【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 ドーモ=ミナサン。
 色々と忙しかった仕事ややるべき事が一段落し、長らく楽しみにしていたドラクエⅢを遂にプレイできたseven774です。
 ドラクエシリーズはⅨしかやった事がなかったのですが、とても楽しめています。現在は二つ目の大陸に行って盗賊カンダタを捕まる為のレベリング中で、なんかシャレにならないレベルで痛恨の一撃繰り出してきたり仲間呼んだりしてくるサル相手にボコボコにされたりやり返したりを繰り返しています。なんなんだあのサル……手強い魔物が出てくるエリアでレベリングしてるとはいえ強すぎる……。

 今回は妖精三騎士と、カドックとアナスタシア視点を描きましたッ!
 それでは、どうぞッ!



救いの丑の刻参り

 

「うぁ……ッ!!」

 

 

 大地を抉りながら迫った左翼爪が、バーヴァン・シーを捉える。無意識に体を後ろに逸らしていたために直撃は避けられたが、避け切れなかった左翼爪の内の二本がその身を逆袈裟に切り裂き、風圧が彼女の体を吹き飛ばす。

 

 

[バーヴァン・シーッ!]

 

 

 吹き飛ばされたバーヴァン・シーの体を、駆け付けた魔犬が受け止める。

 柔らかい体毛がクッションになり衝撃を殺した事で激突による痛みから逃れたバーヴァン・シーは、胴体に走る鋭い痛みに顔を顰めながらも「助かった……」と感謝の言葉を告げる。

 

 

[まだ行けそうですか? 難しければ一度離脱するのも―――]

「は? お前馬鹿? この程度で離脱なんてするか」

[……ふふっ、やる気に満ち溢れてますわね]

「当然だろ。ほら、さっさと下ろせッ!」

「もちろんですわッ!」

「投げ飛ばせって言ってんじゃねェよッ!」

 

 

 魔犬形態から妖精の姿となったバーゲストに投げ飛ばされたバーヴァン・シーは文句を垂れながらもフェイルノートで斬撃を飛ばし、ゴア・マガラを攻撃する。

 空を切り裂いて飛んでいくそれらは、しかし容易く回避されてしまうが、それを予測していたバーヴァン・シーが先んじて放り投げていた人形が移動先で爆発。不意を突く形で起こった爆発に一瞬ゴア・マガラの動きが鈍った隙を、メリュジーヌの刺突が穿つ。

 

 突き飛ばされたゴア・マガラに、バーヴァン・シーは即座に追撃を叩き込もうとして―――

 

 

「……あ? なんだ、これ……」

 

 

 波打つように天空を覆う暗雲に広がっていく青色の光に気付き、動きを止めてしまった。

 これまでなかった、明らかな異常事態。未知の現象を前にバーヴァン・シーは、その光が広がってきた方角に視線を向け、そこにいる巨大な古龍に目を見開く。

 

 

「あれは……」

「ッ! “破翼龍”アルトゥーラの成体だ……羽化を阻止できなかったのか……ッ!」

「あれが……アルトゥーラの成体―――っ、バーヴァン・シーッ!」

「―――ッ!? うぉッ!?」

 

 

 バーゲストの声に咄嗟に体が飛び退いた直後、目の前に暗黒のブレスが着弾した余波を全身に叩きつけられた。すぐに空中でバランスを取って着地したバーヴァン・シーは、自分に攻撃を仕掛けてきたゴア・マガラにフェイルノートを爪弾く。

 絆石の力を宿した斬撃をブレスで相殺し突っ込んでくるゴア・マガラをバーゲストが受け止めて押し返し、メリュジーヌが切り裂く。

 押し返された直後にメリュジーヌの攻撃を受け大きく怯んだ隙にバーヴァン・シーが飛び蹴りを叩き込み、間髪入れずに掌から散弾銃が如く魔力弾を発射する。

 

 

「ギシャァ……ッ!」

(ッ、効いてるッ!)

