【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 ドーモ=ミナサン。
 先週のアップデートで追加された上位ゾ・シア戦で初三乙し、クエスト失敗したseven774です。
 ゾ・シア強いですねぇ。一回目は先述した通り失敗したのですが、二回目ではドーピングアイテム総動員で30分かけてクリアしました。食事もクナファチーズなどを用いたのですが、ワイルズでここまでやったのは初めてでしたね。これまではドーピングせず、食事も肉か魚だけで基本勝てていたので、「ここまで本気になれると楽しいなぁ」となりましたね。
 今月末には歴戦王レ・ダウも来ますので、今回のように本気になれる個体であると嬉しいですねぇ。

 それでは本編、どうぞッ!



奈落の虫竜

 

 それは、正しく地上から空へと昇る流星群だった。

 設計者であるモルガンによって効率よく、そして手際よく整えられた決戦兵装の起動術式を滅茶苦茶に、それこそスパゲッティコードが如く乱雑に組み直す事で己の魂の一欠片に至るまでの全てを注ぎ、消費するように書き換えたが故に発揮された、限界を超えた龍脈焼却型兵装(エクスカリバー)の連撃。

 

 この歴史の地表が漂白されてから一万四千年。遂に全ての『巡礼の鐘』を鳴らした楽園の妖精(アヴァロン・ルフェ)は、このブリテンを―――延いては世界すらも滅ぼさんとした厄災の一角を貫く事に成功した。

 

 ―――しかし、それでも。

 

 

「ギャ、アァ……ッ!!!」

「マジかよ……どんな体してんだよあいつ……ッ!」

 

 

 ―――破滅の翼、未だ斃れず。

 アルトリアの最期の連撃が直撃する寸前に体を逸らしたのだろう。胸部に位置するケルヌンノスの神核はその大部分を喪失しながらも、妖しく明滅する光が、その核がまだ活動している事を物語っている。

 モルガンが設計し、アルトリアが限界を突破した兵装の連撃を全て受けたにも拘らず、その龍はまだこの世に留まり続けていたのだ。

 

 その姿を視界に収めた立香達がアルトリアの犠牲を以てしても尚倒せないのかと歯噛みするが、それを否定するようにバーゲストが口を開いた。

 

 

「ですが、まだ完全には再生できていないようですわね」

 

 

 そう、バーゲストが口にしたように、アルトリアの犠牲が無駄に終わったわけではない。ボコボコと剥き出しになった筋組織と骨を再生させ飛翔したものの、その翼には辛うじて滞空を可能にするだけの力しか残されていない。他の箇所も同様に再生こそしているが、まだ戦闘可能な状態までには回復できていないようだ。

 

 

「それなら、今の内にトドメを―――」

「ッ―――待ってッ!!」

 

 

 ならば再生が完了する前に仕留めるまでと動き出そうとしたカイニスだったが、しかし寸ででルーツに止められてしまう。

 

 

「なんでだよッ!? 今殺らなきゃ奴が―――」

「駄目、今トドメを差したら自爆されるッ!」

「はッ!? 自爆ッ!?」

『あぁ、アンナの言う通りだ』

 

 

 ルーツの口から飛び出したまさかの言葉に虞美人がぎょっとした瞬間、彼女の言葉を肯定するようにダ・ヴィンチが通信を開いてきた。

 

 

『たった今、こちらでも観測できた。アルトゥーラの神核に現在進行形で膨大な魔力が集まっている。回復が間に合わないなら、自爆で私達を巻き込んでしまおうと決断したんだろうね』

 

 

 死なば諸共、というものだろう。

 アルトゥーラは元より、今の状態では満足に戦闘できるわけがなく、かといってルーツ達が大人しく回復を待ってくれるはずもないと理解していた。

 だが、ただなにもせずに死ぬつもりはなかった。どうせ死ぬのなら、一人でも多くの敵を巻き添えに死ぬ道を選び取った。

 それこそが自爆。取り込んだ神核に限界以上の魔力を注ぎ込み、臨界に達すると同時に爆発。本来の持ち主であるケルヌンノスは一万年以上も昔に骸となっているが、それでも本物の神の核が破裂すれば、それだけでもこのブリテンの半分は軽く消し飛ばせるだろう。

 攻撃範囲の中には同胞である“魔竜”も含まれるが、覚醒がすぐそこまで迫っている今、最早関係ない(・ ・ ・ ・ ・ ・)

 

 

「だったらどうすれば……」

「自爆する猶予すら与えない一瞬で終わらせる、だね。でも……」

 

