【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 ドーモ=ミナサン。
 遂にライダー戴冠戦が始まりましたが、グランド認定する予定だったオジマンディアスの宝具レベルを上げようとしたら石が枯渇したseven774です。
 先日、fgoと並行してプレイしているプロセカで初音ミクらバーチャルシンガーの限定PUがあったのですが、そちらで目当てのミクを百連以内で引けたと思ったらこの有様です。ガチャ運を持っていかれたんですかねぇ……。しかも結果的にグランドになったのはオジマンディアスでなく金時って……、次の戴冠戦の際はよく手持ちのサーヴァントを確認し、必要に応じてガチャを引こうと思いました……。
 前日譚であるヴァニッシュド・ビギニングで登場したドーヴとレイブンにちょっと性癖が歪みかけました、はい。

 今回はルーツの失意です。番外編と銘打ってはいますが、実質本編です。
 それでは、どうぞッ!



番外編:我は汝、汝は我

 

 長く、暗い道を歩く。

 一切の光も差し込む事のない、暗黒に閉ざされた世界を歩きながら、私は思考を続ける。

 

 

(これは……恐らくオベロンの宝具。あの闇自体に攻撃力はなかったから、たぶんこの空間そのものになにかしらの力があるはず)

 

 

 ただ暗黒の世界を展開するだけなど、ヴォーティガーンと融合したオベロンがするはずない。ただ立ち止まっているだけでなんとかなるものでもないだろう。そう考えながら警戒を怠らずに足を進めていると、少し先に小さな光が見えた。

 ずっと真っ暗だった世界に現れたそれは、この空間から脱出する為の鍵か、それとも―――。

 

 とにかく、まずは目の前に現れたこの光について知らなければならない。

 

 

「―――ッ」

 

 

 そっと光に触れた瞬間に真っ白になった視界が元に戻ると、周囲の景色が変わっていた。

 曇天に覆われた、薄暗い森林。長い間使われ続けた事がわかる、少し大きめの木造の家屋。

 懐かしい―――そう、思わず私の中にそんな感想が浮かび上がる。

 

 この家を、私は知っている。それは今よりずっと昔の時代に、私が世話になった夫婦が住んでいた家だ。

 けれど、同時に思い出す。こんな空模様の日に起きた、悲痛の別れの記憶を。

 

 私の前には、一人の女性の姿。

 まともに手入れをされていないせいでボサボサに乱れた銀髪の奥から、亡者のように光を宿さない二つの瞳が私を見つめてくる。

 その腕にまだまだ幼い赤子を抱えている彼女を、私は知っている。

 

 

「クリームヒルト……」

『ルーツ……』

 

 

 哀しみと絶望に彩られた声。地の底から響いてくるような声で私の名を呼んだ竜殺し(ジークフリート)の妻は、腕に抱えた赤ん坊を私に差し出してきた。

 

 

『お願い、この子を、あの人の息子を、育ててほしいの……』

『……どうして。貴女は、この子の母親でしょう? ジークフリートはもういない。彼の分まで、貴女がこの子を育てていかないと』

 

 

 私の口から出たのは、当時の私が彼女に告げたもの。今の私の意思を無視して動いた口から吐き出された言葉に驚いていると、クリームヒルトが『本当なら、育てたいわよ……』と俯いて答えてきた。

 

 

『でも、出来ないのよ……。この子の顔を見ていると、どうしても、あの人を思い出してしまうの……っ。この子が笑う度に、泣く度に、あの人の顔が……ッ』

 

 

 片手で目元を覆い、その場に崩れ落ちる彼女。食い縛られた歯の隙間からは絶え間なく嗚咽が漏れ聞こえ、肩は酷く乱れた呼吸の影響で震えている。

 

 彼女の夫、ジークフリートは殺された。彼やクリームヒルト、そして私にとっても友人だった男―――ハーゲンの手によって。

 それから程無くして姿を消したハーゲンに対し、クリームヒルトは復讐心を抱いていた。心から愛する男を殺された彼女の暗い炎は日を経る毎に強くなっていき、その度に息子の顔を見ては絶望と悲哀に顔を歪ませていた。

