【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 ドーモ=ミナサン。
 遂にトリニティ・メタトロニクスが実装されたものの、一週間経った今でも多忙でクリアまで行けていないseven774です。
 ですがもう正直……泣きそうです。もう色んな展開が起こり過ぎて感情が大渋滞を起こしているのですが、今はもう本当に、もう本当に……心が辛いです……。流れは終盤なのですが、ここまであの一人と一騎に心を狂わされたのは、アポクリファのジークとジャンヌ以来です。美しいと思う反面、「やめてくれ……いやだ……頼むから……」と、何度も自室で(時には外で内心)懇願し、涙しております。ですがここで立ち止まらずに、最後まで読み進めていき、彼の勇姿を見届けたいと思います……ッ!

 さて……私の狂わされた感情はここまでとして。皆さんはガチャ引きましたか? 私は開始早々に回しましたが、手元にあった60枚の呼符と300個以上の石を割り、トドメの課金でようやくメタトロン・ジャンヌをゲットする事が出来ました……。見事に大爆死です。
 並行してプレイしているプロセカでも限定ガチャで三万円かけて天井を叩いてしまったので、月初め早々に合計五万円という大金が私の手元から旅立ってしまいました。しばらくは節約生活をさらに心掛けなくては……。
 本当なら昨日から始まったリリスPUガチャも引きたかったのですが、普通に追い課金しそうなので今回は見送りです。でもいつか必ず召喚してみせます……ッ!

 今回は主にオフェリアにスポットを当てた話となります。そしてまさかのあのキャラクターがッ!

 それでは本編、どうぞッ!



ロストウィル

 

 『覚醒め亡き永夜の帳(イクスティンクション・ヴォーティガーン)』。

 それは自分自身である虫竜と融合し強化された事で使用可能となった、オベロンの新たな力。自身を中心に全てを呑み込み、崩落させる虚無の空洞を出現させるそれは、ただ対象を呑み込み、永劫の闇に閉じ込めるものではない。

 

 その空洞はなにもかもを喰らい、そして噛み砕き、破壊する。その際に行われるのは、対象から一切の抵抗手段を奪い去る事。

 それがいったい、どのようなものであるか。少なくとも、碌なものではないのは確かな事実だろう―――。

 

 

 

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「う……く……っ」

 

 

 ズキリ、と。

 頭の内側から走った痛みによって、私は強く瞑っていた瞼を持ち上げ―――絶句した。

 

 

(え……ここ、は………)

 

 

 瞼を開けた私の視界に飛び込んできたのは、寝室の天井(・ ・ ・ ・ ・)。それも、この世界で拠点としていたアルム・カンパニーの寮ではない、シュレイド異聞帯にあるシュレイド城の寝室の天井だった。

 飛び上がるように上半身を起こして周囲を見渡せば、目に映るもの全てが自分の記憶の中にあるシュレイド城の寝室のものと一致している。

 

 

(私は、ブリテンで戦っていたはず……。だとしたら、さっきまでの戦いは夢? いえ、でも……)

 

 

 見慣れ、暮らし慣れた部屋の中で思考の沼に浸る。

 一人で眠るには大きいベッドから降りて自分の体を見下ろせば、先程までの戦いの中でついていたはずの傷や土埃などは一切見受けられず、服も常に身に着けているものではなく、寝間着だ。

 

 では、今までこの身を置いていたはずのあの戦場は、夢だったのだろうか?

 

 ―――いや、それは絶対に違う。

 この身を貫く殺意も、一瞬のミスが命取りになる緊迫感も、なにもかもが現実のものだった。断じて夢ではない。

 

 

(あの感覚は、夢で片付けられるものじゃない。それに……)

 

 

 自分の右手に視線を落とす。

 私の右手には、これが夢ではないという証―――白い鱗が生えていた。

 これは、私がブリテンに入ってから起きた変化だ。ルーツが私に輸血し、アンナを召喚した果てに起きた現実だ。

 もちろん、これだけで今自分が目にしているものが現実ではないと断言する事は出来ない。もしかしたら、あの敵―――オベロンが宝具を発動した末に気を失い、その間に全てが解決してしまったかもという可能性もある。

 

 

(もしそうだったら情けない話ね……。でも、今はとりあえず誰かと話をして、思考材料を用意しないと)

 

 

 自分一人では答えは出せそうにない。一先ずは部屋から出て、誰かと会話する必要がある。

 