 

 今も尚神核に魔力を溜めていくアルトゥーラから手元に視線を落とし、ルーツは申し訳なさそうに瞼を伏せる。

 

 

「私の権能(チカラ)は、この戦いじゃもう使えそうにない。たぶん、あの子が羽化する時に浴びた呪詛の影響だと思う」

 

 

 あの時、弟達が護ってくれたとはいえ自分はあの膨大な呪詛を浴びてしまった。まだ完全な権能の行使を行えないルーツはその影響で当分の間、剪定の稲妻を放つ事が出来なくなってしまった。時間を置けば再度行使可能になるだろうが、この戦いの間に回復する事はないだろう。

 

 

「オフェリア、貴女の魔眼であいつの自爆を止められないの?」

 

 

 それならオフェリアの持つ遷延の魔眼の力で、アルトゥーラが自爆する未来をピン留めできないのかと虞美人が訊ねるが、オフェリアはふるふると(かぶり)を振った。

 

 

「さっきからどうにかピン留めできないか意識を集中させていたけれど、無理ね。意志の力が強すぎる」

 

 

 視界に収めた対象の未来を固定するという、一見すると無敵のように思える遷延の魔眼だが、当然弱点も存在する。

 それは自分から遠すぎる可能性には干渉できない事と、未来に干渉しようとした対象に、『別の可能性の自分』が存在できない程に精神を固定される事。こちらに攻撃を仕掛けるよりも、自爆する未来のみに突き進んでいるアルトゥーラは、後者に該当する。

 

 

(アンナの千里眼を使えれば話は違うのだけど……駄目、彼女のようには出来そうにないわね……)

 

 

 自分の中にいる、アンナ・ディストロート・シュレイドの有する千里眼。グランド・キャスターに位置する彼女の力を行使できればこの未来にも干渉し、こちら側に有利な未来へと書き換えられるだろうが、どれ程に意識を集中させても、自分の魔眼が彼女の千里眼に切り替わった感覚はなかった。

 この体を使って影と交戦していた時、彼女は自分の千里眼とオフェリアの魔眼を自在に切り替えていた。彼女と同じように出来ればと思ったのだが、やはりただの魔術師である自分には無理なのだろう。

 

 ふぅ、と小さく息を吐いて脳裏に浮かんだ考えを掻き消したオフェリア。その耳に通信機越しの声が聞こえてきたのは、それから数秒も経たない内だった。

 

 

『―――その手段なら、ここにある。マシュ、君に届け物だ』

「え、私に……?」

 

 

 通信機から聞こえてきたネモの言葉にマシュが首を傾げた直後、上空で滞空するストーム・ボーダーから一つの光が落ちてくる。

 

 

「あばばばばばばばばばばばばッッッ!!?」

「ハ、ハベトロットさんッ!?」

 

 

 四肢を広げてこちら目掛けて落ちてくる彼女(・ ・)を目にしたマシュは、思わずその名を口にする。

 

 

 

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 仄暗い水色の光を帯びた槍群と漆黒の靄を纏う槍群が衝突し、小規模の爆発が無数に起こる。

 一本一本に込められた魔力が接触し合って弾ける光景は遠目に見ればまるで花火のように鮮やかだが、それを引き起こした者達にとっては断じて遊びではない。

 

 

「フ―――ッ!」

 

 

 短く息を吐き出しながら投擲されるのは、二本の鎌。持ち主である影の手元から離れたそれらは空中で無数に分裂し、下から迫る者達に襲い掛かる。

 

 

「打ち払いなさい、ウッドワス」

「ハッ!」

 

 

 空気を切り裂きながら接近してくる鎌の群れを前に相棒(ディスフィロア)の背に跨ったモルガンがそう告げれば、彼女の下へ馳せ参じたウッドワスが右手を広げる。

 瞬間、彼の掌から禍々しく煌めく光弾が撃ち出され、自分―――延いては敬愛する主君を切り裂こうとしてきた鎌の雨を真っ向から消し飛ばしていった。

 

 ウッドワスによって開かれた道を、モルガンを乗せたディスフィロアが飛翔。ディスフィロアが炎と氷が混ざり合ったブレスを放つと同時、モルガンもまたハルバードを振るい魔力の渦を作り出して影へと向かわせた。

 

 

「チッ!」

「逃がすかッ!」

 

 

 舌打ち交じりに彼女達の攻撃を躱した影だが、その正面には魔力で作られた足場に立つウッドワスの姿が。

 影の行き先を予測していたウッドワスの拳撃は、影が咄嗟に取った防御態勢を容易く打ち破り、その奥にあった顔面へと直撃した。

 