 この時の彼女は、もう子育てが出来る精神状態ではなかった。だからこうして、私に息子を託そうとしたのだ。

 

 

『私の復讐に、この子を付き合わせたくない……。お願い、お願いよ……ルーツ。この子に、幸せな人生を……』

『…………わかった』

 

 

 涙ながらの懇願に、その時の私は頷いた。

 クリームヒルトの願いは、愛する夫との間に生まれた息子が、このような悲劇に見舞われないようにする事。絶望と悲哀、そして憤怒に精神が歪み果てる寸前で踏み止まり、息子の幸福を望み続ける彼女の願いを、私は無視できなかった。

 

 差し出された赤子を受け取る。

 ボロボロになりながらも、変わる事のない愛情を注ぎ続けたのだろう。死人のような母親とは真逆に、この子はつぶらな瞳で、私を見つめてきていた。

 

 

『強く、生きなさい。私達の愛しい子……』

 

 

 心底救われたような表情で、クリームヒルトは息子の額にキスをした。

 しかし、彼女の母親らしい表情はその一瞬だけで、次の瞬間には昏い覚悟を決めた顔つきに代わってしまった。

 

 

『ありがとう、ルーツ。これでもう……心残りはないわ』

『本当に行くんだね?』

 

 

 彼女の覚悟を問うように聞けば、彼女は迷う事無く頷いた。

 

 

(クリームヒルト……)

 

 

 二度と帰る事のない旅に向かっていく彼女の背を見つめ、私は思わず歯噛みする。

 この時間から長い年月が経った後、私は彼女の復讐が意味のない行為であったと知ってしまった。ジークフリートは自らの意思でハーゲンに殺される道を選んでいた。彼らはクリームヒルトになに一つ説明する事なく行動を進めてしまい、その結果として、彼女は意味を成さない復讐の旅に出てしまった。

 それを知った時の後悔と無念は、今もこの胸に刻まれている。もし、今のこの気持ちを、記憶を、当時の自分が有していれば―――

 

 

[そうよね、貴女はそう思うわよね]

「っ、誰ッ!?」

 

 

 突然、どこからか声が聞こえてきた。

 老若男女全ての声が重なって聞こえてきたその言葉に、私は警戒心を強めて周囲を見渡す。いつの間にか、この腕の中にいた赤子も、あの曇天の森林も消えてなくなっていた。

 

 

[貴女はいつだってそう。気に入った相手が悲劇的な末路を迎えれば、いつもそうやって後悔する。彼女以外にも、そう思ってきたのでしょう?]

 

 

 姿なき声が言い終えた直後、次々と私の記憶にある光景が浮かび上がってくる。

 

 

『余は……余は、なぜ国を追われたのだ……? 余は、国を、民を、愛していたのに……』

「ネロ……」

 

 

 洛陽の中、その顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにした薔薇の皇帝が、私を見て涙を流し続ける。

 

 

『ルーツよ……余は、妻を信じる事が出来なかった……。民の為、国の為にと自分を騙し、シータを追放してしまった……。余は……余は……ッ!!』

「ラーマ……」

 

 

 民に貞淑を疑われた愛する妻を追放せざるを得なくなってしまった末に、生涯に亘る後悔を抱き続ける事となったコサラの王。

 

 二人を始め、多くの光景が現れては消えていく。

 英雄や、怪物達だけではない。座に登録されるような者達でなくとも、幸福の果てに裏切りや策略によって命を落とす者も多くいた。

 栄光を掴んだ末に悲劇を迎える者達を見続けていく度に、私の中には当時の自分も感じていた悔恨や疑念が増えていく。

 

 

[貴女は平和を愛する傍ら、その平和を憎んでいる。裏切りや悲劇が当たり前な、穏やかなこの世界を]

 

 

 正体不明の声の主に、私はなにも言えない。

 そうだ、私は、憎んでいる。編纂事象となった、今の自分がいるこの世界を。

 今でこそ人理漂白という災害に見舞われているが、この地球上には多くの幸せがあった。反面、多くの哀しみもまた、同様に。

 