 寝間着を脱ぎ、いつも身に着けている服に着替える。“泡狐竜”タマミツネの滑液から作られた洗剤によって一切の汚れを排除されたそれに身を包んだ後に寝室を出て、口を開く。

 

 

「シグルド」

 

 

 あの寝室は、私とルーツが使っている部屋。男性であるシグルドを呼ぶ際には、こうして部屋を出る必要がある。

 律儀な彼なのでこうして名前を呼べばすぐに姿を見せてくれるはずなのだが……。

 

 

「……シグルド? シグルド?」

 

 

 いつまで経っても、シグルドは姿を現してくれない。改めて二回名前を読んでみるも、やはり結果は変わらず。

 まさかと思い、意識を自身の内側に集中させてみる。

 

 

「……そんな……」

 

 

 ―――パスがない(・ ・ ・ ・ ・)

 自分(マスター)シグルド(サーヴァント)を結び付けているはずの魔力パスが、存在していない。

 あり得ない。先程自分の右手を確認した時、手の甲にはマスターの証である令呪が刻まれていた。

 なにかしらの異常かと思い、もう一度右手の甲を見ると。

 

 

「……ッ!? 嘘……」

 

 

 先程までは確かにあったはずの令呪が、消え失せていた。

 この数分の間になにが起きたのかわからないが、信じ難い事に、シグルドがこの世界から退去した事だけは確実だ。

 

 まさかなにかと戦闘して敗北した? いや、戦闘したのならこちらの体からもいくらか魔力が供給されたはずだが、その感覚もない。

 

 

「質問する事が増えたわね……」

 

 

 呟きを漏らし、歩き出す。

 このシュレイド異聞帯にいるクリプターの中で、最もこの世界について詳しいのはルーツだ。ボレアスを始めた四騎のサーヴァント、そして彼女の下についた古龍種によって管理されている以上、何かしらの異常があれば気付いているはずだ。

 

 であればまずはルーツを見つけ出さなくては―――そう思っていると。

 

 

「っ、アンタは……」

「……? どうかしたの、カドック」

 

 

 曲がり角から姿を現した青年。私を見るや否や僅かに表情を顰めた彼に首を傾げると、「いや……」と顔を俯かせた。

 

 

「そっちこそどうしたんだ?」

「ルー……いえ、アンナを探しているの。どこにいるか知ってる?」

「アンナ……そうか、今はそっちか(・ ・ ・ ・ ・ ・)……」

「? なにか言った?」

「……なんでもない。すまないが、僕もアンナの居場所はわからない」

「そう……ありがとう、カドック。もう一つ質問なのだけれど、シグルドがどこに行ったのかは知らない?」

「っ、シグルド……、シグルドか」

 

 

 二つ目の質問に、カドックは明確な反応を示した。なにか心当たりがあるようだ。

 

 

「心当たり、あるのかしら」

「……すまない。わからない」

「どうして? 今の反応、明らかになにか知っているものよ。なにか知っているのなら―――」

「知るかそんな事ッ!」

 

 

 私の問いかけは、しかし怒号によって遮られてしまった。

 

 

「……頼むから、もうなにも聞かないでくれ……」

 

 

 俯く彼から、震える声が吐き出される。

 その声色がどのような感情から来るものかを理解した私は「なぜ?」と思いながらも、しかしこれ以上彼に質問は出来ないと判断し、「わかったわ」と小さく返した。

 

 

「ありがとう、カドック」

「……いや、いいんだ」

 

 

 俯いたままの彼の隣を通り過ぎ、そのまま歩き出そうとする。

 だがその瞬間、背後からカドックに呼び止められた。

 

 

「オフェリア……。アンナは、ルーツ(・ ・ ・)は、本当に信頼できる存在なのか……?」

「どういう……あれ?」

 

 

 背後からの問いかけの意味を訊こうと振り返るが、そこにカドックの姿はなかった。先程まで彼がいた場所は、元から誰もいなかったような静寂のみが流れている。

 周囲を見渡しても見つからない彼に不気味な違和感を覚えながらも、私は止めていた足を動かし始めた。

 

 それからも、私は他のクリプター……虞美人とペペロンチーノと出会った。

 しかし二人も、私の姿を見た瞬間に顔を顰め、ルーツに対して懐疑的な言葉を口にしていた。

 

 

「オフェリア。いくら親友でも……言うべき事は言うべきよ。ただの人形でいるつもり? 彼女が貴女をそう見ているように……」

 

