【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 ドーモ=ミナサン。
 怒涛の新情報やアップデートなどがあった10周年、その新サーヴァントであるU-オルガマリーに石を大量に食われたseven774です。
 最初はすぐに手に入ると思ったんですがねぇ……まさか一騎目で天井、二騎目で400個近く石を持っていかれるとは思いませんでした……。1500個近くあった石があっという間に減っていく光景には最早笑うしかありませんでした。ですがその影響なのか、水着クリームヒルトは単発で当てられたので嬉しかったですッ! この調子で次のティアマトも召喚できたらいいですねぇ……。
 また、この大爆死オルガマリーガチャで巴御前、ナポレオン、シュヴァリエ・デオン、そしてオジマンディアスが召喚できたので、こちらもある意味では当たりかもしれませんね。

 そういえばオルガマリー実装があったという事は、彼女と共に人理修復の旅に出る新米マスターもどこかにいるかもしれない、という事ですよね。カルデアスにシュートされるオルガマリー所長に「わ、私ィイイイイイイッッッ!!!」となるU-オルガマリーもいそうですねぇ。

 それでは本編、どうぞッ!


秘された目的

 

 バーヴァン・シー達に別れを告げてシュレイド異聞帯に帰還してから、翌日。世界の命運を懸けた長いようで短い戦いを終えたルーツ達は、シュレイド城内の会議室に集まっていた。

 

 

「みんな、揃ったようだね。それじゃあ、始めようか」

 

 

 会議室に置かれた円卓を取り囲むように配置されている椅子の一つに腰掛けたルーツの言葉に、その場に集った者達が一様に頷いた。

 

 

「みんな、色々と聞きたい事があると思う。だからこの話は、君達からの質問に対して、適宜私やキリシュタリアが答えていく形にしていくよ。誰か、最初に聞きたい事はある?」

「……それなら、そこにいるキリシュタリアについて聞きたい」

 

 

 最初に挙手をしたのは、カドック。彼の口から出た質問は、事情を知らない者達が最も始めに聞きたいと思っていたもの。

 

 なぜ、オリュンポスでルーツと戦い、そして死んだはずのキリシュタリアが生きているのか。

 なぜ、そのキリシュタリアが妖精國におり、プロフェッサー・Kなどという偽名を名乗っていたのか。

 

 カドック―――いや、彼を含めた者達全員からの疑問に、「そう聞かれると思ったよ」とルーツが返した。

 

 

「まず最初に結論から言うとね……あの時、キリシュタリアは死んでなかったの。いや、完全に死んではいなかった(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)と言うべきかな」

「どういう事?」

「つまり、仮死状態にしたのさ」

 

 

 首を傾げたオフェリアに答えたのは、ルーツの右隣の椅子に座っていたキリシュタリアだ。

 

 

「君達も知っているように、彼女は雷を使って戦う。あの時の戦いの最後、彼女は私にどうやってトドメを刺したかな?」

「確か、胸に手を当ててそのまま……あっ!」

 

 

 当時の記憶を思い出しながら口にした瞬間、オフェリアはハッと目を見開いた。

 

 あの時、ルーツはキリシュタリアの左胸―――丁度心臓が位置する場所に、彼の生命活動を停止させるのに十分な力を持つ稲妻を纏わせた手を当てた。抵抗する事もなくそれを受け入れたキリシュタリアはそのまま死亡したのかと思われていたが、まさかあれが仮死状態にするためのものだとは夢にも思わなかった。

 

 

「私は君達以上に、『異星の神』に警戒されていた。その目を逸らす為にも、一度死ぬ事が必要だったんだ」

 

 

 本来、『異星の神』に蘇生される予定だったマスターは、キリシュタリア・ヴォーダイムただ一人だった。しかし、『仲間達にも蘇生のチャンスを与えてほしい』としたキリシュタリアが八度もの人理修復の旅を成し遂げた事で、ルーツを始めたクリプター達は蘇り、彼と共に各々の異聞帯を管理する役目を背負った。

