ドーモ=ミナサン。
ハロウィンイベントでまさかのアルテミット・ワン登場という衝撃がありつつ、その元ネタが出てくるシリーズの続編も発表されるという衝撃の二段構えを受けたseven774です。
キングエリザ、名前やビジュアル、設定からしてなんとなく元ネタがキングギドラだとわかってはいたのですが、まさかゴジラシリーズの方でも-1.0の続編発表が来るとは思いませんでした。ここまで見越してのハロウィンイベントなんですかねぇ……。
今回はカドック強化回です。色々と書いていたら長くなってしまったため分割しましたので、文字数は少ないです。
それでは本編、どうぞッ!
「なるほど……結局、そうするしかなかったんだね」
「はい。それしか道はないと、判断しましたので」
シュレイド城中庭。
椅子に腰掛けて報告を聞き終えたルーツは、自分の前に座る、重々しい表情で俯くアルバににこやかに微笑んだ。
「そう気に病む必要はないよ。彼が私達の目的に賛同する存在じゃない事ぐらいわかってた。君も、それをわかった上で敢えて聞いたんだよね?」
「……はい」
小さく頷くアルバに、ルーツは「そんなに気にする必要はないのに」と一人心中で呟く。
数日前、スメラギに会いに行くと伝えに来た彼女を見送ったものの、交渉決裂となった彼女はスメラギと戦闘になった。その結果として三日三晩、彼女はこの城を空ける事になったが、それでもスメラギの退去は叶わなかった。
しかし、ルーツはそんな彼女を咎めるつもりはなかった。
確かに、サーヴァントとなったハンター達の中でも別格の存在である彼が敵に回ったのは注意すべき問題だが―――。
「退去まではいけなかったけど、彼に致命傷を与えるまでは出来た。今はそれで充分だよ、アルバ」
「ですが、それだけです。致命傷を与えた上で、逃がしてしまった。
満足な消耗もさせずに逃がしたのではなく、『致命傷を与えた』という事実があればよいと口にしたルーツ。しかし、それにもアルバは首を横に振って答えた。
実のところ、交渉決裂の末のスメラギとアルバの戦いは、アルバが優勢のまま進んでいた。
生前であれば自身の内包する属性エネルギーを完全に扱い切れずに敗れてしまった彼女であったが、今の彼女は異聞帯の自身を取り込んだ末、不安定な属性エネルギーを完璧に制御下に置く事に成功している。完璧に自然界に満ちる属性の力を振るう彼女には流石のスメラギも劣勢に立たされたようで、少しずつ勝敗の時が近付きつつあったようだ。
しかし、アルバの渾身の一撃により致命傷を負ったスメラギは、奥の手の一枚を切った。
空間を切り裂き、
異聞帯の切除を目指す抑止力により召喚された存在が、その討伐対象に背を向けて逃走の手を取る―――その情報だけならば後ろ指を指されるだろうが、ルーツはそうは思わなかった。
劣勢に立たされ、その上致命の一撃さえ受けてしまったスメラギが即座に逃げの一手に走ったのは、彼の素晴らしい状況判断能力によるものだと考えていたからだ。
サーヴァントという存在は、誰もが揃って我の強い者達の集まりだ。そんな彼らがもし致命傷を受けたのなら、彼らの取る手段は決まって最後の一手は一発逆転の切り札である宝具を使い、逆境の中の勝利を得ようとするだろう。
しかし、スメラギはその選択肢を即座に切り捨て、逃走の道を選んだ。そして、彼が逃げ道に選んだ先にあるのは、彼と、彼と同じ偉業……『空位』への到達を成し遂げた者達のみが行ける世界だ。
世界を拓く鍵としての力を持つアルバの持つ槍であっても、そこへは辿り着けない。鍵を持っていてもそれを入れ込む錠が違う点もそうだが、そもそもアルバが『空位』に到達していないのだから。
「でも、そんな離れ業はそう易々と使えるものじゃないと思う。傷の回復にも時間をかけるだろうから、しばらくは放置していいよ。どの道こっちから手出しは出来ないからね」
「わかりました」
「君も傷を癒しておいで。ムフェトのお世話は私達に任せて」
「ありがとうございます」
頭を下げたアルバが席から立ち上がると、ルーツに背を向けて歩き出す。
その身を霊体化させていくアルバの背を見送ったルーツは、テーブルに置いていた右手を持ち上げて五指を開いた。
(スメラギを撤退まで持ち込めたのは僥倖ね。引き際をわかっている以上、逃げられるのは予測できていた)
広げられた掌を中心に出現する、数々の魔術式で構成された魔法陣。時計回りに動いていくそれを時折左手で操作しながら、ルーツは思考を続ける。
(人類の行く末を見守る彼が、私達に敵対の意を示した。ショックなのは否めないけど、彼の言い分も理解は出来る)
