ドーモ=ミナサン。
前話投稿後、お気に入り登録者数が一気に増えたのが気になって調べてみたところ、まさかのランキング入りしていたという事実に驚愕したseven774です。
数日と経たずにランキング外になってしまいましたが、それでもまたランキング入りできたのは本当に嬉しかったですッ!
キャスター戴冠戦が始まりましたね。皆さんは誰をグランドにしましたか? 私はずっと昔からグランドにすると決めていた水妃モルガンを選びましたッ! 今回の配布サーヴァントも無事ゲットできたので、彼もしっかりと育てていこうと思いますッ!
今回は前回後半を含めてのミクトラン編導入回です。
それでは、どうぞッ!
シュレイド城、円卓の間。
普段はシュレイド異聞帯に滞在するクリプター達の今後の活動などについて話し合う為に使用される事が多い部屋だが、現在そこには重々しい空気が満ちていた。
『長く語る時間はない……。手短に伝える』
彼らの視線の先に浮かぶのは、半透明のデイビット・ゼム・ヴォイド―――彼の通信履歴を再生したものだった。
円卓に座るルーツ達の視線を受けながら、酷く顔色の悪い表情で彼は続ける。
『俺のサーヴァント、テスカトリポカが……
(ッ、テスカトリポカ……ッ!?)
それは確か、アステカ神話における最高神の名では……と驚愕を露にするカドックだったが、すぐに動揺を抑えつけて周りと同じようにデイビットの言葉に耳を傾ける。
『テスカトリポカの霊基はアサシンだったが、奴が表に出た瞬間、クラスが変化した。その名は、フォーリナー……地球外の因子を有する、降臨者のクラスだ』
聞いた事のないクラス。七騎士のサーヴァントのどれにも該当しない、
黙って腕を組んでいたルーツの眉が僅かにピクリと動くのに気付いた者は、この場には誰もいなかった。
『奴は、俺のいる南米異聞帯を大きく作り替えた。自らの姿を自在に切替え、オセロトル達を扇動し、急速に文明を発展させた。
『■■■■■……■■■■■ッ!』
『■■■ッ!』
デイビットの顔が弾かれるように上がった直後、聞き慣れない言語が聞こえてくる。その意味を完璧に理解する事は出来ないが、声色から察するに、司令塔らしき存在が部下に命令を下しているように感じられた。声の大きさから察するに、かなり近付かれているのだろう。デイビットの額には焦燥による汗が浮かんでいた。
『最後にこれだけ伝えておく。テスカトリポカを乗っ取った時、奴はこう言った。
ブツン、と。
最後の言葉を言い終える前にデイビットの体は掻き消え、それきり彼の姿が現れる事はなかった。
「……これが、デイビットからの通信記録だ。この城が襲われた時間と、この通信記録が最初に再生された時間がかなり近い事からも、オフェリアが確認した可能性が高い。そして、自身の姿を自在に変化させられるという事から、彼女を攫ったと思しきサーヴァントは今の話に出てきたサーヴァント……テスカトリポカの霊基を乗っ取った何者かと推測される」
シンとした静寂を、キリシュタリアの声が破る。
「シグルド。貴方はオフェリアを護る為に正体不明のサーヴァントと交戦したと言っていた。貴方が戦った相手は、今の情報に当てはまる存在だったか?」
「肯定。彼の語った情報と、当方が交戦したサーヴァントの特徴は一致している。同一存在と見て間違いないだろう」
「彼女とのパスに変化は?」
「特になにも。かなり離れているが、彼女からの魔力供給は続いている。念話の応答はなく、令呪による転移も行われていない以上……それらをするのが困難、または不可能な状態にあると予測する」
「生存は確認されているが、不安要素が多いな……。しかし、テスカトリポカか……」
難しい顔つきとなったキリシュタリアが顎に指を当て、自分と同じくこの部屋にいる面々を見渡す。
「テスカトリポカについては、この場の全員なら知っているだろう。アステカ神話に語られる、ケツァル・コアトルと対を成す主神格の一柱だ。サーヴァントになっているとはいえ、神霊サーヴァントの霊基を奪える存在などまずいない。可能性があるならば、テスカトリポカの化身だが……心当たりのある者はいるか?」
「それなら……」
最初に手を挙げたカドックに、全員の視線が向けられる。