 

 

 追い打ちをかけられたゴア・マガラが態勢を崩す様子に、バーヴァン・シーは確信する。今のゴア・マガラが弱体化している事に。

 先程まで彼女を覆っていたオーラの一つ、“黒の凶気”が消えた事がその理由だろう。それが自分達に彼女を追うように告げ、凶気の根源であるマキリ・ノワの迎撃に当たったモルガンが討伐を成し遂げたのだと思い、バーヴァン・シーはここにはいない母に感謝の念を抱いた。

 

 

「畳み掛けるぞッ! 凶気が消えたなら、カリアを助けやすくなったはずだッ!」

 

 

 バーヴァン・シーの号令に二騎が動き出す。

 巨剣が、双剣が、妖弦が、ほぼ同時に体勢を崩しているゴア・マガラに直撃する―――だが。

 

 

「キシャ……ハハハハハハハハハハハッッッ!!!」

 

 

 笑うように轟いた咆哮と共にゴア・マガラの全身から放出された魔力の渦がそれを阻み、起き上がり様に振るわれた右翼爪による薙ぎ払いがバーゲストとメリュジーヌを弾き飛ばした。

 地面に巨剣を突き立てて停止しようとしたバーゲストに、ゴア・マガラが飛び掛かる。巨剣を突き立てるのをやめ、真横に動いて回避するバーゲストが巨剣を振るうが、それを左翼爪で掴み取ったゴア・マガラがブレスを発射。超至近距離でのブレスに堪らずバーゲストの体が吹き飛ばされ、思わず噛み締められた牙の隙間から苦悶の呻き声が零れた。

 

 

「くぅ……ッ!? まだ暴れますかッ!?」

「こいつ、凶気はなくなったけど、その分凶光の力が強まってる。アルトゥーラが羽化した影響だッ!」

 

 

 マキリ・ノワ由来の暗黒のオーラこそ消えたものの、不足した要素を補うように注ぎ込まれた禍々しい凶光のオーラがゴア・マガラを強化していた。その影響か、ゴア・マガラの動きは先程と比べても俊敏なものとなっており、攻撃の威力もまた上がっていた。

 

 

「ぐ、うぅ……ッ!!」

 

 

 後ろ足で立ち上がってからの、両翼脚の叩きつけ。バーゲストはそれを膝立ちで受け止めたが、彼女の全身を突き抜けた衝撃が大地を割り砕き、陥没させていく。

 全身に走る凄まじい衝撃。それによって齎される骨や臓腑を無理矢理揺さぶられる不快感に顔を歪ませながらも両翼脚を巨剣で押し返し、両手で柄を握り締めて振り下ろす。

 

 燃え盛る業火を纏った斬撃がゴア・マガラの胴体を切り裂き、その巨体をひっくり返すが、即座に態勢を整えて放たれたブレスに吹き飛ばされた。

 

 大地を削って跳ねたバーゲストの真上を過ぎ去り飛び込んだメリュジーヌが両手の(つめ)で攻撃を仕掛けると、ゴア・マガラは両翼爪に凶光を宿して迎撃する。

 

 互いの姿が霞む程の攻防戦。流星と化したメリュジーヌの連撃はこの國の誰よりも速く鋭いというのに、それに追いつき対応できているのは基となった狩人の超人的な戦闘センス故か。その巨体に似合わぬ速度を以て攻撃を防ぎ、かつ反撃を繰り出してくるゴア・マガラに、メリュジーヌは思わず歯噛みする。

 

 

(っ、速さも威力も、さっきまでよりも上がってる……ッ!)

「避けろメリュジーヌッ!!」

「ッ!? っあ―――ッ!?」

 

 

 右翼爪を掻い潜り背後から強襲しようとした矢先にバーヴァン・シーの叫び声が響く。それにハッとしたメリュジーヌが咄嗟に離れようとするが、それより早く動いていた尻尾が彼女を弾き飛ばした。

 何度も地面をバウンドしていくメリュジーヌは途中でスラスターを噴射して再びゴア・マガラへと接近を試みる。

 地面を奔り、目の前に壁のように聳え立ったブレスを切り裂いたメリュジーヌが一気に加速しようとするが―――

 

 

「キシャハハハハッ!!」

「ぐ、アァァアッ!!?」

 

 

 メリュジーヌ同様飛び込んできていたゴア・マガラの左翼脚が彼女を地面に叩き落し、そのまま圧し潰そうと体重をかけ始める。

 防御態勢を取る間もなく抑え込まれてしまったメリュジーヌは、自分の体内から聞こえてくるミシミシと骨が軋む音と激痛に堪らず絶叫を上げる。それが、凶光と凶気によって変異した事でカリアの残忍さも剥き出しとなったゴア・マガラの剥き出された牙の隙間から、笑い声にも似た唸り声が漏れ出させる。

