【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 アケマシテオメデトウゴザイマス=ミナサン。
 大晦日は銀魂展に行った後、ネコアルクレイドクエを回りまくった結果、ロウヒの絆レベルが10を迎えたseven774です。

 先週は本編を更新できず、申し訳ございませんでしたッ! 途中でifストーリーの書き直しが発生してしまったとはいえ、楽しみにしてくださっていた方々の期待を裏切る形となってしまったのはかなり苦しかったです……。今後はこういった事が無いよう努力していきますッ!

 さて、先述したロウヒ絆レベル10到達についてですが、いやぁ……自分でも驚きです。まさか先月実装されたばかりの新規サーヴァントが絆レベル10になるなんて思いもしませんでした……。ボックスを回しまくった影響ですね……。

 皆さんは福袋ガチャ引きましたか? 私は卑弥呼狙いで引きに行ったのですが、出てきたのはバゼットでした……。目当てのサーヴァントは召喚できませんでしたが、バゼットは宝具のカウンターが面白いので、いつか使ってみたいと思いますッ!
 そして、公式から発表されたグランドサーヴァント設定、皆さんは誰を選びますか? 私は取り敢えずキャストリアとモルガン、村正、ザビ子、水着エリセは決まりだとして、残るクラスで迷っております。良ければみなさんも感想と一緒に教えてくれれば幸いですッ!

 それでは今年一発目、どうぞッ!



猟奇の劇場世界

 

 空想に描かれた歴史に、真実の世界が浮かび上がる。

 

 あり得るはずのなかった、存在するはずのなかった世界(れきし)の中に生まれた、もう一つの世界。

 イレギュラーの発生、継続を許さない世界からの拒絶を受けながらも、それをたった一人の男が魔力……否、意志の力を以って防ぐ事で顕現し得るその世界の名は―――固有結界。

 

 固有結界とは、その魔術師が有する技術の最奥。他の誰にも真似できぬ、世界にたった一人のみ創り出す事が出来る領域。

 

 ―――炎が燃え盛る、無数の剣が墓標のように突き立つ一面の荒野。

 ―――伝説の軍勢が駆ける、晴れ渡る蒼穹に熱風が吹き抜ける広大な大砂漠。

 ―――自らの名前を皮切りに記憶を失い、存在を消滅させていく森林。

 

 術者が抱く心の景色によってその在り様、能力は変わるが、それらに共通するものとして、『その世界は彼ないし彼女そのもの』である事が挙げられる。

 己の心象風景を以て周辺一帯の現実を侵食するという、魔法に最も近い究極の魔術によって創られるその世界は、敵にとっては常に全方位から武器を突き付けられているに等しい。

 もちろん、このような大魔術を行使する事が出来る魔術師、またはその素質を持っている人物はとても少ない。自らの在り方を受け入れ、深淵を覗き見、そして真の意味で理解した者のみが、この秘技を振るう資格を得る。

 己に対する理解、一つの世界を維持する魔力、その能力を充分に活用できる経験を有する者のみが顕現させ得るこの魔術は、無理に行使し続ければ術者の死亡もあり得るが、その力を上手く扱えればリスクに見合った……いや、それ以上のリターンを得られるだろう。

 

 では、たった今一人の男が生み出した世界は、いったいどのような世界であるのか。

 

 

「これは……っ」

 

 

 ―――それは、劇場だった。

 術者本人と、彼が狙いを定めた二人の少女を囲むように出現した、円形の劇場。その客席は無数のヒトガタによって埋め尽くされている。

 

 だが、その客人達はおよそ人間とは言えない者達であった。

 犬や猫、豚や牛などといった動物達の頭部を持つ者。滅茶苦茶に捏ねられた粘土のようにぐちゃぐちゃでありながらも、辛うじて人の形に見える者。全身が拉げ、とても生きているとは思えない状態でも確かに意識を持った瞳でこちらを見つめる者。