 極限状態によって強化された怪力による一撃を受けた影が殴り飛ばされれば、そこへディスフィロアのブレスが迫る。瞬時に手元に剣を出現させて振り抜いた事でブレスを切断するが、次の瞬間には彼の周囲を無数の槍が取り囲んだ。

 

 アルトリアが最期の行動を起こす寸前、モルガンは発射態勢に入ったロンゴミニアドから必要なだけの魔力を回収しており、疑似心臓に残された魔力を回復させていた。二千年以上に及ぶ統治の末に蓄えられた、『厄災』を打ち払う為の魔力だったが、それとモルガンの疑似心臓の回復に必要な魔力を比べれば海からコップ一杯分の水を掬い取るようなものであり、ロンゴミニアド(エクスカリバー)の威力には些かの影響も及ばない。

 

 

「く……ッ!」

 

 

 即座に全身を靄に変化。決められた形を失う事で周囲から襲い掛かってきた槍による刺突を回避した影が再構成すると同時に両手から漆黒の魔力光線を発射する。

 魔力光線は影に追撃を仕掛けようとしたディスフィロアとウッドワスを吹き飛ばすも、彼らは空中で態勢を整えて反撃に出た。

 

 モルガンの強化を受けたディスフィロアが空気中の水分を凍らせて作り出した氷塊に熱線を反射させる事であらゆる方向から影を狙い、ウッドワスはディスフィロアの作った氷塊を足場に動き回って影に攻撃を仕掛けてくる。

 

 ディスフィロアの熱線がどのように反射されるのかを完璧に理解しているウッドワスは一発も誤射されずに影に肉薄。熱線がどこから来るのか見極めようとしていたためにウッドワスの対応が疎かになり、がら空きとなった腹部に拳が捻じ込まれ、続けて拳を起点に発生した魔力の爆発によって吹き飛ばされた。

 

 

「ガ、ハ……ッ!?」

 

 

 内臓を無理矢理押し上げられる不快感と、腹部を中心に全身へ伝播する激痛。それらが同時に襲い掛かった事で、開かれた口から混ざり合った胃液と血液が吐き出される。

 凄まじい勢いで吹き飛ばされた影の体を、ウッドワスがどのように彼を吹き飛ばすかを予測していたディスフィロアの熱線が一斉に襲い掛かり、大爆発を起こした。

 

 発生する黒煙。影を呑み込んだそれを、しかし油断なくモルガン達は警戒を解く事無く睨みつけていると―――

 

 

「クソ、これは……マズいかもな……」

 

 

 黒煙が晴れて現れた影は、全身に大火傷を負いながらも五体満足でいた。

 恐らく、思考を乱されながらも防御結界を張る事でブレスを防いだのだろう。威力を完全に殺す事は出来なかったそうだが、それでも相当なダメージが入っているはずだ。

 

 

(やはり魔力に余裕があるのは良いですね。実に戦いやすい)

 

 

 本物の心臓がある時と比べれば明確な弱体化だが、疑似心臓の魔力を回復できた事はかなり大きい。魔力の節約をしなければならないという状況は変わらないが、それでも回復する前と比べればマシだ。

 ディスフィロアも自分を気遣う必要がなくなり、ウッドワスも救援に来てくれた。このまま油断せずに追い詰めれば、影を殺す事も出来るだろう。

 

 

「……? あれは……」

 

 

 その時、遥か下の地上から膨大な魔力を感じたモルガンは、影への警戒をそのままに視線をそちらへ向けた。

 

 そこにあったのは、満身創痍でいるアルトゥーラに向けて、黒い砲台の引き金を掴むマシュの姿があった。

 

 

(……なるほど、対象の寿命を転写する概念武装ですか)

 

 

 神域の魔術師とさえ称されるだろう程に魔術への理解が深いモルガンは、彼女が使用している巨大な兵器がいったい何物であるかを即座に見抜いた。

 

 ―――ブラックバレル。

 モルガンが見抜いた通り、それは『天寿』の概念武装。厳密には、そのレプリカである。

 オリジナルを製造したアトラス院の『最強になる必要はない。最強であるものを作ればいいのだから』という考えの下に誕生したアトラス七大兵器の一つであるそれは、たとえレプリカであろうとも、あらゆる命ある存在に対する切り札となり得る力を秘めている。

 正しくカルデアが有する切り札の一枚であるのだが、当然、使用するには条件が存在する。

 