 

 虞美人は私を憐れみ、そしてルーツへの怒りを隠しもせずに。

 

 

「貴女は、もうなにも考えなくてもいいの。ワタシもそれなりに辛い事を経験してきたけれど、そういうのはなにもかも忘れて、都合のいい世界だけ見るのが一番よ。彼女がそう仕向けたとしても……その方が、ずっと楽なのだから」

 

 

 ペペロンチーノは私に、見たいものだけ見ていればいいと告げてきた。ルーツへの、僅かな侮蔑と共に。

 

 ―――なにかがおかしい。カドックも二人も実体のある存在のはずなのに、どこか空虚なハリボテのような違和感を抱かせる。

 けれど、私にはそれがなにかわからなく。ただ少しずつ重くなる足取りで、彼女を探し続けて。

 

 そしてようやく。

 

 

「―――ルーツ」

 

 

 シュレイド城最上階。玉座の間にて、彼女を見つけた。

 

 晴れる事のない暗雲が渦巻く空から落ちる落雷によって照らされるステンドグラスを見上げていた彼女は、私に気付いた瞬間「あっ!」と笑みを浮かべて近寄ってきた。

 

 

「ようやく目覚めたんだね。おはよう、アンナ(・ ・ ・)ッ!」

 

 

 私のものではない“彼女”の名前を、口にしながら。

 

 

「……? どうしたの、アンナ?」

「どうしたのって、私はオフェリアよ。アンナじゃ―――」

「―――は?

 

 

 彼女の間違いを指摘したその瞬間。

 先程まで笑顔だった彼女の表情が一変し、驚愕と憤怒が混じったように眉を顰めた。

 

 これまで向けられた事のない視線に思わず硬直してしまうと、「……どうして」とルーツの口から言葉が漏れ出す。

 

 

「どうして、君がまだ残っているの?」

「残っている……? 待って、貴女がなにを言っているのかわからないわ。お願いだから、私にもわかるように―――」

「黙ってッ!」

「……っ」

 

 

 彼女が言っている意味がわからず、なんとか意味を把握しようとするも、彼女の怒号によって遮られる。

 有無を言わさぬ威圧感に動けないでいる間に、彼女はぶつぶつとなにかを呟きながら口元に手を当てて思考を始めてしまう。

 時間にして数十秒程か、呼吸の間も置かずにずっとなにかを呟いていた彼女がようやく顔を上げると、私の頬にそっと手を添えてきた。

 

 普段であれば嬉しさと恥ずかしさを感じさせる仕草であるはずなのに、今の彼女から受けるそれは、まるで餓えた獣に舌で舐められたような本能的な恐怖を抱かせるものだった。

 

 

「本当なら、意識は既に切り替わってるはずなんだけど……君は(・ ・)もう必要ないんだし(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)

「え……?」

 

 

 今……彼女はなにを言った?

 なにを言われたのか、わからない。

 なぜ、彼女が私を邪険にしているのか、わからない。

 

 

「ル、ルーツ……今、なに、を……」

「黙ってって言ったのに……まあいいや。わからないんだったら、わかりやすく教えてあげる」

 

 

 震える声で訊ねれば、ぐらぐらと揺れる視界の中心にいる彼女は心底うんざりとしたような溜息を吐いて続けた。

 

 

「君は、自分がこの体のオリジナル……アンナ・ディストロート・シュレイドの生まれ変わりだって事は知ってるよね? あの時瀕死の重傷だった君は、あのまま放置すれば死ぬのは確実だった。だけど、私がそんな事させるわけないでしょう? だって、漂白されても、魂の形は彼女と同じなんだから」

 

 

 出来の悪い生徒に言い聞かせるように、ぐるぐると私を中心に周る彼女。

 

 

「何千年も、何万年もかけてようやく出会えた、アンナの転生体。サーヴァント……それも冠位(グランド)となれば、召喚するのはまず不可能。私も永い時の中で、聖杯戦争以外で座に干渉する力を失った。聖杯戦争に参加しようにも、毎回毎回邪魔される……そして終いには人理そのものが燃やし尽くされた」

 

 

 ―――貴女にわかる? その時の私の怒りが。

 背後からの彼女の言葉に、私はなにも言い返せない。いや、彼女が「答えなど必要ない」とばかりの眼力でこちらを睨みつけられてしまえば、黙るしかなくなってしまう。

 