 地球という星が誕生してから46億年。己を中心としたテクスチャを創造し、ボレアス達を創造し、多くの子ども達を創造し、数多の生命の興亡を見守ってきた。

 その果てに生まれた種族こそ、人類種だ。

 モンスターのような強靭な肉体や能力を持たない身でありながら、ひたすらに試行錯誤を繰り返し、生存競争を勝ち抜いてきた種族。考え方の齟齬で争ってしまう事もあるが、まだまだ未成熟な個体群だ。長い目で見れば、それもまた成長の一つだと思えた。

 

 けれど、いつからだろう。

 

 そんな人類(かれら)の世界を―――憎むようになったのは。

 

 

[決まっているでしょう? それは、今の貴女の原点である彼女―――アンナ・ディストロート・シュレイドに出会ってから]

 

 

 景色が変わる。

 目の前に広がっているのは、あの大戦時代の記憶。シュレイド王国の王女であったアンナと出会い、その仲間達と関わり、人類の尊さを知った頃。

 今見ても輝かしい、懐かしい光景だ。

 

 けれど、それも終わってしまった。

 あの邪神の遊戯(・・)によって、全ての命運は覆された。

 

 

『―――今度こそ、護る。貴女に貰ったこの腕で。貴女の手を取って、必ず』

 

 

 あの日、あの時。彼女の姿を模倣し、生まれ変わった“彼女”が圧し潰されそうになっていたら、それを救うと誓った瞬間。

 そこから、私の旅は始まった。地球の代表(アルテミット・ワン)という立場から、一人の人間(アンナ・ディストローツ)という立場となって歩み始めた。

 

 ―――多くの幸福(不幸)を見た。

 ―――多くの喜劇(惨劇)を見た。

 

 幸せを見て、哀しみを見て。

 笑いを見て、怒りを見て。

 

 ただ一つ、まだ見ぬ“彼女”(だれか)を求める旅路の中で、その全てを見聞きしてきた。

 そんな中でふと、心に芽生えた黒い感情。

 

 ―――醜悪だ。彼女達が護り抜いた世界が、醜く穢されている。

 

 いくら「人類はまだ幼い」と自身に言い聞かせ続けても、人間の欲望は留まるところを知らない。

 戦争は起こす。悲劇は繰り返す。なにかキッカケがあれば、戦いに踏み出そうとする者は後を絶たない。どれだけ時間をかけても、どれだけの年月を経ても、彼らの精神性は変わらない。

 もちろん、素晴らしい善性を持つ者達がいる事も知っている。しかし、欲望に忠実な連中の闇は、彼らの光を容易く塗り潰してしまう程に大きく、自らの存在を主張し続ける。

 

 彼女達が命を懸けて世界を救っても、人の心にある悪の根は消えない。邪神の介入がなくとも、人類の欲望という名の悪は芽吹き続ける。

 何度自分に言い聞かせても、否定し切れない感情。

 

 

[彼女が救った世界で生まれた命に、貴女は希望と絶望を抱いた。その果てに―――]

 

 

 再度景色が変わった瞬間、私はこれまで以上に自分の表情が強張ったのを感じた。

 

 

[貴女は、もう一人の貴女(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)を殺したのでしょう?]

 

 

 木漏れ日が差し込む森林の中。一見すれば穏やかな自然界の光景の一つだが、その中に明らかに異常なものがあった。

 

 左肩から右脇腹にかけて刻まれた一筋の斬撃痕。そこから止めどなく溢れ出てくる鮮血が、今まさにその主の命が尽きかけている事を示している。

 

 巨木に背を預けるようにして俯いている彼女は、私が管理しているシュレイド異聞帯に生きていた、もう一体(ひとり)の“祖龍”……その人間態だった。

 

 

『そう……。貴女は……そこまでして、貴女の世界を……救おうとしているのね……』

『そうだよ。だから、君にはここで死んでもらう。君が捨てたその力(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)で、私達は理想の世界を創る』

