【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

125 / 152
 
 ドーモ=ミナサン。
 fgoと並行してプレイしているプロセカに大幅アップデートが入り、4GBを持っていかれたseven774です。
 私、fgo以外にも原神とかウマ娘とか入れているので、スマホの容量がそれなりに圧迫されているんですよね……。定期的にキャッシュクリアしたりしているんですが、それでもこれが中々に重い……ですがやはり全部面白いのでやめられないんですよねぇ……。

 皆さんは新年最初のイベント新規サーヴァント、もう召喚しましたか? 私はまだ石が溜まり切っていないため見送りの予定ですが、いつかは召喚したいですねぇ……。

 それでは本編、どうぞッ!
 


血染めの演目

 

 業火を伴って振るわれる剣が弾かれ、拳が突き出される。

 空気を切り裂き、顔面へと突き進んでくるそれをネロが軽く首を動かして回避するも、次の瞬間に動いた右足が腹部に捻じ込まれ、蹴り飛ばされてしまう。

 

 剣を床に突き立てて蹴り飛ばされた体を止めたネロにベリルが追撃を仕掛けようとするが、頭上から槍に跨ったエリザベートが急降下。主と共に落下する槍はしかし、標的が後方へ飛び退く事で回避されてしまうが、着地した瞬間に主に握り締められ、上段へ振り上げられる。

 下から掬い上げるように振るわれた槍はエリザベートを吹き飛ばそうと魔力を溜めていた左掌をかち上げ、勢いを殺さぬまま薙ぎ払いに移行。がら空きとなった左脇腹に直撃し、彼の体を押し飛ばした。

 

 

「チッ、邪魔するなッ!」

 

 

 だが、直撃しても尚ベリルには軽く顔を顰める程度のダメージしか入らず、片足で地面を蹴ってバク転したと思いきや、着地の瞬間に床を蹴り彼我の距離を一気に縮める。咄嗟にエリザベートが槍を構えて防御態勢を取るも、加速してからの飛び蹴りの威力を殺し切る事は出来ずにネロ同様に蹴り飛ばされてしまった。

 二回ほど地面をバウンドしていくエリザベートだったが、先程ベリルがしてみせたように、彼女は自身の腰から伸びる竜の尻尾で床を叩いて態勢を整え、ハート型の魔力球を撃ち出す。

 人一人を容易く包み込める程の大きさの魔力球は、しかし異形の姿となっているベリルにとっては自分より少し小さな球でしかなく、掌から放たれた光線で相殺されてしまった。

 

 両者の魔力が衝突して弾ける中、加速したベリルはその奥にいるエリザベートに飛び掛かろうとするが、彼らの間に割って入る影が一つ。

 

 その姿を視界に収めたベリルは犬歯を剝き出しにした笑みと共に手刀を振るい、彼の前へ躍り出た影はその手に持つ盾を構える。

 

 ガァンッ!! と、およそ手刀で盾を打ったとは思えぬ音が鳴り響き、加速していたベリルの動きが受け止められた。

 

 

「ハァッ!」

 

 

 攻撃を受け止めた少女―――マシュが気迫の籠った叫びと共に盾を押し出す。

 攻撃を受ける直前に僅かに後方へ引いて衝撃を軽減させていた彼女によって押し出された盾にベリルは追撃を諦め距離を取るが、彼と入れ替わりにマシュとエリザベートを巨大な影が覆った。

 

 

『オォオオオオオオッッッ!!!』

 

 

 無数に混ざった雄叫びを上げた巨人が、その身を構成する異形達の骸と、彼らの武器が滅茶苦茶に混ざり合った拳を振り下ろす。

 背後からの攻撃に気付いたマシュ達は左右に分かれて回避しながらも迎撃。光と魔力を込められた剣と槍が左右から巨人の腕を切り裂きどす黒い血が噴き出す。彼女達に切断された箇所はすぐさま回復の兆しを見せ始めるが、強化を受けた攻撃を受けた影響か、再生する速度が少しだけ遅れている。

 その間にマシュをベリルの下へ向かわせたエリザベートは、顔の上部のように捻じれていない口元を大きく開き、吸い込んだ息を吐き出す。

 

