【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 ドーモ=ミナサン。
 先日所用の為後楽園へ行き、それが終わった後は何年ぶりかの東京ドームシティアトラクションズを楽しんできたseven774です。
 東京ドームシティには去年行ったのですが、その時はアトラクションに乗らずざっくりと見て終わった程度だったので、とても楽しかったですッ! また、その後は池袋のグランドシネマサンシャインで『風都探偵スカルの肖像』を鑑賞する事も出来たりなど、とても有意義な時間を過ごせましたッ! 更新が止まっているシンフォギアssも今年中になんとか一話でも更新したいところですね……。

 今回は主にカルデア視点です。
 それではどうぞッ!



祝と呪の光

 

「グギャァアアアアアアアアッッッ!!!」

 

 

 自身と対を成す光の力。“凶気”を打ち消す“絆”の光を感じ取ったマキリ・ノワが、目障りだと言わんばかりに咆哮を上げる。

 

 ―――忌々しき絆の力。許すまじ浄化の光。

 ―――生前(あの頃)と同じように、我が無明の闇にて消し去ってやる。

 

 “凶気”を操る龍の意思が伝染したかのように、影の竜達が乱入者達の一人―――マシュ・キリエライトへと攻撃を仕掛けていく。

 

 

「やらせないッ!」

 

 

 だがそれを、彼女と同じく楽園より帰還したアルトリア・キャスターが許さない。

 

 青い光を帯びた右手を振り払うと、マシュの周囲に同じ光によって構成された護りが施され、突進してきた影の竜を弾き飛ばす。さらに立香もまた自身を狙ってきた影の竜達の間を掻い潜りながらガンドで動きを封じていく事で、マシュとアルトリアの負担を減らしていく。

 

 

「マシュッ! 君の力を見せてあげてッ!」

「はい、マスターッ!」

 

 

 突進してきた影の“黒蝕竜”を真横に飛び込んで回避した立香に頷き、盾を地面に突き立て左腰に差してある剣を引き抜く。

 

 シャリン、と軽い音と共に引き抜かれた剣を真上に掲げれば、そこから放たれるのは蒼白の輝き。

 絆石の放つものと同じ性質を宿す輝きは幾つもの流星となり、マキリ・ノワと影の竜達に降り注ぐ。

 

 マキリ・ノワは己をバリアで保護する事で流星による攻撃を防ぐが、そのような防御手段を持たない竜達は絆の光を帯びた流星に撃ち落とされ、魔力の粒子となって霧散していく。

 モンスターを、環境を狂わせる“凶気”と“凶光”を浄化する絆石の光を凝縮した流星は、それらを身に纏う相手に対して特攻を持っている。二つのオーラによる強化を施されていようとその効果は絶大で、次々と“黒蝕竜”達が撃墜されていく。

 

 遊星のように自由に駆け巡り“黒蝕竜”の群れを撃墜していった流星がマシュの剣に戻ると、流星を構成していた光がブレードに宿り、そのリーチを大幅に伸ばす。

 

 

「礼装切替―――幻想強化ッ!」

 

 

 身に纏う魔術礼装を極地用カルデア制服に切り替え、組み込まれた強化術式を発動。極限環境での活動を想定したその礼装による強化は数秒程度で終了するものだが、それでもマシュには充分な時間。

 

 

「ハァアアア―――ッッ!!」

 

 

 雄叫びと共に繰り出される斬撃。

 縦に振り下ろされた光の剣は上空にいたマキリ・ノワに直撃。相反する光と闇の力が激突してバリアに亀裂が走り、マシュの光の剣が砕ける。

 一撃でバリアの耐久力を大幅に削り取った斬撃だったが、続けて繰り出そうにもリーチが足りない。

 

 

「マシュ、受け取ってッ!」

 

 

 そこへ、アルトリアの魔術が発動する。

 立香の強化魔術に、アルトリアの魔術による強化を重ね掛けされたマシュの全身に淡い光が宿り、剣から伸びる光が先程よりも勢いを増す。

 

 即座に行われる薙ぎ払い。先程の攻撃と合わせて十字に繰り出された光の斬撃は亀裂が走っていたマキリ・ノワのバリアを破壊し、その奥にある本体を曝け出す。

 

 

「グォオオオオッ!!」

 

 