 

 

 彼女(わたし)を見下ろす私が、冷たい声でそう答える。

 この世界の彼女(わたし)は、“祖龍”として生きる道を捨てたifの私だった。大戦で敗北した事で停滞の道を選んだ人類の末路を見届けようとして、いつしか星の頂点としての在り方を放棄した、もう一人の私だったのだ。

 しかし、在り方を放棄したとしても、その身には変わらず原初の龍の力が宿っている。どれだけ時間がかかったとしても、彼女が“祖龍”である事に変わりはない。故に大戦後から現代まで、彼女は生き続けてきたのだ。不変で在り続けたが故に、剪定された世界を。

 それをただ眺めている事しかできなかった彼女(わたし)は、それになにを思ったのか。……いや、それについての答えなら、彼女(わたし)が自ら口にしてくれた。

 

 

『…………わかった。どの道、結果は変わらないのでしょう……? それなら、悔いのない形で……この命を終えたい……。敗北した身だもの……貴女に、従うわ……。ボレアス達も、きっとそうしただろうから……』

 

 

 先んじて私が召喚した弟妹達によって斃された、シュレイド異聞帯に生きていた弟妹達を思い浮かべたのだろう。長らく会っていなかった彼らを懐かしむような声でそう言ったものの、直後に彼女(わたし)は血の気が失せていく顔を持ち上げた。

 

 

『でも、これだけは約束して……。私の子ども達……古龍達も、あの子達(・ ・ ・ ・)も……必ず、穏やかに暮らせるような……世界、に…………』

 

 

 そこに浮かんでいたのは、どこまでも柔らかい、穏やかな微笑み。私の浮かべるそれよりもきっと、より母親らしい(・ ・ ・ ・ ・)、慈愛に満ちた微笑だった。

 

 

『あぁ……■■■■……■■■……。どうか、幸せ、に……』

 

 

 最後にそう言い残してもう一人の私が事切れ、森林と共にその姿が掻き消えていった。

 

 

[満足したでしょう? 貴女からすれば失った力を取り戻し、さらに彼女を吸収する事でより強力な権能(チカラ)を行使できるようになったのだから]

「…………」

 

 

 声が指摘したそれは、紛れもない事実。

 長い年月を過ごす中で失われた力を手っ取り早く取り戻す為には、同じ力を持つ彼女(わたし)から、その力を奪う事だった。彼女(わたし)も私と同じように弱体化してはいるものの、汎人類史より色濃い神秘に包まれた世界の出身だ。私と比べれば、大きな弱体化とは言えなかった。それを吸収した私は、本来の個体性能を超えた強大な力を手に入れた。長い時間で閉じていた感覚も少しずつ戻りつつあるので、それが完全に戻る時が楽しみだと思っている事も否定できない。

 しかし、拡張された自分の力に満足すると同時、私は彼女(わたし)から、彼女の子ども達を託されたのだ。

 彼女の命を奪った者として、私はその責任から逃げるつもりはない。この命が終わる……いや、終わった後も、その責任を背負い続ける。

 

 

[確かに、貴女は彼女から古龍種(こどもたち)を託された。しかし同時に、貴女は奪ったのです。自分達を創り出した大元(オリジナル)を。そして……彼女の血を受け継ぐ、最も新しき命達(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)からも]

 

 

 それは、汎人類史の私と異聞帯の彼女(わたし)の決定的な違い。

 私が生み出した子孫とは、神話や伝承に語られる龍や竜種の事。しかし彼女の場合、そこにもう一つの違いがあった。

 

 自らの胎から産んだ命―――つまり、人間との間に生まれた子ども(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)だ。

 

 

[貴女は奪うだけに飽きたらず、彼女の血を継ぐ兄妹の片割れを利用し、自らの計画の為に使い潰そうとしている。―――酷いわよね、貴女。穏やかな世界を創ると誓っておきながら、その為に彼女の子孫を潰すのだから。いえ、()だけじゃない。貴女は周りにいるもの全てを、自分の為に使い潰す。カドック・ゼムルプスも、虞美人も、キリシュタリア・ヴォーダイムも、ペペロンチーノも、カルデアも、ボレアス達も。そして―――]

