【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 ドーモ=ミナサン。
 仕事や趣味に時間と金を費やし続けていれば、気付けば夏が終わりに差し掛かっている事に衝撃を受けたseven774です。
 この前までは七月だったはずなんですがね、ふとカレンダーを見ると八月ももう終わりですよ。今年の終わりまで約四カ月ですよ。時間が経つのは早いものですが、これならFFコラボまでの間にする☆9周回にもやる気が出るというものです。

 今回は遂に、ルーツとオフェリアの今後が決まります。
 それでは、どうぞッ!


アイビーの契り

 

 ルーツとキリシュタリアの口から様々な情報が飛び出してきたあの日から、早くも六日の時が経った。

 彼女の目的に賛同するかを決める期限の一週間まで後一日という事もあり、現在この城にいる者達の意見は、概ね一つにまとめられていた。

 

 

『あの約定通り、私は君の下につくよ。君の創る世界に興味があるからね』

 

 

 オリュンポスでの決闘で意志をぶつけ合った事もあるが、最終的には本人の意志もあり、彼女の目的のサポートを誓ったキリシュタリア。

 

 

『当然、私達は貴女につくわ。もう二度と、項羽様とは離れたくないから……』

 

 

 元々彼女につくつもりだった虞美人は、迷う素振りすら見せずに断言した。これは項羽や蘭陵王も例外ではなく、彼らもまたルーツと共に戦う事を誓った。

 

 

『アンナ。僕達は、アンタの創る世界を見てみたい。とことんまで付き合ってやるさ』

 

 

 それから三日経った頃、次はカドックが彼女の下についた。

 言葉にしたように、彼もまたキリシュタリアと同じように、彼女の創る世界に興味があるとの事だ。しかし、彼の表情を見たルーツは、彼がそれ以外の理由も含めて自身の協力者となった事を理解しており、その理由を聞けば、小さく笑って頷いた。

 

 こうして、キリシュタリア・ヴォーダイム、虞美人、カドック・ゼムルプスが彼女の下につく事が決まったのだが、未だに答えを出せていない者がいた。

 

 

「―――カドック、いるかしら」

 

 

 ルーツに与えられた一室。現在は自分の生活スペースとなっている部屋の扉がノックされ、くぐもった声が聞こえてくる。

 扉の奥から聞こえてきたその声に反応したカドックが扉を開ければ、予想した通りの人物が立っていた。

 

 

「オフェリア? どうかしたのか?」

 

 

 自身の前に立つ女性―――オフェリア・ファムルソローネにそう問いかけると、彼女は「少し、参考にしたいのだけれど」と口を開いた。

 

 

「貴方が彼女についた理由を知りたいの」

「あぁ、その話か。悪いが、聞く相手を間違えているぞ。僕の場合、とても参考になるようなものじゃないからな」

「それでも、聞かせてほしいの。お願い」

 

 

 キリシュタリアや虞美人がルーツの下についた理由を考えれば、自分が彼女についた理由などとても参考になるものではない―――とオフェリアの申し出を断ろうとしたカドックだったが、彼女の真剣な眼差しを前に、「……わかった」と頷いた。

 

 立ち話で出来るものではないと判断したカドックによって部屋に招かれたオフェリアはソファに座ると、何気なしに内装を見渡し始める。

 

 多少整頓されてはいるものの、所々には積み上げられた書類の数々が見受けられる。その中でも特にその書類が多いのが、作業台の周辺だ。作業台に置かれたスタンドに備え付けられている龍結晶を見るに、それに関する彼の解釈や使い道をまとめたものだろうか。

 他に視線を向ければ、彼が“我らの団”の仕事に付き合った道中で遭遇、討伐したであろうモンスターの素材が収められた棚があり、近くにはそれぞれの素材についてファイリングされた書類が置かれていた。

 

 自分達Aチームの中でも特に努力を惜しまない勉強家な彼らしい部屋だと思っていると、紅茶の入ったカップを持ってきたカドックが正面に座った。

 

 

「悪いが、菓子はない。アナスタシアに全部食われた」

「ふふっ、関係は良好そうね」

「まぁな。そっちは……聞くまでもないか。―――……それで、僕が彼女についた理由についてだったな」

 

 

 軽い話をするものの、すぐに本題に入るカドック。オフェリアとしてもいつまでも軽い話をするつもりはなかったので、一気に切り替えてくれた彼に感謝しながら「えぇ」と頷いた。

