ドーモ=ミナサン。
先週ルーラーPUガチャで遂に卑弥呼の召喚に成功したseven774です。
遂にワイルズ新モンスターの一体で未だ名前が判明していなかったモンスターの名前が明らかになりましたねッ! “獄焔蛸”ヌ・エグドラとの事ですが、蛸系列は歴史あるモンハンの歴史の中でも数える程度しかいないので、そこに新しいモンスターが加わってくれるのは個人的にとても嬉しかったですッ! そして長年ハンター達の間で流行っていた『尻尾は鮮度が命』もシステムの中に組み込まれたので、より狩りや素材集めが楽しめそうですね。
今回はベリルの過去回ですッ!
それでは、どうぞッ!
オレ―――ベリル・ガットの出自は、まぁ自分で言うのはあれだが、世界じゃかなり珍しい部類に含まれると思う。
親父の顔は知らない。だが人間である事は間違いない。それはこの身に流れる血が証明している。オレが知っている親の顔は、“母”の顔だ。
魔女。
世間一般に知られる『女の魔法使い』ではなく、魔術世界における『女の魔術師』でもない、正真正銘の人外。遠い昔には第一魔法の成立に関わったとされている超自然的な存在……その内の一人が、オレの“母”親だった。
尤も、魔術協会に在籍する魔女は一人もいない。文明の発展と共に彼女らは一人、また一人とその姿と在り方を変えていき、いつしか完全に魔術協会から消えてしまった。
大地に還ったもの。
過去に還ったもの。
第一に関わったもの。
これらの転身は魔術師達にとってはまさしく偉業であり、それを成した魔女達は畏敬を以て語られるが―――その真逆の道を行った魔女達に向けられるのは、侮蔑と嘲笑のみだ。
文明社会に埋没し堕ちていった“廃棄物”。畏敬もなにもない、世俗に塗れた末にその世俗からも背を向けた愚者―――オレの“母”は、その一人だった。
『きひひひひ、いいじゃないか、いいじゃないか。及第点だよベリルッ! 流石私の息子だよッ!』
人の手が及ばぬ森の奥深く。トカゲと鳥を掛け合わせたキメラを見せたオレを前に笑っていた、ローブを羽織った巨大なヒキガエルと見紛う容貌の“母”。
当時まだ年端もいかないガキだったオレが彼女から教わっていたのは、別々の生物を掛け合わせる黒魔術だ。“母”の教える魔術術式は、そのほとんどが陰湿かつ邪悪なもの。その一つを初見で成し遂げた
『なぁ、やり返そうとか、暴れてやろうとか思わなかったのかよ。婆さんの術式なら、工夫すりゃ色々出来るだろ?』
それは、まだ世の中ってものをよくわかっていなかったから出た疑問だった。
常日頃、“母”からは人間社会への不満とか、親父への恨み言を聞かされていたから、尋ねてみたのだ。
たった今自分が成し遂げた事だって、“母”からすればまだまだだろう。彼女の手にかかれば、ぐちゃぐちゃに汚く結合したこのキメラももっと綺麗な、それこそ元からそうであったと言えるような形に変えられただろう。
他の魔術にしてもそうだ。
獲物の追跡。自身の姿の隠匿。死に至る毒。業の腫瘍化。苦痛の増加。不運の前借り等々―――数え上げればキリがない陰湿な力を操る彼女にしてみれば、自身を蔑み見下す世界に仕返しの一つもしたくなるのではないのだろうか。
そんな考えの下投げかけた疑問に対し、“母”はしばし考え込む素振りを見せた後に答え始めた。
『確かにお前の言う通り、私ならお前より色んな呪いが使えるし、応用も出来る。やろうと思えば人間社会でも魔術世界でも暴れられるだろうさ』
『だったらなんで?』
『…………怖いんだよ』
『怖い……?』
予想外の答えに、当時のオレは思わずオウム返しに首を傾げてしまった。
『そうだ、怖いのさ。それは私だけじゃない。私達魔女の全てが、恐れている。あの白き龍の怒りを、ね』
この際だ。私の愛しい子に教えてあげるよ。
そう言って“母”は、自分達魔女が抱く恐怖について語り始めた。
『古い、旧い、昔の話さ。この星のテクスチャが今の形に収まるよりも、ずっとずっと昔の時代。この世界で、一つの戦争が起きた。幻想種の頂点である龍種と、人類の戦争さ。その最中に、ある魔女が馬鹿な行動を取った。―――知ってるかいベリル。妖精っていうのはね、刹那的な生き方しかできない連中なのさ。一度面白い事を見つければ、後先考えずにそいつにのめり込む。それが善であれ悪であれ関係なくね』