 

 だがそれは、ゴア・マガラが右翼脚を持ち上げて防御態勢を取った事で止まる。

 

 

「メリュジーヌを放せ、カリアッ!」

 

 

 フェイルノートでゴア・マガラの注意を逸らしたバーヴァン・シーが取り出すのは、ハート型の装飾が施された小槌。

 妖弦を消して自由にした右手を、狙いを定めるようにゴア・マガラに向けた彼女に、ゴア・マガラはメリュジーヌを投げ飛ばしてくる。

 凄まじい勢いで飛んでくるメリュジーヌ。だが、バーヴァン・シーは一歩もその場から動かずに意識を集中させる。

 

 飛んでくるメリュジーヌに反応が遅れている……否、そんな事はあり得ない。彼女の瞳は、自分に向かってきている仲間の姿をしっかりと捉えて、無視している(・ ・ ・ ・ ・ ・)

 

 理由はたった一つの、シンプルなもの。

 

 信じているからだ。共にこの國を護るべく戦う妖精騎士を。この妖精國中、最速の騎士を。

 

 

「舐め……るなァッ!」

 

 

 そして、彼女の信頼は現実のものとなった。

 

 全身に伸し掛かるGをものともせずに再起したメリュジーヌが、両腕をゴア・マガラへと差し向ける。

 

 

「穿て―――アロンダイトッッ!!」

 

 

 空気を捻り、引き裂き、突き進むは偽りの聖剣。彼女の両腕から放たれた二本の(つめ)は一直線にゴア・マガラへと襲い掛かり、直撃と同時に自身を形作っていた魔力を暴走させる。

 竜の妖精であるため膨大な魔力生成力を有するメリュジーヌの(つめ)の爆発はゴア・マガラに決して無視できないダメージを与え、吹き飛ばした。

 

 爆発の衝撃に吹き飛ばされ、硬直するゴア・マガラ。なんとか起き上がろうとするが、それを阻止する巨大な影。

 

 

「いい加減、大人しくしなさいッ!」

 

 

 起き上がりかけた体を無理矢理抑えつけ、バーゲストが叫ぶ。彼女の拘束から逃れるべくゴア・マガラが暴れるが、周囲の魔力を吸収して巨大化した彼女の膂力によって抑え込まれる。

 

 

「「バーヴァン・シーッ!!」」

 

 

 バーゲストとメリュジーヌ。両者の叫びに、バーヴァン・シーは右掌を上に向ける。

 そこに浮かぶのは、絶えず形を変え続ける赤色の光。彼女がゴア・マガラに意識を集中させた事で具現化させた、かの竜を狂わせた元凶の一つ。

 

 不定形のそれを圧縮し、藁人形という箱に閉じ込める。形なき光が形あるものとなった瞬間、バーヴァン・シーは勢いよく小槌を振り上げた。

 

 

「戻ってこい、カリアァアアアッッ!!」

 

 

 ―――痛幻の哭奏(フェッチ・フェイルノート)

 それは対象の写し身を藁人形として手元に具現させ、小槌で叩く事により呪い殺す恐ろしき魔術。東洋の呪いである丑の刻参りを基にして作り出されたその技術は、本来であれば前述したように相手を呪い殺す為に振るわれるもの。

 しかし、今回は違う。バーヴァン・シーはゴア・マガラ(カリア)を殺さない。初めから彼女の、いや、彼女達の目的は変わっていない。

 

 カリアを救う。

 友を救う。

 仲間を、友人を、戦友を、助け出す。

 

 その為に、彼女達はここまで戦い続けたのだ。

 

 振り下ろされた小槌が藁人形を叩く。瞬間、外部からの衝撃により破壊された藁人形から凶光の渦が溢れ出し、悲鳴にも似た音を立てて消えていった。

 すると、バーゲストから逃れようと暴れ続けていたゴア・マガラが瞬く間に抵抗する力を失い、小さな地響きと共に崩れ落ちた。

 

 

「カリア……ッ!」

 

 

 倒れ伏した竜に駆け寄る。もう抑えつけておく必要はないと離れたバーゲストやメリュジーヌもまた竜の様子を注意深く確認し、一先ず彼女が呼吸をしている事に安堵した。

 

 

「よかった、死んではいないみたいですね」

「凶光の力だけを破壊したからね。それにしても、この状況で成功させるなんて凄いな……」

 

