ドーモ=ミナサン。
一昨日ディズニーに行くものの昼頃から夜にかけて腹痛に悩まされたため満喫できなかったseven774です。
仕事で疲れやストレスが溜まっていたのか、以前罹ったストレス性胃腸炎と同じような痛みが出たのもあって、仕事場や自分用へのお土産を一つも買えなかったのが本当に惜しいです……。今回の戦利品と呼べそうなものがまだ絶不調じゃなかった午前中に買ったポップコーンだけですよ……。
幸い明日は休みなので、あさイチで病院に行ってお薬貰います。日曜日には数年ぶりに博麗神社例大祭に参加するので、こちらは絶対に万全の状態で楽しみたいですからねッ!
それでは不調になりながらも書き上げた今回、どうぞッ!
日輪の輝きを失い、代わりに呪いを反転させた黒々と燃える炎を纏った巨剣が高々に掲げられ、振り下ろされる。
それだけで周囲の大気が瞬く間に熱せられ、木々が灰となって燃え尽きていく。巨大化した剣を扱う為に自身も巨大化しているバーゲストの膂力は、それに伴ってさらにパワーアップ。先程までとは比べる事すら烏滸がましい程の力量差によって齎された一撃は、直線状に一本の巨大な斬撃痕を刻み付けながらゴア・マガラへと接近していく。
「―――ッ!!」
ゴア・マガラは、即座に回避行動を取った。
防御などという選択肢を取ったが最後、戦いが終わる。終わってしまうと悟ってしまったから。己の
しかし、バーゲストはゴア・マガラが回避する事は元からわかっていた。わかっていながら、敢えて予備動作を大きめにしてから単純な振り下ろしを行ったのだ。
……尤も、その単純な振り下ろしの結果として、彼女の直線状には10kmに及ぶ溶解した道が出来上がったわけだが。
「躱すのですか? 貴女らしくもありませんね。寧ろこういった攻撃こそ、貴女は逆転の布石に加えると思ったのですが」
鋭く尖った犬歯を見せ、嘲笑するかのように訊ねる。
それを聞いた瞬間、ゴア・マガラがあからさまに怒気を漲らせた様子で魔力のオーラを立ち昇らせた。
その様子を見て、バーゲストは「やはり」と心中で合点がいった。
この戦いの中で、時折思う事があった。どこかが違う。なにかがおかしいと。
そして、先程の攻撃でその違和感が解消された。
(中途半端なのですね、貴女は)
それは、混沌の竜の戦い方だった。
確かに、戦闘技能はカリア由来のものなのだろう。彼女が竜であった場合にどう戦うのかをほぼ完璧に把握し、実行している。苦しめられるのも当然だ。だが、あの竜の行動には、所々に『生物としての本能』が根拠となるものが混ざっていた。
例えば先程のような、自らの命を脅かす攻撃は回避するといったものだ。
その決断は正しい。サーヴァント相手にこう言うのは些か違うかもしれないが、生きる為に危険から逃れるのは当然の事だからだ。
だが、あの混沌の竜は真の意味で
自分が勝つか負けるかなどどうでもいい。ただ、戦いたい。殺したい。その為なら、自らの命すら平気で投げ捨てる。天秤にかける事すらせずに自らの手で放り棄てる。
それこそが彼女であったというのに、混沌の竜は生存本能に囚われていた。
―――生存本能に囚われたカリアなど、彼女ではない。
「来なさい、半端者。私がお相手して差し上げますわ」
「キシャハハハハハハッッッ!!!」
笑い声に似た声とは裏腹に、怒りに染まった咆哮が轟く。
大地に爪痕を残し、溶解した道を蹴散らしながら迫り来るゴア・マガラが右翼爪を振り上げる。
凶気と凶光のオーラを帯びた爪による一撃を、しかしバーゲストはそれが振るわれる直前に片手を掲げて軽く受け止める。