魔術世界では、妖精と魔女は近しい存在、または同一の存在として扱う事がある。妖精のカテゴリーが広く、その枠組みの中に魔女が入っている、というのもあるだろうが。
とにかく、“母”が挙げたその魔女は、刹那的な思考しかできない典型的な妖精に当てはまる存在だったようだ。
では、その馬鹿な魔女とやらはいったいなにをしでかしたかのか。聞くまでもなく、“母”はその答えを口にした。
『その馬鹿はね、龍と龍を無理矢理掛け合わせようとしたのさ。どこかで誰かがそうしているのを見て、面白そうだと思ったんだろうね。で、その結果そいつは、白き祖の逆鱗に触れた』
結論から言えば、魔女の目論見は失敗に終わった。彼女がその“遊び”の対象に選んだのは、自分達よりも遥かに上位の存在である古龍種。彼らを無理矢理融合させようとしたところで、自然現象そのものと言っても過言ではない超常の存在には通用しなかった。
自身の目論見が果たせなかった彼女だったが、本当に恐ろしいのはそれからだった。
瞬く間に空を覆い尽くした暗雲から降り注ぐ、緋色の雷。絶え間なく大気を震わせたその雷が大地を穿てば、そこにあった木々はその存在を抹消され、窪みだけを残した。訳も分からず逃げ惑う魔女を緋雷は常に追い続け、彼女が有する対抗手段を一つ一つ丁寧に、残酷に消し去っていく。まるで、「なにをしようが無駄だ」とでも言うかのように。
自慢の呪術も、マジックアイテムも、なにもかもが無意味。対抗するだけ無駄。なにをしようとも、やってくるのは消去という名の絶望のみ。
魔女は恐れ、悔やみ、嘆いた。
自分はなんて事をしてしまったのだろうと。自分は、いったいなにを怒らせてしまったのだろうかと。
一切の希望も見出せない絶望の中で最期に彼女が目にしたのは、緋色の雷を従える、一体の白き龍だったという―――。
『その馬鹿は、龍によって存在を消し去られた。発生源がなくちゃ次代は発生しない。奴は永遠にこの世界から消えたのさ。そして、龍は私達魔女に呪いを刻み付けた。どれだけ時間が経とうと、どれだけ時代が移り変わろうと永遠に逃れられない、絶対に勝てない恐怖という名の呪いをね。それは第一魔法に加わった連中であろうとも例外じゃない。
かつて、“母”は「自分の娘は自分」と言っていた事を思い出す。人間のように他者と結ばれ子を成す機能を持たない魔女にとって、子孫とはもう一人の自分でしかない。記憶こそ引き継がれないだろうが、その性質は大抵変わらないもののはずだ。
なるほど。そう考えると確かに恐ろしい。かつての同胞が体験/目撃した出来事で抱いた印象が、全くの無関係である自分にも伝播しているのだから。自分はその馬鹿なやらかしをした魔女の直系ではないというのに、彼女の恐怖が自分の事のように思い出せてしまうのだから。
『あぁ、あああ、ああああああッ! 考えるだけでも恐ろしい……思い出すだけで心臓が止まりそうだよ……ッ! もうこの話は終わりだよ、ベリル。頼むからもう二度と、私にこの話はさせないでおくれ……』
気になる事は色々とあったが、“母”からはこれ以上の話は聞けないと悟った当時のオレは、彼女の言葉に従って話を終わらせた。
それから数年後。“母”から教えられた技術の全てを会得したオレは、彼女の醜い外見の中で唯一綺麗だった瞳を潰して、森を後にした。
そこからはまさに、自由の一言に尽きた。
“母”より教わった黒魔術―――その中でも暗殺や拷問に関連する技術を用いて、殺し専門の魔術師として人生を謳歌した。
ただ、自由な時間は永遠には続かないものだ。仕事のやりすぎで裏社会でのオレの評判はうなぎ登りだったが、それに伴ってオレを危険視し、依頼を取り下げる連中も多くなってきた。
だが、オレは別に困りはしなかった。仕事が来ないのは問題だが、だからといって生活できないなんて事はなく、なんならそこらにいる適当な相手を殺せば取り合えずの資金は手に入る。
「―――ここ、相席いいかな?」
その日は、幸運にも手持ちの良い標的を狩って得た金を片手に入ったカフェでの出来事だった。