 それを声とは認識できない程の大音波が巨人の動きを鈍らせ、さらに音の振動はその巨体を維持する骸を弾けさせ、態勢を崩させる。

 しかし、巨人もただ押されるだけではない。全身再生を犠牲にし、片腕のみを即座に回復。ブレスの壁を突破して伸ばされた腕はエリザベートを掴み上げ、一気に力を籠める。

 

 掴み上げられた事で槍を振るう事も、腰から伸びる尻尾を動かす事も出来ないエリザベートの体内が巨人の握力を前に悲鳴を上げる。唯一可能なブレスでの反撃さえも許さない程の激痛にエリザベートは藻掻くしか出来ず、そのまま彼女の体は巨人によって―――

 

 

「ガンドッ!」

 

 

 その時、立香の放った魔術が巨人に命中。対象を一瞬だけ硬直させる呪詛が込められた弾丸の効果は見事に発揮され、エリザベートを握り潰そうとしていた巨人は全身を強張らせて彼女に脱出するチャンスを与えてしまった。

 この隙を逃すエリザベートではなく、巨人の拘束が緩んだ瞬間に離脱。全身に走る痛みに口元を歪ませながらも距離を取ると、それと入れ替わるように飛び込んだネロがジグザグに動きながら巨人を切り刻むと同時、炎によって再生しようとする血管を焼き切っていく。

 

 血管を焼き切られた事で結合を阻止された巨人が地響きを立てて崩れ落ちる姿を尻目に舌打ちしたベリルがネロ目掛けて光線を発射するが、マシュが即座に光線の発射元である左手を盾で打ち上げる事でネロへの狙撃を防ぐ。

 マシュによって救われたネロは恩返しをするべく援護に向かおうとするが、頭上から落ちてくる巨大な影に咄嗟に回避行動を取った。

 

 

『オォ……オォオオオォォ……ッ!』

 

 

 ネロを圧し潰そうとした腕の持ち主である巨人が、呻き声と共に起き上がる。

 彼女によって焼き切られた箇所では再生に時間がかかると判断したのか、切断されていない箇所を繋ぎ合わせる事で再起した巨人は新たな腕で彼女を捕らえようとするが―――

 

 

「させないわよ」

 

 

 この場で聞こえるはずのない声が、それを許さなかった。

 降り注ぐハート型の魔力弾と、禍々しい青黒い光線。突如として降り注いだ攻撃に対処できなかった巨人は全身でそれを受けてしまい、大量の肉片となって散らばった。

 

 

「今の声……、まさか―――ッ!」

 

 

 先程の声に聞き覚えがあった立香が視線を攻撃が飛んできた方角へと向けると、そこに四つの影が立っているのが見えた。

 

 

「ハァイ立香ちゃんッ! 遅ればせながら参戦しに来たわ♪」

「ペペロンチーノさんッ!」

 

 

 その影の一つ―――ペペロンチーノが、共に行動していたウッドワス達と共に観客席からステージへと降り立つ。

 すぐさま戦場へと向かっていったウッドワス、パーシヴァル、ノクナレアと分かれて立香の下へ駆け寄ったペペロンチーノに「大丈夫?」と声をかけられ、立香は「うん」と小さく頷いた。

 

 

「それならよかったわ。よく頑張ったわね、ここからは私達にも手伝わせてちょうだい」

「もちろんッ! ……でも、どうやって固有結界の中に?」

「そこは企業秘密♡ で、私達はどうすればいいかしら? ここまで戦ってきたのは貴女達だもの。リーダーの貴女に従うわ」

 

 

 ありがたい援軍の登場と申し出に、立香の脳は即座に思考を開始。

 新たに加わった戦力を加味し、これまでマシュ、ネロ、エリザベート、そしてとあるサーヴァント(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)のみで動かしていた盤面を調整。自分が知る限りのペペロンチーノ達の情報も含めて作戦を練り直した立香は、「それなら」と口を開く。

 

 

「一つ、考えてる事があるんだ。それを試したい」

「わかったわ。ウッドワス達はどうするの?」

「あのまま戦ってもらった方が動きやすい。援護……というか、あそこに混ざれる?」

「貴女……私が魔術師とはいえ、ただの人間だって忘れてる?」

「でも、強いよね?」

 

 

 立香の眼差しに込められた「出来るよね?」という明らかに確信を持った問いかけに、ペペロンチーノは自分をあの戦場に飛び込ませようと決断した彼女の思考に末恐ろしいものを感じながらも、「もちろん」とにこやかに微笑んだ。