 

「今回だってそう。ようやく準備が整ったのに、反旗を翻した虫がいた。……わかるよね? ()との繋がりが切れているのが」

(……ッ、まさか)

「そう。シグルドは、私が殺した。馬鹿な男だったよ、本当に。あはっ、たかが竜殺しが、龍の頂点のこの私に挑むだなんてね……っ」

 

 

 大声で笑い出しそうとしているのを抑えているのか、口元を抑えてくつくつと笑い声を漏らす彼女。

 

 シグルドが、私のサーヴァントが……殺された。それもこの異聞帯における敵との戦闘ではなく、味方である彼女の手によって。

 彼女の体に傷が一切付いていない事。そして、私が魔力を供給させられる感覚を覚えなかった事から、恐らく一瞬で殺されたのだろう。それこそ、鬱陶しい羽虫を潰すように大雑把に。

 

 

「カドック達も邪魔するつもりだったなら始末していたけど、力の差を理解したみたいでよかったよ。脆弱な人間は力の差で平伏し、虞美人も項羽を盾に取ってしまえば従うしかなくなる。ふふっ、頂点に君臨し、支配する者はこうでないとね。でも……流石にこれは予想外だったな」

 

 

 私の背後で足音が止まり、首筋を彼女の指が這う。

 氷のように冷たい指と、背後にいる彼女から漏れ出すオーラに「ひ……っ」と小さく悲鳴が零れ、ガクガクと足が震える。

 

 

「君が眠っている間に、たくさん私の血を飲ませたのに。そうすれば君を死なせまいとアンナの霊核が働いて、二つの力のせめぎ合いの果てに君の魂は圧し潰されて……その後に私自身が血の力を消せば、残るのはアンナの核だけだったのに。ねぇ、どうして? どうしてまだ生きているの? オフェリア・ファムルソローネッッ!!」

「っ、か……ッ!」

 

 

 肩を掴まれ、無理矢理振り向かせられた直後、彼女の両手が私の首を絞め始めた。

 その気になれば一瞬で縊り殺す事も出来るはずなのに、ギリギリと苦しみを味わわせるようにゆっくりと力を強めていく彼女は、凄まじい怒気をその眼に宿して叫んだ。

 

 

「ねぇ、さっさと消えてよ。お願いだからさぁ……早く死んでよッ! 貴女なんて要らないッ! オフェリア・ファムルソローネなんて人間は必要ないッ! だから早く……その体をアンナに渡せッッ!!」

「が、ぁ……ル、ルー、ッ……」

 

 

 足が浮かび上がり、より首への圧迫感が強くなる。

 呼吸がまともに行えない上、脳へ行くはずの血液が押し止められ、少しずつ思考能力が失われていく。

 

 

「その口で私の名前を呼ぶな……ッ! 私の名前を呼んでいいのは、この世でたった一人だけ……お前なんかが呼んでいい名前じゃないッ!」

 

 

 腕を引いて、無理矢理体を引き寄せられる。

 両足で体を支える事が出来ず膝をついた私の視界いっぱいに映る、憤怒と憎悪に塗れた龍の眼。オフェリア・ファムルソローネという人間の存在を許さないその眼差しは、私からなにもかもを奪おうとして……

 

 

 ―――……いでッ!

 

 

(……いま、なにか、が……)

 

 

 ―――……ないでッ!

 

 

(だ、れ……なの…………?)

 

 

 ―――騙されないでッ!

 

 ―――オフェリアちゃんッ!!!

 

 

(……ッ!!!!)

 

 

 聞こえた。ハッキリとした声で私を呼ぶ、彼女の声が。

 

 

「……ぐ、うぅ……ッ!!」

 

 

 少しずつ、消えかけていた意識が形を取り戻していく。

 失われていた活力が蘇り、自分の首を絞める彼女の腕を掴む。

 

 

「そんな……ッ!?」

 

 

 まさか反抗されるとは思わなかったのだろう。目に見えて動揺した彼女がもう一度私の首を絞めようとするが、私の方が強い。

 

 

「さっき、貴女は『支配する者』と言ったわよね……? 確かに、貴女は支配者なのかもしれないわ。全ての(ワイバーン)(ドラゴン)の頂点に立つ、この惑星(ほし)の最上位なのだから」

 

 

 だが。

 

 