この街じゃかなり有名なカフェらしく、オレが入った時には既に埋まりつつあった席は既にオレの前の空席を除いて埋まっており、そこに一人の女がやってきた。
「もちろんいいぜ。どうぞ、レディ?」
「ふふっ、キザだね、君」
片手で着席を促したオレに口元に手を当てて上品に笑った彼女が席に着くと、ウェイターにコーヒーを注文した。
「へぇ、ブラックを頼むのか。苦めなのが好きなのか?」
「どちらかというと甘めが好きなんだけどね。最初はなにも入れずに飲んでから、少しずつ砂糖を入れて自分好みの味にするのが好きなの。―――相席になったのもなにかの縁だね。私はアンナ・ディストローツ。君の名前は?」
「ベリル・ガットだ。よろしくな、ディストローツ」
「名前で呼んでもいいよ。なにかの縁とは言ったけど……君と私は、どうやら同じ世界の住人みたいだしね」
「…………へぇ、わかるのかよ。見る目はあるみたいだな。いや、それもそうか。―――お前、人間じゃないだろ」
スッと、ルビーのように煌めく緋色の瞳を細めた彼女―――アンナ・ディストローツにニヤリと笑う。
初めから、彼女は気付いていたのだ。恐らくこのカフェに入ってオレを目にした時から、オレが自分と同じ、魔術の世界に生きる者だという事に。オレも同じで、目の前に彼女に現れた瞬間から、彼女が周囲にいる一般人とは全く異なる世界に生きている事は容易に把握できた。加えて、目の前にいる彼女が、自分のような混血児とは根本から違う、人外の存在だという事も。
自分が人外だと見抜かれた事に驚いたのか、アンナは数度瞬きして口を開いた。
「不思議。初見で私を見破る人なんて、しばらく見ていなかったのに」
「オレも
「『絶対に』とは言わないんだね」
「そこまで自惚れちゃいないさ。で? そんなお前がなんでこんなところに? さっきの答えから察するに、相当長い間こっち側にいるだろ」
「人間達の作る世界に興味があるからだよ。たった百年でも、色んなものが作られるものだから中々面白いよ。最近のトレンドはこれ」
そう言ってアンナが足元に置いていた紙袋から取り出したのは、近くの美術館で販売されている画集だった。
「お、その美術館、オレもこの前行ったぜ」
「そうなの? それじゃあどの作品が印象に残った? 私はこれなんだけど……あ、ありがとう」
ウェイターが持ってきたコーヒーを受け取るアンナから視線を外し、彼女が指差した絵画を見る。
それは、森林の中にある小さな泉の絵画だった。真上から差し込む日光を受けて輝く泉の周りには草木が生い茂り、様々な動物達が平和な時間を楽しむかのようにリラックスしている。
見ているだけで心が安らぐようなこの一枚からは、これを描いた作者の心情が伝わってくるように思えるが―――
「どうかな?」
「……見せてもらった手前こう言うのはアレだが……あんまり、惹かれないな」
オレには、昔からその手の感覚がよくわからなかった。
「そっか……それじゃあ、君はどんな作品が好きなの?」
「そう聞かれると困るな。オレは芸術オンチなんだ。これまで色んな美術館を回ってきたんだが……どうにもその価値ってのがわからない。それが美しいものだって事はわかるんだけどな」
「なるほどね……。でも、そこまで気にする必要はないんじゃない? 君もさっき言ったように、なんとなく美しいって事だけはわかるから観に行くって人はたくさんいるだろうし」
真の意味でその芸術の価値を理解出来る人間なんていうのは、幼い頃からその手の業界に身を置いていた者か、生まれながらにそういったものを理解出来る才覚の持ち主だ。美術館はなにも、そういった者達専用の施設ではない。かつての世を生きた芸術家達が、己の抱く感情のままに描いた作品を、一切の区別も差別もなく鑑賞してもらう為の場所だよ―――コーヒーに入れた砂糖をスプーンで混ぜながらそう言ったアンナは、視線をオレに向けて小さく微笑んだ。
「でも、君はまた観に行くんでしょう? 話を聞く限り何度も美術館に行ってるだろうし、オンチだからってすぐやめるような諦めの早いタイプだとも思えないから」
「よくわかってるじゃないか。正解だよ」