 だが、結局のところ、『異星の神』にとって重要な存在はキリシュタリア・ヴォーダイムのみ。他のクリプター達は、彼の要望を叶えた末に手に入った副産物に過ぎない。故に、『異星の神』の注意は主にキリシュタリアに向けられていた。

 では、そんな彼が、自身の思惑に反する行動を取っていた場合、『異星の神』はどのような行動に出るかなど、言うまでもないだろう。

 

 

「もしあの時、私がアンナに勝てていたとしても、私の命は間もなく終わっていた。恐らくカルデアとの戦いをする暇もなく、ね。だが同時に、あの時は『異星の神』の注意が私に集中していたタイミングでもあった。そこで私が死ねば、あちら側も不穏分子がいなくなったとして視線を外す。それからは自分の強化をしながら、機会を見計らって先んじてブリテンに赴き、君達のサポートをした……というわけさ」

「なるほどね……。いや、待って? 強化? いつそんな事やってたの?」

「オリュンポスから帰った後、私達ってキリシュタリアをシュレイド城の中庭に埋めたでしょ? あれがそれだよ」

「……そうか、霊地による強化か」

 

 

 納得がいった、とばかりにカドックが頷く。

 今自分達のいるシュレイド城は、各地に存在する霊地の中でも最高峰のもの。汎人類史とは比べ物にならない程の神秘に満ちたこの世界の霊脈が特に集中しているシュレイド城の中庭に埋まったキリシュタリアは、それによって自らの魔術回路を強化し続けていたのだ。

 

 

「だけど、食事云々はどうしてたんだ。まさか魔力で代用でもしてたか?」

「残念だがカドック、私は霞を食って生きている仙人じゃないんだ。君達の目を盗みながら、アンナやカイニス、ペペロンチーノに食事を持ってきてもらってたよ」

「今改めて思うけど、毎回土まみれになりながら這い上がってきて、諸々終わった後はまた埋まっていくの、申し訳ないけど面白かったよ」

「私としては悪い事をしているようで楽しかったが……まぁ、それも飽きてくると色々と苦痛だったから、ブリテンに向かう事になったのは丁度良かったよ、うん」

 

 

 日中は土の中で過ごし、夜に生きる為に必要な事をする……まるで夜行性の動物か虫のような生活は、やはりキリシュタリアにとっては少し辛いものがあったらしい。だが、その顔に「もうあんな生活はやりたくない」といった感情はなく、昔の記憶を懐かしむかのような表情をしていた。

 

 

「でも、いったいいつの間にル……アンナとそんな計画を考えたの? 少なくとも、私達が貴方の異聞帯に入るまでの間、彼女が貴方と会話していた記憶なんてなかったはずなのだけれど……」

 

 

 顎に指を這わせたオフェリアの言葉に、確かにとカドックや虞美人が頷く。

 『異星の神』の視線を逸らす為に、キリシュタリアとアンナ(ルーツ)が一芝居を打ったのは理解できた。だが、その一芝居を打つ為の準備もなにもかも、自分達は知らない。彼女がそういった話をしなかった故に、自分達はあの時キリシュタリアが死んだと思い込まされていたのだから。

 

 

「敵を騙すにはまず味方から、というのもあるけど、実は私達、それぞれの異聞帯に送られる前に少し話をする機会があってね。その時はデイビットも一緒にいたよ」

「デイビットも……? まさか、彼もこの話を知ってるの?」

「そっか、ペペロンチーノもこの話は知らなかったよね。実は私達、元々『生き残った異聞帯が新しい人類史になる』なんて話には疑問を持っていたの。キリシュタリアはともかくとして、あくまでオマケとして蘇生させられた私達にもそのチャンスを与えるなんて粋な真似、『異星の神』がするはずがないってね。だから、この話には必ず裏があると思ったの」

 

 

 そして、三人の推測は的中した。

 漂白された地表に出現した八つの異聞帯をクリプター達に管理させ、空想樹の育成を進めさせたのは、後に降臨するU-オルガマリーの養分にする為だった。

 いつかの定例会議でベリルはこの異聞帯同士の戦争を『出来レース』と揶揄したが、その例えは彼の考えていたものとは違う意味で正しかったのだ。

 