 狙撃手であるマシュ・キリエライトの存在はもちろんの事、彼女がブラックバレルを撃ち出す為には、藤丸立香(マスター)の魔力・体力・運命力が必要不可欠である。

 それでも、彼女達はそれを使った。白紙化された人類史を取り戻す為に手に入れた、敵を討ち滅ぼす力を。

 

 結果として、マスターの全身全霊を消費する事により放たれた黒き砲撃は寸分違わずにアルトゥーラを貫き、今度こそその仮初の生命活動を停止させた。

 

 

「……これで、貴様の同胞は全て消えたな。残るは貴様だけだ、蛆虫」

 

 

 自爆する為に溜めていた魔力諸共消し飛ばされ、絶叫を上げる事もなく光の粒子となって消えていくアルトゥーラを尻目に告げられた言葉。

 正しく真実を射抜いているその言葉は、事実上の処刑宣告。最後の『厄災』である目の前の影を潰せば、それでこの戦いは終わる。

 

 自然とハルバードを握る右手に力が籠められるのを感じながら睨みつけてくるモルガンに、しかし影は「ふ、ははは……」と笑い始めた。

 

 

「あぁ、確かに追い詰められた。だが……ハハハハハッ!」

「なにがおかしいッ!」

 

 

 得物を消し、右手で目元を覆って笑い続ける影に、額に青筋を立てたウッドワスが躍りかかる。

 後ろに引いた右拳に、全身に満ちる極限状態の力を集中。異常なまで硬質化していた他の部位を通常の硬さに戻す代わりに、その分右拳をより強固に硬め、突き出す。

 

 それは、絶死の一撃。仮に地上で放てば大地を砕き、その奥にある岩盤さえも容易く粉砕する右拳が、影の無防備な顔面に直撃し―――すり抜けた(・ ・ ・ ・ ・)

 

 

「な……ッ!!?」

「なに……?」

 

 

 驚愕と困惑。目の前で起こった現象に思わず硬直してしまったウッドワス、そしてモルガン達の耳朶を、不気味な程鮮明な声が振るわせる。

 

 

「―――残念、時間切れだ」

「っ、陛下ッ!!」

 

 

 瞬間、モルガン達の視界を暗黒が埋め尽くした。

 

 

 

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「対象の魔力反応、消滅を確認。“破翼龍”アルトゥーラ、討伐完了です。お疲れ様です、先輩」

「うん……ぁ……」

 

 

 藤丸立香の全身全霊を砲弾として行われた漆黒の砲撃を受け、最後の足搔きすら許されずにアルトゥーラが消滅した光景を視界に収めたマシュに立香が頷いた瞬間、その体がぐらりと傾いた。

 

 

「先輩ッ!」

 

 

 膝から崩れ落ちていく立香にマシュが駆け寄ろうとするが、それよりも先に動いていたルーツが優しく立香の体を受け止めた事で足を止めた。

 

 

「……ありがとう、立香ちゃん。それにマシュも。貴女達のお陰で、あの子もようやく眠る事が出来た」

 

 

 ゆっくりと立香を座らせたルーツが、アルトゥーラを討伐した立香とマシュに頭を下げた。

 

 

「自分の意思であったとしても、呪いに塗れていたケルヌンノスの神核を取り込めば相応の負荷がかかっていたはず。完全に制御できていたとしても、いずれどこかで綻びが出て、狂っていたはず。そうなる前に終わらせてくれた貴女達には、感謝しかないわ」

「……いえ。感謝するのなら、私達ではなく、このブラックバレルを持ってきてくれたハベトロットさんにしてあげてください」

 

 

 砲台から元のシールド形態へと戻ったブラックバレルに触れ、マシュはそっと目を伏せる。

 

 満身創痍となったアルトゥーラにトドメを刺す最後の一撃となったこの武装は、助っ人であるハベトロットが肌身離さず持ち運んでくれていたものだった。

 妖精にとっては触れるだけでも危険な毒である鉄に長時間触れ続けながらも、この時の為にブラックバレルを持ち運び、そして消えていったハベトロットに、マシュは心中で感謝の言葉を送った。

 

 だが、まだ戦いは終わっていない。それを彼女達に告げるように、上空から凄まじい勢いで二つの影が落ちてきた。

 

 

「な、なにッ!?」

 

 

 突然の出来事にオフェリアが両腕で顔を防御しながら何事かと叫ぶ。

 警戒する彼女達の前で巻き上がった土埃が晴れ、その奥にいる者達の姿が露になった瞬間、次に叫んだのはバーヴァン・シーだった。

 