「その目を見ればね。注意深く相手を観察し、執拗に追い詰めて仕留める……一瞬狼に近いかと思ったけど、違うね。その執拗さは野生にはない。この人間社会でのみ成立し得る、してしまうもの」
アンナの視線が、窓の外側へと向けられる。
なにか騒ぎがあったらしいのか、道路を走っていた車が道を譲っていき、その間を救急車が通っていった。
「……君の仕業だね? 上手く一般人の皮を被ってるけど、君の放つ血の匂い、その手の世界を知る者にとっては簡単にわかるよ」
「……そうかい。で、だったらどうする? コミックのヒーローみたいにオレをやっつけるのか?」
「私はスーパーマンでもバットマンでもないよ。君みたいな人は、これまで何千人、何万人と見てきた。最初こそ『許してはならない事だ』って片っ端から消してきたけど……気付いたんだよ。『それが人間なんだ』って」
「諦めたって事か?」
「そういうわけじゃない。目を逸らしていた現実を、受け止めただけ。私はただ、人類の光だけを見ていたかった。でも、それだけじゃいけなかったんだって、気付かされただけだよ」
ずっと昔から、知ってたはずなんだけれどね―――なんて呟く彼女の瞳は、心の内に秘めている感情を抑え込んでいるかのように細められていた。
そんな彼女の瞳を見て、オレはついなんとなくこう訊ねていた。
「壊そうとは思わなかったのかよ。見たくないものが溢れてる、この世界を」
「……驚いたね。君がそんな事を言うとは思わなかったけど」
「なんとなくさ。オレだって、時折思う時がある。ま、大抵その時だけの些細なものだけどな。……で、実際のところどうなんだよ」
オレの問いかけに対して、アンナは一口コーヒーを飲み、小さく息を吐き出した。口の中に広がる味を確かめるように少しだけ瞼を閉じた後、ようやく口を開いた。
「……思ったよ。見逃していたものが、時が経つと段々醜く、悍ましいものに見えるようになって……『こんな世界が続いてしまうのならいっそ滅ぼした方が』なんて、考えた時もあったよ」
「意外だな。アンナもそう思う事があるなんてな」
「そうでもないよ。長く生きてるから達観してるなんていうのはよく聞く話だけど、少なくとも私はそれに当てはまらない。……でもね、その考えは間違いだったって、後になって知ったの。だから、そう考えるのはやめるようにした」
「なにかいいもんでも見つけたのか?」
「そうだね。とっても綺麗な、星のような人間だったよ。欲望に呑まれた世界を止めようと足掻く、立派な女性だった」
その女性の事を思い出しているのか、手元のコーヒーを眺める彼女の表情は、とても柔らかなもの。大切な存在を愛おしげに見つめるような、慈母のような清らかな微笑みだった。
「世界はまだ捨てたものじゃない。暴走する世界にも、それを止めようと動く者達はいるって、彼女に……彼女達に教えられた。だから、私は見限るのをやめた。見限るのではなく、見守る道を選んだ。彼女達の護った世界を、私もまた護ろうと決めた」
「…………」
彼女の言葉一つ一つに、その相手への深い尊敬の念が感じ取れる。それ程までに、その人間はアンナに強い影響を与えたのだろう。
……だが、オレはなんとなくだが感じていた。
(……こいつ、揺さぶられてるな)
この女の前には二つの道が広がっている。かつてと同じ、見限るか、見守るかの選択肢が。
彼女が以前その答えを示したのがいつなのかは知らないが、先の言葉に偽りは感じられなかった事から、相当昔の出来事だとは察せる。だが、その出会いから今の間までに流れたであろう膨大な時間は彼女の決意を淀ませ、歪に捻じ曲げ始めている。
……もしかすると、その“出会い”自体が、彼女を歪めた呪いになっているのかもしれない。
「でも」
オレの感覚を現実のものにするように、彼女の口が引き締められる。
「時々、夢を見る事がある。今よりも良い未来への道を、用意する事が出来ていたらって」
きっと自分がなにをしなくても人類は発展を続け、積み重ねられた文明はいずれ彼らを
その先に待っている未来は、きっと美しいはずだと。
だが、彼女はそこまで口にした後、ゆっくりと