「それでも彼女は、力で支配するような(ヒト)じゃなかった……ッ! 彼女は仲間を愛し、慈しんでいたッ!」

 

 

 かつて、アンナに見せてもらった過去の彼女。竜大戦時代の彼女は、ただ力を振るって支配するだけの暴君ではなかった。

 戦場で命を散らす人類にも、討伐され兵器に改造されてしまった我が子達にも、哀しみを覚えていた。同胞を慈しみ、志を共にする者達を優しく支える、慈愛に満ちた龍だった。

 

 そんな彼女が、力のみで支配するはずがない。

 

 

「黙れ……黙れッ!! 消えろ消えろ消えろ……消エロォオオオオッッ!!!」

「私は消えない……ッ! 消えるのはお前だ……お前なんか、ルーツじゃないッッッ!!!

 

 

 遂に私の首から完全に彼女の手を引き剥がした瞬間、私は一気に彼女の顔面へ拳を叩きつけた―――ッ!

 

 

「ギャァアアアアアアアッッッ!!!」

 

 

 顔面を抑えて絶叫を上げた偽物のルーツを中心に、亀裂が走る。

 瞬く間に私を囲むあらゆる景色へと広がったそれは、偽物が内側から溢れ出してきた光によって破裂すると同時に世界を完膚なきまでに打ち砕く。

 

 地面へ叩き付けられたガラス細工のように幾つもの破片となって砕けていく世界の奥から溢れてくる光。それによって、私の意識は偽りに塗れた世界から引き戻されていった―――。

 

 

 

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「ん、ぅ……っ」

「む、マスター……ッ!」

 

 

 浮上した意識によって瞼を持ち上げたオフェリアの耳朶を震わせたのは、彼女が信頼を置くサーヴァントの声。

 

 

「シ、シグルド……? 私、今までなにを……」

「敵の宝具を受けていたのだ。奴の宝具は―――ムッ!?」

 

 

 起き上がったオフェリアを庇うように立っていたシグルドがなにかを感じ取った直後、オフェリア達の周りを翡翠色の軌跡が走る。オフェリア達の周りに乾いた音を立てながら無数の破片が落ちてきた事から察するに、シグルドが私達を狙った攻撃を全て斬り捨てたのだろう。

 しかし。

 

 

「く……っ」

「シグルドッ!?」

 

 

 大剣を構え直したシグルドが、僅かに体勢を崩した。

 咄嗟に彼に声をかけた直後、オフェリアは彼の異変に気付いた。

 

 

(魔力が……切れかけている……ッ!?)

 

 

 シグルドの肉体を構成する魔力が、切れかけている。それは、およそ彼にはあり得ない話だった。

 シグルドは邪竜ファヴニールを討伐し、その心臓を喰らう事で無敵の力を手に入れた大英雄だ。その身には竜の心臓を取り込んだ事で生成された竜種が有する炉心が存在し、それがある限り、彼はマスターがいなくとも独立した行動を可能に出来る魔力を自己生産できる。

 そんな彼の魔力が、尽きかけているなど、あり得ない。

 

 まさか体内の炉心を破壊されたのかと確認するが、パスを通して確認してみた限り、そのような異変は感じ取れなかった。

 ではなにが原因なのかと思っていると、オフェリア達の前に一人の女性が降り立った。

 

 

「シグルドの異変は、あの子……ううん、オベロン・ヴォーティガーンの宝具の影響だよ。この空間は吞み込んだ相手の存在を削り、無明の闇へ取り込む奈落そのもの……だから、いくらシグルドでも完全には防ぎ切れないんだよ」

「ルーツ……ッ! ……いえ、待って。それなら、さっきまで私が見ていたのは……」

「……たぶん、君にとっての『失意』だよ。オベロン自身が言ってた。この空間で動けるのは、『失意』を乗り越えた者のみだって」

 

 

 ここより少し離れた場所。モルガン達と交戦しているオベロンの姿を見てそう言った彼女は、そのまま説明を続ける。

 

 

「私は君よりも早く『失意』を乗り越えてきたけど、もしもここに『失意』を越えたのが誰もいなかったら、一人一人消えていただろうね……。孫みたいな立場の子とはいえ、恐ろしい能力だよ。……シグルド、辛くはない?」

「愚問だ。この程度の苦境など、生前に数え切れぬ程経験してきた」

「ふふっ、頼もしいね。でも無理はしないで、本当に辛くなったら下がっていいからね」

「了解」

 

 