「黒のテスカトリポカじゃないか? あの神には四つの姿があると言われている。その中で最も霊基を奪う可能性が高いのは、黒だと思う」
アステカ神話において、テスカトリポカの名を持つ神は四柱いるとされている。それぞれは
その中でカドックが挙げた黒のテスカトリポカは、相手の意見を全く聞き入れない、残忍で冷酷な戦神だと伝えられている。
デイビットが召喚したテスカトリポカがどの側面が表に出ているかはわからないが、他の側面と比べて無理矢理表層に出てくる可能性が高い側面となると黒なのではないか、というのがカドックの考えであった。
しかし、これには一つの穴があった。
「それなら、なんでフォーリナーになったのよ。デイビットの言う通りなら、それは地球外の要素を持つ英霊達のクラスなんでしょう? テスカトリポカは南米大陸……地球の神霊よ。まさか、南米の神の正体が宇宙人だったとでも言うつもり?」
「う……っ、そう、なんだよな……。そこなんだよな……」
デイビット曰く、霊基を奪われた時、テスカトリポカのクラスはアサシンからフォーリナーに変わったという。そのフォーリナークラスに選ばれるのは、宇宙になにかしらの縁を持つという事。虞美人の言ったようにテスカトリポカという神霊の正体が宇宙人だったとすれば自分の考えにできた穴も埋められるのだが、流石にそんな荒唐無稽な話は―――
「その言葉、半分正解……というところだよ、ぐっちゃん」
「は……」
カドックと虞美人の視線が、今まで黙っていたルーツに向けられる。
虞美人が冗談のつもりで口にした言葉に対して「半分正解」と言ってのけた彼女に、キリシュタリアが問いかける。
「アンナ。君は知っているのか? オフェリアを攫ったサーヴァントの事を」
「確信は持てない。でも、可能性は高いと思ってるよ。……でも、教えられない」
「なに……? どういう事かな」
知っているのなら是非教えてほしいんだが―――両手を組んで僅かに身を乗り出したキリシュタリアに対し、ルーツは少しだけ顔を俯かせて答えた。
「もしも私の考えが当たっていたら……危険すぎる。君達からすれば、特に」
「それ程までに危険な存在なのか? オフェリアを攫ったサーヴァントは」
「
「無限に等しい姿を持つ存在ね……だったら、私達全員でかかるべきじゃないかしら。貴女のサーヴァント達も加えれば、早期決着も狙えるんじゃ……」
「それは無理だ」
幾ら強力な敵だろうと、弱体化しているとはいえこの星の最上位に君臨するルーツや、ボレアスを始めとした彼女のサーヴァント達も加えたメンバーで挑めばいいのではないか、という虞美人の考えは、ルーツの背後に立つボレアスによって否定された。
「奴を相手に早期決着は出来ない。自分が愉しむ
「そう。だから全員で袋叩きにしようとするのは絶対に駄目。逆にあいつの
今でも、瞼を閉じれば嫌でも思い出せる。
今よりも遥か昔の、古の時代。突如現れたあの異邦の存在が、同胞達を異形の怪物に作り替えて争わせた時の、悍ましく忌々しい記憶。
自分が愛した者達が、その意思に反して互いに殺し合うという地獄。それを指先一つで作り上げた男の、あの邪悪な嗤い声。無邪気という名の残酷性をそのまま形にしたような、あの邪悪なる者の姿を。
「殺、ス……今度こそ、必ず……ッ!!」
「アルバ。気持ちはわかるけれど、今は抑えなさい。キリシュタリア達が死ぬわ」
牙を剥き出しにした、ボレアスの隣に立つアルバに釘を刺す。
アルバも必死に抑えてはいるのだろう。しかし、それでも彼女の胸の内に収まり切らぬ激情が魔力の奔流となって溢れ出しており、周囲の空間を大きく浸食し始めていたのだ。その影響もあるのだろう。キリシュタリア達の顔色が一気に悪くなっており、死にはしなくとも、今にも失神してしまいそうになっていた。
「ですが上姉上……ッ!」
「大丈夫。オフェリアちゃんのサーヴァントであるシグルドは当然として、貴女も必ず連れていく。だからもう一度言うわ―――
「…………はい」
顔を動かし、横目でルーツに見つめられたアルバが、大きく息を吸い込んで乱れた精神を整える。それに伴うように乱れていた空気も少しずつ元に戻っていき、キリシュタリア達の顔色も穏やかになっていった。
「た、助かったよ、アンナ……。危うく彼女に殺されるところだった……」
