【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 ドーモ=ミナサン。
 久しぶりの番外編ですが、改めて型月シリーズを調べてみるとテュフォンの情報が本当に少ない事に気付いたseven774です。
 いや、ほぼ衝動的に書いたこの番外編なんですけど、先日更新した本編のあとがきに書いたように、テュフォンの情報を得られるのが自分の知っている中では『ロード・エルメロイ二世の冒険』『聖杯戦線~白天の城、黒夜の城〜』『落涙の翼』ぐらいしかないんですよね……。しかも冒険に至ってはまだ読めていないので、そこにどんな情報があるのかもわかりませんし……。
 その結果、文字数は本編一話分の約半分の4000文字です。

 変なところもあるかもしれませんが、番外編どうぞッ!



番外編:自由を求めた竜

 ―――それは、宙よりやってきたものだった。

 異様な形状。およそ地球の環境では自然に生み出される事のない巨大な機械。

 ゼウスや他の神々のような、人々に崇拝されるような存在でもないそれは、ただひっそりと、静かに人の足が入らぬ秘境に在った。

 

 オリュンポスの神々とティターン神族の最後の戦争、ティタノマキア。その果てに敗れ去ったティターン神族の真体の一部―――それがこの巨大な機械の正体だった。

 

 しかし、かつて神と対立する程の力を持った存在と言えど、まともに稼働する事の出来ない今となってはただのガラクタに過ぎず。残された思考能力で行えるのは、己に迫る活動限界という名の死をただ静かに待つ事のみ。

 このまま停止してしまうだろうか……そんな時だった。

 

 

[その姿……君も、あのゼウス達と同じところから来たの?]

 

 

 目の前に舞い降りた、一筋の光。

 機体に備えられたカメラ機能でその存在を知覚した途端、電子回路に未知の信号が走った。

 

 穢れを感じさせぬ純白の肉体。美しさと禍々しさが両立した、荘厳なる巨躯。

 そして、己を捉える緋い眼差しは、見るもの全てを威圧するかのようでいて、護るべきものを護り抜くという守護神が如く。

 

 後にその機械は、その時に当機が学んだ感情を知る。

 

 ―――畏怖。憧憬。

 この星の頂点に君臨する絶対者。あらゆる命を護り、慈しみ、そして罰する真の強者。

 

 

[構造が違うところを見るに、ティターン神族の機体かな? あの傍迷惑な戦争で、ティターンの機体は全て破壊されたものだと思っていたけど、まさかまだ残っていたなんて]

 

 

 緋色の眼でじっとこちらを見つめながら独り言のように呟くその存在だが、機体の思考能力は龍の言葉を理解するよりも先に、その巨体の背中より雄々しく広がる翼に注目していた。

 

 キュクロプス達が創造した、主神ゼウスの振るう雷霆とはまた違う、だが規模も格も恐らく彼のものよりも上位に位置するそれをバチバチと弾けさせる翼。

 ―――どこまでも飛んでいけそうな、翼。

 

 

[……イ]

[?]

[ホシ……イ……。ソノ、翼ガ……]

[……奪うつもりなら、容赦はしないけど]

[否、定……。貴女ノヨウナ、翼ガ欲シイ……。ドコマデモ、飛ンデイケル……翼、ガ……]

 

 

 この機体では、もう大空を飛べない。

 この機体では、呼吸など出来るはずもない。

 この機体では、この大地を、自然を、世界を、感じられない。

 

 

[ダカラドウカ、貴女ノヨウニナル許可ヲ……]

 

 

 それは、凡そ機械が有する感情(もの)ではなかった。完全な生命体にはなれなくとも、少しでも目の前にいる龍に近しい存在になりたいという、ある種の願い、祈りだった。

 

 機械の懇願に、白き龍は眼を細める。今にも停止しかけている、(ソラ)から来た機械が、なにか企んでいるのではないのか図っているのだろうか。

 それでも、今はただ、龍の決定を待つ他なかった。

 

 

[……ならば、あなたに我が力の一端を分け与えましょう。その願いを、私は見捨てられない]

 

 

 やがて、しばらくの思考の末に、龍は答えを出した。

 たとえ命無き機械であろうと、このままでは終わりたくないと足掻こうとしている。この星を滅ぼさんとする意志はなく、ただ自由になりたいと願うのなら、白き龍はそれに応えたい。

 

 ―――しかし、願いには代償が伴う。

 

 故に、白き龍は[その代わりに]と続けた。

 

 

