【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 ドーモ=ミナサン。
 四月が下旬に入り、今年がもう八ヶ月しかない事に気付いて驚愕したseven774です。
 社会人になってからというもの、なんだか時間の流れが早く感じるようになりました。大晦日や元旦の出来事が昨日のように思い出せます。皆さんもこんな感覚を覚えた事はありませんかねぇ? このままだと今年の末もあっという間に来そうで怖いですね。

 ワイルズで花舞の儀が始まりましたねッ! 限定防具が個人的に凄く好み(特に胴)だったので早速作りましたッ! 現実ではファッションセンス皆無、着る服に拘りなしでもゲームでは着せ替えとかビジュアルを意識する人、私以外にもたくさんいると思います。

 それでは本編、どうぞッ!



世界を呑む空洞

 

 ―――かつて、とある戦いがあった。

 遠き(ソラ)の果てよりやって来た星が、緑が溢れていた大地へと一つの欠片を落とした。

 そこから生まれ出でるは、人間の女性の形を取った巨人。

 一切の穢れを見出だせぬ純白の巨躯を持ち上げて動き出したそれは、瞬く間に周囲の自然を、命を刈り取り始めた。

 

 それは、ただの虐殺ではなかった。否、そもそも『殺害』という概念にすら当てはまらない行為だった。

 太古の昔より人々が行ってきたものと同じ。実りに実った作物を、頃合いを見計らって刈り取る行為―――『収穫』である。

 

 白き巨人は、この惑星(ほし)に芽生えた命が熟すのを待っていた遊星より遣わされた刺客であり、同時に、当時存在していた数多の神格さえも捻じ伏せる破壊の化身でもあった。

 

 数多の神々が滅び、その度に資源が奪われていく。気高き軍神(マルス)の剣は巨神の得物と化し、また新たな『収穫』が行われていく。

 

 誰もが諦めた。このまま、我々はあの怪物に殺されるしかないのかと。

 

 しかし、諦めない者達は、確かに存在した。

 

 この惑星の防衛機構である“祖龍”と、いずれ星が鍛えし聖剣を担う人物。この一頭と一人の為に、あらゆる勢力が白き巨人へと戦いを挑んだ。

 多くの命が奪われ、その度に大地が海へと変貌していく。次々と豊かな自然が奪われていく絶望的な状況の中、それでも彼女らはその時(・ ・ ・)を待ち続けた。

 

 ―――巨人を打ち砕く、星の光。

 ―――星が鍛えた、神造兵装。

 

 ―――命の光を力に換える、星の聖剣。

 

 それさえ完成し、相応しき者の手に渡れば、白き巨人の討滅は完了するはずだった。災厄の巨人は崩れ落ち、生き残った生命は時間をかけながらもかつての繁栄を取り戻すはずだった。

 

 

 しかし―――そうはならなかったのだ。

 

 

 星の聖剣は作られなかった。

 担い手は担うべきものを得られず、成す術なく殺された。

 白き龍は「なぜだ」と嘆き、ならばと僅かに生き残った同胞(こどもたち)を安全な場所へと逃がした末に、巨人に取り込まれてしまった。

 

 嚙み合うはずの歯車は狂い、全てが破綻した。

 

 

『別にやらなくてもいいんじゃない?』

 

 

 聖剣を鋳造するはずだった者達の中でふと持ち上がった、あまりにも無責任なその一言によって。

 

 結果、巨人は斃される事なく収穫を終え、大地は消え去った。

 かつての生物の名残はどこにもなく、ただなにもいない海だけが周囲を埋め尽くした。

 果たすべき責務を放棄した、たった六人の妖精達と、唯一巨人の手より逃れた一柱の獣神とその巫女だけが、この地上に残った生命だった。

 

 そこから先は、まさに『凄惨』の一言に尽きるだろう。

 

 自分達の責務を放棄し、惑星を滅亡へと導いた六人の妖精達。

 そして、そんな彼らに罰を受けるべきと告げた、生き残った神と巫女。

 

 しかし、妖精達は善悪関係なく自由に生きる存在だ。それが、絶えず自分達に反省を促してくる者達相手にどう出るかなど、端から決まっていたのだろう。

 