「でも、今のはほんの少し魔力が漏れただけ。あいつがいる場所に行けば、もっと高密度の魔力が溢れ出すよ。……悪い事は言わないから、今回君達は来ないで。アルバ以外はここに残していくから、ね?」
ボレアスのような空間の歪みを利用しての移動能力こそないが、アルバにはそれを補って余りある程の力がある。ボレアスにはシュレイド異聞帯に残ってもらい、既に厳戒態勢になっているバルカンとミラオスと共に、事態解決まで護ってもらう予定となっている。その間にルーツはアルバと共にオフェリアの奪還、および彼女を攫った存在の討滅を果たすと決めていた。
しかし、そこにキリシュタリア達を同行させるわけにはいかなかった。
スメラギのような好敵手ではない、怨敵と呼ぶべき存在を前にすれば、アルバは間違いなく自身の全力を発揮する。その身に宿る
だからこそ、ルーツは彼らの同行を認めなかった―――しかし。
「いいや、僕も行く」
それに異を唱える者が、一人いた。
「……カドック」
細められた切れ長の瞳が、自身も同行すると言った人物に向けられる。
「私の言葉が理解できなかったのかな。今回の相手はブリテンのオベロン達とも違う、全くの別物なんだよ。私達も出し惜しみは出来ないし、君達を巻き込みたくもない。だからここに残ってほしいって言ったんだよ」
「わかってるさ。でもな、今のアンタは間違いなく冷静さを失っている。オフェリアを取り戻したいという気持ちなら、僕らにだってある。けど、アンタのそれは異常だ。それこそ、僕らがいなかったらなにも考えずに突っ込んでいきそうなぐらいに。そして、そんな奴の末路は大抵決まってる」
なにも成せずに朽ち果てる。そんな、誰も救われない最期だ―――そう断言したカドックに、ルーツの腰が僅かに持ち上がる。
額に青筋を走らせ、牙を僅かに剥き出させてカドックを睨みつけるが、彼の言葉を脳内で反芻させたのか、表に出てきた怒りの感情は少しずつ消えていき、立ち上がりかけていた体を椅子に戻した。
「……そう、だね。ごめん、カドック。君の言う通り、冷静さを失ってたかも」
大切な女性を、かつての怨敵に攫われたという事実に対し、ルーツは努めて冷静であろうとしていた。しかし、無意識に怒りを抑えつけている間に、『今の自分は冷静だ』と錯覚してしまっていた。今一度自分の胸に問いかけてみれば、確かに怒りで冷静さを失っていたとわかった。
「あの子を奪われて、冷静でいられるはずもなかったか……。ありがとう、カドック。君のお陰で気持ちを切り替えられたよ。……それで、私達と一緒に行くって話だけど……本当にいいの? 最悪の場合、死ぬよりもずっと辛い目に遭う可能性だってある。それでも君は、君達は……私達に同行してくれる?」
「当然だ。第一、死ぬよりも辛い目に遭うかもなんて話、
カドックとて理解はしている。ルーツの言う『死ぬよりもずっと辛い目』とは、自分達魔術師の理解を超えたものである事を。
しかし、それでもカドックはそう口にした。多少の強がりもあるが、ここはそれを承知でも言うべきだと思ったからだ。
「……ふふっ、それもそうだね。それじゃあ、お願いするね。でも……追加でもう一つお願いしたい」
「なんだ?」
「さっきは君のお陰で大丈夫だったけど、もし向こうでもなにかしらの事があったら、君達に助けてほしい。たぶん、向こうは私やアルバの精神を抉ってくるような手を打ってきて、私達はきっと、それが相手の思う壺だとわかっていてもハマっちゃう。その時に、私達の手を取ってほしいの」
「最初から引っかかってくれなければいいんだけどな」
「当然、私達も用心するよ。でも、万が一という事もある。その時はよろしくね」
「あぁ、約束する」
「……話は決まったようだね。では、次に確認すべきは彼女の居場所だな」
頷き合うルーツとカドックを見たキリシュタリアが、次の議題に話を移す。
「シグルド。貴方は先程、オフェリアからの魔力供給は生きていると言っていた。そこから彼女の居場所を探る事は可能かい?」
「既に試している。……だが、あまりにも細すぎて場所の特定は出来なかった。ルーン魔術を用いても同様に」
「それなら、大雑把でもいい。広範囲でもいいから、彼女のがいるであろう場所を教えてほしい」
「了解」