 互いに一口紅茶を啜った後、カドックがふぅと一息吐いてからこう続けた。

 

 

「正直に言えば、僕個人としては、彼女の創る世界は二の次なんだ」

「え?」

 

 

 まさかの言葉に、思わずオフェリアの目が点になる。が、そんな彼女を気にする素振りも見せずにカドックは続ける。

 

 

「悪く言ってしまえば、僕にとっての彼女の創る世界は建前(・ ・)なんだ。僕は純粋に、カルデアへのリベンジを果たしたい。お前も見ただろ。ブリテンでの彼女達の戦いを」

「……そうね」

 

 

 最初のカドックの言葉に少し混乱していた思考を、紅茶を飲み込んで整理しながら頷く。

 妖精國ブリテンで出会った彼女達は、カドックが担当していたロシア異聞帯の時や、オフェリアが担当していた北欧異聞帯の時よりも格段に強くなっていた。

 生まれる前から魔術師として生きる事が決まっていた自分達とは違う、それこそ魔術の『ま』の字すら知らない少女が、自分達と並び立ち、時には超える程の力を手にしていた。

 きっと彼女は、それを自分の力だとは認識していない。ここまで自分と戦ってくれた仲間達のお陰で、自分は今ここにいるのだと答えるだろう。

 

 しかし、だからこそだ。だからこそ、彼女は強い。

 どんな苦境に立たされても、どれ程絶望的な状況に陥っても、彼女は生き残った。生き延びてきた。仲間達との繋がりを大切にし、その全てに打ち勝ってきた彼女だからこそ、自分達は敗北した。

 

 

「ロシア異聞帯にいた時、僕の心には嫉妬があった。『僕達が人理を修復するはずだった』と、子どものように喚いてた」

 

 

 レフ・ライノールが仕掛けた爆発事故により、自分達は本来の役目を果たせぬまま死んだ。キリシュタリアの尽力の末、クリプターとして蘇った頃には、既に焼き尽くされていた人理は修復されていた。補欠としてやってきていた、表の世界の出身者である彼女に。

 

 心では理解していた。彼女は安々と、お気楽に七つの特異点を突破してきたわけじゃない。多くの出会いと別れを繰り返して、笑って、泣いて、世界を救った。正しく、誇れる後輩だ。

 

 だが同時にそれが、カドックの心に暗い影を落とした。

 

 

「今だからわかる。あの頃の僕は脆弱(よわ)くて、彼女達は強靭(つよ)かった。その末に僕は、僕の半身を失ったが……」

 

 

 如何なる因果か、カドックの隣には彼女がいる。あのロシアの記憶を有する、獣国の姫君が。

 

 

僕達(・ ・)はもう一度、彼女達と戦いたい。担当していた異聞帯こそ失ったが、僕達にはまだチャンスがある。その為に、僕は彼女の下についた。……これが、僕が彼女についた理由だ。最初も言ったが、とても参考にならないだろ?」

「いえ、むしろ参考になったわ。そういう考えもあるのね」

 

 

 長く話したからか、紅茶を多めに飲んで自虐的に笑うカドックだったが、オフェリアはそんな彼に微笑みと共にそう返した。

 

 キリシュタリア・ヴォーダイムは、ルーツと正面から互いの意志と力をぶつけ合い、その果てに彼女につく道を選んだ。

 虞美人は、彼女の愛する項羽と共に在り続ける為に、彼女の創る世界で生きたいと決めた。

 そしてカドック・ゼムルプスは、それを阻止しようとするカルデアと再び対決する為に、彼女の下で動く事を是とした。

 

 彼らはそれぞれの経緯を、願いを以てルーツの下で戦う道を選び取った。

 彼らと同様ではないものの、ペペロンチーノもまた、自分の信じるものの為にこの世界を破壊する道を選び、シュレイド城を去っていった。

 

 彼らは誰一人状況に流される事なく、己がそうすべきと考え、決断した。

 

 ―――ならば、自分もまたその一人となる他ないだろう。

 

 

「ありがとう、カドック。お陰で、私もどうするか決心出来たわ」

「ん……そうか。悔いのないようにな」

 

 

 感謝の言葉を伝えれば、カドックはそう返してくる。

 そこからは他愛もない話をしながら紅茶を飲み、互いに軽口を叩き合った。

 

 その後、オフェリアはテラスで虞美人と談笑しているルーツを見つけると声をかけ、夜に玉座の間で待っていてほしいと伝えるのだった。

 

 

 

 Now Loading...