[貴女には、役目を与えましょう。―――人類に、試練を与えなさい。神を追い込み、人類を脅かす脅威となりなさい。新たな命を、新たな時代の礎としなさい]

 

 

 宇宙より降り立った機械群がこのギリシャの地に生きる人々に神として崇められてから十数年。最初はまた新たな時代が始まったのだと思っていたのだが、少しずつだが確かに、人類の意識が神々への信仰に寄りすぎている事に気づいた。

 信仰する分にはまだいい。超常の力を持つ存在を崇め、信仰する事は昔からよくある話だ。

 しかし、この地のそれは異常なものになりかけている。このままでは、いずれ人類種は神への隷属を是とし、発展の可能性すら神々へ捧げてしまうだろう。

 

 それは、許されざる事態だ。この惑星(ほし)の霊長である人類が発展を棄ててしまったら、この世界は袋小路に入ってしまう。どこかで切り捨てられ、まだ存続の可能性がある世界の養分にされてしまうだろう。

 白き龍にとって、それはなによりも避けたい結末だった。“彼女”が愛したこの世界を、神への信仰の末に消されてしまうのは、容認できなかった。

 

 故にこそ、白き龍は己が権能(チカラ)を行使する。

 

 

[ガイアの怒りと、私の権能(チカラ)。この二つを使って、貴女に新たな命を与えましょう]

 

 

 新たな器を用意するだけならば、自分の持つ権能だけでも可能だ。だが、自分の存在は遙か古代の時代からある故、この神話(テクスチャ)に定着できない。そんな自分の力のみで器を用意したとしても、この機械は先程自分が提示した役目を果たせられない。

 そこで使用するのが、ゼウスらと同じ神話体系に組み込まれている大地の女神ガイアの怒りである。

 

 ティターン神族の母であるガイアは、ギガントマキアの折にゼウス達によって息子達をタルタロスに幽閉された事に怒りを覚えていた。その怒りはこの地に深く根付いており、今尚ゼウスを始めた神々に対する反発心となって息づいている。

 

 その怒りを材料に加え、権能を用いて残骸となった機体を再構成させていく。

 

 空を仰ぎ、両翼を広げた龍から、眩い光が迸る。

 光はやがて機体を包み込み、その姿を変質させる。

 

 自然界では決してあり得ぬ三つ首に、全身の至る所から伸びる回路。外宇宙由来の装甲は甲殻と鱗となり、その身を機械から生物に近付かせていく。

 生物と機械が混ざり合った肉体。この地球の生態系と、その機体が製造された星の技術を融合させた姿。

 

 

[……貴女を完全にこの星の生命に組み込む事は出来ない。でも、今この瞬間、貴女はこの地に生きる者となった。そして生まれ変わったのなら、私が名を与えましょう]

 

 

 生まれ変わった己の体を見下ろすそれに、龍は告げる。

 

 

[これより汝に与えし名は―――テュフォン。我が権能、大地の女神の怒りより生まれし新たな竜よ。この星を、自由に翔ぶがいい]

 

 

 創造主の言葉に応える為、三つ首の竜は高らかに吼えた。

 

 ―――後に、生まれ変わった竜は己の使命を果たす。

 与えられた新たな肉体で空を駆け、神々と争った。本来の機能であるテラフォーミング能力を用いてゼウスの雷霆を奪い、ギリシャの神々を滅亡寸前まで追い込んだ。

 白き龍の力を模倣し獲得した権能(チカラ)を用い、神を、人々を苦しめる怪物達を創造した。

 だが、テュフォンに悪気はない。そう在れかしと定められたが故に。新たな肉体を与えてくれた、第二の創造主の願い故に。

 

 しかし、白き龍によって与えられた時間も、遂に終わる時がやって来る。

 動物に姿を変えてエジプトに逃れていたゼウス達が奮起し、己もまた運命の女神モイラに騙され、あらゆる願いが叶わなくなる無常の果実を食べてしまった。

 敗走に続く敗走。あらゆる願いを阻む反願望器とでも言うべき果実を食べてしまってから一度も神々に勝利する事が出来なくなってしまったテュフォンは、遂に神々によってエトナ火山に追い込まれた。

 

 

『ここまでだ、“太祖竜”』

 

 

 神々と己の戦いに刺激されたのか、エトナ火山からは絶えず溶岩が溢れ出し、火山雷が天空に轟く。

 かつて神々を圧倒していた()体は所々が損傷し、血とも燃料とも受け取れる液体がドロドロと流れ出ている。

 だが、ここまで自分を追い込んできた神々の王の言葉を聞いた瞬間、己という存在が追い込まれている現実を忘れ、竜は[ハッ]と静かに笑った。

 