 獣神は、妖精達がお礼をしたいと騙して渡された毒酒によって死に、残った巫女は『利用価値のある玩具(オモチャ)』として八つ裂きにされた。

 やがて巫女のクローンを用いて繁栄した妖精達は、まるで己の罪から目を逸らすように神の遺骸をかつての自分達の死体で埋め、さらなる繁栄を享受した。

 

 妖精達の楽園―――ブリテンの誕生である。

 

 しかし、それでも尚獣神は、妖精達を恨みはしなかった。

 ただ妖精達に反省してもらいたい一心で、骸は呪いを撒き続けた。

 

 嗚呼、なんて素晴らしい精神だろうッ! 素晴らしすぎて反吐が出るッ!

 

 あまりにも優しすぎる。己が命を奪われ、仕える巫女さえも利用され、それでも尚彼らを信じる。

 

 穢らわしい。あまりにも穢らわしい。

 あまりにも愚か。あまりにも煩わしいッ!

 

 ―――ならば、己が動くしかない。

 

 だからこそ、彼の者達(・ ・ ・ ・)はその大地へと根付いた。

 

 一つは冥き地の底へ。一つは罪深き島の片隅へ。

 

 絆が結ばれるのなら、蝕め。蝕まれたのなら、喰らえ。

 

 地を這う蟲よ、蒼き光を纏いて(そら)を昇れ。

 絆を蝕む“凶気”よ、無明の闇で世界を覆え。

 

 ブリテンに(すく)いを齎す(りゅう)よ。今度こそ、その責務を果たすのだ。

 

 

 

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 ブリテン島が、崩壊していく。

 人間達の文明を模した建造物も、それらの土台となっている大地も、遥か昔から続いてきた自然も。そして、そこで生活し『厄災』によって息絶えた者達も。

 妖精も人間も関係ない。大地も命も、全てがブリテン島上空に出現した空洞に呑まれていく。

 

 ここには、あらゆる物語があったのだろう。悲劇も喜劇もあって、誰にも知られない小さな物語もあったはずだ。

 それら全てが一切の区別なく、空の穴へと落ちていく。なにもかもが全て、始めから、一夜の夢であったように。

 

 その中を、異形の竜が奔る。

 彼女(・ ・)の中にある、かつて亜龍種と呼ばれたモンスター。正しい成長を遂げればいずれ古龍種となる存在には、大きく分けて三つの姿が存在する。

 

 一つは黒き衣を纏う姿。もう一つは黒き衣を脱ぎ捨て、光への転生を果たした姿。

 この二つは、生前の彼女(・ ・)が旅の中で出会った一個体のもの。しかしそれとは別に、後に出会った同種の中にはそれらとは異なる道を辿ってしまった個体もいた。

 

 その三つ目の姿こそが、今の彼女(・ ・)―――渾沌に呻くゴア・マガラ。

 成体の白き体と、幼体の黒き体を中途半端に混ぜ合わせた外見であるその竜の背中には、一人の妖精の姿があった。

 

 まるで夜空を駆け抜ける流星が如く輝く絆石を右手に装着し、左手で(くら)を握る者の名は、バーヴァン・シー。

 絆石を通して深くまでつながった影響なのか。血のように赤いドレスには相棒の力を示すように白と黒のプレートなどの装飾が施されており、頭部には相棒の変異した竜の角を模したアクセサリーが絆石の光を反射して煌めいている。

 

 その姿に、かつて同胞(マキリ・ノワ)を封印した妖精と龍の姿を重ねたオベロンが警戒心を強める。

 彼の警戒を表すように虫竜が大きく開いた口からあらゆるものを削り取る虚無のブレスが吐き出され、同時にオベロンも迎撃に動き出した。

 

 

「キシャハハハッ!」

 

 

 襲い掛かってくるブレス群を、ゴア・マガラは笑い声にも似た咆哮を上げて掻い潜っていく。変異してしまった故に図体こそ大きくなり、姿も人間とはまるで程遠いものとなってしまったが、それでも彼女―――カリアの戦闘技術は失われない。

