」

「ん、うぅ……」

「っ、マスター」

 

 

 小さく身動(みじろ)ぎしながら目覚めた主の視線が、自分を抱き止めていたシグルドの視線と交わる。

 

 

「シグ、ルド……。私、アンナになってたの……。でも、怖くはなかった……それどころか、懐かしい感覚だったの……」

 

 

 自分が自分ではなくなる感覚。それは普通であれば、気味の悪いもののはずだ。自分にしか操れないはずの肉体が、魔力が、自分とは別の存在に操られるのだから。

 

 けれど、オフェリアはそういった気味の悪さは感じず、むしろ懐かしさを覚えていた。

 まるで数年ぶりに親友と出会ったかのような、故郷に戻った時のような、そんな感覚だった。

 また、オフェリアはその時、剥き出しの剣が鞘に収まるような、バラバラに分かれていたピースがピタリとハマるかのような感覚も同時に感じていた。

 

 先程自分が口にした『懐かしい』という言葉はきっと、自分がアンナ・ディストロート・シュレイドの転生体からなのだろうか。肉体は自分のものであったも、その入れ物である魂はかつて彼女だったからこそ、そのような気持ちになったのだろうか……。

 

 

(……マスター、それは……)

 

 

 しかし、シグルドは彼女の言葉に苦しそうに瞼を伏せた。

 己の主が、徐々にヒトの形から離れていっているのが否応なしに理解できてしまったから。

 

 漂白されたとしても同一の魂。かつての自分の存在に懐かしさを覚えるのは仕方ない事だ。

 だが、今の彼女は少しずつ、それでも確実に、人間の『オフェリア・ファムルソローネ』から離れている。彼女を救う為のルーツによる輸血とアンナ・ディストロート・シュレイドの召喚という二つの要素が、救われたはずの彼女を人ならざる者へと作り変えてしまっている事実が、彼の心に小さな傷をつけていた。

 

 

「シグルド……?」

「っ、どうした」

「……いえ、なんだか、苦しそうな顔をしていたから」

「心配はいらない。少しだけ、奴から受けたダメージが残っていただけだ」

「そう……」

 

 

 なんとなくだがはぐらかされた事に気付くオフェリアだったが、彼の表情から追及するのはやめるべきだと判断し、一度深く呼吸する。

 

 

「少し……疲れたわ。休んでもいいかしら……?」

「是非そうしてくれ。その間は僕達が戦う。眠りこけてた分は取り返すさ」

 

 

 ボレアスとシグルドよりも少し遅れて目覚めたカドックが歩み寄り、拳を握り締める。

 

 

「僕らが眠っていた間になにが起こっていたのかは後で聞かせてもらう。だから、今は休んでおけ」

「ありがとう……」

「では、私達は姉上含めた者達への援護へ向かう。体力も魔力を消耗しているのなら、奴が戦場に戻ってくるまでに時間がかかるはず。その前にベリルかアルトゥーラ、マキリ・ノワを討伐するぞ」

「わかった」

 

 

 ボレアスがカドックとアナスタシアを連れてその場から離れた後、シグルドは抱え上げたオフェリアを緩やかな傾斜に寝かせる。

 

 少しでも疲労を回復できるように体勢を変えた後に空中にルーン文字を幾つか書き込むと、彼と主を覆うように優しい緑色の光を帯びた正方形の結界が出現した。

 

 

「回復の術式を組んだ結界だ。魔力の回復も早まる」

「助かるわ……。本当に万能ね、神代のルーン魔術」

「否定。限りなく万能には近いだろうが、万能ではない。たとえ大神オーディンが創り出したものであろうとも、それは変わらない」

 

 

 かつて多くの信仰を集めた神々が地上を去ったように、北欧異聞帯で多くの神々がたった一人の巨人に滅ぼされたように。世界の上位に君臨する者達でさえ、その時が来れば消え去る。

 その神が創ったものも同様だ。如何に万能に近いものであろうとも、完璧なものではない。

 

 

「だが、この程度のものであれば問題はない。安心して休め」

「えぇ、そうさせてもらうわ……」

 

 

 自分の為に行動を起こしてくれたサーヴァントの言葉に甘え、少しでも回復に努めようと横になろうとして―――

 

 

「う、ぐ……ッ!?」

「マスターッ!?」

 

 

 突然オフェリアの体が跳ね上がり、苦悶の声を漏らし始める。それにシグルドが咄嗟に彼女の体に触れるも、彼女から溢れ出した魔力が緋色の雷となって彼の手を弾いた。

 