 

 

 

 日が暮れ、満月が優しく照らす真夜中。

 上空に渦巻く暗雲も今は欠片も消え失せている影響か、ステンドグラスを通して差し込んできた月光に薄明るく照らされた玉座の間で、二人の女性が向かい合う。

 

 

「―――待ってたよ、オフェリアちゃん」

 

 

 ルーツの視線と、オフェリアの視線が交わる。

 

 

「待たせてごめんなさい、ルーツ」

「ううん、いいの。むしろ、悩まない方が不思議な話だったからね。……それじゃあ、聞かせてほしいな。君は、私につく? それとも、ペペロンチーノのように敵対する?」

 

 

 背もたれに体を預けたまま、オフェリアを見下ろすルーツ。

 かつてシュレイド王国の王女であったアンナ・ディストロート・シュレイドを再現した肉体だという事もあるだろうが、玉座に座る彼女は実に様になっており、月光を反射して煌めく銀髪や緋色の瞳は息を呑む程美しい。

 しかし、その美しさは神々しさと禍々しさを共有するものであり、その美に見惚れはするものの、その内側に隠れ潜む妖しき気配が心からの畏怖を抱かせる。

 

 細められた緋色の瞳は自身とオフェリアの間にある友情や親愛を除外しており、ただ静かに彼女の答えを待ち続けている。

 

 

「……っ」

 

 

 この時オフェリアは、初めて彼女が恐ろしいと感じた。

 時計塔やカルデア、そして異聞帯で関わってきたこれまでの彼女とはまるで違う、頂点に座する者としての威圧感(プレッシャー)が全身から放たれており、無意識に息を呑み込む。

 

 しかし、彼女にこの場所で待っていてほしいと伝えたのは自分だ。ここまで来て「なんでもありません」なんて言えるはずがない。

 

 そして、オフェリアは意を決して口を開いた。

 

 

「私達は……貴女についていくわ。シグルドも、貴女につくと言っていたわ」

 

 

 ここにはいない相棒の姿を思い浮かべる。二人きりで話をしたいと申し出たオフェリアの意を汲んで同行しなかった彼からも、ルーツの計画に賛同するという答えは受け取っていた。

 

 

「理由を聞かせてもらってもいいかな」

「理由は二つあるわ。一つは、カドックやキリシュタリア様と同じように、貴女の創る世界に興味があるから。もう一つは……貴女だから信じるの。信じているから、貴女についていくと決めた」

 

 

 手段はどうであれ、彼女の掲げるそれは人類の未来を想ってのものだった。

 自分なんかとは比べ物にならない、途方もない時間を生き続け、多くの人々や英雄、怪物達と交流してきた彼女が抱いた結論は、キリシュタリア・ヴォーダイムの抱いた理想と酷く似通ったものであり、どこまでも違うものであった。

 しかし、オフェリアはこの一週間で、彼女の理想とする世界(みらい)は、今の汎人類史よりも良いものであると考えた。それはきっと、キリシュタリアが描いた、人の存在を上位のものへと昇華させて得る未来よりも。

 

 永遠の時を生き続ける彼女は、自身の愛した人類(ものたち)が永遠でない事を知っている。今目の前にいる彼女は、多くの出会いと別れを経験したからこそここにいて、今ある世界を破壊しようとしている。……かつて絆を結んだ、あらゆる者達との尊き記憶を踏み躙って。

 

 きっと、彼女も苦しんだはずだ。この結論を導き出すまでの間に、何度も他の手段を模索したはずだ。考えて、考えて、考え抜いて―――その果てに、「これしかない」とこの手段を選び取った。

 

 そんな彼女が抱いたであろう苦しみを、少しでも背負いたいと思った。

 

 いずれ訪れる、人類の終わり。世界の敵となっても、それが良いものであってほしいと願い続ける彼女の一助になれるのならば―――己もまた、人理の敵となろう。

 

 

「……ありがとう、オフェリアちゃん」

 

 