 目覚めた際に感じていた、頭の中にかかっていた靄のような不快感はとうにない。バーヴァン・シーとの繋がりを感じたその時から、竜の脳裏にはかつて彼女と共に過ごした数々の記憶が蘇っていた。

 

 召喚された時の、こちらを都合のいい玩具としか見ていなかった彼女の笑み。言葉を交わす中で彼女の真意を知り、特訓を受けさせた日々。妖精國の姫君としての教養と、妖精騎士としての強さを手に入れた彼女と共に駆け抜けた時間。

 その全てが今、竜の魂に刻み込まれている。

 

 たとえそれが、気まぐれであったとしても。数いる狩人の中で、自分を見つけたのが単なる偶然であったとしても。

 彼女が自分を求め、仲間と共に救おうとしてくれた。

 

 ―――悪くない気分だった。殺戮と闘争を中心に生きる自分でも、珍しくそう思う事が出来た。

 

 ならば、護ろう。数百年に亘る、今生の命を捧げるに足る主を。可憐にして苛烈な、心に優しさを秘めた妖精の姫君を。

 

 だが。

 

 

(馬鹿。護りたいって思ってんのは、お前だけじゃねぇよ)

 

 

 彼女が抱いた決意は、その主であるバーヴァン・シーも抱いていたものだった。

 初対面の時の自分は、母の言う通り悪辣に振舞おうとしていた。それが母の望みであればと、ただ言われるままに在り続けてきた。

 しかし、それをカリアが変えてくれた。彼女の存在が、血に塗れた世界に彩りを与えてくれた。数多の妖精や人間達の血に染まった自分を、照らしてくれた。

 

 彼女のお陰で、自分は強くなれた。ただ『悪であれ』と願われていた頃の自分よりも、強い心を持つ事が出来た。

 ただ悪辣に殺し、己の力に酔うのではない。己の力の意味を知り、大切な者達を護る為に振るう―――この答えに辿り着けたのも、彼女がいてくれたお陰だ。

 仮にこれを口にすれば、殺戮と闘争に生きる相棒はきっと笑っただろうが、最後には「いいじゃないか」と肯定してくれるはずだ。

 

 だから―――ッ!

 

 

「負けるわけには、いかないッ!!」

 

 

 密着させていた上半身を起こし、己の得物を構える。

 ゴア・マガラ(カリア)と深くまで繋がった影響でバーヴァン・シーの装備が変化したように、彼女の武器である妖弦フェイルノートもまた変化を遂げていた。

 

 紫と金色の装飾が施された妖弦は、その大きさを変化以前のものから、折り畳んだとしても射手であるバーヴァン・シーの背中を隠してしまう程のものへと変えている。

 弓兵が番えた矢を引くようにバーヴァン・シーが弦に指を添えると、彼女の意思に反応するように淡い紫金色の輝きがフェイルノートから発せられる。さらにそこへ絆石の輝きが加わった瞬間、バーヴァン・シーは「ハッ!」と短く鋭く息を吐き出して一気に弦を奏でた。

 

 優雅な音色とは裏腹に、飛び出すのは一つ一つに膨大な魔力を込められた音の矢。バーヴァン・シーの手によって生まれたそれらを前にオベロンは、青色が亀裂のように走る黒い左手を向ける。

 そこから放たれるのは、漆黒の魔力弾。一秒の間も置かずに連続で撃ち出されたそれらはバーヴァン・シーの放った音の矢と激突し、相殺していく(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)

 

 

(なに……ッ!?)

 

 

 その光景に、オベロンは内心で驚愕した。

 ケルヌンノスに封じられていた最後の滅びである虫竜が目覚めた以上、その虚無の権能(チカラ)は自分にも適用されている。もちろん、そんな自分から放たれる攻撃もだ。触れれば周囲の空間ごと削り取られるのは必然であり、だからこそモルガン達を庇ったウッドワスは成す術もなく体の大半を抉り取られ絶命したのだ。

 迎撃による相殺を狙ったとしても、意味はない。元々存在しないものへ攻撃しようとしても、存在しなければ当たるも当たらないも関係ないのだから。

 

 その攻撃が、相殺された。

 つまり、相手もまた自身と同じ能力を身に着けたか、それと並び立つ力を手にしたという事になる。

 