シグルドが空中に幾つかのルーン文字を刻むと、円卓の間の中心に水で構成された、白紙化された地球の模型が現れる。全体が水で作られているため大部分が水色に染まっているが、その中で一か所だけポツンと、赤色に点滅している場所があった。
その場所を視認した虞美人が「ここって……」と言葉を漏らせば、ルーツが目を細めた。
「南アメリカ大陸……という事は、オフェリアちゃんがいるかもしれないのは……」
「南米異聞帯。デイビットが管理していた世界か……」
この白紙化された地球上で、シュレイド異聞帯以外に残るもう一つの異聞帯。『異星の神』によって蘇生されたデイビットが管理していた、もう一つの“あり得ざる歴史”。そこにオフェリアが攫われた可能性が高い事がわかり、ルーツは机の上に置いていた拳を強く握り締めた。
「あいつが拠点にするのもわかるかも。あそこには、
「大蜘蛛……まさか、ORTか?」
ルーツの呟きに、キリシュタリアが反応する。
ORT―――それは、遥か昔にこの星に飛来してきた地球外生命体。魔術世界では“極限の単独種”とさえ称される、埒外の生命体。その能力は到底計り知れるものではなく、現代の魔術や科学では打つ手がないとすら言われている未知の存在。
記録によればORTは南米大陸に飛来し、その際に形成されたクレーターを巣代わりにして眠っているとされているが、それが南米異聞帯でも共通しているとなると、確かにORTがいても不思議ではない。
「……懸念要素が増えちゃったな。カドック、アナスタシア。私達は今すぐにでも行けるけど、そっちは大丈夫?」
「少しだけ待っててくれ。手持ちの魔術礼装の確認をしたい。流石に不十分なまま、ORTのいるかもしれない世界に足を踏み入れたくはないからな」
「わかった。終わったら教えて」
頷いたカドックがアナスタシアを伴い、足早に円卓の間から出ていく。
「では、私達はシュレイドに残り、万が一の為に備えておくよ。君達なら大丈夫だとは思うが、気を付けてくれ」
「ありがとう。そっちもお願いね」
「もちろんだとも」
キリシュタリアらも確認したい事があるのか、ボレアスを伴って彼らもまた席を立って退室していく。
バタン、と扉が閉じられ、この部屋に残されたのはルーツとアルバ、シグルドのみとなる。
「シグルド……本当に、オフェリアちゃんは生きているんだよね? そうなんだよね……?」
「供給されている魔力は間違いなく彼女からのものだった。生存は保証されている。……だが、お前はそれで安心できないのだな」
「……うん」
弱々しく答えたルーツに、シグルドは内心小さな驚愕を覚える。
これまでも、彼女のそういった様子は何度か目にしてきた。しかし、ここまで沈んだ声を発する事はなかった。
それ程までの存在なのかと思っていると、ルーツが言葉を続けたのでシグルドは考えを中断した。
「実際に戦ったシグルドならわかるだろうけど、奴はあまりにも恐ろしい。強敵としての恐ろしさじゃない、そこにある存在としての恐ろしさが、奴にはある」
南米異聞帯を作り替え、アステカ神話の主神格であるテスカトリポカの霊基を乗っ取った上で、奴は『これは遊戯』と口にしていたという。なんと恐ろしい事だろうか。デイビットという他者の口を通してですら、心の底まで怖気立つような悍ましさを覚えてしまう。
だが、ルーツもアルバも、そこで終わる事はなかった。
「でもね、シグルド。ただ『恐ろしい』と恐怖しているだけじゃ、奴を喜ばせるだけ。自分から進んであいつの玩具になりにいく、馬鹿のする事だよ」
オフェリアを攫った存在に対する恐怖はある。奴の言うところの『遊戯』がどのようなものかを知っているが故に、その手に落ちてしまったオフェリアの安否が気掛かりでしかたない。
だが、それ以上の憤怒がルーツの中にはあった。
奴が再びこの地に降り立ったのなら、もう一度撃滅する。奴という存在を今度こそこの世界から叩き出して、
「
「愚者か勇者か、か……。残念だが、俺はそのどちらにもならない。俺がなるのは―――」
続けて吐き出された答えに、ルーツは静かに微笑む。
なるほど、確かに今の彼は愚者になれず、勇者にもなれない存在だ。故に、彼がなれる可能性が残されたのは、
最初こそ不安要素だと思ったが、こうして彼の瞳の奥に燃え盛る炎の光を見れば、その不安もたちまち消えていく。今の彼ならば、文字通り命を燃やしてオフェリアを助け出してくれるはずだ。