 掌どころか肘にまで走る痺れに顔を顰めるが、シグルドは即座に追加でルーン魔術を使用。対象の痛みを和らげる効果の魔術が発動し、オフェリアの身を襲っているであろう痛みを軽減する。

 蹲って痛みに悶えていたオフェリアの声が少しだけ落ち着きを取り戻し、やがてゆっくりとだが安定していく。痛みはほんの十数秒程度続くものだったのだろうが、疲労で消耗していたところを不意に襲われた彼女にとっては恐ろしいものだったはずだ。

 

 腕を抑えたオフェリアが再び仰向けになって呼吸を落ち着かせている間に、シグルドは彼女の様子を確認し、驚愕に目を見張った。

 

 「失礼する」と一言断ってからシグルドが彼女の右手をどかし、今まで抑えられていた左腕を露にする。

 

 

「これは……」

 

 

 シグルドが目にしたもの。

 それは白い龍の鱗が生えた、オフェリアの左腕だった―――。

 

 

 

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 潜る。潜る。潜る。

 ただ只管に、永遠に光の射さぬ肉の道を突き進む。

 

 

(なんて……深い……)

 

 

 仲間の愛用する武器を取り戻す為にその中へ自ら入り込んでいった虞美人は、アルトゥーラの体内に渦巻く呪いを堪え、意識の手綱を握り続ける。

 

 己の肉体など、アルトゥーラに喰われた段階で細切れにされた。大地と瓦礫、牙、そして呪いの激流。それらによって刻まれた肉体が、無事であるはずがない。下手をすると、ミンチよりも酷い有り様かもしれない。

 

 それでも、彼女の意識が途切れる事はない。

 元より、彼女は姿(カタチ)を持たぬ精霊種。虞美人という名も、この体も、長い時の中で得たものに過ぎない。人間のように常に肉体を持っていたらなば今頃とっくに死んでいたであろうが、精霊種である彼女ならば、この呪いの渦の中でも意識を保てる。

 尤も、それでも気を抜けば周囲の呪いに汚染され、取り込まれてしまう事に変わりはないのだが。

 

 

(この呪いの総量……少なくとも百年どころの話じゃないわね……。千年、いえ、一万年前後の……)

 

 

 周囲で絶え間なく蠢く呪詛に内心で戦慄する。

 愛する男が斃れ、自分の存在を疎んだり捕獲しようとしてくる人間達と嫌と言う程関わってきた自分が保有する呪いの力は、多くても精々3000年。単純計算で三倍近くの濃度を誇る呪いを真正面から相手にするのは得策ではないが、入り口が一つしかないのだから飛び込むしかなかった。

 

 

(でも、アルトゥーラが司る力は凶光……狂気のはず。呪詛なんて、私の知る個体にはなかった……)

 

 

 遥か古代の時代。まだ名前も肉体も有さず、ただ世界に漂う精霊達の一体だった頃。

 他の同胞とは違う、黒い翼を持つリオレウスに跨ったライダーが仲間達と共にアルトゥーラと戦っていた時の記憶を思い起こすが、当時のアルトゥーラが呪いの力を使う事はなかった。生命の危機に瀕して尚使わなかったという事から、あの個体は元々呪いの力を持っていなかった事がわかるが、今自分を飲み込んでいるアルトゥーラは呪いの力を使用している。

 

 そこから推察するに、恐らくこの龍は外部から呪いを取り込み自身の力へと変えている。

 

 だが、そこで気になる疑問が浮かんでくる。

 

 

(でも、こんなに膨大な呪い、いったいどこから……)

 

 

 凶光こそこの古龍が扱う本来の力。そこへ追加された呪詛は、アルトゥーラ自身が精製したものではなく、どこか外部から取り込んだ力。そこまではわかった。だが、この呪いの根源はどこから? こんなにも膨大な呪詛なのだから、その出所など簡単にわかるはずなのに、しかし。

 

 

(この状況で二つの目的を持ったら、それこそ取り込まれる……ッ!)