勢いが乗る前に殺されてしまった爪など、ただ振り上げられただけ。容易く受け止めた右翼爪を振り払い、拳でゴア・マガラを殴り飛ばしたバーゲストは巨剣で袈裟斬りを行う。
殺しはしない。自分達の為すべき事は、この竜を弱らせ、絆石の力で浄化させる事だ。
ただ少しの間だけ、生死の狭間を彷徨ってもらうだけだ。その程度の事で彼女は死なないし、寧ろ歓喜の声を上げて蘇ってくれるだろう。
炎の斬撃を受けたゴア・マガラが食い縛った牙の隙間から呻き声を漏らし、距離を取る。目の前に立つバーゲストの威圧感に圧されて僅かに後退するものの、すぐに己を奮い立たせるように吼えて飛び掛かってくる。
真横に回避したバーゲストはすれ違い様に巨剣を振るう。
灼熱の刃に焼かれる嫌な感覚を覚えながらもゴア・マガラはブレスを発射。至近距離から放たれたブレスはバーゲストの顔面に直撃し、黒煙を生み出す。
無意識にブレスの爆発から網膜を護るべく瞳を閉じてしまったバーゲストに、ゴア・マガラの尻尾が迫る。
鞭打に近い要領で振るわれた尻尾による一撃が右手首に当たり、思わず巨剣を取り落としてしまう。武器を手放してしまったバーゲストに再度ブレスが直撃して数歩後退りするが、彼女はすぐさま態勢を立て直して走り出す。
「キシャハハハハッッ!!」
「ハァアアアッッ!!」
大地を揺るがし、渾沌と黒獣が激突する。
互いに相手を組み伏せるべく取っ組み合う中、ゴア・マガラを中心に青黒い爆発が起こる。ウィルスを爆破させたのだ。零距離から行われた爆破に堪らず彼女から距離を取ろうとしたバーゲストだが、咄嗟に片足を後ろへ引いて態勢を整える。
このまま押し倒さんとばかりに体重をかけてくるゴア・マガラに対し、バーゲストは両腕をその胴体へと回し―――
「こん、のォオオッ!」
渾身の雄叫びと共に、その巨体を投げ飛ばした。
投げ飛ばされたゴア・マガラは背中から大地に叩きつけられるも、即座に体を反転させて起き上がり、二色のオーラを帯びた翼爪を振るう。
それを片腕を掲げて防御したバーゲストが左手を握り締めて突き出す。
頭部目掛けて繰り出される正拳突き。だが、それが頭部に突き刺さる瞬間、ゴア・マガラは開いたアギトからブレスを発射。拳とブレスが激突して起こる爆発によって今度こそ両者が引き離され、次の行動への猶予を与えられる。
己を拘束しようとするバーゲストの左手から伸ばされた鎖を飛翔して躱したゴア・マガラは、翼を羽ばたかせて滑空しながらブレスを発射。咄嗟に右腕を掲げて次々と着弾するブレスを受け止めるバーゲストは、自身が黒煙に包まれた瞬間を狙って突っ込んできたゴア・マガラを横跳びで避け、取り落としてしまっていた巨剣を拾い上げる。
すれ違い様に叩き落そうと巨剣を振るうも、一秒早くゴア・マガラが通り過ぎてしまい空振りに終わる―――そう思われたその瞬間。
「殴れメリュジーヌッ!」
叫んだバーヴァン・シーがゴア・マガラの前方にハート型の装飾が施された爆弾を放り投げ、メリュジーヌが拳を振り抜いた衝撃波で爆発させる。
「―――ッ!」
眼前で起こった大爆発に思わず急停止したゴア・マガラ。だが、それが失敗だと悟る頃には時既に遅し。尻尾に鎖が巻き付き、一気に引っ張られる。
抵抗しようと翼を羽ばたかせようとするも、それよりも先手を打ったバーゲストの方に分があり、地上に引き落とされたゴア・マガラはそのまま彼女にジャイアントスイングの要領で投げ飛ばされ、何本もの木々を薙ぎ倒していく。