 オフェリアからの賛同を示す言葉に、ルーツは小さく微笑んで答えた。

 彼女は、オフェリアが自身に憐憫の感情を抱いているのを見抜いていた。もし彼女が憐憫のみを抱いていたのならば、ルーツは彼女が賛同したとしても、それを拒否していた。だが、ルーツは先の言葉の中に、憐憫の他にも深い親愛の色を感じ取った。

 故に、ルーツは彼女の言葉に受け入れたのだ。

 

 これで、一つ目の話は終わった。

 残るのは―――。

 

 

「それじゃあ……聞かせて、ルーツ。貴女が私を、どう思っているのか」

「……うん」

 

 

 質問する立場が入れ替わり、今度はオフェリアがルーツに訊ねる。

 ルーツは少しの間瞼を閉じて黙ったが、やがて静かに口を開き始めた。

 

 

「オフェリアちゃん。この前、君は私に『まだアンナを追いかけているのか』って聞いてきたよね?」

「えぇ」

 

 

 それは、キャメロット攻防戦が始まる前の事。彼女がアンナ・ディストローツという偽名を使って生きてきたのは、彼女の中にアンナ・ディストロート・シュレイドがまだ生きているのが理由なのかと思い、問いかけたのだ。

 

 

「あの質問に答えるよ。……その通りだよ。私の中には、まだ彼女がいる」

「……っ」

 

 

 それは、オフェリアにショックを与えるには充分な言葉だった。

 くらり、と。体を支える両足から力が抜ける感覚を覚えるが、咄嗟に意識を持ち直して堪える。

 

 

「私達人間の体を持つ龍にとって、そのオリジナルの存在は重要なものなの。だから、どうしても切り離せないし、忘れられない」

 

 

 それは、一種の憧憬のようなもの。

 生まれつき強大な力を持ち、事象操作も可能とするルーツ達にとって、非力でありながらも世界を変革しようとする人類は夜空に煌めく星々が如く眩きもの。そして、彼女達が自らの人間態のオリジナルとして選ぶのは、その中でもさらに輝かしいと感じた者達。

 憧憬の象徴を、自らのもう一つの姿として模倣する。弟妹達の中にはそれを行いながらも自身の意思を優先する者もいるが、それでも、その行動は無意識に模倣した存在の在り方に近しいものとなる事が多い。

 

 そういう意味では、ルーツは未だにアンナを追い続けているのだろう。

 しかし。

 

 

「―――でもね、それは、大切な思い出として生きているって事。もちろん彼女は好きだけど、それは立派な精神を持つ人間だからで、オフェリアちゃんは、その……」

 

 

 そこで、初めてルーツの表情に明確な変化が起こる。

 薄暗い玉座の間であってもわかる程に頬を赤らめ、口元を手で覆い隠し始める。

 

 

「ひ、一人の女性として……好きなの」

「……ッ!」

「最初は、君がアンナの生まれ変わりだったからっていうのが大半だった。でもね、時計塔やカルデアで関わる内に、君個人の事がどんどん好きになっていったの」

 

 

 ―――お菓子作りが趣味なところ。

 ―――取り組むべき課題に、真正面から向き合い続けるところ。

 ―――恐れを抱きながらも、危険に立ち向かっていくところ。

 

 人間であり魔術師でもあるアンナ・ディストローツとして、“祖龍”ミラルーツとして、傍で見続けてきた彼女は、かつて自身と共に戦った王女と似ているようで、どこまでも異なる女性だった。

 それからルーツは、彼女を『アンナ・ディストロート・シュレイドの転生体』として見る事はなかった。オフェリア・ファムルソローネという一人の女性として見るようになったのだ。

 

 そして、元々魅力的に感じていた彼女を一人の人間として意識するようになれば、あっという間だった。瞬く間にルーツの心は彼女に掴まれ、いつしか彼女に恋をしてしまっていた。

 

 

「ルーツ……ありがとう」

 

 

 それは、オフェリアの望んでいた言葉だった。望んでいたはずの言葉だった(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)

 

 もちろん、胸中には彼女が自分を好いてくれている事に対する安堵や歓喜がある。しかしその裏には、黒い炎が如き感情が渦巻いていた。

 

 彼女が抱く感情に気付いたのか、ルーツはそっと目を伏せて俯いた。

 

 

「でも、これだけじゃ駄目だよね。君の中には、私に対する憎しみ(・ ・ ・)がある。そうでしょう?」

「……えぇ」

 