 しかし、誰一人として外見が全く異なるヒトガタ達でも、たった一つだけ共通している要素がある。

 

 それは、誰もが血塗れであり、こちらを見つめてニタニタと嗤っている事。

 

 それが返り血なのか、それとも彼ら自身のものなのかはわからない。しかし事実として、彼らは全身に血を流しており、中には照明を受けてぬめりのある光を放つ臓物を、まるで装飾品のように身に着けている者までいる。

 

 

「う……っ!」

 

 

 彼らが放つ血と臓物の臭いに、堪らず立香が吐き気に顔を顰める。

 人間の血や臓物など、これまでの旅の中で数え切れない程見てきた。目の前でワイバーンに首を食い千切られたり、砲弾でミンチになる者達だって見てきた。

 今でも見ていて気分の良いものではないし、出来れば絶対に見たくない光景であるが、それでも旅を始めた頃と比べれば充分に慣れてしまったと言っても過言ではなかった。

 

 ―――それでも、この異様な光景は別だった。

 彼らが異形の外見を持ち、ニタニタと気味悪く嗤いながらこちらを見つめ続けるのが、彼女の嫌悪感を刺激し、本能によるものとはまた別種の恐怖を抱かせた。

 

 

「―――ようこそ、憐れな赤ずきん共」

 

 

 ぬらり、と。

 粘性のある液体を直接背中に流されたような気味の悪い声に反応するように天井に備え付けられたスポットライトが一斉に点灯し、一体(ひとり)の異形を照らし出す。

 

 

「ベリルさん……」

「フゥウウウ……、なんだよ、マシュ。なけなしの魔力を費やして建てた劇場なんだぜ? もうちょっとこう、あるだろ? 綺麗とか荘厳とかさぁ……」

 

 

 演者のように大袈裟に両腕を広げた異形―――この劇場の創造主であるベリル・ガットに、盾を握り締める力が強まる。

 

 

「これが、貴方の世界なのですか……? このような、血に塗れた劇場(セカイ)が……」

「あぁ、そうさ。そうなんだよ、マシュ。オレは昔からこうだった。……こうして見るとよくわかるぜ。オレが心の底から求めていたものってやつがさぁ」

 

 

 マシュ達から視線を外し、劇場を見渡す。

 血塗れの異形達。周囲に充満する、噎せ返るような血と臓物の臭い。

 

 生物が本能的に恐れる、死の臭い。

 

 けれど、ベリル・ガットという男にとって、それは空腹の獣が今にも死に瀕している獲物を前にした時と同じ、強い飢餓感を抱かせるものだった。

 

 

「なぁ、マシュ。前に話した事があるだろ? オレは仕事でどこかに行った時、決まってそこにある美術館に行くってよ」

「……はい。その時の話を、私にたくさん話してくれましたね」

 

 

 その時の会話を、今でもマシュは忘れない。

 まだ自分が藤丸立香と出会う前。真っ白な部屋にいた自分に定期的に来訪してきた彼から、よくその話を聞かされた。

 世界中の美術館を訪れ、そこに展示されている美術品の数々を実際に見てきた彼の言葉にはその時感じていたであろう事の全てが込められており、話だけでもマシュは実際にその場にいたように錯覚したりもした。

 

 

「貴方は、綺麗なもの、美しいものを学ぼうとしていた。そこにいた人達や私を通じて、それを知ろうとしていた」

「そうだ。でも知ってるだろ? オレは、そういったもの(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)じゃ満足しないって」

「……っ」

 

 

 ベリルの言葉に、マシュはなにも返さない。しかし、微かに開かれた唇から漏れた鋭い吐息に、ベリルは「そうだよな」と嗤った。

 

 

「そうさ、オレは殺しが愉しい。ただオレが気持ちよくなる為だけに、色んな奴を殺してきた。仕事だろうがどうでもよかった。でもな、ただ愉しいだけじゃつまらない。オレは、綺麗なものを知りたかった」