自然の調和を図る役目を持つハンター達の中でも、彼はそれを最も体現した存在だ。故にこそ、彼は数多の狩人達の皇足りうるのだ。
アルバからの報告には、彼は自分達の目的の為に今ある人類史を潰しては意味がないと口にしたとある。真に人類史の未来を想うのなら、長い目でこの先の人類を見守るべきという事なのだろう。
では、その長い目を持った上で、目の前に現れた可能性に縋り付いた自分は―――
(自分の理想でしか世界を認められない、我儘な女か)
かつての自分。それこそあの大戦よりずっと前の自分であれば、このような行動は起こさなかっただろう。あの頃の自分は星の存続のみを是としており、理想なんてものはまず持っていなかったから。
しかし。
(それでも、私はやめられない。そうしなければ地球の生命も、地球そのものも滅びてしまう。あの男の
マリスビリー・アニムスフィアの計画だけは、必ず阻止しなければならない。彼のような人間を生み出さない、強い心を持った人類の歴史を創らなければならない。
その為であれば、自分はどのような苦言も受け入れよう。数多の屈辱を受け、苦汁を舐めさせられても、必ず成し遂げる。成し遂げてみせる。
胸の内で決意を改めて固め、そちらに割いていた思考を魔法陣に向けていた思考に同期させようとした瞬間、背後から二つの気配が近付いてきている事に気付いた。
「アンナ、少しいいか?」
魔法陣から目を離して振り向いたルーツは、自分に声をかけてきた者を見て片眉をつり上げた。
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「カドック? それにアナスタシアも……どうかしたの?」
中庭で一人、なにかしらの魔法陣を操作していたルーツに声をかけたカドックは、こちらに振り向いてきた彼女にここに来た要件を口にした。
「頼む、アンタの力を借りたい。少し行き詰っててな……」
「私の? もちろんいいよ。なにが行き詰ってるの?」
「……僕らの実力不足についてだ」
少し俯きながらそう答えたカドックに、ルーツが首を傾げる。
「実力不足……? 今の君達は特に問題はなさそうに思えるけど。ブリテンでもアルトゥーラやオベロンを相手に生き残ったんだから、実力は充分にあるんじゃないの?」
「……あの時僕らが出来ていたのは、悔しいがサポート程度だ。目に見える一撃を叩き込む事も出来なかった。……僕がアンタに協力する理由は、この前話したよな?」
「うん。カルデアとの再戦だよね。……そうか、その為に強くなりたいんだね?」
「……悔しい話だが、僕らだけじゃ満足な成長は見込めない。僕は当然として、アナスタシアも完全な戦闘系サーヴァントじゃない」
カルデアに在籍していた頃のカドックが召喚予定だったサーヴァントのクラスは、他クラスと比べて魔力消費量の少ないキャスターだった。自身の魔力量が他のメンバーと比べて低いカドックにとって、それを補って余りある素質を持つ英雄が多いキャスタークラスは是非とも召喚したいと考えていたのだ。コスパの良さについても、エクストラを含めたクラスの中でも上位に位置するだろうとも。
しかしその反面、キャスタークラスの英雄は純戦闘タイプが少ない。三騎士クラスを相手取れば単純な戦闘技能で劣るし、バーサーカーが相手では圧倒的な力の前に捻じ伏せられる。アサシンクラスならば良い戦いが出来るかもしれないが、アサシンなどそもそも正面からぶつかってくるような相手ではない、キャスタークラスとは似て非なる搦手使いの多いクラスだ。それでも隙を突かれれば一瞬で殺される可能性があるので、五分五分といったところかもしれない。
もちろん、キャスターにも利はある。陣地作成スキルを用いて工房を拵え、持ち前の魔術で手数を増やし、力の差を覆す事が可能だ。
真っ向から戦えば勝率は低いが、徹底的に好条件を揃えれば勝率はぐんと跳ね上がる。それがキャスタークラスだ。
しかしこの利点は、カルデア―――藤丸立香相手ではまず心許ないものだ。
七つの特異点に、六つの異聞帯。場合によってはその最中にあったであろう戦いも含めれば、彼女は数多の逆境を覆してきた強者だ。現にカドックも、かつてロシア異聞帯で盤石の布陣を整えたというのに、最後にはそれを覆されてしまった経験がある。
「大口を叩いた上でこんな事を頼むのは嫌だが……それでも、僕は彼女達に勝ちたい。なにかいい案はないか?」
正直な話、今のカドックの手元には満足のいく手札がないのだ。そのような状況などまずないのが常であるが、せめてそれに近い手札は用意しておきたい。