 

 対象の呪殺を中心に置いたバーヴァン・シーの魔術が狙ったのは、ゴア・マガラを蝕む凶光の力。

 彼女を苦しめるその力さえ消滅させれば、彼女を救い出せるかもしれない……希望的観測と言えばそれまでだが、命を持たぬ力そのものを呪い殺すという荒業をこの土壇場で成功させたバーヴァン・シーに、メリュジーヌは素直に感服していた。

 

 

「おい、カリア。目ェ開けろよ、カリアッ!」

 

 

 自分のものよりも数倍は大きな頭部を揺さぶるバーヴァン・シーだが、しかしゴア・マガラは覚醒の様子は見せない。霊基さえも汚染した凶光の力を無理矢理取り除いたのが原因なのだろうか、気を失っているように見える。

 

 

「覚醒するまではしばらく時間がかかりそうですわね……。取り敢えず私が運びますわ」

「……頼む」

 

 

 あの触手がいる場所から離れるように戦い続けていた故に攻撃の余波がここまで飛んでくる事はないだろうが、万が一があってはならないと、バーゲストが黒犬の姿に変化しようとして―――

 

 

「ッ、危ないッ!」

「はッ!?」

「うぶッ!?」

 

 

 遠方より迫り来る強大な力に気付き、即座にバーヴァン・シーとメリュジーヌを抱えて離脱。次の瞬間には、彼女達がいた場所を地面を砕きながら迫ってきていた衝撃波が通り過ぎていった。

 飛んできた方角から察するに、アルトゥーラの攻撃の余波だろう。

 間一髪の回避でなんとか衝撃波によるダメージを受ける事は避けられた彼女達だったが、しかし気を失って動けないゴア・マガラはそうはいかなかった。

 

 

「……ッ! カリアッ!!」

 

 

 バーヴァン・シーの視線の先で、ゴア・マガラの体が衝撃波によって裂かれた大地の隙間へと落ちていく。

 

 

「カリア……カリアァアアアアアアッッッ!!!」

 

 

 届かないとわかっていても、手を伸ばす。もしも奇跡が起きてくれるのならと祈りながら伸ばされた手は、しかし空気を掴むだけ。

 

 叫ぶ彼女の先で、混沌の竜は暗闇の奥底へと姿を消した―――。

 

 

 

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(クソッ、いよいよまずくなってきたな……)

 

 

 切れた唇の端から流れる血を拭い、荒い呼吸を整えながら、カドック・ゼムルプスは内心で悪態を吐いた。

 

 現在、彼、そして彼のサーヴァントであるアナスタシアの前には、無数の“黒蝕竜”の群れ。

 全方位から浴びせられる殺気にはもう慣れてしまったが、この絶体絶命の状況が、彼の心に焦燥の色を滲ませていく。

 

 ―――なぜ、彼らがこのような状況に陥っているのか。それは数十分程前までに遡る。

 

 オフェリアの体を使って短時間の現界を果たしたアンナ・ディストロート・シュレイドの活躍によって影の撃退に成功した後。疲弊したオフェリアと、彼女の護衛を務めるシグルドを残したカドック、アナスタシア、ボレアスは、他の戦場へ加勢すべく動き出した。道中、最も戦闘力の秀でたボレアスをアルトゥーラの幼体がいる場所に向かわせ、自分はここからそう遠くない場所にいる、ベリル・ガットと交戦しているペペロンチーノ達の助力に向かう事にしたのだが、その最中、妖精國中に発生していた“黒蝕竜”の群れの一つと遭遇してしまい、戦闘に入ってしまったのである。

 その場にボレアスがいれば話は変わったのだろうが、運悪く彼はその前にアルトゥーラの方へ向かってしまった。結果、カドックは自分とアナスタシアのみで、偽物と言えども竜種の群れの相手をする事になってしまったのだ。

 

 しかも、戦闘の最中に空を覆う暗雲が青い光を纏うようになった瞬間、竜達の凶暴性が増したのだ。これまで以上に苛烈になった“黒蝕竜”の猛攻に、カドックの焦燥感は強まるばかり。

 

 

(さて、この状況からどう脱出する……ッ)

 

 

 心に募っていく焦りと死の恐怖。己の思考を、動きを鈍らせる恐ろしく冷たい感覚から必死に意識を逸らしながら、脳内で幾つもの策を構築し続ける。思考に集中などさせないとばかりに絶え間なく迫り来るブレスや突進、翼爪による攻撃を掻い潜りながらも、彼は策の構築を中断しない。