(でも……それで充分なわけがない)
デイビットの通信履歴を思い返す。彼は通信が途切れるその瞬間、なにかを言いかけていた。
(下準備……。ORTの起動も、その下準備の一環に過ぎない……? ……まさか……)
あり得ない。まだ
言い知れぬ不安を覚え、ルーツは静かに拳を握り締めるのだった。
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シュレイド城で緊急会議が行われてから時間を飛ばし、白紙化地球上空ストーム・ボーダー艦内にて。
「どうかな、立香。私が作った茶菓子の味は」
「凄く美味しいよ。ありがとう、赤衣さん」
ノウム・カルデアに所属するマスター、藤丸立香は、今口にした菓子の感想を眼前に座る男―――赤衣の男に伝えていた。
今立香がいるのは、彼の心象風景をそのまま再現した、彼に与えられたマイルームだ。文字化けしたりそうでない書物が所狭しと差し込まれた本棚に囲まれた書斎の中で、来客用に用意されていたソファに腰かけている彼女に、その反対に座る赤衣は「それはよかった」とにこやかに微笑んだ。
「八つあった異聞帯も、残すところはあと二つ。その一つである南米異聞帯に向かう前の励ましにと用意したものだが、気に入ってくれたようでなによりだ」
自分と立香の間に備えられたテーブル。その上に置かれた菓子を手に取った赤衣がそれを口に放り込み、紅茶で流し込む。
「異聞帯も、残りはあと二つか……。頑張らないとね。これまで出会ってきた人達や、
自分の体を見下ろして、立香はそう呟く。
今立香が身に纏っているのは、対『異星の神』用に構築された魔術礼装だ。共に戦うサーヴァント達の回復や強化など、サポートに力を入れている設計であり、強敵との戦いでも充分な働きをしてくれる事だろう。
だが素直に言えば、立香はそれに対して快い感情は覚えていない。対『異星の神』用礼装という事は、あのオルガマリー・アニムスフィアと同じ顔を持つU-オルガマリーに対抗する為に作られたものという事。短い時間ではあったものの、彼女と交流した経験のある立香はこれをU-オルガマリーとの戦闘のみに使用する事に対する若干の躊躇いを抱いていた。
しかし、健診を終えたマシュから聞かされた話によれば、これの設計者の一人であるダ・ヴィンチはこう言ったそうだ。
『方法はまだ皆目見当が付かないけど、無力化さえできれば、後は対話あるのみさ』
彼女は、自分達の考えを汲んでくれていた。立香は言葉にはせずとも、深い感謝の気持ちをダ・ヴィンチに抱くのだった。
「目的地まではどれくらいかかると?」
「ネモ・ナースから聞いた話じゃ四時間くらい。その後蜂蜜入りの紅茶を一杯貰って、今はこうして貴方と話して時間が経っているから……たぶんあと三時間」
「ふむ。あの不可思議な
「あはは……今じゃもう慣れたものだよ。でも……ありがとう、赤衣さん」
「なにがだね?」
「私の事、心配してくれたんでしょう? このお菓子もその為のものだと思ってるんだけど、違うかな」
「……ふふ、その通りさ、我がマスター」
腕を組み、足を組み、背もたれにもたれかかる赤衣。明るい声色だが、しかしその表情はどこか冷たいものを感じさせる。
「立香。君はクリプターについてどう思う?」
「クリプターについて……? それって、どういう意味で?」
「特に指定するつもりはない。ただ、君の思う彼らに対する印象を聞かせてほしいと思ったまでさ」
「私の思う印象……。そうだな……」
顎に手を当て、暫し過去の記憶を振り返る。
クリプター。本当ならば魔神王ゲーティアによって滅ぼされた人理を修復するはずだった、カルデアが誇る八人の魔術師からなる精鋭チーム。
リーダーのキリシュタリア・ヴォーダイムを始めたメンバー達は、それぞれが異なる技術に秀でており、実力もそれに伴って折り紙付きだ。まだ交戦していないアンナ・ディストローツとデイビッド・ゼム・ヴォイドは除外するとしても、彼ら一人一人が油断ならない強敵だったのはよく覚えている。いずれ対峙するであろうあの二人も、決して油断して勝てる相手ではないと断言できる。
そもそも、アンナの正体がこの星の頂点―――アルテミット・ワンな時点で、彼女との戦いが死闘を超えたものになる事は深く考えずともわかっていた。その時はきっと、ビーストクラスを相手取った時以上の覚悟で挑まなければならないという事も。