 そこへすかさず飛び込むのは、モルガンを護り続けていたディスフィロア。がら空きとなったマキリ・ノワに燃え盛る炎を纏って突進。縺れ合うように落下していく二頭の古龍が前足を駆使して互いの体を突き飛ばすと、即座にブレスを発射。

 

 紫の光を宿す暗黒のブレスと、氷のような色を持つ業炎のブレスが激突し、爆発を起こす。

 

 二つのブレスの衝突で発生した黒煙を突き破って走る両者が取っ組み合いになる中、まだ生き残っていた“黒蝕竜”達がモルガン達に接近してくる。

 

 迫り来る大量のブレス。視界の大半を黒で塗り潰すそれらを前にして、守護者は再び盾を構える。

 

 

「そうは……させませんッ!」

 

 

 盾を中心に眩い輝きの障壁を出現させるその背中を、モルガンは知っている。

 自分の身の丈以上もある盾を軽々と振るい、剣を掲げ、仲間達を護り敵対者を打ち払うその雄姿は、まさしく妖精歴の時代に何度も見た彼女の背中。

 

 

(変わらないのですね……マシュ。いえ、変わったのは……私ですか)

 

 

 女王歴に存在する自身の『水鏡』によって妖精歴に飛ばされ、まだ救世主トネリコとして活動していた己の前に現れた彼女。救世主とそれに仕える初代妖精騎士として、エクターやトトロットといった仲間達と苦楽を共にした旅は、2000年を超える統治で摩耗した魂であっても眩しく輝いている。

 

 

「大丈夫ですか、陛下ッ!」

 

 

 こちらに振り向かずに叫ぶ彼女。その姿があの頃のものとまるで変わりないものだとわかると、モルガンの口元が自然と綻んだ。

 

 

「えぇ、ありがとうございます、マシュ」

 

 

 弱っていた体に力が漲る。彼女の雄姿に鼓舞された肉体は傷だらけでありながらも戦う力を蘇らせ、精神もまたより強固なものとなる。

 

 モルガンが立ち上がったのを振り返らずとも感じ取ったマシュは、この死地であっても笑顔を浮かべ、「はぁあああッ!!」と雄叫びを轟かせる。

 

 そうすれば、彼女の腹の底からの叫びに呼応するように輝きを増した盾が影の竜達のブレスを掻き消し、続いて広がった光の波動が彼らを吹き飛ばした。

 

 

「アルトリアさんッ!」

「追撃お願いッ!」

 

 

 マシュと立香。二人の声に応え、アルトリアが周囲に六つの光の円輪を構築し、射出。

 高速回転する円輪はマシュ程ではないものの明確な“黒蝕竜”達にダメージを与えて弾き飛ばし、幾つかの個体を切断した。

 

 以前の彼女であれば、こうはいかなかっただろう。“凶気”と“凶光”の影響を受けた“黒蝕竜”は、その影響を受けていない個体と比べて遥かに強力になっている。楽園に向かう前の彼女が攻撃したところで、怯ませる程度に終わっていた事だろう。

 それを弾き飛ばし、中には接触箇所を切断するまでに至るところを見るに、かなりの強化を受けたのだろう。

 

 

「……陛下」

 

 

 モルガンの視線に気付いたのか、絶えず魔術を行使しながらもアルトリアは彼女に口を開いた。

 

 

「私は、楽園から戻ってきてしまいました。聖剣になるという役割は、未だ果たせていません」

 

 

 本当ならば、自分は今ここにいない。予定であれば今頃自分は楽園の妖精から聖剣の概念に昇華され、その在り方を変化させていたはずだった。人理定礎を覆そうとする存在と敵対し、これを滅ぼす世界の守護者となるはずだった。

 だが、自分はまだここにいる。儀式は終えたものの、それは本来予定された筋から外れてしまった。

 

 戦いは怖い。憎しみは恐ろしい。殺し合いなんてもっと嫌だ。

 聖剣の概念になれば、そのような考えは消えるかもしれない。世界を護る為に自ら進んで戦いの場に臨み、あらゆる敵対者を滅ぼす存在になるかもしれない。

 

 

「ですが」

 

 

 しかし、それでも。

 

 

「陛下、私はまだ聖剣の概念でも、その化身でもありませんが……それでも、戦います。私が護りたいと思う者達を、護る為にッ!」

 

 

 彼女はまだ、聖剣の化身になるわけにはいかなかった。

 