 

 

 今はこの奥にあるかもしれないプロフェッサー・Kの杖の捜索を優先すべきだ。二兎を追う者は一兎をも得ずという諺があるが、今の自分に置き換えれば、兎を得られないばかりか自分の存在すら掻き消されてしまうだろう。

 そもそも周囲に満ちる呪詛があまりも濃すぎて、出所を探れるはずもないのだ。根源こそ気になるが、それはここから脱出した後、幾らでも探ればいい。

 

 ……呪いの量が濃くなってきている。あの花弁のようなアギトから入り込んでどれだけ進んだのかはわからないが、それなりに深くまで進んだようだ。

 

 

(っていうか、本当にどこにあるのよ。ここまで来て『砕かれてました』なんて冗談じゃないわよ……っ)

 

 

 意識が少しずつ薄れてきている。感覚も同様になくなってきているのが嫌でもわかる。

 巨人に飲み込まれた獲物が胃液に消化されていくように、これ以上ここに長居してしまっては、本当に取り込まれてしまう。

 

 徐々に募っていく焦燥感を感じながら進んでいると、ほんの僅かに呪いの流れが乱れている場所が近づいてきているのに気付いた。

 

 あれは、と思ってそこへ意識を向ければ、四方を覆う肉壁に突き立つ、一本の杖があった。

 

 

(見つけた―――ッ!!)

 

 

 瞬時に意識を切り替え、己の魔力を固定化させて杖を握る。

 容易く肉壁から引き抜かれた杖を抱え、流れに任せて戻っていく。

 ひたすら逆行していたこれまでとは違い、凄まじい速度で入口(でぐち)へと戻っていく。

 

 このまま進めば、それで目的は達成される。だが、それとは別に、虞美人は苛ついていた。

 

 

(私を取り込もうとしたお返し、させてもらうわよッ!!)

 

 

 アルトゥーラにとっては無意識の行為だとしても、自分を取り込もうとした事は許せない。自分は愛する彼の、項羽の下へ帰るのだ。異聞の存在であろうともう一度出会えた彼と共に在る事を邪魔する奴は、誰であろうと容赦しない。

 

 杖を魔力の箱で覆ってこれから自分が起こす行動の巻き添えを喰わぬようにし、肉体を形成。呪いの流れが少しずつ緩くなっているために擦り潰される事はない。

 次いで己の魔力を高め、呪いが堰き止められている牙の壁に触れる直前。

 

 

「ハ―――ッ!!!」

 

 

 臨界に達した魔力を、己の肉体ごと解き放つ。

 肉体という箱を容易く内部から破裂させて溢れ出した、精霊種である彼女の膨大な魔力量によって威力を増した呪詛の嵐。それがいきなり口元で起きたアルトゥーラの思考は、驚愕と困惑に支配された。

 

 

「ギゴァアアアアアアア―――ッ!!?」

 

 

 閉じていたアギトを無理矢理開かれたアルトゥーラが苦痛と驚愕の叫びを轟かせる。

 天を衝くように聳えているアルトゥーラの叫びは最早、至近距離においては最早音の常識を超えている。衝撃波となったそれによって吹き飛ばされた肉片が磁石のように互いを引き寄せ合い、虞美人の体を再構成する。

 

 

「ぐっちゃんッ!」

 

 

 魔力の箱で包み込み自身の爆発から護り抜いた杖を手に取った彼女を、背中から伸ばした翼を広げたルーツが受け止める。

 口元で発生した虞美人タイフーンに悶える触手に代わってもう一本の触手が彼女達を捕食しようとするが、グリムとカイニスによって防がれる。

 

 二騎の英霊に感謝の念を抱きながら着地したルーツが虞美人を下ろして「大丈夫?」と訊ねると、虞美人は少し肩を上下させながらも頷いた。

 

 

「大丈夫よ……だけど、ちょっと無茶したかも……。それより、これ持ってきたわよ……」

 

 

 押し付けるようにルーツに杖を覆う魔力の箱を渡せば、彼女は杖に纏わりつく呪いの濃さに目を見開いた。

 

 

「凄い呪い……まずはこれを消さないと。バルカン、グリム達と協力してアルトゥーラを抑えてて」

 

 

 頷いたバルカンがグリム達に協力すべく飛び立ち、ルーツは緋色の雷を纏わせた掌を杖に向ける。

 掌から放たれた雷が杖に纏わりつく呪いを消している間に、虞美人はその場に腰を下ろして少しでも体力を回復させるべく呼吸を整え始める。

 

 

「ぐっちゃん、まずは体力を回復させて。それと、再生ミスってるよ。肩幅広すぎッ!」

「いいわよそんなの。どうせまた爆発するだろうし」

「項羽殿の前で、貴女はまた己が身を破裂させるのですか?」

「それは……」

 

 

 蘭陵王に痛いところを突かれて虞美人が言い淀むと、「はぁ」とルーツが彼女の体躯に不釣り合いな肩から顔へ視線を向ける。

 

 

「とりあえず、体の事は後にするとして。今は休む事を優先してねッ!」

「そうね。……あ、待って」

「どうしたの?」

「実は……」

 

 