 

 

 暗闇の中に、一人の女性が現れる。

 何度も見てきた顔に、何度も触れてきた体。綺麗な茶髪に、片目を隠した眼帯。

 

 間違えるはずもない、私が愛する人。

 

 

[貴女が心から愛する、オフェリア・ファムルソローネも]

「……ルーツ」

「オフェリアちゃん……」

 

 

 初めてこの場で、過去の幻影ではない存在が口を開いた事に驚きながらも、私は目の前に現れたオフェリアちゃんを見つめる。

 

 

「あの時、貴女は私を助けてくれた。それは……貴女の計画に、私が必要だったから、なのよね?」

「ち、違うッ! あの時私は、ただ君を助けたくて……ッ!」

「なら、どうして……私はこんなにも壊れていくの……?」

「―――ッ!」

 

 

 ぞわり、と。背筋が凍りつくような視線。生涯の仇敵に向けるような憎悪と憤怒に満ちた瞳でこちらを睨みつけながら、「これを見なさい」と自らの腕を見せてくる。

 

 

「貴女に救われてから、私の体は変わり続けている。これが、貴女の愛している人間の姿?」

 

 

 人の肌には到底不釣り合いな、硬質な竜の鱗。それが生えている腕を私に見せつけながら、彼女はゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。 

 眼帯が外され、露わになるのは龍の眼。明らかに人のものではない、私達の持つそれと同じもの。

 そこに宿る昏い激情の光が瞬いた瞬間、私の体は金縛りにあったかのように強張り、指先すら動かせなくなってしまう。

 

 

「返しなさい、ルーツ……ッ! 私の人生を、オフェリア・ファムルソローネを、返しなさいッ!!」

 

 

 一切の身動きが取れなくなった私の首を、彼女の両手が包み込み、力を込め始める。

 とても女性の力とは思えない程の握力で私の首を絞め始めた彼女の腕が上がれば、それに伴って私の体もまた、彼女によって持ち上げられる。

 

 

「ぁ、が……ッ!」

[人類を愛した貴女が、愛する人間を人外に変えた。酷い冗談よね? どこまでも自分勝手な女。どこまでも、自分の事しか考えられない愚か者]

 

 

 ギリギリと首が絞め上げられて少しずつ掠れていく意識の中、心の底からの嘲笑の声が聞こえてくる。

 

 

[でも、ある意味幸運じゃないかしら。だって貴女を殺すのは、貴女が愛した彼女なのだから]

 

 

 体を支える両足が地面から離れた影響で、より息苦しさが強くなっていく。どんどん意識が薄れていく。

 

 このままなにもせずにいれば、自分は間違いなくこの世界に殺される。オベロンとの戦いに戻る事なく、この暗闇の中に消えてしまうだろう。

 

 

[貴女が彼女を愛している事は正しいけれど……同時に、貴女は彼女を生かす為なら、どんな手も使ってしまう。当然よね? だって、一度その手から零れ落ちた命なのだもの。()()()()()()()()()()()()()()()()?  これが、貴女のその浅はかな思考の結果よ、“祖龍”ミラルーツ]

「……ッ!!」

 

 

 それだけは、否定したかった。否定していたかった。

 

 ―――自分は彼女を救えたという結果が欲しかった。

 ―――ただ救われた事に、感謝されたかった。

 ―――後に彼女の身に起こる変化など、どうでもいい。

 

 そんな浅ましい事を考えている、自分自身を。

 そんなものはただの甘え……いや、甘えですらない、ただの子どもじみた我儘だ。彼女の意思を、命を、侮辱する最低な思考だ。

 

 ……でも。

 

 

[もう一度言ってあげるわ。貴女はどこまでも自分勝手な愚か者。そんな貴女に、これ以上彼女を愛し続ける資格なんて―――]

「―――わかってる」

[……ッ!]