 

 

 己が快楽殺人鬼である事など、昔から知っていた。ただそれとは別に、求めていたものがあった。

 

 それは、綺麗なもの。自身にはない、夜空に浮かぶ星が如き輝きを持つもの。

 自分にとってのそれとはいったいなにかを、ベリルは探し続けた。その為に世界中の美術館を回って、その知識を蒐集していった。

 けれど自身の心を満たすものはどこにもなく、「この世にそんなものなどない」と思い始めた、その時だった。

 

 

「そうだ。そんな時に出会ったんだよ、お前に」

 

 

 マリスビリー・アニムスフィアにスカウトされて招かれたカルデアで、遂に自分は星を見つけた。

 

 一切の穢れを許さない治療室。そこで一人静かに暮らす、紫髪の少女。

 外見こそ外の世界における高校生にも等しいもののはずなのに、生まれたての未熟児のような雰囲気を持つ彼女を、最初こそ最低な存在として思っていたが、それまで多くの人間を見てきた事から、後に「彼女は将来誰よりも綺麗になる」と確信した。

 

 そうだ。あの時感じた胸の高鳴りは―――

 

 

「あの時に、オレはお前に惚れたんだ。一目惚れだったんだ」

 

 

 恋を知った自分は、どうすれば彼女を愛せるかを試し続けた。

 そしてあくる日、知ったのだ。

 

 

「お前の指を折ったあの日、気付いたんだ。『あぁ、これだ』ってな」

 

 

 種から花を芽吹かせるのではなく、その花を手折る事こそが、己の喜び。

 己の求める『綺麗なもの』とは、正しくそれだった。

 

 ―――なのに。

 

 

「お前は、変わっちまった。オレが眠っている間に、色んな事を知っちまった」

 

 

 あの頃の無知な彼女は、いなくなってしまった。

 あの爆発で己が死に、クリプターとして蘇った後に会ってみれば、そこにいたのは、世界を知ったマシュ・キリエライトだった。

 

 狂いそうだった。許せなかった。

 あの時の、世界を情報のみでしか知りえなかった彼女が、もうどこにもいないのだと知って、絶望した。

 

 だが、それでも。

 

 

「それでも、オレのこの気持ちは消えなかった。今でもオレは、変わらずお前に恋してる」

 

 

 だから。

 だから。

 

 ―――だからッ!

 

 

「ここで、(あい)してやるよ。永遠に、この劇場(セカイ)でッッ!!」

「マシュ―――ッ!!」

「はいッ!」

 

 

 床を砕いて跳躍したベリルの飛び蹴りを、マシュの盾が防御する。盾越しに伝わる衝撃の重さに負けずにマシュがベリルを押し返し、そのままシールドバッシュに移行する。

 前方から迫り来る盾を避けずに受け止めたベリルの体が堪らず数メートル後退するが、彼の表情に苦痛の色はない。

 

 

「やるじゃねェか……ッ! そうでなくちゃ面白くないよなァ、マシュッ!」

 

 

 右手で盾を押し退けて左手から光線を放たれるが、マシュは咄嗟に身を捩って回避し、右足を軸に回転。回転する勢いのままにベリルの右手から盾を引き剥がし、横薙ぎに振るう。

 直撃すれば明確な隙を作り出せる脇腹を狙っての一撃は、しかし即座に防御姿勢を取られた事で防がれるも、マシュはさらに回転して威力を乗せた追撃を叩き込む。

 それさえも耐えたベリルが今度は自分の番だとばかりに手刀を構えるが、その頃には既にマシュは腰から直剣を引き抜いていた。

 

 

「シャァ―――ッ!」

「ヤァ―――ッ!」

 

 

 “凶光”を纏った手刀と、虹色の光を帯びた剣が激突する。

 それぞれの光の粒子を伴う衝撃波を周囲へ飛ばしながら行われる両者の攻防は、横薙ぎに振るわれた剣が手刀を打ち払った事で終わる。

 