 言うが早いか、頷いたシグルドはまだまだやれるとばかりにモルガン達の加勢へと向かってしまった。存在そのものを削られているというのに、しかしその大剣を振るう腕に一切の翳りはなく、彼が大英雄である事を否応なしに理解させられる。

 

 

「……オフェリアちゃん」

 

 

 いつまでも座り込んだままではいられないと立ち上がっていると、僅かに顔を俯けたルーツがオフェリアに声をかけてきた。

 

 

「君が眠っている間にシグルドから聞いたんだけど、相当苦しんでいたそうなの。時折、私の名前を口にしながら……」

「それは……」

「……私、たぶん、君の『失意』がどういうものかわかってるんだ。他ならない私自身が、貴女の『失意』の根源にいる事も」

 

 

 それは、オフェリアに対する申し訳なさで満たされた声色だった。

 その奥に隠し切れない哀しみを湛えながら、彼女は伏せていた顔を上げる。

 

 

「私を憎んでいるなら、憎んでくれていい。でも、これだけはわかってほしいの。あの時の私は、ただ貴女を救いたかった。貴女を喪いたくなかっただけなの……。許してもらおうとは思っていない。でも、今はこの戦いを終わらせる為に、一緒に戦ってほしいの」

 

 

 ―――駄目、かな……?

 少しだけ目元を伏せて訊ねてくるルーツ。それに対し、オフェリアは小さくフッと笑って答えた。

 

 

「もちろん、一緒に戦うわ。元よりそのつもりだったのだし。あの時の質問の答えも、まだ聞いていないから。忘れてないわよね? キャメロット攻防戦が始まる前の質問」

「忘れてないよ。……そうだね、だったらこの戦い、絶対に勝たないとね」

 

 

 伏せていた目元を上げたルーツと改めて視線を合わせたオフェリアは、彼女へ手を差し伸べる。差し出された手を見たルーツは小さくはにかむように笑って、その手を握り返した。

 

 

「―――いつまで二人だけの世界を作っているつもりかな? そろそろ手助けをしてほしいんだが……」

「「……ッ!?」」

 

 

 そこへ聞こえてくる、ルーツとオフェリアのどちらのものでもない声。

 二人が咄嗟に視線を向けた先にいたのは、呆れたような笑みを浮かべるKだった。

 

 いったいいつからそこにいたのだろうか。確かに彼の言う通りなのだが、ルーツもオフェリアもどことなく気恥ずかしさを覚えてしまい、すぐに握っていた手を離した。

 

 

「わ、わかってるよ、うん。もちろん戦うからねッ! あ、それとこれッ!」

 

 

 気恥ずかしを誤魔化すようにルーツがKになにかを押し付ける。

 胸に押し付けられたものを受け取ったKは手元にあるそれを見て「おぉ、これは……ッ!」と歓喜の声を漏らした。

 

 

「色々手一杯だったけど呪詛の解除は終わったからッ! だから早くそのダッサイ仮面外せッ!」

「ダサいッ!? これは私なりに似合ってるものを―――」

「ダサいわッ! カイニスも言ってるんだから認めろッ! 早く外して本気出せッ!」

(ッ! プロフェッサー・Kの素顔……ッ!)

 

 

 ウガァッ! と大口を開くルーツが吐き出した言葉に、オフェリアは目を見開く。

 

 プロフェッサー・Kの素顔。このブリテンで出会ってからというもの、一度も自分達の前で仮面を外す事のなかった彼が、遂に仮面を外すのか。

 今まで正体を探ろうとしても、なんらかの認識阻害をかけていたのか把握できなかった彼の素顔を遂に知れるのかと思っていると、「……わかったよ」と観念したようにKが肩を竦めた。

 

 

「本当ならもっと劇的に明かしたかったんだけど……まぁ、事が事だ。いいとも」

 

 

 顔上部を隠す仮面にそっと手をかけたKが、一思いに仮面を外す。

 仮面を外した事で認識阻害の効果も切れたのか、二つの意味で露となった素顔を見たオフェリアは、まさかの事実に再度目を見開いた。

 

 

「そんな……あ、貴方は―――ッ!」

 

 

 

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 悔しい、という思いが胸中を満たす。

 仲間達の力を借りてここまで生き残ってきたというのに、今の自分に出来るのは、ただ戦いを眺める事だけ。

 