 

 

「後輩の頼みだもの。それに応えるのは先輩としての当然ね。抑えるのはベリルでいいかしら?」

「お願い。その時が来たら一気に畳み掛けるから、余計な手出しはさせないように。私の後輩(マシュ)を狙った以上……」

 

 

 立香の言葉が止まり、どうしたのかとペペロンチーノが彼女の顔を見た直後。

 

 

「―――あいつの武器を全部奪い尽くして、仕留めてやる」

 

 

 ギラギラとした殺意を漲らせた獰猛な笑みを浮かべている彼女に、思わず背筋が凍る感覚に襲われた。

 

 

(ベリル……貴方、とんでもない子を怒らせたみたいね……)

「それじゃあ、お願い」

「え、えぇ」

 

 

 言われるがまま、ペペロンチーノはマシュとウッドワスと交戦するベリルの下へ駆け出す。

 胸を狙って突き出された手刀を弾き、ウッドワスを投げ飛ばしたベリルがこちらに向かってくるペペロンチーノに気付くと、忌々し気に舌打ちして彼女に向けて魔力弾を撃ち出す。が、ペペロンチーノはそれらを紙一重で躱して肉薄し、回し蹴りを叩き込む。

 かつて担当していたインド異聞帯では神獣を相手にしても戦闘が可能な程の戦闘力を持つ彼女の一撃はベリルにも通用し、彼の口から「グォッ!?」と苦悶の声を漏らさせて後退させるにまで至る。

 

 

「チッ、まさか追いついてきやがるなんてなぁッ! ペペロンチーノッ!」

「貴方をあのまま逃がすわけがないでしょう? とっとと倒れなさいッ!」

「ベリル・ガットッ! もう逃がさんぞッ!」

「ガ―――ッ!?」

 

 

 鋭く伸びた爪を躱したペペロンチーノが離れ、復帰したウッドワスが飛び蹴りを叩き込む。一瞬だけとはいえ意識をペペロンチーノに持っていかれていたが故に無防備を晒してしまっていた背中にウッドワスの一撃を受けてしまったベリルの態勢が崩れるも、ステージに押し当てた両手から魔力を流し込んで出現させた茨で即席の壁を構築。さらなる追撃をと動きかけていたマシュを牽制し態勢を整える。

 立ち上がったベリルは両手に“凶光”の力を宿し、その場で回転。マシュの振るうものとは正反対な禍々しい光はレーザーのように茨を切り裂き、その奥にいるマシュ達を狙う。

 水平に動いて迫るレーザーをマシュ達と共に屈んで回避したウッドワスがその長い足でベリルの足を払おうとするが、それを読んでいたベリルは軽くジャンプして足払いを躱すと、ウッドワスに光線を発射。

 

 

「ぐぅう……ッ!?」

 

 

 バチチッ!! と反射的に交差させた両腕で光線を受け止めるも、その勢いに押されてステージを削り取っていくウッドワス。

 マシュとペペロンチーノの攻撃に対応し始めたベリルが光線を中断した事で解放されるも、彼の背後には巨人がおり、立ち上がろうとした彼に拳を振り抜こうとする。

 

 

「ウッドワス公ッ!」

「危ないわよッ!」

 

 

 だが、ウッドワスが迎撃するより先に動いていたパーシヴァルとノクナレアが、巨人の攻撃から彼を護る。

 槍と傘によって攻撃を弾かれて仰け反った巨人に、振り向き様にウッドワスが一閃。ベリルがこれまで何度も行ってきたものと同じ、手刀による斬撃だが、長年戦場で培われてきた経験の下振るわれた一撃は、彼が極限状態だった事も相まって巨人を両断し、続いての光線が上半身を消し飛ばした。

 

 

(今だ―――ッ!)