 

(ただ強化されたわけじゃないって事か。忌々しい……)

 

 

 オベロンの考察は、間違っていない。彼が考えた通り、バーヴァン・シーは彼が手にした虚無と並び得る力を手に入れた。

 

 ―――アピアーorヴァニシュ、という武器がある。

 カリアが変異したモンスター、渾沌に呻くゴア・マガラの素材から製造する事が出来る武器種の内、弓に該当する武器である。数ある武器の中でも『武器が使用者を選ぶ』という稀有な存在であるが、この武器の名前には相反する単語が使用されている。

 『Appear(アピアー)』とは、『現れる』『姿を現す』といった意味を。

 『Vanish(ヴァニシュ)』とは、『消える』『見えなくなる』といった意味を。

 

 言葉には力が宿る。互いに相反する意味を持つ言葉を銘にしたその武器の特性がバーヴァン・シーの手にあるフェイルノートに組み込まれた事で、フェイルノートを人為的なパラドックスを引き起こす武器へと進化させた。

 

 確かに、『そこにあるが存在しない攻撃』に『存在する攻撃』を当てたとて、前者が有するパラドックスを証明する形になってしまって無効化されてしまう。

 では、『そこにあるが存在しない攻撃』に、それと同じ正反対の性質を併せ持つ攻撃を当てればどうなるか。

 

 結果は、パラドックスの証明失敗。互いに互いを証明する事が出来ず対消滅―――相殺したのである。

 

 自分の振るうものと酷似した能力を手に入れたバーヴァン・シーによって絶対的優位の立ち位置を崩されたが、だからといって狼狽える事も、ましてや逃げ出す事もあり得ない。

 相殺されたとしても、それは迎撃されたが故に起きた現象。射手であるバーヴァン・シーに当たれば、それで終わりだ。

 

 しかし、当然それを許さない存在がいる。

 

 

「撃てッ!」

「チィ……ッ!」

 

 

 バーヴァン・シーの指示を受けたゴア・マガラが撃ち出したブレス。

 フェイルノートに宿ったアピアーorヴァニシュの素材元であるモンスターとなった彼女の攻撃もまた、それと同じ性質を持つ。その証拠に、ブレスを切り裂いたもののオベロンはその衝撃に吹き飛ばされている。

 だが、ダメージが入るようになったからと言って状況が完全に優勢に傾いたわけではない。ブレスの数発を受けたところでオベロンの勢いは止まらず、バーヴァン・シー達へ襲い掛かろうとするが。

 

 

「―――ッ!」

 

 

 背後から迫る攻撃に気付き、咄嗟に右腕を振るう。右腕が纏った魔力によった刃によって背後からの攻撃を切り裂くが、その攻撃を見てオベロンは驚愕した。

 

 炎だ。バーヴァン・シーとゴア・マガラのどちらも使用しないであろうそれが、自分に命中する攻撃となって襲い掛かってきたのだ。

 

 炎だけではない。

 続けて襲い掛かってきたのは、二つの流星。異なる軌跡を描いて接近してきたそれを弾くも、間髪入れずに飛んできた緋色の稲妻が肉薄。二つの流星を弾いた直後に肉薄されたために防御態勢を取れないオベロンの腹部に拳が捩じ込まれ、殴り飛ばした。

 

 

(馬鹿な……ッ! なぜ……ッ!?)

 

 

 バーヴァン・シー達のような力を、彼女達は持っていないはず。それなのになぜ自分に攻撃を当てられるのか、オベロンは困惑と驚愕に目を見開くのだった。

 

 

 

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(上手くいったようですね)

 

 

 次々とオベロンへ追撃を仕掛けていくルーツ達を見上げ、モルガンは内心頷いていた。

 

 なぜ、パラドックスを引き起こせないルーツ達がオベロンに攻撃を届かせる事が出来たのか。その理由は彼女にあった。

 

 バーヴァン・シーがゴア・マガラと絆石を介して結びつき新たな力を手に入れたその時から、彼女は自身の魔術によって、バーヴァン・シーの武器に宿ったアピアーorヴァニシュの能力の模倣を始めていたのだ。