 

 ―――カドック・ゼムルプスは、一言で表すならば『勤勉』が真っ先に思い浮かぶ魔術師である。

 将来、カルデアに属さなければ時計塔に新たな学科を創立したのではと噂されたキリシュタリア・ヴォーダイムをリーダーに据えたAチーム。彼を始め、マリスビリー・アニムスフィアによって選ばれた七人の魔術師達は、誰もが他とは一線を画す才能や性質を有した者達だった。

 その点において、カドックは格下……最下位と言われても仕方なかった。彼がAチームに選ばれた理由は、カルデア所属の魔術師の中でも特にレイシフト適性が高かっただけ。過去の時代に発生する特異点内での存在を証明がどれほど重要な課題なのかはカドックも理解しているし、それが高いと知った時は、他にはないアドバンテージを得られたという安堵があった。

 

 だが同時に、そこで終わってはいけないという考えもまた、彼の中にはあった。

 

 だからこそ、カドックはより一層勉学に励んだ。自分以外のメンバーに喰らいつき、あわよくば追い越す為にも、彼は寝る間も惜しんで貪欲に知識を吸収していった。

 そんな時、抜き打ちテストをしてくれたアンナ(ルーツ)には感謝しかない。時計塔でも優秀な成績を修めていた彼女からは色々な事を学べたし、新たな視点を獲得する事も出来た。現代となっては利用する価値もほとんどなくなってしまった対獣魔術も、彼女のお陰でそれなりに強化する事も出来た。

 

 シュレイド異聞帯に身を置くようになってからは、牙獣種を中心に、ある程度の大型モンスターから逃れたり怯ませたりする程まで成長させられるようになった。流石に古龍種、生態系の頂点に近いモンスターや強力な個体には通用しないものの、現代よりも過酷な環境であるシュレイド異聞帯で生き残るには充分すぎる能力だ。……そんな進化を遂げたとしても、汎人類史では宝の持ち腐れとなってしまうのが対獣魔術の悲しいところだが……。

 

 兎も角として。

 カドック・ゼムルプスは自身がAチームに選ばれた後も、クリプターになってからも、ひたすらに己を高め続けた。結果として、彼は肉体的にも精神的にも大きな成長を遂げ、この絶体絶命な状況においても自身の為すべき事を見失わずに思考を続けられるようになったのだ。

 

 

「アナスタシアッ! 地面を凍らせろッ!」

「任せなさい」

 

 

 背後から飛ばされる指示にアナスタシアが左手を振るえば、彼女の前方に広がる大地が扇状に凍り付く。すると、そこからこちらに目掛けて突進してきていた“黒蝕竜”が氷の大地に足を滑らせて転倒。もちろん、すぐに爪を立てて起き上がろうとするが、その巨体が滑った時点でカドックの目論見は成功していた。

 

 

「マスター、手をッ!」

 

 

 差し伸ばされた手を強く握り締める。アナスタシアの右腕から飛び出したヴィイが自分達の周りを旋回すると、氷で作られたスケート靴が両足を包み込んだ。

 

 次の瞬間、動き出す一人と一騎の体。ヴィイの魔力によって自発的に動いたスケート靴を巧みに操り、カドックとアナスタシアは氷の大地を軽やかに駆けていく。

 

 彼がアナスタシアに地面を凍結させるよう指示したのは、なにも前方より迫っていた“黒蝕竜”を転倒させる為だけではない。他の“黒蝕竜”よりも自分達に最も近い位置にいた個体の動きを封じている間に、足での移動よりも早いスケート靴での移動を行う為であったのである。

 

 

「この状況でスケートだなんて、貴方、かなり余裕があるのかしら?」

「あるわけないだろ。一瞬でも気を抜けば死ぬんだ。余裕なんて持てるか」

 

 

 確かに、この状況下でスケートを始めるなどどうかしている。アナスタシアが言ったように、余裕があると思われても仕方がない。

 だが、カドックがこの馬鹿げた選択肢を取った事にも、また理由が存在する。

 

 上空から落ちてくる、無数のブレス。氷の大地に着弾し、破壊していくそれらの間を、カドックはアナスタシアと前後を入れ替わりながら進んでいく。そうしていると目の前に抉られた大地が見えてくるが、直後にカドックがアナスタシアの体を抱え上げれば、彼女は自分達の前方に氷の坂道を作り出す。

