【更新停止中】緋雷ノ玉座   作:seven74

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 ドーモ=ミナサン。
 先週発売されたポケモンZAとアサシン冠位戴冠戦に夢中になりすぎた結果、危うく投稿が遅れかけたseven774です。

 私、ポケモンシリーズはダイパ時代からずっとプレイしている世代なのですが、最新作という事もあってZAかなり楽しいですねぇ。活動範囲こそアルセウスに比べればかなり狭くなりましたが、それでも充分すぎる程散策の楽しみがあってよかったです。もうしばらくしたら我が家にも遂にswitch2が届く予定ですので、そちらでプレイするのも楽しみですッ!
 アサシン戴冠式の方では、我がカルデアで昔から在籍してくれている山の翁が大活躍してくれていますッ! そしてコヤンも遂に絆15になったので、他のサーヴァント達の絆がモリモリ上がって嬉しい限りですッ! 現在はアズライールを倒しながら、並行して次の戴冠式に向けて候補サーヴァント達の絆上げをしていますッ!

 今回はスメラギとアルバが出会います。
 それでは、どうぞッ!



理想のカタチ

 

 翌日、スメラギの教えを受けたアイルー達が用意してくれた木製のベッドから目覚め、朝食を摂り終えたエリシオ達は、スメラギより与えられた新しい課題に取り組もうとしていた。

 

 

「準備はいいかの?」

「はい。お願いします」

 

 

 暗闇に閉ざされた世界に聞こえてくるスメラギからの確認に頷く。

 現在、エリシオの目元には帯が巻き付けられており、生物が周囲の環境を把握する為に必要な要素の一つである視覚を封じられていた。

 帯越しでも辛うじて聞こえた言葉にエリシオが頷いたのを見たスメラギは、無言で彼の前後に聳える木々に登っているアイルー達に目配せする。

 

 

「ニャッ! ニャニャニャッ!」

「ニャニャニャニャッ!」

「「ニャニャーッ!!」」

 

 

 それぞれの木の上に立ったアイルー達が号令をかけた瞬間、他のアイルー達の内数匹が手元に持った綱を手放せば、その先にある物が一気に動き出した。

 

 

「……ッ!」

 

 

 瞬間、今まで俯いていたエリシオの顔がハッと上げられ、体を左へ逸らした。

 直後、エリシオは自身の隣を巨大な物体が通り過ぎていくのを感じた。

 

 今回の訓練内容は、視覚を封じられた状態での回避術の会得―――つまりは気配察知の訓練である。

 その為に用意されたのは、今エリシオが身につけている目隠し以外にもう一つ、スメラギが切り倒した木々から作った丸太である。

 縄で縛り上げたそれをアイルー達に動かしてもらい、慣性の法則によって前後に動くそれの気配を察知しながら、ただひたすらに回避していくのが、今回の訓練である。

 要は前後から交互に来る丸太を回避していけばいいという単純な内容のようにも思えるが、これが中々難しい。

 

 

「次」

「ニャッ!」

 

 

 ドンッ、と音を立てて丸太同士が衝突し軌道や向きが変わった直後、スメラギの指示を受けたアイルーの一匹が握っていた縄を手放す。それよって今エリシオを襲っている丸太に一本追加された途端、少しだが彼の動きが鈍くなった。

 

 

『真後ろから来―――目の前だ、避けろッ!』

「え、うぉあッ!?」

 

 

 自分と同じように気配のみで丸太の位置の把握をサポートしてくれているジーヴァに声に従おうとした瞬間の叫びに咄嗟にその場に伏せた瞬間、頭上から丸太がぶつかり合う音が聞こえてきた。

 自身の真上から聞こえた音に思わず背筋が凍り、連鎖的にその怖気が体の動きをさらに鈍らせていく。

 ずっと伏せていては訓練の意味がないと、すぐに立ち上がるものの体を支える両足の軸は乱れ、千鳥足のように動くエリシオの周りを絶え間なく丸太が行き交うが―――

 

 

「三本追加じゃ」

「ニャッ!?」

 

 