そう思いながら訊ねてみれば、「ん〜……」とルーツは顎に指を這わせながらカドックを見つめた。
「質問で返しちゃうけど、それに頼り切るつもりはないんだよね?」
「もちろんだ。あくまで手札の一枚で、
「
「……毎日欠かさず。お陰で多少強くなった感覚がある」
この異聞帯に巡る龍脈が最終的に行きつく場所は、このシュレイド城だ。具体的に言うとこの地下にいるムフェトの下なのだが、その丁度真上に当たるここは常に濃密な魔力に満たされている。
極限までに純化された魔力は、上手く扱えれば魔術師の実力を上げる事が出来る。何者のものでもない透明な魔力を、必要な分自分の色に染めて取り込むのだ。現に大西洋異聞帯が消えた後しばらくここに埋まっていたというキリシュタリア・ヴォーダイムは、オリュンポスにいた時よりも魔術回路が強化されていた。
カドックも、彼程ではなくとも少しだけ自分の魔術回路が以前よりも強化されているのがわかっていた。しかし、それでも尚
「他の手札について聞かせてもらえる? 判断材料にしたい。気になったところは質問させてもらうよ。アナスタシア、君にもね」
「えぇ、わかったわ」
「じゃ、聞かせてもらおうかな」
「それなら、最初は―――」
ルーツに促されるままアナスタシアと共に椅子に座り、彼女に自分の持つ手札―――想定敵である立香や、強力な敵を相手に自分達が使う手段について説明していく。
一つ一つを事細かに説明するカドックにルーツが相槌を打ちながら、時折彼やアナスタシアに簡単な質問を投げかけてはその答えを受け取り続ける時間が過ぎていき、やがてカドックが最後の説明を終えると、ルーツは「……うん」と静かに頷いた。
「しっかり考えているようだね。いいよ。力を貸してあげる」
「本当か? 助かるよ、アンナ」
「ただしッ!」
感謝の気持ちを表そうと頭を下げようとしたカドックに、ルーツが人差し指を立てた。
「
「あの子……?」
「具体的な話はその時するよ。とにもかくにも、まずは出発しようか」
「えっ、は……ッ!?」
パチンッとルーツが指を鳴らした直後、カドックとアナスタシアを緋色の魔力が囲い込み、球体の形を取る。
いきなり魔力の球に閉じ込められるという事態に動揺するカドック達をそのままに、背中から翼を生やしたルーツは彼らの入った球を操作してシュレイド城から飛び立った。
「お、おいアンナッ! どこに行くんだッ!?」
「君達に相性のいい子がいる場所だよ〜。耐寒魔術を発動しておいてね。凄く寒い場所だから」
「わ、わかったッ!」
どこが目的地なのかはわからないが、とにかく寒い場所だという事はわかったので、すぐに耐寒魔術を自身にかける。
それが終わった直後、全身に感じていた浮遊感が消え、次いで自分とアナスタシアを包むルーツの球も上から崩れるように消えていった。
「……ッ! ここは……」
球から解放されて最初に感じたのは、目や肌を突き刺す冷たい強風だった。
咄嗟に右腕で自身の顔を庇いながらも周囲を確認する。
凄まじい猛吹雪が吹き荒れる、一面の銀世界。上空には欠片の日光も射し込む余地のない暗雲が立ち込めている。さらに注意深く遠くを見てみれば、今自分達が立つ場所を囲むように純白の山々が聳えているのがわかった。
「雪山……か」
「当たり。ここはシュレイド異聞帯の中でも特に吹雪が起こりやすい雪山でね、あの子もここが気に入ってるのか住処にしてるみたい」
これらの情報から自分達がどこに降り立ったのかを把握すると同時、この猛吹雪を物ともしないルーツが微笑みを浮かべた。
「少し歩くよ。いきなりあの子の前に降りたらびっくりさせちゃうからね」
くるりと踵を返して歩き出したルーツについていく。
自分達だけだったら間違いなく遭難してしまうであろう、猛吹雪に包まれた薄暗い銀世界を迷う事なく進んでいく彼女の後をひたすら追いかけていくと、不意に彼女が立ち止まった。
「着いたのか?」
「うん。ちょっと離れててね。今から呼ぶから」
「あぁ」
カドックがアナスタシアと共に距離を取ると、ルーツが右手を掲げ、そこから緋色の雷を放つ。
地上から天空へと向かっていく緋雷が雷鳴を轟かせると、数秒の間を置かずにどこからか馬の
瞬間、ルーツの前方に白い冷気が集まり、その中から黒い影が現れる。
無駄な肉が一切ついていない、ぼんやりとした白い光を纏う、しなやかな漆黒の体。頭部から後方へ伸びる
実物を見た事はないカドックだったが、叙事詩から得た知識をそこに佇む存在と照らし合わせ、即座にその正体に行き着いた。
(“幻獣”キリン……それも亜種かッ!)