 

(“太祖竜”……そういえば、いつの間にかそう呼ばれるようになっていたな)

 

 

 ケルベロスを始め、多くの怪物達を創造してきた。彼らは自分の、いや、自分を生まれ変わらせた存在の思惑通りに、ギリシャに生きる人々の試練となり、彼らに失われかけていた発展の可能性を取り戻させた。

 あのヘラクレスやペルセウスが相手取った怪物達。中には神に遣わされる神獣となってしまった者もいたが……そこはもう許してもらうしかない。

 

 とにかく、そんな怪物達を創造していれば、神々や人々に“太祖竜”と呼ばれるのも当然だろう。そして、その異名の中に自分を生まれ変わらせた存在と同じ名が刻まれている事に、微かな喜びを感じていた。

 

 己を包囲する神々への警戒を緩めず、意識を彼方に飛ばす。

 あの地で残骸だった自分をテュフォンとして蘇らせた彼女は、あの後も定期的にギリシャに訪れては自分や各地の様子を確認しに来ていた。どうやら今はギリシャとは違う地にいるようだが、その意識はエトナ火山にいる自分に向けられている事は容易く理解できた。

 

 どうせなら最後に会話の一つでも交わしたかったところだが、残念な事に、ゼウス達との戦いの中でその類の機能は完全に破損してしまっている。こちらから言葉を送る事も、あちらから言葉を受け取る事も出来ないのだ。

 

 ―――だが、だからこそ。

 

 

[神々よ、これで終わったと思うなよ。我はまだ終わらないッ! ここで終われるはずがないッ!]

 

 

 迫る神々の攻撃を掻い潜りながら、紫色のドラゴンブレスを放つ。攻撃を受けたのなら、その間にも副砲を用いて他の神々への牽制を行う。

 これまでの戦いで受けた損傷を自己修復機能で治し続けても、無常の果実を食した状態で神々を相手にしてしまえば多勢に無勢。我武者羅に暴れ回っても、いずれは敗北してしまうだろう。

 

 しかしそれでも、三つ首の竜は戦い続ける。己に与えられた、最後の自由を謳歌するように。

 血反吐を吐き、火花を散らし、魂のままに叫び続ける。

 

 

[母よッ! 我は……自由で在り続けるのだッッ!!]

 

 

 いつかまた再び、この空を翔んでみせる。その時は、彼女と共に……。

 そう意気込んで、自由を求めた竜は封印されるのだった―――。

 





・『この世界のギリシャ』
 ……汎人類史と比べて人々の信仰心が強すぎるあまり、ルーツが動かなければ大西洋異聞帯に近い状態となり、下手をすれば剪定事象になっていた可能性があった。その事態を避けるべく、ルーツは偶然見つけたティターン神族の残骸に自身の力とガイアの怒りを注ぎ込み、テュフォンとして蘇らせた。

・『この世界のテュフォン』
 ……ガイアの怒りに加え、地球のアルテミット・ワンであるルーツの力を与えられたことによって原作のテュフォンよりも強力な存在となっている。テュフォンとして再構成された後はルーツの命令に従い、数々の怪物を生み出して人類への試練とし、自身は神々を敗走させる事で当時のギリシャ人に「神は絶対ではない」と認識させた。これによって人々は「ただ神々や英雄達に頼ってばかりではいけない。自分達もまた出来る事をしなければ」と意識し、失われかけていた発展の可能性を取り戻した。
 ルーツの因子が入っているため、他者に対して感謝する善性を持つ。
 自由の尊さを知るも、無常の果実によって願いを反転させられた。大空は火山によって塞がれ、思うままに動く四肢は拘束された。目覚めたいと願っても、果実はその願いを叶えない。彼女が求めた自由は、永遠に彼女を縛り続けるのだ。
 ……喰らった果実そのものが、解放を求めない限り。

・『当時のギリシャに対するルーツの考え』
 ……人々が超常の存在を崇めるのは昔からあった事なのでまだ良かったが、この世界のギリシャ人は度が過ぎた信仰心を持っているし、神々はいい気になって「全て我らに任せてくれ」状態だったため、「お前らマジふざけんな」と内心ブチ切れ。本当なら自ら出てギリシャを窮地に追い込みたかったが、自分ではギリシャ神話のテクスチャに完全に適合できないので、それに適合できる存在として創造したのがテュフォンである。


 それではまた次回ッ!
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