 

 

 私の口から絞り出された声が、周囲の空気を停止させる。

 押し黙った姿なき声に、私は持ち上げた両手で首を絞めてくる彼女の腕を掴みながら続けた。

 

 

「わかってるよ。私に、彼女を愛する資格なんてない事くらい……。でもね、止められないのよ……ッ! 彼女を人間でいられなくしても、生かしたいって思っちゃうぐらい……愛しているの……ッ!」

 

 

 姿なき声が言葉にした罪の数々。その全てを一気に清算するとすれば、このまま殺されるのが正しいのだろう。

 けれど、それを私は許さない。

 

 自死なんてしない。

 私の心が生んだ偽物の彼女なんかに、殺されはしない。

 この大罪が、永遠の時を費やしても雪がれないものであっても、死という安寧に逃げる気はない。

 

 この罪は、私が永遠に背負い続けるものだ。

 私が、未来永劫背負い続ける十字架だ。

 

 だから……だから……ッ!!

 

 

「こんなところで……死んでたまるかァァッ!!!

「うぁ……ッ!?」

 

 

 バチバチッッ!! と、私の全身から放出された緋色の雷が、私を持ち上げた幻のオフェリアちゃんを吹き飛ばす。

 勢いよく背中を叩き付けられながらも起き上がった彼女の顔を見て、拘束から解放された私は目を細める。

 

 

「そんな(カワ)を被る必要はないよ。―――正体を現しなさいッ!」

 

 

 薙ぎ払うように右腕を振るえば、そこから発生した緋色のエネルギーが崩れ始めていた顔を剥ぎ取る(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)

 亀裂の入った仮面が砕けるようにパラパラと落ちていったオフェリアちゃんの(カワ)の奥に、酷く見知った顔が見える。

 

 

「クリームヒルト、ネロ、ラーマ……そして、オフェリアちゃん。彼女達や彼らに化けていたのは、君だったんだね」

 

 

 今まで私の前に現れては、後悔や絶望、怨嗟の声を投げかけてきた者達。

 オフェリアちゃんのものを除けば、それら全てはかつて、実際に私がこの耳で聞いてきたもの。そして、それらを基に私を糾弾出来る存在など、考えるまでもない。

 

 

「……そうよ。(あなた)貴女(わたし)。貴女が目を背け続けてきた、現実の象徴」

 

 

 そこにいるのは、私の心が生んだもう一人の自分。シュレイド異聞帯の彼女(わたし)ではない、正真正銘の私そのもの。

 抑圧された感情、無意識に目を逸らし続けてきた側面―――ユング心理学で例えるなら、私のシャドウと呼ぶべき存在だ。

 

 

「それで? そんな私を暴いて、貴女はどうするのかしら。また否定して、封じ込めるの? 辛い現実(じじつ)から目を逸らして、甘い幻想(げんじつ)に浸るのかしら?」

 

 

 起き上がった私―――シャドウが、私のそれとは違う黄金色に輝く瞳を顰め、蔑むように訊いてくる。

 彼女は、私が無意識に心の奥底に封印していた感情の発露だ。こうして向かい合うだけでも、まるで見たくもないものを無理矢理見せつけられてるが如き不快感が湧き上がってくる。

 

 出来る事なら、今すぐその言葉通りにしてやりたい。彼女という負の側面をもう一度封印し、これまで通りの私のままで在り続けたい。

 

 でも……それは間違いだ。

 

 

「そんな事、しないよ。こうして貴女(じぶん)と向き合えたんだもん。そうだね……うん、君にはこう言うべきかな」

 

 

 この暗闇の世界は、自身の負の側面から生まれた世界だ。

 ずっと目を背け続けてきた事実。ひたすらに「そんな事はない」と偽り続けてきた、嘘偽りのない本心。

 それと無理矢理向き合わせる事で、捕縛した相手の心を徹底的に圧し折り、闇に沈める無明の牢獄。

 

 けれど―――

 

 

「ありがとう、もう一人の私。貴女のお陰で、私は自分を見つめ直せた」

 