 千子村正。

 ■■■■■との死闘の末に辿り着いた楽園。その最奥で己が身を犠牲に、私に一刻の猶予を与えてくれた男。彼に報いる為にも、まだ自分は、一人の妖精であるアルトリア・キャスターとして、戦いたかった。自らの信念に殉じた男から受け継がれた焔が、今この胸で熱く燃え盛っているのだから。

 

 酷く身勝手な言い訳だ。使命よりも己の感情を優先するなんて、こんな一大事に取って良い行動じゃない。

 

 だが、それでも。それでも自分は戦いたいのだ。この胸の内に宿る焔のように、熱く、苛烈に、戦って、護りたいのだ。

 

 大切な仲間を。こんな自分に付き合ってくれた、藤丸立香という人間を。

 

 その瞳に宿るのは、確かな信念。

 元々覚悟が固まっていたのはわかっていた。だが、内海へと潜り、帰還する道中での経験が、彼女の決意と信念をより強固なものへと仕上げたのだろう。

 

 

「『なぜ戻った』、などと言うつもりはありません。私は資格を有しながら、自らの使命に背を向けた者。そんな私に、貴女を叱責する権利などありませんから」

 

 

 モルガンが指を振るえば、立香達の体を仄暗い水色の光が包み込む。一瞬驚いたものの彼女の行為に悪意を感じなかった立香達がそれを受け入れるように瞳を閉じると、光はそれぞれの体に溶け込むように消えていった。

 

 

「今のは……」

「魔力を大きく消耗していたようでしたので、回復させておきました。楽園より帰還した労いと思いなさい」

「ありがとうッ!」

 

 

 マシュのような英霊相手に戦えるような戦闘力も、アルトリアのような強力な魔術もない立香にとって、モルガンによる回復は渡りに船だった。すぐに感謝の言葉を告げ、笑顔と共に拳を握り締めた。

 

 モルガンがハルバードの柄頭で地面を小突けば、首元に喰らいついたディスフィロアに投げ飛ばされたマキリ・ノワの足元から仄かな青色の鎖が飛び出し、四肢を拘束する。

 今まさにディスフィロアに飛び掛かろうとしたのだろう。その直後に鎖に四肢を絡め取られたマキリ・ノワはバランスを崩されて転倒。鎖の拘束を振り解こうとするが、それをディスフィロアが許すはずがない。

 

 

「グォオオオオオオッ!!」

 

 

 マキリ・ノワの前後左右に二つずつ。ディスフィロアの咆哮に合わせ、マキリ・ノワを中心に六角形を描くように出現した氷塊に、圧縮された熱線が撃ち込まれる。

 氷塊に直撃した熱線はそれを融解させず、鏡に反射されたように他の氷塊へ移動。全ての氷塊に注がれた熱線は、六方向からマキリ・ノワを襲撃。咄嗟にバリアを展開しようとしたマキリ・ノワに直撃し、大爆発を起こした。

 

 

「グ、ギャァッ!」

「っ、再生しようとしてるッ! アルトリアお願いッ!」

 

 

 黒煙の奥から一瞬輝いた妖しい紫色の光を見逃さなかった立香が叫べば、アルトリアが杖を回転させて地面に突き立てる。

 杖を起点に直線状に進んだ魔力を、マキリ・ノワの足元に到達すると同時に増幅。地面を突き破るように出現した、海のように澄んだ青色の奔流がマキリ・ノワの態勢を崩し、破壊部位の再生を阻止した。

 さらに、そこへモルガンの追撃が加わる。

 

 

「オークニーの雲よ、来たれ」

 

 

 頭上に向けて放たれた魔術の光が消えた瞬間、マキリ・ノワの頭上に青黒い波紋が広がり、そこから青白い魔力の槍が落ちる。

 アルトリアの攻撃により無理矢理浮かんでいたところを上空からの攻撃によって撃ち落とされたマキリ・ノワは、槍に背中を貫かれて地面に固定される。

 だが、モルガンの攻撃はそれで終わらない。背後に作り出した波紋に飛び込めば、次に彼女が出現したのはマキリ・ノワの背後。

 背後に移動した彼女を叩き潰そうと振るわれる尻尾を躱したその手には、ハルバードの代わりに漆黒に染め上げられた剣が握られている。汎人類史に生きた騎士王の振るうそれと酷似した剣による斬撃で尻尾を撥ね上げると同時にマキリ・ノワの前方へ移動。ブレスを障壁で防御し、今度は槍を投擲。真っ直ぐに突き進んだ槍はマキリ・ノワの双角の中心に突き刺さり、悲鳴に似た絶叫を上げさせる。