全身に砕かれた木々の欠片や土を付着させたゴア・マガラが起き上がると、今度はその首に鎖が巻き付く。
「貴女のその力―――返させて頂きますわッ!」
「グ……ギシャァア……ッ!?」
バーゲストが鎖を握る手に力を込めた直後、ゴア・マガラの全身を不快な脱力感が襲う。
己に宿る力、否、外部から取り込んだ力である魔力喰いの能力が、鎖を伝って本来の持ち主へと戻っていく感覚。まるで脈動する心臓が血液を送り出すように赤黒い光が鎖からバーゲストの下へ向かっていき彼女の魔力が高まるにつれて、対照的にゴア・マガラは力を失っていき抵抗する力を少しずつ奪われていく。
「く、うぅ……ッ!」
だが、ゴア・マガラが脱力感に苦しむ中、バーゲストもまた苦しみの中にいた。
これまで
日常生活の中で自分が抑え込んできたものとは比べ物にならない程の飢餓感。食い縛った歯の隙間から唾液が溢れ、視界が真っ赤に染まっていく。
今すぐになにかを食べたい。食べて、食べて、食べて、食べ尽くしたい。
筆舌に尽くしがたい空腹と、留まる事知らぬ食への渇望。
カリアやモルガンの存在がなければ、瞬く間に呑まれ、護るはずだった國を滅ぼしかねない衝動を―――
「効かない……ッ! この程度の飢餓なんて……効かないですわぁあああああッ!!!」
それを上回る圧倒的な理性で、捻じ伏せる。
瞬間、自身を苛んでいた飢餓感が一瞬で消え去り、代わりに膨大な魔力となって彼女を後押しするように、ゴア・マガラに残った最後の魔力喰いの力を奪い取った。
「ギ、シャァ……ッ!」
「今ですわッ! 妖精領域展開、ファウル・ウェーザーッ!!」
遂に己に宿っている力の内の一つを完全に奪われたゴア・マガラが片前足を折った隙に、バーゲストは自身が数百年前の戦争で取り込んだ妖精の力を行使する。
彼女の叫びに呼応して出現するのは、半透明の大聖堂。三騎の妖精騎士を囲うように姿を現したそれに、脱力感を無視して鎖を噛み千切ったゴア・マガラがブレスを放つ。だが、撃ち出されたブレスは大聖堂の壁の前に儚く霧散するだけに終わり、お返しとばかりにそこから飛び出したメリュジーヌの双剣がゴア・マガラの全身を斬りつけていく。
瞬く間に全身に刻まれた斬撃痕から鮮血を噴き出したゴア・マガラを、今度はバーヴァン・シーの狙撃が襲う。
凶気と凶光を祓う絆石の力を纏った狙撃を受けたゴア・マガラの全身に幾つか青色の光が灯るが、即座にそれを掻き消そうとどこからともなく黒と赤のオーラが注がれ始める。
だが、それを許す者はこの場に誰一人いない。
「うぉおおおおおおおッッッ!!!」
雄叫びと共に走り出すのはバーゲスト。二色のオーラに纏わりつかれたゴア・マガラが狂笑にも似た咆哮を上げて彼女を吹き飛ばそうとブレスの連鎖爆発を起こすが、大聖堂の幻影を正面に走る彼女には効かない。
「カリアを、放しなさいッ!」
怒号、振り下ろし。
巨剣による一撃は、しかしゴア・マガラの眼前の地面に繰り出され、凄まじい衝撃波と熱風を発生させて二色のオーラを掻き消す。
堪らずオーラと共に吹き飛ばされかけるも両翼爪を地面に突き立てて停止したゴア・マガラに、バーヴァン・シーが飛び掛かる。
「カリアァアアアアアッッ!!」
フェイルノートを消し、代わりに取り出すのはハート型の装飾が施されたハンマー。絆石の光を帯びたそれを振り被ったバーヴァン・シーは、その魔術の名を口にしようとして―――
「バーヴァン・シーッ!」
別の場所で戦っているはずの、母の声を聞いた。
(お母様……ッ!?)