「でも、そんな世界はあってはいけない。これは馬鹿な夢……そう、夢物語でいいの。こんな事をしたって、彼女は喜ばない。私がこれまで出会ってきた人達の生き様が、全てなくなってしまう」
かつて出会った人間達。夜空に輝く星々が如き彼らの生涯を否定するに等しいその世界は、決して実現させてはいけない。
だというのに―――
「心の奥底にいる
これが、オレと彼女―――アンナ・ディストローツとの出会い。オレが、ある疑問を抱くようになった日だった。
昔のアイツがどんな奴だったかなんて知らない。知ったところでオレに得な事なんて何一つないし、知ろうとも思わなかった。
だが、気になった。
かつての彼女の価値観を、視点を、丸ごと塗り替えてしまった出会い。従うべき本能に惑わされる程までに彼女を狂わせた出会いとは、いったいどのようなものだったのかと。もしそれが自分にも起きたら、自分はいったい、どうなってしまうのだろうか、と。
―――そして。
「おいおいドクター。なんだよあれ」
「あれなんて言わないでくれるかい。彼女にはれっきとした名前があるんだよ。彼女の名前は―――」
吹雪に覆われた氷の大地で、オレは運命に出会った。
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猟奇の劇場が、音を立てて崩れていく。巨大な世界に生まれた小さな世界が、あるべき形へと修正されていく。
「…………」
自身の魂の具現。想いの発露。絶対に否定できない、自分自身―――その全てであった世界がなくなった事で見えてくる暗雲の下で、ベリル・ガットは目を覚ました。
「……トドメ、刺さなかったのかよ。マシュ」
大の字で倒れていた体を起こす。
少し動くだけでも内臓が軋み、骨が砕ける激痛が走るが、そんなものは知らないとばかりに起き上がったベリルの前に立つ少女は、彼を見下ろしながら答える。
「貴方にはもう、戦える力は残っていませんでした。私がトドメを刺すまでもなく、貴方は……」
「……そうかよ」
片膝をついて立ち上がろうとして、今の自分に右足がない事に気付く。
そういえば気を失う直前、右足の感覚が消えたなと心の中で思い出し、くぐもった笑い声が喉から出てきた。
(……格好つかねぇ。マシュの前だってのによ)
せめて最期は正面から彼女と向き合いたかったのに、と独り言ちていると、自分を見下ろしているマシュがなにかを言いたそうにしている事に気付いた。
「なんだよ……マシュ」
「……聞かせてください。なぜ、そこまで力を求めたのですか。一つだけでも、貴方の体には充分すぎたはず。それなのに、なぜ……」
「……わかんねぇのかよ、マシュ。全部、お前に会う為なんだよ……」
視界が歪み、左目の感覚がなくなる。
息を呑んだマシュの顔が見えなくなりそうで上半身を前に動かすも、前に出た体を支えきれずに地面に倒れてしまう。
「お前がいるっていうから、クソ面倒な話に乗ったんだ……。お前に会って、話す為に、ここまでの力を手に入れたんだ……」
あの爆発で殺されるもキリシュタリアの計らいで蘇り、ブリテン異聞帯の管理を任された。そこでルーラークラスのモルガンを召喚できたと思いきや、寝て起きてみれば世界は丸ごと塗り替わっていて、自分の存在も新しいものになっていた。そこまでは―――まぁ色々と言いたい事はあるが―――いい。
マシュがいる事を知ってからは、念入りに準備を進めてきた。
この國の女王となったモルガンやカリア達の目を掻い潜ってバーヴァン・シーにボガードの心臓を奪わせ、アシュヴァッターマンに計画を潰され命からがら逃げだした先で魔竜から“凶気”と“凶光”の力を得た。
確かに、マシュの言う通りだ。正直に言ってしまえば、ボガードの心臓だけでも自分の体の容量はいっぱいになってしまった。そこに二体の古龍の力まで加わってしまえばどうなるかなど、少し考えれば気が付くはずだ。
しかし、その時のベリルにその考えは思いつかなかった。知らず知らずの内に、自分もまた二つの力に呑まれ、暴走していたのかもしれない。
だが、今となっては最早なにもかもが許せる。少なくともこうして、彼女と言葉を会話できているのだから。