 そんな彼の様子を見つめながらも、スメラギはさらに彼に苦行を強いる道を選び取った。

 流石のアイルー達も彼の発言に耳を疑ったようで仲間達と顔を見合わせるが、「早くせんか」と急かされたために、言われた通りに三本丸太をエリシオへ向かわせた。

 

 

『三本来るぞッ! 右前、左後ろ、真ん前から来るッ!』

「くぅ……ッ!」

 

 

 千鳥足で危なげながらもなんとか丸太の直撃を避け切っていたところへ来る追加の報告に歯を食い縛るも、エリシオは回避を続けながら乱れた意識の修正に取り掛かる。

 情報伝達の失敗により窮地に見舞われた今、このままでいては乱れた呼吸や意識はさらに乱れ、最悪大怪我を追う可能性すら出てくる。普通ならばその可能性を一秒でも早く除外する為に動き回ってしまうだろうが、視界を閉ざされている今、その行動は悪手に他ならない。

 それに加え、周囲からは丸太がぶつかり合う音が絶え間なく聞こえてくる事から、どこからどう迫ってくるのがわからない。

 

 

(ジーヴァに任せきりにするのは駄目だ。多少なりとも、僕個人でも判断しないと―――ッ!)

 

 

 スウウゥゥゥ……、と、薄く開いた口から息を吸い込む。

 吸い込まれた空気は乱れ切った呼吸によって空っぽになりかけていた肺を満たし、満足に働けていなかった思考回路を再起させていく。

 ただ『ここから逃れなければ』という考えのみに支配されていた思考がそれによってある程度の余裕が生まれ、その余裕を使ってさらに深呼吸を重ね、再び思考の余白を増やしていく。

 

 

「ほぅ……」

 

 

 すると、どうだろうか。

 先程まで酔っ払いのように動き回っていた足が、再びしっかりと体を支えるようになったのだ。

 足取りが乱れた時から今までの間にかかった時間は十数秒。それでもハッキリとした動きによる回避を再開した姿にスメラギが少しだけ眉を吊り上げる中、エリシオは自身の内側で周囲の確認を行っているジーヴァに話しかける。

 

 

「ジーヴァ、ここからは僕もやる。僕も君も、片方だけじゃこの数は捌き切れない」

『そんな事……チッ、わかった』

 

 

 最初こそなにかしらエリシオに反論しようとしたジーヴァだが、それを出来るような状態ではない事など自分が一番よくわかっていた。

 不承不承ながらも了解の意を示したジーヴァと共に、エリシオは周囲から襲い来る丸太の回避に努めていく。

 

 これまでエリシオに任されるまま常に周囲へ気を張り続けていたジーヴァだったが、彼も自分と同じように周囲の確認をし始めた影響からか、かなり余裕を持って迫る丸太を察知する事が出来るようになった。エリシオも同じように、ジーヴァの負担を共有した事で回避しやすくなっており、先程のように集中が途切れる事はなくなった。

 途中でぶつかり、軌道を変えて迫るもの。ぶつかる事なく、そのまま直線に向かってくるもの。偶然にも同じタイミングで挟み撃ちを仕掛けてきたもの。

 それらを必死に掻い潜る事数分、「よし、そこまで」と声をかけられ、跳躍。

 瞬く間に丸太の結界から抜け出たエリシオが目隠しを外すと、満足そうに頷いたスメラギの顔が見えた。

 

 

「うむうむ、中々良いぞ。途中は駄目かと思ったが、よくぞ持ち直したッ!」

「ありがとうございます。ですが、まだまだです。もしこれが強敵との戦いだったら、恐らく僕らは……」

『反撃出来ないのが辛かったぜ……。出来たなら全部ぶっ壊してやったってのに……』

「反撃しては意味がなかろう。これを課した目的は回避術を身に着けさせるのもそうじゃが、『受けてはならない攻撃の回避』を覚えさせるのもその一つじゃ。強力な攻撃に無理に反撃すれば、痛い目を見るのはお主らじゃ」

 

 

 例えば、と。

 背中に出現させた青白い鞘から太刀を引き抜いたスメラギが、左手の指を刀身に這わせる。

 

 

「儂の一太刀に反撃すればどうなるか、試してみるかのう?」

『二度と受けたくねぇよ、ンなもん』

「い、今は遠慮しておきます……」

 