 

 間髪入れずに四回目の転移。背後からマキリ・ノワを見下ろす形で上空に転移したモルガンは、女王となってから今まで愛用し続けてきたハルバードを掲げる。

 

 

「アコーロン・クラスターッ!!」

 

 

 青白い稲妻を帯びた紫色の輝く魔力を宿したハルバードを振り下ろせば、解き放たれたそれはマキリ・ノワに直撃した瞬間に爆発。マキリ・ノワに大ダメージを与えた。

 

 

(あの技は……ッ!)

 

 

 その動きを、技を、マシュは知っていた。

 それは彼女がまだ救世主として活動していた時期、タイマンの末に打ち負かしたライネックより学んだ技術を応用して編み出した攻撃。絶え間ない転移によって相手を翻弄しながらの強力な連撃を叩き込み、最後に特大の攻撃で仕留めるというもの。

 長年の統治によってキレこそあの頃より多少はないものの、あの技を可能とする程の技量は今尚健在だという事に堪らず嬉しくなったマシュの耳朶を、モルガンの声が振るわせる。

 

 

「今ですッ! 決めなさいマシュッ!」

「はいッ!」

 

 

 こちらを見て叫ぶ彼女に救世主時代の面影を感じながら、マシュは走り出す。

 

 盾を残し、剣を携えて駆けるマシュにマキリ・ノワがブレスを吐き出す。

 炎、氷、雷、そして“凶気”。彼が扱える四つの力を宿したブレスがマシュの全身を呑み込む。堪らず「マシュッ!」とアルトリアが叫ぶが―――

 

 

「―――ッ!」

 

 

 マキリ・ノワは気付いた。まだ死んでいない。それどころか、攻撃が無効化された(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)ッ!

 

 足を止めずに走り続けるマシュを覆うのは、黄金色の輝く護りの盾。それを発動したのは、彼女に右手を向けていた立香。

 

 ―――『オシリスの瞳』。

 極地用カルデア制服から切り替えたアトラス院制服の魔術を発動した立香は、続いて右手を掲げて叫ぶ。

 

 

「令呪を以て命ずる―――“最凶の黒”を、討てッッ!!」

 

 

 立香の右手の甲に刻まれた三画ある令呪の内一画が消え、マシュに膨大な魔力が注ぎ込まれる。

 それだけではない。モルガンとアルトリアもまた今の自分が出来る限りの強化を彼女に施していく。

 

 全身を包み込む程の蒼白の光と共に迫るマシュにマキリ・ノワが反撃しようとするが、真横からディスフィロアの放った熱線と吹雪に阻んだ。

 

 

(今―――ッ!!)

 

 

 反撃の手を潰されたマキリ・ノワ。今こそ、千載一遇のチャンス―――ッ!

 

 踏み込む力を強め、さらに加速。風の壁をブチ抜き、音の世界を置き去りにし、光の速度に到達。この速さを捉えられる者など、ここにはいない―――ッ!!

 

 

「ッッッ!!!」

 

 

 その瞬間、マキリ・ノワは目撃した。

 

 こちらに突っ込んでくる騎士の背後に映る、三つの影。

 

 一つは人間。赤い鎧を装備した、黒髪の少年。

 一つは竜。少年の装備する鎧と同じ、炎のように赤い飛竜。

 一つは獣人。その身を黄色く発光させ、絶えず稲妻を放ち続けるアイルー。

 

 彼らの姿を、暗黒の龍は知っている。否、知らないはずがない。

 

 ここでも、ここでも邪魔をするのか―――ッ!

 貴様らはあの時殺したッ! 目の前で塵と消えてゆくのを見たッ!

 

 それでも、それでも貴様らは―――我が眼前に立ちはだかるというのかッ!!

 

 

「グギャァアアアアアアッッッ!!!」

「これで……終わりだぁああああッッッ!!!」

 

 

 突き出される剣先。遂に光そのものと化した騎士は世界の全てから抜け出し、暗黒の龍を貫いた―――ッ!