両腕で這いずるベリルからマシュを離そうと立香が近づくも、「大丈夫です」と短く制止をかけられた。
「どうかそのままで、マスター。彼には、もうなにも出来ません」
実際に戦ったからこそ、マシュにはわかっていた。
先程自分が口にしたように、ベリル・ガットの肉体には、最早戦う力など残されていない。一つ身に宿すだけでも負担が激しいはずの力を三つも使い、戦っていたのだ。今までは屈強な精神力で堪えていたようだが、それにも限界があった。
目の前に立つベリルは、その限界に達してしまった。今の彼には、それまで無視し付けていた負荷が一斉に襲いかかっているはずだ。満足に身動きも取れないはずなのに、それでもまだ彼は自分に近づいてきている。
「なぁ、マシュ……顔、を……顔を、見せてくれ……」
だからこそマシュは、敢えて彼の前に片膝をつき、彼が自分の顔を見やすいようにした。
先程よりも見やすくなったのか、左目を失ったベリルは残った右目でマシュの顔を見つめ、力なく笑った。
「……そうだ、眼がいいな。眼が、とても綺麗だ。大切にしないとな……二つしかないんだ……大切、に……。逃げなくていい……お前は、オレが護って、やる……」
伸ばされた手を、マシュは優しく握る。
籠手越しに伝わる温もりを感じながら、ベリルは自身の心を満たす感情を口にした。
「―――愛している。愛しているんだ、マシュ。心の底から、お前を愛しているんだ、マシュ」
「……そうですね。それは本当の事でしょう。でも……貴方の愛は、私にはわかりません。……多分、誰にもわからないんです、ベリル・ガット」
明確な拒絶。だが、ベリルは彼女の答えを、どこか満たされた気分で受け入れた。
結果はどうあれ、結末はどうであれ。彼は彼女に、自らの胸の内を明かした。彼女に、自分の愛を言葉にして伝える事が出来た。
それに対する彼女の答えは、欲しいものとは違ったが……それでもいいと笑い、ベリルは静かに瞼を閉じるのだった―――。
「ベリルさん……」
動かなくなったかつての同僚に、マシュはそっと手を添える。
二度と起き上がる事のない彼の体は、氷のように冷たい。先程まで生きていたのが信じられない程の冷たさに、マシュは彼がどれほどの負担を背負って自分に会いに来てくれたのかを悟る。
「……マシュ、大丈夫?」
「……はい。お待たせしました、マスター。戦闘終了です」
「……そうだね」
立香の視線が、マシュの前で事切れているベリルへと向けられる。
「マシュは、彼の気持ちは知っていたの?」
「……愛されていた、とは思います。私の知らない形ででしたので、理解はできませんでしたが……」
「そうか……」
「ですが、それだけで終わらせはしません。愛された私には、その愛の形を知る義務がありますから」
彼の説く愛を、自分は理解できなかった。それでも、理解する努力は出来るはず。ただ理解できなかったものだと切り捨てず、「そういう愛もあるのだ」と受け入れるべきだと思い、ゆっくりと立ち上がる。
ペペロンチーノ達も、自分達が動き出すのを待っている。彼らをこれ以上待たせるわけにはいかないと、マシュは立香に代わり口を開いた。
「行きましょう、皆さん。キャメロットへ」
残るは“破翼龍”アルトゥーラと、“魔竜”ヴォーティガーン。彼らがいるであろうキャメロットを目指し、立香達は走り出すのだった―――。
遂に敵勢力も半分になりました。妖精國編ももう少しですねぇ。書き始めたのが三年前の八月だと考えると、かなり長い期間執筆していますね……なんとか原作で悲惨な目に遭ったモルガン達を少しでも幸せにしたいと思っての事でしたが、まさかここまで長くなるとは思いもしませんでした……。ですがこの調子であれば遅くても春頃には妖精國編は終了ですね。その後は幕間やシュレイド異聞帯の話を少し入れてからミクトラン編に突入となりますが、なんか私の中で勇者王と邪神と蜘蛛がアップし始めているので、また長くなる可能性大です。シュレイド異聞帯突入はいったいいつ頃になるのやら……。
ここまで読んでくださった読者の皆様には感謝しかありません。どうかこれからも、この作品を楽しんでいただければと思います。
それではまた次回ッ!