 

 地面を勢いよく蹴って加速したカドックが即席のジャンプ台から飛んでアナスタシアを放り投げると、今度は着地した彼女がカドックを抱き留めると同時に周囲に氷の竜巻を発生させる。

 アナスタシアとカドックを護るように出現した氷の竜巻が近づこうとした“黒蝕竜”達を牽制した後に現れるのは、黒き巨大な影。

 

 

「叩き落しなさい、ヴィイッ!」

 

 

 主の命に従い、巨大な精霊がその腕を伸ばし、鞭のように振るう。

 実態を持たないが故に伸縮自在な腕は牽制に動きを止めていた“黒蝕竜”を薙ぎ払い、叩き落していく。

 自身の影に結び付く精霊に護られたアナスタシアはカドックを下ろし、どちらが先ともなく左右に分かれる。

 

 カドックの前に降り立つ二頭の“黒蝕竜”。それぞれがカドックを叩き潰そうとしてくるが、カドックは二頭の攻撃を紙一重で回避しながらガンドで動きを止めていく。

 アナスタシアも自身を狙ってきた“黒蝕竜”達を氷柱を矢のように撃ち出して迎撃し、時にはヴィイの助けを借りた軽やかな動きで攻撃を掻い潜っていく。

 

 片方でも欠ければ即座に死が待ち受けている、失敗の許されない戦闘―――だというのに、彼らの動きには一切の迷いがなく、それでいて美しい。

 

 それは、互いの事を心から信頼しているからこそ成せる技。ロシア異聞帯で出会い、別れ、そしてシュレイド異聞帯であり得ざる再会を果たした両者は、従えるマスターと従うサーヴァントの関係ではなく、互いの命を預け合うパートナーとなった。

 

 ―――ルーツとオフェリアのような親友。

 ―――虞美人と項羽のような夫婦。

 ―――ペペロンチーノとアシュヴァッターマンのような相棒。

 

 それらとはまた違う、両者の信頼関係。いつかのアイドルイベントでもあった、心の底から相手を信じているからこそ発揮できる真価。

 

 主従関係を超えた、真に心で結ばれた彼らだからこそ辿り着いた領域。かつてロシア異聞帯で戦った、藤丸立香とマシュ・キリエライトの信頼関係に限りなく近いそれは、このような死地では時に限界を超えた力さえ発揮する。

 

 

『ふふっ、楽しいわね、カドック♪』

『余裕なのはそっちじゃないか、アナスタシア』

『あら、そう言う割にはそっちも少し余裕が出てきているわよ?』

『……そうかもな』

 

 

 確かに、念話でこんな会話が出来るぐらいには、多少の余裕が出来たのかもしれない。

 もうそろそろ“黒蝕竜”の包囲網も抜けられようだ。ここで一気に脱出まで行ければ―――

 

 

「ッ、カドック―――ッ!!」

 

 

 だが、現実はそう簡単なものではない。

 合流した自分達の先で、“黒蝕竜”達のブレスが混ざり合い巨大化した暗黒の奔流が大地を穿ち、凄まじい衝撃波を発生させたのだ。

 

 一秒の間も置かずに襲ってくる衝撃波に、アナスタシアが自身と比べて遥かに脆弱な魔術師(にんげん)のカドックを強く抱き締めた瞬間、両者の体が衝撃波によって吹き飛ばされ、大地を転がっていった。

 

 衝撃波が収まり、無意識に閉じていた瞼を上げたカドックは、「アナスタシア……ッ!」と自身を抱き締めている彼女の様子を確認する。

 

 

「よ、よかった……無事の、ようですね……」

「待ってろ、今―――」

「キシャアアアアアアァァッ!!」

 

 

 アナスタシアがカドックを護ったように、ヴィイもまたアナスタシアを護ったのだろう。大怪我はないようだが、一先ず応急処置をと思った瞬間、彼の声を上空からの咆哮が遮った。

 

 思わず空を見上げたカドックの視線に映り込んだのは、空を埋め尽くす“黒蝕竜”の群れ。どこからか流れてきた別の群れが合流してしまったのだ。先のブレスのせいで氷の大地も粉々にされてしまい、スケート靴での脱出も出来そうにない。

 

 

(どうする……ッ! どうすればいい、カドック・ゼムルプス―――ッ!? クソッ、考えがまとまらないッ!)