 

「お母様ッ!?」

「ディスフィロアッ!」

 

 

 全身に大小様々な傷を負った、敬愛する母にバーヴァン・シーが、血を分けた弟にメリュジーヌが駆け寄る。

 

 

「バ、バーヴァン・シー……だ、大丈夫、です……」

「グ、ウゥ……」

 

 

 落ちてきたモルガンとディスフィロアは、自分達の安否を確かめる二人を安心させようと起き上がるが、僅かに体が揺らいでいるところを見るに、相当のダメージを受けているのがわかる。

 一先ずは安心できたとばかりにバーヴァン・シー達が安堵の溜息を吐くが、バーゲストだけは言い知れぬ不安感を抱いていた。

 

 そして、その不安感は現実のものとなる。

 

 モルガン達と同じように、しかし、ぐしゃっ、という音と共に落ちてきたそれを目にしたパーシヴァルとバーゲストが、揃って息を呑んだ。

 

 

「ウッドワス公……ッ!」

 

 

 モルガン達より少し遅れて落ちてきた彼は、既に事切れていた。

 咄嗟に主君とその相棒を庇って攻撃を受けたのだろう。下半身と右半身はまるで抉り取られたように欠損しており、微かに開かれた瞳はただ虚空を見つめるのみ。極限状態も解除されている事からも、彼の命が尽きている事が容易に理解できてしまった。

 

 

「―――マキリ・ノワに続いて、アルトゥーラまでやられたか。本当に粘ってくれるな、いい加減に負けてくれよ」

 

 

 瞬間、頭上から虫のさざめきのような声が聞こえ、誰もが視線をその根源へと向かわせた。

 先程までモルガン達に追い詰められていたはずの影の姿に、真っ先に動いたのはバーヴァン・シーだった。

 

 

「っ、この―――ッ!」

 

 

 上空からこちらを見下ろしてくる影にバーヴァン・シーが妖弦を奏でる。

 彼女の得意とする呪詛の魔術と、基礎的ながらも鍛え上げられた身体強化魔術。それらを用いて放たれた斬撃は遙か上空にいる影にも届いたが―――

 

 

「無駄だ。今の俺(・ ・ ・ ・)に、それは効かない」

「な……」

 

 

 切り裂いた端から復元されていく影に、バーヴァン・シーの顔に驚愕の色が現れる。

 それはアルトゥーラのような、湧き上がる呪詛による回復ではなかった。霧を手で払った瞬間に周りの霧がその隙間を埋めるように一切の血を流す事なく修復されるその光景は、相手が傷を負ったという事実すら存在しないかのよう。

 

 その様子に「まさか」と目を細めたのは、ルーツだった。

 

 

「そのまさかさ。ようやく真体(・ ・)が目覚めたんだ。お陰で俺でもウッドワスを殺せた」

 

 

 待ち望んでいた時がようやく訪れた影響か、今まで影の全身を覆っていた黒い靄が消えていき、その奥にある素顔が露になった。

 

 

「え、オベロンさん……?」

 

 

 そうして露になった彼の顔を見て、呆けた声がマシュの口から零れ落ちた。

 

 キャメロット攻防戦。モルガン討伐を掲げた円卓軍とノクナレア軍の連合軍と、モルガンに仕える女王軍との戦争。その最中、自分達と友に行動していた彼は、城を護るディスフィロアとの戦いの中で消滅したはずだった。

 そんな彼が、なぜそこにいるのか―――困惑したマシュが一歩前へ進もうとするが、それを無言のままに立香が制止する。

 

 

『伝達、伝達ッ! ブリテン島全域に重力変動を確認ッ! 重力を発生させる力は働いてないのに、地面も大地も舞い上がっていく―――まるで落下だッ! なんだこれ、意味わかんないッ! なにもかも落ちているッ!』

『観測レンズ・シバから第一級危険観測ッ! 原因不明だけど、このままだと一時間以内に地球がやばいッ! “崩落”だッ! 崩落現象が始まってるッ!』

「…………」

 

 

 通信機から聞こえてくる、ネモの分身であるマリーン達の報告。

 焦燥した彼らの声を聞きながら、立香は静かに空に浮かぶ影を見上げる。

 

 

「……やっぱり、そうなんだね」

「あぁ、やっぱり気付いてたか、立香。まぁ、だからどうだって話。そもそもお前には隠していなかったからな。どうでもいい駒の中でも、一番どうでもいい駒だったからさ。……お前も、あいつ程ではないけどどうでもいい駒の一つだったよ」

 

 