なぜこのタイミングで、と声の聞こえた方向へ視線を向けたバーヴァン・シーが見たのは―――暗黒。
それは、正しく黒が凝縮した砲丸だった。
それは、正しく死の具現化だった。
それは―――凶気を操る、暗黒の古龍種だった。
「グォオオオオオオォォォッッッ!!!」
直撃する。そう思った刹那、真横から咆哮を上げてもう一体の龍が暗黒の古龍を突き飛ばした。
巨大な龍同士の激突で発生した衝撃に吹き飛ばされたバーヴァン・シーが地面を転がって態勢を立て直すと、目の前に自分を護るように一人の女性が降り立った。
「怪我はありませんか、バーヴァン・シー」
「お母様ッ! カリアが……ッ!」
「……えぇ、承知しています。その絆石の力ならば、あのオーラを浄化できるはずです」
モルガンがハルバードの柄頭で地面を小突くと、バーヴァン・シーの右手首に装着された絆石から二筋の光が伸び、バーゲストとメリュジーヌに注がれていく。
「絆石の力を彼女達に伝播させました。即席のものですが、効果はあるはずです」
「ありがとう、陛下」
「これなら私達でもカリアを救えますッ!」
青い光を纏った武器を構えるバーゲスト達。しかし、そのような事をマキリ・ノワが許すはずがない。
「グギャアアアアアッッ!!」
自身を相手取っているディスフィロアをブレスで吹き飛ばし耳障りな雄叫びを上げた瞬間、マキリ・ノワを中心に黒紫色に染まった結晶が出現。それが妖しく光を発して絆石の力を奪い取ろうとするが―――
「そんなもの、効きませんわッ!」
そこで、バーゲストの展開したファウル・ウェーザーが活きる。
奪われかけた絆石の光は大聖堂の護りによってその輝きを欠片も損なわず、それがマキリ・ノワの神経を逆撫でする。
ならば、とマキリ・ノワは結晶の輝きを強め、ゴア・マガラへと注ぎ込んだ。
「ギシャァアアア……ッ!」
「カリアッ! テメェッ!」
「グギャァアアアアアアアアッッッ!!!」
あと少しというところでゴア・マガラに再び凶気を注がれてしまった事に青筋を立てたバーヴァン・シーだったが、直後にマキリ・ノワが響かせた咆哮に咄嗟に耳を抑えてしまう。
瞬間、周囲から彼の咆哮に応えるように幾つもの咆哮が聞こえ、続いて何十発ものブレスが降り注いできた。
「させませんわッ!」
迎撃に動くのは、バーゲスト。
彼女の膂力で振るわれた巨剣から飛ばされた炎の斬撃が上空から降り注ぐブレスを打ち消し、女王達を護り抜いた。
「陛下、今のは……」
「周囲にいた“黒蝕竜”を呼ばれたようですね。来ますよ」
彼女の言葉をそのまま表すかのように、上空から無数の影が近づいてくる。
そうして現れたのは、数十体もの影の“黒蝕竜”達。それも、マキリ・ノワや結晶から溢れ出した妖しい輝きが注がれた事で凶気化している状態の者達だった。
「チッ、余計な事を―――あっ、おい待てッ!」
「逃がすか―――ッ!」
厄介な事をしてくれる、と舌打ちしたバーヴァン・シーだったが、直後にカリアの変異したゴア・マガラが翼を広げてどこかへ飛び去って行こうとするのを見て思わず叫ぶ。真っ先に動いたメリュジーヌが刺突を繰り出すが、ゴア・マガラは自身の翼爪を彼女の剣に添わせる形で受け流すと同時、翼を羽ばたかせて滑空していく。
それを追っていくメリュジーヌ同様、彼女を逃がしてはいけないとバーヴァン・シーがフェイルノートを構えようとするが、その瞬間、危機を察知した体が無意識にその場から飛び退く。直後、巨大な影が大地を削っていった。マキリ・ノワに呼び寄せられた凶気化“黒蝕竜”の一体が急降下攻撃を仕掛けてきたのだ。
「グギャァアアアアアアアアッッ!!」
ここから先には行かせない。
まるでそう言うかのように咆哮を上げたマキリ・ノワと共に、“黒蝕竜”達が迫り来る。
周囲から自分達に襲い掛かってくる古龍と竜達。しかし、彼らとバーヴァン・シー達の間を遮るように現れた防壁が、彼らの攻撃を弾いた。
「バーヴァン・シー。ここは私とディスフィロアに任せて、貴女はバーゲスト達と共にカリアを追いなさい」
「お母様はッ!?」
「この程度の敵、マキリ・ノワ共々すぐに倒して追いかけます。今から防壁を解除しますので、その後すぐに走りなさい。振り向いてはいけませんよ?」