 

「穿て、光剣ッ!」

 

 

 ガラ空きとなった胴体へ刺突を繰り出した瞬間、ブレードに溜めた光のエネルギーを解放。

 直線上に放出されたエネルギーによる追撃は、宛らパイルバンカーの如く。心臓の位置する胴を狙って繰り出された二撃を受けたベリルが「グゥオオオオォォ……ッッ!!?」と堪らず奥歯を噛み締めるが、すぐにその表情は笑みを作り上げた。

 

 

「ハハ……ッ! そうだよなぁ、マシュ。今のお前はそうだよなぁッ!?」

 

 

 拳を握り締めて叫ぶベリルにマシュがさらなる攻撃を加えようとし―――

 

 

「マシュ、避けてッ!!」

 

 

 後方から飛んできた少女の叫びに、即座に回避行動を取った。

 前方へ踏み込んだ足で地面を蹴る形で飛び退いたマシュの真横を通り過ぎていったのは、斧。攻撃を回避された事で勢い余って地面に食い込んだそれを軽々と引き抜いたのは、人や獣の皮を繋ぎ合わせて作られた衣服を身に纏い、鴉の頭で作られた帽子を被った異形だった。

 

 

「ハハハハ」

 

 

 渇いた笑い声と共に斧が振り下ろされるが、単調な動きで行われる攻撃などマシュにとっては防御する必要もない。すぐに左手に持つ直剣で弾き飛ばし、返す刃で袈裟切りにする。

 マシュの反撃に対応できず、豆腐のように両断された異形が斃れる。しかし―――

 

 

「アァハハハ」

「キャハハハハ」

「な―――」

 

 

 周囲から聞こえてくる無数の笑い声に思わず周囲を見渡したマシュの視界に映り込んだのは、次々と自分達が座っていた席から立ち上がり、ステージへと降りてくる異形達の姿。

 血肉がこびりついたハンマーや刃こぼれした錆びたナイフなど、一目見ただけでも複数の命を奪い取ってきた得物を手に、ニタニタとした笑みをそのままに迫ってくる彼らの姿は恐怖の一言に尽き、これまで多くの戦いの最前線に立ってきたマシュでさえも思わず一歩後退ろうとして、ハッとする。

 

 

「先輩―――ッ!」

 

 

 戦闘に巻き込まれない範囲で注意深く自分とベリルの戦いを観察していた立香に振り向く。

 そして、マシュの感じた嫌な予感は的中した。

 

 

「つぅ……ッ、こいつら……ッ!」

 

 

 マシュの視線の先。そこにいた立香は既に異形達に襲われており、たった今その胸に突き立てられようとしていた包丁を躱していた。

 咄嗟に彼女を助けに向かおうとするマシュだったが、踏み出そうとした先に光線が通り過ぎ、動きを止められてしまう。

 

 

「行かせるかよマシュ。オレと楽しくやろうぜ?」

「そうするわけには、いきませんッ!!」

 

 

 飛び掛かってきたベリルを躱し、すれ違い様に一閃。

 振るわれた剣は脇腹を切り裂くものの、傷口は浅く少量の血を飛び散らせるのみ。その程度でベリルが動きを止めるはずがなく、振り向き様に振るわれた右腕がマシュの体を捉えた。

 

 

「うぐ……ッ!?」

「マシュッ! うわッ!?」

 

 

 盾で防御も出来ずに吹き飛ばされた相棒に立香が駆けつけようとするも、自身に向けて腕を振り上げた異形に気付き真横へ転がる。瞬間、先程まで彼女のいた場所を空気を切り裂いて迫った鞭が通り過ぎていった。

 だが立香もただ逃げているだけではない。転がった先で立ち上がらずに、そのまま足払いで自身にハンマーを叩きつけようとしていた異形の態勢を崩し、その頭を踏んで跳躍。次いでその後方にいた異形に対し魔術を放つ事で怯ませ、その背後に降り立ち両手で襟を掴む。