 

「そこで、私達は君達や『異星の神』、そしてその使徒達にも内密に意見を交換し合った。どうすれば敵の思惑を潰せるか、とね。……だが」

 

 

 そこで一旦言葉を区切ったキリシュタリアは、小さく息を吸い込んで僅かに身を乗り出した。

 

 

「この話の続きをする前に、君達には話さなければならない事がある。我々にこのような役目を与え、この世界を漂白させた敵の正体について」

『―――ッ!!』

 

 

 キリシュタリアからの言葉に、ルーツを除いたその場にいる者達が目を見開いた。

 

 

「我々の憶測交じりだが、限りなく真実に近い話だと思う。心して聞いてほしい」

 

 

 そして、キリシュタリアはゆっくりと語り始める。

 

 『異星の神』(U-オルガマリー)とは何者なのか。

 それを生み出したのはなにか(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)

 地球白紙化を引き起こした者は誰か。

 その『誰か』の目的とはなにか―――を。

 

 

「……まさか、そんな……」

「そんな、事が……」

 

 

 本人達としては無意識なのだろうが、キリシュタリアの口から語られた言葉の数々に翻弄されたカドックとオフェリアが俯きながらそう零した。

 もし、彼の話が真実であったのならば、自分達はあの男(・ ・ ・)の掌の上で踊らされていたにすぎない。いや、自分達だけではなく、これまで六つの異聞帯を切除してきたカルデアもまた、同じように踊らされているのだ。しかも彼女達の場合、自分達以上に利用され尽くしている。試験問題であるなら全問正解レベルでだ。

 

 だが、あまりにも衝撃的な内容に大きなショックを受けながらも、彼らは一度深呼吸し、混乱する思考を無理矢理落ち着かせた。

 

 

「…………それで、アンナ、デイビットはどうする予定だったんだ。正直、キリシュタリアがオリュンポスでやろうとしていた事もよくわからないが……人類を上位の存在に昇華させようとした、って事はわかってる」

「概ねそれで合っているよ。失敗を繰り返して成功を取り零してしまうのが今の人類であるのなら、その意識を存在ごと昇華させる事で、種としての弱さを克服させる―――そう思ったからこそ、私はあの手段に出たんだ」

「質問ですが……キリシュタリア様は、まだその目的を諦めていないのですか?」

「いや? オリュンポスでの彼女との戦いで、この夢にも区切りがついた。『負けた相手に道を譲る』のは私とアンナの間に交わされていた約束だったからね」

「……そういえば、まだアンタの目的を聞けてなかったな、アンナ」

 

 

 カドックを始めとした、まだルーツが抱く目的を聞かされていなかった者達の視線が、彼女に注がれる。

 

 

「アンナ、ここまで来たんだ。君も話すべきだと思うんだが?」

「もちろん話すよ。というか、ここまで来て話さなかったら無責任にも程があるでしょ……。……うん、それじゃあ話すよ。私が、なにを目指しているかを」

 

 

 そして次は、ルーツが語り始める。

 彼女の目的もまた、カドック達を驚愕させるには充分なものであり、一通り彼女が語り終えた頃には、誰もが難しい顔をして俯いていた。

 

 なるほど、確かに彼女かキリシュタリアの目的が果たされれば、敵の目論見は崩れ去るだろう。計画を達成する為の土台そのものが、全く別のものに作り替えられてしまうのだから。

 しかし、彼女の目論見もまた、壮大なものだった。全てを敵に回してでも彼女が果たさんとしているそれは、場合によっては人理焼却を行った魔神王さえも超えてしまえる程のものだった。

 

 俯く彼らにルーツは内心「そうだよね……」と呟き、口を開く。

 

 

「君達の中には、これを許せない人もいるかと思う。特に、人理に刻まれたサーヴァントである君達はね。ここで私に敵対する事も、仕方ないと思う。現に一人、今後は私と敵対するって宣言した人もいるからね。ねぇ、ペペロンチーノ?」

 

 