 多少時間はかかってしまったが、模倣魔術の開発に成功したモルガンは早速それをルーツ達に使用。バーヴァン・シー達程ではないにしても、彼女達はその魔術によってオベロンへ攻撃を命中させられるようになったのである。

 

 ―――しかし、如何に天才中の天才である魔術師のモルガンであろうと、完璧に再現する事は出来なかった。

 

 もちろん、完全再現が出来なかった理由はある。実力云々ではどうしても解決できぬ問題があったのだ。

 モルガンが世界を繋ぎ止める神造兵装であるロンゴミニアドを魔術で再現できたのは、それが一種のシステムであったからだ。それがなにかしらの目的の為に製造されたものであれば、モルガンはその仕組みを解析・解明し、生来の魔術の才を用いて再現する事が出来る。

 しかし、現在バーヴァン・シーが手にしているフェイルノートは、『本人と相棒がリンクして稼働するシステム』である。システム故に再現は不可能ではないが、そのトリガーが感情という、プログラムが存在しない概念である事が、完全再現を阻む壁となっているのだ。

 

 だが、これについてモルガンは悔しさをなんら抱いていなかった。

 完全なシステムであったならば話は別だが、バーヴァン・シー達のそれは彼女達の絆と感情によって齎される力だ。相手の意識を操る術は心得ているが、偽りの感情によって得られるものなど高が知れている。あの力は、バーヴァン・シー達だからこそ真価を発揮できるものだ。寧ろ、自分にも再現できない力を発現させるにまで至っていた彼女達の絆に、モルガンは関心を通り越して感動すら覚えていた。

 

 

(懐かしいですね……あの頃の私も、ああしてマキリ・ノワと戦った……)

 

 

 思い起こされるのはかつての記憶。まだ自分が女王として君臨する前、楽園の入り口で戦い、絆を結んだ相棒(ディスフィロア)と共に、ブリテンを滅ぼそうとする『厄災』の一角であったマキリ・ノワと交戦した時の出来事だ。

 あの頃の自分も、今のバーヴァン・シーのように絆石を介してディスフィロアと深くまで結びつき、その力を借り受けていた。その時の装備も、彼女のようにディスフィロアの力を基にしたものになっていた記憶がある。

 

 しかし、次の瞬間には過去の思い出に耽っている場合ではないと軽く息を吐いて思考を切り替える。

 

 過去の記憶など、後でいくらでも思い返せる。どうせなら、この戦いが終わった後にバーヴァン・シーに聞かせるのもいいかもしれない。

 その為には、まずあの虫を潰さなければならない。

 

 

「行きましょう、ディスフィロア。そろそろ、あの蛆虫には退場してもらいましょう」

「グルォアアアアアッ!!」

 

 

 ルーツ達に任せてばかりではいられないとモルガンがディスフィロアの背に乗れば、彼女の相棒は「任せろ」と言わんばかりに咆哮を轟かせて飛翔する。

 

 既にモルガンの模倣魔術を受けた者達は、我先にとオベロンへ攻撃を仕掛けている。

 ボレアスの双剣による連撃を掻い潜ったところへ迫る、バルカンの斬撃。それを紙一重で回避したオベロンがバルカンの頭部を消し飛ばそうと手にした剣を振るうが、それはルーツが魔力で作り出した足場を伝って跳んできた項羽のビームによって阻止される。

 ここに留まってはまずいと距離を取ったものの、次に襲い来るのはシグルドの大剣と、アナスタシアの冷気。空気中の水分を瞬間冷凍させて作成させた檻に閉じ込めたところを翡翠色の大剣が狙うが、オベロンは即座に全身を靄に変化させて檻から抜け出すと同時にシグルドの攻撃も回避しながら肉薄。

 

 

「消え失せろッ!」

「む……ッ!」

 

 

 一瞬で靄から元の体に戻ってからの、虚無の衝撃波。直撃すれば触れた箇所を問答無用で抉り取られる脅威の一撃を至近距離で繰り出されたシグルドの瞳に焦りの色が滲み出るが。

 

 