 今まさに返り血を浴びたかのようにしっとりとした感覚に寒気を覚えながらもその異形を引っ張って前へ突き出せば、彼女に迫っていた異形のナイフがその身に突き立てられた。

 丁度盾にした異形が彼女とほぼ同じ身長だったため、突き出されたナイフは的確に左胸―――心臓へ刺さり、一撃でその異形は動きを止めた。

 

 だが、異形達の攻撃は止まらない。

 そもそもがベリルの固有結界内で出現した存在。創造主同様にまともな感性など持ち合わせているはずがなく、同士討ちをしたところで動きを止めるわけがなかった。

 

 

「せ、先輩……ッ!」

「私の事は気にしないでッ! マシュはベリルに集中してッ!」

「―――ッ、はいッ!」

 

 

 次々に異形達を盾にして同士討ちさせ、時には自らも攻撃して怯ませる彼女の言葉に、マシュは強く頷いて立ち上がる。

 

 そうだ。彼女も自分と同様、多くの死線を潜り抜けてきた。自分やサーヴァント達よりも遥かに弱い人間でありながらも決して逃げずに立ち向かい続けてきた彼女が、あの程度で殺されるはずがない。

 ならば、彼女を信じるのみ。それが出来なくて、なにがファースト・サーヴァントか―――ッ!

 

 

(―――ッ! 目が変わりやがったな……あの一瞬で切り替えたか)

 

 

 自身に群がる異形達を薙ぎ払って立ち上がったマシュの瞳。そこに宿る眩いまでの光に、ベリルはその眼を細め、笑う。

 

 もし、あの光を苦痛に歪ませられたら。

 あの瞳から、勇気と決意という光を奪い去る事が出来たのなら。

 

 ―――いったいどれだけ、幸せなのだろうか。

 

 

「なら早速次の演目だッ! 起きろ観客共ッ! 演者(おれたち)と一緒に踊ろうぜッッ!!」

 

 

 両腕を大きく広げて天井を仰いだベリルが叫んだ直後、先程までマシュが薙ぎ払い、立香が盾としてきた異形達に異変が起こる。

 剣で切り裂かれ、盾で潰され、ナイフに突かれ、ハンマーで殴打され―――様々な形で殺されてきた異形達の体が勢いよく跳ね、自身と同じく殺された者達の骸と合わさっていく。

 

 負傷した箇所から伸びた血管が互いに結びつき、それぞれの肉や骨が無理矢理変形する気味の悪い音を立てて、より悍ましき姿へと変わっていく。

 

 

『オォオォオォォオオォォォ……ッ!』

 

 

 無数の骸や、彼らが握っていた武器。それらが滅茶苦茶に混ざり合う事で完成した巨人は、固く握り締めた拳をマシュ目掛けて振り下ろしてきた。

 

 後ろに飛び退いて回避したマシュが光の斬撃で巨人に反撃。光の熱量に焼かれた巨人の腕が焼き切れるが、切断された側から凄まじい勢いで伸びた血管が傷を修復。即座に再生し、再びマシュに殴り掛かってきた。

 瞬間的な回復による再度の攻撃。一秒にも満たない時間で行われた行動にマシュが防御態勢を取って防ぐが、続いて繰り出された左拳によって後方へと押し飛ばされる。

 

 右足を後ろに下げて態勢を整えたマシュだが、その背後に降り立ったベリルが手刀を構え、無防備な背中へ振り下ろそうとし―――

 

 

「礼装切替―――『緊急回避』ッ!」

「なッ!? チィッ!」

 

 

 マシュをサポートするのに邪魔だった異形達の死体がなくなった事で多少は動きやすくなった立香の魔術が発動した魔術が彼女の体を動かし、ベリルの不意打ちから逃れさせた。

 自分一人では間違いなく対処できなかった攻撃を防いでくれた立香に感謝しながら、マシュは「ハァッ!」と気迫の籠った回転切りで巨人とベリルを薙ぎ払った。

 