 そう言って懐から取り出したのは、黒い靄に覆われている彼とは対照的に真っ白な姿を持つ蛾。一切の動きを見せない彼女(ブランカ)を影が放り投げると同時、通信機からホームズの声が聞こえてくる。

 

 

『ミス・立香。たった今ダ・ヴィンチから聞いたが、アレ(・ ・)は確実に汎人類史側のサーヴァント……妖精王オベロンではない。秒単位で霊基が変動しているんだ。そのような存在を、“妖精王オベロン”とは呼称できない』

『ッ、待ってッ! ブリテン島北部に巨大な異空間を確認ッ!』

『なに? すまない、異空間ではわからない。もっと具体的にッ!』

『た、たぶん生き物……なんだろうけど……無理ッ! ボク達だけじゃ説明できないッ! 地球上であんな生き物見た事ないッ!』

 

 

 先程よりも焦りの色が強くなったマリーンの報告が続く。

 曰く、探知波を送っても一切の反応が返ってこず。高度な演算能力を基に対象の脅威度などを測定するシバでさえ、『帰還不可能』『永劫未到着』『現在・無限航海中』としか回答しないとの事らしく、現在起こっている現象が如何に異様なものかを如実に感じさせてくる。

 

 

「な、なんだ……あれは……」

 

 

 その異空間―――否、生き物の姿を視認して最初に声を漏らしたのは、カドックだった。

 

 それは、何の前触れもなく現れた。

 

 蚊柱、というものがある。繁殖に最適な温暖な時期において、ユスリカというハエの仲間の昆虫の雄が、雌に対してアピールする際に発生するものだ。水辺の近くでよく見られるそれを何万倍もの規模に増幅させ、色を黒に染め上げたような存在が今、ブリテン島の上空に出現していた。

 

 元からそこにいたように、昔からずっとそうであったかのように、出現の前兆すら見せぬままに現れたそれは―――

 

 

「たぶん、あれは……虫だ」

「そう、一匹の虫さ。同時に、一体の竜でもある。とはいえ、見ての通り概念の(りゅう)だ。ブリテンを滅ぼし、星を裏返す無限の穴。まぁ、果てのないウロだと思えばいい。そして……俺そのものでもある」

「……真名を明かして、オベロン」

「真名? ハッ、とっくにご存知なんだろう? でもいいさ。教えてやる」

 

 

 そう言うと、その男は仰々しく胸元に手を当て、優雅にお辞儀をしながら続きを口にした。

 

 

「俺はお前達汎人類史が創り上げた空想、妖精王オベロンのカタチでこの姿になったもの。神秘の時代の終わりと共に、自らの破滅を望んだブリテン島の意思の具現。名を―――オベロン・ヴォーティガーン。お前達と共に、ブリテンを滅ぼした『奈落の虫』さ」

 

 

 不敵な笑みと共に顔を上げた影―――オベロン・ヴォーティガーンは、次の瞬間には笑みを掻き消し、全てを見下し蔑むような冷たい表情となって左手を掲げる。

 

 

「さて、自己紹介も済んだ事だし―――早速、死んでもらおうか」

 

 

 上空に浮かぶ虫竜が吼える。

 虫の羽音を何千と重ねた後にノイズを掛けたような耳障りな咆哮と共に放たれたのは、漆黒の波紋が如きドラゴンブレス。

 音波のように周囲の空間を削り取って迫り来るそれに対し、最初に動いたのはモルガンだった。

 

 自分達の周りを覆う形で『水鏡』を発動。迎撃では意味がない(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)と判断したが故の行動によってモルガン達がブレスの範囲外から逃れた瞬間、先程まで彼女達がいた場所をブレスが抉り取っていった。

 爆発も、衝撃波も、なにも起こらない。ただ始めからそうであったように、直撃した箇所が抉り取られていた。

 

 

「なに今のッ!? いきなり地面が抉れたわよッ!?」

「余波もなにもない……いったいあのブレスは……ッ!?」

『推測でしかないが、先程のブレスは虚無そのもの(・ ・ ・ ・ ・ ・)だッ! なにもないから余波がないし、直撃した衝撃も出ないんだッ! 当たったらなにもできずに抉り取られるッ!』

「ウッドワスがあのような体だったのはそれが原因ですか……ッ!」

 

 

 ダ・ヴィンチに虫竜のブレスについて伝えられたバーゲストが、それが如何に強力かつ無慈悲なものかを理解し歯噛みする。

 

 

「そら、まだまだいくぞ」

 

 