「……はいッ!」
「バーゲスト。彼女をお願いします。失敗は許しません」
「もちろんです、陛下。この命に代えても」
「頼もしい限りですね。では……解除しますッ!」
モルガンが防壁を解除した瞬間、バーヴァン・シーとバーゲストが走り出す。
防壁が消滅した影響で勢い余ったマキリ・ノワ達が態勢を立て直す間にその下を走り抜けていったバーヴァン・シー達。すぐに彼女達を追うべく動き出した影の竜達だが、次の瞬間、その行く手を阻むように今度は地上から炎の壁が出現した。ほとんどの竜達がそこで立ち止まるものの、中にはその壁を無理矢理通り抜けようとする竜もいたが、その竜は炎に
それは、不定形の炎に非ず。常に形を定めぬ燃え盛る炎でありながら、永久凍土が如き頑丈さを誇る障壁であったのだ。
ドーム状に展開されたそれに自分達ごとマキリ・ノワ達を閉じ込めたモルガンとディスフィロアに深い感謝の念を抱きながら、バーヴァン・シーは上空を見上げる。
(クソッ、
既にカリアが変異したゴア・マガラは上空の遥か彼方。最早フェイルノートで攻撃できる距離ではない。この中で唯一空でも自由に行動できるメリュジーヌが追おうとしているものの、またどこからともなく飛んできた、マキリ・ノワに凶気化を施された何十体もの影の竜達がその行く手を阻んで中々抜け出す事が出来ないでいる。その間にも
地上にもまたどこからかやって来たのか、上空程ではないものの影の竜の群団がおり、自分を圧殺すべく襲い掛かってきている。
自分一人では切り抜けるのは難しいこの状況を、いったいどうすべきか―――歯噛みしながらそう思っていると。
[そこを、
脳内に直接響くような怒号と共に、バーヴァン・シーの頭上を巨大な影が通り過ぎていく。
彼女の目の前に着地したそれは、全身が黒い炎で構成された巨大な獣。犬にも似た外見を持つその獣は、襲い来る影の竜達を牙と爪で薙ぎ払い、黒い稲妻を放って牽制した。
先程の声や獣から感じ取れる気配から、それが何者なのかを察したバーヴァン・シーは思わず口角を上げた。
[乗ってくださいましッ! 飛ばしますわよッ!]
「助かるッ!」
妖精騎士バーゲスト、魔犬形態。
燃え盛る黒炎で出来ているはずの背中は飛び乗ったバーヴァン・シーを優しく包み込み、相手から吸収した魔力で傷を癒し始めていく。
「スゲェ……スゲェぜ、バーゲストッ!」
[お褒めに預かり光栄ですわ。行きますわよッ!]
「おうッ! テメェら、邪魔すんじゃねぇッ!」
一歩踏み出す度に黒い稲妻を周囲へ散らしながら、バーヴァン・シーを乗せた魔犬は駆けていく。
姫を護る為に。彼女の大切な狩人を、取り戻す為に。
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時は少し遡り、妖精國某所。
身をくねらせるアルトゥーラの幼体の触手と交戦するルーツ達は、これまで以上の猛攻に出てきた触手に攻めあぐねていた。
「うぉっとッ!」
触手が動く余波で飛んできた木々を躱したルーツは、このままでは折角虞美人が決死の行動で持ち出してくれた杖の解呪が出来ないと判断し、少し離れた位置にいたKに叫ぶ。
「ごめんKッ! 少し時間かかるッ!」
「構わないともッ! こっちだッ!」
「うわわッ!?」
杖を緋雷の結界で覆って浮かばせたルーツの左手を急接近したKが掴み、魔術で飛び立つ。
彼に引っ張られる形で飛んだルーツは自分達がいた場所に巨大な岩が落ちた光景を見てほっと一息つくも、横目でKを見やる。
「君に助けられなくとも、私なら避けられたけど?」
「たまにはいい恰好をさせてほしくてね。
「……ホント、君ってそういうところあるよね。
「その目は嫉妬かな? 私としては気恥ずかしい限りだけどね」
「いつか奪い取ってあげるよ」
「元より私のものじゃないさ」
戦場の只中でありながら軽口を叩き合い、Kに手を離してもらい着地したルーツが指を揃えた右手を振り抜く。振るわれた手刀から放たれた緋色の斬撃は、触手を護る障壁を破壊し、続けてもう一度放った斬撃で奥にある本体にダメージを与える。
だが、人間の姿で繰り出された一撃では触手に対する決定打にはならず、触手は怯みもせずに次の行動に出る。