 

 生前スメラギと対決し、そして狩られたジーヴァは彼の一撃の重みを思い出して断固拒否し、そのような経験がなくともエリシオも彼の提案に首を横に振った。

 磨き上げられた水晶のように透き通った刀身。木漏れ日を受けてキラキラと輝くそれは、素人目で見てもかなりの業物に感じられた。そこから感じられる凄まじいまでのオーラも、エリシオにそう思わせた要因の一つだ。

 狩猟の為のものより、まるで芸術品のような荘厳な美しさを持つそれ。しかし、彼が振るう以上、この太刀は多くのモンスターを葬ってきたはずだ。

 本人にその気はなく、万が一の可能性さえなくとも、自分達までその葬られてきた命の仲間入りしてしまっては堪ったものではない。

 

 

「ほっほっほっ、それでよい。そういう『これはヤバい』と思ったものは、極力避けるのが大切じゃ。しかし」

 

 

 エリシオから離れたスメラギは、周囲に誰もいない事を確認した後、彼らにも見えるようにゆったりとした動作で太刀を振るい始める。

 

 

「戦いの中で、一撃で全てが終わる事などまずない。こちらも相手も常に次の手を考え、実行し続ける」

 

 

 最初に上段。次に斬り上げ。背後に立たれた事を想定してか、背に回した太刀で防御の態勢を取った後、振り向く際の遠心力を利用しての斬り払い。

 

 

「戦いとは常にそのようなもの。一撃を回避したとて、それで安心してはならぬ。本能と理性、この天秤を傾ける事なく、その場における最善手を模索し続けよ。回避か迎撃か、戦闘か逃走か。今の自分にはどれが適切かを正しく選び取る……それがお主らが強敵の中で生き残る、たった一つの道よ」

 

 

 演舞のように洗練された動きで太刀を振るっていたスメラギが両手でその柄を握り締め、一気に振り抜く。

 遠心力を乗せた横薙ぎはそれだけでもエリシオを後退させ、木々をざわめかせ、枝に乗っていたアイルー達を転げ落ちさせる程の風を巻き起こした。それを最後に太刀を鞘に納めたスメラギは、「ほっほっ」と笑ってエリシオに向き直った。

 

 

「この程度で体勢を崩すとは、まだ体幹が出来ておらんの。この後も予定はみっちり入っておる。遅れず付いてくるんじゃぞ」

「は、はいッ!」

 

 

 それから、エリシオとジーヴァはアイルー達の協力の下、スメラギの課す訓練を(こな)していった。

 先程スメラギが口にした体幹の訓練を始め、武器の扱い方や身体能力の強化などを順番に行っていく内に時間はあっという間に過ぎていき、エリシオが気付いた頃には陽も落ちかけていた。

 

 

「うわ、もう陽が落ちかけてる……。時間が経つのは早いな……」

『お、俺様はもう無理だ……頭も体も使いまくったし、もう動きたくねぇ……』

「それは僕も同感かな……」

 

 

 訓練の一環で伐り倒した木の切り株に腰かけ、アイルーから貰った防水加工が施された袋に入った水を飲む。

 数々の訓練で涸れた喉に冷たい水が流れていく心地良さを感じながら沈んでいく夕日を眺めていると、隣にスメラギがやって来た。

 

 

「よく頑張ったのぉ、エリシオ、ジーヴァ。少しずつじゃが形になってきておるが、お主らはどうじゃ?」

「そうですね。僕も、自分の体が少しずつ覚えてきているのがわかります」

『俺様もだ』

「うむ、それでよい。自分で気付けるならば、それはお主らが必死に努力した成果じゃ。これからも精進するんじゃぞ」

「はいッ!」

「では、日が暮れたらまた訓練再開じゃ。しっかり体を休ませておくのじゃぞ」

『はぁッ!? まだやるのかッ!? 飯はッ!?』

「もう少し先じゃのぉ、ほっほっほっ」

『マジかよぉ……』

「あはは……」

 

 

 がっくりと項垂れるジーヴァの頭部に苦笑いを浮かべていると、「エリシオ」とスメラギに声をかけられた。

 

 

「休憩中にすまぬが、お主に聞きたい事がある」

「……? なんですか?」

 