 

 

 ここで遂に、無視し続けていた焦燥感が溢れ出した。

 思考に乱れが生まれ、まともな考えが思い浮かばない。

 

 この状況からの脱出が出来る策を講じようにも、その根源にある思考が正常に出来ないのであれば、まともな答えなど出るはずがない。

 

 “黒蝕竜”達の(あぎと)から、青黒い吐息が漏れ出し始める。それがブレスの予兆だとこれまでの戦闘の中で理解していたカドックだが、たとえアナスタシアの宝具を発動したとして、あの数の“黒蝕竜”の攻撃を防ぎ切る事は出来ないという直感が、改めて彼に残酷な現実を叩きつけてくる。

 

 

(いや、それでも……ッ!)

「カドックッ!」

 

 

 こちらを見つめる決意の籠った瞳。そこに宿る闘志に、カドックもまた応えたい。

 

 防ぎ切れるかどうかなど関係ない。ただ、なにもせずに終わるのだけは嫌だ。なにも成せず、なにも残せずに死ぬ為に、ここまで生きてきたわけじゃない。

 

 自身の全ての魔力を使い果たしてでも、この窮地から逃れる―――そう思った、その時だった。

 

 

『全員、そこから動くな』

 

 

 短く告げられた命令と共に、無数の光が降り注ぐ。

 それは、手付かずの自然が大部分を占める妖精國には到底似合わぬ、鋼鉄の魚雷。炎の帯を引いて飛来したそれらは瞬く間にカドック達を包囲していた“黒蝕竜”達に直撃し、彼らの体を燃やし、消し飛ばしていく。

 

 

「今のは……ッ!?」

 

 

 突然降り注いだ飛翔体。それがミサイルに近いもの(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)に見えたカドックが、それらが飛んできた方角へ視線を向ければ、そこに浮かぶものに目を見開いた。

 

 ―――それは空を征く白銀の船。

 白紙化された星の空を駆け、異聞の空を奔り、彼方へと向かう希望の箱舟。

 

 

『こちらはストーム・ボーダー艦長、ネモ。カドック・ゼムルプス、およびアナスタシア・ニコラエヴァ・ロマノヴァ。君達を助けに来た』

 

 

 最早、相手がクリプターであろうがなんだろうがどうでもいい。あの『厄災』に立ち向かう者ならば、この船に乗れ。

 若く中性的な声とは裏腹にその言葉はカドック達の胸に重く圧し掛かり、同時に、立ち塞がる困難を前にしても折れぬ不屈の漢の姿を幻視させた。

 





・『モルガンがマキリ・ノワを倒したと思ってるバーヴァン・シー』
 ……バーヴァン・シー達がマキリ・ノワのいる湖水地方から離れた時、そこにはモルガンとディスフィロアしかいなかったため、実際に討伐したのがマシュだとは知らない。

・『痛幻の哭奏(フェッチ・フェイルノート)
 ……ゲームでもおなじみ、バーヴァン・シーの宝具だが、まだサーヴァントではないため魔術の域に留まっている。効果は原作と同じく対象を呪い殺す為の魔術だが、バーヴァン・シーはこの効果対象をゴア・マガラ(カリア)を蝕む凶光の力に限定し、それをパスごと切除する為に使用した。
 この魔術を彼女に教えた者が、それを誰かを救う為に振るわれた事を知った時、いったいなにを思うのだろうか……。

・『カドックとアナスタシアの親密度』
 ……絆レベル15。日常、戦闘問わず、相手がなにをしたいかは言葉にせずとも大体わかる。在り方としては相棒に近いが、それとは少し違ったパートナーといったところで恋人関係ではない。少なくともカドックにその気はない。アナスタシアからの矢印の内容は「頼りになるマスター:好き」の比率で4:6。


 カドックとアナスタシアパートですが、正直自分でも「なんだこのシチュ……もっとマシな奴はなかったのか……?」と思っております。ですが私のよわよわ思考回路では、他のメンバーと比べて目立つアナスタシアの特徴が氷とヴィイぐらいしか思いつかなかったので、このような形となりました。もうちょっと色んなバリエーションやネタを用意したいですね……。
 今年もあと一ヶ月と三日。皆さんも体調管理に気を付けながら新年を迎えましょうッ!
 それではまた次回ッ!
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