だが、今はそれを考えている場合じゃないだろう。
クリプターに対して、自分が思うもの。それは、きっと―――
「どんな状況に置かれても、自分を捨てない人達……かな。本来護るはずだった汎人類史の敵になっても、あの人達は決して自分を曲げず、自分が思う『正しさ』を持っていた」
これまで戦ってきたクリプター達は、自分達の境遇を知っても誰一人腐らず、自分達の思う『正しさ』に忠実だった。立場上、それは立香達とは決して相容れるものではなかったが……彼女はある意味で、そんな彼らに『敬意』を抱いていた。
もしかしたら、どこかの世界では先輩と後輩の関係として、共に世界を救う為に戦っていたかもしれない―――そんな彼らに対して、不思議と立香は怒りも恨みも抱いていなかった。
「なるほど。実に興味深く、面白い答えだな。恨みも怒りも抱かず、寧ろ敬意すら抱いているとは。君がどういう人間か、よくわかる回答だ」
「赤衣さんはどう思っているの? あの人達について」
「私か? 私にとっての彼らは、“運命を歪められた者達”だ」
彼女から回答を求められた赤衣は、少しも考える時間を置かずにそう答えた。
「彼らは『異星の神』による蘇生を受け入れる代償として、この地表に出現した異聞帯の管理を任された。その時点で彼らは汎人類史に属さない存在となった。事情がどうあれ、裏切り者という事実に変わりはないわけだからな」
「うん。それと似たような事は、ペペロンチーノさんも言ってた。脅されたわけではなく、自分達の意思で『異星の神』の言葉に頷いたって。でも、どうして運命を歪められたって……」
「無理矢理であろうとそうでなかろうと、彼らの運命は『異星の神』によって、本来の運命から外されたからだ。中にはそれよりも前から、
「赤衣さん?」
「おっとすまない、少々脱線してしまった」
こほん、と小さく咳払いして、赤衣は気持ちを切り替える。
「私はな、立香。運命を歪められた彼らには、どこかで必ず終わりが与えられなければならないと考えているのさ」
「終わり……それって、殺すって事ですか?」
「必要な相手もいるかもしれないが、全員に対して死を与えるようなものではないさ。終わりにも色々種類があるだろう? 歪められた運命は、いつかその持ち主の在り方すら大きく捻じ曲げてしまう。立香、君がすべき事とは、そうなる前に彼らを止める事さ」
「止める……」
「誰をどう止めるかについては、今は考えなくていいさ。今は南米異聞帯のみに集中するがいい。時間は、そう、まだしばらくあるのだからね……」
「……わかった」
「さぁ、そろそろ行きたまえ。クリプター達の終わらせ方について考える時間はあるが、南米異聞帯について考える時間はたった三時間ぽっちだ。管制室に向かいたまえ、
「え? それって、もしかして……」
まさか、と見つめてくる立香に、赤衣はただ不敵な笑みを浮かべるのみ。それの意味するところをすぐに把握した立香は、「赤衣さん、よろしくねッ!」と笑って書斎から出ていった。
(立香は喜んでいたが、私が同行サーヴァントに推奨されたというなれば、私が出向くに値する要素が
一人きりの空間に戻った書斎で、赤衣はティーカップに入っている紅茶を見つめる。
(南米……アステカ神話……大蜘蛛……。
不意に紅茶から視線を外し、「おやおや」と口を開く。
「貴方が出てくるとは、珍しい事もある。それとも必然かな?」
赤衣の視線の先には、誰もいない。しかしそれでも、彼の口が止まる事はない。
「えぇ、全くもってその通り。では、貴方も彼の地へ? ……フフフ、貴方は実に変わらない。あぁ、任せてくれたまえ。貴方の目に適うような
異邦の神格と契約した男は、一人高らかに笑う。
そんな彼の背後には、巨大な触手の影が蠢いていた―――。
次回からいよいよミクトラン編です。今回は完走までどれくらいかかるのでしょうかね……カットできるところはカットしながら頑張っていこうと思いますので、楽しみにしていただければ幸いです。ちなみにオフェリアを攫ったサーヴァントはラスボスにしません。見切り発車なこの作品ですが、そこは決定事項です。 目指せ、“祖龍”vsORTッ!
それではまた次回ッ!