 いや、口惜しさを感じるのは後にして、今はなんとか自分に出来る事を探さなければ―――そう考え意識を集中させる藤丸立香の視界には、世界を吞み込んだ存在と、それに立ち向かう者達の姿が映り込んでいた。

 

 

「いくら心臓を復元したところで、この世界じゃ無駄さッ!」

「くっ、ディスフィロアッ!」

「カリアッ!」

 

 

 オベロンの猛攻を前に攻めあぐねたモルガンとバーヴァン・シーが互いの相棒に叫べば、ディスフィロアとゴア・マガラがブレスを発射する。

 殺到する二頭の龍と竜のブレスに気付いたオベロンが回避行動を取ると、そこへメリュジーヌとバーゲストが攻撃を仕掛ける。しかし敵対者の存在そのものをじわじわと削っていく空間の中では思うように力が出ないのか、彼女達の攻撃は惜しいところでオベロンを捉える事は叶わず、それは彼女達に続いて攻撃を繰り出していたボレアス達も同様だった。

 

 対するオベロンはといえば、ここが自分自身ともいえる世界というのが作用しているのか、これまでよりもより強力になっているのがわかる。それもただ虫竜を取り込んで力が二倍になったどころではなく、その何倍も強化されているのだろう。

 

 

(マズイ。このままじゃ、負ける……)

 

 

 こちら側は今も少しずつ力を消耗していき、対する向こうはより強力な存在になってしまっている。このままでは押し切られ、一人、また一人と殺されてしまうだろう。

 

 いったいどうすれば、この戦いに勝機を見出せるか―――そう考えていると、不意に背後から肩を掴まれた。

 誰に掴まれたと思って振り返った立香は、自分の視界に映り込んだ存在に目を見開いた。

 

 

「そう焦ってはいけないよ、立香。焦りは、大切なものを見落としてしまうからね」

 

 

 あり得ない。彼はあの時、オリュンポスで命を落としたはずだ。その場には自分もいて、彼の亡骸も間違いなく目にした。

 それなのに、彼はそこに立っていた。

 

 

「ハハ、鳩が豆鉄砲を食ったようという言葉は、今の君にぴったりだね。オフェリアも同じような顔をしていたよ」

 

 

 悪戯が成功した子どものような笑顔を浮かべる男。その名を―――キリシュタリア(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)()ヴォーダイム(・ ・ ・ ・ ・ ・)

 人理を修復するはずだった八人のクリプター達のリーダーにして、オリュンポスの神々が治めていた大西洋異聞帯を管理していた男は、「よく見てごらん」と立香の肩に置いていた手を離し、遥か上空を指差した。

 促されるままに見上げた立香は、そこにあるものに大きく目を見開き、ハッと息を呑んだ。

 

 

「君は確かに非力だが、故にこそ、我々にはない可能性を引き出せる。あれが、その証拠だよ」

「キリシュタリアさん……」

「さぁ、呼ぶんだ。あの星を呼べるのは、この場においてたった一人……君だけなのだから」

 

 

 戦いの轟音が、酷く遠く感じる。

 カランカラン、と乾いた音と「ぐぅ……ッ」と苦しみに呻く声が聞こえる。モルガンのものだと思しきその声が聞こえた直後、続いて何人かの女性の声が聞こえるが、彼女達もまた小さな悲鳴や苦悶の声を漏らして吹き飛ばされたのがわかる。

 

 それでも、立香の意識は彼女達や今尚オベロンに向かっていくボレアス達ではなく、暗黒の中に唯一輝く星にのみ向けられていた。

 

 

「―――来て」

 

 

 無意識に伸ばした手。瞬間、星はその輝きを増して。

 

 

「―――キャスターッ!!」

 

 

 星は輝ける黄金の路となり、彼方から光がやって来る。

 少女の下へ馳せ参じたその者は、自身を呼んでくれた彼女に片足をつき、恭しく頭を下げる。

 

 

「『異邦の魔術師』との契約に基づき、召喚に応じ参上しました。ブリテンを諫めるのではなく、世界を救う戦いであれば。たとえ時の果てであろうと、この剣は貴女の手に」

「ッ、お前は―――ッ!!」

 

 

 立香の前へ現れた存在。彼女(・ ・)に気付いたオベロンが攻撃を仕掛けるが、それは彼女(・ ・)の背後に控える三本の剣によって防がれた。

 

 

「お前は……」

「立ち上がりなさい、女王モルガン。貴女が見つけ出した、かけがえのない星を護る為に」

 