自身の巨体を使っての薙ぎ払いでルーツ達を後退させると、天を仰いでアギトを開き始める。
それがなにをしようとしているのかを瞬時に察したルーツは仲間達に「みんな止まってッ!」と叫んで掌を地面に叩きつける。
地面に触れた彼女の掌を中心に発生するのは、緋色の雷で構築されたドーム状の障壁。それがルーツと彼女の仲間達を覆った瞬間―――
「キィイイイイイイイイイイッッッ!!!」
花弁のようなアギトから放出される、超大音量の咆哮。それもただの咆哮などではなく、虞美人が体内で視認した呪いも同時に放出するというもの。
「く、うぅ……ッ!!」
咆哮と共に周囲へ放出された呪詛の波動が大地を抉り、捲り上げ、汚染していく。
まだ取り込んでいる最中だが、一万四千年に及んで蓄積された獣神の呪いはそれでも尋常ではない濃度を誇っており、それは力を取り戻しつつあるルーツであっても障壁に叩きつけられる波動に思わず顔を顰める程のもの。
「アンナ……ッ!」
「大丈夫、か……ッ!?」
「大丈夫ッ! これぐらいのものなんて、へっちゃらなんだからぁッ!」
大音量で行われる咆哮に堪らず両手で耳を塞いでいた虞美人とKに叫び、障壁を維持しながら溜めていた魔力を解放。
膨張した風船が破裂するが如く障壁が弾けると、これまでそれを構成していた雷とルーツの魔力が混ざり合い周囲に飛散。“祖龍”の振るう稲妻の力が周辺を汚染していた呪いを消し飛ばし、咆哮を轟かせ続けていた触手が纏う障壁を打ち破る。
大きく怯んだ触手にすぐさま追い打ちをかけようとするが、直後、周囲から無数の気配が近付いてきている事に気付く。
「っ、あれは……ゴア・マガラかッ!」
背後からの気配に振り向いたKが苦い顔をして構える。
彼の、否、その場にいる者達の視線の先にいるのは、黒い翼をマントのようにはためかせて飛翔してくる、無数のゴア・マガラの姿であった。
「まさかさっきの咆哮、あいつらを呼び寄せる為に……? だとしたらなんで……」
「マズい……みんな、とにかくゴア・マガラを撃ち落としてッ! アルトゥーラは、
ルーツの叫びに、ボレアス達が動き出す。
地上から放たれる無数の攻撃が、空を覆う影の竜達を狙う。
炎の斬撃、激流の薙ぎ払い、呪詛の雨、覇王の衝撃波、青色の光線、緋色の雷撃。それらがゴア・マガラ達を次々と消し飛ばしていくが、それでも彼らの飛翔は止まらない。
同胞の死に一切の気を割かず、ただひたすらに触手を目指して突き進むその姿は、まるで焚き火に誘われる虫のよう。だが、今この状況において異なるのは―――
「キィイイイイイッッ!!」
その焚き火が、虫を焼くのではなく、喰らう事。
触手が鋭い牙が揃うアギトを限界まで開き、動く。それだけで触手に最も近い位置にいたゴア・マガラ達がミンチのように引き裂かれ、その肉体を幼き厄災へと捧げていく。
ボリボリと骨を噛み砕き、肉を咀嚼していく触手の一本に気付いたKがそれを妨害すべく攻撃を仕掛けようとするも、もう一本の触手がそれを許さない。
「離脱ッ!」
Kの一声にルーツ達が飛び退き、彼らのいた場所を大地ごと抉り取っていった触手に項羽が斬撃を叩き込む。六本の黄緑色の斬撃が紅い障壁に直撃し轟音を奏でるが、障壁は破壊し切れずに終わる。
ならばと項羽は翼膜のない骨の翼を広げ―――
「項羽様ッ!」
「演算済みである」
上空から自分達を狙って放たれたゴア・マガラ達のブレスを翼から飛ばした光線で迎撃する。ブレスを貫いて破壊した光線はそれを放ったゴア・マガラ達にも着弾して撃ち落とすが、そのゴア・マガラ達は先程ルーツ達を攻撃した触手が地面を突き破ると同時に喰らってしまった。
だが、そこまで含めて項羽の演算である。
「ギィイ……ッ!!?」
項羽に撃ち落とされたゴア・マガラ達を咀嚼しようとした触手の口内で爆発。先程その触手が喰らったゴア・マガラ達に着弾した光線は、徹甲榴弾としての役割も持っていたのだ。抑止力により中国異聞帯に召喚された“雅翁龍”イナガミとの戦闘後、強力な古龍種に対抗する為の手段として始皇帝が組み込んだ武器は、小規模な爆発であっても触手にダメージを与えた。
しかしそれでも、触手は僅かに動揺するのみで終わり、再び咆哮を轟かせた。