 

 重々しい表情に身構えたエリシオに、スメラギは口を開く。

 

 

「お主は、傷付いている者が目の前にいる時、その手を差し伸べるか?」

「いきなりなにを……。そんなの、当たり前じゃないですか」

 

 

 目の前に傷付いている者がいるのなら、迷いなく手を差し伸べ、助ける。それはエリシオからすれば至極当然な事であり、否定する意味など欠片もないものだ。

 なぜいきなりそのような事をと思っていると、「では」とスメラギが再び問いかけてきた。

 

 

「その者がお主の手の届かない場所……そうさな、あの山の向こうで今まさに死に瀕しているとしても、お主は助けるか?」

「あの山の向こうですか……」

 

 

 スメラギが指差した方角にある、ここからかなり離れた距離にあっても尚巨大な山を見つめ、答える。

 

 

「……助けます。あの山の向こうじゃなく、そのさらに彼方であろうとも、助けられる可能性が少しでもあるのなら、僕は助けに行きたいです」

「…………ふむ、そうか」

「スメラギさん?」

 

 

 答えを返した途端に難しい顔をして俯いてしまったスメラギに、自分はなにかおかしい事を口にしてしまったのかと首を傾げる。

 気付けば、自分の右腕に現れているジーヴァの頭部も『マジか……』と呆れ返っている様子だ。なぜ彼らがそんな反応をするのかわからないでいると、ジーヴァの頭部がこちらへ向けられた。

 

 

『エリシオ、その考えはやめとけ。絶対に後悔するぞ』

「儂も同意見じゃ。そのような考えは捨てるに限る」

「え……ま、待ってくださいッ!」

 

 

 ジーヴァとスメラギ。両者に反対の意を示された事に対する疑問と怒りに、エリシオは無意識に立ち上がっていた。

 

 

「どうしてそんな事を言うんですかッ!? 助けられる命があるなら、絶対に助けるべきですッ! 最初から『助けられない』と諦めていたら、助けられる命も助けられませんッ!」

「うむ、その考え自体は正しい。助けられる命は助けるのが一番じゃ」

「それなら―――」

「じゃが、その考えは身を滅ぼすぞ」

「―――ッ!」

 

 

 瞼が持ち上がって開かれた瞳に、エリシオは息を呑む。

 そこにあったのは、昨晩見たこちらを見定めるようなものではなかった。

 

 徹底的な否定。エリシオという人間が抱く考えを、真っ向から否定する瞳だった。

 

 

「理想を抱くのは良い。夢として語るも良い。じゃが、それを現実にしようとするならば、お主は自身の運命に翻弄され、理想に溺れ死ぬぞ」

「そんな……事、は……」

『お前、あの村の事を忘れたわけじゃねェだろうな? 今お前が言った事を実行するなら、あんな奴らも全員助けるって事だ。で、助けたらどうなると思う?』

 

 

 奴らが満足するまで―――いや、満足し続ける為に一生、骨の髄まで啜られるだけ。

 自堕落に他者からの施しを望み続ける人間以下の寄生虫共(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)を、お前は自分の命だけで養い続ける(・ ・ ・ ・ ・)のだ。

 

 

『それでもいいって言うのなら、俺様はなにも言わねェ。だが、その瞬間から俺様は二度とお前に力は貸さないし、この体からもオサラバしてやる。あんな連中の面倒を見るつもりなんサラサラないしな』

「…………」

「エリシオ。儂やジーヴァが今のお主に伝える事は一つ。―――己の身程を弁える事じゃ。他者を助けようとする気概は素晴らしいものじゃが、その善意は度が過ぎれば押しつけとなり、押しつけはやがてお主自身を取り殺す毒となるじゃろう」

「……でも、僕は」

 

 

 真剣な面持ちのスメラギとジーヴァからの忠告に、しかしエリシオは頷けない。

 度が過ぎる善意は押しつけになり、それはいずれ自分を蝕む毒になる―――それを否定する気はこれまでの彼らの言葉によって起きなかったが、他者を助けたいという気持ちは絶対に捨てられない。それを捨ててしまえば、自分はただ怒りのままに暴れる人間になってしまう。