 

 ゆっくりと起き上がったモルガンに、立香に護るように立ち上がった彼女(・ ・)が告げる。

 それにモルガンは顔を顰めるも、やがて諦めたように彼女(・ ・)の隣に並び立った。

 

 

「勘違いするな、聖剣の守護者。これは共闘などではない。たまたま利害が一致しただけだ」

「おや、それは共闘と言えるのでは?」

「黙れ。それ以上口にするのなら、先に貴様を殺してやる」

「ふふっ、それは恐ろしい。―――では、始めましょうか」

 

 

 黄金の少女が左手を前に持ち上げれば、眩い光の奔流が一つの大剣を象り、その手に収まる。

 モルガンが右手を持ち上げれば、遠くに転がっていたハルバードが独りでに浮かび上がり、彼女の手に戻ってくる。

 

 

「……マジかよ、オイ。こんな事があり得るのかよ」

「あり得るに決まってるでしょう、崩落の虫よ。これより我々は、一つの目的の下に戦うのだから」

 

 

 彼女達の脳裏に過るのは、両者の心を照らしてくれた尊き星。

 

 ―――多くの悲劇を目にして尚挫けぬ精神を持つ、心優しき少女。

 ―――かつての己を、今の己を愛してくれた、たった一人の愛娘。

 

 そうだ、これは―――この戦いは。

 

 

「「―――心から愛する大切な(もの)を、護る為に」」

 

 

 今ここに、黄金(アルトリア)白銀(モルガン)は、輝ける星を護る為に立ち上がった。

 




 
・『オベロンの作り出す『失意』』
 ……原作オベロンの作る夢はマシュ曰く「どこまでも落ちていく夢」との事だが、本作オベロンの夢の効果は失意の庭と酷似しているため、徹底的に相手の心を圧し折りにかかる。しかし圧し折りにかかりすぎるために対象が思っていない事も偽物に言わせてしまうため、そこから破られてしまう可能性もある。だが効果が強力なのは事実なので、強靭な精神力を持たなければ自我が崩壊してしまう。

・『失意の夢でのオフェリアの体』
 ……オベロンは彼女を失意の夢に落とした際、彼女が今自分がいる場所が現実ではないと気付かせない為に、夢の世界での彼女の体をブリテン侵入前のものに戻していた。しかし、彼女の魂に絡みついたアンナ・ディストロート・シュレイドの霊核はその干渉すらも跳ね退け、彼女に「これは夢だ」と確信させる一つの証拠となった。

・『プロフェッサー・Kの正体』
 ……アルム・カンパニーという一大企業を築き上げ、ブリテン中にその名を知らしめた仮面の男の正体は、キリシュタリア・ヴォーダイムだった。なぜオリュンポスでルーツと争い、そして命を落とした彼が生きているのか。それはブリテン編終了後にて。

・『聖剣の守護者』
 ……立香達と短くも濃い時間を過ごし、最果てへと至った者。その在り方は妖精から概念へと変質し、己の旅路を支えてくれた星の喚び声に応えて顕現した。外見はアルトリア・アヴァロンと同一のものだが……。


 本当はもう少しオベロンの宝具について記載したかったのですが、能力がほぼほぼ原作と変わらない事から泣く泣くカットしました。ですがそれも含めて書くとなると、戦闘シーンもついてくるのもあり文字数がかなり増えてしまうのでご了承頂ければ……。

 そして遂にキリシュタリア復活&聖剣の守護者登場ですッ! オベロン戦もあと一話、長ければ二話で終了となりますので、ブリテン編の完結も近くなりました。その後はいつも通りカリアのプロフィールと幕間、シュレイド異聞帯幕間を投稿してからミクトラン編へ行こうと思っています。
 ですが今回はメリュジーヌ・アルビオンや呪いを克服したバーゲストがいるので、彼女達のプロフィールも投稿しようと思いますので、楽しみにしていただければ幸いです。また、今回書ききれなかったルーツの『失意』も投稿できればと思っています。
 以下、個人用も含めて今後の予定です。


・ブリテン編終了
・オリジナルサーヴァントプロフィール/幕間(幕間はカリアのみ。メリュジーヌ・アルビオンなどはプロフィールのみ投稿)
・ルーツの失意(番外編投稿予定)
・シュレイド異聞帯幕間
・ミクトラン編突入


 それでは、また次回ッ!
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