 

 

「――――――」

 

 

 光に貫かれた龍は、なにも叫ばない。

 風穴を開けられた胴体を支える四肢から力が抜け、崩れ落ちていく。

 その身を形作る魔力が解け、粒子となって消えていく。

 

 ―――絆を砕いた闇は、絆によって滅ぼされた。

 ―――かつての在りし頃の光を思い出しながら、闇に染め上げられてしまった龍は、静かにその眼を閉じた。

 

 『厄災』の一角、“闇凶龍”マキリ・ノワ―――討伐完了。

 

 

 

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「ッ、ギシャァアアアアアアッッッ!!!」

 

 

 触手が叫ぶ。

 同胞が討たれた。同胞が消えた。それを感じ取ったが故に。

 

 “凶気”の龍が滅びた以上、先程まで彼と戦っていた者達がこちらに来る可能性がある。もう触手が一本しかない状態では、最早どうしようもない。

 

 こうなれば最早、形振り構ってはいられない。

 

 

「ギシャァアアアアアアッッッ!!!」

「つぅッ! アイツ―――あッ!」

 

 

 呪詛を宿す大咆哮。地上さえ容易く捲り上げるそれに堪らず吹き飛ばされた虞美人の視界が、その身を恐らく本体がいるであろう穴へと戻していく触手を捉えた。

 

 

「奴め、なにをする気だ……ッ!」

「あの子、たぶん賭けに出たッ! ケルヌンノスの神核を食べに行ったんだッ!」

「っ、それならッ!」

「ここで一気に畳み掛けるッ!」

 

 

 触手にケルヌンノスの核を捕食させるわけにはいかない。その場の全員の意見が一致し、触手が潜り込んだ穴へ目掛けて各々が現段階で出せる最大火力を叩き込む。

 

 穴へと注がれる無数の攻撃。真っ直ぐ触手へと向かった無数の攻撃は、狙いを外す事なく標的を捉えた。

 

 

「ッ!?」

「な―――ッ!」

 

 

 ―――触手を護るように現れた、虚無の孔さえなければ。

 

 

 

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(あ、危なかった……マジで終わるところだった……)

 

 

 一時的にオフェリア・ファムルソローネの肉体を借りて現れたアンナ・ディストロート・シュレイドとの戦闘で受けた傷を癒していたところで感じ取った、同胞の命の危機。

 傷を癒してはいられないと飛び出した影は、『大穴』の底で己が死骸を蓋としている獣神の下に封じられた本体の力を無理矢理に引き出した。そうして出現した虚無の渦は『大穴』へと潜り込んだ触手を狙ったルーツ達の攻撃を全て吞み込み消し去った。

 ありとあらゆる全てを無に帰す虚無の孔は並みの英霊の攻撃であろうとも消し去るが、流石に自身の大元(オリジナル)である“祖龍”と、力の根源である“黒龍”の攻撃は堪えた。腹が痛くて仕方ない。しばらくは寝込んでいたいところだが、そうもいかないのが今の状況だ。

 

 あの触手―――否、幼体に全てを賭けているわけではない。成体になってくれればここまで苦難続きだったプランの達成率が格段に上昇するのが確かだから護っただけだ。何百年も前に召喚されてここまで生き残ってくれたのだから、最後まで利用したい。

 

 もちろん、あちら側も同様だろう。『ブリテンの崩壊』という使命(やくわり)を、このブリテンそのものに望まれてこの地にやって来た者同士、利害は一致している。

 自分は使命達成の為にあの龍を護り、龍もまたその為に影の本体という同胞を解き放つべく動き続ける。マキリ・ノワもまた同じだった。消滅してしまったのが、とても惜しい。

 

 マキリ・ノワに続き、幼体さえ危うく殺されかけた。背筋に氷水を流し込まれたような感覚を覚えたのは初めてだった。

 

 影からすれば、ギリギリの間一髪。不測の事態に襲われながらもなんとかここまで漕ぎ着けてきた計画、それの達成に必要なピースを失いかけたところだった。

 残された手札はもう数える程度しかない。その中でも重要度の高い二枚の内の一枚を護り通した影は、地中深くに潜り込んだ同胞に叫ぶ。

 

 

「さぁ……獣神の神核(しんぞう)を喰らい、羽化するがいいッ! “破翼龍”アルトゥーラッッ!!」

 

 

 