 ルーツの視線が向けられた人物―――ペペロンチーノは「えぇ」と口元に小さく笑みを浮かべて答えた。

 

 

「ペペ……本当なの?」

「そうよ、オフェリア。私、彼女と敵同士になるの。だからこの話し合いが終われば、この城からオサラバするつもりよ」

「……アンタにそう思わせる程の出来事があった、って事か? それは―――」

「きっと、貴方の考えている通りよ、カドック」

 

 

 一切の曇りなく頷いてみせたペペロンチーノに、「やはり」と目を細めるカドック。

 ブリテンで活動していた際、彼からアシュヴァッターマンが退去したという話を聞かされた時から、彼の様子がどこか変化していたのは感じていた。それがこういう形で表に出てくるとは思わなかったが……。

 

 

「私は、私達を護り抜いた相棒(かれ)に報いたい。そう思ったから、彼女と敵対する事を決めたの」

「だったら、ここで殺されても文句は言えないわよね、ペペロンチーノッ!」

 

 

 椅子を倒す勢いで立ち上がった虞美人が、赤黒い魔力で形成された剣の切っ先をペペロンチーノへ向けた。その瞳にはこの世界に敵対する存在への強い敵意と殺意に満ちており、今にも彼に飛び掛からんとしているのがわかる。

 

 ―――しかし。

 

 

「―――虞美人(・ ・ ・)

 

 

 ズン、と、その場の空気が一変した。

 周囲の空間が質量を得たかのように重々しくなり、虞美人はおろか、咄嗟に彼女を制止しようとしたキリシュタリア達の動きさえも停止する。

 

 虞美人の視線が、先程の一言を発した存在―――ルーツへと向けられる。

 

 

「ここを戦場にする事は許さないわ。気持ちは分かるけど、今は堪えて」

「でも、こいつは……ッ!」

「虞よ、ここは彼女に従うべきだ。当機としても、ここでペペロンチーノと事を構えるのは避けたい」

「項羽様……は、はい……」

 

 

 しばらく自らをフルネームで呼ぶ事がなかった絶対的強者に対してそれでもと食い下がろうとした虞美人だったが、傍らに立つ項羽に止められて渋々とだが引き下がった。

 高度な演算能力を持つ項羽が戦闘を避けるという事は、彼にそう判断させる程の脅威をペペロンチーノが有しているという事だ。

 普段はおちゃらけているが、ペペロンチーノの実力は本物だ。もし制止を聞かずに攻撃を仕掛けていれば、なにを仕出かすかわからなかった。

 

 改めて先程の自分の行動の浅はかさに気まずい感覚を覚えていると、「……それなら」とこの空気を変えるべきだと判断したカドックが口を開いた。

 

 

「デイビットの目的はなんなんだ? アンナとキリシュタリアの目的は、どっちもこの世界の未来に関するものだった。アイツも同じような目的を?」

「世界どころか、宇宙だね」

「なるほど、宇宙。…………宇宙? は? 宇宙?」

 

 

 思いも寄らない答えに、カドックは思わずオウム返しに口にしてしまった。

 

 自分の中での『世界』とは、白紙化された地球という意味だった。だがルーツはそれに対し、「世界ではなく宇宙」と答えた。

 それはつまり、この場にいないデイビットの目的とは、宇宙に関連するものなのだろうか。

 

 困惑するカドック達に、間もなくルーツが口を開く。

 

 

「もし私達が共倒れするような事になれば、彼は南米異聞帯からこの星そのものを滅ぼす予定だった。そこに眠る大蜘蛛―――ORTを使ってね」

(ORT……ッ!!?)