 

 

 ウッドワスの攻撃によって二体いた巨人の一体がその身の半分を失った瞬間、立香はここがその時とばかりに右手を掲げる。

 

 

「姿を現して、私のサーヴァントッ!」

 

 

 瞬間、猟奇の劇場を照らしていた照明が一斉に明滅し、消える。

 自分はなにも命じていないのに、いったいなにが―――とこの世界の創造主であるベリルが動揺した直後、一斉に点灯した照明の光を浴びて、黒い外套を羽織った青年が姿を現した。

 

 それは、この劇場にいた者達と同じ異形でありながら、人理を守護するサーヴァントの一騎。

 藤丸立香という一人の少女を見守り、彼女の旅を導く星々の輝きが一つ。

 

 その者の名は―――

 

 

「―――ファントム・オブ・ジ・オペラッ!!」

 

 

 これまでカルデアが召喚してきたサーヴァント達の中でも古参の部類に入る、多くの人間がその名を知る青年が、およそ人のものとは思えぬ鉤爪の生えた両手を広げて動き出す。

 

 小説『オペラ座の怪人』のモデルとなり、人々に恐ろしき怪人と認知されてしまった影響で変貌した異形の鉤爪と身体能力、そしてサーヴァントとなった事で浮遊移動能力を手に入れたファントムを叩き潰さんと、エリザベート達が相手していた巨人が拳を振り抜くが、彼は風に舞う木の葉の如き動きで回避。

 紙一重で、しかし一切の傷を負わぬままに拳を避けたファントムが己の真横を通り過ぎていく腕に鉤爪を這わせれば、それだけで腕を構成していた異形達の骸が切り刻まれ、解体されていく。

 

 バチャバチャと赤黒い血と臓物を撒き散らす腕。しかし痛覚など持ち合わせていない巨人はそれが再び己の腕となる前にもう片方の腕でファントムを捕らえようとするが、直後にその頭上にシャンデリアが出現。

 ファントムによって召喚されたそれは重力に引かれるままに落下し、無数のガラスが粉々に砕け散る音を奏でながら巨人を圧し潰し、行動を阻害した。

 

 身動きが取れなくなった巨人の頭上を取ったファントムが更なる追撃を加えるべく鉤爪を振り上げるが、その背後に跳び上がった影が一つ。

 

 

「調子に乗るなよ、オペラ座の怪人ッ!」

 

 

 妖しく輝く赤い光を宿す両拳を、ハンマーのように振り下ろす。

 その速度の高さに気付いていないのか、そのまま拳は彼の頭部へ―――

 

 

「護ってッ!」

「チィッ!?」

 

 

 瞬間、彼がそのように行動すると読んでいた立香が向かわせていたエリザベートとネロが、互いに壁を蹴って交差する形で得物を振るい、振り下ろされかけていた拳を迎え撃った。

 炸裂した衝撃波はその場にいた全員を吹き飛ばすに至るが、ただ一騎、ファントムのみが衝撃波を背中に受け入れ、一気に加速する。

 背後の衝撃波。そして重力―――それらを受けて真っ直ぐ巨人へ落ちていったファントムの鉤爪が煌めき、シャンデリアを押しのけて起き上がりかけていたところにトドメを刺した。

 

 老若男女の声が何十にも重なった絶叫と共に崩れ落ちた巨人。だが、ファントムの渾身の一撃を受けても尚、切り裂かれた断面からは再び血管が伸び始めており、再生を始めようとしている。

 

 次々と繋ぎ合い、再び巨人の形へと戻りつつある異形の骸達に構えるファントムに、ベリルは「ハッ!」と嗤った。

 

 

「まだわからないのかよ。そいつらは絶対に倒せない。いくら攻撃したところで―――」

 

 

 無駄、と言いかけたところで、ベリルの視線はファントムの口元―――仮面に秘されていないその部分が、微笑みを浮かべている事に気付いた。

 

 それは、この血に塗れた劇場には似つかわしくない、優しい笑みだった。

 まるで恋人に向けるような、慈愛に満ちた柔らかな笑みだった。

 

 故にこそ、その笑みはベリルに不吉な予感を覚えさせた。

 

 

「ファントムッ! 宝具の使用を許可するッ!!」

 

 

 そして、彼の感じた予感は、立香の叫びにより現実となる。

 

 いつの間に出現したのか、ステージ上に無数に現れた蠟燭に次々と妖しい紫色の炎が宿る中、その中心に立つファントムが両腕を広げる。

 彼の合図によって背後から聳え立つのは、生前の彼の手により命を奪われた数多の犠牲者で作られたパイプオルガンが如き巨大な演奏装置。だが、聳え立ったパイプオルガンはそのままで終わらず、不気味な瘴気を周囲へ放出し始める。

 放出された瘴気はステージを覆うように広がっていき、宝具を発動したファントムに向かっていた巨人の足に触れた直後―――巨人の体がまるで糸が解けたように分解されていき、演奏装置へと組み込まれていった。

 

 

「な……ッ!?」

(よし、上手くいった……ッ!)