 そのような人間にはなりたくないと思っていると、スメラギは夕日に視線を移して口を開いた。

 

 

「救うなとは言わぬ。お主は、お主の手の届く者を護るのじゃ。誰であろうと、全ては救えぬ。個人に救えてしまう世界など、吹けば塵となる砂上の楼閣よ」

「僕の手が届く命だけを救う、ですか」

「たかが一個人で出来る事などその程度じゃ。(ジーヴァ)の力を借りれば多少は広がるじゃろうが、世界から見れば雀の涙よ。世界の救済は一人では為せぬ。人々が手を取り合い、正しき道を見定めた時こそ、世界は救われるのじゃ」

 

 

 ―――決して、自分が全てを救うなどと驕るでないぞ。

 エリシオを真っ直ぐに見つめて忠告するスメラギの声色は、多くの人々を見てきた生前と、英霊となって召喚された様々な世界を見てきた経験に裏付けされた、どこまでも冷たいものだった。

 

 自分一人の手で全てを救う事など不可能。それを本気で為そうとすれば、その責任の重さに圧し潰されてしまう。

 エリシオの望む自身の末路とは、それでいいのか?

 

 そう視線で問いかけてくるスメラギになにも言い返せず、エリシオは押し黙る他なかった。

 

 そうだ。なにも言い返せなかったのだ。その道を進んだ先で、自分自身の誓いにより無様に斃れる自分の(すがた)を、想像してしまったから。

 

 

「それでも救いたいと願うのなら、志を共にする者を集めるのじゃ。儂も色々とこの世界を歩き回ったものじゃが、一つの村や集落に収まるような器ではない者達は何人か見かけた。その気になれば、探してみるがよかろう。一人では為せない理想も、誰かとなら為せるじゃろうからな」

「……はい」

「不安そうじゃな。なにか心配か?」

 

 

 先程の忠告と比べれば遥かに希望の持てる言葉のはずだったが、表情が晴れないエリシオに問いかければ、彼は静かに答えた。

 

 

「僕は、その人達を本当に見つけられるでしょうか。ジーヴァを置いて、自分一人の手で全てを救いたいと思ってしまう、こんな僕が……」

「……ふむ。なるほどのぉ」

 

 

 髭の生えた顎に指を這わせ、スメラギは考えを巡らせる。

 今のエリシオは、自分の理想に真っ向から反論され、気を落としてしまっている。そんな彼の気持ちを持ち上げるとするならば、彼と似たように、今この瞬間にもなにかを『救いたい』と願っている者達の存在を伝えるべきだろう。

 そう考えたスメラギは、「ならば」と口を開く。

 

 

「カルデアを待つがよかろう。そうすれば、お主が探す者達も自然と見つかるだろうからの」

「カル……デア……? あの、それはいったい……」

「それはの―――」

 

 

 聞き慣れぬ単語に首を傾げるエリシオに早速説明しようとした、その瞬間。

 

 

「むっ」

「……ッ!!?」

『あ……ッ!!?』

 

 

 彼らの全身に、凄まじい悪寒が襲い掛かった。

 全身の毛が逆立ち、皮膚が粟立つ悪寒。今すぐにでもこの場から逃げ出したくなる程の重圧感(プレッシャー)。凄まじく濃厚な気配に身が強張り、アイルー達の中には恐怖のあまり気絶した個体も何体か見受けられた。

 

 

「この気配は……なるほどの」

 

 

 そんな中でただ一人、この異様な気配に気付いても尚平然としているスメラギは、それの発生源がいるであろう方角に目を細めていた。

 

 

「エリシオ、ジーヴァ。すまぬがこの後の訓練は無しじゃ。儂は、彼奴のところへ行かねばならん。お主らは集落に戻れ」

「そ、んな……だったら、僕も……」

「身の程を弁えよと言った事、もう忘れたか? 第一、その様子で奴の前へ立てば、忽ち恐怖で死ぬぞ」

『ば、馬鹿言うんじゃねェぞエリシオ……ッ! 今の俺様達じゃ絶対太刀打ち出来ねェバケモンだぞ……ッ!? 大人しくここに残れ……ッ!』

「ぐ……ッ!」

「安心せい。集落に手出しはさせん。あちらもそのつもりはなさそうじゃからな。なに、軽く話をする程度よ。場合によっては刃を交える事となろうが……その時はその時じゃ。上手く誘導してここから引き離そう」