 

 

 それは、彼の役目を知らない者達全員の心に生まれた驚愕だった。

 

 

「ねぇ、カドック。ORTってなにかしら。(わたくし)、知らないのだけれど」

「……あぁ、そうだったな。君は知らなくても当然か。魔術師の家系じゃなかったんだから、当然か」

 

 

 魔術戦においては基本使い魔であるヴィイに頼るしかないアナスタシアは、なぜ自分のマスターを始めた面々が驚愕に歪んだ表情をしているのか理解できなかった。

 口には出していないが、カイニスや蘭陵王も同様だ。

 

 そんな者達にも説明しようと思い、カドックは自分の知り得る限りのORTの情報を伝え始めた。

 

 ―――ORT。

 それは、西暦以前に地球圏に飛来してきた地球外生命体の名称である。南米に墜落したその生命体は、墜落した衝撃で発生したクレーターに固有結界を展開して眠り続けているそうだが、睡眠中であろうとも、それに近づく者達は誰であろうと瞬殺されるという。

 十六世紀には時計塔の最高位である冠位(グランド)の座につく魔術師と六人の魔術師が接触を試みたようだが、最初の魔術師を除き他は全滅。残されたその魔術師も、生還したと思った瞬間にその身を結晶に変えたという。

 

 

『まだアレに触れてはならない。今紀の地球の生命はなに一つ及ばない。次の紀を待て。我々が絶滅した後、新たな進化を経た生命に望みを託す』

 

 

 最高位の魔術師の遺言が、その存在が如何に強大な者であるかを如実に語る。

 魔術師は本能で理解したのだ。あの存在に、人類は太刀打ちできないのだと。次の霊長が現れたとしても、勝利する確率は低く、奴の存在は依然脅威である事に変わりはなく。

 

 故にこそ、“輝ける唯一の存在(One Radians Thing)”。この星の頂点である“祖龍”ミラルーツと肩を並べる、究極生命体である。

 

 

「……そんな存在を、デイビットは利用しようとしているの? まさか、それもマリスビリーの……」

「そう。これも、マリスビリーの計画を阻止する為。私達が道半ばで斃れた場合の、私達のもう一つの計画(プラン)だった。……本当、共倒れしなくてよかったよ。この星の命運を余所者の蜘蛛に任せるだなんて、認めたくなかったから」

 

 

 正直なところ、ルーツはこの計画には反対だった。

 この惑星(ほし)は自分の庭であり、本体であり、愛すべき母でもある。そんな愛しき星の生死を、他天体からの侵略生物(インベーダー)に委ねるのだ。到底許せる話ではなかった。

 だが、そうでもしなければ、この愛する星が宇宙の恥晒しになってしまっていた。それだけは絶対に阻止したかったからこそ、万が一の時にはこの計画を遂行する事を認めたのだ。

 

 

「でも、それはもう問題ないのでしょう? 貴女はキリシュタリアと戦って、そして勝った。ならデイビットがORTを動かす事はないんじゃないの?」

 

 

 虞美人の質問に、誰もが「確かに」と頷く。

 デイビットがORTを使って星を滅ぼすのは、ルーツとキリシュタリアが共倒れした場合だ。しかし、両者の戦いはルーツの勝利に終わり、共倒れするという結末は訪れなかった。であればデイビットも星の破壊を止めるのではないか―――その問いに対し、しかしルーツとキリシュタリアは揃って苦い顔をして俯いた。

 

 

「……実は、オリュンポスの後からデイビットとは連絡が取れなくなってる。最後に届いたのは、私がキリシュタリアに勝利した事に対する称賛と、彼への労いの言葉だったんだけど……それきり彼からのメッセージは来なくなったの。こっちからもメッセージを送ったんだけど……」

 

 

 肩を竦め、首を左右に振るルーツ。その仕草で彼女の望む成果がなかったと察した面々だが、その一人であるオフェリアが目を細めた。

 

 

「……それ、なにかおかしくないかしら。彼、そんな事をするような奴じゃないと思うんだけど……」

 

 

 彼女の言うように、デイビットは他者から受け取ったメッセージに返事を返さないような人間ではない。時計塔にある学科の中でも謎の多い伝承科(ブリシサン)出身の、謎の多い人物である彼だが、短いながらもカルデア南極支部で交流する中で、彼が律儀な人物だという事はこの場の誰もが理解していた。

 そんな彼が、ルーツからのメッセージに応えない。連絡が取れない以上、どうしても悪い想像が脳裏にチラついてしまう。

 