 

 

 これにはさしものベリルも驚愕する他ないが、立香は自らの考えが正しかった事の証明を目にして拳を握り締めた。

 

 ―――地獄にこそ響け我が愛の唄(クリスティーヌ・クリスティーヌ)

 これこそ、ファントム・オブ・ジ・オペラ―――もとい、エリックという名の男の伝説が形となったもの。生前自身の手で殺してきた者達の死骸で作られる巨大演奏装置は、劇場という彼と最も親和性の高い場所で出現したが故に、本来よりも強力にして凶悪な効果を以てその姿を現した。

 

 だが、それだけでは終わらない。

 瞬く間に自身の前に聳え立つ演奏装置にベリルが身構える中、鍵盤に鉤爪を這わせるファントムの前へ降り立つ影が一つ。

 

 降り立った少女―――エリザベート・バートリーは口角を上げ、軽く振るった槍の柄頭を勢いよくステージへと突き立てる。

 瞬間、ファントムの出現させた演奏装置の周りに地響きと共に姿を現したのは、かつて数多の乙女達が招かれ、そして殺されてきた、彼女が君臨していた居城。

 英霊の座に招かれ、アイドルという概念を知ったエリザベート本人の手によって巨大アンプへと改造されたそれこそ、彼女が有する貴い幻想(ノウブル・ファンタズム)の一つ。

 

 ―――鮮血魔嬢(バートリ・エルジェーベト)ッ!

 

 

「演奏……開始ッ!!」

 

 

 二騎の宝具の発動を見届けた立香の号令に伴い、ファントムが大きく振りかぶった両手を鍵盤へ叩きつけ、エリザベートが大きく吸い込んだ息を吐き出す。

 

 ミュージカルとライブ。観客に届けるものも、求める対象も異なる二つの要素を持つそれぞれの宝具は、しかし互いの長所を潰す事はなく、奇跡とも呼べる調和の下に標的(ベリル)へと襲い掛かった―――ッ!

 

 

「ぐ、おぉおおおおおおッッッ!!?」

 

 

 エリザベートにリズムを合わせながらも、己の有するイメージをそのまま叩きつけるファントム。

 ファントムのサポートを受けながらも、足りないとばかりに壊滅的な歌声(ドラゴンブレス)を奏で続けるエリザベート。

 

 彼らの全力の攻撃を受けたベリルの全身は凄まじい破壊音波を前に圧し飛ばされ、劇場の壁へと叩き付けられる、

 まるで磔にされるが如く四肢を広げた状態の彼に防御する猶予などなく、一瞬の間も置かずに注がれる音波攻撃が彼の全身を打ち付け、血肉を揺さぶっていく。

 

 ―――しかし。

 

 

「ま、まだだ……ッ! 消え失せろォオッッ!!」

 

 

 影とはいえ、サーヴァント二騎の宝具を受けても尚、ベリルの闘志は消えない。

 幾重にも重なる破壊音波を受けながらも右手に作り出すのは、禍々しい光を帯びた魔力球。漏れ出た魔力が赤黒い稲妻となって走るそれはベリルが放った後でも凄まじい勢いで肥大化し、エリザベートとファントムに迫るが―――。

 

 

「させるかァッ!」

「うぉおおおおおおおッッッ!!!」

 

 

 エリザベートとファントムの宝具に加わる形で繰り出された、ウッドワスの作り出した極大光線とパーシヴァルの槍の穂先から放出された光の奔流が、ベリルの反撃を阻む。

 ぶつかり合った三つのエネルギーは一瞬の拮抗の末爆発。その余波は凄まじい衝撃波となって周囲へ飛び散り、それによってエリザベート達の宝具である城壁と楽器が破壊されてしまった。

 

 だが。

 

 

「ネロ―――ッッ!!」

 

 

 まだ、彼女がいる。その魂に燃える情熱を表したような真紅のドレスを靡かせる、ネロ・クラウディウスが。

 

 宝具を解放した事で魔力を使い果たして消えゆくエリザベートとファントムの間をネロが駆け抜けた瞬間―――新たな世界が顕現した。

 

 ―――招き蕩う黄金劇場(アエストゥス・ドムス・アウレア)