 

 

 凍てつくような冷気と共にその巨体を白と紺色を基調とした鎧に包んだスメラギが気配の根源へ向かっていく姿を見送った後、エリシオは彼の言葉通りアイルー達を連れて集落へ戻るのだった。

 

 

 

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 周囲を大小異なる山々に囲まれ、木々が鬱蒼と生い茂る森林地帯は、平野と違って暗くなるのが早い。

 大地に出てきている木の根や茂みなど、足元にある天然の障害物を物ともせずに駆け抜けたスメラギがその気配の根源に辿り着く頃には、先程まで橙色に染まっていた森は暗い闇に閉ざされていた。

 しかし、それすら関係ないと言うかのように真っ暗な森林を迷う事無く走るスメラギ。その視界が目的の存在を視認するまで、そう時間はかからなかった。

 

 先程エリシオへの忠告の際に自分が指差した山の頂上。暗闇に支配された中で唯一月光が降り注ぐその地に、彼女(・ ・)はいた。

 

 

「久しいの、煌黒の」

「……あぁ、久しぶりだな。“青い星”」

 

 

 スメラギに背を向ける形で夜空を見上げていた女性―――アルバが振り返る。

 目深に被った軍帽の奥にある龍特有の瞳孔を真っ直ぐに見つめ返したスメラギは、自身の異名を口にされた事に「その名で呼ばれるのはいつぶりかのぉ」と笑い、顎に指を這わせた。

 

 

「お主と最後に出会ったのは……はて、いつの頃だったかのぉ」

「我ら英霊に時間の概念などない。過去に出会う事もあれば、遥か彼方の未来でも出会う。記録の有無もあるのだから、いつが最後なのかなど、わかるはずもない」

「ほっほっ、それもそうか。……そちら(・ ・ ・)も久しいの、“黒龍”」

「……やはり気付かれていたか」

 

 

 スメラギが視線を暗闇の方に向ければ、そこで今まで霊体化していた男性―――ボレアスが霊体化を解いて姿を晒した。

 

 

「末妹の付き添いか? 妹想いのいい兄じゃのぉ。それとも白き祖の差し金か? どちらにしても、元気そうでなによりじゃ」

「両方だ。私がお前と出会ったのは大戦時代(・ ・ ・ ・)のみだったが、そちらも変わらないようだな。……私の事はどうでもいい。今の私は末妹(アルバ)の付き添いだ。彼女の話を聞いてほしい」

 

 

 自分から話す事はないと示すようにボレアスが数歩後ろへ下がると、彼と入れ替わりに前へ踏み出したアルバが口を開いた。

 

 

「……貴方がこの世界に来る事は、遠からず予感していた。私が異聞帯に味方し、汎人類史が危機に瀕している。惑星(ほし)が私という敵の対処に最適な存在を選出するならば、貴方しか該当しない」

「そうじゃの」

 

 

 幾星霜もの年月をかけても、あらゆる自然現象を操る規格外の“禁忌”を相手に勝利を収められる英霊などまずいない。そんな存在を相手取り、尚且つ打倒を成し遂げんとするならば、惑星(ほし)が選出する英霊はたった一騎―――かつて、その手で“煌黒龍”を狩猟した狩人しかいない。

 それこそが今、アルバの目の前に立つ男。歴史に名を遺した狩人達の最上位にして、自分と同じ規格外の怪物。かつての人類史より生まれ落ちた、人の世に属さぬ異物(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)

 故に、アルバはただ会話をしているだけでも、彼への警戒を怠らない。

 尤も、それはスメラギも同様なのだが。

 

 

「して、いったい何用じゃ? まさか、このような場所であの戦いの再演をするつもりか?」

「…………そのつもりはない。今回は上兄上が言ったように、貴方に話があっただけだ」

「そこは断言してほしかったのぉ。して、話とは?」

「―――貴方には、この異聞帯から手を引いてほしい」

「……ッ! これはこれは……」

 

 