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 バギンッ、と。

 ガラスが砕かれるような不快な音が響く。

 

 誰もが、その音に動きを止めた。

 誰もが、これから起こる現象を目撃するしかなかった。

 

 ―――蒼。

 『大穴』から聳える、鮮やかな赤色の光を放っていた柱が、その色を蒼色に変えていた。

 

 蒼き光を放つ柱が、光を強める。

 

 それは、まるで心臓が鼓動するかのように。

 それは、まるで世界が最後の命を紡ぐように。

 

 それは、まるで崩壊の足音のように。

 

 

「これは……歌声……?」

 

 

 その鳴き声を聞いた蘭陵王が、呆けたように呟いた瞬間。

 

 

「「「―――ッッッ!!!」」」

 

 

 ルーツが、ボレアスが、バルカンが、一斉に動く。

 瞬時に構成される、緋雷と二つの炎による障壁。それが聳え立つと同時、凄まじい衝撃波が『大穴』を中心に発生した。

 

 超重量の物体を絶え間なく叩きつけられるような重々しい衝撃音を響かせる障壁越しに、殺し切れなかった衝撃が突風となってルーツ達の全身を包み込む。

 だが、衝撃波はそれだけでは終わらなかった。

 

 

「これは……ッ!」

 

 

 最初に気付いたのは、ボレアスだった。

 何度も断続的に襲い来る衝撃波を防いでいる障壁が、黒い呪詛に蝕まれていた。まるで掌のように張り付いたそれは瞬く間に障壁全体を覆い始め、障壁の防御力を奪い去っていく。

 

 

「項羽、カイニスッ! みんなを護ってッ!」

 

 

 これ以上は防ぎ切れないと判断したルーツが叫べば、項羽が虞美人と蘭陵王を、カイニスがKを護るべく構える。

 瞬間、遂にルーツ達の展開した障壁が呪詛と衝撃波に耐え切れずに決壊。その後一秒の間も置かずに堰き止められていた呪いを帯びた衝撃波がルーツ達を呑み込んだ。

 

 

「アンナッッ!!」

 

 

 カイニスに抱えられ少しでも衝撃波から離れるべく移動していたKが、黒い衝撃波の中に姿を消した彼女の名を叫ぶ。

 

 ただの衝撃波ならば、彼女もまだ耐えられただろう。しかし彼女を襲ったのは、この妖精國に古くから存在し続けていた呪詛を色濃く宿した衝撃波。それを真正面から受けてしまったら、いったいどうなる事か……。

 

 衝撃波が晴れた先にいたのは、苦悶の表情を浮かべて苦しむ、蒼褪めた顔色のルーツだった。

 咄嗟の判断で動いたのだろう。障壁が砕け散る刹那、ボレアスが彼女を強く抱き締め、バルカンが大剣を地面に振り下ろしてドーム状に発生させた炎で護ったのだ。

 

 しかしそれでも尚、炎の壁であっても防ぎ切れなかった呪いが彼女を蝕んだのだ。胸を強く押さえながらもその手から緋雷の光を放っているところを見るに、治療に取り掛かっているのだろう。だが呪いに蝕まれている以上、十全な力は発揮できないはずで、彼女の戦線復帰はかなり遅れそうだ。

 

 

「すまない、私は姉上を護る。戦線の維持は任せた」

「承知」

「アンナ、大丈夫ッ!?」

 

 

 ボレアスに頷く項羽の背に跨っていた虞美人に声をかけられたルーツは「な、なんとか……」と微かに震える声で返事を返す。

 

 

「でもごめん……呪いに()てられて上手く力が出せない……。少し離れるね……」

「いいわよそんなの。とっとと治してきなさい」

「あの子の呪いには、気を付けて……。あの呪いは―――」

「―――獣神ケルヌンノス。妖精なんかに期待し、そして裏切られた馬鹿な神。今のはそいつの死骸から溢れ出していた呪詛だ」

 

 

 ルーツの言葉を遮る声。

 ザッザッ、と歩を進めてきた影に「テメェッ!」と叫んだバルカンが斬りかかろうとするが、地面を切り裂いて迫ってきた小規模の衝撃波によって妨害される。

 

 