 それは生前、彼女自らが設計、建設した劇場を再現した世界。固有結界とは似て非なる大魔術だが、自らの願望を達成させる絶対皇帝圏は彼女の強き意志の力の下、ベリルの固有結界の中であってもその存在を確立させた。

 

 彼女が通り過ぎたステージが血に塗れた赤から絢爛豪華な黄金の劇場へと切り替わっていく様に歯噛みしたベリルが再び己の劇場を作り出そうとするが、その直後に飛び込んできたペペロンチーノに触れられた瞬間、全身が痺れたように動かなくなってしまった。

 

 

「な……ッ!?」

「ノクナレアッ!」

「駄目押しよ喰らいなさいッ!」

 

 

 ペペロンチーノに動きを止められるもまだ動き出すかもしれないという可能性を潰す為に、ノクナレアの振るった傘から溢れ出したチョコレートがベリルの全身にかかり、瞬時に固まる。

 

 完全に身動きを封じられたベリルに、ネロは剣を握る力を一層強める。

 

 それは、サーヴァントとなった彼女が有する攻撃手段の中でも最高にして最強の絶技。セイバーの霊基で現界した彼女が至った、剣の頂き。

 

 ―――童女謳う華の帝政(ラウス・セント・クラウディウス)ッッ!!

 

 

「ぐぉあああああぁぁッッ!!?」

 

 

 赤き薔薇と炎を纏った剣は、残像さえ残さぬ速度を以てベリルを一閃。彼女の全力を込めた一撃を受けたその体には深い傷が刻み込まれ、堪らず絶叫を上げた口からは大量の血が吐き出された。

 

 

 ―――行け、マシュッ! 其方の輝きを見せるのだッ!!

 

 

 自身を形成する魔力を使い果たし消えていくネロ。最後に振り向いた彼女の口が動き、発せられるはずのない声が発せられた。

 それが幻聴なのか、影が絞り出した声援なのかは、わからない。けれどそれは確かに、この場で唯一ベリルを打倒しうる可能性を秘めた、一人の少女に届いていた。

 

 

「決めるよ、マシュッ!」

「はいッ!」

 

 

 現段階で許されている全力の支援を行う立香の声に背を押され、マシュが駆け出す。

 防御の要である盾を置き去りにし、ただ剣を手に駆ける彼女の姿を視界に収めたベリルもまた、筆舌に尽くしがたい激痛に歪んでいた表情を獰猛な笑みに塗り潰し、体の硬直もチョコレートによる固定も己の意思と力のみで打ち破り、両手に悍ましい魔力の光を宿して走り出す。

 

 

「マシュゥウウウウウゥゥッッッ!!!」

「ハァアアアアアアアッッ!!!」

 

 

 禍々しき拳と、虹色の剣が激突する。

 右拳を打ち払った瞬間、彼女の顔面を粉砕すべく左拳が動き出す。それを回転して紙一重で躱し、遠心力を活かしたカウンターで左腕を真下から打ち上げる。

 “凶光”を浄化する絆原石の力を持つ剣による強力な反撃を受けるも、そんなもの知るかとばかりにベリルは打ち上げられた左腕を無理矢理振り下ろす。開かれた五指の先に伸びる鋭利な爪はマシュの体を切り裂き、その身に五本の切り傷が刻み込まれる。

 そこから走る痛みを歯を食い縛って堪えたマシュが凄まじい速度で振るった剣が、ベリルの胴体に無数の傷を刻み込む。その内の数発がネロの宝具を受けた際に出来た場所に当たり、そこから直接体内の肉を切り裂かれた痛みが全身を駆け巡るも、ベリルにとってはそれすらも甘美なものにすら感じた。

 

 恋をした少女と交わす、絶死の攻防戦。

 己に恋をした狼と交わす、命を懸けた駆け引き。

 

 手数は両手を使うベリルの方が多いというのに、マシュの剣技はその不利を覆す程の速度を以て繰り出されていく。

 一撃を躱したのなら、それを超える一撃で反撃。それを塞がれたのなら、それを上回る程の速度で。

 

 一手、また一手と詰めていく毎に、両者の行動はその速度とキレを増していき、周囲には絶えず二人の攻防戦によって生まれる衝撃波と火花が飛び散る。

 