 

 それは同時に、自己の再定義に最も効果的だ。

 この世界に閉じ込められる事で、私は自分がどんな存在なのかを知れた。

 

 私は人を愛している。けれど同時に、憎んでもいる。

 いつか彼らの時代が洛陽を迎えるその時まで見守りたいと思うし、滅亡させたいとも思ってしまう。

 その為になら、幸せを掴んだ自分さえ殺してしまう。子ども達さえも利用してしまう。かつて絆を育んだ者達が築き上げてきた歴史を、根本から破壊しようとしてしまう。

 あまりにも醜い。どこまでも自分の事しか考えられていない、ドがつく程に自己中心的だ。

 

 でも、今回の件を通して、私はまた一つ、成長できた気がする。

 

 

「……私を……醜い自分を、受け入れるのね?」

「うん。もう、目を背けたりなんかしない。貴女は私で、私は貴女。この罪を背負って、私は生き続けるよ」

「……………………はぁ」

 

 

 長い沈黙の末、肺に溜めた空気を思い切り吐き出したシャドウは、小さく穏やかな笑みを浮かべて手を差し伸ばしてきた。

 

 

「そう言われたら、もうなにも言えないじゃない。……もう二度と、目を背けないで」

「もちろん。一緒に生きていこう」

「……ふふっ」

 

 

 最後に微かな笑い声を漏らして、もう一人の私はその身を光へと変えて私へ向けってくる。

 それを受け入れるように両腕を広げれば、その光は私の胸へと溶け込んでいき、やがて消えた。

 

 まるで今まで欠けていたパズルのピースがハマったような充足感を包まれた直後、周囲の空間が大きく軋み始めた。

 

 

(……ッ! あれは……)

 

 

 見上げた私の視界に映ったのは、眩い光。この世界の主が消えた影響で崩れていく世界の中で見えたそこから感じるのは、戦いの気配。オベロン・ヴォーティガーンの気配だ。

 あそこに飛び込めば、この空間から脱出できるだろう。

 

 

「……よし」

 

 

 拳を握り締め、光を見上げる。

 

 私はシャドウと向き合い、自分を見つめ直す事が出来た。その果てに、私はずっと目を逸らしてきたもう一人の自分を受け入れたが……同時に胸中に宿ったのは、そんな自分に対する憎悪。

 罪を自覚し、認めたからこそ抱く後悔と、それに起因する憎しみの炎。

 だが、この感情にケジメをつけるのは、この戦いが終わってからだ。

 

 

「行こうかッ!」

 

 

 そして、私は飛び込んでいく。

 自分のあるべき場所。正しき現実の世界へと―――。

 





・『クリームヒルトとルーツ』
 ……森の中、空腹に倒れていた彼女を夫と共に助けたのが、クリームヒルトとルーツの出会い。それからルーツはしばらく居候として二人の家に滞在する事になり、これまで自分が出会ってきた英雄達の物語を語って聞かせた。ジークフリート達も彼女に自分達の事を話し、いつしか友人の関係となっていた。
 ジークフリートの死後、クリームヒルトから二人の息子を託されたルーツは、彼が独り立ちできるまで育て上げ、その後は一人旅の身に戻った。クリームヒルトの意を汲み、ギュンターには両親の真相を話さず、自然災害で亡くなったと伝えている。が、同時に「君の両親は立派な人達で、君を心から愛していた。彼らに誇れるように、幸せな人生を送りなさい」とも伝えている。

・『ネロとルーツ』
 ……ネロが市街に繰り出した時に偶然遭遇してからというもの、その外見に惚れ込んだ彼女により召使いとして抱えられた。その後は召使いでありながら、彼女の良き理解者兼友人として過ごしていた。やがてネロは国を追われるが、命が尽きるその瞬間に自身を探していたルーツと出会い、最期の会話を交わした。
 子どものように泣く自分を優しく包み込み、静かに話を聞いてくれたルーツに感謝の言葉を告げた後、ネロはその生涯に幕を閉じた。