「―――事象・照準固定(シュフェンアウフ)lch will es niemals glǎnzen sehen(私は、それが輝くさまを視ない)ッ!!」

「なに……ッ!?」

 

 

 オベロンがシグルドに肉薄する事を予測していたオフェリアが魔眼を発動する事で、衝撃波がシグルドに直撃する未来をピン留めし阻止。それにオベロンがマズイと悟るものの、次の瞬間にはシグルドの斬撃が彼を襲った。

 

 

「ぐぅ……ッ!?」

 

 

 咄嗟に体を後方へ引いた事により直撃は避けられたものの、竜の力を宿す彼にとって、竜殺しの大英雄であるシグルドの一撃は重いものとなる。切り裂かれた胴体から決して少なくない量の血を流しながらもオベロンは剣を振るってシグルドを吹き飛ばし、返す刃で下から飛んでくる五本の槍を斬り捨てた。

 

 

「っ、モルガンッ!!」

 

 

 一気に戦況を塗り替えた存在に吼えたオベロンが接近してくる中、モルガンはディスフィロアの背から走り出し、その頭を踏み台に跳躍。

 オベロンの剣と、モルガンが手にした黒き剣が激突し、周囲の空間を大きく揺るがす。

 

 

「劣勢じゃないか、蛆虫。最初の威勢はどうした?」

「チッ、癪に障るな本当ッ!」

 

 

 鍔迫り合いに持ち込み、そのまま剣ごと抉り取ろうとするも、モルガンもまた模倣魔術で同様の力を発揮する事でそれを防ぐ。

 両者の間に火花が散る中、鍔迫り合いを制したのはモルガン。ルーツ達に意識を割かなくてはならないオベロンの集中の乱れを突いて一気に押し切ったモルガンは、がら空きとなった胴体を一閃。黒い稲妻と共に振るわれた斬撃はオベロンの胸を真一文字に切り裂き、大量の血が噴き出した。

 

 切り裂かれた箇所から走る激痛に顔を顰めたオベロンだが、モルガンの攻撃がまだ終わっていない。剣を消した後、その手に作り出すのは魔力の球体。それをオベロンへ投げつければ、球体に封じ込められていた高密度の魔力が爆発。即席の爆弾として機能したそれによってオベロンが吹き飛ばされる。

 

 追撃の痛みを歯を食い縛って耐え、態勢を整えたオベロンは周囲を見渡し、「クソ……」と悪態を吐いた。

 

 バーヴァン・シーを始め、今この地に集っている者達の全てが、自身を取り囲んでいた。

 誰もが敵意を宿した視線をこちらに向けており、いつ、誰が攻撃を仕掛けてくるかわからない。

 

 虫竜が目覚めた事でパラドックスを用いた能力を手に入れたものの、こんな状況になってしまえばほとんど意味を成さなくなってしまった。

 

 あまりにも劣勢。多勢に無勢とは、まさにこのような状況の事を言うのだろう。

 

 

「……ハァ……」

 

 

 しかし、オベロンの中には、焦りとは異なるある一つの感情が顔を出していた。

 そう、これは。

 

 

「あぁ……面倒だ。もう、終わりにしよう」

 

 

 それは、面倒臭いという感情。

 本気で嫌気が差してくる光景と状況に、焦りなど既に臨界点を超えてしまい、逆にある種の倦怠感を抱くようになったのだ。

 元々面倒だった気持ちがより面倒臭く感じられ、鉛のように精神にのしかかってくる。

 

 そして、オベロンは決心した。もう終わりにしようと。

 

 そうだ。始めからこうすればよかった。こうしていれば、こんな無駄な時間をかける事も、予想外の出来事に頭を悩ませる必要もなかった。

 

 モルガンの攻撃を躱し、一気に上昇。瞬く間に包囲網を突破したオベロンは自身と同一の存在である虫竜と向き合う形で停止し、両腕を大きく広げる。

 

 

「―――来い」

 

 

 短く告げられる、氷のように冷たい言葉。

 彼の言葉に従うまま、島を吸い込み続けていた虫竜はズズズ……と動き出し、その体を大量の虫によって構成された渦へと変化させる。やがて渦はオベロンの胸に突き刺さり、その皮膚を食い破って体内へ。