 視線は杖に向けられているが、それでも彼女が真剣に自分の言葉に耳を傾けていると感じた虞美人が、ルーツにアルトゥーラの体内で感じ取った呪いについて伝える。

 

 

「……なるほどね。確かに、あの子に呪詛の権能(チカラ)は与えてないし、私には与えられない。ただ世界を滅ぼすだけの力は、大元の私にもないからね。それはきっと、あの子が生まれた世界でも同じはず」

「わかるの? あいつが、貴女が創った(産んだ)龍じゃないって」

「うん。纏う気配とかが、汎人類史のあの子とは違ったから。で、君が感じたっていう呪いの事なんだけど―――」

「―――それなら知ってるぜ」

 

 

 ルーツと虞美人の会話に割り込む声が一つ。

 木製の杖を突き立てて己の体をその場に固定させたグリムは、足元に魔法陣を描きながら続ける。

 

 

「あいつが今尚取り込み続けている呪いの根源。そいつの名は獣神ケルヌンノス。この世界に最後まで残り続けた唯一の神だ」

 

 

 脳裏で術式を瞬時に組み上げ、魔法陣で術式の極限まで強化。巨大な魔力光線をアルトゥーラへ発射しながら、グリムは呪いの根源の名を告げた。

 

 

「ケルヌンノス……? でも、あの子は……いや……」

 

 

 彼からその名を伝えられたルーツは、そっと目を伏せた。

 

 汎人類史にもケルヌンノスはいた。モフモフとした白い体毛に包まれた巨大な体を持っていた、心優しい神だった。いつも「のすのす」と言っていた彼がこのような呪いを放つとは思えなかったが、ルーツはなんとなくだが察してしまった。

 きっと、彼は裏切られたのだろう。このような呪いを放つまでの出来事が、この世界の過去に起きたのだ。

 それがなにかはわからない。自分達にそれを知る術はないし、知る猶予もない。

 

 出来る事ならば彼と会話して当時の出来事を聞き出したいところだったが、この呪いは流石に看過できないし、彼の生命の気配も感じられない。

 

 ならば、倒すしかない。阻止する他ない。

 

 ―――彼の呪いで、世界を滅ぼさせるわけにはいかない。

 

 

「みんな、一秒でも早く、アルトゥーラを倒すよ。あの子に、ケルヌンノスの呪いは渡せない」

 

 

 鋭く吐き出された言葉は、彼女から離れた場所にいた者達にも自然と届く。彼女の言葉を受けた者達は、誰もが「当然」とばかりに頷き、今まで以上の火力でアルトゥーラの触手を攻撃し始めた―――。

 





・『アンナの千里眼』
 ……未来を見通すだけでなく、それに干渉して自身の望む未来を今の時間に繋ぎ合わせる力を持つ。繋ぎ合わされた未来は『元々そうであったもの』として世界に認識されるため、抑止力の対象にならない。だが、一度接続した未来は使用者本人であっても変更する事はできないため、その危険性から彼女がこの千里眼を使った回数は生前含め片手で数える程度しかない。

・『オフェリアの左腕』
 ……ルーツの血による変異を抑えていたアンナの魔力の内、精神に宿っていた彼女の力が弱まったために変異。ルーツのものと酷似した腕へと変異してしまった。

・『ルーツが子孫に与える権能について』
 ……彼女がボレアス達子孫に与えられる権能は、そのほとんどが自然や地球に由来するものとなっている。しかし、外部から力を取り込めば地球外の概念を含んだ眷属(しそん)を創り出す事が出来る。また、死後に伝説や御伽噺となり英霊の座に招かれた場合は、人々の認知によって新たな権能を獲得する事もある。

・『ルーツとケルヌンノス』
 ……まだ神々がいた北欧に時折訪れていたルーツは、汎人類史ケルヌンノスと幾度か会話する機会があった。大抵語尾や出だしに「のす」と言う心優しい彼はルーツとしても好みだったのだが、妖精國ではそんな彼が呪いを放つようになっている事に驚愕していた。
 死神の側面を持ってはいるが、狩猟と動物達の神でもあるので、長らく地球の生命や自然を見守ってきた彼女としては親しみやすかったのもある。


 最近お気に入り登録者数がじわじわと増えており、嬉しさと共に困惑を覚えています。皆さん、本当にありがとうございますッ!
 少しずつ気温が夏から秋に変わりつつありますね。皆さんも体調管理に気をつけて、残り三か月半となった2024年を楽しみましょうッ! 一年の流れは本当に早いですね……。
 それではまた次回ッ!
 
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