 想像もしていなかった、僅かに頭を下げてからの頼みに、スメラギの片眉がつり上がる。

 なぜ彼女がそのような事を言うのか気になったスメラギは、そのまま無言で彼女に話の続きを促す。

 

 

「我らは今、ある計画を進めている。それは―――」

 

 

 そして、アルバはスメラギに語る。自分達“禁忌”を統べる存在―――“祖龍”の目的を。

 ぽつぽつと、アルバが事前に許可された範囲での情報を伝え終えると、スメラギは「うぅむ」と腕を組んで唸り声を上げた。

 

 

「なるほどのぉ……。それならば、お主が儂に手を引けと言ったのも納得がいく。儂が手を出しこの異聞帯を消滅させてしまえば、逆に人類に不利益となるか」

「その通りだ。二つの時代を生きた貴方(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)なら理解してくれるはずだと思い、話した。だから頼む。この異聞帯から―――」

「じゃが、それがどうした(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)

「……なに?」

 

 

 先程の言葉の後に、即答で拒否の言葉が出てくるとは思わなかったのだろう。軍帽の奥にあるアルバの瞳が僅かに見開かれ、直後にスッと細められた。

 

 

「……話がわからなかったのか。この異聞帯が消えれば、人類は人類でなくなる。貴方達が護り抜き、今まで命を繋げてきた者達が、滅びるんだぞ。なのに、なぜ」

「儂らの後に続く者達は、お主らが思う程脆弱ではない。今が危機的状況なのは理解したが……それでも、いずれ彼女らはこの世界を救い、人類は新しい時代を切り拓くじゃろう。霊長の座を次に明け渡し、自らの時代に幕を下ろす。それこそ自然の摂理であり、儂が座より見届けようと誓ったものじゃ」

「それは我らとて理解している。だから我々は、その終わりをより良いものにしようと―――」

「その為に今ある人理を破壊してしまっては意味がなかろう。……話はこれで終わりじゃ。儂は手を引かぬし、お主らの計画を止める。これが全てじゃ」

「…………」

「さて、儂は帰るとしようかの。育て甲斐のある弟子がおるのでな、彼らの成長を促すのも存外楽しいからのぉ」

 

 

 踵を返し、エリシオ達のいる集落へと戻ろうとするスメラギ。

 しかし帰路につきかけた彼の足は、次の瞬間には止まる事になる。

 

 

「……ならば、帰すわけにはいかないな」

 

 

 ズオオオォォォ……、と。

 背中に叩き付けられる強烈な魔力に振り向き、背中の太刀に手をかける。

 

 

「やれやれ……やはり、こうなるか」

「今この瞬間、貴様は我らの夢を阻む敵となった。ここで抹殺する」

 

 

 アルバの右手から、龍属性特有の赤黒いエネルギーが滲み出る。

 それが徐々に槍の形に変化していくのを認めたスメラギが素早く腰を落とし、背中の太刀をいつでも引き抜けるようにする。

 

 両者の全身から漲る、可視化されるまで濃密な魔力がせめぎ合い始める。

 スメラギの身から溢れるのは、彼が身に纏う鎧の基となった古龍の冷気。あまねく全てを凍てつかせる絶対零度の魔力が大地を真白に染め上げていく。

 アルバの身から迸るのは、彼女が司る五つの元素(エレメント)。自然界と、それを統べる龍の力が欠片も乱れる事なく完璧な配分で融合した魔力が、彼女を中心に世界を浸食していく。

 

 なにか一つの切っ掛けさえ起これば爆発しかねない彼らの魔力に、僅かに肩を落としたボレアスが彼らの前の空間を捻じ曲げ、こことは遠く離れた空間と接続する。

 

 走り出した両者がほぼ同時に空間の捻じれへと飛び込んだ直後、凄まじい轟音が夜空に響き渡った―――。

 




 
 如何にも次回スメラギVSアルバな終わり方ですが、申し訳ありませんがそこはカットします。彼らの戦いはシュレイド異聞帯編でしっかり執筆していきたいので……。
 次回は久しぶりにですが、ルーツとカドックの話を投稿する予定です。以前記載したクリプター強化イベントですね。

 それでは、また次回ッ!
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