 永遠に続くのではないかと思ってしまう程の、拳と剣の交錯―――しかし、何事にも必ず終わりはやってくる。

 

 

「っ、あ―――」

 

 

 カァン、と。

 振り抜かれた右拳を受け止めきれなかった剣が主の手から離れ、乾いた金属音を立ててステージへと落ちる。

 

 

「―――終わりだ、マシュ」

 

 

 忌々しき光を灯す剣は、既に自分達のステージから退場した。目の前に残っているのは、己の命を護り、敵を排除する武器を失った、一人の憐れな赤ずきん。

 

 ―――左手の五指を揃え、一本の刀と成す。

 彼女に、最早抗う術はない。

 ―――左手を真っ直ぐに、彼女の胸元へ突き動かす。

 せめてもの抵抗か。彼女が拳を構えるが、もう遅い。

 ―――心臓の鼓動が嫌に大きく聞こえる。待ち望んだ光景が、もうすぐそこまで迫っている。

 右足を後ろに下げ、腰を落とした。

 

 

(無駄だ。もう、お前に許された時間はない)

 

 

 ほら、もう次の瞬間にもこの手は、お前の胸元を貫くぞ。

 お前の苦痛に歪む顔が、涙を浮かべる瞳が、お前の命の終わりが、すぐそこまで迫って―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ぐしゃり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………は?」

 

 

 突然、視線の高さが落ちた。同時に、体を支えるバランスが崩れた事で手刀は瞬く間に威力が死に、彼女の胸元を貫かぬまま解ける。

 

 それは、ベリルが予期できなかった出来事であり、立香が脳裏に描いていた出来事だった。

 

 “凶気”と“凶光”、そしてボガードの心臓。たとえ人ならざる混血の魔術師であろうと、この三つの要素を一つの体に収める事は無謀だった。加えて、固有結界などという常に大量の魔力を消耗し続ける魔術師の秘奥を使ったのなら、猶更に。

 

 そう、これは予想外であっても、あり得ない事ではなかった。

 ただ、タイミングが悪かったとしか言いようのない瞬間だった。

 

 無茶な強化と魔力消費に耐え切れずに腐食した右足が体重を支え切れずに潰れ、態勢が大きく崩れたベリルの視線が、こちらを見つめるマシュの視線と交わる。

 

 

(……あぁ、チクショウ。時間がなかったのは、オレの方かよ……)

 

 

 胸に飛来する諦念と口惜しさに嘆息し、ベリルは静かに瞳を閉じた―――。

 





・『ファントムの宝具』
 ……本来であれば生前に殺した者達の死体のみで作られる演奏装置だが、ベリルの固有結界が劇場というファントムにとって親和性の高すぎる場所に加え、常に死が充満しているという事もあり限定的に強化。固有結界内限定ではあるものの、異形達の骸も取り込んだ事で従来のものより大幅パワーアップを果たした。

・『ベリルにかかっていた負荷』
 ……混血児といえども半分人間の体であるベリルにとって、二体の古龍種の力と妖精の心臓、加えて満足な供給のない状態での固有結界の維持は常に膨大な負荷がかかっていた。立香達との戦いで常に気を張り続けていたベリルがそれに気付いた時は後の祭りであり、結果、あと一歩のところで攻撃が止まってしまい、マシュに逆転のチャンスを与えてしまった。

・『立香』
 ……使えるものならなんでも使うが、非道な手段は取らないようにしている。グロスターでベリルの状態を聞いた時から既に彼と交戦した場合の作戦はある程度出来上がっていたが、固有結界の使用やペペロンチーノ達の参戦もあり、一気にガス欠に持ち込ませる作戦に変更した。


 本当ならもっと猟奇固有結界の能力を盛りたかったところなんですが、自分の拙い発想力ではそこまでの事はどうしても出来ず、悔しい限りです……。
 先述したように、この作品の立香は戦闘に役立つのであれば基本なんでも使います。人間であっても、彼ないし彼女が使えると判断すれば即座に戦略に組み込み運用しますが、根は善良なために非道な手段は使えません。彼女の所属するカルデアではそこがサーヴァント達に評価され、信頼を得ています。

 次回はベリルの回想から始めたいと思います。久しぶりにアンナ・ディストローツを名乗ってた頃のルーツが出てきますので、楽しみにしていただけれぱ幸いです。
 それではまた次回ッ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。