 

 憎しみ。

 そうだ。オフェリアの中には、否定できない彼女への憎悪がある。

 あの時、ベリルに殺されかけた自分を救ってくれた彼女達(・ ・ ・)。ルーツが輸血し、彼女が召喚した王女によって、この命は救われた。

 しかし、“祖龍”と冠位英霊という二つの膨大な力の影響を受けた事で、この肉体は人間のそれから大きく変異した。その変異は今も尚続いており、オフェリア自身も、日を経るごとに自分が人間からかけ離れていくのがわかってしまう。

 

 自分が自分でなくなる感覚。意識は変質せず、一切の変化がないのだから、それはより鮮明に現実を突き付けてくる。

 

 それは、なんて凄まじい恐怖なのだろう。

 救われたという事実があっても、それを上回る程の変異に対する忌避感が、どうしても精神を蝕み、ただの『感謝』で終わらせてくれない。

 それはきっと、生物として当たり前な反応だ。誰だって、自分の体に異変が起きれば悪い気分になる。言ってしまえば、これもそのケースに該当するようなものだ。

 しかし、これは度を越し過ぎている。一時的なものではない、手を尽くさなければ、未来永劫続いていくものだ。

 

 もちろん、ルーツも手を尽くしてくれているが、精神と肉体、そして魂にまで深く浸透してしまった二つの力を完全に除去するのは難しい。

 

 今も尚自分を救おうとしてくれている彼女には、感謝の気持ちが尽きない。―――しかし。

 

 

「貴女が私にどんな感情を持っているかはわかった。でも、だからといって、貴女を完全に許せるわけじゃない」

 

 

 それとこれを割り切る器量を、自分は未だ持ち合わせていなかった。

 ハッキリと言葉にして憎しみを認めたオフェリアに、ルーツの肩がビクリと震えた。

 

 

「……そう、だよね。許せないよね……。絶対に、許せたりなんか……」

「えぇ、許せないわ。―――でも」

 

 

 俯いていたルーツが顔を上げる。オフェリアの声に宿る感情に、憎しみとは異なるそれが宿ったのを感じ取ったのだ。

 こちらを見つめるルーツに、オフェリアは搔き毟るように右手を己の胸の前で握り締める。

 

 

「それでも……好きなのよ。憎いのに、許せないのに……それ以上に、好きなの。愛しているの……っ!」

 

 

 それは、憎しみと同時に抱いていたもの。憎悪を超える程の、深い愛情だった。

 彼女は、自分を護ってくれた。日曜日の恐怖を忘れさせてくれた。瀕死になったところを助けてくれた。いつだって彼女は、オフェリアにとっての救いであった。憎しみこそあれども、それもまた、絶対に否定できない事実そのものだったのだ。

 

 

「だから……」

 

 

 握り締めていた拳を解き、歩を進める。

 目の前にある階段を一歩一歩踏みしめるように昇り、玉座に座るルーツの前に立つ。

 

 

「オフェリアちゃ―――……ッ!?」

 

 

 自分を見下ろしてくるオフェリアから言い知れぬ威圧感を感じたルーツの左右を、オフェリアの両腕が過ぎていく。

 玉座の背もたれに押し当てられた両腕はオフェリアの体も合わせて即席の檻の役割を果たし、ルーツから逃走という選択肢を奪い取る。

 大きく見開かれたルーツの瞳には、最早オフェリアの顔以外は映り込まない。身動きさえ取れない彼女に顔を近づけ、オフェリアは囁くように告げる。

 

 

「私のものになって。いいえ……なりなさい。貴女の全てを、渡しなさい。そうじゃないと、私……貴女を、殺してしまいそうなの」

 

 

 己が心に同居する燃え盛る愛と、否定できない憎悪。

 ぐちゃぐちゃに混じった愛憎(かんじょう)のままに告げられたそれは、愛の告白とはあまりにも程遠い。

 

 昏く淀んだ視線に射抜かれたルーツはパクパクと魚のように口を動かしていたが、やがて観念したように、月のような笑みを浮かべた。

 

 

「……いいよ、オフェリアちゃん。私の全部、君にあげるよ。私だって(・ ・ ・ ・)私を憎んでるの(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)

 

 

 あの時、オフェリアを助けるべく取った行動に後悔はない。けれど、その結果としてオフェリアは、人間の体でいられなくなってしまった。

 ―――心から愛した彼女(にんげん)を、人外へと変えてしまった。

 