“冰龍”イヴェルカーナと同じく冷気を操る、この異聞帯に生きる古龍種の一角。雷を操る通常種と異なり氷を司る存在であるそのモンスターは、かつて一夜にして国一つを氷に閉ざしたという伝説が残されている。
そんな存在が目の前にいるという事実に無意識に全身が強張る中、ルーツがキリン亜種に話しかけた。
「いきなり来てごめんね。君に頼みがあるんだ。そこにいるカドック・ゼムルプス君と、そのサーヴァントであるアナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァちゃん。二人の力になってほしいの」
ルーツの言葉に、キリン亜種の視線がカドック達に注がれた。
「……ッ!!」
心の臓を鷲掴みにされた感覚。ただ見つめられただけだというのに、次の瞬間には殺されると確信してしまう程の威圧感。
カドックとて、彼女の協力を乞う前から心構えはしていた。ただで力を貸してくれる程甘くはない彼女が、はいそうですかとこちらの要求を吞んだりはしないだろうと。こいらの要望を叶える為に、なにかしらの試練を用意してくるだろうとも考えていた。
だがやはり、覚悟を決めた上でも、この不吉な感覚は彼の心身を容赦なく蝕んできた。
全身から噴き出した冷や汗の不快感さえも、今この瞬間では気にもならない。それ程の圧倒的な威圧感が今、彼に襲い掛かってきていたのだから。
「カドック」
不意に袖を引っ張られる。咄嗟にそちらを見やれば、アナスタシアがカドックの袖を指で摘まんでいた。
その視線は自分ではなくキリン亜種に向けられているが、その瞳に恐怖の色は微塵もない。寧ろキリン亜種を見つめ返し、その威圧感に真っ向から対抗していた。
誰にも屈する事のない王族らしさを感じさせるその姿に、カドックは先程までの自分が酷く情けなく思えた。
(馬鹿か僕は……ッ! 僕が気圧されてどうするッ! 彼女のマスターなら、この程度で負けていいはずがないじゃないかッ!)
ただ見つめられただけで気圧されてしまった弱い自分を心中で殴り倒し、意識を強く持ってキリン亜種に睨みつける。
カドックの気配が変化した事を感じ取ったのか、睨みつけられたキリン亜種が瞬きし、ルーツへ視線を戻した。
「……うん、うん。わかった。君がそう言うのなら、そうしようか」
カドック達にはわからないが、ルーツの口元に笑みが浮かんでいるのを見る限り、キリン亜種は自分達に悪印象を抱いているわけではなさそうだ。
「カドック、アナスタシア。この子、君達を気に入ったみたい。でも力を貸すなら、まずは君達の力を示してほしいんだって」
「力を示す……。という事は、戦うのか」
「そう。言っておくけど、小手調べじゃないから本気で戦ってね。この子も本気でいくから、下手すると死ぬよ」
「それなら丁度いいさ。その方が僕らもやりやすい。アナスタシア、行けるか?」
「もちろんよ、カドック。私達の力、あの古龍に示しましょう」
カドックが自らのサーヴァントと頷き合うとキリン亜種が後方へ下がり、ルーツも彼らから距離を取る。
「話が早くて助かるよ。それじゃあ、始めようか」
キリン亜種の蹄が足元の雪を掻き飛ばし、ブルルと首を振るって臨戦態勢に入る。
それに伴って吹雪の勢いが強まる中、カドック達もまた意識を戦闘時のそれへと切り替える。
「一切の容赦はいらないわ―――殺しなさい」
構えるカドックとアナスタシアに、キリン亜種が甲高い嘶きを上げて襲い掛かった―――。
・『キリン亜種』
……シュレイド異聞帯に生きる古龍種の一体。拠点である雪山でのんびりしてたらいきなりルーツ達が来てビックリ。最初からこちらに対して怖気付いていないアナスタシアは当然として、最初は怯んでいたカドックが奮起したのを見て彼らを試そうと決める。
はい。カドック達の強化試合の相手はキリン亜種となりました。なぜイヴェルカーナではなくキリン亜種なのかについては次回説明したいと思います。
公式に忘れ去られた苦い経験を持つこの古龍ですが、この作品では活躍の場を用意してあげたいので、頑張って書いていきたいと思いますッ!
それではまた次回ッ!