 上空から再びオベロンの声が響けば、同時に虫竜がブレスを放つ。

 

 

「あの野郎、調子に乗りやがって……ッ!」

 

 

 虫竜の放ったブレスが先程のものとは違う、複数に及ぶものだと気付いたバルカンが舌打ち交じりに顔を顰めながらも大剣を振るう。

 大剣から飛び出した炎の斬撃が虚無のブレスに触れ、そのまま切り裂くかと思われたが、

 

 

「ハァッ!? マジかよッ!」

「止まらないでッ!」

 

 

 真っ直ぐ進んでいたはずの斬撃が突然軌道を変えてブレスから離れていく。予想外の現象に思わず立ち止まってしまったバルカンだったが、その手をルーツが引いて走り出す。次の瞬間、遂に降り注いできた虚無の弾丸が大地に着弾した。

 

 次々と着弾した地点が、周囲の空間ごと抉り取られていく。防御も迎撃も出来ない理不尽な攻撃を前に回避するしかできないルーツ達だったが、その中で一人、足が縺れて倒れてしまった者が一人。

 

 

「―――先輩ッ!!」

 

 

 ブラックバレルを使用した直後だった事もあり、集中が長続きせずに倒れてしまった立香をマシュが助け起こすが、狙いすましたように虚無のブレスが二人目掛けて落ちてきた。

 

 

「っ、マズい……ッ!」

「―――ッ!」

「な、バーヴァン・シーッ!!」

 

 

 咄嗟にKが魔力光線でブレスを狙うも、バルカンの斬撃同様に軌道を逸らされ不発に終わる。その中、迷いなくマシュと立香の下へ走り出したのはバーヴァン・シーだった。

 背後から自分を呼び止めようとするモルガンの声を無視したバーヴァン・シーは「危ねェッ!」と叫びマシュ達を突き飛ばす。それによってマシュと立香はブレスの攻撃範囲から逃れられたが、代わりにバーヴァン・シーがその範囲に入ってしまった。

 

 咄嗟にモルガンが『水鏡』を発動しようとするが、数手も遅れてしまった事により、『水鏡』の発動よりも先にブレスがバーヴァン・シーの全身を抉り取ってしまうだろう。

 

 

(クソ……ここで、終わりなのかよ……ッ!?)

 

 

 そんな中、バーヴァン・シーはなにもかもがスローになった世界で一人心中で呟いていた。

 先程の行動は、自分でも理解できていなかった。長年を共に過ごした仲間でもないのに、なぜか体が勝手に動いていた。

 

 ―――それは、ずっと昔から妖精達に利用され、慰み者にされてきた彼女が有していた、自己犠牲の精神から来るものだった。周りが喜んでくれるなら自分が如何に消費されようが構わないという、愚かな優しさから来るものだった。

 あの狩人との出会いを、生活を経て芽生えた優しき心が、彼女にその行動を取らせたのだ。

 

 しかし、バーヴァン・シーがそれに気付く事はない。無意識の行動が故に、なぜ自分がこのような行動に出たのか理解できない。

 

 そして、瞳を大きく見開いたバーヴァン・シーを虚無が呑み込もうとして―――

 

 

「―――キシャァアハハハハハハハァッッ!!!」

 

 

 白と黒が歪に混ざり合った巨影が、彼女の体を攫った。

 

 自分の視界を覆ったものがなにかを理解できないでいるバーヴァン・シーの全身を、何度か大きな衝撃が襲う。

 それが、自分を包み込んでいる何者かが転がっている事に由来するものだと直感的に理解したバーヴァン・シーの体が、次の瞬間には解放される。

 

 空中に投げ出されるも即座に態勢を整えて着地したバーヴァン・シーが目にしたのは―――

 

 

「お、お前は……」

「キシャァアア……ッ!」

 

 

 歪に伸びた一本角。本来経るはずだった成長を無理矢理押し留められたような、白と黒が混ざり合った異形の体躯。

 見間違えるはずがない。それは、自分がバーゲストとメリュジーヌと共に戦った、異形のゴア・マガラだった。

 

 亀裂に飲まれた事に再起し、戦闘の気配を感じて飛んできたのか―――身構えようとしたバーヴァン・シーだが、目の前にいるゴア・マガラの様子が、以前と比べて異なる事に気付く。

 

 

(……まさか)

 

 

 心の中に、一筋の光が差し込む。

 その光に促されるままに、バーヴァン・シーは静かに問いかけた。

 

 

「……カリア?」

「…………」

 

 

 声による返答はない。

 しかし、片方のみ開いた眼に宿るその光を、バーヴァン・シーはよく知っていた。

 