 さらに、そこへ彼らの不安を煽るようにキリシュタリアが続けた。

 

 

「しかも、それだけじゃないんだ。それからというもの、あの異聞帯は閉じてしまった(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)。カイニスの権能も、ボレアスの空間転移能力も弾かれてしまうようになってしまった」

「そんな……」

 

 

 カイニスもボレアスも侵入不可となれば、いよいよ南米異聞帯がどのような世界かわからなくなってしまった。唯一判明しているのは、そこには地球外からやって来た究極の単一種がいるという情報のみ。

 ORTの存在以外はなにもかもが不明な異聞帯(せかい)。警戒するには充分すぎるそれに全員が表情を引き締める中、ルーツが言葉を紡いだ。

 

 

「南米異聞帯には、間違いなく異常が起きている。もしかしたら、ブリテンの崩落を超える程の異常が。……侵入出来そうな手段が見つかり次第報告するから、その時までは各自、自分に出来る事をしていて」

 

 

 

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『私の目的だけど、付き合うか敵対するかについては、すぐに答えを出す必要はない。一週間時間を設けるから、決まったら私に教えて』

 

 

 衝撃の事実を知らされてから、幾つかの質疑応答を行った後、ルーツのその言葉を最後に話し合いは終わった。

 自身が今後ルーツと敵対する事を宣言していたペペロンチーノも、話し合いが終われば自分達と少々言葉を交わした後、シュレイド城から去っていった。遠くから聞こえてくる轟音から察するに、今頃は項羽と共に在り続ける未来を望んでいる虞美人に襲われているだろうが、彼の事だ。上手く逃げ切るのだろう。

 

 

『オフェリア。貴女にはこの先、途轍もない程に大きな壁が幾つも立ち塞がると思うわ。でも、きっと貴女なら大丈夫。―――自分の信じる道を、進みなさいな』

 

 

 己のサーヴァントであるシグルドを伴って廊下を歩くオフェリアの脳裏に、会議が終わった直後に告げられた言葉が蘇る。

 

 自分がベリルによって殺されかけた結果、ルーツの血を輸血され、そして英霊アンナ・ディストロート・シュレイドと融合したという話も、あの話し合いの中で説明された。

 それを知らなかった者達は揃って自分の心配をしてきたが、「今のところは大丈夫」と答えておいた。ルーツも南米異聞帯の侵入経路の模索と並行して、変異が進んでいるこの体の治療を進めてくれるようなので、そこについては特に心配はしていない。

 不安な気持ちはもちろんある。ルーツの血やアンナの存在がなくなった場合、常人であれば即死だったらしい一撃を受けたこの体はどうなるのか、などといったものだ。

 だが、それについても、ルーツは「絶対に影響が残らないようにする」と誓ってくれた。ならば自分に出来る事は、真剣にそう誓ってくれた彼女を信じて待つ事だ。

 

 ―――しかし、それでも。

 

 

「……少しだけ、考える時間が欲しいわね」

「マスター……」

「ごめんなさい、シグルド。情けないわね、私は貴方のマスターなのに……」

 

 

 自分から一歩下がった位置でついてくるシグルドに、自虐的に笑う。

 北欧の歴史に名高い戦士王を召喚しておきながら、彼女の目的を知って立ち止まってしまう自分に嫌気が差す。

 

 信じると決意したのに、彼女の目指す先があまりにも壮大だったが故に、思わず尻込みしてしまった。

 そんなオフェリアの耳朶を、シグルドの声が振るわせる。

 

 

「落ち込む必要はない。誰であろうと、あのような話を聞かされてしまえば尻込みしてしまうのも仕方ない。カドック達もそうだっただろう?」

「……ありがとう。私も考えないといけないわね」

 

 

 これまでも、今この瞬間も彼女に助けられている身としては、いつまでも彼女に依存してはいられない。それは彼女の目的を聞かされた今、決定的な壁となってオフェリアの前に立ち塞がってきた。

 ペペロンチーノの言っていた「大きな壁」の一つは、間違いなくこれだろう。

 

 彼女の目的を知りながらも、彼女についていくのか。それとも、それは許されない事だと、ペペロンチーノのように彼女と敵対する道を選ぶのか。

 

 しかし、その前に彼女から聞かなくてはならない事がある。

 

 

(でも、今の私に、それを聞ける余裕はあるの……?)