 

 

「ぐ……うぅ……アァアアアアアァァァッ!!!」

 

 

 自分の何千倍にも大きな虫竜を構成していた虫を体内に取り込んでいるというのに、オベロンの肉体は弾ける事無く、一匹も漏らす事なく吸収し、己の力へと換えていく。

 その光景に誰もが唖然としていると、遂に最後の一匹を体内に吸収したオベロンが、ゆっくりと振り向く。

 

 

「微睡みの(うつつ)、目覚めの夢幻。腐食の空洞は、世界を呑む―――」

 

 

 昏い闇の如く染まった眼の中心に浮かぶ、金色の瞳孔。額から伸びるは、昆虫が持つ触覚の如き双角。背中から伸びていたトンボの翅は雄々しき竜の翼となり、腰からは竜の尻尾が伸びる。

 超巨大な虫竜を吸収した影響か、身長が3メートル程にまで巨大化したオベロンが口を開いた瞬間、周囲の空間に異常が生じ始める。

 

 それは、並行世界の彼が使用した宝具―――『彼方とおちる夢の瞳(ライ・ライク・ヴォーティガーン)』に非ず。

 大いなる存在より分かたれし四つの魂。その一つより生まれ落ちた(モノ)が妖精王の殻を被った事により使用可能となった、この世界の彼だからこそ行使できる権能(チカラ)

 

 即ち、虚無の理の極致。

 

 

「奈落の夢に沈め―――覚醒め亡き永夜の帳(イクスティンクション・ヴォーティガーン)

 

 

 それは、黒だった。

 なにもかもを染め上げ、取り込む漆黒だった。

 

 虫竜を取り込んだオベロンの体から溢れ出る黒が周囲一帯の空間を呑み込み、あらゆる色を塗り潰していく。

 

 それは、さながら真っ白なキャンパスに黒の絵の具をぶちまけたように。美しい風景画を、黒のクレヨンで塗り潰すように。

 世界という絵画に落ちた崩壊の黒は、ルーツ達のあらゆる妨害をものともせずに拡大を続けていき―――

 

 

 ―――そして世界は、無明の闇に喰らい尽くされた。

 





・『マキリ・ノワ戦のモルガン(トネリコ)の装備』
 ……救世主トネリコの衣装に、ディナトシリーズを組み合わせたもの。なぜフロンティアアニバーサリー特典防具のディナトシリーズかというと、ディスシリーズよりも女性らしさがあったからという作者の考えから。武器の槍はディスフィロアの素材から作成できる凍レタ運命熾ス槍と融合したものになっていた。

・『オベロン』
 ……バーヴァン・シーとゴア・マガラの攻撃が当たるようになったならまだ良かったものの、モルガンが彼女の武器の性質を模倣した結果全員自分に攻撃を当てられるようになるというクソ展開に限界を超えた力を出す事を決意。自分と同一の存在である虫竜を取り込み、世界を闇で呑み込んだ。
 巨大化=負けフラグとはよく言うものだが、この状態のオベロンならば通常の『崩落』より短い期間で世界を滅ぼし得る他、自身に有利な状況と絶大な幸運が重なればこの世界の大蜘蛛にもなんとか抵抗出来るようになる。

・『覚醒め亡き永夜の帳(イクスティンクション・ヴォーティガーン)
 ……今作オリジナルのオベロン・ヴォーティガーンの宝具。基本的な効果は『彼方とおちる夢の瞳(ライ・ライク・ヴォーティガーン)』と同じだが、違いとして虫竜を取り込んでいるためオベロンを中心に出現させた虚無の空洞が世界を呑み込み、破壊するものとなっている。その口は際限なく広がるため『彼方とおちる夢の瞳(ライ・ライク・ヴォーティガーン)』と比べて『崩落』の速度が段違い。


 遂に奏章新ストーリーのタイトルが発表されましたねッ! ユーザーからはメタトロンが実装されるのではという予想が出てきましたが、もし実装されたら嬉しいですね。となると、あのビジュアルだけ公開されている推定リリスは誰になるのでしょうかね?

 次回もよろしくお願いしますッ!
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