 

「……っ、馬鹿野郎……。来るのが遅ェんだよ、カリアァ……ッ!」

 

 

 微かに震えている声でもう一度その名を呼べば、ゴア・マガラ―――否、カリアは僅かに口角を吊り上げ、ニィと鋭い牙を覗かせてくる。

 その仕草は、笑い方は、正しく心からの信頼を置く狩人の面影を想起させるもの。目の前にいる竜が、外見こそ変わってしまったが、中身は彼女なのだと強く伝わり、バーヴァン・シーは堪らず目元に溜まった涙を拭った。

 

 

「……? これは……」

 

 

 その時、バーヴァン・シーは自分の右手首―――そこに装着していた絆石が眩い青色に光り輝いているのに気付いた。

 それを目にしたモルガンは、「……そうですか」と小さく笑みを浮かべ、バーヴァン・シーに告げる。

 

 

「バーヴァン・シー、絆石に意識を集中させなさい。そうすれば、貴女はよりカリアと深く繋がる事が出来るはずですッ!」

「は、はいッ!」

 

 

 母に言われるままに、バーヴァン・シーは絆石に意識を集中させる。

 

 瞬間、瞼を閉じた事で闇に閉ざされた彼女の視界に、青い光が瞬く。その光は幾つにも分かれて軌跡を描き、その軌跡はやがて、目の前にいる渾沌の竜へと辿り着く。すると、今度は竜からこちらへ向けて同じ色の光の線が伸び、自身の体を包み込んできた。

 

 

(……あぁ。わかるわ、カリア。貴女の事が……これまで以上に深く、どこまでも……)

 

 

 瞼を持ち上げる。気付けば、絆石の光はより強くなっており、さながら太陽をこの手に抱いているような感覚を覚える。

 

 刹那、バーヴァン・シーの脳裏に一つのビジョンが映し出される。

 

 ―――それは、遥か昔のブリテン島。妖精達を狂わせ、島を滅亡の危機へと陥れた“凶気”の龍に立ち向かう、一人の妖精と龍の姿。

 楽園への入り口で出会い、戦い、そして絆を結んだ無二の相棒を見上げた妖精が、その右手に装着した光り輝く絆石を掲げ、ある言葉を叫ぶ光景。

 

 脳裏に浮かんだビジョンが消え、視界は現実のものへと引き戻される。

 だが、バーヴァン・シーは先程のビジョンがいったいなにを意味するのかを、魂で理解していた。

 

 

「行くぞ、カリア」

 

 

 短い、しかしそれ故にはっきりとした声でそう告げれば、竜となった相棒が力強く頷く。

 それに満足げに口角を持ち上げたバーヴァン・シーは右手を力強く掲げ―――叫んだ。

 

 

「―――ライドオンッ!!」

 





・『ブラックバレル』
 ……まだ幼体だった頃のアルトゥーラがシェフィールドを襲撃した際、出現時に開けた穴に落ちていたのを後にハベトロットが拾った。戦いの中で呪詛を浴びていた影響で剪定の緋雷を行使できないルーツに代わって使用し、アルトゥーラを討伐した。

・『オベロン・ヴォーティガーン』
 ……原作ではヴォーティガーンの要素を持ちながら『奈落の虫』としての側面が強く、自分がヴォーティガーンであるという意識は薄いものの、今作ではミラルーツが最初に生み出した眷属の派生であるため、その意識が強くなっている。故に今作のオベロンは虫であると同時に、原作以上に竜種の性質が濃い存在である。
 能力も強化されており、虫竜から放たれるブレスはあらゆるものを空間ごと抉り取る虚無のものとなっており、オベロン自身もまた虚無そのものとなった事であらゆる攻撃を受け付けなくなった。

・『渾沌に呻くゴア・マガラ(カリア)』
 ……バーヴァン・シーの『痛幻の哭奏(フェッチ・フェイルノート)』により呪縛から解放された事で自我を取り戻す。

・『バーヴァン・シーが見たビジョン』
 ……トネリコ時代のモルガンとディスフィロア。マシュ達が眠りに就いた後、一人楽園に至らず帰還した彼女は、その時交戦し絆を結んだディスフィロアと共にマキリ・ノワと壮絶な戦いを繰り広げ、封印に成功した。


 ようやくここまで漕ぎつけました。今作のオベロン・ヴォーティガーンは“黒龍”の系譜なので、自分なりに強化しているつもりですので、楽しみにしていただければと思います。
 それではまた次回ッ!
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