 時計回りに振るわれた光の一撃を受けたベリルは堪らず吹き飛ばされ、巨人は両足を切断されて体勢を崩される。

 

 瞬間再生能力は厄介だが、両足を切り裂かれて体勢を崩している今ならば距離を取る事が出来る。即座に巨人から距離を取って立香の傍まで戻り、盾を構える。

 

 

「ありがとうございます、先輩。お陰で助かりましたッ!」

「そっちこそ。私を心配してくれてありがとう、マシュ。―――ッ!」

 

 

 互いに笑顔を向け合う二人だが、彼女達を覆う巨大な影が一つ。

 立香が肉壁にし、そして同胞達に殺された異形達が合体して生まれた巨人が二人を捕まえようとするが、二人は左右に分かれる事で伸ばされた手を回避。二手に分かれた両者の内、立香の方へ狙いを付けた巨人は小さな地響きを起こしながら彼女を追い始める。

 

 背後から迫る殺意に圧されながらも、立香はこちらに狙いをつけた異形達の中へ飛び込む。

 自身を掴み、殺そうとしてくる異形達の手を紙一重で躱しながら走る彼女に続いて、巨人もまた異形の群衆の中へ。

 立香を狙う以上邪魔な同胞達を片っ端から殴り飛ばし、踏み潰していく巨人。

 自身の周りに巨人に殴り飛ばされた異形達の凄惨な骸が降り注ぐ中、立香は一瞬だけ背後を振り返る。

 

 

(やっぱりそうだよね……ッ! 厄介な性質ッ!)

 

 

 一瞬だけ視界に収めた巨人の姿は、つい先程のものよりもまた一層悍ましさを増していた。

 速度を落とさぬまま視線を左右に向ければ、巨人に殴り飛ばされてきた異形達の死体から血管が伸び始めている。その血管の先が今自分を追っている巨人を向いている事からも、この一瞬で巨人が自分で蹴散らした異形達の亡骸を取り込み巨大化しているのがわかる。

 

 こちらが殺した対象だけでなく、自身が殺した対象さえも取り込む―――実に厄介な性質だ。このまま異形達の死体を取り込み続け、創造主であるベリルも加わるとなれば、いよいよ手が付けられなくなる。こちらの敗北が濃厚になってしまう。

 

 だが―――

 

 

(お陰で、こっちも切り札が出来た(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)ッ!)

 

 

 立香の脳は、この性質を利用できる手段―――切り札を思いついていた。そして、その切り札こそ、この状況を逆転できる一手となると確信していた。

 

 

「マシュッ!」

 

 

 ジャンプした瞬間、背後へ振り下ろされた拳から発生した突風を受けて一気に距離を取る。そして立香が名を叫べば、ベリルと巨人相手に苦戦していたマシュが「はいッ!」と答え、剣を頭上に掲げる。

 剣先から放たれたのは、七色の光弾。虹色の輝きを帯びて不規則に動くそれらにベリル達が対処している間に立香の下へ駆けつける。

 

 

「先輩、なにか思いつきました?」

「うん。この劇場に相応しい手札がね。あ、でも……鼓膜には注意してほしいかも」

「鼓膜……? ……も、もしかして」

「よく聞いてね。召喚するのは―――」

 

 

 そして、立香から彼女がこれから召喚するサーヴァント達の名を聞いたマシュは「やっぱり」と思うと同時、「それはいいのだろうか」という疑問を抱いた。

 

 

「よ、よろしいのでしょうか……。順番を間違えればどちらからも怒られそうなのですが……」

「大丈夫ッ! 順番さえ間違えなければいいだけだからッ! 順番さえ間違えなければッ!」

「二回言いましたね先輩。……その時には私も同行しますから、とりあえず召喚ですッ!」

「当然ッ! マシュ、護っててッ!」

「はいッ!」

「させるかよッ!」

 