 後悔はない。ないが、だからと言って、自身を憎まない理由にはならなかった。

 

 もっと最適な方法はなかったのではないか。

 もっと冷静に考えれば、彼女を人のまま救う方法があったのではないか。

 

 今でもふとした時に、そういった考えが脳裏に過るのだ。

 それを繰り返していく内に、いつしかルーツの心には自身に対する憎しみが宿っていた。

 

 どれだけ過去のifを想像しても、結局は過去。終わった事だ。

 しかし今の彼女は、それを覆す手段を有している(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)。有してしまっているが故に、己を憎み続ける。

 

 

「だから、君も、もう隠さなくていいの。好きなだけ、私を憎んでいいの。ずっと、ずっと……気が済むまでずっと、私を(あい)して。絶対に、(ころ)してほしいの」

「えぇ、もちろん。だから、離さないわ。絶対に」

「うん……離さないで……。ずっとずっと、永遠に……」

 

 

 ルーツの腕が、オフェリアの首に絡みつく。

 彼女に引き寄せられたオフェリアの腕が、ルーツの背に回される。

 

 それはまるで、己の存在を相手に刻み付けるかのように。

 それはまるで、相手に自身を捨てられないようにするかのように。

 

 

(もう、離さない。愛しているわ―――私のルーツ)

(もう、離さないで。愛しているよ―――私のオフェリアちゃん)

 

 

 互いに強く抱き締め合う彼女達の口元に浮かぶ笑みはどこまでも優しく、どこまでも昏く歪んでいる。

 

 ―――狂愛を宿した瞳は、それ以外のなにをも映さなかった。

 




 
・『カドックがルーツに協力する理由』
 ……ルーツの目指す理想の世界に対する興味はもちろんあるが、それ以上の理由としてカルデアへのリベンジがある。ロシア異聞帯にいた時は精神面でかなり追い詰められていた事もあったため、今度は正々堂々と真正面からぶつかり合いたいと思っている。

・『オフェリア→ルーツ』
 ……時計塔時代やカルデアに在籍していた頃から無意識にルーツに想いを寄せていたが、ブリテンで彼女に救われると同時に人外になった結果、生物の本能から彼女に対する憎悪と怒りを抱くように。結果、ぐちゃぐちゃに混ざり合った愛憎で歪んでしまった。
 でもいいわよね、ルーツ? だって、私のものになってくれるのでしょう……?

・『ルーツ→オフェリア』
 ……最初こそはアンナの転生体だからという理由でオフェリアに近付いたものの、共に過ごしていく内にオフェリアという人間に惹かれていった。瀕死のオフェリアを救った時の行動に後悔はないが、その結果彼女を人外の存在に変えてしまった事に対する自身への怒りと憎悪が芽生える。
 私は、君を変えてしまった。だからオフェリアちゃん。気が済むまで私を(あい)して。私を、離さないで……。


 はい。ルーツとオフェリアの関係はこんな感じになりました。初めは自分の変化を受け入れてルーツと共に歩む事を誓うオフェリアを書こうと思っていたのですが、『救う為とはいえ、自分の体改造されまくったのに、それを愛だけで許せるか……? 許せてしまったら、本当にルーツ全肯定botになってしまうのでは?』という考えが浮かび上がり、この形に変えました。この時の私の筆、やけに早く動いたんですよね。不思議ですよね。なんか自分ではない誰かに腕と思考を乗っ取られたような感覚でした。
 
 カドックのリベンジマッチの件ですが、これは私がロシア異聞帯の時の彼とカルデアの仲間になった彼を見比べての結果です。仲間になった彼はシリアス面はもちろんですが、それ以外だとゼムルプス棒だったりバケットホイールエクスカベーターだったり麻雀をやったりとかなり愉快なキャラだったりするので、精神面が安定し有利な条件さえ整えばクリプター内でも上位に行けるポテンシャルを秘めているのではないかと思い、リベンジマッチを目標にさせました。

 次回はカリアの幕間とプロフィールを投稿しようと思ったのですが、話の流れ的に先にルーツの失意を投稿する事にしました。オフェリアが偽ルーツと対峙している時、彼女がなにと対峙していたのか、楽しみにしていただければと思います。
 それでは、また次回ッ!
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