 

 

 それは、彼女が自分についてどのような感情を抱いているのかについて、だ。

 別に、それが自分の望むものじゃなかったからと言って彼女と敵対したり、望んでいたものだから賛同する―――なんて事はしない。

 尤も、それについて聞きたいとは思うものの、今その余裕があるか聞かれればノーとしか言えないのだが。

 

 

「―――オフェリアちゃん」

 

 

 その瞬間、背後から声をかけられた。

 振り返ればそこには、現在自分を悩ませる彼女が立っていた。

 

 

「……ルーツ」

「その……オベロンとの戦いの時に話した、私が君をどう思っているのかについてなんだけど……君の準備が整った頃に話すよ。今日はたくさん重要な話をしたから、君にもそれを整理する時間が必要だと思って」

「……えぇ、ありがとう、ルーツ」

 

 

 オフェリアとしても、その言葉はありがたかった。ルーツが自分についてどういった感情を向けているのかは気になるが、流石に今それを聞きたいとは思えなかった。

 まずは彼女に言われた通り、与えられた情報を整理する時間が必要だろう。

 

 

「ううん、こっちこそごめんね。今まで話す機会はあったのに、一気に話しちゃって。……準備が出来たら、教えてね。待ってるから」

「なるべく早く、声をかけるわ。……少し、外を歩いてきてもいいかしら」

「うん。行ってらっしゃい、オフェリアちゃん」

 

 

 頷いたルーツに「えぇ」と頷き返し、オフェリアは踵を返そうとして、傍らに立つ男に目を止めた。

 

 

「シグルド? どうかしたの?」

「……マスター、少しだけ、彼女と話をさせてほしい。当方と彼女の、二人きりで」

「……? わかったわ」

 

 

 彼にしては珍しい申し出に若干驚きながらも、オフェリアは彼とルーツを残して歩き出すのだった。

 

 

 

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「……それで、話ってなにかな?」

 

 

 オフェリアがいなくなり、残された両者の内、最初に口を開いたのはルーツだった。

 首を僅かに傾げながら訊ねてきた彼女に、男は微かに拳を握り締めて問いかけた。

 

 

「お前は……気付いているのか? ()の正体に」

 

 

 その言葉にルーツは少しだけ目を見開いたが、それも一瞬の事。すぐにその表情を変え、静かに頷いた。

 

 

「……うん。だけど、気付かされたのはオベロンを倒した少し後から。最初は半信半疑だったんだけど、今はもう確信してる」

「……?」

 

 

 どこかで、彼女に己の正体がバレるような失敗を犯してしまったのか。しかしいくら考えても思い浮かばずにいると、「朝の会合の時」と、ルーツは静かに口を開いた。

 

 

「私の目的を話した時、君は私に欠片も敵意を見せなかった。()なら必ず、多少なりとも怒りや敵意を見せていたはずだったから」

 

 

 どんな理由であれ、自分が抱く野望(ゆめ)を知った時、あの英雄は間違いなく敵対するだろうと考えていた。生前も、英霊となってからも善き王であり戦士でもある彼は、そういう男だ。

 しかし、今自分の前にいる男は、自分の目的を知った上で欠片も敵意を見せなかった。戦意すらもだ。

 

 それが、疑いが確信に変わった理由だと語ると、男は「なるほど」と目を細めた。

 

 

「あれは正式に我らに自分の目的を伝えると同時に、俺に対するカマでもあったわけか」

()をどうしたの? 事と次第によっては、ここで消えてもらうけれど」

「誤解だ。元より俺は、奴本人からこの肉体を与えられている」

「本当? 彼が、君に?」

「あぁ。……いつか、貴様が言っていただろう?」

 

 

 ―――“愛”を知らない巨人、か。君がそれを知っていたら、少しは変わってたのかな。

 