「ケルヌンノスの呪い……まさか獣神が蘇ったとでも……」

「馬鹿が。神の蘇生なんてするはずがないだろ。奴はどこまで行っても、妖精達を反省させようとするしか能がない。死んでも尚、善神で在り続けていたが―――」

「ギシャァアアアアアアアッッッ!!!」

「それも、もう終わりだ」

 

 

 影が姿を消した途端、『大穴』より聳え立つ光の柱がより一層その強さを増す。

 そして、光の柱の根元―――『大穴』の底より、一体の龍が姿を現す。

 

 純白の鱗と黒い甲殻に包まれた巨大な体躯に、首元に生えた襟飾りを思わせる深い蒼色の棘。

 頭部からは蒼と紅紫色のグラデーションを成した六本の角が王冠のように伸びており、背中からはオーロラのような神秘的な色合いを呈する、瞳のような模様が刻まれた一対の雄大な翼が羽ばたく。

 

 これまで溜め込んできたエネルギーを収束させた影響か、捕食器官である触手を有していた幼体時と比べれば小型になったものの、それでも他の大型モンスターと比較すれば圧倒的なまでの巨躯を誇っている。

 

 

 ―――俺の真体が目覚めるまでの間、邪魔者を消しておけよ。アルトゥーラ。

 

 

「ギシャァアアアアアアアアアアッッッ!!!」

 

 

 此こそ、妖精國を滅ぼす『厄災』の一角。

 

 無明の闇を齎す“凶気”を操るマキリ・ノワとは正反対の、眩い光にて全てを滅ぼす“凶光”の古龍種。

 

 紀元前よりも遥か昔。今とは全く異なる文明圏が地表を覆っていた時代において、御伽噺として語られた破滅の翼。

 己を倒す運命にあった竜の騎手を殺し、人類との戦争の末に敗北したifからの来訪者。

 

 “凶気”を齎す龍―――“闇凶龍”マキリ・ノワ。

 二つの光に狂いし混沌の(かりうど) ―――“黒蝕竜”ゴア・マガラ。

 

 彼らに続く第三の『厄災』の名こそ、“破翼龍”アルトゥーラ。

 

 

 ―――いや、それはただのアルトゥーラではない。

 

 

 1万2000年に及ぶ獣神の呪詛。それを彼の心臓ごと喰らい取り込んだこの龍を、果たして通常種と断言できるか(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)

 

 否、断じて否。

 それは最早、アルトゥーラの通常種ではない。此は決して、歴史に語られた“破翼龍”に非ず。

 この國でのみ、この異聞帯でのみ存在を許される、特異個体。

 

 その名は“破翼龍”アルトゥーラ―――呪神種。

 

 神の呪詛を翼に乗せ、蒼き光の古龍は世界に牙を剥く―――。

 




 
・『モルガン』
 ……救世主時代以降見る事のなかったマシュの戦い振りにトネリコだった頃の記憶を思い出し、当時得意技だったアコーロン・クラスターを披露した。救世主時代と比べれば動きに若干キレがなくなったものの、魔術の研鑽を怠らなかったため、それを補って余りある威力を有している。

・『マシュ』
 ……自覚はないが、自分の戦う姿に影響を受けて少しだけトネリコ時代の雰囲気が戻ってきたモルガンを嬉しく思っている。仲間達の援護を受け、遂に『厄災』の一角を討ち取るに至った。

・『光の中に宿る者達』
 ……マシュに力を与えていたのは、立香達だけではない。かつて、生前のマキリ・ノワとの決戦に挑み、そして敗れてしまった、本来なら世界を救った英雄となるはずだった者達もまた、彼女に力を与えていた。
 しかし、敗北の道を辿ってしまった彼らだけでは、この妖精國に干渉する事は出来ない。それを成せたのは、正しいルートを辿った、汎人類史の同一人物/個体が彼らを支援したからである。

・『影』
 ……マキリ・ノワの消滅だけでもマズいのに、続いてアルトゥーラが羽化する前に討伐されかけるという事態に大焦り。アンナとの戦いで受けた傷の回復を中断し、本体の力を行使して幼体を護り抜いた。アルトゥーラが成体となった事で内心何度もガッツポーズを決めている。

・『アルトゥーラ(呪神種)』
 ……この國でのみ成立する、“破翼龍”アルトゥーラの特殊個体。ケルヌンノスの神核を喰らい、中途半端だった呪いの力を完全に制御下に置いた。
 ちなみに翼はまだ一対。つまりは成長過程である。
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