 

 固有結界内で二体の巨人、そしてその創造主であるベリルを前にしても一切の恐れを感じさせない表情をした二人に、ベリルは彼女達がなにかをしようとしている事に気付き、とにかくそれを阻止せねばと動き出す。

 巨人達を伴い迫るベリルを、マシュが盾を構え迎え撃つ。彼女がベリル達を抑えている間に、立香は右手の令呪に意識を集中させ始める。

 

 

「簡易召喚―――」

 

 

 今回喚び出すサーヴァントは、三騎。

 楽園の入り口での■■■■■戦で召喚したサーヴァント達よりは規格的に多少魔力量は抑えられるものの、それでも満足な休息もない状態での召喚は堪えるが、それで諦められるはずがない。

 

 足元に魔法陣が描かれ、召喚の準備が整った瞬間。彼女は強く叫ぶ。

 

 

「来て―――私のサーヴァントッ!!」

 

 

 彼女の喚び声に応えて顕れたのは、可愛らしい黒いアイドル衣装を纏った少女と、赤き剣を握る紅蓮のドレスを纏った少女。

 腰から伸びた竜の尻尾を地面に叩きつけ、巨大な槍を手にポーズを決めるのは、ランサー霊基のエリザベート・バートリー。

 剣を握っていない左手に持つ薔薇を放り投げ、腰に手を当ててエリザベート同様ポーズを決めたのは、セイバー霊基のネロ・クラウディウス。

 

 顔の上部を黒く捻じれさせながらもアピールを忘れない彼女達がマシュの援護に向かっていく中、立香は次のサーヴァントを召喚する。

 だが、立香の前にサーヴァントは顕れない。まさか失敗か、とエリザベートやネロと共にベリル達を迎え撃ちながら立香を見やったマシュが思うが、彼女の浮かべている表情に納得する。

 

 そう、立香は確信していた。たとえ目の前にいなくとも、そのサーヴァントは確かに、この地へ招かれたのだと。

 

 劇場の片隅。誰の目にも、それこそ創造主の目にも触れぬ深い闇の中に、()は顕れた。

 

 そして、彼は静かに行動し始める。己を求めた主の想いに応える為に―――。

 




 
・『猟奇固有結界・レッドフード』
 ……猟奇的な外見を持つ異形達の円形劇場。発動者とその敵対者を中心のステージに据えて出現するその世界には猟奇的な外見をした異形の観客達が存在している。彼らはベリルの精神の形を表した者達であり、最初こそ観賞するのみだが、彼の指示や意思によって行動を開始する。
 彼らが他者によって殺された後にベリルが指示した場合、彼らは自身と同じように殺された者達と肉体を結合させ、より悍ましい巨人の姿となって活動し始める。仮にそれをダメージを与えたとしても、完全に消滅させない限り再生し、敵対者を殺害しようとする。それに巻き込まれ殺された者もまたその巨人と結合し、際限なく肥大化していく。
 出身地がイギリス……もといグレートブリテンである彼の固有結界がなぜ古代ギリシャや古代ローマに多く作られた円形劇場なのかというと、その方が多くの観客に自分達の演劇を見てもらえるからである。


 今回舞台となったレッドフードですが、猟奇的な固有結界という事で、もし仮にバーヴァン・シーに代わって彼がカリアを召喚していた場合の話をしましょう。
 彼がカリアを召喚した場合、その相性はかなり良いものとなっていました。互いのプライベートに干渉する事はないですが、こと戦闘となると両者の残虐性がベストマッチするので、条件次第ではクリプターの中でも上位の主従ペアとなります。ですがカリアは基本女性マスターにしか召喚されないので、この可能性はまずないのですが……。

 2025年も我が拙作、『緋雷ノ玉座』をよろしくお願いしますッ! なんとか今年中にミクトラン編まで行きたいッ!
 それではまた次回ッ!
 
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