・『ラーマとルーツ』
 ……ラーマがシータと、彼に忠誠を誓うラクシュマナと共に国を出てしばらくした頃、風の噂で彼の話を聞きつけたルーツが接触を図ったのが出会い。その時彼女は彼に戦いを仕掛け、その中で彼の人格を見定めた。その後、彼を公平かつ信頼に足る人物と判断した彼女はラーマの持つ帝釈天の剣に自身の力を与え、さらにラーヴァナに攫われたシータを取り戻す旅にも同行し、ランカー島での戦いではラーマがラーヴァナの下へ向かう為の道を開いた。
 しかし全てが終わった後、民によって不貞を疑われたシータを救う事は出来ず、彼女が己の貞節を証明する為に大地の女神と共に消えていくのをただ見ている事しか出来なかった。それによって酷く後悔するラーマに対しては、せめてもの償いとして、彼が生涯を終えるその時まで陰ながら支え続ける道を選んだ。

・『シュレイド異聞帯のルーツ』
 ……汎人類史とは異なり、アンナの千里眼で未来を捻じ曲げられなかった存在。大戦に敗れ停滞の道を選んだ人類の行く末を見届ける旅の中で、それでもと善き方法で人類の再興を目指す人間の青年と出会い、恋に落ちた。その後彼と結婚し、子宝にも恵まれた彼女は、自らを『“祖龍”ミラルーツではなく、一人の人間である』とし、星の頂点の座を降りた。当初は弟妹達に大反対されたものの、何百にもわたる話し合いの末に和解し、異聞帯のボレアスに自らの座を譲り渡した。
 それからは一人の母親として子どもを育て上げ、その子どもが成長して孫が生まれれば、彼らや自分の正体を知らない者達に悟られないように姿を変えながら、彼らを見守り続けた。
 しかしそれから数千年後、汎人類史からやって来た主人公と出会い、交戦するも敗北。汎人類史の自分の目的を知った彼女は、最期に自分の子ども達が穏やかに暮らせる世界を願いながら、その生涯に幕を下ろした。

・『もう一人の自分を殺したルーツ』
 ……シュレイド異聞帯の自分との対決を制したルーツは、彼女の命と力を吸収した。その際にもう一人の自分からの願いを受け、あらゆる手を使ってでも、彼女から産まれた者達も穏やかに暮らせる世界を創る事を約束した。

・『ルーツの罪』
 ……一つは妄執によって、異世界の「幸せを掴んだ自分」を殺した事。二つ目は、計画の為に全てを使い潰そうとしている事。そして三つ目は、救ったオフェリアの身に起こる異変から目を背けようとした事。
 これらは全て、彼女が無意識に心の奥底に封印していたものだったが、失意を経験する事でそれらを認め、受け入れた。しかし同時に、彼女の心にはそんな自分に対する憎しみと、「もっといい方法はなかったのか」という後悔が根付く事となった。

・『ルーツのシャドウ』
 ……抑圧されていたルーツの感情が、オベロン・ヴォーティガーンの宝具で具現化した存在。本物のルーツが緋色の瞳を持っているのに対し、こちらは黄金色の瞳を持つ。クリームヒルトやネロなど、ルーツが過去に出会った英雄達の姿を模して彼女に過去の出来事を振り返らせ、そこからオフェリアの(カワ)を被って彼女に無理矢理自身と向き合わせた。
 しかし、最後にはルーツが自らの罪を認めた事により、彼女がこの先の道を走る為の力となった。


 今回でルーツと生前のクリームヒルト、ネロ、ラーマの話を書きましたが、こういった話はまたどこかで書きたいですね。個人としてもとても楽しいです。やはり長命なキャラクターには色んな歴史のキャラクター達と関わらせたいですからね。
 次回は予定通りカリアの幕間とプロフィールを投稿します。何事もなければカリアのイラストも上げる予定ですので、楽しみにしていただければ幸いですッ!

 それではまた次回ッ!

この作品で登場させるハンターは各作品で新登場した武器を使わせるかどうか

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