 あの世界で自分が消えた直後、彼女が呟いた言葉。

 あの世界でも、汎人類史でも、破壊するしか出来なかった自分にとって、その言葉はある種の希望のように思えた。

 

 

「俺は(それ)を知らなかったが、座を通して、あの男からそれを学ぶ事が出来た」

 

 

 現世での形を保てずに退去した自分が、時間と空間を超えた世界で出会った、あの男。

 本来であれば正しくオフェリア・ファムルソローネによって召喚されるはずだったその男は、愛を知らない彼に、愛を語り聞かせた。

 

 ―――それは、燃え盛る炎が如き情熱。

 ―――それは、清らかな清流が如き穏やかな安寧。

 ―――それは、果てしなく続く世界が如き永遠。

 

 愛する妻と、彼女の間に為した愛娘。彼女達について語るその男の表情は柔らかく、そして穏やかなものだった。

 彼女達の為ならば、自分はどんな事だって出来ると、彼は一寸の迷いもなく断言した。

 

 その時、男は思った。―――自分も、それを得られるのかと。

 彼は答えた。―――今の貴殿ならば、得られるはずだと。

 

 

「故に俺は、護ると誓った。彼より借り受けし、この魔剣(グラム)を使って」

 

 

 右手に出現させた大剣を見下ろす。

 あの時とは違い、肉体もこの武器も、なにもかもが彼から借り受けたもの。自分にもう一度チャンスを与えてくれた彼に報いる為にも、男は戦う事を決心したのだ。

 

 

「……そうだったんだ。うん、それだったら大丈夫だね」

 

 

 安心したように微笑んだルーツが、そっと左手を差し出す。

 

 

「それなら、改めてよろしくね」

「あぁ。よろしく頼む」

 

 

 グラムを消し、差し出された左手を強く握る。

 

 互いに抱くのは、護るべき者を同じくする同志に対する敬意。そこにかつてあった敵対意識はなく、両者の口元には小さな笑みが浮かんでいた―――。

 





・『ルーツの目的』
 ……もし達成された場合、地球の全てが変わる。故に人理は例外的にシュレイド異聞帯にサーヴァントを召喚/再召喚し続け、英霊による人海戦術で異聞帯切除に動いている。

・『ペペロンチーノ』
 ……ルーツ達と別れの言葉を交わし合った後、シュレイド城から去る。直後に虞美人の襲撃を受けたものの、持ち前の技術で逃げ延びた。南米異聞帯に向かわないのは、たとえどんな厄ネタがあったとしても、ルーツ達やカルデアが打倒すると確信しているから。また、死ぬと決まっていた場面で死ねなかった自分は彼にとっては見苦しい存在なのかも、という気持ちもあった。

・『シグルドの(カワ)を被る者』
 ……座にいる本物のシグルドから、生前の自分が知る事のなかった愛を学んだ事で、オフェリアを護るべく現界。今まで誰にもその正体を悟らせず、オフェリアを護り続けていた。オベロンが彼の正体に気付いたのは、同じ終末装置の気配を感じたから。



 ルーツの目的は決まっているのですが、ここでは語らせません。シュレイド異聞帯に入り、カルデアと対決する中で語らせる予定ですので、楽しみにしていただければ幸いですッ!
 ペペロンチーノについては少し悩みました。ブリテンで生き残った彼女をデイビットに会わせたいという気持ちはあったのですが、今後のストーリーも考えてシュレイド異聞帯に残す事に決定しました。そして南米に行かない理由の二つ目ですが、アシュヴァッターマンの献身が邪魔だったと思っての事ではありません。綺麗な姿ではなくとも、自分達を護って消えた彼に誇れるような戦いをしようと思っての事です。

 先日、最終再臨展に行ってきましたッ! 流石に全てのサーヴァントはいませんでしたが、それでも写真を撮れば600枚近くあったのでとても楽しめましたッ!
 次は夏コミに一般として参加する予定ですので、そちらも楽しみですねぇ。どんなコスプレをされている方がいるのか、今からワクワクしていますッ!

 それではまた次回ッ!
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