「ぬぅ……ッ!」
口内を爆破された事で威力や濃度は落ちているものの、呪いを帯びた咆哮に項羽達の動きが止まる。その隙を突いた触手が身をくねらせて彼らを引き潰そうとするが、間一髪でバルカンが大剣を振るった事で阻止された。
「アンナッ! あいつがゴア・マガラ達を食べ始めたのって、まさか……ッ!」
「たぶん君の考えている通りッ! あの子、成体になる為のエネルギーを集めてるッ!」
大地を駆け、目の前にブレスが着弾して発生した風圧をジャンプして受け流しながら雷撃で滞空するゴア・マガラを消し飛ばし、他のゴア・マガラ達を喰らっている触手を見上げる。
今も尚引き寄せられたゴア・マガラ達を咀嚼していく触手からは、仄かな紫色の光がアギトから下……地底の奥底にあるであろう胴体へと送られていくのが見える。本物の生命ではなくとも、彼にとってはエネルギーのある餌である事に変わりはないのだろう。
あれを止めるにはなるべく早くゴア・マガラ達を殲滅するか、触手を斬り飛ばすかしかないだろう。
どちらがより迅速にこの事態を終わらせられるか―――答えは一つしかない。
「バルカンッ! 触手をぶった斬ってッ!」
「応ッ!」
このメンバーの中で最も瞬間火力の高いバルカンが大剣を肩に乗せ、腰を落とす。
その身に纏う魔力が肥大化していき、口元に獰猛な笑みを刻んで大剣を振るおうとして―――
「ッ!?」
己目掛けて突っ込んできた、黒い巨大な影に阻止された。
「チィッ、なんだこいつ―――って」
攻撃を阻止された苛立ちを隠しもせずにいたバルカンの瞳が呆気に取られたように見開かれ、細められる。
「……なんだァ、テメェ……ッ!」
開いた翼脚で体を支え、こちらを睨む竜。
正しき進化を辿れず、歪な進化に留まってしまった憐れなもの。
だが、バルカンはその竜に対して憐れだとは微塵にも思っていなかった。
「キシャハハハハハハッ!!!」
彼にはわかる。かつて死力を尽くして戦い、その果てに殺された自分だからこそ、それが何者なのかがわかる。わかってしまう。
理解した瞬間、今まで理性を保っていた瞳が、理性なき龍の眼へと変わる。
そこに宿るのは、生前己を
「カァアアアリアァアアアアアアァァッッッ!!!」
大剣が苛烈な焔の渦を纏い、額を突き破り歪に捻じれた角が飛び出す。
「バルカンッ! 気持ちを抑えてッ! 今優先すべきは―――」
「―――ウゥウウウルァアアアアアァァッッッ!!!」
理性が消え失せた事を表すかのように瞳孔が弾け飛んだバルカンは、ルーツの言葉に従わずに渾沌の竜へと飛び掛かった。
・『カリアと彼女が変異したゴア・マガラの違い』
……生存本能の有無、この一つに尽きる。カリアも相手の攻撃を回避する事はあるが、それは別に「死にたくない」からではなく、「これを受けてしまえば気持ちよく殺せなくなる」、「これを逆に利用すれば相手に大打撃のカウンターを叩き込める」から躱すだけ。対して彼女が変異したゴア・マガラは、戦闘技能こそカリアと同じものの生物としての本能も混ざってしまうので、どうしても「この攻撃を受けてしまえば死んでしまう」、「この攻撃を避けられなかったらヤバい」という恐怖から回避行動を取ってしまう事がある。
・『バーゲストの魔力喰いの奪い返し』
……元々魔力喰いの力はバーゲスト由来のもの。相手が背負っているのなら、呪いを反転させた状態であればそれを自身に戻すことも可能。しかし戻すという事はそれまで相手が背負ってきた飢餓感を自分が背負う事になるのだが、バーゲストは根性でそれを乗り切った。
・『妖精騎士バーゲスト/魔犬形態』
……原作と違い、任意で変身可能。さらに反転させた呪いを完全に制御下においているため魔力喰いの対象を指定する事が出来、吸収した魔力を仲間に分け与えて回復させる事も出来る。
・『黒龍の魔神眼』
……人間態から龍への回帰を行う事で変化する、バルカンの眼。憤怒に身を
暴走状態のバルカンの眼は同じく理性が弾け飛んだブロリーの目を想像して頂ければと思います。
一気に季節が移り変わり始め、気温急変が目立ってきた今日この頃、皆さんも体調管理にお気を付けてくださいッ! この時期に胃痛はかなりキツイですよッ!
それではまた次回ッ!